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マスター:小田由章
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/20


みんなの思い出



オープニング

●色々と判った事
 何度目かの治療法術の影響で、瀕死の下級天使は生命を取りとめた。
 特に命乞いもせず、手加減もしなかったので、まあ運が良かったのだろう。
「落ち着いたか?いろいろと唄ってくれれば面倒がないんだがね」
『第一に仲間は売れないミャ。その上で、喋れることと喋られない事があるミャ。…それとお姐さん、アジのひらきお代わり』
「はあ〜い」
 撃退士の質問に、獣人系らしき下級天使はふてぶてしく答えた。
 正式な尋問でないと知って、舐めているのか、あるいはコッソリ始末されても仕方ないと開きなおっているのかもしれない。
 賄い担当のオネエさんに土下座して、三杯目をそっと出す有様である。

「まあそれでいいさ。正しいと思い込まされてる事込みで、こっちで判断する。まずは、お前さん、上司は誰で指揮系統はどうなってるんだ?所属だよ所属」
『研究塔に明確な指導者は居ないミャ。指示とか思い付きによって、一人が主導したり、三賢者とか七人委員会とか良い意味での適当だミャ〜』
 どうでも良い事なのか、あるいは堕天した者も知っていることからか、アッサリと口を割った。
 メンバーも毎回変わるようで、三賢者体制を例にするとキャスパール役やメルキオル役が同じ天使とは限らないとか。
 いちおう、と前置きをした上で続けて話をまとめる。
『一応はウリエル様が研究者も騎士団もTOPだけど、命令した事を果たすなら特には管理されないし、されたがらないのが特徴。他からの要請もあるけど…、まあそれは出来ればの話?』
「ふーん。No.2が居ないってことか?まあその都度の指導者が居るとして、その命令でゲートの援護に?」
 下級天使は首を振った。

 アジの開きをくわえて喋れなかった事もあるが、意味的にも違うのだろう。
『命令されたのはミュ…。あーあー!。サーバントのテストだミャ。前のゴレムもそうだけど、何を対象にするかは裁量権があると言えば判るかニャ?」
「なるほど、冥魔を倒すか撃退士を倒すか。撃退士として…高知でも徳島でも良いってか?」
『そうだミャ』
 テスト中のサーバントの話はしないと決めているようだが、既に終わった個体は気にしていないのだろう。
 脳筋タイプの様だし、その辺りのケジメは、良くも悪くもハッキリしているようだ。
 そこで…。少しばかり卑怯な気もするが、誘導してみた。
「なあ?思ったんだが、何処でも良いなら無理に人里襲わなくても、俺らが相手するとか、冥魔を倒すでも良いんじゃねぇの?」
『う〜ん。その辺は上の指示次第だし、今回みたいな場合だと仲間の援護に行きたいのが心情だミャ〜。後は状況次第で……えーと、例えば…』
 下級天使は誘導されているとも気がつかず、口止めされていないことをベラベラと喋った。
 どこに冥魔の作ったディアボロ溜まりがあるだとか、連中の罠があって迂回しているだとか…。
 尋問していた撃退士が話をキリあげて、依頼を出しに行ったのはその後の話である。

●天魔の巣窟を叩け!
 データMAPには四国の地図が描かれ、その上に幾つかの光点が表示された。
 そこに何があるのか尋ねる前に、依頼者の撃退士が口を開く。
「ここらにディアボロの部隊が隠れてたり、罠に嵌った大型サーバントが居るらしい。今回はそいつの退治を頼むわ」
「何か急な話だな。その辺は行方不明とかの事件はあったけど、ゲートの件で後回しにされてたろ?」
 もっともな話なので、依頼者はモザイク付きの写真を表示した。
 見る感じ獣人系の天使のようだ。
「こないだ捕虜にした奴なんだが、天使に関する事は駄目だが、冥魔関連は景気良く教えてくれてな」
「ああ、首尾よく聞きだしたってわけだ」
「連中としても、冥魔は共通の敵だしね。黙る必要はないわよね。それで、敵のデータは?判ってないってことはないんでしょ?」
 話が呑みこめた段階で、次のデータを表示する。
 ディアボロの例が二件と、大型サーバントの例が一つ。
 大型の方は一応不明となっているが、対戦した撃退士が居たり、データベースに近いデータが載っている。
「こっちのデカブツはこないだのだろ?良く喋ったな」
「もう製品化つーか出荷したから旧型はどうでも良いんだと。むしろ戦闘データくれたら嬉しいなんてぬかしやがったぜ」
「量産化したってこと?でも四国以外で見た事無いけど…」
「地球外の対冥魔戦線で好評なんだってさ。…地球外って笑えるよな」
 なんというかシュールな話に乾いた笑いがこぼれる。
 大型のサーバントは撃退士を参考にした個体で、それが地球外に出荷されているという話だ。
 頭の中でドナドナの歌であるとか、豚は出荷とかいうブラックジョークが飛び交う。

