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マスター:七転六起
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/28


みんなの思い出



オープニング


 日も長くなってくる3月下旬。
 ここ数年であれば桜も咲き始める時期であるが、今年は卒業式の桜は見れそうも無い。
 本来なら桜とは4月の入学式の時期に満開なのだからそれでよい。
 しかし卒業するものにとっては出来れば満開の桜で卒業などと言う洒落た体験はしてみたいものだろう。

「今日で卒業かぁ……」

 誰にと言う訳でもなく、神沼美月(カミヌマミツキ)は小さく呟いた。
 6年間世話になった小学校の校舎、自分のクラスの一番後ろのお気に入りの席。
 3階の窓から見る校庭が、美月はとても好きだった。
 最後に桜が見れればと思ったけれど、今年は叶わないらしい。
 昨日のニュースでは開花予想は4月上旬だそうだ。
 その頃になったら桜を見にくればいい。
 本来ならそうなのだろうが、美月にはそれが出来ない訳があった。

「美月ちゃんまだ残ってたの?」

 クラスで一番の親友が思いがけずクラスの中へ入ってくる。
 卒業式が終わってそれなりに経過しているので、とっくに帰ったと思っていたのだが。

「うん、見納めにね」

 へへっと少し恥ずかしそうに笑って親友から窓の外へ再び視線を戻す。
 親友も前の席に座って窓の外を眺めてから、ポツリと呟いた。

「本当に、撃退士ってのになるの……?」
「━━うん、もう決めた事だから」

 少し寂しそうに、しかし揺るがぬ決意を持って。



 美月が自分がどういう存在なのかを理解したのは、つい一月ほど前の事だった。
 中学受験を終え、通っていた塾に合格の報告をした帰り道、美月の目の前に、そいつは突然現れた。

「今晩和御嬢さん、こんな満月の夜に一人で出歩くなんていけないなぁ。物騒な世の中だからね♪」
 
 軽快な口調で現れたソレは美月に恐怖を抱かせるには十分な存在だった。

「おっと、何もしやしないさ。見ての通り今の僕は首しかないからね。それに今はただの夜の散歩中さ」

 アハハと笑いながら、目前の生首はユラユラと左右に踊る。
 今すぐにここから逃げなければいけない。
 そう解っているのに、体が動かせない。
 何をされているわけでもないのにその存在から目を放せない。

「逃げずに僕を見ているって事は自殺志願者なのかな?あるいは御嬢さんには秘めた力でもあるのかな?よし、試してあげよう。なぁに、もし秘めた力が無くても、君がこの世から消えるだけだから心配はいらない」

 クワッと生首の目が見開くき、黒いオーラの様なモノが生首から発せられ、次第に美月を覆う。
 本能的にわかった。このままでは殺されてしまう━━と。
 そして思った。強く。とても強く。

 ━━死にたくない。

 刹那、身体から淡い光が噴き出す。
 いや、噴き出したのは淡い光だけではない。背中から剥き出しになった違和感。
 ややあって、光の落ち着いた美月を見据え、生首は満足気に口角を上げた。

「なるほどお仲間か。立派な漆黒の翼だね。さっきの光と御嬢さんの持つ漆黒の翼があれば一緒に遊べそうだね。これだから夜の散歩はやめられないね。それでは次回、楽しく遊ぼうね御嬢さん」

 言いたいことを次々と捲し立てる様に一方的に喋り、生首は空高く飛んで行ってしまった。
 聞きたい事は山ほどあったはずだが、微動だにしないまま半ば呆然とその生首を見送る事しか、その時の美月には出来なかった。

