●ドライブ開始!
「さってと、僕らはここから工場に行きますね。薪は…」
「僕に任せてくださいっ!しっかり拾ってきますよ!こう見えても中学生ですからね!」
それは重畳。と三途川 時人(
jb0807)は頷いて、子犬の様に歩き出すサミュエル・クレマン(
jb4042)を見送った。
「運転は交替として、さっさと聞き込みして野菜買って帰るか」
「…新しいメンバーも加わったことですし、改めて相互交流を図ることにしましょう。何処で齟齬が出るとも限りませんしね」
情報収集組や探索組が乗ったり降りたり。
ロード・グングニル(
jb5282)が目を閉じたまま語りかけると、サミュエルに山菜を託し乗り込んだ楊 玲花(
ja0249)が優しく頷いた。
数日も暮らせば気心が知れる面もあるが、これだけ顔を合わせても合わない面もある。まして新規参加者は同様であろうと、玲花は自分達からフォローに回ろうと申し出た。
それに口を開いて話し合えば、思わぬ展開を見せることだってある。
「なあ、野菜て農家でこうてもええんかな?地の物買えるなら楽しいじゃん。それが、きゃーんぷっ!キャーンプッ!いえー♪」
「それもキャンプ……なのです?ですが素材に貴賎はないのです。それが料理のプロフェッショナルというものだと聞いたのです」
「…情報と野菜が手に入るなら詳細は任せるさ。ルートで分けるがいいか?」
問題ないぜ、イエー!
同じく問題ないのです。
運転中の亀山 淳紅(
ja2261)と、助手席に座ったメリー(
jb3287)がほぼ同時にロードの確認に答えた。
車に乗った六人の中で、二人は元気よくアレコレと先住民である3人に尋ねて来る。
ワイワイ言いながら何が美味しかったとか、何処が綺麗だとか尋ねながら、しばしのドライブを愉しんで居た。
六人目?六人目は玲花の隣で寝てるよ、ナニカに酔ったんじゃないかな?
「うし、こっから歩いて聞き込みと行きますかぃ。んでも、勇君なんで静かやったん?」
「…ゆれ、て、た。から、寝てた。肉まんが大きかった…んですよね」
などと、少年は支離滅裂な供述を口にしたそうです。
時人に運転を変わって降り立った淳紅は、グッタリ状態した土方 勇(
ja3751)の表情と視線の先を見る。
細い目をした少年の顔は赤く、まだ疲れているのか、目線少し下へ。
きっとそこに夢の様な肉まんを見たのだろう。
「乗り物酔いは大丈夫ですか?杞憂が過ぎるかもしれませんけど、万が一のことも考えて全員気を抜かないで行きましょう」
「だ、大丈夫れす。たまにはこういう、キャンプを兼ねた訓練っていうのもいいね〜」
窓越しに手を額に当て温度を測る玲花に礼を告げ、勇は名残惜しそうに車上から手を振る。
そんな彼に運転中の時人は、特効薬代わりの一言を投げかけた。
「火を焚く当番をお譲りしましょうか?」
「やる、たく〜!淳くんたちも行ったし、ドラム缶を貰いに行かないとね」
ガバァッ!
