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マスター:むらさきぐりこ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/12


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 ある朝、#PC名#が不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が#動物#に変わってしまっているのに気がついた。



「初夢だよ」
「開幕メタ台詞ぶっぱはやめてもらおうか」
 いつもの教室。細かいディテールがぼやけてはいるが、多分どこかのいつもの教室。
 その教卓の上に、金色の犬……というか狐……と、すらっとした茶色の猫が鎮座ましましていた。
「君たちはこれが明晰夢と認識してもいいしそうでなくてもいい」
「ゲームブック風に言うんじゃあない」
「冒頭が夢小説風についてのツッコミはないのかな?」
「初夢だからとか言わせねえよ?」
 あとなんかコントしてた。狐がボケ、猫がツッコミ。ちなみに明晰夢とは『これが夢であると自覚している夢』のことである。

 あなたたちは猫の方に覚えがある。声や仕草は見慣れたものだし、あるいは『夢なのでなぜか分かる』。教師、茅原未唯のそれだ。
 狐の方については覚えがない。『夢なのでなぜか分かる』にしても、なんというか『まだあなたたちには開示されていない情報です』みたいな規制がかかる。

「……いや、当初の予定では既に身バレしているはずだったんだよ」
 狐は嘆息した。
「『卒業生』『いつもの先生の親友』属性を持っているから、『こういう未来もありました』というネタの予定だったんだけどね。まさかこうもPL情報止まりになるとは」
「楽屋裏ノリはそこまでにしてもらおうか」
 予定は予定通りにならないから予定と言うのです(目逸らし)。
「そういうわけなので、私のことは暫定的に『かよちん』と呼んでくれたまえ」
「お前それでいいのか」
「白米狐ということで一つ」
「……え、そこ理解した上でそのあだ名受け入れるの?」
 紅白出場おめでとうございます。



「さて本題」
 かよちんはこんこんと咳払いをした。
「初夢だからこそ暴れようというコンセプトで今年はお送りするよ」
「いや、2015年(ことし)デビューだからな私たち?」
 未唯はツッコミに徹するらしかった。なるほどこういう一面もあったのかとあなたたちは納得してもいいししなくてもいい。
「今回の現象については、都合のいいことに既に原因がハッキリしている」
「都合いいとか言うな。あと描写をきちんとやれ」
「私達を含め、みんなこうして動物化してしまっているパラダイスの原因だよ」
「パラダイスちゃう、異変や」

 さて、前提条件をここにきてようやく呈示しよう。

『あなたたちは、あなた自身が指定した犬あるいは猫の姿になっている』
『元の特徴を少し残した動物状態である』
『まかり間違ってもケモミミ尻尾ではないのでそこを間違えないで欲しい』
『君たちはこれを大異変と捉えてもいいし、有頂天になってもよいし、どうでもいいと思ってもよい』

「犬猫に限定した辺りは妥協したし、間を取らなかっただけ自重したよね」
「そんなカミングアウトは誰も聞いてない。話を進めろ」
「で、この原因は『ロクバ』と呼ばれる天魔だ。大変遺憾ながらもそれをころころすればこの夢からウェイクアップできる」
「口調雑だなあ……」
「失敗すると永遠に醒めない夢の中に囚われてロストだよ」
「こんな与太話でそんな重いペナルティあってたまるか」

 ※あくまで初夢シナリオです。



 ロクバについての情報をあなたたちは聞き出すことにした。
「暴露の天魔、ということらしいね。だからロクバ、と。雑だよね」
「勢力についてははっきりしていない……というより、『流動的』というのが正しいな。天使の眷属でもあり、悪魔の眷属でもある。そういう性質らしい」
 曰く、『カオスレートが時間経過と共に変動する』性質らしい。天使のようで悪魔でもある。何者でもあり何者でもないと言えば格好いいが、要するにどっちつかずのコウモリ野郎なのである。
「初夢だからね。世界設定的には絶対に無理なことをやろう」
「もしかして面白いと思ってそういう(メタ)発言してる?」
 未唯の鋭い声と視線を、かよちんは柳に風と受け流した。
「あ、そこの扉開けたらもうバトルだから、ブリーフィングはここでしっかりとやっていってね」
「色んな過程がスッ飛ばされてるなあ……」
 あなたたちが自分の身体を確かめると、いつもの武器や防具がそこにあった。どういう理屈かは分からないが、犬猫の身体でも使いやすいようにアジャストされているようだった。
 スキルも問題なく発動できるだろう。
 ――要するに見た目が変わっただけで、やることはいつもと変わらない。
「血みどろわんにゃん大戦争をやろうっていうコンセプトだ。ほんわかと血飛沫を飛ばしてくれればいい」
「つくづくお前は敵ポジションで良かったなあと今噛みしめてる」
「来年から本気出すよ」
 そう言うとかよちんはくわあとあくびをして、丸まって眠ってしまった。説明は終わったとでも言いたげである。
 未唯ははあ、と溜息を吐く。
「……まあ、色々思うところはあるかもしれないが。やることはいつもの戦闘だ。各人、気をつけて挑んでくれ」
 そして最後くらいは取り繕って、いつもの依頼のような文句で締めるのであった。