 ━━━━。

「美月!!」
 生首が去った後、暫く呆然としていた美月の意識を呼び戻したのは、よく知る声だった。

「おとう……さん?」
 美月の父は美月に怪我がないかを調べ、無事を確認してから強く抱きしめた。

「無事でよかった……今は帰ろう……家に着いたら美月には話さなければいけないことがあるんだ」
 その声は、今まで聞いた父の声の中で一番辛そうなものだった。



「私はね、ハーフなんだって。悪魔と人間の。今までは大丈夫だったけど、これからは今まで通りの生活は出来なくなるかもしれないし。何より━━」

 大切な友達を巻き込んだりしたくない。
 生首と出会った日、父は美月に全てを話した。
 悪魔だった今は亡き母と、撃退士の父の間に出来たのが自分だという事、母がとても美月を愛していた事、そして美月自身には他人を守る力があるという事。
 今はまだ右も左も解らないその力だが、伸ばさなければいけない事。
 そして最後に、父と母の思い出の品としてリングを受け取った。
 ヒヒイロカネと言うものらしく、昔父が使っていた武器が入っているらしい。

 よくわからないけれど━━。
 卒業式の終わった校舎、残っているものは自分と大切な友人。
 後は教師がまだ何人かは居るだろう。
 この校舎から出たら自分の小学生生活は終わりとなる。
 そんな静かな空間にチャイムが鳴った。

 ピンポンパンポーン━━と。

 こんな時間に学校のチャイムなんて、何か緊急放送でもあるのだろうか。
 聞き耳を立てる美月に聞き覚えのある耳障りな声が響く。

「やぁ、お待たせ。一月ぶりだね。それじゃあゲームを始めようか」

 ビクッと美月の体が跳ねる。
 全身の毛孔が開いたようなざわつきが美月を襲う。
 声の主は見えなくてもわかる。あの生首だ。

「僕の作ったディアボロ二体をこの学校にこれから放つ。見事生き残れたら君の勝ち。君が死んでしまったら僕の勝ち。実にシンプルだろう?」

 アハハと無邪気に笑う。
 ギリッと、美月は奥歯を噛む。

「そうそう、ディアボロ達に君とそれ以外を見分けるような賢い脳ミソは備わってないからね。だってこのゲームの勝敗に他人の生き死には全く関係ないから」

 アハハハーと間延びした笑いがスピーカーから響き、ブツンというマイクが切れる音が続いて聞こえた。
 そして悲鳴。
 子供だって悪魔とかディアボロくらい知っている。
 放送を聞いた者は、子供も大人もパニックになって校舎から逃げようとする。
 それを遮るように、1m以上はあろうかという巨大なオオカミ型ディアボロが下駄箱を塞いだ。
 そして屋上からはズシンズシンという足音。
 トロル型ディアボロとでも呼ぶべき巨人が、一歩ずつ階段を下りていく。

「私、行ってくる……先生がまだ居ると思うから、先生達と隠れていて」

 恐怖を悟られないよう、精一杯の笑顔で友人に微笑みかける。
 そしてパンと顔を叩いた。

 ━━私が必ず守る━━。

 小さくそう呟き本能的にヒヒイロカネから魔具である双剣を具現化し、美月は友人を残しクラスを飛び出した。




「緊急の依頼です」

 バタバタと慌しく職員が撃退士達に書類を広げた。

「ディアボロ及びその上位存在と思われる悪魔が小学校に出現しました。幸い下校は終了しており、生徒は数人しか残っていないようです。教師が生徒を守りながら脱出経路を探しているようですが、動きの早い狼型ディアボロに阻害され思うように校舎から脱出出来ていません。その上校舎内には大型ディアボロも確認されています」

 矢継ぎ早に次々と情報を出す当たりも時間がない所以だろうか。

「それと、現地で生徒が交戦しているとの情報があります。4月より中等部入学予定の子だそうですが、実戦経験は皆無、至急の応援が必要と考えられます。さぁ皆さん、転送ゲートは用意してありますので急いでください!」


リプレイ本文


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 ひゅん、と転移装置出口へ撃退士達は放り出される。
「正直こんな微妙な位置に転移するなら上空に来た方が何ぼかマシだな! 」
 学校から少々遠い位置、ダッシュしながら矢野 古代(jb1679)はボヤいた。
「戦ってる生徒とやらはきっと守るために剣を取った! 一人でも取りこぼしたらきっと後悔するぞ、俺達も悔やむぞ、嫌なら全力で走れ! 」
 自分に、仲間に言いながら全力で歩を進める。