「細けえこたぁいいんだよ。敵が居るなら倒す、迷惑だから駆逐する」
「それで良いのだ〜ってやつだな。まあ報酬出るならきちんとやるよ」
 そんなこんなで依頼に参加するメンバーが募集された。
 あとは時間と興味が折りあう物が、会議室に集うであろう。


リプレイ本文

●有らざるモノ
 撃退士たちは四国某所に転移し、移動を開始した。
 特に何もないハズの野山への移動、それはまるで行楽のようにも見える。
「本当に夏の花があった。……先日の天使からこんな情報が得られるとはな」
 下級天使の捕縛に参加したルナリティス・P・アルコーン(jb2890)は、成果が実る瞬間を感じた。
 春先であるのに、ちらほらと夏の花が咲く。
 この先に、季節を利用したという結界があるのだという。
「ということは、本来以外の季節ごとに1つ可能ってこと?それでアトラクションがいっぱいなのねぇ♪」
「魔が、天を捕える…珍しい、話? ひょっとして…、使用後の結界に、入った?」
 ピクニックという訳でもないが、目に移る花は美しくErie Schwagerin(ja9642)の言葉は実に楽しげだ。
 Spica=Virgia=Azlight(ja8786)は、話を拾いながら、簡単に理論を組み上げ直した。
 春に狂い咲く夏や秋の花はありえないモノ。
 ありえない存在…ディアボロやサーバントを留め置く、季節を使った結界なのだと思われた。

 美しい光景だからなのか、あるいは別の理由があるのか、なんとなく明かい雰囲気がする。
「エリーさんとか、楽しそうですね。花は綺麗だとは思いますけど…」
「まあ。シンプルに戦闘の事だけ考えれば良いディアボロ退治とか久々。そういう事さねぇ」
 疑問と言うには小さな廣幡 庚(jb7208)の言葉に、九十九(ja1149)が簡単に理屈を付けた。
 理由と言うほどでもないが、それで説明できる。
「普段は天魔に先手を打たれて、民間の方を守ったり、救出しながら一瞬も気が抜けないですからね。少しだけそういうの判ります」
「とはいえ面倒なのは変わらんけどやれるだけやるかねぇ」
 川澄文歌(jb7507)も九十九に相槌を打ちながら、少しだけ距離を開け、探知しつつ皆を追い掛けた。
 敵は潜伏型で危険そのもの、結界の効果がどこまでか判らないので、探知役を分けてはいるのだが…。
 相手を舐めている訳ではないが、一体でも逃せば民間人が全滅するような緊迫感は無い。
 敵の強さは変わらないので油断すれば大怪我だが、それでも一瞬たりとも気が抜けないよりは気楽と言う事だろう。

 予定地点の目印として、特徴的な樹を見つけたことで一同は改めて戦闘態勢に入った。
「目印がありましたね。冥魔さんの拠点を攻撃して、先手をうちましょうっ」
「それじゃ、蛇の巣穴に行きましょうかぁ」
 文歌が目標を見つけると、全員が装備を展開しているのを確認。
 エリー達は虎の穴ならぬ蛇の巣穴に飛びこんだ。
 この世に有らざる敵を倒し、冥魔の企みを阻止するとしよう。

●探知網
 巣穴の中は暗く、一同は敵を探知すべく入口を背にして陣を組んだ。
「みんなけっこうサドだよなー」
「何の話かしらぁ?」
 防御を固めて前に出るラファル A ユーティライネン(jb4620)に、エリーは印を描きながら軽く首を傾げた。
 茶化すようでもあり、肯定しているようでもあり、同時に否定しているようでもある。
 意図が不明なので相槌を打ったとも言えるが、中々に楽しそうだ。
「いやさ。下級天使の狙いって、サーバントの実戦データじゃん?それを外して毒蛇退治を選んだって事」
「放っておいても、問題、多分、ない?」
 冗談めかしたラファルの言葉に、スピカはなんとなく首を傾げた。
 放置して逃げ出した場合、サーバントは近くに居るディアボロか何かを優先するだろう。
 その意味でワザワザ捕まえる事に意味は無く、偶発時であるなら放置しても良い話だ。
「身も蓋も無い話ですが…。放置して一番厄介なのは毒蛇であるのは確かなのですよね」
「まっ。見付けさえすれば、倒すのが簡単って意味では気楽で良いけどな。デカブツは倒すのが面倒でいけねえ」
 文歌が強いて言うなら…と苦笑交じりの説明にラファルは肩をすくめて了承した。
 どれを倒しても同じといえるのだが、奇襲に気がつかねば全滅の可能性があるという意味で、選択肢としては毒蛇が若干上回ったにすぎない。

 対象として選ぶのに時間が掛ったように、言うほどの確信があった訳でも無かった。あえて言うなら消去法である。
 どの道、敵ならば倒すだけだ。
「まあ正解など無いだろうし、こんなものだろう。…そろそろ『最後の準備』に入るぞ」
「そうですね。私達も準備しておきます」
 ファーフナー(jb7826)が適当に話を打ち切ってペットボトルの口を開くと、庚は懐から生卵を取り出す。
 毒蛇は色々な面で危険な相手だが、今回に限っては事前に知識があると言う点が大きかった。
 予測できているなら、対抗策を用意することもできる。
「闇に潜む毒蛇か。成程、厄介だな。……だが、知って居ればどうと言う事は無い」
 空を舞うファーフナーは呑み口から色のついたジュースを周囲にまき散らし始めた。
 広範囲に放ったこともあり、特に匂いもなければ、水たまりに成る様なこともない。
 だが影に色を付けた、区分する区画を作り上げたという点において、大きな意義がある。
「毒と潜行…ね。まずは潜行から無力化させてもらうわ」
「隠れていても分かっちゃうんですからね。そこっ!」
 色水が歪んで見えた所を中心に、エリーや文歌たちアスヴァンが探知魔法を掛ける。
 生命探知はそれほど判り易い魔法ではないが、色のついた水で区分けされているなら…。
 十分な効果が発揮できる!
 位置さえ判れば、どんなに強大な敵であろうとも、ただ倒すのみだ!
「敵、確認…。総数3、殲滅に移る…」
「このまま情報管制に入る。位置情報は順次更新しとこうかねぃ」
 スピカは攻撃位置に移行するのとは逆に、九十九はむしろ待機して腰に手をまわした。
 そして端末に指を掛けると、蛇型ディアボロの現在位置を更新して行く。
 これで敵の位置は丸裸同然、見え難くかろうと、少しずつ目を慣らして追い詰めることが出来るだろう…。

●対抗策
 こうして戦いが始まった。
 影に潜む蛇たちは姿が暴き出され、アウルで強化した弾や魔法が迫る。
「ロックオン…隠れても、無駄…。問題なのは…」
 スピカはスコープ抜きで、大よその位置を狙った。
 彼女の目と腕前であれば、むしろ薄暗がりで穴を覗きこむよりは、この方が早い。
 ズルリと動き回る蛇に直撃させ、鱗を弾けさせるのだが…。
「堅い…鈍い?流石に一撃・二撃……は、無理」
「まっ。そうこなくっちゃ面白くねえよなっ!」
 流石に暗殺用の強化ディアボロはタフネスだ、スピカの放ったライフル弾をモノともせず、岩陰へと逃げ込む。
 そこへ無造作とも言える突撃を掛け、本性を現したラファルが飛びこんでいく!
「そんなちゃちなかくれんぼ能力が俺達に強するかよ、ばぁぁか。それと、毒があるのは判ってるんだって」
 ラファルの機械化した腕を、得物から滴り落ちる毒液が汚す。
 それとは別に、食らいついて少なからぬダメージを負わせるのだが…。
 描かれた印が鈍く輝いて存在感を示している。
「判ってるのに対策しねーじゃん。楽だと思う気はサラサラねーが、暗殺用ってよ、ネタがわれたらしめーなんだぜ?」
「食らったのは…、二体目だけ?じゃあ治療は後回しでも良いかしらね」
 良いんじゃね?
 ラファルはエリーにそう答えながら、毒蛇の血か機械部のオイルか判らぬ液体を滴らせた。
 ズブ濡れなので一見大変そうに見えるが、食らってるのは一体分なのでそれほどでもない。
 深く抉られるにしても、もう少し後だろう。
 知られたら誰かさんに怒られる気がするが、まあこの場に居ないので良しとしておく(そして、後で忘れる)。

 一体目に飛び付き、漢探知で二体目をいぶり出した。
 ここは断然、攻め時だろう。
「まずは一体目を確実にいきましょ。逃げきった三体目は後でもなんとかなるから」
「了解。捉えた…そして撃ち抜くっ」
 エリーが掲げた手の先に車輪を権限させると、ルナリティスは頷いてアサルトライフルで撃ち降ろす。
 車輪は雷鳴をまき散らしながら行進を始め、魔弾は次々に毒蛇に飲み込まれ始めた。
 その傷から毒にまみれた血が出ようと出まいと気にしない、なぜならば先ほどラファルが言ったように対抗策を掛けているからだ。
 接近戦を挑む前衛や、中衛のセカンドラインには、強力な法印が刻まれ毒に侵されることを許しはしない!
 これが二つ目の、対策であった。

 そうして逃げたはずの三匹目にも、最初に行った第一の策が追っていた。
「いけました?どっちかが当たってると良いんですけど」
「大丈夫です。逃げ切られる前に命中を確認しました」
 墨汁入りの水風船を文歌が、生卵を庚が投擲。
 ダメージなどまるでありはしないが、この場合に重要なのは相手の位置が判ると言う事だ。
 攻撃魔法の何倍も有効な一打を共同で放っていた。
 後は一匹ずつ倒すのみであり、一体目が倒れるのは直ぐ後の話だ。

●討伐
 魔力で編まれた鞭を引き千切り、蛇は怪しくうごめく。
「何度か試せば効きそうだが…。そこまでの価値はあるかな?」
 ファーフナーはアウルで作り上げた鞭の感触を確かめ、距離を取った。
 抵抗されたのは、ただの確率、もう一度試せば束縛できる気もしたが、それは相手にも反撃のチャンスを与える。
 携帯に送られた位置情報を見ると、隠れながら毒液を飛ばしている方は、狙えそうだ。
「能力も見て取れた。ここはワントップで潰すのが得策か」
「まあ、うちらで前を抑える必要が無いなら、あえて凶角に挑む必要はないだろうねぃ。餌は捲いたんだ仕上げを御覧さぁね」
 ファーフナーが上空に移動して銃弾を撃ちこんでいると、地上で九十九が同じように距離を取っているのが見えた。
 相手の能力は隠密に加えて強烈な毒がメインで、素の能力も火力よりはタフネスなど脅威の持続が主なのだろう。
 ならば敵の攻撃が当たりかねない位置で有効打を探るより、遠方から削る方が早い。
 あるいは防備を固めた仲間に、活躍の機会を譲った方が確実とも言える。
「さあて、この位置なら反撃も食らわないだろう。蒼天より来たれ…」
 九十九は矢を呼び水に、猛々しき稲妻を呼び込んだ。
 神鳴る力は天の怒りとなり、闇に住まう毒蛇を穿つ。
 大いなる輝きは、冥魔に属する敵に強烈なダメージを与えるだろう。
 だがそれは天魔の相刻により、闇から受ける力が増える事にも繋がる。…ゆえに九十九は距離を取ったのだ。

 恐るべき威力を持った一撃が、蛇へと迫った。
「疾!」
「(二体目の撃滅を確認。…あと一体なら、ここで、試す…)」
 九十九の呼び醒ました雷撃が敵にトドメを刺すと、スピカは狙撃銃より得物を持ち変えて移動を開始した。
 遠ざかった男師たちとは逆に、彼女が選択したのは突撃銃での中距離戦闘。
「(第一目標は殲滅。…でも今なら余裕がある、今なら…第二目標。試させて…もらう)」
 スピカは蛇の一挙一動に注目し、その動きが前衛に立つ仲間に向いているのを確認した。
 次に守るべき、そして、支援してくれる治療役を眺める。
 この位置を守って戦い、同時に、不意に襲われた場合を仮定して臨場感のある戦闘の練習を粉う為だ。
「突入、援護…する」
「おうさ。めんどっちい戦いもこれまでだ。途中で一っ風呂浴びて帰ろうぜ」
 スピカが援護し始めた所で、ラファルは最後の敵に挑む。
 戦場を駆け、敵が毒液を吐き掛けてくるのをモノともせず、強烈な貫手を叩きこんだ!
 華奢なはずの指先は、日常と言う仮面を外され、激震を奏でる凶器へと変貌する。
「終幕か。ここは弾幕で攻めるとしよう」
 ルナリティスは氷結攻撃…温度障害で毒液が固定できないのを確認。
 実験を諦めて、締めくくりに入った。
 ここまでくれば怪我人を出さない方が重要だろう。
 無造作なラファルの突進に溜息をつきながらも、離れた所で銃弾を撃ち込み始めた。
「治療するよりトドメの方が早いわよねぇ?じゃっ、倒せなかったらバックアップをお願いするわねえ」
「判りました。相手が動く前に、誰かがトドメを刺せば同じですしね」
 エリーは手元のルーンを交わらせると、再び術式を描き直す。
 雷鳴をまとう車輪を呼び出し、庚が構えた火炎放射器ともども蛇を薙ぎ払った。

●戦いは終わりぬ
 毒蛇の脅威自体は危険な存在だ。
 知るモノもなく、奇襲すれば大きな被害を出していたであろう。
 だが、知られれば他愛ない。まるで花火が燃え尽きるように崩れ落ちた。
「あっけない物ねぇ」
「符蟲、神仙道、陰陽術…。いずれに代わりなく、方策を築けば万全。撃退士は段取り八分ということさぁねぇ」
 巣穴から出て、伸びをするエリーの言葉に、九十九は面倒くさそうに答える。
「潜伏に気を付ければ厄介さは半減。過信さえしなければ、この結果は当然かもしれないねぃ」
「まっ。メンバー次第じゃねえの?鈍足だけど堅ってえ奴が居りゃあ楽勝だったし、アスヴァンいなきゃヤバかったろ。まっ他選んでたろうけどな」
 九十九の話に頷きながらラファルは汚れを落とし始めた。
 傷は塞いでもらったが、浴びせられた毒液までが消えたわけではない。
 その対策がなければ、大ピンチであったかもしれないし、そもそも他の敵を倒したであろう。

 ともあれ戦いは終わった。
「治療が終わりましたし移動しましょうか。他のチームも大丈夫とは思いますけど、念の為」
 庚が治療を終えた段階で、攻撃魔法も治療魔法も消耗度は半分。
 全力で戦うのはもう無理だが、苦戦している仲間を救うくらいはできるだろう。
「それがいいだろうな。…そういえば、下級天使に尋問するなら適当に当たりをつけるなり、カマをかける方が良いだろう」
「洗いざらい…は無理。幾つかに絞るとして…まずは騎士団の現状や、裁量権の話…かな?」
 ファーフナーの提案に頷いて、スピカは道々思案し始めた。

 人間界でいえば、ウリエルは総合商社の有力部長で…。
 支社の重役に転属(ミカエルは本社重役から支社社長)という構図らしい。
 その下に二つある部署が騎士団と研究局という話だ。
 研究者なら戦力研究できれば良いので、サーバントなり魔法開発できれば良い。
 危険な『炎剣』である必要はないし、説得が可能ならウリエル次第で…色々考慮は出来る。
 だが全ては上層部の決定が優先、とのこと。

 出来る事もあり、出来ない事もある。
 知る知らないでいえば、オグンと比べずっと少ない。
「拷問は傷つけることではなく、心を折る為のモノだ。怪我させるよりも、足の裏をくすぐるとか、耳元で黒板とかが良いかもしれん」
「くすっ。猫さんですし、そっちの方が効果的かもですね。性別は女性だとか、実験の終わったゴレムに関しては喋るらしいので、ケースバイケースでしょう」
 どこまで本気か判らないルナリティスの話を聞きながら、文歌は早咲きの夏花を一輪、また一輪と手折り始めた。

 花盗人は罪にならぬ…というが、この花は結界の基点とのことだから、山も許してくれるだろう。


依頼結果