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マスター:monel
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/12


みんなの思い出



オープニング


 塵一つない磨き上げられた廊下を、黒いスーツを着た撃退庁の職員は背筋を伸ばして真っ直ぐに歩く。
 その背中を見つめ、狩野淳也は眉間に皺を寄せながらついていく。
 親友の天木壮介が悪魔と取引をした疑いで捕縛され、約一か月が過ぎた。
 何度面会を求めても堅く断られていた天木との面会が、今日は嘘のようにすんなりと承認された。
(何を企んでる……いや、焦ってるのか?)
 警戒しながらも狩野はこのチャンスを逃すつもりはなかった。
 親友が悪魔に力を求めた真意を、真実を知りたかった。
 悪魔と交渉する天木の姿を、撃退士から逃げ出した親友の姿を目の前で見ていた狩野だったが、天木は全てを語っていないと推測する。
(天木が語ったように天使と戦う力を欲しいだけならば、僕に居場所を知らせる必要はなかったはずだ……もしもの時の保険にしてはリスクが高すぎる)

 撃退庁の一般職員が力を求めて悪魔と交渉し、捕まった事件は世間に与える衝撃を考慮し、緘口令が敷かれていたが一部では既に噂が広まっていた。
 その職員を捕まえたのは狩野をはじめとする学園の撃退士だった。
 目の前で悪魔と交渉を行う天木をその目で見た狩野だったが、違和感がずっと抜けなかった。
 事件の直前から失踪していた天木からある日届いた一本の電話。
 天木から居場所を知らせて来た。
 これから事件を起こそうとする人間がわざわざ連絡してくるだろうか、狩野は、違う、と考えを進める。
(もしもの時の保険にしては杜撰だ。実際に掴まっている。……では何故か)
「ここだ、入れ」
 狩野の思考は職員の言葉で遮られる。
 小さく頷き、狩野は取調室へと足を踏み入れる。


 部屋に入ると目の前に机を挟んで座る天木と男の背中が目に入った。
「やっときたか……」
 痩せこけて眼だけが強い光を放ち、無精ひげに顔の半分が覆われた天木が囁くように声を出す。
 その言葉に背中を向けていた男が立ちあがり、右手を差し出す。
「ようこそ、私は今回の事件を担当している上弦宗徳です。狩野さんですね、お待ちしていました」
 上弦と名乗る男は、困ったように溜息をつく。
「本来ならば我々だけでケリをつけるべきなのですがねぇ……彼があなたを呼ばなければ話をしないと口を閉ざすものでしてね」
 さあ、どうぞ、と言うように天木正面の席を譲り、上弦は狩野の後方の椅子に腰を下す。
 狩野が椅子に座ると同時に天木は口を開く。
「お前達学園を巻き込まないと不安でな。あの悪魔、強いんだろう?」
 先ほどよりも若干張りがある声で天木は囁くように話す。
「……強いな。だが俺達も強い。……そうか、それが狙いか」
 狩野は天木の問いに答えながら徐々に表情を険しくしていく。
「ちょ、ちょっと。お二人さんだけで進めるのはよして頂けませんかねぇ」
 僅かに言葉を交わして頷く二人に、上弦は慌てて止める。
 天木は、説明は任せた、というように背もたれに体を預けてウィンクをして見せる。
 溜息と共に狩野は上弦にわかるように説明を始める
「壮介……天木は自分を餌に悪魔を呼び寄せました。見事に次に会う約束を取り付けました」
 つまり、と狩野は説明を続ける。
「天木が捕まったことを悪魔は確認できていない可能性が高い。つまり、悪魔を呼び出したところを襲撃すると良い、と言うことです」
 狩野の説明に、上弦は顔をしかめる。
「我々じゃ弱すぎるってことですかねぇ。まぁ、腹立たしいが事実ですなぁ」
 首の後ろをぴしゃりと叩いて撫でながら、上弦はうんうんと頷く。
「しかしですねぇ、それには彼が現場に居なければまずい、って事にはなりませんかねぇ?」
 上弦の言葉に、狩野が答えようと口を開くが、天木はそれを遮るように声を上げる。
「そこを守るのが『撃退士』だろう?一般人の俺を守りつつ悪魔を撃退してくれればいいのさ。いつもの仕事だろう」
 掠れた声でふてぶてしく言い放つ天木を見て、狩野は何かを言いかけて言いよどむ。
「このチャンスを逃せば被害はますます広がるぜ。頼む、行かせてくれ」
 頭を下げる天木を見つめ、狩野と上弦は苦虫をかみつぶしたような顔を見合わせるのだった。


「今回の依頼は最悪の状況で最悪の敵と対する可能性がある。覚悟を決めた者だけが残ってくれ」
 狩野はミーティングルームに集まった学園生を見渡し、地図を広げる。
「時間は早朝。場所は若松北海岸、風車が連なる埠頭だ。悪魔は交渉相手が連れてきた人間を受け取りに現れると思われる」
 ここだ、と地図の一点、風車と風車の間の遊歩道を指し示す。
「この遊歩道に数m程度の小さな丘の上に東屋がある。ここが約束の場所だ。囮となるのは一般人と10名程度の撃退士を予定している」
 続いてその周辺を大きく円で描いて見せる。
「この周囲に潜んで、悪魔がやってきたら撃破するのが今回の作戦だ。どこから悪魔がやってくるのか分からないため、注意してくれ」
 狩野はミーティングルームに残っている学園生を見回す。
「一般人への被害だけは避けたいところだが……さあ、作戦会議を始めようか」