「…20分近くも一人で頑張って居るなんて尊敬に値するわね…。早く助けてあげないと。」
 古代の少し後ろを続く田村 ケイ(ja0582)が、叫ぶ古代とは対照的に静かに呟いた。
「助けを求めている人がいるのなら、これに応えるのは貴族として当然ですわ」
「そうですね、それに未来の後輩が頑張っているのなら、先輩としてカッコイイ所を見せようじゃないですか」
 ケイの横を走るのは長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)と神雷(jb6374)だ。

 同じスピードで走っているが女性陣は比較的余裕がありそうだ。
 職業の差か、はたまた年齢の差か。

 兎に角、学校はもう目の前だ。


 ●
 パリィン!

 大筋の通りまずは階段付近の窓ガラスを盛大に割った。
 3階部分は窓ガラスが割れサッシが変形した部分がある。
 トロルが破壊した部分だろう。
 いまさらガラスの一枚や二枚、特に問題なさそうだ。

 三階からは時折戦闘音が聞こえているが、一階からは騒音は聞こえていない。
 戦闘が開始されていないか、あるいはもう――。
 兎に角急がねばならない。
 撃退士達は手筈通り戦力を3分割し迅速に事に当たる。

『廊下は走らない!』
 そう書かれた廊下を地領院 徒歩(ja0689)は全力で駆け抜ける。

「実戦経験もないくせに友人を護るために戦う、その心意気が気に入った! 我が陰謀に巻き込みたい所だが、今はまずとにかく助けよう」
「そうですね、まずは美月ちゃんを無事に助けましょう、地領院様」

 徒歩と神雷は今入った階段とは別の階段へと急ぐ。一気にカタを付ける為に。
 一方のケイとみずほも階建を飛ぶ様に掛け上がる。
 戦っている未来の後輩の身を案じながら。


 ●
 コンコン。
 鍵のかかった職員室の扉を、相手が怯えないように丁寧にノックした。

「撃退士…です。助けに来ました」

 鴉守 凛(ja5462)がそう言った直後、ガチャンと勢い良く鍵が開き扉が開かれる。
 凛と古代は一旦職員室内へ入り、状況を確認する事にした。

「全員ここに居ますので、被害者は出て居ません。それが救いです」
 教員の女性は撃退士の登場に安堵したのだろう、床に座り込み伝えた。
 こういう状況の時、古代の安心感は非常に大きい。
 出来る大人の男、といった感じである。
 そんな古代の隣、凛に少女が一人駆け寄る。

「あの…!お願いします!美月ちゃんを…!助けてあげてください!」
 ぎゅっと凛の手を握って涙を零して懇願する。
「これだけ心配してくれる友がいる……。美月さんは幸せ者ですねえ…」
 ほんの少し表情を曇らせ、凛は少女の頭を撫でた。

「心配ねぇさ。そっちは仲間が既に向かってる。さて、こっちも一仕事するか。いこうか鴉守さん」
 ニィっと少女に笑い掛け、凛と共に職員室の外へ。いざ、戦場へ。


 ●
 職員室を出てすぐの廊下、狼がもう目の前まで迫っていた。
 ガラスを割った事により移動して来たようだ。
 撃退士が気が付くとほぼ同じくして、狼も戦闘態勢を取り体制を低くする。

「鴉守さん前衛よろしく、俺良いのはガタイだけでな」

 軽口を叩きながらも凛への支援は怠らない。
 凛の腕に輝く紋様を刻み込み、抵抗力を上げると自分も狙撃の為距離を取り、銀鎖から愛銃を具現化し構える。
 一方の凛は先端に魔力流を発生させた斧槍を構え狼との距離を伺う。
 3m弱もある斧槍を持たれては、狼型の爪の攻撃は簡単に届きはしない。
 グルルと唸り声を上げながら体制を低くし、様子を窺う。

 狼側に攻撃手段がなくとも、撃退士側にはある。

 ざわざわと狼の周りから黒い髪が縦に高く出現したかと思うと、髪は狼に纏わりついたかと思うと、狼の体内へ入り込み自由を奪う。
 先手必勝、というやつだ。
 そのチャンスを逃す古代ではない。

