.


マスター:OBATA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/07


みんなの思い出



オープニング

 中世ヨーロッパを思わせる館の一室。
 あらゆる調度品が部屋に並べられている。アンティーク趣味を思わせる豪奢で、優雅で、華やかな家具、柱時計、暖炉の上の燭台、タペストリー……。
 だがその一つ一つはどこか奇怪で、いびつに歪み、禍々しく、死の匂いがして、あたかも悪魔信仰者が集めた収集品のようでもあった。
 だが、それをうっとりと眺めているのは悪魔信仰者ではない。
 紛れも無い悪魔そのものだった。
 整った目鼻立ち、憂いを帯びた双眸。銀の髪。美形の西洋貴族を連想させる風貌であるが、両の耳の上から前方に突き出た黒いツノは人間の持つものではない。
 血のように赤いソファに深々と腰をおろし、目の前に直立する部下の顔を冷たい視線で眺めていた。
 悪魔の部下はヴァニタスであり、外見は頑強そうな若い男である。黒く長い髪に闇の瞳は、死神のような風貌であった。
「それで……人形師が死んだだと?」
 部下の報告を聞いた悪魔は、眉の端をぴくりと動かした。
「はい。人間たちに捕まり、監獄へととらわれました。ですが、尋問を受けている途中で逃走。逃走の中での撃退士との戦闘で、人形師は狩られました」
「なんてこった! 奴には結構期待してたんだ! 至高の芸術品悪魔人形を作ってくれるなんていうからさ。そりゃあもう僕の魔力をかなり与えてやったよ! なのにいつまでたっても悪魔人形は完成を見なかった。その上、死んでしまったのかい?」
 悪魔はがっかりとした声色で、部下に尋ねた。
「はい」
 部下の男は何の表情もなく答えた。
「ふざけるなあああぁぁぁぁぁ!!!!」
 優男の顔は一瞬にして悪魔のそれに変貌した。
 悪魔は椅子に立てかけてあった禍々しい形の杖を手にとって、部下の男の前に立つ。
 そして、杖を振り上げ男の頭を殴りつけた。
「何故だ! 何故芸術を理解しようとしないのだ! 人間たちは! この僕が至高の芸術として永遠の命を与えるというのに!」
 悪魔は何度も何度も男を殴った。直立していた男だったが、痛みに耐え切れず、膝をおり、最後には地に這いつくばった。
 それでも悪魔は殴るのをやめない。
 強靭なヴァニタスの肉体を力の限りで殴り続けたのだから、細身の杖は折れるかと思ったのだが、びくともしていなかった。
 逆に目の前のヴァニタスは体中の骨がへし折られていた。
 しばらくして、悪魔は殴るのにも飽きたように、殴るのをやめた。
 そして、杖をうっとりと眺める
「……さすがはゼーイル制作の魔杖。この強度、人間の百の魂を吸ったと言われるだけはあるか」
 悪魔は満足そうに魔杖をなでた。
 魔杖は何人もの人間の骨を圧縮して作られたものだった。それも、生きたままの人間をこの杖に凝縮したのだ。人間そのものの恐れや怒り、悲しみまでも凝縮した最高傑作の芸術品であった。
「そのゼーイルについてですが……」
「貴様、まだ生きてたのか?」
 悪魔は呆れた目で部下を見下ろした。
 骨も粉々に砕いたはずなのにこのヴァニタスは片膝をついて、悪魔に向き直った。
「申し訳ありません。そのゼーイルの居所が撃退士に見つかりました」
「人間どもの次の標的はゼーイルであると?」
「はい」
「はあ……僕がなにか悪いことでもしたかい? 人間に価値を与えてやっているというのに、何故そう人は間違うのだ? 狂っている! 見てみろ、この芸術を!」
 部屋に置かれている調度品すべてが人間からできていた。
 毒々しい形の椅子もテーブルも、燭台も、絨毯だってそうだ。
 人肉、骨、髪の毛、それに魂ですら美術品の材料となるのだ。
 人体を材料とする芸術こそが、至上であると信じていた。
「はあ、もう、まだやるきなのかい。人の命と芸術とどちらが大事だっていうんだい? 奴らは平然と人の命と答えるだろう。人は芸術になる素材にすぎない未完成なものなんだよ。だから僕が芸術にして完成させてやるというのに」
「その通りでございます」
「ゼーイルはやらせないよ。陣中見舞いがてらに撃退士とやらを見に行こうか。撃退士なんぞ美しさのかけらもない奴らに、芸術のなんたるかを尋ねてみるか」
 ――彼らは僕の芸術に触れている。であれば、少しは芸術への理解も深まっているはずだ。
 ――芸術を理解していないようであれば、僕の別荘に招待して、いやというほどに教養を叩き込んでやろう!
 悪魔は楽しみという感情を久しぶりに覚えて、小さく笑い声を漏らした。