リプレイ本文


「くぅ、冷えるな。あんた等は寒くないのか」
 日の昇る前の蒼ざめた空の下、微かに吹き始めた海風に天木壮介は身を震わせて東屋に居る撃退士達に尋ねる。
 だが、山里赤薔薇(jb4090)は海風よりも冷ややかな眼差しで天木を睨む。
「黙ってて。妙な動きをしたらあなたを殺す」
 疑いの眼差しを向ける少女に、天木は溜息をついて助けを求めるように周囲を見回す。
「……ん」
 葉月 琴音(jb8471)も警告をするように護符を構えて見せる。
「まあ、そう苛めんなよ。俺は自ら囮になった天木さんの心意気は嫌いじゃねぇよ」
 山里を宥める鐘田将太郎(ja0114)は、天木の肩をポンと叩く。
「今じゃなくて良い。全部終わったら何でこんな事をしたのか教えてくれな」
 鐘田の言葉に曖昧な笑みを返す天木を見て、感情を押し殺したような無表情で黒須 洸太(ja2475)は呟く。
「結局は独断専行を押し切っただけだ……こういうのは嫌いだな」
 自分の言葉に嫌気がさしたように眉を潜めて、天木から目を逸らす。
「ここでいがみ合っても仕方ありません。全員無事で終えましょう」
 緊張した空気を変えようと黒井 明斗(jb0525)が明るい声をかけるが、反応は薄い。
 それ以降喋る者も無く、東屋には風を受けて回り始めた風車の低い風切音だけが響くのだった。

 東屋から内陸側へ向かうと広めの駐車場がある。
 そこには数台の車と頑丈なバスが静かに止まっていた。
 誰も乗っていないように見えるバスには、息を殺した撃退士達が潜んでいる。
「まだ動きは無いみたいやね」
 東屋の会話を通信器で聞きながら、亀山 淳紅(ja2261)はそっと窓から頭を上げて外の様子を窺う。
「そうですね。……上手く事が運べば良いのですが」
 感覚を鋭敏に尖らせ、周囲の様子を伺う雫(ja1894)も頷く。
「何事も無かったらあのバカに説教して終わりなんだけどな」
 狩野淳也は軽い口調で呟くが、その表情は自分でもその言葉を信じていないと雄弁に語っている。
「……ふん」
 火のついていない煙草を咥え、運転席に身を屈めるファーフナー(jb7826)は黙って鼻を鳴らす。
 只野黒子(ja0049)も黙したまま、潜伏している仲間へ『異常なし』と連絡を送るのだった。

 駐車場より更に後方、東屋との間が小さな丘になり見えない位置に一台のバイクが止まっている。
 そのバイクに跨り、蒼い髪を棚引かせたアスハ・A・R(ja8432)は只野の連絡を受けて返事を送る。
「まだ来ないって?」
 アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)はタンデムシートに座り退屈そうに独特なフォルムを持つ銃を弄る。
「前回はしてやられたけれど……今回はそうはいかないわよ」
 すっと空に狙いを付け、小さく口許で「ばぁん」と呟く。
「……あの時の男、思い通りにはさせられない、な」
 アスハも独り呟き、じっと連絡を待ち続ける。

 東屋で、バスで、乗用車で、そして昇り始めた太陽が作る影に身を潜めて、それぞれの想いを抱いて待ち続けた撃退士達の元へ、待ち人が現れるのだった。


 悪魔・虚空蔵はゆっくりと散歩でもするように、海の上を歩いて近づく。 最初に気づいたのは、眼鏡や帽子で変装し東屋で待ち構えていた浪風 威鈴(ja8371)だった。
 日の出に煌めく波の間を歩く悪魔の姿は、周囲の輝きを消し去るように闇を纏っている。
「……見つけた。今度は、ちゃんと……仕留める」
 悪魔の到来を告げながら、足音を消して仲間の間に紛れ込み、虚空蔵に知られた顔を隠す。
 その瞳はじっと虚空蔵の動きを見つめ続けるのだった。
「威鈴を殴り倒した分……、しっかりとお礼をさせてもらう」
 浪風 悠人(ja3452)はぎりぃ、と歯ぎしりをして怒りを抑える。
 悠人は眼鏡を外し、帽子を目深に被って知られた顔を隠す。

「ほう……」
 鳳 静矢(ja3856)は虚空蔵の背後の海面から浮かぶ上がってきた巨体を見つめ、感心したように息を漏らす。
 刀を収めたヒヒイロカネの感触を確認しながら、静かにその動きを観察する。
「やあ、アレが悪魔ですか。強さと見た目は関係ありませんからね。覚悟して臨みましょう」
 巨大なディアボロを従える悪魔を眺め、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は飄々と嘯くのだった。
 