「鴉守さん、すまんが少し屈むか首を下げてくれ」
 言われたとおり屈んだ凛の上を銃弾が通過し、狼型の体力を削ぐ。
 だが狼型もただ黙ってやられはしない。
 遠吠えを一つ行ったかと思うと、体制を立て直し凛に向けて左爪を振り下ろす。
 咄嗟に自身の周囲にワイヤーを張り巡らせ、爪の一撃の勢いを削いだ。

 ザシュっと、鈍い痛みが走ったものの、傷は深くはない。
 だが、よろりと凛は地に片膝をつく。

 麻痺の爪によって無力化された凛を飛び越して狼は古代へ攻撃を行い同様に無力化する。


――はずだった。


「残念、それは張っていたんだ――ジャックポット!……ってか」
 調子よさげに笑って、真っ赤に赤熱された銃身から、渾身の一撃を放つ。
 凛を飛び越すために跳躍していた狼にはそれを回避する術はない。

 さらに……

「私の抵抗力を甘く見ないで貰いたいですねえ。その為のコレですし…」
 先端に魔力を帯びた斧槍をくるりと回し、古代の一撃にタイミングを合わせて狼を下から貫く。
 正面からの赤金と下方からの痛烈な一撃をまともに食らった狼型ディアボロは、その後再び動くことはなかった。



 ●
 ブン!!
 大振りの一撃がトロル目掛けて振り下ろされる。
 折角の譲り受けた赤と青の双剣も、戦い方を知らない美月では猫に小判というものだ。
 額から零れ落ちる血をグイッと拭い、肩で息をしながら、それでも立ち向かう。
 友達を、みんなを守る為に。
 だが見上げると、トロルがニタァと笑いながら棍棒を振り上げていた。
 これは耐えられそうもない……。

 美月が半ば死を覚悟した時、一陣の風が吹き抜けた。


「――よく、頑張りましたわ」


 優しい声、そして激しい音が響いたかと思うと、目の前には長いブロンドの女性が微笑んでいた。
 戦っていた筈のトロルは、少し離れたところに居る。
 何が起きたのか判らずに、キョトンとしている美月の手を、そっとケイが取る。

「お疲れ様…一人でよく頑張ったわね。今まで持ちこたえてくれてありがとう。今軽く癒したけど、あれを倒した後でちゃんと治療するわ。だから、もう少しだけ待っててちょうだいな」
 優しく微笑んで光を美月に翳す。

「あの、他の人達は…!」
「大丈夫。仲間が今対応してくれてるわ。安心して」
 その言葉を聞いた美月は、ふっとその場に座り込んでしまった。
 余程緊張していたのだろう。

「後はわたくし達が。一気に参りますわよ!」
 体制を立て直したトロルをキッと鋭い目で睨み手に巻きつけた紋様布をキュッと締め直す。
 トロルが再び棍棒を振り上げた刹那、後ろから疾駆の音と共に叫び声が響く。

「緋伝戦術転用奥義『狛咆』!」

 トロルの背後、息を切らしながら走ってきた徒歩の渾身のスキルである。
 聖なる気が叫びに乗り、トロルを襲う。
 完全にみずほに気を取られていたトロルに対し、まさに効果的な一撃となった。

「傷なら全て俺が治す。故に恐れず攻めるが良い!」
 奇襲を見事に決めた徒歩は、自分の次の仕事は回復と、一歩後ろへ下がる。

「さすがです地領院様」

 徒歩とは対照的に神雷はダッシュの勢いそのまま無骨な双剣を引き抜き斬りかかる。
 攻撃力自体は高くはないが、双剣の真骨頂はその手数にある。
 斬撃を繰り返し、その傷へ炎焼を放ちダメージの底上げを行う。

 一方みずほとケイもこのチャンスはムダにしない。
 動くことのできないトロルの懐に入り込みブローを叩き込む。
 同時にケイの二丁拳銃が火を噴く。

 一方的に叩かれていたトロルだが、それでもまだ倒れることはないらしい。
 徒歩にやられた麻痺からも回復し、周囲を勢い良く薙ぎ払った。

 ガシャァァン!

