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マスター:守崎 志野
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/01


みんなの思い出



オープニング


 上から発表するだけでなく、関わった者が自ら説明する必要があるのではないか。その提案を出したのは誰だったのか。
 とにかく詩歌の掛け声でその案は速やかに実行に移された。場所は施設の食堂、学校、役場、地元新聞社の関係者数名に加え、町の広報で募った希望者を招く。希望者なんているのかという声もあったが、結果的に三十人近い数になった。
 そうなると準備にもそれなりに手間がかかる。施設の職員達にはここに多人数を迎えた経験はない。その分、泉堂の秘書が次々と指示をし、数人の作業員に忙しく場を整えさせていた。
「あの、本当にここでやるんでしょうか?」
 遠慮がちに訪ねる女性職員に、秘書は穏やかだがきっぱりとした口調で答えた。
「ご心配はお察ししますが、周囲からの誤解を解くのには必要な事なのです」
 撃退士の方々も閉鎖的過ぎるのは問題だとの意見でしたしと付け加えると、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫です。何があっても子供達に手出しはさせません。大事な、未来への種子なのですもの」


 子供達が寝起きする階は静かだった。準備を手伝える子は手伝いに行き、残っているのは部屋から出られない子供達だ。そんな中、廊下には坂本 杏里 (jz0292)と江島諭の姿があった。
「つまり、あんたはここを出て行くって事?」
 杏里が問うと江島諭はどこか晴れ晴れした顔で頷いた。五人程度が家庭と同様の環境で暮らすファミリーホームに移る事を泉堂グループから提案され、諭はそれに乗ることにしたという。
 衣食住、学費は勿論、子供にしては額の大きいお小遣いまで出るというのだから、確かに断る理由などない話に見える。
「でも、何だか話が上手すぎると思うんだけど」
「当然、タダじゃないよ。それなりの成績とか特技とかを磨くのが条件だし、やる気がないって思われたら放り出されるけど」
「ちょっと、それじゃ前と同じじゃないの」
 かつて、杏里と同じ町に家族と住んでいた諭は優秀な子供であることを当然の義務として課されていた。人より優秀で当たり前、成果を上げられないのはやる気がないから、怠けているから。向上心のない人間など生きていても仕方がない、おまえは落伍者になりたいのか。そんな言葉を絶えず浴びせられ、躾と称して暴力を受け、その挙げ句にサーバントが作り出した幻に縋った。
「違うよ。あいつらは『優秀な子供の親』でいることで自分が優秀だって誇示したかっただけだもの」
 結局は中身のない見栄であり、無力な自分はそれに振り回された。
 けれど、泉堂グループは見栄よりも将来の人材を必要としている。何より、実の子供だからというだけで一方的に自分達の都合を押しつけてきた両親とは違い、選ぶのは諭なのだ。
「良くわかったんだ。力がないってのがどういうことなのか」
 力がある者は無い者が従うのを当然とする。従わない者は潰すか無視するかのどちらかだ。両親や町の人間、そして撃退士が自分達を見る目は天魔が一般人を見る目と同じではないか。
「違うよ。そうじゃない人だって……」
「今の杏里は向こう側だから。前なら杏里はこう言ったと思うよ。『大人は自分の都合だけが世界なんだ』って」
 その言葉を最後に諭は向こうを手伝うからと、杏里に背を向けドアの向こうに消えた。


「以前の私なら……」
 杏里は狼少年の話を思い返していた。
 村人が少年の嘘に容易く騙されたのは、元々いつ狼が出てもおかしくない状況があったからだ。そして、少年の言葉が嘘であってもその状況が変わるわけではない。
 だが、村人は少年に騙された怒りに目が眩んでその事実が見えなくなり、その結果貴重な共有財産を失った。
「目前の事に目が眩んだ……か」
 そもそもこの件の起こりは何だった?
 施設が天魔と取引し、子供達を売り渡しているという噂がある。そんな話だった。
「でも、そっちは先輩達がシロって証明した」
 施設の職員も子供達もそんなことには関わっていない。ただ、十年前の方に関してはひたすらクロに近いグレーだが。
「それに、どうして急に噂が広がったんだろ?」
 これも、随分調べたのに煽動者は見つからず曖昧なままだ。
「煽動せずに人を動かすとしたら……」
 自分なら……以前の自分なら、どうしただろう?
「とりあえず、ネットを使うけど」
 目の前の画面に何の変哲もない掲示板が現れる。天魔や犯罪などに纏わる噂を投稿するサイトだ。
「何、これ……」
 大げさな表現が多い中、時折差し挟まれるその投稿はどちらかというと地味で、知らない者が見ても気にも止めずに流してしまうだろう。だが、この町の、それも後ろ暗い事に関わった者が目にすれば違った意味に見える。
 しかし、何の為に?
「まさか……」


