.


マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/02/15


みんなの思い出



オープニング


 油断していた、と少女は思った。
 真木綿 織部は、後悔した。


 ヴァニタスが出現したとの報を受け、編成された索敵部隊。
 依頼に参加した学園生は10人にのぼった。
 その一員として、真木綿 織部は同級生の高葉 睦海と行動を共にしていた。

 今回の目的は、あくまでも「索敵」。
 本格的に事を構えるには、相手の情報が不足しすぎている。
 まずは、いち早く相手の居場所を割り出す。その上で対策を練る必要があった。
 そのために撃退士たちは二人一組で動き、戦闘によって荒廃してしまった街を巡回していた。

 バハムートテイマーである睦海が召喚獣を使役して索敵。
 その護衛を担当する織部は、睦海の様子がおかしいことに気づいていた。
 いつも、というほど彼女と行動を共にしていたわけではないが、それでもわかる。
 今日の睦海は著しく集中力が欠けていた。どこかぼんやりとしている。
 織部は幾度かそれを指摘し、睦海を諌めた。しかし、睦海は苦笑いで謝るだけ。
 直る様子は一向に見えなかった。

 そんな二人の前に、それは突然現れた。
 ディアボロ。グールドッグ。

 あからさまに動揺する睦海と違い、織部は冷静だった。
 下級ディアボロ一匹の相手なら、自分一人でも問題ない。
 双剣が舞い、グールドッグは瞬く間に血を噴き倒れ伏す。

 ――織部は冷静だった。同時に、慢心していた。

 討伐されたかに見えた犬型ディアボロ、その「首だけが千切れ跳んだ」。
 何が起こったのかを織部が理解するその前に、生首は彼女を飛び越えた。
 安堵の息を吐く睦海、その片足に噛み付いた。
 級友の悲鳴が織部の混乱に拍車をかけた。考える前に体が動いた。生首を斬り飛ばす。
 今度こそディアボロは沈黙したが、睦海の右ふくらはぎは真っ赤に染まっていた。
 痛みに呻く声。血のにおい。それらが、敵を呼んだ。

 どこからともなくグールドッグは出現し、動けない睦海とそれを背に庇う織部を囲んだ。
 五匹。敵の数を織部が確認したのは一瞬だったが、その間にも新たなディアボロがこちらへ駆けてくるのが見えた。

 一人でこの数は倒せない。
 まずい。どうする。
 今ならまだ逃げられるか――

 織部が決断を下すのを、敵は待ってくれなかった。
 グールドッグが飛びかかる。斬る。首が飛ぶ。
 睦海に向かう首、その軌道を、小さな召喚獣が体当たりで逸らした。

 睦海のヒリュウが戻ってきたことを視界の隅で確認しながら、織部は通信機を手にした。
 自分の迂闊さに苛立ちながら、仲間へ助けを求める。
 油断していた、と少女は思った。
 真木綿 織部は、後悔した。


 こちらを睨むグールドッグの数は、すでに二桁を超えている。
 敵中突破は絶望的だった。








 痛い。足が痛い。
 傷口は熱を持っていて、嫌な汗が額を伝った。
 いつもなら、この程度の痛みは耐えられる。
 アウルを活性化させれば、戦える。そんな傷。それなのに。

 私は立ち上がることすら出来なかった。
 真木綿さんが何かを叫んでいる。
 ヒリュウちゃんがこっちを気にしている。
 二人とも、私を心配してくれているんだ。
 ディアボロの唸り声だけを拾う思考の中で、私はぼんやりとそう感じた。

 ――姉さんは。
 姉さんは、きっとこんな傷で倒れたんじゃない。
 姉さんなら、こんな情けない姿を晒さない。
 姉さんは。姉さんは。

 姉さんは、もういない。

 私は泣いた。
 痛くて悲しくて悔しくて辛くて。
 涙が止まらなかった。

 私、どうしてここにいるのかな。
 姉さんの役に立ちたくて、撃退士になったのに。
 姉さんと一緒に戦う前に、姉さんは死んじゃった。
 どうして私は戦おうとしてるんだろう。
 私にはもう、戦う理由なんてないのに。