 防波ブロックを足場に安全柵を軽々と飛び越えて遊歩道に降り立った虚空蔵は、東屋で待ち構える天木に声をかけながら近づいてくる。
「其れが取引の品か」
「あぁ、しっかりと新鮮な魂を連れて来てやったぜ」
 遊歩道を越えて風車の横を通り過ぎる虚空蔵に向かって、天木は背中に回した震える手をぎゅっと握りしめながら、悠然と答える。
「阿吽を見て動揺もしないどころか殺意を向けてくるような、其れが、取引の品、だと」
 虚空蔵は眼を細めながら、東屋まで数mの場所に近づき、さらに近づいてくる。
 歩み寄る虚空蔵に向かってにやりと笑った天木が言い放つ。
「簡単だ。『悪魔が来るぞ』と言っただけさ。魂は連れてきた。お前が喰えるかどうかは契約外だ、そうだろう?」
 間近まで迫った虚空蔵は耳まで裂けるほどに、ニンマリと口を開く。
「確かに。では貴様の魂を貰おう」
「させるかぁっ!」
 振り抜かれた虚空蔵の腕は天木に掠ったところで悠人のアウルにより遮られる。
 だが、それだけで天木は東屋の端まで吹っ飛ばされ柱に叩き付けられる。
 それと同時にエイルズレトラが跳躍し、天木がそれまで居た空間に飛び込んで妖刀を振るう。
 すぐさま後ろに飛び退った虚空蔵を守るように阿吽が前へと一歩踏み出す。
 それに呼応するように撃退士達は光纏するのだった。


「掴まれ。突っ込むぞ」
 通信機から聞こえてきた戦闘音にファーフナーがバスのアクセルを踏み込み、阻霊符を発動させる。
 その瞬間、辺り一面にディアボロが地面から飛び出して来た。
 産まれたての仔犬の様にべったりと毛をぬらつかせた狼と、体中が鱗に覆われ、瞼の無い目をぎょろつかせて槍を持つ魚人、そして以前目撃されていた翼を持った蛇。
 一瞬で撃退士達は周囲を取り囲まれていた。
 真っ直ぐに東屋へと向かっていたバスは正面から突進してきた狼を避けようとして横転は免れたものの、真横に滑って止まる。
 運転席に飛び込んできた狼をファーフナーは斧の一閃で退け車内への侵入を防ぐが、反対側から飛び込んできた一体の狼に撃退庁の撃退士の腕が喰いちぎられ、車内は騒然となる。
「落ち着きましょう、相手は一体です」
 只野が腕の治療をしながら混乱している撃退士達に声をかける。
 だが、学園の撃退士達はとっさに反撃体勢に入るものの、撃退庁の撃退士達は半狂乱になって狙いが定まらない。
「こっちに向かってる敵はこれだけみたいですっ」
 向かってくる狼の巨体を銃撃で逸らして回避し、素早く銃弾を撃ち込みながら木暮 純(ja6601)が状況を報告する。
「戦況を見極めないと危険ですね」
 ユウ(jb5639)は車内の脅威が低いと見て、翼を広げて車外へと飛び立ち、ケイ・リヒャルト(ja0004)と鈴木悠司(ja0226)が援護を行う。
 続けて飛び出した雫だったが、目の前に現れた翼蛇に視界を塞がれ、両手で大剣を構える。

「こっちは任せたでーっ」
 亀山はひょいっと窓から飛び出すと、ディアボロに囲まれている東屋の屋根に向かって走り出す。
 ヘッドセットにアウルを込めて叫ぶと、周囲を漂っていた小さな鯨がスピーカーとなって周囲へ声を響かせる。
「さぁさ御立合い。堕ちた道へ誘う悪魔と、それに抗う小さな人間と撃退士の歌曲。どうぞ一言一句一音一律、お聴き逃さぬよう、ご注意を!」
 口上を述べ終った亀山の足元に五線譜が纏われ、跳躍により遥か上空に飛び上がる。
 暁の空一面に広がるオーケストラの幻影と、地面を埋めるような異形達のコントラスト、そして地上へと降り注ぐ歌の雨の光景は、ゆっくりと眺める者が居れば宗教画に描かれた奇跡と見紛うような光景であった。
 片側から東屋に襲い掛かっていた狼達を一斉に薙ぎ倒すが、その効果は一瞬ですぐに立ち上がる。
 体中から血を流す狼達は、さらにぬめりを増して東屋の屋根へと降り立った亀山へ牙を剥く。

「こうなる事は織り込み済みだな。俺の仕事をするまでよ」
 バスから飛び出したラファルは、亀山の攻撃から逃れた狼に向かって肩口から飛び出したミサイルランチャーを放つ。
 空気を切り裂き狼達の間に弾着したミサイルは、弾けるように影の刃を飛ばし周辺の狼を切り裂いていく。
 その攻撃で狼達は大きく負傷し、ラファルに狙いを定めたようにぐるぐると周囲を回り始める。
「はっ!そっちから集まってくれるとは有り難いことじゃねーか。気が済むまでミサイルを喰らわせてやるぜっ!」
 ラファルは左目に自らの尻尾を喰らう円環蛇の紋様を浮かび上がらせ、狼が襲ってくる方向を演算し始める。