「こっちはこれでいいんだけど」
 説明会を控え、ホテルの窓から町を見ていた泉堂詩歌は背後を振り返った。
 十年前の事件とその隠蔽が追求されることで、いわばよそ者の泉堂グループがここの再開発に進出する事にいい顔をしなかった有力者達は失脚するか、少なくとも影響は小さくなるだろう。表面上は天魔被害者ケアに努めた副産物である事も有利に働くはずだ。義父もほくそ笑んでいるだろう。
「そっちはどうなの?せっかくのゲートを放棄する事になるんじゃない?」
 後で文句を言われても困るという詩歌に悪魔は頷いた。
「畑でも連作が過ぎれば土地が痩せます。先々良い収穫を得る為に切り替えが必要な時期に来ているのですよ。放棄するのではなく、肥やしにするのです」
 楚々とした微笑みを見せた悪魔は、ふと話題を変えた。
「そういえば、以前伺ったパンドラの箱ですけれど、その後がなかなか面白いですわね」
 災厄が放たれた結果、人は神を信じなくなった。怒った神は大洪水を起こして人間を一掃したが、一組の男女が箱船に乗って生き残る。やがて神を信じない人間が再び地に満ちて神は地上を去った。
「裁かれたのは果たして人だったのでしょうか?それとも神だったのでしょうか?」
 その目は、詩歌ではない誰かを見ているようだった。


 説明会当日の朝、招かれた住民が三々五々と集まってくる。
 それとは別に施設がある山に上っていくグループが幾つかあった。ある者は険しい表情で黙々と、ある者は好奇心に目を光らせて。
 例のサイトには前日から当日に掛けてこんな意味の書き込みがあった。
『全ての証拠は、山に隠されている』

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リプレイ本文


「表だって非難できなくなれば、裏で陰口をたたくのは常道です」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)の視線が画面を追っていく。そこには施設と天魔が癒着しているような書き込みがされていた。事情を知っている撃退士達から見ればつまらない憶測や悪質な中傷だが、知らない者や後ろめたい事のある者が見たらどうだろうか。
「もう、かなりの人間が山に入り込んでるみたいだね」
 ルティス・バルト(jb7567)のスマホには『証拠』の一言に釣られた者の呟きが流れていく。
「それにしても、このタイミングの良さは何だろう……」
 本当にそんなものがあるなら、町中でも取り沙汰されておかしくはない。だが、佐藤 としお(ja2489)が繁華街で不穏な噂を聞いた時にもそんな話は出てこなかった。まるで、今日の説明会を待っていたかのようだ。
「表に出てきた情報からすれば、施設とそこに肩入れする泉堂グループが気にいらない連中の仕業と言うのが妥当なところですが」
 証拠というのが気になりますねというエイルズレトラの言葉に、居合わせた撃退士達は頷いた。何も出なければただの傍迷惑な騒ぎだ。此方としてはその程度であってくれた方が有り難いが、それにしてはよしおが言ったようにタイミングが良すぎる。
「証拠って……ゲートじゃないかな?」
 天羽 伊都(jb2199)が言った言葉に、全員が思わず手を止める。
「確かに、一理ありますね」
 鈴代 征治(ja1305)の声に苦いものが混じる。そもそも、この施設は天魔と取引をしているという噂で貶められようとし、その後の調査でそれが否定された。だが、ここに来て施設の近くでゲートが見つかり、被害者が出たとしたら?
 説明会が不調に終わるどころか、今までやってきたことがひっくり返る可能性もある。
「十年前からあった可能性も高いよね?」
 確証はないが、見方によっては一連の事柄も猜疑心や不安を煽ることで魂なり感情なりを高めておいてゲートに吸収する為だった、ともとれる。
 しかし、天魔の仕業なら撃退士を呼ぶのを黙って見ているだろうか?それに、町の人間の態度を見ていると全部を天魔の仕業と言うのにも抵抗がある。
 時計を見ると、既に説明会が始まるまであまり時間は無い。
「手分けするしかありませんね」


「な〜んか、胡散臭いわね。」
 山道を急ぎながら、ルティスに声を掛けられて助っ人に駆けつけた松永 聖(ja4988)が顔をしかめた。やがて、グループの一つが見えてくる。複数のグループが合流しているらしく、十人以上いる。
「行方不明になってる顔とかは見当たらないようだね」
 脇に回り、木陰からルティスがグループの顔ぶれを確かめる。もし証拠というのがゲートなら、ディアボロとかが居ても不思議は無い。だとしたら素になっているのは行方不明者である可能性が高い。このグループにはいないように見えるし、流れてくる話を聞く限りではネットの煽りに釣られて面白半分に集
まり、先を行くグループの後を追っているだけのようだが、さてどうしたものか。
「まぁ、良いわ。きっと悪事は明るみに出るハズよ! 」
 言い放って聖はグループの前に出た。
「ちょっとあなた達!」
 自分は不穏な噂を聞きつけて調べに来た撃退士と名乗り、
「状況がはっきりするまで山を下りてて欲しいのよ。何かあってからじゃ遅いの」
 変に施設と関連づけられる事を避ける為に、施設とは無関係の撃退士を装って警告する。この町の人間に顔を知られていない聖にしか出来ないことだ。
 ただ、複数の人間がいる分なのか反応はいまいち鈍い。驚く者や本気にしない者の声が上がり、すぐに下山しそうにない。聖は隠れているルティスにそろそろいいわねと目配せすると、すっと息を吸い込んだ。
 次の瞬間、強烈な叫びが空気ごとグループを震わせる。聖の咆哮を浴びたグループは誰かが情けない声を上げたのを皮切りに元来た道を駆け戻っていく。
「どうやら、ここには一般人しかいなかったみたいだね」
 おかしな動きも無かったしと言いながら、物陰からルティスが姿を現す。
「だとすると、としおさんが接触している先行グループが怪しいよね、やっぱり」
 二人は逃げ出した人々とは逆の方向に足を向けた。


 ねぇ、と稲葉 奈津(jb5860)は施設の周辺を見回る杏里に声を掛けた。
「ゆっくり話せた?」
 諭の事だ。奈津としては結構気になっていたのだが。
「まぁ、それなりに、ですね」
「ちょっとLOVE〜な話とかあったり?」
 軽口を叩いた奈津を、杏里は細めた横目で見る。帰れば?とでも言いたそうな顔だ。
「……悪かったわよ……それで、助けにはなれたのかな?」
 奈津は真顔になって杏里に尋ねた。
「わからないけど。諭は諭の道を見つけたんだと思います」
 道って?と聞くと、杏里は淡々と諭から聞いたことを奈津に伝えた。
「それって、何て言うか……」
 奈津は言い淀んだ。上手く言えないが、何か『違う』感じがする。
「説明会の前に諭と話したいの。出来るかな?」


 先頭のグループは下山したグループよりもどこか殺気立った印象があった。
町の人間の顔もあり、中には先日繁華にいたとしおの顔を覚えている者もいた。それをむしろこれ幸いとばかりにとしおはグループの人間に話しかけていく。
「やっぱ何事も一番が良いじゃない?」
 軽口を叩いて呟きでも投稿するかのような体でスマホに書き込みをしたりビデオカメラを回したりしつつ、周囲に視線を巡らす。
 そして、一人の中年男性の顔にその視線を止めた。
「あなた、捜索願が出てますよね?」
 ルティスと聖が追いついてきたのを見て、としおは徐にその中年男性に声を掛けた。
「こんなところで何をしているんですか?」
 相手はまるで電池の切れた玩具のように無表情で答えない。男性の後ろに立ったルティスがさりげなく異界認識を使い、としおに頷いて見せる。
「あなたは天魔ですね!」
 天魔、という一言に周囲が固まった瞬間を狙って再び聖の咆哮が響く。転がるようにグループの人間が逃げていく中、動かない者が四人居た。


「杏里に聞いたんだけど、君はここを出て行くんだって?」
 奈津の問いに、諭はあっさりと頷いた。
「それでいいの?施設はこれで助かったの?貴方は護りたいこの場所と此処にいる子達を誰かに任せるの?」
「少なくとも当面は助かる筈だよ。これだけ話が大きくなれば、泉堂の方は簡単にここを見捨てる訳にはいかないもの」
 声は子供のそれだが、内容は冷ややかに計算を巡らすものだ。
「本当にそれだけでいいの?幾らお金に困らなくなって、保護して貰えても……人間って、それだけじゃ無いと思う」
 泉堂グループのやることは間違ってはいないが、相手のことを思う力に欠けていると奈津は思う。
「そういう力が君にあるって私は思うんだけど。その力を施設を護る為に貸してあげない?大人達を助けてあげてくれないかな?」
 しかし、諭の答えは。
「想いの力なんて、現実の力があって初めて意味があるんだよ。だから今の僕には何の力も無い。でも」
 権力や財力といった力を努力次第で手に入れられる道が目の前に示されたとしたら?
「誰がそんなことを?」
 力が無ければ意味は無い。確かにそれにも一理ある。けれど、それは人として、子供に示すべきではない道だと思う。
「泉堂の、秘書の人だよ」


 木々に紛れ、としお達が接触したグループを追い抜いて先行していくのはエイルズレトラと伊都だった。
「やっぱり行方不明者が何食わぬ顔で混じってましたねぇ」
「ますます怪しいよね」
 そんなグループの監視をとしお一人に任せる形になったことに懸念がないでも無いが、途中で事を起こす気ならとっくにやっているだろう。人であれ天魔であれ、あの中に不審者が紛れ込んでいたとしても目的地に着くまでは動かないだろうし、すぐにルティスや聖が追いつくだろうと踏んで、二人はグループが目指している方向の捜索に当たった。
「おや、これは。昔の防空壕と言うやつでしょうか?」
 山の側面に隠れるようにして存在した穴をエイルズレトラが覗き込む。さほど奥行きの深いものではない。入ってみると、地面に何やら鉄板のようなものがある。上げてみると、そこからは薄暗い通路が続いていた。奥から仄かな光が差し、人が二人並んで通れる程度の幅はある。
「これが施設にまつわる都市伝説の原因でしょうかねぇ?」
「多分ね。でも、こんなところじゃ、ゲートがあってもちょっと気が付かないかもね」
 軽口を叩いているようだが、エイルズレトラも伊都も緊張はしている。本当にゲートならば強力な天魔が居る可能性が高いし、結界内では此方の能力は低下する。ゲートがあるかどうかさえ不確かな現状では何があってもおかしくはないのだ。
 やがて通路が途切れた時、二人は不意に身体が重くなったように感じた。そして、足下には倒れた人間の身体。
「これは……!?」
 何人もの人間が、二人の足下に折り重なるようにして倒れている。どこから来るのかわからない光に照らされた、歪な霧の空間。
「まだ生きてるよ!」
 すぐにその人達を助け出そうとする伊都を制してエイルズレトラは辺りをうかがう。しかし、そこにある筈の天魔の気配はどこからもしなかった。


 空気はどこか重苦しいものの、説明会は滞りなく進んでいるように見えた。
山中に捜索に行った仲間が戻るまで奈津と杏里は施設の中と周囲を警備しており、今この場にいる撃退士は征治だけだ。会場となっている食堂に怪しい動きをする者がいないかどうか目を光らせながら、征治は自分が説明する内容を反芻していた。
『現在調査中の問題もあるが、施設と施設に関わる人間に不審な点はなく、 不穏な噂や都市伝説により苦しい状況にある。周辺住民の理解なくしての和合は難しく、施設自体の排他的な体勢も改善傾向にある』
それは、今征治に示せる事実であり正しい説明だと思っている。反面、この場の雰囲気や今までの町の様子から、こんなありふれた説明では素通りされてしまうのではという思いが頭の隅をよぎる。
「落ち着きませんか?」
 慎ましく涼やかな声と共に黒髪を結い上げたスーツ姿の女性が征治にペットボトルを差し出してきた。その姿からして、詩歌についてきた泉堂の秘書だろう。礼を言ってペットボトルを受け取ろうとした征治の手がふと止まる。
『泉堂の、秘書の人』
 奈津が諭から聞いたという言葉が脳裏をかすめる。
 別におかしいことはない。泉堂の方針なら、秘書が代行して伝えることだってあるだろう。しかし、もしも彼女が今回の件を動かしている存在だったら?
 もしそうならタイミングが良すぎるのも頷ける。あらゆる事を知り得る立場に有り、しかもその存在は詩歌や泉堂の影に隠れて目立たない。人間にせよ天魔にせよ、暗躍するならこれほど都合のいい立場があるだろうか?
 まさかねと思いながら、念の為に中立者を発動させて彼女を見る。カオスレートは大きくマイナスに傾く。
 咄嗟に手首のチェーンからスタンガンを取り出そうとして……その手を止めた。
 目の前の女性は明らかに高い知性を持っている。ヴァニタスか、それどころか悪魔そのものなのではないか?だとしたら、そう簡単に無力化できると思えない。
 どうする?彼女の正体をここで暴くか?
 それともここはやり過ごすか?
 その葛藤を見抜いたように、女性は穏やかに微笑んだ。
「ご心配なく。此方から手を出すつもりはありませんわ」
 周囲を見ると、誰もそれぞれ自分の事に手一杯な感じで此方には気付いていない。征治は腹を決めることにした。はぐれではない悪魔と穏やかに話せる機会などそうあるものではない。
「手を出すつもりはない、ですか。それならこの状況は何なんですか?」
「確かに私はここにゲートを構え、労働力となるディアボロを何体か作りましたわ。でも、私のしたことはそれだけですのよ。他はみんな、人間達が己の欲や保身の為に勝手にやったこと」
 人間が偶々発見したゲートを使い、悪魔は少しばかりそれに便乗した。それまでのことだ、と。
「それに、悪魔は魂を搾取するから悪だと仰いますけど。人間ならいいんですの?弱い者を踏みつけ、搾取しても、同じ人間ならば当然だとでも?」
 それは、と征治が言い返そうとした時。


「騙されんぞ!」
 男の声が響く。確か、地元の新聞関係の人間だ。その声は今後の施設について説明していた詩歌に向けられていた。
「貴様らは天魔と連んだ施設の奴らと結託してこの町を天魔に売り飛ばす気だろうが!!現にこの下に……」
『天魔絡みといっておけば警察はそれ以上調べなくても言い訳できるし、撃退署はこんな小さな町の噂なんて一々取り合わないし、都合が良かったんです』
 情けない声が男の声を遮った。
『それに、身寄りの無い半分天魔のガキなら別に罪をなすり付けたって誰も困らな……ひー、済みません!』
 その声は、入ってきたとしおが手にしたビデオカメラから流れている。
「いやぁ、山での騒ぎを注意しにいったら面白い話が聞けまして」
 口では面白いといいながら、としおは全く笑っていない。一緒にいる伊都も同様だ。エイルズレトラに至っては貼り付けたような笑顔が逆に怖い。
 ディアボロを退治した後、逃げ出す男がいたので捕まえたところ、こういう話が聞けたという。当人はルティスと聖によって、警察に連行されている。
「あなたにも、いずれ出頭要請が掛かると思いますよ」
 男が力なく座りこむと、詩歌が声を上げた。
「それでは、次の説明に移ります」
「あなたの番ですよ」
 秘書に促され、征治は人々の前に進み出た。
 ありふれた言葉の、しかし人が忘れてはならない事実を伝える為に。


 散々な事件だったと誰かが言った。
 天魔との取引云々は元々かつての施設の犯罪行為やそれを隠蔽したことを誤魔化す為の噂で。
 それが今の施設になすり付けられたのは、泉堂グループが支援することで孤児達が余計なことを喋るのではないかと懸念し、何を言っても人が信じないようにする為の小細工で。
 行方不明者ですら、関係者がそこに誘い込み、踏み込ませていたという訳だ。
 裁かれなければ罪ではない、だから隠したのだと。
 まさしく、それはパンドラの箱。蓋を開ければ見たくもないものが飛び出してくる。
「でも、私は黙って蓋をしたままが良かったなんて思わないわ」
 奈津の言葉に、皆が頷く。
 あの後改めて会った泉堂の秘書は、容姿こそ似ているが全くの別人だった。どこかで巧みに入れ替わっていたと思われるが、本人にも良く解らないらしい。
 征治は彼女の言葉を思い出し、そして呟く。
「人間を、舐めないでくださいね」
 パンドラの箱が開き、楽園を失っても人は生きた。神に与えられるのではなく、自ら経験を知恵に変えて。躓きながら、転びながら、それでも。
 あの施設にも、町にもそんな未来があらんことを、と


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
力の在処、心の在処・
稲葉 奈津(jb5860)

卒業 女 ルインズブレイド
優しさに潜む影・
ルティス・バルト(jb7567)

大学部6年118組 男 アストラルヴァンガード