●終わりの始まり、そして…
「さて、根幹を決めなければいけないねぇ♪」
我らのおうちに立ち登る良い香り。
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)は、朝食の終わりと共に話を切り出した。
「キャラ作成と物語が終われば、調整以外は出来上がるからね」
「やりたい事はひとまず完成してからにしましょうか」
コーヒー党とお茶党どちらでも良いように、出されるお菓子は中華風クッキー。
お茶受けを用意した楊 礼信(
jb3855)は、そろそろメドは建てたいですねと言い添えた。
大枠で完成させれば、後はテストプレイと細部調整くらい。
「ゲームストーリー及び、細かい設定の提案ですか…。まずは何処を削るかですねぇ…」
「容量減らさないと難しいよねぇ…。続編とかも考えると…、スリムにしておかないといけないもの」
ずーん。
来るべき時が来た。
今まで色々提案して来たソリテア(
ja4139)にとっても、姉の代理で今回加わった礼野 真夢紀(
jb1438)にも同様だ。
学生にとって小テストの方が…と言いそうだが、こっちの方がゲーマーにとっては大重要!
なんたって要望は、提出した時点で既に削っている。
これ以上どこを削れば良いのかって、減らせたら苦労は無い!
「まずは入力関連を削りますか。特殊パッドで十分代用可能です」
「それとスキルとキャラメイクですけど、いっそ戦闘に関係ない物と高位レベルをばっさりカットしませんか?」
仕方無い、手を付けますか…。
美味しいお茶受けを齧りながら、二人の少女は難題に立ち向かい始めた。
まずは夢の様な方法ではあるが、ウルトラ足手まといの特殊入力を排除する。
これのせいで読み取り用マシンとか余分で重くなるのだ、逆に言えば自分が提案する部分は残せる…。
そう考えたソリテアを、無情にも同朋であるはずの真夢紀が不意打ちを掛ける。
何と言うことでしょう、妹マシーンという要素に置いて同じ仲間であるはずなのに、お姉さんぽく上限枠を削り始めたのだ。
「熟練の域に達する方は少数ですし、大筋の流れは共通で良いと思うんです」
「ちょっ…、それだと…(あぁ…)」
別にスキルとかキャラメイクは構わないのだが、率先して行動されるとマズイ。
そう思った中で、ソリテアの懸念は的中した…。
「無くて問題無い要素は一度切り捨て、容量の空きに合わせて再実装が良いかもしれませんね」
「そだおね。悲しいけど、服が破れるとかエロ要素は泣く泣く見送りますぉ」
これまで支え合った仲間である水野 昂輝(
jb7035)と秋桜(
jb4208)までが、完結への道筋へ歩み始めたのである。
●こうして物語りが始まる
「この際、端から削りますぉ。コスチュームに予備の音楽、視点切り替えに…あと何が要らないっけ?」
「その辺は容量次第ですかね。(必ずやどこかで巻き替えしを…)」
もはやここまで、滂沱の涙と共にゲーム制作の匠?達は動き出した。
秋桜がホワイトボードに記載し始めると、マジックの音が心の中でガリガリと大変換。
だが、ソリテアは諦めの良い女ではなかった!
心で血の涙を流し、余裕が出来れば捻じ込むぞ!と心意気を新たに決意する。
「コマンドは簡単な物に統一するとして、キャラメイクに関してはどこまで見切ります?一から造れば重くなりますが、スキルや装備の造り込みは楽しさを増します」
私が間違っていました、これは戦いデス!
きらーんと眼を輝かせて容量の削り合いという戦場に立ったソリテアを、かつての仲間達が迎え討つ。
「うーん。キャラクター作成は別筐体でストーリー解説なんかと同時にかな?本体には簡素な画像と数値で良いかもね」
「そこまでするなら、カード要素を導入しません?」
ジェラルドが提案したのは、モーション入力不採用によって空いたサブマシンを使い、キャラデータの作成や事情・設定・ストーリー進行を任せると言う物だ。
このアイデアはこちらと競合しない、通しだ!と対戦ゲームのように受け流した処で、昂輝から更なる提案が持ち上がった。
「ミッションごとにデータ入りのカードをランダムで配り、並べたカードを読み込む形なら簡単にすみます」
「ほほう。コスチュームもカードにすれば、サブシステム上だけなら楽しめる上に、トレード要素が…」
「その方法だと稼いだ撃破点数やゲーム内通貨が浮きませんか?カード化は良いとしてもミッション報酬で買う方式ではどうでしょう」
昂輝が持ち出したのは大戦物で使われるデータ入りカード。
ミッション数や現在ステージのみをメモリーカードに記載し、武器とスキルは選んだ配布カードで決まる形式だ。
カード収集は基本と興味を示した秋桜が、思わずヒィ!と椅子の影に隠れた。
敢然とソリテアが手を挙げて、「そもさん!」「せっぱ!」と議論の応酬を開始したのである。
「なんだか急に議論が白熱してますね」
「新しい要素が出れば、どちらが良いのか競い合いたくなります。私も…その、この方法ならキャラメイクで撃退士に成った理由とか造り込めるかなって、思っちゃいますから」
「まあ装備とスキルがどうなるにせよ…、ストーリー実装はサブマシン路線でいいかな?」
意見活発な者にとってアイデアを削る事より、興味ある内容を議論する方が何倍も楽しい!
先ほどまでの様子と打って変わった雰囲気に礼信は苦笑し、真夢紀は興味深々で眺めていた。
ジェラルドは大学での授業を思い出しながら、笑って議事を次の段階に進めていく。
「そうですね、結論は後にしますか。僕の方は内容をソフトにして、久遠ヶ原学園の生徒が天魔学園の生徒と抗争と言う形にしました」
「私はオーソドックスにメインは学園生徒、サブでダークな企業雇いや撃退庁の撃退士ですぉ。JK推しなのだぜ」
昂輝が用意したのは、殺し合い相手ではなく抑圧者として天魔から自由を勝ち取る抗争劇だ。
殺し合いはちょっと…と言う層に配慮しつつ、対象となる学園を増やすだけで次回作以降を造り易い。
一方で秋桜の案は天魔との戦いのまま、導入や状況説明が何タイプかある感じである。
シューティングゲーマー以外にも配慮した昂輝の案と、現状のままで判り易い秋桜の案。基本的にはこの二系統に絞られるだろう。
「物語はサブシステムの方でしっかり語って、途中経過は同じ内容の流れを少しずつ変えるだけが良いかもしれませんね…」
「その辺はお任せしますが、私が推すのは学園で起きた事件の真相を追っていくストーリーですね。ステージは分岐選択型になります」
「ふむ。じゃあ…肝心の物語りの方は、んー…こんな感じ?☆学園物の場合は、番長とかPTAとかに読み替えてね」
真夢紀とソリテアの話の後で、ホワイトボードをひっくり返しながらまとめに入る。
ジェラルドは自分が造ったストーリーを下敷きにして、学園に来た理由設定やスキル・装備決定などをサブと書き込んだ。
練習用の第一話のクリア後にヒロインが浚われ、本格的な物語になるのだが立ち位置に合わせてヒロインが友人だったり、第一ボスが天魔学生などと、カッコ書きで説明を付ける。
「浚われて、助け出して…というパターンですね。キャラごとの差やお約束・斜め上の発想を練り易いので、良いんじゃないでしょうか?」
「判り易くて良いかもです。あ…、そろそろ調査に出かけて来ますね」
「そかそか。レンタカー店についたら、これを開くと良いぉ」
それは王道と呼ばれる形式だ。
真夢紀は派生を思いつき易い流れに乗りながら、自分だったらどうしようかとレポート用紙にペン先を走らせる。
そんな中で外出予定の礼信たちへ、秋桜は包みを放り投げた。
●なんて平和なサバイバル
「ボクが頼んだのは絵師さんへ頼むサンプルだけど、そっちは何を渡したんだい?」
「さっきの包みですかお?ぬふふ。時代は既に牛乳とアンパン抱えた張り込みを前時代にしまつた」
調査や買い出し組が出立すると、おうちは静かに…ならなかった。
チャカポコとキーボード叩きながら尋ねるジェラルドに、秋桜はコマンド入力しながら答えた。
余計なシステムを省いた事もあり呪符切り替えや連続モーションが軽快に決まり、着々と一面を攻略して行く。
陰陽師は多分OK、このまま続きを攻略しますぉ…とモニターへ向かった処で、今更ながらの事態に気が付いてしまう。
「ソ、ソウダー!開発日記付け忘れてましたお!!そういえば、ゲームタイトルって何か決まってたっけか?」
「まだだった気がするねぇ。みんな帰ったらアンケートしてみれば?」
そう言えば二人っきりじゃね?迂闊ですお…。
秋桜は最高得点をアッサリ投げ出すと、涙目になって仲間を追い駆け始めた。
そんな後ろ姿に大丈夫ですよと、ジェラルドは嫣然と見送ったという。
「包みを開けてみろとおっしゃってましたよね?なんでしょう…」
「えっと日時に代表名、HPのアドレスが書いてありますよ」
「…なるほど、サバゲーサークルのHPを探したんですか。人数の要る遊びですしね」
真夢紀が袋を開けるとB5用紙に絵やら何やら書いてあった。
身も蓋も無い話だがサバゲーにはまとまった人数が必要だし、子供がやるには渋い的から割りだしたのだろう。
昂輝がナビゲーターへ集合場所を入力すると、礼信は車を動かし事務所前で手を振る秋桜を拾った。
「ゲームと重ねて考えれば、この待ち時間はいただけませんね。依頼情報を受け取る部分だけでも学園エリアはメインに入れて置きたいものですが…」
「ソリテアさん…。こんな時までゲーム制作に凝らなくても」
「読み込み中は予備情報なりバックボーンを流しておくじゃ駄目なんですか?」
息抜きとばかりに参加したソリテアの身も蓋も無い意見に、気持ちの判る昂輝さえ苦笑した。
だが、ここまで入れ込む集中力には呆れるよりも…むしろ感心さえする。
彼女の入れたアイデアは数多く、礼信が尋ねた答えも今から判るほどに専念していた。
「最初は良いのですが、後半ではプレイによって情報を集める苦労をして欲しいんですよね。ゲームの気安さもありますし、やはり初見では無理なくらいが…」
「難易度で選択できるなら、そう言うのも悪くないと思いますけどね…。っと着きました」
ソリテアが唸っている内に、練習場所に使ってる森の脇へ到着。
案の場と言うか近くの駐車場に数台の車が止めてあり、休日毎に集まれる常連が遊び倒しているのだろう。
駐車場に車を停止させた礼信は、注意を促すメールに半身が無いので、仕方なく計画を実行する事にした。
「別荘に当てない様に注意だけはしているみたいですが、無許可らしいです。大人しくしていただけるように、ちょっとお話して来ましょうか」
「可能ならゲーム作りの協力を依頼と言う形で協力を…」
「最初の練習戦闘は模擬戦とかでも良いかもですねっ。サバゲーフィールドとか…」
めっさ良い笑顔の礼信に、少女達は温情路線を口にした。
ソリテアと真夢紀の言葉に、やだな〜手荒な事はしませんよと微笑む。
なんというか普段おとなしい子を本気にさせてはいけません!
●オマケ依頼の達成と、初期稿の完成
「あのー、別荘の持ち主の人とかに頼まれて注意しに来たんですが…」
「脅かすなよ。隠れてる奴かと思って撃つとこだったじゃねえか。子供がこの辺うろついてると危ねえぞ?」
森をかきわけて現れた昂輝の忠告に、遊んでいた連中の一人が反応を示した。
後ろで別の奴が「親戚のガキでもよこしたのかな?」なんて別の奴が言ってる当たり、話題を切り替えて話を流すつもりなのだろう。
「別荘には何もしてねえぜ。休憩がてらに影で涼んでるだけだ。遊んでるのは誰の土地でも無い場所だしな」
「…ハァ。幾らでも言いくるめれると思ってますね。お任せします」
「そうしますね。…別に此処を使ったら駄目とは言ってませんよ、無許可で使用時間が判らない言うのが問題です。都合が重なると、お互い困るでしょう?」
男達の屁理屈に、真夢紀は呆れて説得を諦めた。
そもそも煙に巻こうと思っている時点で確信犯だ。礼信はタイミングを見極め木々の中へ腕を動かす。
「坊主たちも遊びたいのか?ならウチで初歩くらいは…」
「言い忘れてましたが僕たちは撃退士です。…許可さえ取っていれば何の問題もありませんから、その点についてじっくり【お話】をしましょう」
「(あぶなっ!もうちょっとで降りる所でしたお)」
僕たちが笑顔で居るうちに話を聞いた方が良いですよ。
礼信はそう呟き、先ほどの男が言っていた隠れて居るメンバーの鼻先へ刃を出現させる。
流石に撃退士と知って逆らう気は無い模様で、ひきつった笑顔で言う事を聞いたそうな。
ちなみに秋桜は生命感知に気が付かなかったので、盛大に冷や汗をかいたそうです。
「御蔭さまで今日中に片が付きました。ありがとうございます」
「お役に立てて幸いでつ。処で真夢紀氏が買って来たのは、何ですかぉ?」
「これからドンドン寒くなってきますので、電子レンジを…」
礼信からのお礼を秋桜は、チラ見でダンボールの中身を窺う事冷や汗を誤魔化した。
物ぐさな彼女の事、買いこんで来た真夢紀の答えに対して「心の朋よ〜」と言いそうな顔付であったと言う。
「頼まれていたサンプル絵です。近所の絵心の有る人と、ついでにサバゲー会員でHPの絵を描いた人にも書いてもらいました」
「ありがとうね♪メインストーリーと何キャラか導入とだけは入力して置いたので、さっそく関連付けてみようか」
昂輝が持ち帰ったメモリーディスクや絵を取り込みながら、ジェラルドは説明ツールを立ちあげた。
このキャラにはこれかなぁ〜とか言いつつ設定すると、キャラ解説の脇に画像を張りつけて行く。
「固定キャラでも十分に雰囲気が出ましたね。これで詳細を自分で設定出来たら最高…でしょうか?」
「まだまだ。基本画像とあんまり差が無いのを選んだからね。独特の立ち絵に合わせれば、もっと凄いんじゃないかな?」
真夢紀がマウスを滑らせて行くと、学園に来た理由や所持武装などが変更予定と記載されていた。
オペレーター娘も設定出来るので、試しに大好きな姉に近いキャラ絵を選ぶとドキドキしてくる。
そんな彼女にジェラルドは笑いかけて物語の内容を、男性視点から女性視点で起動させ始めた。
「こうしてみると絵を正式に発注したくなりますね。…撃退士だと割りが良かったし暫くアルバイトかなぁ」
「それに複数キャラにも現実味を帯びて来ましたね。ソロと多人数ではやはり難易度を変えましょう!」
設定さえすればテストプレイは出来るが、より良くするにはマシンを増設したりカード絵を増やしたり、…暇な時には自分のパソコンで弄りたい。
昂輝がそんな事を考える中で、ソリテアは映し出されるキャラクターが共に駆ける姿へ想像の翼を巡らせ始めた。
ここに初期稿は完成し、努力の成果がようやく形となったのである。