 東屋では、正面を虚空蔵と阿吽に、両側面を狼と魚人に囲まれ、狭い場所に押し込められ自由に動けない状態となっていた。
「しまった!離されたかっ!」
 天木と悠人は両端の位置まで離され、悠人は天木をそれ以上庇う事が出来なくなる。
 天木を気にしながらも、阿吽の片割れ、そして魚人達が東屋へ侵入しようとする前に立ち塞がる。
 刀身に闇を纏わせることで、ディアボロとのカオスレート差を埋め、鉄壁の壁として敵を抑えるが、そのことにより自らも動けない。

 阿吽の片割れのもう一体はエイルズレトラに向かって太い腕を振り降ろす。
 その拳は激しく石畳を割るが実体が無いかの様に身をかわすエイルズレトラを捉える事は出来ない。
 それどころか、振り下ろした腕に無数の赤い線が走り、血を吹き出す。
「てめぇの相手は俺だ、デカブツ!」
 鐘田が絡めたワイヤーを引き絞るが、それ以上切り裂く事は出来ずにワイヤーごと引き寄せられてしまう。
 バランスを崩した鐘田は、ワイヤーが絡んでいない阿吽のもう一方の拳をまともに受けるが、その場で倒れることなく立ち塞がる。
「これぐらい痛くねぇ!こいつぁ引き受けたっ。天木さんの保護を頼むぜ!」
 絡まったワイヤーを手放し、青白い不気味な大鎌を取り出して阿吽の片割れと対峙する。
 阿吽の攻撃をかわしたエイルズレトラはその勢いのまま、虚空蔵へと切りかかる。
 虚空蔵はエイルズレトラの刀に沿えるように右腕を動かし、その軌道を変える。
 勢いを逸らされたエイルズレトラは反撃の隙を与えまいと素早くステップを踏むが、運の悪いことに朝露に濡れた草に足を取られ、僅かな隙を見せる。
「ほぉ……」
 虚空蔵が真っ直ぐに突き出した手刀がエイルズレトラを貫いたかに見えたが、その腕に絡まったのはスクールジャケットのみであった。
「今のは危なかったですね。では、僕もカードを切るとしましょう」
 右腕を横に伸ばしアウルを高めると、腕に止まる様に小柄なヒリュウを召喚するのだった。

 天木は柱に打ち付けられた衝撃で蹲っていたが、せき込みながら立ち上がる。
「……かはっ、こ」
 何か言おうとした天木だったが、背後から迫った翼蛇に一飲みに呑み込まれる。
 そして、亀山とラファルの攻撃を受けてボロボロになった翼をはためかせ、呑みこんだ天木もろとも空へと飛び立とうとする。
「させませんっ」
 翼蛇が地面から飛び立った瞬間、黒井が放ったアウルの鎖が翼蛇の身体に巻き付き地面に繋ぎ止める。
 冥魔を裁く審判の鎖に締め付けられ、天木を呑みこんだまま、翼蛇は身を蠢かす。
 次の瞬間、威嚇の牙を剥く翼蛇の頭部が突然爆発するように弾け、天木が返り血を浴びて全身血だらけになりながら、ずるりと這い出てきた。
 バスの上によじ登った狩野が放った銃弾が、翼蛇の頭部を貫き、内部から蹂躙したのだった。



 物陰に潜伏していた者達にとっても、ディアボロの出現は予期せぬ事だった。
 バスから離れた場所に、一人で車に乗って様子を窺っていた影野 恭弥(ja0018)は、現れたディアボロに向かって車を走らせる。
 東屋が良く見える場所まで車を乗りあげて、車から飛び出し、車を盾に前方を飛ぶ翼蛇を狙撃する。
 銃弾は翼蛇の片翼を弾き飛ばし、翼蛇は不安定にふらつきながら地上へと落ちていく。
 次の標的を探していた影野だったが、背後から別の翼蛇が体に巻き付き、車の陰から引きずり出される。
 そこには無数の魚人達が待ち構えていたのだった。
「……ふん」
 影野は槍を振りかざして迫る魚人に囲まれながらも、表情を変えずに握りしめた拳から一滴の血を垂らす。
 血が滴り落ちた場所に魔法陣が浮き上がり、黒い犬の姿を形どったアウルが噴出し、魚人達に襲い掛かっていく。
 その隙にその場を脱しようと後退るが、影野を取り囲んでいた魚人から逃げる事が出来ず、襲い来る槍を受け流す事で精一杯であった。

 嶺 光太郎(jb8405)は焦っていた。
 風車の陰で身を隠し敵を待ち受けていたが、敵は既に味方を取り囲み、混戦となっていた。
 慌てて飛翔し、魚人に取り囲まれている影野の援護に向かうが、潜伏したその姿は敵の注意を引くことが出来ない。
 注意を引くべく準備をしている間にも、影野はどんどんと追い込まれていくのだった。

(これは弱ったね……どないしよか)
 黒神 未来(jb9907)は木陰に身を潜めたまま、激しい戦いが繰り広げられている状況に迷いを覚える。
 だが、じっとしているのは性に合わないと、身を潜めたまま東屋へと近づく。
「うちの音はもっとハードやでっ」
 東屋の屋根で高らかに歌い上げる亀山に対抗するように、歌の切れ間を狙って赤いレフティギターで高速のリフを刻む。
 柔らかで伸びのあるギターの音に合わせるように、爆発音が鳴り響く。
 東屋の北側で戦っていた虚空蔵と阿吽の頭を弾くように炎が爆発したのだ。
「……ノリが悪いんちゃうか」
 爆発によりわずかな傷しかできなかった事が黒神の闘争心に火をつける。
 再び激しい旋律をかき鳴らそうとするが、後ろから身体に巻き付いた翼蛇に空中へ持ち上げられる。
「ふぁっ、何すんねんっ!」
 ジタバタと暴れる黒神だったが、周囲に砂塵が舞い上がったかと思うと、今度は地面に向かって一直線に落ちていく。
「へぶっ……たぁ〜、何がどうなってん……」
 腰をさすり立ちあがった黒神は、身体を拘束していた翼蛇が石のように固まり拘束が解けている事に気が付く。
「背後にも気をつけるんだね」
 駐車場の車の陰に潜んで居た尼ケ辻 夏藍(jb4509)が、符を片手に駆け寄って来ていた。
「あ、おおきにゃわっ!?」
 礼を言おうとする黒神に向かって尼ヶ辻は符をかざし、水龍を離す。
 黒神の背後から飛びかかって来ていた狼を水龍が打倒すのを確認して、尼ヶ辻は油断なく周囲に目を配る。
「礼は要らないよ。ただ、気をつけてくれればいい」
「せ、せやね……よっしゃ、気を取り直してどんどんいくでーっ」
 一瞬怯んだ黒神だったが、誤魔化すように気合を入れて再びギターをかき鳴らすのだった。

「鳴上……影野も囲まれてんな……」
 黒夜は東屋の側の木陰に身を潜め、混乱を極める周囲の様子を伺う。
 目の前に溢れるディアボロの姿を見回し、討ち出ていく場所を見極めようとする。
 その時、朗らかに鳴り響いていた亀山の歌声が途切れる。
 東屋の屋根へと駆け上った狼に、足を噛まれ、その勢いでひっくり返る。
 その瞬間、黒夜は考える間も無く飛び出す。
 亀山を噛み殺そうと集まってきた狼の群れに飛び込んだ黒夜の周囲を、深い闇が出現し、狼達を覆い尽くす。
「歌の邪魔だってーの」
 黒夜の攻撃により、亀山は立ち上がる余裕を持ち、只野のヒールにより傷を癒す。
 だが、その行為により周囲の狼から狙いをつけられる。
「まずいっ、黒夜さんっ!」
 すぐに狼の集団に押し倒される黒夜に、黒井のヒールが飛ぶ。
「あかんっ、間に合うてっ」
 狼の群れに埋もれるようにして姿が見えなくなった黒夜を救おうと、亀山が襲い掛かる狼を炎で退ける。
 だが、群がった狼が退いた後には、ずたずたに切り裂かれ、動かなくなった黒夜の姿だけが残っていた。

 天木にアウルを送り意識を戻そうとする黒井の前に山里が立ち塞がり、襲い来る狼の牙を体で受け止めていた。
「このままじゃ自由に戦えない。切り開きましょう」
 東屋に押し込められた状態を打開しようと、山里は両腕をクロスさせてアウルを練り込む。
 練り込まれたアウルは山里の足元に紅の火竜として現出し、山里の掌へと収束していく。
「喰らいなさい、龍龍砲!」
 突き出した掌から放出されたアウルは、紅蓮の炎に包まれた咢を持つ槍となって目の前に居る狼達を焼き焦がしていく。
 メラメラと毛を焦がしながらも、狼達は再び山里へと殺到する。
「ドラグニル!私を守って!」
 紅の火龍が山里の身体を絡みつくようにして覆い、狼の牙から山里の身を守ろうとするが、狼の牙は龍を噛み砕き山里の身体に深く埋め込まれる。
 それでも腕を突き出し再度狼を焼こうとした山里だったが、狼の後方から突き出された槍に掌を貫かれる。
 狼だけでなく、魚人までもが東屋を取り囲み、山里へと殺到していた。
 手の甲から急に生えた槍の穂先を信じられないように見つめる山里に、狼達がのしかかり、その姿はディアボロの群れの中に沈んでいった。

「うむ、遅かったか」
 鐘田の負担を減らそうと阿吽を挑発していた鳳は、ディアボロの群れに囲まれた山里を見て、慌てて飛び出す。
 東屋から飛び出し、振り抜きざまに『紫電』と名付けた愛刀を抜き払い、紫の化鳥を形どるアウルを放つ。
 化鳥は山里を襲っていた狼を打ち払い、阿吽をも巻き込んでその身を抉っていく。
 続けざまに弓を引き絞り、鐘田と打ち合う阿吽にアウルを込めた矢を放つ。
 黒須の矢と葉月の花びら様のアウルも阿吽を打つが、それらの攻撃を振り飛ばすように咆え、さらに鐘田を殴りつける。
「それがどうしたぁっ」
 鐘田は拳を額で受け止めながら鎌を振るうが、ダメージの蓄積は明らかで、足元はふらついていた。
 鳳は、ちらと、倒れて動かない山里に視線を送り、厳しい眼差しで戦場を窺うのだった。

「くそっ!なめてんじゃねーぞぉっ!」
 ミサイルを撃ち尽くしたラファルは既に目に円環蛇の紋様も無く、機械化された身体から余分な装備を捨て去り、波状攻撃を仕掛けてくる狼の攻撃に立ち向かっていた。
 素早い動きで辛うじて致命的な一撃を避けていたが、前後左右を囲まれ無数の傷がその身に刻まれていた。
 バスも東屋も敵に囲まれ、孤立したラファルは仲間の援護を受ける事が出来ず、突破することもままならない。
 その均衡はいずれ破られる。
 正面の狼の攻撃を右に避け、後ろから襲い掛かってくる狼に備え体を反転させようとしたところで、左に居た狼の体当たりを受けてよろける。
 一度体勢が崩れると、どんどんと追い込まれていく。
「ちょっと寝むっときやっ」
 東屋の屋根に立ち周囲を見回す事が出来た亀山の視界に、ラファルの窮地が目に入り、亀山は飛びかかってくる狼にも構わずに眠りの霧をラファルの周囲へ放つ。
 狼達は不意に現れた霧に飲まれ、なす術も無く眠りに落ちるが、既にラファルの意識は切れた後だった。


 戦いの喧噪とアウルを含んだギターと歌声が響く中、腹に響くようなバイクの排気音な鳴り響く。
「GO!GO!アスハさん、GOよ!」
 アルベルトの声が陽気に響き、飛びかかってくる狼を銃撃で逸らしながらバイクは東屋に向かって疾走する。
「……邪魔だ、な」
 目の前を遮る魚人に向かって、アスハは片手に槍状に収束させたアウルを掲げ、撃ち放つ。
 突然の襲撃に道を開ける魚人だったが、東屋までの道のりは容易い物ではなかった。
 何重にも密集した囲みに突撃したアスハ達だったが、体勢を立て直した魚人達が立ち塞がる。
 バイクに向かって突き出された魚人の槍を、アスハは腕に槍状に纏わせたアウルで受け止める。
 だが、魚人の攻撃の勢いを殺しきれずに、バイクは倒れ、アルベルトと共に地面を転がる。
「痛った〜。あれ、これひょっとしてまずい状況?」
「成功の確率は、低くなった、な」
 にじり寄ってくる魚人達を前に、アスハとアルベルトは背中合わせに身構える。

 襲い掛かってきた魚人の攻撃を、アスハはアウルの槍で受け、アルベルトは光り輝く銃弾を撃って迎え撃つ。
 さらにアスハは蒼く煌めく二つの刃を投げ放ち、突破を試みるがそれでも鱗に覆われた魚人の身体は硬く、突破することが出来ない。
 体を抉る魚人の槍を蹴り飛ばし、次の攻撃の準備を始めるアスハの目の前で、魚人の身体が揺らぐ。
 空から雷光を纏う拳銃を構えるユウにより、狙撃を受けていたのだった。
「立ち止まるのは危険ですね。お手伝いしますよ」
 ユウは続けざまに、亀山を襲う狼に銃を放つと、すぐに次の獲物を探す。
 亀山に向かっていた狼は横腹を抉られて屋根から転げ落ち、葉月の放つアウルにより切り刻まれて動かなくなる。
 狼の攻撃に無防備に身を晒しながら、周囲の敵に歌による衝撃波を放っていた亀山は、ユウに向かってぐっと親指を立てると、アスハの前に立ち塞がる魚人を歌で吹っ飛ばす。

 亀山により目の前の魚人が打ち倒され、アスハの目の前に拓けた視界に倒れたバイクが目に入る。
「レベッカ、行くぞ」
 アルベルトの襟首を引っ掴み、銃を撃ち続けるアルベルトを引きずるようにしてバイクまで走る。
「まだ、生きてる、な」
 バイクのセルを押すと、頼もしい低音を響かせてエンジンが唸りをあげたのだった。


 エイルズレトラが召喚獣を呼び出したのを見て、虚空蔵は薄ら笑いを浮かべて横に流れるようにすっと動く。
 警戒して身構えるエイルズレトラを余所に、天木を介抱する黒井に向かって右腕を突き出す。
 伸ばした右腕は普段の3倍ほどまで伸び、天木の横腹を貫きながら、咄嗟に展開した円形盾をも弾いて黒井の胸を真っ直ぐに突く。
 アバラを砕かれ後方へ吹っ飛んだ黒井は一瞬意識を失いかけるが、身体の周囲を取り巻くアウルが瞬間的に活性化され、天木の身体を支えて踏みとどまる。
「そんな、一撃で……」
 6mほど後方にとばされた黒井は、天木と自分へ柔らかな癒しの光を降らせ、致命傷とならないように応急処置を行う。
 黒須の放つ矢を眼も向けずに掌で握りつぶしながら、虚空蔵は薄ら笑いを更に広げて、ゆっくりと天木へと近づいていく。
 だが、そこで壁にぶつかったように足を止める。
「何でも思い通りになるとでも?その薄ら笑いは気に入らないね」
 アウルを集中させる尼ヶ辻により空中に描かれた五芒星の結界が、虚空蔵の侵入を防いでいた。
 そこへ、エイルズレトラの召喚獣が虚空蔵へ突撃してくる。
 結界に意識を取られていた虚空蔵の頭に当たり、体が斜めに傾ぐ。
 だが、次の瞬間、跳ね上がるように振り上げられた蹴りにより、ヒリュウは空中へと蹴り飛ばされる。
 攻撃の命中と同時に受けたカウンターは、いかに素早いヒリュウであっても避ける事が出来なかった。
「触ったものは報いを受け……ぐっ」
 虚空蔵がじろりとエイルズレトラを睨みつけ、威圧するように口を開くが、その途中で鳳が居合の型で刀を振り抜く。
 振り抜いた刀は鳳凰の翼を纏い、虚空蔵の身体を吹き飛ばす。
 虚空蔵の脚は空中で跳ね上がり、誰も居ない空間を蹴り抜き、勢いで回転しながら東屋の床を転がっていく。
「その技、無意識で放たれるのか」
 鳳は眉ひそめて虚空蔵の動きを考察する。
「それがわかった処でどうだと言うのだ」
 虚空蔵は先ほど黒井を飛ばしたように、腕を伸ばしてお返しとばかりに鳳の身体を吹っ飛ばす。
 狼を巻き添えに飛ばされながらも、鳳はアウルの紫鳥を放つ。
 阿吽の身体を削りながら飛んでくる紫鳥を見て、虚空蔵はこきりと首を鳴らす。
「その技は、見た」
 身体を捻って紫鳥をかわし、虚空蔵は再び天木へと迫る。

 結界の効果が消え、迫ってくる虚空蔵から天木を守る様に黒井が立ち塞がる。
 そこへ、バイクが土煙を上げて横滑りに寄せられる。
「天木さんは私達が頂いていくわ!」
 アルベルトは倒れている天木のベルトを掴んで横抱きに持ち上げる。
「一手遅かったな」
 虚空蔵が三度右腕を振り上げる。
「ボクの事は見えなかったかい」
 黒須が術式を解放し、虚空蔵は衝撃波に襲われる。
 振り上げた腕を真っ直ぐに突きだすが、腕は伸びず、ただ空を突く。
「小賢しい真似を……」
 ならば直に貫くまで、と足を踏み出そうとするが再び五芒星の結界に阻まれる。
「さっすがぁ!」
 アルベルトが黒須に向かってウインクをしながら、アスハの背中を叩く。
 アスハは目の前に駆け寄ってきた狼にアウルの槍を放ち、道を切り拓きアクセル全開で飛び出すようにバイクを走らせる。
「無事に脱出するんやでー!」
 周囲の狼達が追いかけるように走り出すが、亀山が眠りの霧を放って眠らせる。
 よしっ、と小さく拳を握った亀山の胸から、唐突に槍の穂先が血まみれになって生えてくる。
 背後から屋根に這い上がっていた魚人の槍が亀山を貫いたのだ。
「そ……な、ま……、歌え……」
 亀山は振り返って何かを喋りかけたが、肺から溢れて来た血をこぽりこぽりと吐き出して、崩れ落ちたのだった。


 バスでの戦いはようやく終わりを迎える。
 狭い車中で混乱の極みにあった撃退庁の撃退士達も、木暮とファーフナーの落ち着いた対処により、冷静さを取り戻す余裕を取り戻す。
 落ち着いて対処を行えば敵は一体、すぐに優勢となり、狼を追い詰めていく。
 銃を構えた撃退士の前では剣を構えて狼の突進を防ぐ撃退士が立ち、身を翻した狼はファーフナーが逃がさずに斧を振るう。
 木暮はボルトを引いて飛ばした薬莢型のアウルが消え、新たなアウルの弾丸を込めたライフルで狙いを定める。
「地獄に帰ってきゃんきゃん吠えてなっ、負け犬ゥッ」
 疲れとダメージで動きの鈍った狼の眉間に銃弾が吸い込まれるように撃ち込まれ、狼はその巨体を横たえる。
「さあっ、出遅れちまったが俺達の仕事をするぜェッ。ぶっ放してやろうぜ!」
 木暮の声に撃退庁の撃退士達は東屋の群がるディアボロに向かって一斉に狙撃を始める。
「……俺達はあそこだ。奴等の帰り道を確保するぞ」
 ファーフナーは亀山がもたらした眠りから覚め始めた狼を見つけ、アスファルトに斧を擦らせ派手に火花を散らして狼達を引きつける。
 ファーフナーが頭上に斧を振り上げると、周囲に砂嵐が巻き起こり、狼達を巻き込む。
「狼と踊るほど優しくないんでな」
 砂で潰れた目を眩しそうに開いて飛びかかってくる狼達に、側に駆け寄ってきた撃退庁の撃退士達と共に斧を振り上げるのだった。


「てめーら、こっちだっ。掛かって来いっ」
 嶺は影野を取り囲むディアボロに向かって低空飛行で飛びながら、アウルを全身で放出して敵を引きつける。
 影野を縛ろうと身体を叩きつけていた2体の翼蛇が、嶺へと向かって羽ばたく。
「くぅ……やっぱ面倒くせぇな。仕方ねぇ、しっかりついて来いよ」
 嶺は影野から敵を引き離すように飛んでいく。
 影野は血まみれになりながらも、背後の魚人を撃ち倒し、囲みから脱出する。
「お前らでは役不足だ」
 槍を振りかざして突撃してくる残りの魚人をヘッドショットで倒し、回転式の銃に持ち替えて東屋に向かって弾丸を放つ。

 天木を連れ去られた虚空蔵は、五芒星の結界を忌々し気に触れていたが、影野の放った弾丸を察してバックステップで東屋から離れる。
 咄嗟に反応出来たのはエイルズレトラとその召喚獣のみ。
 海に向かって走る虚空蔵の背中に刀を振り下ろすが、虚空蔵はその姿を揺らめかせと思うと、その身体が二つに分かれて刀をかわす。
「……分身の術、ですか」
 全く同じ姿の虚空蔵が二人、エイルズレトラとヒリュウを囲む様に身構える。
「どこまで避けられるのか」
「見せてもらおうか」
 二人の虚空蔵が伸ばした右腕をしならせて、エイルズレトラとヒリュウを同時に攻撃する。
 ヒリュウと視界を共有して死角をなくしたエイルズレトラは、虚空蔵の攻撃を難なくかわしていたが、多くの手数に運悪くかわす方向を失ったヒリュウが、その身体を貫かれる。
 エイルズレトラは切り札を切る間もなく、地面に崩れ落ちる。
「……逃がさない」
 虚空蔵の背中から切りかかった雫だったが、気配を察した虚空蔵は地面を転がり、かろうじて避ける。
 立ち上がったところで、鳳が放った矢に左腕を貫かれるが、そのままもう一体の自分と合流して海へと飛び込む。
 鳳は合流した虚空蔵の腕にも矢傷が残っていた事を、確かに見届けたのだった。

「くそっ!虚空蔵ォッ!」
 悠人は阿吽の拳を受け止めながら消えていく虚空蔵の姿に叫ぶ。
 阿吽は何度も攻撃に耐えた悠人に向かって飽きもせずにひたすら拳を振り上げる。
「……私の出来る事をするだけ」
 拳を振り下ろす前に阿吽の身体に無数の花びらが突き刺さり、桜の花びらに埋もれるように巨体が倒れ込む。
 葉月の符により、蓄積されたダメージに耐え切れなくなり、阿吽が倒れたのだった。
「掃討戦に入ります。これ以上逃がしはしませんよ」
 ユウは残ったディアボロを仕留めるべく、狙撃を繰り返す。
 悪魔は去り、残ったディアボロが全て撃退されるのも時間の問題だった。


「……そうか、連絡をありがとう。友人として礼を言わせてもらうよ」
 アルベルトから、天木が命を取り留めたと連絡を受け、狩野は静かになった東屋を眺める。
 既に学園の撃退士達は去り、周囲には撃退庁の職員達が忙し気に後始末を行っていた。
「結局逃げられちまいましたねぇ」
 首の後ろをぴしゃぴしゃと叩きながら撃退庁の上弦が話しかけてくる。
 狩野は小さく首を振って呟くのだった。
「終わりじゃないさ。奴を逃がしはしない」
 強くなった海風が風車を勢いよく回す下で、狩野は海を睨みつけるのだった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: God of Snipe・影野 恭弥(ja0018)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
 踏み外した境界・黒須 洸太(ja2475)
 蒼を継ぐ魔術師・アスハ・A・R(ja8432)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
 胡蝶の夢・尼ケ辻 夏藍(jb4509)
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
 風を呼びし狙撃手・アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)
重体: 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
   <悪魔の極技を喰らう>という理由により『重体』となる
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
   <勇敢に立ち向かい続け>という理由により『重体』となる
 撃退士・黒夜(jb0668)
   <混戦の中取り囲まれ力尽き>という理由により『重体』となる
 絶望を踏み越えしもの・山里赤薔薇(jb4090)
   <混戦の中取り囲まれ力尽き>という理由により『重体』となる
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
   <混戦の中取り囲まれ力尽き>という理由により『重体』となる
面白かった!:11人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
踏み外した境界・
黒須 洸太(ja2475)

大学部8年171組 男 ディバインナイト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
次なる階梯に至りし技・
木暮 純(ja6601)

大学部4年138組 女 インフィルトレイター
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
胡蝶の夢・
尼ケ辻 夏藍(jb4509)

卒業 男 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍
碧落を結ぶ・
葉月 琴音(jb8471)

高等部3年30組 女 アカシックレコーダー:タイプB
風を呼びし狙撃手・
アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)

大学部6年7組 男 インフィルトレイター
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー