●モイカの打ち網漁、そして…
「さっきのバッタリ漁も面白かったですけど、打ち網漁も楽しいですね」
「俺はバッタリの方が好きかなー。アタリかハズレか博打なのがいい」
漁師たちの船が二手に別れ移動を開始した。
片方が水辺を叩いて追い込み、網を張って待ち構えたもう片方が確実に捉える。
その姿に漁というよりは『猟』を感じて、御堂・玲獅(
ja0388)は新鮮な興味を覚え、ハルティア・J・マルコシアス(
jb2524)は群れなら普通だと流した。
この辺りは猟に対する認識の差さか?戦闘だと考えれば、二人とも同じような脅威を抱く事だろうが…。
「ぶっぶー、最初は面白かったけど、見てるだけつまんない〜。んー、姫ちゃんなにすればいいの?たいくつー」
「へいへい、後で遊んでやるから、もちっとだけ我慢してろ、な?飛んで帰る訳にゃあいかねーだろ」
何にでも興味深々の紅鬼 姫乃(
jb3683)は、最初はキャッキャいいつつもう飽きたらしい。
観光漁も終わりに近づき漁港まであと少しだ、ハルティアが頭をワシャワシャやって宥める。
「ねえちゃん達どうだった?モイカもそろそろ終わるから、覚えといて損は無いぜ」
「次の観光漁にも期待するのだ。でも漁はともかく、おー……デビルフィッシュ…やっぱり好きになれないのだー…」
モイカ…、アオリイカや水イカとも言い日本では割と高級な食材。
だがアメリカ人のフラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)にとっては慣れない姿であり、小さくカットしてパスタに入ってても正直微妙
天魔にとって人間もかな…なんて考えてしまう当たりで、オリエンタルに対しての躊躇いに気がついてしまう。
「(オリエちゃんは敵じゃないと信じたい、いや、信じる!だからフラッペさんもガンバです)」
「(おーらいなのだ、のーぷろぶれむ)…オリエはこの後、あいてるのだ?」
「お、なんかあんの?いいぜ、俺も話しあったからさっ」
躊躇いを息吐く事で、踏み出すことで乗り越える。
そんな姿に意気ごみを感じた天海キッカ(
jb5681)は、フラッペの背中を推す様にして通り過ぎた。
キッカとしても天魔たちは人を捕食する危険な存在で、その視点はなかなか変えれそうにない。…だが、知り合い交流し合った個人とは判り合えると信じたいと思う。
「よし。それじゃあちょいと行ってきますか。わりーな。戻ったら手伝うんで暫く店の方は任したぜ」
「あ、わんも隣町にいくんですよー。向こうの撃退士のところで出会うかもですね」
そんな雰囲気を察したのか、片手を振って挨拶に替えると撃退士達はバス停に向かった。
叶 心理(
ja0625)やキッカたちは、隣町での調査活動を重視する予定である。
気の良い仲間達の援護射撃を受けて、彼女は自分らしく走り出す。
「…オリエ、キミは、ゴハン以外に目的を持っているのだ?」
天使の陰謀に悪魔の作為、上司に同僚や個人の目的。…聞きたい事はあるが、確認したい事は唯一つ。
彼の情報が重要なのではない。
この少年の姿をした存在が、今もトモダチであるかどうかだった…。
情報でも無く、答えでも無く、ただ判り合えるのかという事に全力で向きあった。
●少年の告白と新めにゅー
「最初はさ…。俺が考えた事がどうなるか、知りたかっただけなんだよなー」
呟くように少年は語り始める。
思い出す様に、何かを吐き出す様に。
「そしたら途中で、この辺りに直接ちょっかい出すなって話になった訳。そんなん聞けるかーってのと、孤児だった俺に御館が名前くれた義理とかで悩んでさ。なら何もしないまま見てるだけならいいかって…」
「こないだのゲートの件でそれ以上、刺激したくなかったのだ?」
コクリと頷いて肯定する。
子供っぽい理屈で騒いで飛び出したが、義理もあって計画を実行したらどうなるか…推測するに留めていたらしい。
「前にさっきの打ち網漁を見て思いついた計画なんだけど。なんて言うかさー、暮らしてる間にどうでも良くなってきたんだ。こっちは料理は美味しいし、ダチが増えれば死なせたくないじゃん?」
「ははあ、情が湧いたと…。犬猫じゃないんだからキミのトモダチが聞いたらさそ怒るのだ」
少年の理屈に呆れながらも、それだけではない内心に思い至る。
友人だから死なせるのが惜しいというのは人を餌として見れ無くなったとのだろうし、モデルになった漁の見学に誘ったと言うのは…。
そこまで考えた処で、心よりも体は先に動き出していた。
拳ではなく饅頭を握り締め、超高速で腕を動かす。
「変な事を疑ったお詫びに、みんなにはボクの方から説明するのだ。コレを造った見た目は無愛想な相棒から紹介するので、覚悟しておくのだ」
「モガガ…ちぇー。優しくないなあ姉ちゃん。そういう区切りって適当にすませるかと思ったのにさ」
判ったのは結局、少年が変わり易い子供だと言う事だ。
周りの環境次第で、良い奴にも悪い奴にもなるだろう。
饅頭を口の中に捻じ込みつつ、目が離せないので皆に迷惑をかけるなぁとか思う中、フラッペはくだらない訓話を思い出した。
いわく、悪魔に名前をつけるなかれ…。
でも、トモダチになら良いよね?
「オウカには心配を掛けたのだ。この子はオリエって言うトモダチ」
「何の事だ?これから菓子を造るので忙しい。…話の種になったのなら、それで十分だ」
「おっ、来たね少年。さっそく新作アイスの試食を皆で食べよう」
饅頭製作者の睨むような視線と、ヤギメイドで出迎える少女が現れた。
研ぎ澄まされた雰囲気の中津 謳華(
ja4212)はぶっきらぼうに話を切る。
それが彼なりの気遣いなのだろう、根はお人良しなのか厨房の奥に引っ込むと三色団子を含む試作品を山ほど並べお茶を汲む。
それに合わせるようにソーニャ(
jb2649)は奥からアイスを取り出して、冷やした皿に盛り付け始めた。
「なんでヤギなのー?姫ちゃん御裁縫できるし、余った材料貰えるからいいけどさ。おせーてー」
「牧場に行ってヤギのミルクをもらって来た。なぜヤギかって?やっぱりヤギでしょ、味は濃厚で舌触りまろやか。ああ…、中四国の山間とかの農家へヤギを貸出してるんだって」
「水田に鴨を離すみたいなものでしょうか?そういえば広島ではオレンジをレモンに植え替える試みがあるそうですし、各地で新しい試みがあるそうですね」
紅い舌をペロリと出してアイスをモフモフし始める姫乃に、ソーニャは1つ1つ答えた。
思い出しながら付け加えていく彼女に、玲獅は耳に留めた話から状況を再現する。
過疎や時代の流れにも対応して、人は逞しく己を変えていく。
アンケートの中から自分達に見合う物を抜き出す様に、情報を活かしているのだろう。
「今までのアイスの延長上で、なおかつ独特の味?ラムレーズンの白ヤギと、チョコの黒ヤギがある。これ、新しいメニューになるかなぁ?」
「問題ない。しばし待て。誰にでも想像出来る物と、そうでないものに分けてレシピを起こす」
うん、上出来 。
時間を掛けて仕入れ、頑張って作成しただけに中々の出来だ。
店に出せるかな?とソーニャの問いに謳華が応え、可能な限りシンプルに紙へ書き起こした。
簡単な絵柄にメモを加えて、当たり障りの無い物が好きな者・独特さが好きな者向けの組み合わせを考え始める。
その途中でゴマや餡を加えて和菓子風にアレンジした物を造ってしまうのは御愛嬌だ。
「調査活動の中でどのタイプが良いか検証しておきますね。巡回コースを造って回らねばなりませんし、ついでですから」
「そういやー。また、偵察に戻っちゃったかー。個人的には戦ったほうが楽なんだけどなー」
御客数のメモを見ながら玲獅がそう提案すると、ハルティアが苦笑を浮かべた。
戦わないのが一番であるが、戦闘よりも偵察は判り難く面倒な作業なのだ…。
●ゴーストハント!
「ちょい気になるのは、どうしてこの場所だったのかって事だな」
「天使達が七人御崎を使って何を計測していたのかが今回の鍵だと思うの」
町中を歩いて聞き込み、裏町でバッタリと出逢う。
心理とキッカは港街から移動して調べていた2人が出会うのは、ある種の必然であろう。
互いに目立たない格好で、アウルも灯してなかったので最初は気がつかなかったが、合流するとカサブランカに移動して珈琲を淹れ始めた。
「…やっぱり噂をばら撒いていたのか、思ったよりも具体的な話でしたね。でもなんで自分で情報を…っ、にっがっxx」
「おっと、悪かったな。新作のつもりだったんだが、こりゃ店で出せないな。…それもあるが妙に食い付きが良くなかったか?都会ほどじゃないにしろあんなに怪異譚に詳しくないだろ?」
「あんたたち七人同志の話でも研究してんのかい?」
涙目になったキッカにつきあって、心理は苦いコーヒーを流し込んだ。
新作珈琲に『来たい!』と思える独特の味わいを目指し、味の強い豆を選んで深煎りにしたのだが、ちょっと強すぎたようだ。
そんな感じで色々やってると、皿を返しに来た御客が話を小耳に挟んだらしい。
「まあ大学のレポートって感じですね。…それはそうと七人同志?七人御崎じゃなくて?」
「ああ、ウチの実家ではそう呼んでるんだよ。七人御崎は御武家さんのだったかな?地方によって、他にも一揆の指導者だとか人柱だとか逸話があってね…」
「そんなに種類があるんですか?というか、周囲の県の全部に!?」
七人同志に七人童子などなど。
四国のみならず広島にも存在し、同様の話は枚挙にいとまないそうだ。
「くぅ?偶々じゃなくて、他のトコでも?」
「ああ。念の為に聞いてみたがおおよそな…。下拵えとしては十分だろうさ、思いつかせるにも他へ広めるにもな」
後から合流した姫乃に頷いて、心理は話のバリエーションも含めて整理してみた。
共通するのは七人であること、直接被害はなくとも見ただけで祟られると言う事である。
この町のみならず馴染み深い怪異譚で、目撃者の感情を直接抜けばパニックを誘導くらいはできるのかもしれない。
「もし、もし、わんの家族がサーバントに襲われるとしたら気が気で無いですよ…。脅かしたいにしても悪質…アレ、もしかして計測してたのはこれ?たしかソーニャさんも…」
「(…乱して計測、レーダーかソナーみたいだね)」
「んー。じゃあその辺も踏まえてケースの話を聞きに行ってみようか?その話を聞いたらさ、何か思いつくかも」
七人御崎で恐怖心を煽って直接感情を抜くなり、別の町に人を誘導している?