 大きな音と共に白煙が舞い、教室の壁が崩れる。
 廊下の呪縛から解き放たれたトロルは、教室の机を薙ぎ倒しながら教室の中へ移動する。

「はーっはっはっはぁ!自由になれば俺達に勝てるでも思ったか!甘いわ!」

 一歩下がったところで徒歩が高笑いしている。
 ゴキゴキと肩をならし、棍棒をみずほに振り下ろす。

「…っ、さすがにパワーだけは大したものですわ。ですがその程度でわたくしをダウンさせることは無理ですわよ!」

 下がる訳にはいかない。
 勇敢に戦った美月が後ろにいる以上は。
 引き続きトロルは後ろに居た神雷目掛けて棍棒を振り下ろした。

 ガン!!
 神雷を捕らえたと思ったその一撃だが、棍棒は床にめり込んでいた。

「アカシックレコーダーの予測力、甘く見て頂いては困ります」
 先程の徒歩を真似るように言い、床にめり込んだ棍棒を踏み台にしてトロルの首めがけて斬込む。
 すんでのところで棍棒を離し、神雷から距離を置く。
 このやりとりの間、徒歩とケイみずほに駆け寄り回復を開始していた。

「この程度の傷、俺一人でもどうとでもなるが今は時間が惜しいのでな」
 赤い右目をキラリと光らせながらケイに不敵に微笑む。
「うん、そうね、今は時間が惜しいものね」
 さらりと徒歩を流し、一気にみずほを回復させる。
 クスっと笑いながら美月を見るみずほにつられて、美月もすこしはにかんだ。

「それでは、第二ラウンドと参りましょうか」

 再び紋様付をきつく締め直し、武器を失ったトロルを見据える。
 トロルは雄叫びを上げ、気合を入れると共に大振りで渾身の一撃を放とうとする。
 渾身の右ストレートだ。
 その攻撃にみずほも右ストレートで応戦する。
 拳と拳がぶつかり合い、ややあってぐぐっとみずほが押される。
 力勝負ではじめから勝てるとは思っていない。
 ダメージは覚悟の上。でもこの状態なら相手も回避はできない。
 ぐっと左の拳に力を込め、Damnation Blowをトロルの右脇腹に叩きこむ。
 回復力の高いトロルだが、この抉るような一撃は流石に堪える。

「っつ……今ですわ!!」

 右拳をやられ、顔をしかめながらも、トロルをスタン状態に追い込んだ。
 真後ろから、待ってましたとばかりに神雷が斬りかかる。
 ザザン!と十字に足の健を断つ。
 グラリと傾くトロルに徒歩の魔眼のルーンが襲う。
 生み出された不気味な瞳のような球体は、それ自体が攻撃力を持ちトロルの体力を削いでいく。
 ほぼ同時に二丁拳銃にアウルを注入したケイの一撃が放たれる。
 それぞれの弾丸はトロルの左右の肩を直撃し、腕が力なさ気にだらりと垂れた。

「最後ですわ」

 スタン状態で満身創痍なトロルに、みずほの渾身のExecutioner Blowが炸裂する。
 回復力の高いトロルといえど、これだけの攻撃では一溜まりもない。
 ズズーンと大きな体で机を押し潰し教室に倒れると、そのまま事切れた……。


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「は…はは…ハーハッハッハ」
 首だけの悪魔は、全ての状況を遠方で静観し、目を輝かせて笑った。

「赤と青の対の双剣。そして悪魔とのハーフ。君こそが彼女の娘……僕の姫様なんだね!あの時殺してしまわなくてよかった!」
 興奮気味に、悪魔は声を上げたと思うと、うっとりと悪魔は虚空を眺めた。

「でもまだ弱すぎる。これからも僕が鍛えて上げないとね♪」
 子供のような輝きをしていた目は、今は再びドブ川のような濁った色に戻っている。
 楽しそうな高笑いだけ残して、悪魔は空たかくへと消えていった。