 人形師は、監獄から逃げ出した。後を追った撃退士たちと激しい戦闘となった結果、力の大半を失っていた人形師は、あえなく抹殺されたのだった。
 人形師から知り得た情報はたった一つ、先の戦闘で撃退士たちが持ち帰った一つの情報だけ。
 人形師の主の名……『グレアム』。
「グレアム……それが僕の仇の名前なのか」
 撃退士・早乙女優馬は、刑事・牛宮綾子の与えた情報を繰り返しつぶやいた。
「可能性は高いわ。早乙女くんが追っていた悪魔もたしか、人間を芸術品にして楽しむという狂った趣向の持ち主だった」
 早乙女は拳を強く握りしめた。
 早乙女は己の仇である悪魔をずっと追いかけていた。
 早乙女を縛る過去、それは両親が生きながらにして悪魔の持つ装飾品に変えられたという事実だった。
 身体をすり潰される父母の苦しみに泣き叫ぶ声が、今も耳から離れない。
 痛みを顧みずに、自分を逃してくれた父母に報いるために、悪魔を殺すために、早乙女は生きてきた。
 人生の目標だった敵に巡りあえたのだ。
 それが、幸福を失った早乙女の唯一の生きる証。
 仇を探すために国家に属する撃退士になったのだ。
 ――ようやく会えるのか……
 早乙女は不気味な笑みを浮かべていた。
「悪魔の名前がわかったところでどうしようもないでしょう?」
「でも綾子さん、グレアムの部下らしきヴァニタスがまた見つかったとききましたが?」
「どこでそれを知ったの?」
 牛宮は情報を教えるつもりはなかった。
 それを教えたら、間違いなく早乙女は戦いに参加する。しかも、自分の命も顧みずに戦うだろう。
「頼みます、これは僕の今まで生きてきたすべてがかかっているんです! 僕はその目的さえ達成できればいつ死んでもいいと思っているんですよ! お願いします、綾子さん!」
 彼は本当に死んでもいいと思っている。そこまで強い意志を持った人間を止めようがない。牛宮が教えなくても、彼はどこからかでも情報を得て、戦いに参加するだろう。
「ヴァニタス・ゼーイル……人間を殺し、魔杖に変えるヴァニタス。彼の主はおそらく……」
「グレアム!」
「グレアムの部下は単に殺戮するだけでなく、それ自体が芸術品を作る職人よ。職人を二人も失う状況になれば、グレアムも心中穏やかではいられないでしょうね。ゼーイルを倒せば必ずグレアムを引っ張り出せる……でも優馬、絶対に無理はしないで!」
 早乙女は答えなかった。
 付き合いの長い牛宮は知っている。早乙女は嘘はつかない。
 嘘でもイエスと答えなかったのだから、絶対に無茶をするという意味なのだ。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 オルガンの音が、廃教会に響いた。
 朽ち果てていながらも神聖な雰囲気さえ感じさせるその場所は、魔の者の住処だった。
 崩れ落ちた十字架の前にあるオルガンの奏者は、黒い装束の神父。
 ヴァニタス・ゼーエル。神を呪う、悪魔の眷属である。
 廃教会の真ん中にアイアンメイデンが三体も鎮座していた。
 その前には二体の神話のミノタウロスにも似た処刑人が立つ。
「ようこそ、我が教会へ。罪を知らない罪深き者よ」
 神父を演じるようにゼーエルは、撃退士に向かって挨拶をした。優しげな白人の若い神父という印象だ。
「貴様の主、グレアムの居場所を教えてもらおう」
 早乙女優馬が一歩前に進んで尋ねた。
「人間風情が、グレアム様の名を知っているのですね。それだけで……万死に値します」
 ゼーエルの顔に闇がかかった。
 一瞬で、戦場になったかのように殺気が場に満ちた。
 ゆらりと一本の不気味な形の杖が、ゼーエルの頭上に浮かび上がった。
「行け」
 ゼーエルがつぶやくと、杖は回転し、炎の渦を作ったのだった。
 龍の口から吐き出される炎にも似た業火が、撃退士たちの不意を襲った。
 ローニア レグルス(jc1480、Camille(jb3612)は炎に飲まれた。身を焦がす炎は耐えうる程だったが、大きく生命力を奪われる。
 高火力の魔法を見せつけたゼーエルに対し、反撃が始まる。
 谷崎結唯(jb5786)は闇の翼で、宙に舞い上がった。瓦礫などの障害物が視界から消える。
 結唯は処刑人αを狙い打ち、胸部を撃ちぬいた。
 だが、処刑人はダメージを受けた様子がない。
 次に卜部 紫亞(ja0256)が動いた。処刑人αから距離を取りつつ、魔法書を開く。
 放たれた光弾は、愚鈍な処刑人に命中。処刑人αは呻き声すらあげないが、身体は損傷していた。
 満月 美華(jb6831)は処刑人αを追撃する。
 障害物の間を縫うように走り、処刑人の目の前で「神速」を繰り出す。
 処刑人が消えたと認識した時には、抜刀した新月は、標的の肩から斜めに斬り裂いていた。
 手応えは確かにあった。
 だが、処刑人は傷つきながらも全くといって反応がない。
「こいつの生命力は底なしなの?」
「美華っ!」
 猪川 來鬼(ja7445)の声を聞いた瞬間、後ろに感じた気配。
 処刑人βが巨大な棍棒を振り上げていたのだ。
 美華は、かわしたつもりだったが、攻撃は兜をこすった!
 ただそれだけで、十分に効果のある打撃だった。
 目の前が傾き、美華は膝をついた。 
 処刑人βは美華を片手で肩に担ぎあげた。目的は一つ、アイアンメイデンに運ぶためだ。
「させないよ!」
 アサニエル(jb5431)は審判の鎖で、足止めを狙った。
 光の鎖が処刑人βを縛る。
 処刑人の足は止まったが、美華は捕まったままだ。
「ほっ、助かったわ! ……アサニエル、うしろ!」
 処刑人αがアサニエルの背後から近づく。
 アサニエルは処刑人αの棍棒を回避した。
 今度はルティス・バルト(jb7567)による審判の鎖が処刑人αをとらえた。
「しかし、不気味な奴らだね。いったいなにを考えているのか読めないよ」

 ――闘気解放。
 カミーユが動いた。
 カミーユはゼーイルに向かって大太刀を振りぬく。
 途端に杖が盾のようにカミーユとゼーイルの間に入った。
 大太刀はゼーイルを薙ぎ払えず、魔杖と衝突した。一本の浮遊する杖のはずだが、壁を殴っている感触だ。
「なるほど、杖がある限り、主には触れさせないってことね!」
 カミーユは策を巡らせる。

「美華、大丈夫?」
 來鬼は満月を気にかける。
 処刑人βは鎖に繋がれているが、美華は処刑人に捕まったままだ。
 アイアンメイデンに運ばれずにすんだが、処刑人は鎖を引きちぎりそうな怪力を発揮している。
「大丈夫だから、來鬼はゼーイルをお願い!」
「わかった!」
 ゼーイルが突出しているところを來鬼は襲う。
「切り刻め!」
 來鬼の手から風鶴が舞った。
 しかし、魔杖が風鶴をかき消すようにゼーイルの前で回転する。
「無駄です。我が魔杖に死角はない」
「その禍々しいフォルム、素敵な杖ね!」
「わかりますか。この杖は何人もの人間どもを生きながらに凝縮した、まさに死を体現した杖」
「へ〜、ますます欲しくなってきちゃった、それ頂戴!」
「人間にしてはいい趣味をしていますね!」
 ゼーエルは顔をひきつらせる笑みを浮かべた。
 カミーユが來鬼のそばに近寄り、耳打ちをする。
「來鬼、次の攻撃、俺と合わせてみない? 作戦は……」
「……なるほど了解だよ」

「まずは、捕らえられている満月さんを開放しましょう!」
 早乙女は処刑人βを刀で攻撃を加えた。
 結唯の射撃は、処刑人βの眉間を撃ちぬいた。
「まだ倒れないのか……あの場所が急所でないとは」
 アサニエルが宙を舞い、上空からヴァルキリージャベリンを放つ。
 拘束に落下する光の槍は処刑人βを貫いた。
 だが、まだ処刑人は動いている。
 処刑人α・βは、それぞれもがき、その怪力はついに、光の鎖を引きちぎった。
「我が魔杖の美しさに戦慄しなさい!」
 ゼーエルの声で、再び宙にある魔杖は回転を始めた。
 
「くそっ! こんなマヌケな状態じゃなければ!」
 美華は処刑人に捕らわれた自分自身を罵った。
「たしかに間抜けだ。だが開放してやる」
 どこからか聞こえる声。
 次の瞬間に、処刑人の身体がグラリと傾き、地に倒れた。
 美華の前に立ったのはローニアだった。
 影に潜み、ゴーストバレットで攻撃を積み上げていたのだ。
 処刑人は痛みに無反応だったが、蓄積したダメージが限界を超え、ついに倒れたようである。
「ふん、間抜けで悪かったわね!」
「間抜けでないところを見せてみろ、強いんだろう?」
「当然っ!」
 美華は不敵な笑みをローニアに見せつけた。

 魔杖から巨大な火球がほとばしった!
 火球は來鬼を飲み込もうとする龍のように、口をパックリと開いた。
 來鬼が炎に包まれる。
 炎は來鬼を灼き尽くしたかと思われた。
 が、
「遅くなったわね」
 來鬼を守ったのはフローティングシールド。
 そして、來鬼の隣には美華がいた。
「美華!」
 來鬼は嬉しさで破顔する。
「來鬼、行くよ!」
 來鬼に連携を持ちかけるカミーユ。
「オッケー!」
 カミーユの策とは、挟撃だった。
 タイミングを合わせた同時攻撃。
 ゼーイルに正面からカミーユが迫ると、魔杖はそれに反応して、斬撃を受け止めた。
 同時に後方から來鬼が強襲する。
 大鉈マッドチョッパー、さらに光の加護を宿したそれは、ゼーイルの無防備な背中を斬り裂いた。
「グガアァ!」
「単純! 杖が一本だから二方向の攻撃には対応できないんだね」と、カミーユ。
「魔杖、全然大したこと無いじゃん」
 來鬼は何故かがっかりした様子だった。

 紫亞が処刑人βと戦闘状態にあった。
 紫亞は、北風の吐息を使い、処刑人の持つ棍棒を飛ばしにかかる。
「これさえなければ木偶よ、木偶!」
 棍棒は処刑人の手から離れ、地に転がった。
 棍棒をなくした処刑人は動きを止めて辺りを見渡す。
 敵の存在を忘れたような隙に、紫亞は容赦しない。
 間抜けに開かれた口の中を狙ってブラストレイ!
 処刑人は内部から焼かれ、 口、目、耳……穴という穴から炎を吹き出してもがく。数秒後、完全に動かなくなった。
「処刑人も片付いた。杖も破られたなら、もう終わりだよ、ゼーイル!」
 ルティスはヒールで仲間を回復し、ゼーイルの前に立った。
「私の万能の魔杖が破られるワケがない!」
「お前を死ぬほど憎む人間で作られた魔杖が、本当にお前自身を護るとでも思っているのか!?」
 早乙女は言い放った。

「素材の処理にだいぶ手間取っているようだな!」
 突然、言葉が響いた。
 声は教会奥の崩れた十字架から聞こえた。
 その前に徐々に顕現していく、黒い影。
 黒い翼を広げ、黒い貴族の衣装を身にまとったそれは、直感的に悪魔であると感じさせるオーラを持っていた。
 ゼーイルは撃退士を目の前にしながらも、構わずひざまずいた。
「素材の諸君、はじめまして。私がゼーイルの主であるグレアムだ!」
「グレアムッ!」
 早乙女の様子が変貌した。獣のように唸り声を上げ、悪魔に向かって走った。
 途端に、ゼーイルの杖が反応し、早乙女を弾き飛ばした。
「何だその行儀の悪い素材は?」
「お前は俺の仇だ! ただ一人の仇!」
 口に血をにじませながら早乙女は叫んだ。
「やめるんだ、優馬! 冷静になれ!」
 だが、カミーユの言葉は耳に入ってない様子だ。
 アサニエルは、ダメージを負った早乙女を回復した。
 先程からずっと嫌な予感がしている。それはおそらく死の予感だ。
「グレアムッ!」
 十字架の上に悠然と座るグレアムに、早乙女は攻撃を仕掛けた。
「痛々しい素材はいらない」
 グレアムの持つ魔杖の先が怪しく光る。
 発せられたのは魔力の凝縮された針だった。
 針は早乙女の心臓を貫く……。
「ぐあぁ!」
 早乙女は身をよじらせて地を転がった。
「優馬さん!」
 ルティスのアウルの鎧の効果で、針は心臓を貫いてはいなかった。
「大切な人をグレアムに殺されたのは、お前一人だけじゃない。 一人でグレアムに突っ込んで死んでも無駄死にだ。次の機会にグレアムに臨もうよ」
「次があるっていうのか? 次なんて何年後だ? 何十年後だよ!?」
 カミーユの説得を無視し、早乙女は再び立ち上がった。 
「うぁああああ!」
 走りだそうとした優馬は、前のめりに倒れた。
「止まれ、邪魔だ。愚か者が」
 結唯の放った弾丸が、優馬の両膝を撃ちぬいていたのだ。鮮血が地面を染めていく。
「なんだ? 仲間割れか? 素材同士で殺し合いを演じてくれるのか?」
 グレアムは愉快そうに手を叩いた。
「やり過ぎだ。でも、これしかなかったのか?」
 ルティスは回復を躊躇する。早乙女が立ち上がればきっと再びグレアムに挑むはずだ。
「もう僕に向かってくる愚か者はいないのか? 僕の芸術が理解できたのかい?」
「そうねぇ…フンコロガシの餌程度の芸術性は認めてあげようかしら。 あらご不満。じゃあそうねぇ…hippopotameのfaceってところかしら」
 紫亞が笑みを浮かべながら言った。
「安い挑発だ。だが、非常に不愉快だ!」
 魔杖から一瞬の紫の閃光。
「くっ!」
 紫亞ははじけ飛ばされた。
 グレアムの光の針が紫亞の肩を貫いて、赤く染めていた。
「誰も僕の芸術を無視できない。そうだろう?」
「おのれ悪魔……お望みなら、もうここで滅ぼしてしまっても、いいのではないかしら!」
 狂気じみた口調。ブチ切れたと紫亞自身感じた。
「全く、沸点の低い奴らばかりで困る」
 ローニアが妙に冷静な声色で言う。
「紫亞を止めないと」
 來鬼が動こうとしたところをゼーイルと魔杖が、立ちふさがった。
「この魔杖をなんとかならないの?」
「いや、魔杖の動きは案外単純なのかもしれない。スマートなやり方ではないけどね!」
 微笑んだルティスは、ゼーイルに向かって瓦礫を蹴飛ばした。それはゼーイルの視界を奪う。
 ルティスは瞬時にゼーイルの懐に入った。
 視界の下に潜込み、そのままの勢いで光を纏った大剣を振りぬいた!
 ゼーイルの首が裂け、血が舞い散る。
 主が傷を負っても、魔杖は反応できずに、宙を漂ったままだった。
「魔杖はゼーイルの視界と連動しているってことだね。目眩まし程度で本領を発揮できないなんてとんだ傑作だよ」
「貴様に我らの芸術の何がわかる?」
 ゼーイルは血が吹き出す首を抑えながら、歪んだ表情で言った。
「せめて杖があの棺のように女性をモチーフにしていたのなら、美しいと言っていたかもしれないね!」

「冷静になりなよ、紫亞。悪魔相手に一人でどうにかなるものではないよ!」
 アサニエルのヒールは紫亞の傷を癒やす。
「だまりなさい、天使崩れ。私の怒りがわからないかしら!」
「なっ」
 紫亞がうちに秘めた感情を露わにしている
「冷静でなければ戦いに飲まれるぞ」
 アサニエルは紫亞の負の感情を強く感じた。
 紫亞は無数の光弾をグレアムに放った。グレアムは悠然と宙を舞い、かわしていく。
 その内の一つが大きくはずれ、抜けかけた天井を打った。天井は脆くも崩れ、大量の瓦礫が落下、砂埃で視界がふさがる。
「くだらない。そんな目眩ましなど僕に通じるとでも?」
 だが狙いはグレアムではない。
 ――ドッ!
 激しく打ちすえる音がした
 砂埃が消えると、地に立つゼーイルの背中に手を押し当てている紫亞の姿があった。魔力を物理的な力に変換した打撃を与えていたのだった。
「言われなくても、私は常に冷静なのだわ……」
 ゼーイルは吐血し、倒れた。
 戦闘が終わったのを知らせるように、拍手が聞こえた。
「さすがだ、これが撃退士の力か。貴様らは我が部下を二人も葬った。我が芸術作品をまさに身を持って体験したのだ。悪魔人形、魔杖。どちらも至高の芸術であったろう? 我が芸術への理解も深まったのではないか?」
「理解をする必要があるというのか、共感も得られないような程度の芸術品モドキに対して。俺も体を造り変えられた身ではあるが、それに壊される程度のモノなら所詮はそれまでの品だ」
 ローニアの言葉に、グレアムはさらに問う。
「壊れるものは美しくない。つまり、強いものこそ美しいと? 悪くない答えだ。強くなるために獲物を狩るならば、今のお前たちの力も幾つもの命の上にあるのではないか? 今までいくつの天魔を殺した? これからどれほど殺す?」
「そのとおりよね。あなたにとって人間は材料でしかなく、私にとってあなたは獲物でしかない」
 紫亞が答える。
「強い君たちはそれだけで芸術であると褒めているのだよ?」
「芸術か …お前、何か勘違いしてないか? 相手は人間 、そして私は、お前達は悪魔だ。だから価値観も何もかも 違うんだよ。芸術云々は私にはよくわからんが、それを何故赤の他人のお前達に 人間の価値を決められなければならないんだ?
 私は人間ではないが、悪魔の、そして 私の価値を 何故人間如きに決められなければならないんだ? 自分の価値は自分で決める 。それは赤の他人が決める者ではない!」
 結唯は己の心を吐露するように強く言葉を発した。
「では、その価値とやらを見せてもらおう! 先ほどの問で答は出ただろう。強いものこそが価値がある! 私の求める価値は、最高の強さを持ったものにこそある」
「そっか、それがあなたの求めてきた芸術品だったってわけか。強いものこそが価値というなら、やはり、殺しあうことでしか理解はできないね」
 來鬼は、悪魔と分かり合えないのを知る。
「やはり、人間は弱く、脆く、未完成なものだという真実を得た! 今日は君達と会えて非常に有意義だったよ。我が別荘に来てくれ、招待状を贈ろう」
 グレアムは優雅な動きで、封筒を投げた。
 封筒は8つ、撃退士8人の前に降りてきた。
「では、また会おう」
 グレアムは空気の中に溶けるように消えていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 原罪の魔女・卜部 紫亞(ja0256)
 愛のクピドー・Camille(jb3612)
重体: −
面白かった!:3人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
肉を切らせて骨を断つ・
猪川 來鬼(ja7445)

大学部9年4組 女 アストラルヴァンガード
愛のクピドー・
Camille(jb3612)

大学部6年262組 男 阿修羅
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
天使を堕とす救いの魔・
谷崎結唯(jb5786)

大学部8年275組 女 インフィルトレイター
チチデカスクジラ・
満月 美華(jb6831)

卒業 女 ルインズブレイド
優しさに潜む影・
ルティス・バルト(jb7567)

大学部6年118組 男 アストラルヴァンガード
オリーブオイル寄こせ・
ローニア レグルス(jc1480)

高等部3年1組 男 ナイトウォーカー