キッカはソーニャの呟きも思い出しながら案を組みたてる。
こちらで実験を兼ねて驚かし、あちらで本命のゲートという可能性だってあるだろう。
そう思ってカサンドラおばさんに礼を言うのももどかしく、姫乃の提案もあって研究者の元へ駆け込むと、意外な結論に辿り着いた。
「恐怖心を煽った結果を、計測している内容に仮定してみますが…。感情の上澄み…良質なエネルギーを造り出す実験でしょうか?ならば、あのケースの正体に幾つか思い当たる物があります」
「くぅ!なになに?まだ落ちてないか姫ちゃんが帰りに調べてきたげるよ!思いつくこと、ドンドンいってみて!」
「どうどう。いくなら目立たない格好でな。…続きを頼む」
研究者が推測する、アタッシュケースの中身とは…。
フンフンと頷きながら、にじり寄る姫乃を抑えて心理が尋ねた。
まだ仮定の話しだが、かなり真相に迫った気がする。
ここで要点を押さえれば、ピンポイントで調べる事も、戦う場合は待ち構えることだってできるだろう。
「逃走時に優先して持ち帰ったのは検証用の計測データかな?通信用とかは省くとして…ああ、せっかく上澄みが出るならゲートに頼らない吸収装置も研究したいなぁ、簡単に完成できれば苦労しないけど」
「ゲートに頼らない吸収装置…。そんなもんがあったら幾らでも隠密作戦が出来ちまうぞ…マジか…」
「人が密集してる場所ならどこでも良いですもんね。…下調べが終わった所ならどこでも良いんだし」
心理とキッカは顔を見合わせて驚き、研究者が否定した事で胸を撫でおろす。
完成していれば、そちらこそを優先するだろうし、今の計画など中断して量産に入るだろうと言う結論に落ち着いた。
その後3人はもう一度裏町を探索してから、一同の元へ報告を持ち帰る。
●港町は再び、戦場になる…
「でさー、コンチの奴が誘導して俺がって計画で…、こんな話つまんなかったか?」
「ううん。気になる、知りたい、確かめたい。それは自然な衝動でしょ?死なせるのが嫌なら、別の使い道を考えればいい」
わくわくでどきどきで素敵な気持ち…。
それを感じるためにボクらは生きてるの。と呟きながらソーニャは麦わら帽子越しに太陽を眺めた。
海辺でアイスを舐めながら歩く姿は、白いブラウスと帽子についたヤギ耳もあって水源を散策する獣のようだ。
思い入れる訳でも聞き流す訳でもなく、事実として受け入れる。
「…どこまで話したっけか?」
「コンチネンタルっていう人が、情報で誘導してる話までかな…。例え道は別れても、お互いの好きな事や夢を知っていたらずっと仲良しで居られるし、誰かの為に何かが出来たらいいね」
例え町の人がボクを嫌いになっても、ほんのちょっぴりでいいからボクを好きで、その事を覚えていてくれたらいいな。
そして空が飛べたらそれだけで最高だと思うんだけど…。
空に融けてしまいそうな表情で、オリエンタルの頬についたアイスを舐める。
少年悪魔が言葉を失ったのはその仕草にか、それとも言葉にだろうか?
「くぅ?(帰った早々、姫ちゃんいい物みたよ…フガガ)」
「いらっしゃいませー!流石に慣れてきたぜ!(いいとこなんだから放っとけっ!)」
「何やってんだか…。締めて検討にはいるぜ」
キラーンっと姫乃の目が輝いた時、ハルティアは危うい所で誤魔化した。
子犬のようにジャレあう二人を眺めつつ、心理はレポートを閃かせる。
皆の報告をまとめて情報整理の時間だ。
「最近、こちらで買い物をする方が急増したそうです。それと…終わった話だと思うのですが、友人が奇怪な行動を取ったと…」
「退治したという猿型の話を流用しているのか?もしかしたら隣町ではなく、この町で何か事を起こす可能性もあるな」
玲獅が集めた情報。
人が増えたという話に紛れ、猿型サーバントが女子高生に化けた話が再燃しているとか。
犠牲者が七人御崎と入れ替わるという怪談と混ざれば、一気に広がるかもしれない。
過去例と持ち帰ったレポートを眺め、謳華は簡単な推論をつける。
「隣町の決戦がもう直ぐ始まる…。ありえる話なのだ」
「敵がこっちにくんのか?じゃあ待ち構えてやろうぜ!」
人を誘導する悪魔の作為に天使も気がついているなら、失敗しかけた計画をこちらで再構成する気かもしれない。
1つずつ状況が整理され、交錯する想いの果てに戦いの気配が満ちる…。