リプレイ本文


「私がもふもふになっちゃった!」
 銀色がかった長毛種の猫――種類としてはノルウェージャンフォレストキャットの姿になっていることに気づいて、シェリー・アルマス(jc1667)は上機嫌そうに笑った。
 もふもふ大好きシェリーとしては文字通り夢心地の状況である。
「これは楽しい感じですね♪」
 教室だというのに何故か鏡が据え付けてある。それを覗いて、木嶋香里(jb7748)もこれまた上機嫌だった。
 短毛種――アビシニアンが近いのだろう。無意識にポーズを取ると、猫特有のすらっとした艶めかしさがある。
「うにゃあん」
 それを見て御剣 正宗(jc1380)は試しにポーズを取ってみた。そして満足した。
 短足、それ故の愛嬌――マンチカン。愛らしさの極致とされる品種。それはいっそ暴力的ですらあって、正宗の美意識に十分満足するものであった。

「どうせなら可愛い小型犬の方が……いや、いや」
 剣の素振りをしながら、遠石 一千風(jb3845)は独りごちた。今の彼女は精悍な顔つきの大型犬、シベリアンハスキーである。
 武器を扱うには、やはり口で咥えるのが一番安定するようだった。もっとも二本足で立てたり、尻尾で武器を持てたりする辺りは、色々と常識がぶっ壊れているらしい。
「玄冬……じゃないな。夢だ、夢」
 鏡を覗きながら、礼野 智美(ja3600)は考察を早々に放棄した。そこには飼い猫そっくりの黒猫がいる。
 それがどうやら自分の今の姿らしいが、身体の動かし方や一千風の様子を見れば、いつも通りで大丈夫だろうと結論づける。
「――――――」
 そしてひたすら遠くを見つめる厳ついドーベルマン、ファーフナー(jb7826)もまた思考を放棄していた。
 ただし彼だけ夢という自覚がない。冗談への適正の問題だろうか。ともあれ指示された『敵を倒す』ことに意識を集中させて、現状を深く考えないようにしていた。

 一通りの状況確認を済ませると、ちりりん、という音が聞こえた気がした。
「クエストに出発するかい?」
「いかにもな演出やめろや」
「わーい、もふもふー」
 かよちんが言い、未唯が突っ込み、シェリーがかよちんをモフる。かよちんは一切動じず、手元のボタンをぽちっと押した。
 ぺーぷー、という音が聞こえた気がした。
「だから安易なパロディはやめろと」
 未唯のツッコミもそこそこに、教室のドアが開け放たれる。次の瞬間、がらりと景色が入れ替わった。



 そこはなんだかよく分からない空間だった。
 それ以上の表現が出来ない。おもちゃ箱をひっくり返したような、適当に思いついた言葉を並べたような、データをミキサーにかけてぶちまけたような、都会と自然が融和して、天界と冥魔界が混線する。
 要するに、夢の中だった。

「よく来たな勇者達」
 その中央――なんとなく中央と認識しているだけ――に、狸のような姿をした何かがいた。
「我が名はロクバ。この世界を統べる魔王である」
 ロクバと名乗ったそれは、みるみるうちに姿を犬のようなそれに変化させ、
「我が配下に下れば世界の半分をやr

 ぶっすり

 黒き獣の明日を狩られたッ!」

 まさしく寝言を宣おうとした瞬間、ファーフナーの背負った4メートル超の槍が綺麗に脳天を貫通した。そりゃあもう綺麗にブッ刺さった。ドーベルマンの殺る気満々の瞳は、コメディ空間とかお約束とかガン無視であった。
「仕留めるッ!」
 そしてその首を黒猫さんが日本刀で刎ねにかかる。どこぞの首狩り兎のように智美が跳ねて、
「タイム、タイムタイム!」
 ロクバは慌てて槍から頭を引き抜いて(引き抜いて!)避けた。わんこの頭からぶっしゅーと血が飛び出る。わぁおスプラッタ。
「折角の初夢を全速力で終わらせないで!」
「何を言う。天魔相手に手を抜く理由はないぞ」
 シベリアンハスキーの鋭い視線がロクバを射貫き、一千風の身体をアウルの殻が包み込む。
「やだイケメン……」
「その反応はどうなのにゃ……」
 キュンとしたロクバに、正宗マンチカンはドン引いた。そして思わぬ自分の語尾に思わず口を押さえる。
「もふ、もふもふ……」
 そしてもふもふな状況に、正気を保つのが大変な長毛にゃんこシェリーさんであった。

「〜〜〜♪」
 その隣で、香里は黙々と爪を研いでいた。



「さーて今回のトークテーマはー?」
 ロクバの掛け声と共に、どこかで聞いたような音楽とコールが聞こえてくる。
「何が出るかな♪ 何が出るかな♪」
 そしてどこからからサイコロが転がってきた。サイコロ……サイコロである。ただほとんど球体のような形の、
「なんで百面ダイスなのにゃ!?」
 ダイスはごろごろと周囲を回り、正宗にゃんが何故かネコ語になり、

「恥ずかしい話! 略して!」
 ごろごろごろ。
「サイコロ止まってないぞ」
 呆れたような智美にゃんのツッコミはスルーされ、

「「「パンはず〜!」」」
 何故かエコーし、
「パンはどこから来たんです?」
 香里にゃんのツッコミもこれまたスルーされた。

「お前らにふさわしい話題(ソウル)は決まった!」
 ロクバは頭から血をだらだら流しながら、猫の姿で――いつの間にか姿が変わっている――マイクパフォーマンスを決める。そしてビシィと全員を指さして、
「さあ、お前の恥を数えろ!」
 なんて寝言(キメゼリフ)を叫んだ。

「……もうどこからツッコんでいいにゃら」
 ごろごろ。するとどこからか丁度いい野球のボールが転がってきて、正宗はうっかりそっちに気を取られる。
 ごろごろにゃーん。ガード不能連携の如きキュートパワーにより、一瞬にして緊張感がフライアウェイ。
「恥ずかしい話って言われても……」
 うっかり毒気が抜けてしまい、一千風わんは考え込んでしまう。
「……寝るときは裸、とかそういう話か?」
「え、ちょ!?」
 まさかのファーフナーわんが初手でぶっこんだ。これもイニシアチブの影響だというのか。(※関係ありません)
「あー、裸、裸……。毎朝裸でスタイルチェックを……。最近甘い物を食べるから体重が気にな――ッ!? 何を言わせる!?」
 さらに一千風まで雪崩れた。もう止まらない。被害は拡大する。
「最近、太ったのかまたブラジャーがキツくなっちゃいまして……」
 香里のカミングアウトについては微妙に空気が軋んだ気もしたが、多分気のせいです。
「香里さん、その節は! その節は! 臨海学校で墜落して溺れたり、助けてくれた人に顔面パンチ決めちゃったり!」
 シェリーにゃんが間近な過去の失敗に悶える横で、
「……恋人がな、幼馴染みなんだけど。小学校に上がるまで女の子だと思って……だって俺よりよっぽど女の子っぽかったんですもん!」
 智美の黒歴史に飛び火した。

 ごろごろ。恥に悶絶するわんこにゃんこの群れがそこにあった。
 キィーンというハウリングと共に、ロクバは高らかに宣言した。

「次にお前たちは、『何を言わせるんだァーッ!』と言う!」

「え、あ、はい?」
「うん、まあ……そうだな。そう言いたいな」
「まさか、今のがお前の能力か」

「ノリ悪ゥーい!」
 どんがらがっしゃーん。
 古風なギャグマンガのようにブッ倒れた猫ロクバは、これまた古風に血液の噴水を上げた。



 ドゴォ。
「タコス!」
 仕切り直すように、ファーフナーのドーベルマンの体躯を活かした(?)槍の一撃がロクバの腹部とふにゃけた空気を打ち払った。しかし刃先が当たらなかったので有効打とは言い難い。
 ビュン、スカーン。
「デコ弓矢!」
 フォローするように、一瞬で距離を取った智美の矢がロクバの頭部に炸裂する。猫の身体で器用に弓を引く光景は、人によって評価が分かれそうではあった。
「おふざけはここまでですよ!」
「痛い痛い痛い! 色んな意味で痛いやーつ!」
 香里が俊敏な動きでロクバを取り押さえると、研ぎ澄まされた爪を何度も乱舞させる。その様はまさにキャットファイト。ぴゅーぴゅーとロクバはまるで血液の噴水だ。
 そして示し合わせたかのように、正宗が上から降ってくる。天使と悪魔の翼が生えたマンチカンは、今までのサボりを帳消しにするような勢いで鎌を振るう。香里は見事なタイミングで飛び退いた。
「ちょっ……いや、ホント、駄目なやつ……」
 今まで軽妙だったロクバの悲鳴に悲痛さが混じった。
「も、もう終わり……これ以上、は、勘弁、」
 言いさしたところに、極めて低い位置から滑り込んでくる直剣が見えた。
「もう、十分遊んだだろう?」
 一千風はくるりと身体を捻って、その膂力を咥えた剣に乗せた。

 なすすべも無く薙ぎ払われたロクバは、目に見えない壁のようなものに叩き付けられて、落ちた。



「なんていかにもな演出で終わるとでも思ったかァーッ!」
 ぐったりしたと思ったのも束の間、ロクバは再び立ち上がった。その姿が一瞬ぼやけたかと思うと、再び犬の姿に、
「そうか」
「あひぃん!」
 二度あることは三度ある。ファーフナーが先行して、その槍が容赦なくロクバの目を貫いた。
「ふぁ、ファンシーさはいずこへ……」
「いや、血みどろファイトしてこいって言われたし」
「おぶばっ」
 智美の矢が胸元を貫く。ロクバは喀血した。ギャグでもありがちな表現だが、これはガチなようにも見えた。

「くっ……だ、だが! 奥の手というのは最後に切るものだ!」
 再び流れ出すどこかで聞いたような音楽とコール。しかし今度はダイスが出てこない。
「何が出るかなーッ!」
 代わりにスポットライトが六人を照らす。いかにも誰かを抽選していますといった風のドラムロールが流れ出す。
「そう、これは抽選ッ! このロクバの最大の特徴にして最大の奥義ッ! 自分の技で死ぬがよ、」

「えーい! 覚え立ての新技ッ!」
 がいーん。
 シェリーの振り回した盾がロクバをぶん殴り、まるで空から振ってくる金だらいのような音を立てた。
 そして止まる演出、発動しない能力。いかにも『あなたのターン終わりましたよ』感溢れるシーンエフェクト。

「……はい?」
 ぽかんとした後、ロクバわんはだらだらと脂汗をかいた。
 その眼前にはシェリーにゃん。あたかも『ドドドドド』と書き文字を背負っているように見えたという。
「これが『シールドバッシュ』……いわゆるひとつのカウンタースキルだよ!」
「こ、」
 そしてすぐさま飛びかかってくる撃退士わんにゃんズ。

 普通に理由のある暴力がロクバを襲う!
「こんなの、あんまりだァーーーーッッッ!!!」
 どかーん、とキノコ雲。
 どうせ夢オチなら爆発オチでもいいじゃない。そんな安直なアレコレ。
 そして、曖昧な世界はボロボロと崩壊し始めた。



 ちなみにだが。
 『誰一人として使われると怖い技を活性化していなかった』という事実を、最後に述べておこう。
 対策とは、かくも無情なものである。



 ――朝日が昇る。意識が覚醒する。
 そこにあるのはいつもの自分の身体で、それに何ら疑問を覚えることもない。
 何やら意味不明な夢を見ていた気もするが、夢というものは得てして不条理だ。覚えておくだけ不毛というものである。
 こうして、特に脈絡も伏線も意味もない初夢は、誰の記憶にも残らないまま消えていく。

 そうしてあなたたちは日常へと戻っていく。
 2015年が終わり、新しい年が始まる。
 戦乱の日々が終わることを信じて、撃退士は一歩を踏み出していく。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
『AT序章』MVP・
御剣 正宗(jc1380)

卒業 男 ルインズブレイド
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード