●本気狩るシューティング
「マジカルシューティング!否!本気(マジ)狩るシューティングをッ!」
「あはは…。楽ししそうだねぇ…」
レポート片手に仕様説明。
次から次へと繰り出すバリエーション、だがそれは基本の組み合わせに過ぎないと言う。
それがソリテア(
ja4139)が用意した初見殺しの三重苦だ。
意味が判るジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)も、苦笑する勢いである。
「あ、あのそれでは…。皆が遊んでみたいと思えるような物には成らないのでは…?」
「普通はそうなのですが、シューティングから高難易度を取ったら何も残らないのですよねぇ」
恐るべき勢いに押されながら、少女は勇気を出した。
ゲーム好きなメンツが苦笑しながら意見に納得する中で、門外漢とは言え尋ねないと始まらない。
聞くのは一時の恥と、樹月 ルミナ(
jb3876)は自分の初心に戻った。
みんなが楽しめる娯楽と、今のイメージは明らかに別モノ。
だがしかし、その反論は判るのだが、と頷きつつソリテアは唸る。彼女としても高難易度には理由があるのだ……。
「シューティングを食事で例えれば、遠くの店へ食べ歩きに行くのと同じなんだよ♪だってファーストフードへ入るなら、近くで良いよねえ?」
「…ですが、このままでは誰もしないゲームになってしまうのでは?」
「そう言うことなら…、どちらの話も判ります。最終的には難しい方向としても、段階性を導入してはいかがでしょう?」
練ったストーリーや長時間の育成を愉しむRPGと違い、シューティングは最初から緊張感が目的だ。
ジェラルドは食事に例える事で…。
誰でも突破できるのではなく、簡単には突破できない壁を越える事を愉しむのだと、ゲームを知らない人にも判り易く説明。
それなりに理解を示しつつもルミナは打開するべき答えを探そうとした。いっそ訓練用STGは別物とか…。
言葉に出来ない思いに彼女が苦心する中で、礼野 智美(
ja3600)は挙手して助け舟を出した。
「依頼で戦うスライムや骸骨が雑魚とは限りませんし、高難易度自体は良いと思います。ですがそんな状況ばかりではありません、段階を置いても良いかと」
「確かに依頼には情報があったり無かったりしますしね…。依頼書の形で、難易度をコントロールですか?」
そう言う事です。
智美は羊皮紙風に造った依頼書をホワイトボードに張り、次いで二枚目、三枚目と紙を増やしていく。
追加要素として学校都市と言う拠点を検討する水野 昂輝(
jb7035)は、最も早く彼女の言いたい事を理解した。
軽い依頼には詳細が記載され、高い物には理由や目撃例だけ書かれて居たからだ。
「そんな感じです。1・2回くらいは、『全滅した先遣隊が残した、追加情報ですが…』とゲームオーバー時にヒントを出しても良いかな?」
「情報収集の重要さを知る意味で、段階や依頼書でステージ分けは面白いので賛成です。僕はステージの切り分けや追加に、学園都市を考えてたので調度良いのもありますが」
スポンサーの要望は天魔退治の参考になるもので、依頼人の要望も撃退士ッポイ行動。
そう言う意味では、ソリテアの初見殺しも、無理に難しい必要は無いのではないかと言うルミナの反論も、段階説の智美の意見も間違いではない。
説明しながら昂輝は、現時点でのまとめ案を示した。
「…部屋に籠もってばかりでは煮詰まって良い考えも浮かばないと思いますから、気分転換を兼ねて巡回するのも良いんじゃないですか?」
「そうですね。巡回依頼もある事ですし、気分転換に外へ出てみましょうか」
場の雰囲気が程良く煮詰まった処で、ささっと風を入れ変える。
楊 礼信(
jb3855)がカーテンを開けると、昂輝は素早く立ち上がって皆を促した。
●出撃、ごきんじょ探検隊
「えっちスケッチわんたっち!うら若き乙女をひんむくとは、容赦ないバイオレンス。アレー、たしけてー」
「僕には姉もいますし、そんな格好でモジモジしても駄目ですよ。さっ、保存食はダンボールに仕舞って、遠出の準備をしましょう」
我らのお家に籠る秋桜(
jb4208)さん独身25歳(仮)は、大変な目に会っていた…。
部屋から出ないばかりかカップ麺を摂取しようとした彼女へ、オカン(礼信)の手が伸びる。
毛布を引っぺがされて、あられもない格好をさらす秋桜は、…胸元をはだけ、鼻孔をくすぐる香りを漂わせ、いや〜んな格好をして、クネクネと挑発ポーズ。
だが、女の姉妹が居る少年に女性幻想が通じるはずもない。
「少なくとも僕の目の黒い内はこんなの食べさせませんよ。それに…洋館とかを舞台にしたアクションゲームもありますから、実際に目にするのは面白いと思います」
「カップ麺はカップ麺の良さがありますお…。そっそれに…(私に昼間、ハードル高杉じゃね…)」
さっと礼信の柔らかい手が伸びた時、あっけない程カップ麺は強奪された。
ある種、本当に若きオトメである秋桜は、プルプルと震えて部屋の隅に逃げ込む。
そして…、このままでは調味料用の麻袋に詰め込まれ、お外に直行と気がついて必死の説得を開始した。
「ここの警備と夜の調査は任せておくお。森の別荘に関しては、か、必ずや某魔女森映画のパロディ全開でお届けするぉ!」
「まあ全員が出る訳にもいきませんし、遠くを担当してくれるならそうしましょっか?じゃあ、まずは近所にある変電所と洋館の巡回&捜索に…」
「そうですね。じゃあ行きますか。留守番お願いしますね」
任せておくといいお〜。
お家の警備員、秋桜を後にして少年たちはビルを出た。
昂輝に促されて礼信たちは、お弁当を手に取ると出撃であります。
「こんな所にまでお付き合いさせて申し訳ありません」
「いえいえ。ゲーマーとして、ゲーム制作に携われるとは願ってもないですねえ。それに…」
巡回前にちょっとしたリサーチ。
智美は今回の専属カメラマンを買って出たエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)達を連れ、同じ区角へ出撃した。
向かうべきはレンタカー店。時間・日数単位で御幾らなのか尋ねる為である。
「素人がいきなりシステムに関わるのは早計でしょうしね。まずはこんな所からスタートが相応かと」
「確かに私もシステム的な事は良く判らないし、こちらの方が今回は役に立てるかと思うのはありますね」
カメラを片手にポンポンと笑うエイルズレトラに、智美も頷き我が身の非才に苦笑した。
だが何かを造り出す作業には、案出し・駄目出し・まとめる役の三者が必要なのだ。その意味では才能よりも押し切られない覚悟の方が重要である。
「おや学生さんが珍しい、何の御用かな」
「あ、あの…、私たちは決して怪しいものじゃ…っ!?」
そんなこんなで辿り着き、受付のおじさんが挨拶をかけて来る。
こんな事態を予想していたルミナが、多少慌てながらも進み出た。
ご近所さんと聞いて付いて来たのだが、最初から交流を目的としていただけにスムーズに話を切り込んでいった。
「御聞きかもしれませんが、私達は撃退士でして…」
「そういえばそう言う話じゃったのう。それで車を?」
「いえ、まずは料金の方を確認と…御挨拶に参りまして」
撃退士には運転の訓練や許可があり、受付のおじさんも納得。
智美はルミナの奮闘を羨ましそうに、「1円を笑う物は1円に泣くのです」とギコチナイ笑顔を浮かべた。
●町の歴史
「日本の技術は町工場が支えている…ちょっと見学させていただいても宜しいですか?」
「邪魔しないなら構わねえよ。本格的な工場なら、下町屋の方だがね」
「ここは硝子工房みたいですね…綺麗(な方錐形ですね。こんな感じの敵を出してみますか)」
川向こうまでに行く傍ら、途中の町工場に寄って見る。
ジェラルドはヴィーンと言う丸ヤスリの音へ耳を澄ませた。
ここは工場と言うよりは工房に近いからか、小物を加工しているようだ。
ちなみに美しいピラミッド状の硝子細工を見て、ソリテアは硬度の高い鉱物生命体を思いついた模様。
「やはり川で分けて…?地図からすると上町が工房横町で下町が工場区角ですよね」
「うむ。綺麗な水は必要だし、当時なら材料も製品も運ぶのは船が早やいわな。布に紙や細工やらの工房、時代が下って向こう岸に工場ってな」
「歴史というやつですよねぇ。こう言う流れってストーリーを読みとらせて面白いよねぇ」
これから何度もお世話になるかもしれない町工場や商店街。
町興しか何かの地図にエイルズレトラがカメラを動かすと、町割りが描かれていた。
町を両断する川の上側に時代劇に登場するような昔ながらの工房があり、下側に無骨な工場たちが空き地に乗り込む形でやって来たという。
そんな話を聞きながら、ジェラルドは町で起きうるドラマを思い浮かべた。
「大正や大正浪漫とか…ヒロインにストーリーとか思いつくなあ。…あ、美味しそうなケーキ☆買っていったら女の子たち喜ぶかな♪」
「…嫌いではありませんが、先に変電所と洋館を済ませてからにしましょう」
地図を上流側へ走らせると、工房とは離れた位置にお菓子屋さんを見つける。
流石に醸造業や食料関係は水や山林と縁が深く、良い影響を受ける為か更に上流に位置していた。
んー、活気のある商店街は良いねぇ♪とジェラルドは店の一つに目を止め、話を降られた智美の方は対岸を指差して苦笑する。
「ここが変電所ですか…。鉄塔の林ってモチーフに面白いですね。どんな実験をする工場なら…」
「工場でも良いですけど、後で行く予定の洋館と組み合わせても面白いかもしれませんよ?ミステリー風になります」
橋を回って川向こうの変電所に御到着。
昂輝は鉄塔が林立する光景に怪しげな未来風の工場を思い浮かべ、反対に礼信は古めかしいミステリーを想像した。
SFと古典に差がある訳では無い、イメージの組み合わせ次第で千差万別のアイデアになるのがなんとも楽しいではないか。
「じゃあせっかくだから、角度を変えて何枚か撮り置きますか。陰影の方は、適当に指示してください」
「きみなら大丈夫だとは思うけど、気をつけておいてね。安全圏のはずだけど」
油断は二流のやる事♪
やだなあ、僕が油断なんてするはずないじゃないですか…。
施設内を闊歩するエイルズレトラに、ジェラルドは念の為の声を掛けて追随する。
「…実際に歩き回ってみると分かりますけど、ゲームでリアリティーを重視するなら大きな武器とかは使い辛いですね。洋館はもっと酷いと思います」
「大きさのペナルティですか?確かにそうですが、魔具魔装は…オーバーすると生命力が下がるくらいが判り易いとは思いますけどね」
カメラ組に続いて礼信たちも続くのだが、これが結構面倒くさい。
単純に歩くだけなら十分な広さがあるのだが、右に曲がっても左に曲がっても、何かがある光景が延々と続く。
智美は礼信の言う事も確かにと思いつつ、装備制限は余力次第…とか思うのであった。
どっちかと言うと、スキルの方だけでも容量とか色々心配なのである。
●出来る事と、出来ない事
「洋館も面白かったですけど、見慣れた光景と言う感じでしたね」
「まあ近代的な建物は欧米化した物ですしね。ですがビルと比べれば温かい印象でした」
買い物を済ませて来た女の子たちが、がさごそと改装用具を降ろす。
智美とルミナが洋館や御近所回りのついでに、近くのリサイクルショップに行って来たのだ。
カーペットや座布団を敷いて行き、隙間には目張りして隙間風を塞ぎ始める。
「御帰りなさい。カーペット敷くなら手伝いますよ」
「ありがとうございます。…これで冬の寒さも気になりませんね。寝袋が見つからなかったのは残念ですが」
「あ、そのくらいなら私が造ってしまいますよ。新品の毛布を内側に、外側へリサイクル品を縫い込んで…ホテルの様には行きませんが簡易ベットにしようかと」
出迎えた昂輝が、さっそく智美と連れだってカーペットを敷き始める。
上物でこそないがそれでも格段の差が感じられた。感触や実際の温かさもあるが、見た目の豊かさがなんとも心地よい。
ルミナはそんな光景に満足しつつ、こんな感じでゲームの方もほんわかできればなあ…と感慨深げだ。
「皆様頑張っているんです、私にだって出来ることはきっと…、きっと…っ!…あれ、ソリテアさんと一緒に戻って何かされてたのでは?」
「三次元変形移動するスライムは鬼畜仕様でした。…あれは知ってても倒せませんよ。っとまあ今までのデータを一通り全部入れたら容量オーバーしちゃって、僕の方はどこを削ろうかと悩みながら掃除中です」
「テスト中についつい掃除する感じですね。しかし、データが多いというのは困りましたね」
ルミナが話を向けると、昂輝は身震いしながら依頼で無くて良かったと笑う。
気が付き難く、狭所で戦い難く、あげくに真っ二つにすると二体に分離。…スライムという名前に見事騙された。
智美は彼の話しを聞きながら、この状況で三十近いスキルを導入するのはやはり無謀かと唸る。
「あ、モーションとか加工せず、詳細に十割放り込んだらの話しですよ。省けばスマートに成ります」
「うーん。苦労して撮っただけに、惜しくはありますけどね」
昂輝は畳まず・整理せずに物を仕舞うような物だと例えながら、原案のまま放りこんだ物も多いと苦笑した。
できればエイルズレトラが言う様に、苦労した部分は入れて置きたいものである。
「やはり別媒体に個人記録や詳細を分離すべきですね。背面や客観視野も入れたいですから」
「別媒体か…。カードなら絵師さん探して絵を載せるのも良いねぇ」
装備やスキルの設定を、理由付け関連付けごと別物に移し、本体には数値再現のみ実装。
そんな感じ軽く説明し、その話は一度置いて後で煮詰めましょうとソリテアは提案した。
ジェラルドが言う様に絵をつけたり防水にしたりできるだろう。
話せば長いし、別荘組みは今から出撃である。
翌朝、別荘組からの報告です!
「…こちら楊です。秋桜さんと一緒に別荘に来て居ます」
「我々は別荘に潜む魔物の調査に訪れ、恐ろしい物を発見しました。あれはまさか…!?」
白黒風味で加工された背景が、ちょっと物寂しい。
何故か目線を隠し、ボイスチェンジャーつけて礼信と秋桜が画像を送って来た。
別室で再生しながら、テレビ画面に映し出すのが凝り性である。
何人かがニヤっと笑うのは、別荘行きに付き合ったからか、それとも元ネタを知って居るからか…。
「謎のトーテムに液体が…。もちろん人の体液ではありません。それにこの物音は一体?」
「この音は一人や二人ではありません。それに無数の人形が吊るされて…」
まだやるんですか?
ノリノりで喋る秋桜に、礼信はげんなりした顔で棒読み。
別荘組みが見たモノとは一体!?
彼らのゲーム制作は、新たな段階へと走り出す。