 ああ、そっか。
 だから立てないんだ。



 私、姉さんのところに行きたいんだ。




リプレイ本文


 紅 鬼姫(ja0444)は走っていた。

 連絡が入った時点で、鬼姫は織部たちから一番近い位置に居た。
 鬼道忍軍の身軽さを活かし、単身現場へと急行する。

 苦い記憶が蘇る。
 すべてが終わってから、ただ一人――あのとき確かに抱きかかえたはずの一人だけ、救えなかったことを知った。
 想起する景色に重なるように、今朝、はじめて会った少女の顔が浮かぶ。

(……少し、似てますの)

 ビルの壁を駆けあがり、街並みの屋上を行く。
 織部たちが背にしているビルに到達しても、鬼姫の足は止まらない。
 屋上のフェンスを飛び越え、そのまま壁づたいに駆け降りる。
 二人が見えた。手にした双銃をディアボロの群れへ向ける。

 鬼姫は、睦海の姉を救えなかった。
 恨まれているかもしれない。それでも。だからこそ。

「――今度こそ、助けてみせますの」



 鬼姫に次いで救援に駆け付けたのは、彼女と共に行動していた緋桜 咲希(jb8685)だった。

「あうぅ……今日の敵は見た目が気持ち悪いよぅ」

 だからと言って逃げ出すわけにはいかない。
 アウルを槍状の炎として顕現させ、手近な敵に投げつけて注意を引く。
 『炎焼』が直撃したディアボロは悲鳴をあげたが、力尽きるまでには至らない。
 ひっ、と短く悲鳴が漏れた。爪が振りぬかれ、血が舞った。

「いたっ……痛い、じゃナい……ナニスルノ?」

 咲希の体が黒い靄に包まれる。
 真紅に変色した瞳がギラリと光った。

「そっちガその気なラ、容赦しなイよ? あはッ。アははハはッ!!!」

 再び槍状の炎が現れる。
 投げつけられたその火炎は、一体の頭を燃やし尽くし、倒れる体を火達磨にした。

「よォく燃えてルねぇ♪ 怖イ? 大丈夫……痛いノハ、一瞬だケだかラさぁ!!!」

 別人へと変貌した咲希は、自ら敵へと斬りかかった。



「急いで逢いに来たつもりでしたが……出遅れてしまいましたかねえ」

 翼で飛行するディアン(jb8095)が呟いた。
 隣を飛ぶアデル・リーヴィス(jb2538)はそれに答えず、違う場所に視線を向けている。
 織部、鬼姫の二人は奮戦していた。その背後でうずくまり、動こうとしない者が一人。
 東北での戦い。その結末。アデルは、報告書に目を通していた。
 助けに行く、と彼女は決めていた。信じる『正義』を為すために。

「……わたしは行くね。こっちは任せていいかな」
「もちろんです。索敵にも飽きてきた頃合いでしたから」

 敵中に降り立ちワイヤーを手繰るディアン。自然と口角が上がる。
 戦地に焦がれ、血を愛し、漸くこうして逢えたのだ。
 ヴァニタスでないことは少々残念だが、待ち望んだ対峙には変わりない。

「お逢い出来て何より――楽しい戦場といたしましょう」

 細い糸がディアボロを切り裂く。
 動きの止まったグールドッグ、その頭部が瞬く間に切り刻まれる。
 次いで飛びかかってきた一頭も、鋼の糸に両断された。
 千切れ跳ぶ首が牙を剥き、傷を負おうとも、ディアンの口元の笑みは消えなかった。

「死して尚、噛み付いてくるその姿勢……好いですねえ。嫌いじゃありませんよ」

 闘争に酔う一方、冷静に状況を把握する。
 救助対象を包囲した敵をさらに囲み、挟撃する。それが最善だと思われた。
 しかし、増援は未だ終わらない。
 包囲を維持することに拘り続ければ、今度はこちらが挟撃されかねない。

(長居は出来そうにありませんか……存分に楽しんでおいた方が良さそうですね)

 ディアンが戦闘を開始した後も、アデルは飛行を続けた。
 味方の半数は揃っている。とにかく、彼女を安全な場所へ移動させなければならない。
 アウルの炎が舞い、双剣と双銃が敵の爪牙を防ぐその中心へ、アデルは降り立った。短く問う。

「立てる?」

 ヒリュウを抱く少女は答えない。
 視線は傷の増えていく織部と鬼姫を追っていた。
 そこへさらにもう一人、翼で飛翔し敵陣を越えたトグ(jb8834)が合流した。

「状況は芳しくないようですねえ。このままだと押し切られますよ」

 飄々と告げられた言葉。答える者は居なかった。トグはやれやれと肩を竦める。
 自身を狙って飛んできたディアボロの頭を鋼糸で絡め取り、それを血と肉の塊としてから語り出す。
 動きもしなければ答えもしない睦海に向かって。

「残りますか? ではどうぞお死になさい。消え入りそうな魂はヴァニタスに回収され、残った身体はディアボロとして再利用してくれますよ。趣味の良い悪魔なら、生前の記憶を残したディアボロにしてくれるかもしれませんねぇ」

 少女の肩が震えた。腕に抱くヒリュウが、俯く顔を心配そうに見上げる。
 睦海の近辺で何があったのか。それをトグは同行者から聞いていた。
 はぐれ悪魔は、死の標を囁く。

「……ところで、そうなった魂が、果たして貴方のお姉様と同じ所へなんて、いけるんですかねぇ? 助けようとする仲間をも道連れにしようとした、貴方のような魂が。悪魔に回収された魂が……ねぇ?」
「いい加減にしろ。怒るぞ」

 振り返ることなく、織部が口を挟んだ。
 もう一度肩を竦めてトグは閉口する。果たして怒られるのは自分か、それとも動かない少女か。
 織部同様、眼前の敵の群れを睨んだまま、鬼姫が呟く。

「睦海は連れて帰りますの。それが、汐里の望みですもの」

 普段と変わらず、抑揚の少ない声だった。
 普段と違い、強い意志の込められた言葉だった。
 汐里。姉の名を聞いた睦海は、唇を結んだ。
 アデルは手を伸ばす。肩に触れて、ようやく目が合った。

「誰だって大切な人には生きて欲しい。きみのお姉さんは、きみが死んだら喜ぶのかな」

 少女は、沈痛な面持ちで首を振った。
 睦海の姉のことをアデルは良く知らない。顔も声もわからない。
 それでも。彼女たちの間の繋がり、その強さは、睦海の沈み様から容易に想像できた。

「それじゃあ、生きよう。きみは此処に居るべきじゃない」

 未だ一言も発しない少女は、しかし首を縦に振ろうとはしなかった。
 これ以上は待てませんよ? トグが視線でアデルを促す。
 小さく息を吐き、アデルは少女を抱えた。召喚を解除されたヒリュウが消える。

 アデルが翼を広げ、包囲の外を目指す。獲物を逃すまいとディアボロたちは猛った。
 鬼姫と織部が体を張って止める。彼女たちを抜けた生首は、悉くトグが撃墜した。
 眼下で吠える獣たち。アデルはそちらを見ようともしない。
 押し黙る睦海は、戦う仲間たちを見ていた。



「――おし! 届いた!!」

 虎落 九朗(jb0008)は、思わず叫んだ。
 グールドッグたちによる包囲の外側、アデルが抱える睦海がサクリファイスの射程に入った。
 直剣を構えるファーフナー(jb7826)が、九朗の傍へ着地するアデルをカバーする。

(随分と手間取ったな)

 言葉には出さなかったが、ファーフナーはそう感じた。
 咲希やディアンらは健闘しているが、この人数では包囲を維持できない。
 敵中突破を図る織部たちを援護し、早々に撤退しなければ危険だ。

「何があったかは知らねーが、掛かってんのはあんたの命だけじゃねぇんだ」

 九朗の言葉に、睦海はさらに消沈した様子だった。
 しかし、それだけだった。言葉は返ってこない。
 向かってきた敵の両手足を斬り落とし、ファーフナーが告げる。

「退くぞ。これ以上は持たん」



「死ネっ! 死ねッ!! 死ね死ネしね死ねエええェッ!!!」

 返り血に染まりながら、咲希は大鉈を振り回し続ける。襲い来る恐怖を狂気で叩き斬る。
 それでも彼女を囲う輪は着実に形成されつつあった。状況は悪化の一途。

「無尽蔵に湧くとは。さながら悪夢ですか」

 発する言葉とは裏腹に、ディアンは笑みを崩さない。
 楽しいのは結構だが、敵が減らないのは宜しくない。退き際だろう。
 手にした鎌の柄で進路を塞ぐ敵を殴り伏せ、暴れ狂う咲希の元へ向かう。

「いやはや。予定通りにはいきませんねえ」

 ひとりごちて、トグは上空へ飛んだ。飛びかかってきた一頭の爪から逃れる。
 積極的に戦闘に参加するつもりの無かった彼だが、状況がそれを許さなかった。
 地上を行く鬼姫と織部は道半ば。双方ともに満身創痍、撤退するにも援護無しでは厳しい。
 移動力で劣る織部を庇い、鬼姫は幾度か振り返って敵を迎撃しながら退いていく。
 やや前進した九朗から、回復の援護がもらえるまであと僅か。

 ――逸る気持ちが、隙を生んだ。

「ッ!?」

 織部が転倒した。
 左足に、生首が食らいついている。
 蹴飛ばす。立ち上がろうとして、もう一度倒れた。
 極度の疲労が、彼女の足をもつれさせる。牙が、爪が、――死が迫る。


 織部が終わりを覚悟したそのとき、グールドッグの頭が盾によって殴り砕かれた。


 鈴木悠司(ja0226)だった。
 トグと共に駆け付け、今まで戦い続けていた彼は、血まみれだった。
 普段の微笑みはその顔に無く、冷たい瞳がディアボロを見据えていた。

「……すまない」

 立ち上がる織部を一瞥し、悠司は尚も襲い来るグールドッグを淡々と斬り伏せる。
 その姿を見た織部は思う。別人のようだ、と。
 以前、友人と一緒に笑っていた彼と同一人物だとは、到底思えなかった。

 包囲を突破し、一丸となった10人は、戦場を離脱した。
 撤退間際に放たれた九朗のコメットが功を奏し、追手は数頭にとどまった。
 その追手もディアンと鬼姫によって駆逐され、撃退士たちは激戦地から離れた場所で足を止めた。






「傷は?」

 乱れた呼吸の合間に、織部が悠司に尋ねた。
 悠司は首を振って答える。回復は必要ない、と。
 だが、と食い下がる織部に、悠司は心中を吐露した。

「俺の事なんてどうでも良い。もう、どうでも良いんだ。これ以上、誰かが倒れるのは……見たく、ない」

 思い出す。
 手を伸ばした。
 あと少しで届いた。
 あと一歩で、救えるはずだった。

 悠司は語った。織部は、黙って聞いていた。

「睦海さんのお姉さんを救えなかったのは、俺なんだ。俺は憎まれて当然だ。睦海さんには、生きてもらいたい。せめて、俺を殺すまでは―― 」

「それは違う」

 否定された悠司は、光の無い目で織部を見た。
 真っ直ぐな視線が返ってくる。真っ直ぐな言葉が返された。

「あいつは、誰も憎んでいない」

 私とは違う。小さく呟き、織部は続けた。

「お前にも兄弟が居るらしいな。今のあいつと同じ思いをさせるつもりか? それとも、お前はあいつを人殺しにしたいのか?」

 長いようで短い沈黙があった。
 いや、と小さな声で悠司は答えた。
 織部は不器用に笑った。少し照れくさそうに。出来る限り優しく。

「私にとって、お前は命の恩人だ。感謝している。だから、そんなことを言うな」


 鬼姫は、睦海に頭を下げていた。

「汐里を連れ帰ることが出来なかったのは、鬼姫の慢心と力不足のせいですの……申し訳ありませんの」
「いえ、そんな……!」

 ようやく声を発した睦海は、慌てた様子でそう言った。
 顔を上げた鬼姫は、どこかほっとした表情を浮かべていた。
 生きて護る為に死んだ姉と、死を望む妹。同じ場所に辿り着ける筈など無い。
 良かった、と鬼姫は思う。睦海を守ることが出来て。

「生きて変わる事はあっても、死んで変わる事は何もありませんの。辛くても……失った命の分まで、生きるべきだと思いますの」
「……私は」

 鬼姫の想いを聞いた睦海は、答えに詰まった。
 その表情は未だ暗く、立ち直ったようには見えない。

「私は……皆さんを危険に晒すだけで、何も出来なかった。私なんか――」
「おい」

 死んだ方が良かった。
 その言葉を遮ったのは、九朗だった。
 睦海の正面に立つ彼の表情は険しい。

 ぱん、と乾いた音が響いた。

 驚きに目を見開き、睦海は自身の左頬に手を当てた。

「いてぇか。それはあんたが生きてる証拠だ。……事情は聞いたよ。俺だって、救いたい命が目の前で失われた事も、知らねぇところで決着がついてた事もある。何度もあったんだ」

 けどよ。
 九朗は、共に戦った仲間たちを指した。

「それはてめぇの命を、周りの命を捨てて良い理由にゃならねえ! 絶望したって、自己嫌悪したっていいんだ! あんたは此処にいるだろ! 生きてるじゃねぇか!!」

 睦海は救われた。それは、事実だった。
 彼女が自ら死を望むことは、命を賭して救ってくれた人たちの想いを捨てることと同義だと、九朗は思う。
 少女は唇をきつく結んだ。涙を堪えていた。


 餓鬼の寄せ集め部隊か。
 睦海たちを横目に、ファーフナーはそう思った。
 事実、彼女たちはまだ子供だ。撃退士である以前に。

 ふと考える。
 自分は何故生きているのか。どうして此処に居るのか。
 偽りの関係が全ての人生だった。喪うものなど何もない。
 ――そうだとしたら。この未練がましい感情は、一体何だというのだろう。

「戦場で散ってしまえば敗北者。彼女の姉は、最期の一瞬まで戦っていたのでしょうね。僕はそれを敬いますよ」

 誰に告げるわけでもなく、ディアンが独り言を呟く。
 ファーフナーは無言だった。トグは相変わらず軽薄な笑みを浮かべている。咲希は、九朗と睦海のやり取りにオロオロしていた。
 誰も聞いていないようで、皆が聞いている。それを何となく感じながら、ディアンは続けた。

「彼女まで負けてしまうほど、人間というものはか弱いですかねえ……?」

 だからこそ、僕は此方の味方なんですがね、とディアンは締め括った。


 遠吠えが響く。


「……まだ来るか」

 忌々しげに呟いたのはファーフナー。
 建物の陰から現れたグールドッグの姿を認め、咲希が悲鳴をあげた。

「あ、あとは帰るだけだと思ってたのに……!」

 臨戦態勢を取る撃退士たち。唯一、睦海だけは武器を構えようとしなかった。
 彼女を背に庇いながら、鬼姫は鞘から二刀を抜き放ち、アデルは魔法書を再び手にした。

「……死とは、忘れることですの。汐里の魂は鬼姫が連れて生きますの。ですので、貴女も助けますの」

 決意を告げて、鬼姫は接敵した前衛班に加わった。
 彼らを援護すべく魔法を放ちながら、アデルは睦海に背を向けたまま語る。

「きみは逃げても良いよ。撃退士を辞めても、きっと許される。立ち止まる事は悪じゃないし、進むだけが善じゃない」

 唯、忘れないで。
 ヒーローをかたる堕天使は、熱の無い科白が少女に届いていることを願った。

「今も何処かで、きみと同じ感情に苛まれている人が居る。その人達を救う事も、わたしの役目。出来る事なら、きみも救いたい」

 いつか聞かせてくれるかな。
 アデルは一度だけ振り返り、翳った微笑みを浮かべた。

「きみが撃退士になった理由を。きみが此処に居る意味を」



 この日。
 少女が再びヒリュウを召喚することは、ついに無かった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 暗殺の姫・紅 鬼姫(ja0444)
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
 対偶の英雄・アデル・リーヴィス(jb2538)
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
対偶の英雄・
アデル・リーヴィス(jb2538)

大学部6年81組 女 ダアト
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
弱者の味方・
ディアン(jb8095)

大学部6年58組 男 阿修羅
紅眼の狂威・
緋桜 咲希(jb8685)

高等部2年18組 女 アカシックレコーダー:タイプB
死を囁く魔・
トグ(jb8834)

高等部2年3組 男 ナイトウォーカー