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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/20


みんなの思い出



オープニング

 研究が出来れば、それで良いのだ。
 逆を言うと、研究が出来ないと困る。
 よって、カーベイ=アジン・プロホロフカは冥魔軍から一定の支援を獲得し続ける為に、魂を定期的に上納しなければならなかった。
 カーベイは子爵位を持つなかなか強力な悪魔であったのだが、自らゲートを展開してはいなかった。力の消費を嫌った為である。
 故に、日本国のとある山奥に、人間の富豪のふりをして広大な私有地を獲得し、そこにある屋敷を中心として配下のヴァニタスに超小規模のゲートを構えさせていた。「私有地故立ち入り禁止」そのように看板を掲げて派手な動きを隠していれば、人類側からの調査の手というのはなかなか伸びてはこなかった(過去に数度際どい場面はあったが)。
 当然、ヴァニタスがゲートを展開した際には魂をろくに吸収できなかったが、カーベイとしては研究に使える移住スペース兼冥魔界への転移路を確保し、最低限の量の魂を定期収穫できればそれで良く、納めるべき魂は周囲から人間を浚ってきて敷地内へと引き込んで、それで済ませていた。隠密性を重視していたので、その量は当然、少ない物だったが、上納ノルマをなんとかこなせる程度の実入りは獲得していた。
 しかしである、ここに来て状況が変わった。
 最近は冥魔軍も景気が良くはないのか、魂の上納量を増やせと言ってきたのである。でなければ支援を打ち切る、と。
「そぉををををををれはぁ、そ〜れはぁこぉおおおおまるん、でぇえええええすよねぇ〜!」
 生物の臓器を思わせる赤黒い床と壁で構成されたホールに、血染めの白衣を纏いやたら尖ったイェローサングラスをかけた男――カーベイは立っていた。
 彼の前には特徴の無い容姿の数百名の男女が、背広やパンツスーツに身を包んで整然と整列している。
 しかし中央の先頭に単独で進み出ている一人だけは平凡な造作ではなかった。絹のように滑らかなプラチナブロンドの長髪、雪のように白い肌、すらりと伸びた脚を白いストッキングに包み淡桃の靴を履き、小柄ながらも起伏に富んだ身を淡桃色の看護服に包んで、頭には髑髏マークのついた看護帽をかぶっていた。
「ヨッハナ君! テックノロジィの夜明けの為にぃぃぃぃぃ、家畜達の魂を収穫しっましょう、じゅうんびぃはぁよっろしいでぇすかぁあああ?」
「ああ、マスター、急造した為に戦闘力がオリジナルよりもちと落ちてしもうたが『吸魂刃』六十体にして百八十体、及びその護衛である人型ディアボロ二百体、出撃準備は万端であるぞ」
 カーベイ子爵の配下、プロホロフカ四獄鬼が一鬼、女男爵ヨハナ=ヘルキャットは幼さを残したソプラノの声ながら時代がかかった口調で頷き答えた。
 ちなみに四獄鬼のうち他の三鬼、男爵レイガー、旅団長マーヴェリック、少将メタフラストは『自分探しの旅』『働きたくないでござる』『悪魔の勤めは飽きました』とそれぞれのフリーダム過ぎる理由でここにはいなかった。プロホロフカ軍団の結束力は最悪だ。
「グゥレイトォオオ! 最終調整は撃退士とやらの邪魔が入ってでっきませんでしたがぁ! 故にこそワックワクドキドキランダマイザー! 伸るか反るかぁ、いいいいいぃぃぃってみましょう! イィィィィィヤッフゥー! しゅっつげぇえええきぃ先は、天界軍との戦いで疲弊している静岡県でぇええええす! サリエル・レシュとガブリエル・ヘルヴォルの軍団が健在だった頃はぁ物量差故とても手が出せませんでしたがぁ既に静岡天界軍はボロボロ、それと争っている人類側も疲弊していまぁああああす! れぇええつ漁夫の利ぃぃぃぃぃぃ! これぞ悪魔の戦略、ジャスト・ソー!」
 ビシッと両手の指先をヨハナへと向けてカーベイ子爵は言った。
 我が主は人生楽しんでるのぅ、と思いつつブロンドの少女は頷く。
「了解じゃマスター、静岡県とやらを血の海に変えてこようぞ」
 ヘルキャット(性悪女)は微笑すると言った。
「死にかけの病人は夢幻のうちにさくっと殺してやるのが慈悲じゃからのう……あっはははははっ! 楽しみじゃあ!」


 空は青く、風は緩く吹いている。
「また沢山、建物が建ってきましたね」
 打ち合わせを終えた後、DOG本部の屋上に出て富士市を見渡し、儀礼服姿の神楽坂茜は言った。
 天界軍によって甚大な破壊を受けた富士市だったが、中心部より始まった復興は、その外へと向かって確実に広がっていっていた。通りには車がひっきりなしに流れ、人々もまたちらほらと歩いている。
「まぁな」
 くたびれた企業制服姿の壮年の男が頷く。DOGの長、西園寺顕家だ。男は灰混じりの頭髪を掻きつつタバコを咥えて火をつけ、言った。