 ●
 両ディアボロを討伐した後、美月と共に校舎内の確認に歩いていた。
 先に職員室に行くように促したが、この事態を招いたのは自分の責任だと、足手まといかもしれないけれど最後まで確認させて欲しいと、自身から願い出た。

「他の者は大丈夫だ、俺達は間に合ったぞ」
 狼討伐を成し遂げた古代と凛が、3階へ合流する。
「―よかったっ。ありがとうございました」
 安堵の溜息混じりに、ぎゅっと自分の手を握り、古代と凛にお礼を言う。
「その小さな体でよく頑張った」
 だれでも出来ることではない、胸を張っていい、そう付け加えて。

「あら、こっちも怪我しているのね」
 手の甲に傷があるのを見つけたケイは、ガチャリと拳銃に弾を込め美月に向ける。
 ビクッと体を強ばらせるが、非情にもその引き金はカチリと引かれ――。
「心配ないわ、回復弾よ。傷、消えたでしょ?」
 今日一番の笑顔で。お疲れ様の代わりに。
 でも心臓には悪いようで、美月の心臓はまだ少しバクバク言っていた。

「それでも、結局私は何も出来ませんでした」
 一階の狼の死骸の横を通り、美月は自信なさげに俯く。
「まあ…最初から此れなら…強くはなるのでは無いですかねえ」
 トロルの相手が出来ただけで十分ではないですか、と付け加え、凛は静かに呟いた。
 モヤモヤした感情を抑え、ただ自身の願いの為に凛はここにある。

「そうですよ、良く頑張りましたね。あなたのおかげで被害は最小限に食い止められましたよ」
 身長のそう変わらない神雷も、笑いながら美月を撫でる。

 そうこうしつつ一階を確認し終え、最後に職員室の扉を開ける。

「美月ちゃん!」
 直ぐに友人が美月に飛びついて泣き始めた。

「ごめん、心配かけて。皆さんが来てくれたから、私は大丈夫」
 友人は、美月を助けてくれてありがとうと、何度も礼を言った。

「当然の事をしたまでですわ。それでは皆さん、少ないですがお茶にいたしましょう」
 常備していた魔法瓶から、紅茶を注ぎ各自に渡す。
 神雷も持ち込んでいたクッキーをみんなに配り、ささやかながら祝勝会に。

「美月さん、あなたと学び舎で会えるのを楽しみにしておりますわ」
 にこり、と飛び切りの笑顔でみずほは紅茶を美月のカップに注ぐ。

「私も半分はあなたと同じ存在です。困った事があれば頼ってくださいね」
 続いて神雷がチョコクッキーを。

「半分は…?じゃあ神雷さんは…」
「はい。魔族です。でも学園ではそんなことは関係ありません。良い所です。学園は」
「はい。来月からよろしくお願いします」
 再び決意の篭った瞳で、美月は深く頷く。

「魔眼でなくとも視えるだろう、この瞬間こそ俺たち七人が守ったものだ」
 すっと、徒歩が横に来てそう呟いた。
「魔眼…??えっと、私達七人、ですか…?」
 前半はよく判らなかったが、後半は美月にも解った。
 自分を仲間と数えてくれていた事が、素直に嬉しかった。
「当然だ。神沼さんがトロルの足止めをしていなければ、今のこの光景は無かった」
 俺にはその別な未来さえ見えていた。と言わんばかりに。
 自分が評価されたようで、気恥ずかしそうに美月ははにかんだ。
「助けた分は貸しだ、強くなって返すがいい。俺達か、今の神沼さんのような誰かにな」
 フッと、口角を上げてそれだけ言うと徒歩は白衣をはためかせ、美月から離れた。
 必ず、強くなってお返しします。
 仲間か、まだ力の及ばない誰かに。
 その為の生活が、久遠ヶ原で始まろうとしていた――。

 了



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 勇気を示す背中・長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)
重体: −
面白かった!:5人

cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
遥かな高みを目指す者・
地領院 徒歩(ja0689)

大学部4年7組 男 アストラルヴァンガード
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB