●四国INなう
「ふむ、ゲーム作り…楽しそうだねぇ☆」
「そうですね…。まあ俺は妹に頼まれて手伝いに来ただけですが」
四国へ転送されて早速任務を開始。
一応は警備を兼ねている事もあり、周辺の地形確認にゆっくりと歩き始めた。
外から廃ビルを確かめながら楽しそうにジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)が振った話に、礼野 智美(
ja3600)は平坦に応える。
別に妹の頼みに思う処がある訳ではない。『ちぃ姉行ってきて!』と可愛い妹にせがまれたからやる気はあるが、単純に男性相手にはそっけないだけ。
「こんぴゅーたーげーむ…小さい頃はやれなかったんで、…僕はすっごい楽しみです!」
「おや、それはもったいない。…いや、だからこそ余計に面白いのかな。のめり込まない程度に、面白い体験が出来ると良いねぇ♪」
へえー、撃退士を題材に、ですか?ジャンルってなんですか?
おうちが厳しいと言うより、家庭文化圏的にゲームで遊ばなかったらしいレグルス・グラウシード(
ja8064)へ、笑顔のままジェラルドは頷いた。
熟練者も初心者も居てこそ見方の差が生まれ、異なる価値観の出逢いこそが人生を愉しむコツなのだから。
知らなかったからこそ、思い付けるだろうし、そんな姿はさぞ新鮮であろう。
「それにしても。一番に望まれているのは『撃退士っぽい』行動、ですか…。しかし…」
「……撃退士みたいに戦えるゲームというのは面白そうですね。 となると、アレが問題ですよね」
「ええと、素人なんで良く判らないのですが…。何か問題でも?」
撃退士のゲームと言う点に話題が移り、智美は少しだけ顔を曇らせ…。
彼女の懸念に気がついた楊 礼信(
jb3855)は顔を見合せてコクコクと頷く。二人の様子に会議前ではあるがレグルスは思い切って尋ねてみた。
「戦闘依頼と考えると…まず、一人で出来る事って限界あるんですよね」
「ですです。単独のクラスで万能というのは、実際ありえませんし、複数のクラスでの協力プレイを織り込んだ方がゲームに深みが出ると思うんですけど、どうでしょうか?」
「協力プレイというのは良いですね。天使、悪魔、人間が種族の壁を超えて手を取り合える、そんな世界があればと思います」
だから、殆どの依頼ってチーム作る訳ですし…。
と言う感じでよどみなく説明をし始めた智美と礼信に、樹月 ルミナ(
jb3876)はより深い意味で賛同する。
できれば現実の世界でも手を…。
今は学園やゲームの中だけでも、いつか手を取り合えれば良いと心から願う。
「ともあれ、もう直ぐオフィスですし中で話し合うとしましょうか」
「協力し合って良い物に仕上げましょう!」
こうして一同は目的地へ到着した。
三階建ての簡素な建物だが、仲間達で住むには随分と立派な物である。
●ここを我がお家とする!
「わあっ…。ちょっとだけやってみていいですか?まずはさっき候補だと聞いたFPSというのを…」
「初心者?いーねいーね。適当に漁っといて…。昨日最低限のスペースは確保しといたんだ」
廃ビルに辿り着くと、奥で依頼主が一同を待つ。
山と積みあげられた資料と機材をずらして場所を譲ってくれた。
見た事も無い物の中に、ニュースだけは知っている物を見つけたレグルスは思わず手を延ばすのだが、誰かがポツリと呟くのが聞こえた。
「…いやね、流行りだもんねFPS。でもどうせ造るなら私はエロゲがよかった。ダメージで脱衣とかありでつか?」
「入れても良いけど、容量が足りなくなったら、まっさきに消されると思うね」
「そうです。初見殺しは間違いなく実装するとして、色々と導入して行けば足りなくなるのは目に見えていますからね」
「何を言ってるんですか。まず未成年の前でそういう話題は…じゃなくて、この状態ではあんまりです。せめて清掃を先にしません?」
秋桜(
jb4208)とソリテア(
ja4139)たちの判ったような判らない様な会話へ、ルミナが待ったを掛ける。
単にエロイ事を言い始めたなら顔を真っ赤にして黙ってれば良いが、肝心要の掃除が始まっても無いからだ。
作業場兼資料室だけは依頼主が最低限の掃除をしたようだが、あくまで最低限でしか無い。
「駄目?」
「この部屋は綺麗だけど、他が…という事じゃないでしょうか?作業中はともかく、他にも使う部屋あるでしょう?」
「そうです。キッチン回りなんて酷い物ですよ、あれじゃあ食事を造る場所じゃないです…」
…オフィスの掃除は確りやらなくちゃね。
同じ分野の才人でも、身に覚えの無い者と自覚症状のある者は流石に違う。
資料の山を見ながら確かめていた得水野 昂輝(
jb7035)は、他の部屋を見てくださいと仕方無く口にした。
重度のゲーマーであっても図書館まで資料を読み漁りに行く彼の事、惨状に気が付くのは早かったらしい。
そんな中で自分の戦場を確保しに行った礼信は、涙目になりそうな心を笑顔の裏に隠し、できるだけ大人しい口調で掃除を促した。
「まずは会議室を片して最低限の場所を確保。そこを中心に1部屋ずつですね」
「これから長くお世話になるかも知れないんですから、綺麗に使ってあげた方がいいですよね?私は窓ガラスから始めますね」
「仕方ありませんお。この作業場は完璧にこなしてみせますぉ」
智美が音頭を取って会議室の一角をこじ開けた。
そこだけ急いで綺麗にすると、ブルーシートを敷いて荷物を含めた必要な物を置くスペースを制作。
次いでルミネが新聞紙を取り出し段階的にやった方が綺麗になると告げると、秋桜も観念して自分の居室たるPC作業場を完全な物とすべく立ち上がった。
ちなみに彼女が動く事に不満を持ったのも、出ようとしたのもその時だけである。
…廃ビルと一同に、どんな運命が待ち受けると言うのだろうか?
…それから暫く、半日というには短く一刻というには長い時間が経った。
「ただいまから喫茶店【BlackHat】開店いたします☆お嬢さん方、並んでお待ちくださいね」
「…余り手の込んだ中華でなければ、僕に任せておいて下さいね。父さんの子供である誇りに掛けて、きちんとしたモノをご馳走しますから」
すっかり見違えるほどに変わったキッチン。
そこから出撃したジェラルドと礼信は、飲み物を片手に会議室へ現れる。
お盆から次々に香り高いコーヒーやお茶を取り出して、今晩は海鮮おこげですよと微笑んだ。
「おっ、おお……。最近の男の子たちは料理できるんだ…」
「こ、ここは天国でつか?決めた、私は部屋に引きこもるぉ。日夜作業に没頭して仕事やデバックしてますお」
何と言う事でしょう!
部屋改造の匠たちは、廃ビルを綺麗にしただけでは飽きたらず、仲間専用のお店まで開いてしまったのです。
秋桜は夢に見た楽園に辿り着いた事を知る。この部屋では飲み物も食べ物も、自動供給されるのである。
エリュシオンは本当にあったんだ…。
●白地に地図を描こう
「では会議を始めましょう。まず、あたしの意見ですが…。初見殺しを!初見殺しとリアリティを! 」
「あ、あ…うん」
彼女たちのシューティング道は、まだ始まったばかり。と言った風情の依頼主たちを叱咤しソリテアが第一声を上げた。
この時を待ちかねたぞ!
とでも言う表情で、彼女は初見殺しという言葉を連発する。
「初見殺し初見殺し…。どこかで聞いた言葉かと思ったら…。依頼でこんな相手に出会った敵なのですが?」
「をを、近づいたと思ったら視界から消える…。なんというエグ○ム。まあだいたいこんな感じの、対処法を知らないと倒されてしまう感じです」
「導入するのは良いですが、人の形状を使わない方が良いと思います。なんというか、一般の人がやる事を考えると…」
レグルスが見せてくれたのは、一瞬で距離を詰め斬撃を浴びせた瞬間に反撃可能位置から遠ざかる高速移動型の敵だった。
その様子にソリテアは頷くのだが、智美は少しだけ顔を曇らせる。
この敵に限らず、人間そのままの敵を切ったり撃ち殺すというのは…。
「私も人と人が殺し合うような、そんな表現は控えたいと思います…」
「依頼で出会ったというなら、こちらも様々な敵と様々な場所で出会いました。初見殺しにしても、森でいきなり虎なりカメレオンと戦うのでも良いはずでは?」
「まあそうだね。無理に人である必要は無いし、まあ初見殺しを入れるという前提ならだよ。その辺は追々話しあって行こう」
彼女が顔をしかめた理由、それは心理的敬遠だ。
人が人を殺すと言うのは避けたい道ですね。とルミナも同意して押し黙った。
再び智美が口を開き、自分が出会った敵や場面を1つ1つ上げて行く。
様々な場所と敵がありえるのだ。無理に人間を敵とする必要もないとジェラルドが一時的に締めて、ホワイトボードに案件として書き込んだ。
「まあその辺はシチュエーン次第ですね。後は複数人で様々なクラスでしたっけ?あたしも賛成ですけど、スキルと武具の相性は付け加えたいですね」
「やっぱり、ゲームだから…よくわからない魔法の薬とか、薬草とか?そういうのは欲しいです、形は現代風でも良いですが…。あ、阻霊札は外せませんね」
「そう言うのは敵を倒したりしてお金とか功績ポイントを稼いで…ダンジョンを攻略した時の方が大きく稼げる方がいいかな」
演出や細かい配分の話にソリテア達は突入した。
レグルスの提案するアイテム案に、昂輝が相乗りして自分の案を練り込んで形にしていく。
「幾多のダンジョンとかを攻略する毎に、アイテムを売買して自分を強化して行く…。やっぱり雰囲気のあるBGMは欲しいですよね。既存の音楽ソフトで色々作って見ます」
「ステージはピラミッド型階層の分岐を造って、選択肢を増やせるようにしたいですね。最初から全部攻略可能なのではなく、マルチエンディングで…」
「となるとストーリーも欲しい所だけど…。どこまで練り込むかが問題になるかな。出来るなら恋愛要素とかも欲しくは有るね。助けたオンナノコや囚われのヒロインとか熱烈に」
「うむ。同行することでフラグが経ち、宿屋の主人から昨夜はお楽…」
1つのアイデアが出されると、次々に意見や追加案が飛び出して止まらなく成り始めた。
昂輝のダンジョン案からソリテアのステージ・シナリオ構成に飛び火し、今度はストーリーにまで話は達する。
ジェラルドは秋桜のエロゲ化の欲望をなんとか抑えつつ、お茶を用意すると言って少しだけ席を外した。
「さ、いっきに詰めても良い案は出ないよ☆甘い物と、美味しい紅茶、コーヒーは如何かな?♪」
「お菓子の方は僕も造ったんですよ。甘さ控え目の物と、苦み渋みでバランスを取った物もあります」
「素晴らしいと、スパシーボ!って何処か似てるおね。処で御二人はどっちが攻…」
やや時間を置いて、ジェラルドはティータイムの準備を開始した。
予め礼信と時間割を配分して、互いに手伝ったりしながら秋桜のBLネタを笑顔の空手チョップで粉砕。
一息つきながらワイワイやった後で、気分を入れ変え依頼主に顔を向けた。
●未来と言う名の青写真
「改めて、幾つか確認しておきたい事がある。1つ目はゲームなのか、シュミレーターなのかの最終目標。そして…」
「マシンスペックの確認だね?。どこまで出来るか判らないと議論しようもないもんね」
真面目な質問を向けられ依頼主は居ずまいを正し、牛乳瓶の様な眼鏡を拭き始めた。
いつもならのジェラルドなら眼鏡を変えれば良いのに、なんて言うタイミングで口を挟まない。
その様子に周囲も重要な事だと気が付いて、依頼主の言葉を待った…。
「私個人としてはゲーム希望。性能に関しては潰れた下請けのだから一〜二世代前くらいになっちゃうかな。時間と予算で色々難しいけど、バッサリとやりたい事に限定を掛るなら、なんとか行けるだろうね」
「やっぱりマシンは出回ってるのですか。やりたい事は少しずつ増やすとして、先に既存ゲームのデータ・画像を差し替えて、本当にしたいのかを確認しながらですかね〜」
「シュミレーター要望強めなのは、スポンサーの方ですか?…確かに学校の撃退士と地元のアウル能力者では随分な差がありましたしね」
依頼主の言葉を受けて、ソリテアがピラミッド階層やアイテム欄の一部だけをマークする。
下請け用や中古市場で出回ってる物ではスペックが限られるし、いきなりオリジナルで造れる物にも限りは有る。
まずは大枠を現行のゲームでやって見つつ、本当に導入したい表現か確認してみる必要があるだろう。
そんな事を言っている中、すぐ買えるように、完成までにお金貯めとかないとなー♪なんて言っていたレグルスが首を傾げた。
「世の中、世知辛くてさ。スポンサーが居ないと何も…。あ、要請を受けて巡回や警備に行ったら予算が増えるよ」
「その辺も含めて音楽や絵もフリー配信の物を拝借しつつ、ゆっくりオリジナル追加ですね。…予算の為にはともかく、町を守る為に出撃するなら、いよいよ時間との勝負です」
「金が無いのは首が無いのと同じだお。…私は宣伝用に、簡単なのでもホムペ作って商品の開発をリアルタイムで毎日発信してこうかな。エロを散りばめて話題を…」
巡回や警備の仕事があるかもと聞いて昂輝が専門書とにらめっこ。
お金は大事だが、それ以上に巡回が必要なくらいには下級天魔の可能性があるのだろう。
近くで事件が起これば出動要請だってありえる。うかうかしていられないぞ…と思っている処で秋桜の話が耳に入り、思わず話を制止した。
「出来る事が限られているならスキルは…全部は無理だから一部だけピックアップする形ですかね」
「いっそ特徴的なモノに絞ったうえで、誇張するくらいの方が判り易いし、面白いかもです」
流石に全ては不可能。
その話を踏まえて、智美と礼信はやりたい事を絞り始める。
プログラムは専門外であるが、依頼の中で討論する事には慣れている。
必要な事を抜き出して、余裕に合わせて少しずつ増やしていけば良いだろう。
「では活きたモーションの為に模擬戦と行きますか。全力で良いですよね?」
「折角のデータだし、結構本気でやった方が良いのかなぁ☆」
「ご存分に出来るように今回は参加せず、ケアに回らせていただきますね」
当分、アイテムや敵は色違いで済ませて置きますか。
横STG御三家のシステムって、色んな所で活きるんですよね…。とか現実論で攻めつつソリテアはジェラルドを連れ出し、模擬戦へと突入した。
その様子をみんなのお母さんと化したルミナが見守り、タオルに治療魔術にと準備し始める。
白紙より多少進んだ程度、前途多難の道のりだ…。
だけれどゲーム制作は1スクロール目に突入したばかり、楽しく夜は更けて行くのである。