「どうにかこうにか、ここまで来た。次はすっかり廃墟になっちまってる富士宮市も復興させたいね。その頃にはもう俺はいないだろうが」
 西園寺顕家の任期は富士火口ゲートを破壊するまでである。
「勝てますか」
「前にも言ったろ。俺は勝てない勝負はやらねぇ」
「そうでしたね」
 茜は微笑した。
「ま、イスカリオテの野郎は足掻くだろうが、このまま行けば余程が無けりゃこっちの負けはねぇよ――確かに、楽には勝てんだろう。だが、現場の連中に油断は無いし、詰めを誤るほど俺もボンクラじゃねぇ、この調子なら押し切れる」
 そんな話をしていた矢先である。
 耳をつんざく轟音と共にDOG本部ビルの屋上が大爆発と共に吹き飛んだ。


「あははははははははははッ! 爆ぜろ爆ぜろ、燃えよ燃えよッ! 破壊の火が放つ輝きこそが至高の光ッ!!」
 空舞うルビーアイズの女が手より光球を放って、巨大な爆発を巻き起こしてゆく。
 街では人間のふりをしていたディアボロ達が正体を現し、次々に人々に襲いかかっていた。吸魂刃がその刃で貫いて魂を吸収し、吸収能力を持たぬディアボロは人々の手足を斬り飛ばして動けなくし、あるいは建物を爆破して破壊の宴を開始している。
 鮮血が吹き荒れ悲鳴が迸る。
「止めろッ!!」
「うん?」
 ヨハナが破壊の光球を連射していると、地上より赤光を纏った女が飛翔し、猛然とヨハナ目掛けて突撃してきた。
「ほうほう、妾に向かい来るか! あははは! 足掻け足掻けッ! 多少は逆らってくれんと面白く――」
 激怒しているらしき赤光女は一気に加速すると瞬く間に剣の間合いまで入り、冷たい殺意を迸らせる闇色の瞳でヨハナを睨み、嵐の如くに剣閃を巻き起こした。
「うにゃああああああ?!」
 一瞬で血塗れになったヨハナは悲鳴をあげながら旋回飛行し、魔力を全開に解き放つ。
 ヨハナが九人に増えた。
 驚愕に目を見開く赤光女の前で、増えたヨハナ達は次々に飛びかかり、赤光女が迎撃に振るった太刀に斬り裂かれ霧散してゆく。
「――幻影?!」
「あはっ、ご名答ッ!!」
 ただの幻であって、威力などない。しかしその隙に赤光女の背後に回りこんだヨハナ本体は腕をかざして光球を解き放った。
 大爆発が巻き起こった。
 一瞬で赤い襤褸雑巾のように変わり、光を失って大地へと落下してゆく神楽坂茜を見つめながら、ヨハナは額を手の甲でぬぐった。
「ふぅ……あ、あやうく出オチになる所じゃった。あれ、人間か? 痛いのじゃ、怖いのじゃ、痛いのじゃ……ムカツイタからより一層殺しまくってやるのじゃあああああッ!!!! 飛べる者は妾の周りに集まるのじゃ!」
 鮮血のヨハナは光弾を乱射しさらに破壊を巻き起こしてゆくのだった。


リプレイ本文

――彼女は自分にとって宝石で。
 然し敵の数も膨大であれば被害もまた大きく。
 他の者より彼女を――それが真の想いであっても、そんな自分を如何して彼女に誇れると言う。
「状況は把握した。会長の救出には自分があたろう」
 神凪 宗(ja0435)が緊急に入ったエアリアの無線に答えて言った。状況に対する戦力配置の必要性から、彼が向かうのが適任だと思われたからだった。
 だから、鬼無里 鴉鳥(ja7179)は歯を噛み締めてじっと堪えた。奥歯が割れそうな程に強い力で噛み締められ、小さく音が鳴っている。
(仲間が救ってくれる。あぁ、大丈夫だとも)
 だから、鴉鳥は耐えようと決めた。きっと神凪なら上手くやってくれる。きっと……
「鴉鳥」
 銀髪の青年――神凪宗は、そんな少女の様子を見て取り、その金と赤の瞳を見据えて言った。
「勝算ならばある。自分は必ず、彼女を連れて戻る」
「…………頼む」
 搾り出すように言った鴉鳥に、神凪は頷いた。
「天使軍ではなく、冥魔の軍勢がここまでの攻勢を富士市に仕掛けてくるなんて……会長さん、ご無事でいてください……」
 クリスティーナ アップルトン(ja9941)は呟き祈るように十字を切る。
「神楽坂さんは必ず戻るわ。だから、それまでヨハナを食い止め、被害を抑える事が、彼女の戦友たる私の使命よ!!」
 ナナシ(jb3008)が心に渇を入れるように叫んだ。
 ナナシは、あの濡羽色の髪の少女の事が心配だった。けれど、今は歯を喰いしばり泣かない。
(彼女が居ない間は――私はその代理として人々を守る剣となろう)
 誓いのように、心に呟く。
「ですわね……」
 クリスティーナは頷いた。彼女はハヅキの殉職が心残りでDOGに留まっていた。
「この街を天魔の好きにはさせない!」
 ハヅキ達が守ろうとしたこの街を、破壊などさせない。
(こんな時に冥魔が乱入して来るなんて……)
 陽波 透次(ja0280)の胸中にあるのはその思いだった。
(神楽坂さんも心配だ……どうか無事で――)
 青年は胸中で呟くと、太刀を手に薄暗い部屋の外へと向かった。


「会長は街に落ちていったか……あぁ、そうだ、西園寺顕家はどうしたんだ?」
 赤いランプが点灯している司令部の地下通路に足音を響かせながら、ファーフナー(jb7826)が無線のヘッドセットに問いかけた。
「消息不明だ。神楽坂会長と屋上に行って、それから音沙汰が無い。二人程部下を使って捜索させているが未だ報告が無い」
「そうか……」
 ファーフナーは顔を顰めた。
「移動時にこちらでも探しておく、支障の無い範囲でになるが」
「頼む」
 そんな会話も交わしつつ、撃退士達はどのように敵勢とあたるかを決めた。
「何人か、援護についてきてくださりませんか?」
 クリスティーナ、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)、透次、ファーフナーはそれぞれDOGの滅剣と潜入者とで三人一組のチームを作り、これを殲滅班として地上のデストロイヤーを討ち滅ぼす事を主担当とした。
 嶺 光太郎(jb8405)はDOGのインフィルトレイター四名と、エイルズが召喚したヒリュウ・ハートと共に空のフライングソードの対応へと向かい、ナナシと鴉鳥はエアリアとDOGの滅剣、聖騎士、星幽それぞれ一名と潜入者二名の計八名でヨハナへと向かった。
 神凪は会長の墜落地点の目撃情報を収集してからDOGの聖騎士と星幽の三名で救出に向かう。
 残る聖騎士三名と星幽三名はそれぞれペアを組み、二組はデストロイヤーの殲滅へ、一組は飛行して対空へと向かった。
 星幽達が聖なる刻印をかけDOG本部より撃退士達が出撃してゆく。
 街は破壊の音が鳴り響いている。
 空は金髪淡桃看護婦を中心に十二体のフライングソード達が彼女を守るように展開しており、地上のデストロイヤー達はこれを支援する為に、射程の関係上その足元付近の地上にある程度ばらけつつも固まっていた。
 地上の殲滅班は入り組んだ街並みの建物等を遮蔽に身を隠しながら進み索敵してゆく。
 対空組は潜入者達を除き、一斉に翼を広げ天空へと向かって飛びたってゆく。
 空は視界が通りやすく、飛行隊は即座に敵に認識される所となった。
「あはっ! 真っ向から迎撃に来るとは豪儀じゃなぁあああああああ?!」
 空舞う髑髏マークの看護帽をかぶった金髪ナースの少女は、迎撃に飛翔してきた撃退士達を認めると、笑い声と共に九体に分身する。
 その瞬間を狙いナナシはファイアーワークスでまとめて潰さんと予定していたが、爆炎の射程はおよそ十四メートル地点を中心、まだ射程外。
 九人になったヨハナ達は、空を前進しつつ手を翳し異口同音に叫んだ。
『『しからば妾も全力で答えてしんぜようッ!!』』
 九連の紅蓮巨弾が一斉に撃ち放たれた。
 次の瞬間、飛来する紅光の巨弾のうち二発をライフル弾が射抜いた。対ヨハナ班のインフィル二名が建物の陰より放った回避射撃だ。
 弾丸に貫かれた二発の紅蓮弾が陽炎のように掻き消え、しかし、残り七つの光弾は遮られる事なく、次々に撃退士達へと襲いかかってゆく。
 陰影の翼を広げる鴉鳥、咄嗟に身を捻り体を横に倒す。赤い光が宙を一瞬で駆け抜け、巨弾の端が鴉鳥の胴に中った。次の刹那、光球は大爆発を巻き起こ――さず、陽炎のようにふっと消えた。幻影。
 ナナシもかわしきれずに直撃を受け、しかしこちらもやはり消えた。他の撃退士達へも命中してゆくがやはり陽炎の如くに消えてゆく。光太郎へと飛んだ紅蓮巨弾は対飛剣班の四人のインフィル達が猛射して射抜き掻き消した。
 そのように八つの光弾は陽炎の如くに消え失せていったが――九つ目が壮絶な大爆発を巻き起こした。轟音と共に大気が震え、空が血の如き紅色に一瞬染まった。極大の赤い爆光。
 光の翼で飛行していたディバインナイトが身を爆ぜさせ血飛沫を撒き散らしながら地上へと落下してゆく。
『あはっ! た〜まや〜♪ 破壊の火が放つ輝きこそが至高の光ッ!!』
 一撃だった。
 艶然とした笑顔で悪魔少女は愉悦の声をあげる。女男爵、それは天使で言うならば権天使に伍す。
 さらに地上より、雨が逆流でもしたかの如く、光が次々に撃ち上がって来た。十三体のデストロイヤー達の一斉射撃だ。
 回避行動を取った直後の鴉鳥の身に二連続で光弾が命中して爆裂を巻き起こし、滅剣も二連の爆裂に呑まれ、もう一人のディバインナイトへは三連続で光弾が直撃し爆裂の嵐を巻き起こした。
 エアリアは銀光を放つ盾で光弾で受け止めるも、光弾が爆裂して炎に呑まれ、ナナシも撃ち抜かれて爆裂に呑まれたが、直後に無事な姿でその隣の空間に出現する。空蝉。
 小柄なヒリュウ・ハートは前進を続けながらローリングしすり抜けるように鮮やかに光弾を回避。
 血のように紅黒い翼を背に顕現させている光太郎、紅黒の翼で空を一打ちすると、急角度で旋回して飛来した一射をかわしつつ、回避先に来た二射目をローリングして身を捻り紙一重でかわす。三射目の直撃コース、光太郎は手に持つ赤黒の刃を無造作に一閃した。光弾が左右に割れ、それぞれ爆裂する。が、直撃を貰うよりは遥かにダメージは軽い。光太郎、負傷率五割二分。
 なお鴉鳥は負傷率十二割一分、黒いセーラー服の少女は意識が遠退きかけたが気力を振り絞って堪える。鴉鳥の隣を飛行していたルインズブレイドの男とディバインナイトの女が鮮血をふきあげながら地上へと落下していった。あちらは、耐え切れなかったらしい。
 後方を飛行するDOGアスヴァンより鴉鳥と光太郎へとそれぞれヒールが飛んだ。痛みが和らぎ傷が急速に癒えてゆき、光太郎全快、鴉鳥は負傷率九割まで回復。
 他方、エアリアは騎兵盾を掲げながら炎を裂いて飛び出し、翼から光の粒子を噴出しながら手近なヨハナへとランスを構え突撃してゆく。鴉鳥も翼をはためかせるとそれに続いた。
 だが、その進路を阻むようにフライングソード達が集まってくる。
「こいつら、なんか見覚えあるな……」
 同様に前進していた光太郎は、腕を刃状に変化させている人型ディアボロ達をみやり眉を顰めた。
 何処で見たのか。
 夜。
 月。
 黒猫。
 脳裏にフラッシュバックする映像。
 何処かの街でこれと似た敵と戦ったような――
 しかし、
(まあいいか)
 光太郎は思考を打ち切った。今はそれを考えるより敵を屠るべく集中する時である。思い出すのが面倒だった、という理由もちょっとあったが。
「――滅べよ屑が。死を振り撒くのがそんなにも楽しいか!」
 鴉鳥はアウルを全開に解き放つと、ヨハナの一体とスーツ姿の剣男が直線状に並んだ瞬間に、太刀を出現させ抜き打ちを仕掛けた。
 彼我の距離は十数メートル空いており完全に剣の間合いの外。だが、膨大な黒焔が収斂された刃が掻き消える程の速度で一閃されると、その軌跡より漆黒の閃光が飛び出した。
 唸りあげて黒い光波が空を貫き、スーツ男の身を貫き、その奥を舞うヨハナも捉えて、その腹をぶち抜いて、進路上のすべてを貫きながら彼方へと一直線に抜けてゆく。
『あっはぁっ!』
 愉快そうな声が響いた。スーツ男の身から血飛沫があがったが、貫かれたヨハナは陽炎の如くに掻き消えていた。
『は〜ずれっ♪ ぬしゃあマジ怒なのかやぁ?』
 幻影だった。残りの八人のヨハナ達は鴉鳥へと向かって、ちょいと小首を傾げつつ一斉に嘲りの言葉を発する。
 鴉鳥はヨハナ達を怒りを以って睨み返す。
「破壊の輝きこそが至高の光と謳うならば、貴様がその輝きに抱かれていろ」
 鴉鳥は、彼女の宝石を傷つけた諸々を――滅尽させたくて堪らなかった。
『うふふ、真っ直ぐじゃのう、かわゆいのう、かわゆいのう』
 ブロンドの女男爵達は微笑を浮かべ、異口同音に唱和する。
『けっどいっやじゃ〜、妾、他人を壊すのはすっきじゃっけど〜、自分が壊されるのはい〜やじゃぁあ〜! 妾は悪魔ッ! プロホロフカの悪魔ッ! 妾達こそ真なる悪魔! 思うように悪であり屑であるッ! プロホロフカ・デビルの唯一の掟は、汝真に自由たれ、汝が欲する事をせよ! それのみじゃあ! まっことの悪党を屑と罵っても褒め言葉よ、あははははははっ!!』
 ヘルキャット(性悪女)達は実に愉快そうに哄笑をあげた。
 その間にヨハナへと向かって距離を詰めているナナシ、隙あらば暗影陣で翼を狙いたい所だったが、どれが本体だか解らない。
(――それなら!)
 飛行する赤瞳の童女は、ヨハナの一体とその周囲を守る飛剣達に狙いを定め、アウルを全開に解き放った。
 刹那、赤、青、黄、色とりどりの閃光が空を走り抜け、轟音と共に爆炎が大気を揺るがす。
 壮絶無比の爆炎嵐が背広男とスーツ女と髑髏ナースを飲み込み、一撃で消し飛ばした。
 その破壊の力は女男爵の紅蓮の巨大魔弾に伍する――どころか僅かに勝る。爆砕された二体の飛剣が鮮血を撒き散らしながら地上へと落ちてゆき、ヨハナは消滅した。
『んにゃあっ?! こ、こ、こ怖いのぅ、でっも、はい消えたー! 幻影じゃ〜っ♪ くすくすくすっ♪』
 残りの七人のヨハナ達が歌う。直後、二発の弾丸が少女達の身を貫いた。対ヨハナ班のDOG射手二名の射撃だ。しかしやはりこれらも幻影で、陽炎のように二体は掻き消える。
 残ヨハナ五、これでようやく本体へと中る確率二〇パーセント。
 エアリアは、そのまま突撃し、鴉鳥が一撃を加えた飛剣男の胴をランスでぶち抜き撃墜した。付近にいたパンツスーツの女飛剣がエアリアへと斬りかかり、だがその刃が届くよりも前に対飛剣班のインフィル四人が猛射を浴びせて女を落とした。残飛剣八。
 前進する光太郎はニンジャヒーローを発動、五体が青年へと向かい、二体がナナシへと向かい、一体がハートへと向かった。
 光太郎、五体の飛剣が次々に飛び掛ってくる。背広男から横薙ぎに一閃された刃を急降下して回避し、横から詰めて来たスーツ女の突きを刃で払いながら飛行を止めずにそのまま抜けかわす、急降下してきた三体目の唐竹割が対応班の射撃で弾かれ、身を横に捻りつつかわす、左右から挟み込んできた四体目と五体目に対しては対応班インフィルの回避射撃で連携が一拍崩れた隙に一気に掻い潜って抜ける。援護が厚いのもあるが、純粋に速い。
 ナナシへと背広男とスーツ女が斬りかかり、悪魔の童女は、連続してその姿を掻き消し、また出現した。後に残されるのはジャケット。空蝉。
 なおハートは残像を残す勢いで回避しており、この召喚獣、動きがおかしい、とでも思ったかのように飛剣が目を見開いている。
 他方、地上、遁甲術を発動している神凪は壁走りを発動して家屋の壁を駆けつつ、目撃情報からあたりをつけた箇所を目指して駆けている。
「北の方角に固まっている。破壊者達は空の敵達の足元だ」
 殲滅班、地上から空への射撃を観測したファーフナーが無線に言った。殲滅班の面子はデストロイヤー達に奇襲を仕掛けるべく、入り組んだ路地を家屋等の遮蔽を利用して発見されないように隠れつつ迂回して回り込んでゆく。今の所、発見はされていない。だが、回り込む為には移動が必要で、移動には時間が必要だった。必要な時間は機動力と距離を元に算出される。回り込むという事は、移動距離が伸びる。そして集団で移動する際は、固まって移動するのならば、最も足の遅い者に合わされる。おまけに隠れながらである。
 必然、攻撃位置につくまでに時を要する事になっていた。
 空。
 ナナシ、髑髏のナース達を睨む。
 ヨハナ達はいずれも高速でうねりながら飛行し、ヨハナに相対しているナナシと鴉鳥とエアリアに対し、飛剣等や撃退士達の奥へと回り込んで一瞬の間壁とし、視界が切れる瞬間に壁の奥で交錯してからまた飛び出して来る。どれが本物かを見切るのは、容易ではなかった。ファイヤーワークスは警戒しているのか、壁とするものと一網打尽にされないように微妙に距離を置いているのが嫌らしい。
 しかし縦に重なった瞬間に鴉鳥が斬天「虚空刃」を放ち、ナナシの近くの飛剣の一体を貫き、その奥のヨハナの一体を掠めて抜けた。ブロンド少女の影の一つが掻き消える。残り四体、ナナシは魔導銃を出現させるとうちの一体へと狙いを定めて引き金をひいた。魔弾がナースの身をぶち抜き掻き消す。残り三。エアリアが突撃してゆく。
 他方、
「……こんなもんでいいな」
 光太郎が呟き、太刀を掲げる。周囲の空間に赤い色が浮かび上がり、それは急速に爬虫類の姿を象った。蛇。炎の蛇だ。それは一つではなく無数で、炎蛇達は牙を剥くと身をくねらせながら猛然と五体の飛剣達へと襲い掛かってゆく。
 炎蛇は腕を刃状にした背広男とスーツの女達の身に次々に喰らいつき、盛大に爆裂を巻き起こした。炎の衝撃が空を焦がしてゆく。だが飛剣達はその一撃だけでは落ちなかった。
「ファーフナーチームは対空援護に回る」
 空を劣勢と見たファーフナーは路地裏で足を止めると声をかけ、DOGの滅剣とインフィルと共に銃口を空へと向けた。
 ファーフナーが構えるPDWがフルオートで炎と共に弾幕を吐き出し、滅剣がショットガンを放ち、インフィルが光を集めてライフル弾を飛ばす。
 対悪魔の力を活性化させているファーフナーの射撃は、光太郎の一撃に焼かれた飛剣を瞬く間に蜂の巣にして撃墜した。その隣の飛剣の身に散弾と光の弾丸が突き刺さり、同様に血飛沫をあげながら地上へと落下してゆく。残飛剣六。
 さらに弾丸が地上より雨の如くに撃ち上げられ、ナナシに斬りかかっていた背広男とスーツ女の身が爆ぜ、鴉鳥の一撃を受けていた女が一撃で堕ち、男も三射を受けて血飛沫を撒き散らしながら堕ちてゆく。残り四。
 光太郎へとヨハナから二連の紅蓮魔弾が飛ぶが、地上から飛んだライフル弾に射抜かれて掻き消え、生き残りの三体の飛剣からの斬撃を光太郎は不規則に飛行・旋回しながら流れるように身を捌いてかわす。だがその瞬間、光の嵐が地上より光太郎目掛けて嵐の如くに撃ちあがった。
 ニンジャヒーローで注目を浴びている光太郎に対し、八体のデストロイヤー達が一斉に砲撃したのだ。
 天へと逆流する光の雨に対し、光太郎は回避射撃の援護を受けつつ身を捻り太刀をかざし、次々に掻い潜ってゆく。が、直撃コースに来た四発目を切り払って爆炎を抜けた後、五発目に直撃を貰い爆炎に呑まれた。大きく態勢が崩れ、さすがにかわしきれない。残りの三発が次々に直撃してゆく。光太郎の意識が赤い光の海の中に消し飛び、襤褸雑巾のようになった青年が鮮血を散らしながら地上へと落下してゆく。家屋の屋根に激突して転がり、屋根を赤く塗装しながら大地へと落ちた。それきりぴくりとも動かない。負傷率五十一割四分。
 残りの五体の破壊者達はヨハナの一体をランスで貫いて掻き消したエアリアを集中して猛爆撃し堕天の女聖騎士は盾を翳して砲撃の嵐に耐えている。