時人の言葉で勇の意識は急激に覚醒する。
少年であったとしても、男にはやらねばならぬ時があるに違いない。
例え灼熱の暑さであろうとも、例え煙にむせる事があろうとも。
「こんな調子で本番も上手く行けばいいんですけどね。あっ、すいませーん僕たち撃退士なんですけどー」
「なんか言った?」
いいえ、なんでも。
時人はそう勇に返すと、車を工場へと向けて走らせる。
遠くで門を締めようとする守衛さんを呼びとめて、二人してドラム缶の確保に入るのであった。
情報も聞けたが、それはまた後で交換するとしよう…。
●情報収集
「そうさねえ。今年は食害が少のうて助かっとるけえ、野菜の他に山菜も少しもっていきんさい」
「はーなるほどぉ、そりゃあ美味しそうやないですかっ。山菜に猪肉に…、こりゃあ楽しみですなあ」
「猪肉まで話になかったろう。…ん、あぁ、俺の方は必要な食材だけに絞ってるぞ」
淳紅とロードは肘で腹を突きあって、もらった野菜を段ボールに一杯抱えた。
結構な量になったので素手では運べないのだ。
もらう予定も話も無かった猪肉の話題になったとき、淳紅は顎で狭い道の向こう側をさした。
「今年は猪や鹿がおらんで豊作なんやって。そっちも大漁やなぁ」
「…ん。山の幸を食しに参上。ただそれだけ…。今のところまでは、そうだった?」
猟犬たちに囲まれて、一人の少女がやって来た。
訓練中の大型ワンワンに囲まれた最上 憐(
jb1522)は、猟師さんたちに貰った肉を見せ、干し肉を口の中に放り込む。
もっきゅもっきゅと口を動かすたびに、脂ギッシュな野性味あふれる味が広がっていく。
広島は猪対策が積極的だとかで、嬉しい誤算かも。
「一人だけぱっくんちょはズルイのです。メリーにくれたら、美味しく調理してあげるのですよ?」
「…後にしましょうね。こちら側に抜けてこられたのですか?今の処までというのは気になりますけど」
「…ん。脂が多いから。干し肉がとっても美味しい。…ん。違和感の正体は、メールを確認すると良い」
新鮮であった野菜の、おかしな色のサラダを取り出したメリーを押し留め、玲花はもぐもぐやってる憐に尋ねた。
現時点で聞いている話に、特に妙な話題はなかったのだが…。
だが、その疑問もメールが着信するまでの話であった。
「…ん。上の方は足痕。真ん中はマーキング。最後は努力の痕?」
「この端っこに移ってるのは猪の子供なのですか?ウリ坊と呼ぶのですよね、さっき聞いたのです」
「なんや一緒に映っとる草が違うとるけど、追い駆けたん?」
ふるふると少女は首を振った。
憐はただ歩きまわり、痕を写して回っただけ。
撃退士の彼女が猪に振り切られ、植生が違う場所は明らかに別の個体であると言うのだ。
「…ん。猪。鹿。狸。あんまり変わらない。でも食害は減っているの?では、引き算は何なのかな?」
「ディアボロか…。やはり居たってわけか」
憐の言葉でロードはメモ帳を取り出した。
主体的に話こそしなかったものの、気を緩め過ぎるのも不味いと彼は入念だ。
食害が無い。同じ話は一軒二軒ではなく、多くの農家が口にしていた。
「あれ、学園の天魔さんは、お御飯を食べてるのですよ?」
「こいつはもう一班とも、確認が必要だな」
首を傾げるメリーに反応したロードの言葉に、全員が頷いた。
●ドラム缶風呂の完成
「ええ。こちらも似たような話は聞きました。車に跳ねられる狸が今年は少ないって」
「あとねー淳くん。サーバント事件の話を聞いたんだよ〜」
時人と勇が、携帯の向こう側から答えを返して来た。
食害のみならず、道路に飛び出してくる動物が減ったらしい。
付け加えてサーバント事件だが、下請け工場はこの界隈以外へも顔を出す事から、近くの事件も聞けたという。
「なんかあるんは確定やな…。今の内に考えをまとめて、食べながら相談しょ。準備と片しは任しとき!代わりに美味しいカレー、いっぱいよろしゅーなぁ!」
「カレー作るのですー?メリーもお手伝いするのですー!!」
口を開けば苦い推測を浮かべそうになる。
その思いを振り切って、淳紅は楽しい食事の話しへと話題を転換した…ハズだった。
メリーが反応した瞬間に、途端に広がる不可思議でカオスなサラダの味わい。
泡を吹きそうになるのを抑え、口ではフォローしつつ、目で必死に周囲に訴えかけた!
「あ…お、おいしかったよ!いやほんま!あの固い人参とかよくわからない緑色の物体とかもいい感じにコラボレー…うヴぉあ」
「メリーさん、先にお風呂造りません?ゆっくり楽しむ為にも目隠しだけはきちんと作っておきませんといけませんね」
「あーcurtainも掛けて確り見られないようにしないとなのです!」
万が一メリーの裸が見られたらお兄ちゃんが怒ってしまうのです!!
…その時、皆はその場に居ない『兄』に対して感謝の気持ちを覚えた。
彼女が度を越したブラコンでなければ、玲花の露骨な誘導に引っかからなかったろう。
「…ん。ただいま。まだあったのかな?こっち?…ん色々と。沢山。取れたよ。匂い的には。多分。毒は無い」
「山菜ですか?勿論ですっ!そうだ、火加減どうで…げほっ、げほっ」
「沸騰してますね、もう良いですよ。冷ましてから捨てましょう。…街中ではなかなか出来ないですから、これはこれで楽しそうですね」
情報も、山菜も沢山。
憐はそう言うと、緑色のドロドロしたサラダを一気に飲み込んだ。
荒くれ撃退士が青ざめる料理をモノともしない。だが、その刺激的な香りにむせたのか、それとも煙っただけか判らないが…サミュエルは死にそうな顔でゲホゲホ言い始めた。
おそるべしメリーの料理、恐るべし憐の胃袋。
駆け寄った玲花は少年の背中をさすりつつ、消毒用の煮沸が終了した事を告げる。
あとは焚き直して、順番に入るだけだ。
「お疲れ様です。せっかくだから完成したらサミュエルさんから順番に入りましょうか?一番努力した人が、栄光ある一番風呂であるべきです」
「メリーのお風呂ならバブルバブなのです〜泡泡なのです。だから後でいいのですよー」
「いいんですか?頑張った後のお風呂は気持ち良いですからね…。ありがとうございます」
調理担当に目配せをし、時人はメリーの監視を交替した。
目隠しにブルーシートをピンと張って、穴が無い新品である事を女性陣が確認して行く。
それが終われば、サミュエルの出番である。
「さっきの怪我じゃなかった?怪我した人が居たら手当てするよ〜」
「煙にむせただけなので、大丈夫ですよ。一番風呂に入らせてもらいますね…。こんな気分をみんなが味わえるように僕も頑張らないと」
救急箱から勇は万能薬と胃薬を取り出して、ハイっと言って差し出した。
清々しい気分のサミュエルは、やり遂げた男の表情のまま…。憐が食べていた緑色に指を滑らせて居たのだ。
勇も猪の干し肉を貰っているようだし、僕も少しくらい味見したって…。いいよね?
だけれど聞いておくべきだった、なぜ胃薬が差し出されたのかを…。
それは!
「味見!カレーの味見したい!でもね、それグリーンカレーじゃないんだよね〜」
「バチがあたったのですね…でも、負けません」
「一番槍、お疲れ様です。さぁ、完成です。踏み台から降りるときに、簀の子を返さない様に気を付けてくださいね」
今度は勇に背を撫でられながら、サミュエルはようやく時人に心配はいらないと返した。
率先して皆を護るのが自分の役目だと…。
「たとえ何であろうとも僕は護ります!それが僕が生まれた理由なので…」
口には出さず、心に誓って再起するサミュエルであった。
●美味しい作戦会議
「終わった終わったー。俺らも風呂造ろうぜー研修所行きはメンドー」
「お風呂近いのはいいね、うちでもやろっか?でも…やっぱり夜と昼では違うっすね。んじゃまた明日呼んでもらっていいすかね?」
「訓練でも大勢おったほうが、やりがいもあるやろー♪サンディさんたちもまたなー」
その日の夜間訓練は、初日ということもあり、目を慣らし近場を把握する事で終わる。
丘向こうへ立ち去るサンディたちを見送って、淳紅は明日の予約を取り付けた。
「そういえば、なんで発見されなかったんだと思います?」
「此処でその話しを振るか…。1つはまあ、命令だろうな」
「…ん。人目に付かない事を厳命?」
ぎゅっぎゅとご飯を盛った時人は、そのまま隣のロードへ回した。
話を振られたのは、代わりに考えてくれと言われたのだと気が付いて、げんなりしながら推測を口にした。
おかわり。おかわり。大盛りで。と大事な事を重ねた憐は、たっぷりした皿をペロリと片付け始める。
何と言うことだろう、全員に渡る前に一杯が消え去ったのだ!
カレーは飲み物。
「2つめだが…、あれから車で回って見たが、近隣はどこも同じだな。…が、少し北に回るとその手の話しはピタッと消える」
「なるほど、一部はサーバントが倒したと。天魔はカウント外なんですかね?あ、次の方どうぞー」
「ではお風呂、御先にいただきますね。…ゲートとは全く関係ないところで天魔の影響とか出ている可能性も捨てきれませんからね、無駄になったとしても方々で聞いておく方がいいと思います」
秋口から収穫が獣に狙われるペースが減り続けたのに、研修所より北はサーバント事件があった新年ごろから元に戻ったとか。
ロードの話を聞きながら、風呂からあがったサミュエルは、カレーを受け取って頷いた。
その間にタオルと着替えを取って来た玲花は、去り際に提案する。
時期を考えると、敵はゲートを放棄する前から、何体か森へ配置したのだろう。
「人目を避けるなら、主に夜間移動かな。じゃあ夜間訓練の予定を延ばして探って見る?何かあっても僕らならこんな風に大丈夫でしょ?」
「あ、薪当番はメリーが変わるのですよ。憐さん…、最後でいいのでお願いしていいのです?」
「…ん。猪カレーをたべきったら。その後でならいい」
薪を燃やしていた勇が戻って来て、夜間訓練の真似ごとしながら右往左往。
食べきったメリーが手を上げて交替すると、彼女が居た場所に座りこむ。
例として阻霊札を起動するためアウルの輝きを灯した勇は、さり気なく話題を夜間行軍へ、耳は風呂側へと向ける。
憐は貴重品の猪カレーの残りを指差して、最後になっていいならと言いつつ、最後に1つ、こう付け足した。
「…ん。説明終わった。なんでアウル消してないの?」
「聞いたことあるのです。上級者は見なくても、は…、裸を思い浮かべる事が出来るって!」
「ま、待って落ち着こうっ……覗いてない、ただ警戒のために全力で聞き耳を立ててただk」
憐の指摘でメリーが腕を振りかぶる。
破廉恥なのです、エッチなのは禁止なのですと叫びながら、一気に腕を振り切った。
慌てふためく勇は、誰からそんな話題を聞いたのか突っ込む間もなく、頬に赤い紅葉を描く事になる。
「勇くん残念やったなー。明日からは広範囲で本格的にやるかっ」
「なら僕は固定点で記録と監視をやりますよ。包囲網には必要ですからね」
「次は司令部つきですか?実戦に近い訓練ですね…何があるのか分かりませんので気を引き締めていかないと…」
淳紅の提案に練り込んで、時人はすかさず立案。
てきぱきと探査役や守備役を振り分け、主要計画も得意そうな人に任せる。
サミュエルは紙の上ではありえない、状況の急激な変化に、いつしか微笑んで居た。
慌ただしいけど、でも楽しいな…。
「星の唄、風の唄、森の唄…。
自然を受け止めて、溢れて収まらん感情は歌として零れる。
ふーふふ、苦しくて…嬉しいなぁ」
なんのかんのと言って、みなさん楽しくお風呂で行水。
段ボールと寝袋で造られたベットから出て、少年たちの誰かが歌を唄う。
星空の下で、緩やかに流れるカウンターテナー。
夜ふかし少女達も耳を傾けて、夜の住人たちは眠りへ誘われていった。
安らかに安らかに、子守唄を聞きながら…。