 残ヨハナ、二、本物である確率は二分の一、50%。
『ぬしゃあ怖いでバイバイじゃっ♪』
 二体のヨハナは声を響かせると連続して魔弾をナナシへと撃ち放った。はぐれ悪魔の童女は一発をかわし、一発が命中して掻き消え、三発目が直撃して大爆発が巻き起こった。壮絶な破壊力にナナシの態勢が大きく崩れた所へさらに四発目、追撃の紅蓮光球が直撃しさらなる大爆発を巻き起こす。激痛に童女の意識が千切れ飛び、地上へと落下してゆき家屋の屋根に激突した。負傷率二十割七分。二人のDOGアスヴァンはヒールを連続して飛ばした。二連のライフル弾の一発がヨハナ本体の身に突き刺さり、一発が幻影を掻き消した。
 ハートは飛剣の一体に纏わりつき、振り回される刃をひらひらとかわしている。
 他方、地上。
 壁走りで立体的にショートカットし迅速に路地裏を駆ける神凪は血の海の中、倒れ伏している濡羽髪の少女を発見した。
「生きているか?」
 駆け寄り声かけ抱き起こし顔叩くも、神楽坂茜はぐったりとしていて意識が無い。完全に昏倒しているようだ。左の肩に少女を腹からくの字にひっかけ左手をまわして担ぎあげる。米俵の要領だ。血で濡れたが無視する。青年は右手に直刀を携え、引き続き周囲を警戒しつつ後退に移る。ぼやぼやしていては敵が来る。
 殲滅班。
 エイルズチームは快速のエイルズが破壊者達が陣取る地点の背後、北方へと回り込み、DOGの二人は南側、正面の路地陰についた。
 透次チームも同様に南側。
 クリスティーナチームは西側、側面についた。DOGの聖騎士と星幽の二組もこちらである。
『カウント3で仕掛けます』
 背後に回りこんだエイルズは、家屋の陰より路上にて砲火を空へと撃ち上げ続けている破壊者達の様子を窺うと、まだ気付かれていないのを確認してから、無線に言った。
『了解』
『了解しましたわ』
 透次とクリスティーナが答える。他のメンバーもまた路地の陰で建物の壁に背をつけ武器を握り、突撃の時を待った。
 無線に声が響いてゆく、三、二、一。
 カウントを呟きつつ、エイルズレトラは家屋の陰から目を光らせ、仕込み杖を引き抜いた。妖刀の刃が陰の中でぬらりと輝く。少年は意識を矢の如くに鋭く振り絞る。
 カウント零。
 地を蹴り勢い良く飛び出した。獣の如く、疾風の速度で、奇術師の少年は放たれた一本の矢の如くに駆ける。
 視線の先、右腕を巨大な大砲に変化させているスーツ姿の男女は背を向けたまま、相変わらず空へと砲を向けている。
 一瞬で迫ったエイルズは背広男の後頭部へと、最上段に掲げた刃を猛然と振り下ろした。刃光が上から下へと走り抜け、背広男の後頭部から背中までが割れ、血飛沫が宙に飛び散る。破壊者は悲鳴すらあげず、身体を僅かに傾がせると、次の刹那、糸が切れた人形の如くに倒れた。
 そのごく近くに居た破壊者達――大体半数――が突然飛び込んで来て背後から仲間を斬殺せしめた少年へと振り返る。
『突撃!』
 透次は両手に影を凝縮した棒手裏剣を生み出すと、路地に飛び出し、突撃しながら次々に放った。透次とエイルズチームのルインズブレイドが黒光の衝撃波を放ち、インフィルトレイターが短機関銃を猛射する。
 エイズルへと振り向いた破壊者達へと漆黒の短刃がスコールの如くに降り注いで次々に突き刺さり、二連の黒光衝撃波と光輝く弾丸の嵐が空間を走り抜け、スーツ姿の男女が断末魔の悲鳴をあげながら次々に倒れてゆく。
 正面を向いていた破壊者達は周囲から血飛沫と絶叫が巻き起こりつつも即座に透次達へとその砲口を向ける。
 が、
「星々の幻想を御覧なさい、スターダストイリュージョン!」
 女の声が響くと共に、側面より煌く流星群の巨大な奔流が破壊者達の複数をまとめて薙ぎ払った。クリスティーナの星屑幻想だ。
「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ」
 クリスティーナは艶やかなブロンドの髪を宙に舞わせつつ、剣を振り上げ名乗りをあげて突撃してゆく。滅剣と聖騎士達がそれに続き、潜入者がアシッドショットを飛ばし、二人のアスヴァンはそれぞれヴァリキリージャベリンを飛ばして破壊者達を射抜いた。
 多方向からの奇襲が完全に決まった。
 ディアボロ達の死体が一瞬で量産された。しかし五体が生き残り三体が透次へと凶悪な破壊力を秘めた砲撃を飛ばし、二体が手足に赤光を宿してエイルズへと飛び掛る。
 透次は三体のうち一体の砲口が己にピタリと合わさった瞬間に大きく横に跳んでいた。刹那、爆音と共に風を巻き起こしながらすぐ隣の空間を輝く光球が突き抜けてゆく。かわした。着地と同時にすぐに方向を切り返し、ジグザグに動きながら突進してゆく。二体の破壊者達はそれぞれ光球が飛ばしたが、稲妻の如くに突き進む青年を捉えられず、砲弾は道路と家屋をのみ爆砕し、爆炎と共に土砂を噴き上げ、壁を粉砕した。
 接近した二人の聖騎士と滅剣が一体の破壊者を囲んで斬り刻み血河に沈める。残り四体。
 神凪は後方から追って来ていた二人の元に合流する。アスヴァンが会長へとヒールをかけて回復させた。
 空。
『あはははははははっ! ぬしらに妾の幻夢陣が見切れるかのぅ?!』
 ヨハナは哄笑と共に再び九人に分身する。
 だがその直後、色とりどりの壮絶な大爆炎がヨハナ達を呑み込んだ。
「んにゃああああああ?!」
 八体の幻影は一瞬で消し飛び、後には髑髏帽子を吹き飛ばされ、金髪少女がボロボロの姿で一人宙に浮いているのみだった。
「油断したわね」
 地上よりナナシが飛翔して来ていた。気絶から回復したのだ。ヨハナの顔から笑みが消え、ブロンド少女は機械じみた動きでナナシへと顔を向け、赤瞳をぎょろりと見開き睨みつける。紅蓮の巨弾が閃光の如くに宙を奔った。が、次の瞬間、悪魔の童女に届く前に宙で大爆発を巻き起こす。DOGインフィがライフル弾で撃ち抜き迎撃したのだ。
 対ヨハナ班のDOGインフィ達は回避射撃の後、再度マーキングの弾丸を放った。ヨハナは身を捌いて一発をかわしたが、一発の光弾が足先に突き刺さる。
『撃て!』
 ファーフナーはチームメンバーの二人とインフィ四人と共に銃口を空へと向け、飛剣達へと向かって一斉に射撃した。銃弾が嵐の如くに空へと向かって撃ちあがり、四体の人型ディアボロ達は次々にその身を貫かれ、血飛沫を撒き散らしながら地上へと落下してゆく。
 エアリアがヨハナへと猛然とランスチャージを仕掛けてヨハナは素早く横にスライドしてかわし、鴉鳥が詰めて漆黒の大太刀を一閃しヨハナの身が斬り裂かれて血飛沫があがる。
 地上。
 エイルズが杖剣を一閃し破壊者から血飛沫があがり、背後に廻り込んだDOGルインズが剣を一閃して追撃を入れ仕留めた。
 DOGディバインに二人が槍を繰り出し破壊者を貫き、間合いを詰めたクリスティーナが透刃を一閃させて首を刎ね飛ばし、また一体が血飛沫をあげながら倒れてゆく。
 最中、透次の瞳に冷気が噴出するかのような絶対零度の闇が宿った。男の全身より刃の如き赤光が嵐の如くに噴出する。それは、まるで絶望の叫びのようで――静岡天界軍と長らく渡り合ってきた一人の歴戦DOGインフィルが、ぎょっとしたように目を剥いた。彼等にとって、それは永い間、まさに絶望を体現していた死の光だった。
 闇色の瞳の青年は、狙い済まして刃を一閃した。赤色の衝撃波が唸りをあげて飛び出し、背広男へと天の力を爆裂させ、吹き飛ばして抜けた。破壊者は路上に転がり、動かない。一発で仕留めた。
 最後の破壊者は銃弾とルインズの剣に斬り裂かれて倒れた。アスヴァン達は翼を発動する。
「戦えるか?」
 神凪は目を覚ました会長にヨハナ対応の増援を依頼する。
「心臓が止まるまでは戦います」
 血濡れの黒髪少女は神凪に救出の礼を言って頷くと弓を出現させて飛翔し、雑居ビルの陰からヨハナへと向かって射撃する。神凪は自身もまた手近で最も高い雑居ビルに張り付き壁走りで駆け登り、状況を見渡すと88mmの魔導ライフルを出現させヨハナへと銃口を合わせる。
 空ではアスヴァン達が鴉鳥とナナシにヒールを飛ばし、鴉鳥は後退しながら鋼糸を放ち、ヨハナは急降下して回避しながらナナシへと突進し、横からエアリアが体当たりしてそれをブロック。堕天の聖騎士はランスを手放し、騎兵剣を出現させざまに一閃、ヨハナの身から血飛沫が噴出する。真紅の瞳を輝かせるヨハナは赤光宿る爪を赤雷の如くに走らせてエアリアへと叩き込み、薄赤の光が纏わりついた所へさらに嵐の如くに赤爪を振るう。エアリアの頑強な鎧が紙切れの如くに裂かれて千切れ、その下の身も引き裂かれて真っ赤な血飛沫が盛大にあがった。防御が半減した所に壮絶なレート差の一撃が炸裂しDOG副長が鮮血を撒き散らしながら落ちてゆく。
 直後、彼方より唸りをあげて三連の矢が飛来してヨハナの身に次々に突き立ち、炸裂した衝撃に大きく態勢を崩した。
『翼を狙って――今!』
 一連の攻防の間にヨハナの背後へと廻り込んだナナシは、闇を全身から噴出させると魔導銃に収束し撃ち放った。遠方より狙いを定めていた神凪もまた全身から闇を噴出して収束し魔弾を撃ち放つ。地上からのライフル弾と二連の闇の魔弾がヨハナの翼に突き刺さり、その片翼が吹っ飛ばされて散る。
 ヨハナは悲鳴をあげて錐揉みながら落下してゆき、雑居ビルの屋上に激突した。
 地上のDOG撃退士達は跳躍すると光の翼を顕現し次々に空へと飛翔してゆく。四人のアスヴァン達はナナシと鴉鳥、エアリアへとヒールを飛ばしてナナシと鴉鳥を全快させる。
「神楽坂さん、裏取って!」
 会長が先の矢の如くに高速で飛んで来るのを見たナナシは叫びつつ、ハンマーを手に出現させ猛然とヨハナへと突進してゆく。鴉鳥もまたヨハナを追い、神凪は雑居ビルの屋上から引き続き魔導ライフルで魔弾を放ち、身を起こしたヨハナを撃ち抜いた。
 魔弾に穿たれてつんのめりつつヨハナは、血を流す肩を抑え哀れっぽく言った。
「し、四方八方からか弱い娘をタコ殴るなんて酷いのじゃ、酷いのじゃ!」
「自分が劣勢になったらそれかぁあ!」
 鴉鳥は急降下しながら怒声をあげつつ鋼線を放ち、ヨハナは必死に飛び退いてかわし、背後から赤光を纏った会長が瞳から冷気を噴出させながら一刹那に三条の光を巻き起こした。ヨハナの背より盛大に血飛沫があがり、態勢が崩れた所へ正面から間合いを詰めたナナシの戦槌が唸りをあげて炸裂する。
「お、お、お……!」
 目を見開きよろめくヨハナは呻き声を洩らしつつも、不意に猛然と加速し注射器を出現させてナナシへと飛び掛った。
 しかしナナシは冷静に空蝉を発動してこれを飛び退いてかわし、翼を広げたDOG撃退士達が雪崩れの如くに迫った。
「年貢の納め時ね、ヨハナ」
 退路を阻むように間合いを取りつつナナシが言い、ヨハナは、
「わ、妾もここまでかや……」
 としおらしげに呟きつつ、おもむろに足元に向かって紅蓮の魔弾を放ち大爆発を巻き起こした。
 爆炎はヨハナ自身を焼き――ビルの屋上に大穴を出現させヨハナの身をビル内へと落下させてゆく。
「逃げる気です!」
 会長がはっとしたように叫び、撃退士達は即座に穴中へと飛び込んだ。内部を見回すと襤褸雑巾のようになったヨハナが階段を駆けて降り姿を消してゆく所であり、撃退士達はそれを追い、階段を駆け下りる。
 が、
「……消えた?!」
 それなりの長さの階段であったのだが、ヨハナの姿が掻き消えていた。階段には傷ついた野良猫らしき黒猫が一匹丸まっているのみである。
『ヨハナが消えたわ、何処にいるか解る?』
 ナナシは無線で問いかける。
『えっ? すぐ近く、ビル内にいる筈よ』
 先にマーキングをつけたDOGインフィからはそんな言葉が返って来る。
 撃退士達は階段を降りつつ隈なく視線を走らせるが、ヨハナの姿は見つからない。
『あっ、また動き出した! すごい速度!』
『どっち?!』
 撃退士達はDOGインフィの指示の元、ヨハナを追跡したが、その姿は確認できず、市民を襲っている吸魂刃の一団と遭遇しその対処などで引き離され、ついに市内より離脱されてしまったのだった。


 ヨハナ撤退と共に吸魂刃達は富士市から引き上げた。
 戦後、ナナシは会長に抱きついて泣いた。茜は抱きとめつつ「心配かけてしまって御免なさい」と申し訳なさそうにナナシと、それを見ていた鴉鳥に言った。
 直後、プロホロフカ軍団の首魁、カーベイ=アジン子爵が静岡県最大の人口を抱える都市、静岡市へとヨハナと同規模の吸魂刃の部隊を率いて攻撃を仕掛けたとの報が入った。
 市とその周辺の防御についていたDOGと撃退署の撃退士達が大挙して迎撃に入り、すわ子爵級悪魔と一大決戦になるかと思われたが、双方の被害が本格的に増す前にカーベイ子爵はあっさりと退いていった。
 ヨハナ部隊に富士市の撃退士達が敗れていた場合、静岡市周辺の守備についていた彼等の大部分は富士市の応援に出撃して静岡市周辺は手薄になっていた筈で、そうなっていたら凄まじい被害が出ていたと関係者達は顔を青ざめさせて洩らしていた。


「そうですか、西園寺さんは……」
 後日、クリスティーナは先の依頼で救出した草薙皐に会いに行った。
 病院でリハビリを続けている彼女の話では、DOG撃退長、西園寺顕家はあの後、本部の瓦礫がどかされるとその下から発見され、急遽病院に担ぎこまれ一命は取り留めたのだが、彼は未だ意識が戻らないのだという。
「私の力なんて微々たるものですけど、早く現役に復帰しなくちゃですね……頑張りますよ」
 皐はそう答えた。
 クリスティーナは黒髪の娘を見据えると言った。
「富士市の事、お任せしますわよ」
「はい。私達の――私達の、街ですからね」
 かくて、クリスティーナは皐に別れを告げ学園に帰還したのだった。



 了



依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 誓いを胸に・ナナシ(jb3008)
 無気力ナイト・嶺 光太郎(jb8405)
重体: 無気力ナイト・嶺 光太郎(jb8405)
   <空の猛攻を捌きつつ対空一斉砲火を浴びた為>という理由により『重体』となる
面白かった!:11人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
斬天の剣士・
鬼無里 鴉鳥(ja7179)

大学部2年4組 女 ルインズブレイド
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