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みんなの思い出
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オープニング
「伊豆半島の復興を妨害しているゲリラサーバント達を一掃する」
これが今回、静岡の企業連合撃退組織ＤＯＧの長である撃退長・西園寺顕家等が自ら大部隊を率いて伊豆半島に入った理由である。
伊豆半島でゲリラ活動を行っているのは、旧ガブリエルゲートを根拠地としていたサーバント達だ。
彼等がそれを行っているのは、時間稼ぎの為だと目されている。静岡の企業連合としては利害の関係から早急に伊豆を安全な地域とする必要があり、サーバント達にそれを邪魔されれば、静岡人類側としては、まずこれを排除し安全を確保しなければならない。
富士山のイスカリオテ側が時間を稼いでいるのは「先の死天大戦の敗北で多数の戦力が失われたので、その補充の為に、サーバントを大量作成するだけの時間を稼ぐ必要がある」からであると目されている。
静岡天界軍は人間の捕獲移送能力に優れたサーバントを生み出して防御の手薄な各所へと送り込み、人攫いの活動、通称『狩』と称される行為を頻繁に行っていた。それはサーバントの材料を確保する為、であるなら、敵の戦略とその狙いの辻褄が合う。
しかしそれが解っていても『前撃退長の暗殺』『後継者である副長同士による内部抗争を煽られる』『内通者を仕込まれる』『連合内の企業同士が疑心暗鬼になり足並みが揃わなくなる』『天界信奉組織による妨害工作』『天魔排除主義者による要人暗殺騒ぎ』イスカリオテ・ヨッドによって様々な謀略が仕掛けられ、ＤＯＧはまとまっての大規模部隊を繰り出せずにいた。
先の大戦の勝利よりさらに半年に及ぶ苦闘の末、それらを撃退士達の活躍によって身動き取れる程度になんとか治められたのはつい先日の事である。
「で、やっとこさ伊豆に出撃出来たと思ったら、ギメル・ツァダイが出てくるとか想定外の事になってるんだがな」
目が死んでる系のくたびれた壮年男、西園寺は先の大損害を思い返して嘆息した。かつての京では百人以上を薙ぎ払ったと謳われる笑う爆炎天使、非常に厄介な敵である。
「だがまぁ、やることは同じだ。伊豆の天界勢力を一掃する。大兵力を以って、山野を巡りゲリラの巣を一つ一つ虱潰しにしてゆく――そういう予定だったんだがよ」
予定だったのだが。
「富士火口ゲートのイスカリオテが動いただぁ？」
片腕であるカワード・ホスローが報告する。
「北と北西から伊豆半島に迫っています。ついでに、これに呼応する形で山野に潜んでいたゲリラサーバント達が半島中部で集結し北上を開始、こちらも途中で二手に分かれて二路から三島市へと迫ってきているとの事。四方から包囲してこちらを撃破するつもりですかね」
「……イスカリオテの野郎、えらい中途半端な局面と戦力で博打にきやがったな」
らしくない動きだ。
何か策でもあるのか、それとも伊豆を圧迫した事による流れだろうか、解らない。解っているのは敵が迫ってきている事だけだ。
「どうします？」
カワードが不安を滲ませて問い、西園寺はぶっきらに答えた。
「決まってる、受けて立つぞ。空対空のヘリは失ったが総戦力ではこちらの方が上だ。今までの積み重ねがある。想定外の展開になったが、敵に完全に態勢を整えられてから勝負するよりゃ随分マシだ。ここで敵軍に痛打を与えりゃ後の富士山の攻略戦がぐっと楽になる」
男は卓上に地図を広げると、
「各個撃破といきたいが、復興途中の三島市は守らにゃならん」
ピンを幾つか要所に刺してゆく。
「だから両方に前線を張る。南北抑えつつ中央の駐屯所に本隊を置いてこれが予備兵力を兼ねる」
「正攻法ですな。ただ、単純にぶちあてるとなると現場の地力次第って戦略になりますが。勝てますかね」
言い募るカワードへと西園寺は視線を向ける。
――危機感を抱いている、焦っている。
そんな言葉が脳裏をかすめた。先の敗戦が影響しているのかもしれない。
カワードでこれだから、下はあるいはもっとかもしれない。風見鶏が回り始めると多くは脆い。
「敵は勢いありますよ。特に集団戦で一番厄介なのは広範囲爆炎のギメル、次に竜に乗っててブレスと範囲光柱を持ってるリカって具合ですが、この二柱は一緒に行動しています。生半可じゃ止められません」
「浮き足立つな。勝ち目が薄いならハナから戦わねぇよ」
西園寺は半眼で鼻を鳴らした。
地図上にピンを一つ刺す。
「三島市の中央から境を流れる川沿いには山地からのゲリラどもに備えて復興用の重機も使って陣の築城がされている。今年の一月に抑えてから既に半年、アウル行使者じゃねぇ連中の手も借りて基礎となる地形の改造はおよそ済んでる。範囲がそれなりに広いから手厚くはないが、塹壕くらいなら確か出来てた筈だ。そんで、ネフィリム鋼のバリケードを持ってきてあるから、倉庫から全部出せ」
「全部ですか」
「使い所だ。非アウル行使者も総動員して川沿いの斜面に突貫で組み立てて並べろ。そこで南から来てるギメルとリカの部隊を迎え撃つ」
「なるほど……しかし、川沿いのあれは西から南の半ばまでの大きな川は大丈夫ですが、それより以東の細い川の方がリカの工作で干上がっていますので防御効果が落ちています。東にはカラスの別働隊がいますから、回りこまれて防御が薄い横から突かれそうですが」
「カラスか」
西園寺顕家は呟いた。黒い天使。なかなか強かな男と聞く。だが、強かだけに、
「奴ぁ決死の覚悟って構えには見えねぇな。大幅に力が減衰してるし、ギメルのような爆炎がある訳でもない。サーバントは青銅兵や銀騎士が中心だ、突撃は脅威だが、バリケードを並べりゃ足は止まる。一部隊をあてれば十分止められる筈だ。今は動けるヘリの数が激減してるから問題はドラゴンをどうするかだが……自前で飛んで貰うか、射手を並べて地対空で撃ち落して貰うって形だな。前からやってた形だ。これはリカとギメルの方面にも言える。高度制限が無い空対空がねぇと頭上をスルーされて街を爆撃されて解ってても行かざるをえない陽動をかけられる可能性もあるが、予備戦力はその為の物でもある。人員割いて重要地点は守るから最前線の連中は後方は考慮に入れなくて良い」
「なるほど、では北は」
「そっちは兵力差でゴリ押す」
北にはまだ陣地も無い。敵兵の能力の情報すらないのだ。敵の新サーバント達の情報はまったく無いか、少ないというものが多い。下手な策を打てば逆に不利になるから、正面からあたらざるをえない。非常に危険な状況といえた。こういう場合、まず先発隊で一当てして情報を引き出して次に本命を繰り出す、というのがセオリーだったが、この状況だとまず捨て駒になる。必死が前提となるとその戦術は撃退士達とは相性が悪い。だから出来るだけまとまって有利を生み出し危険を減らしてぶつかる。
「南の二つは人員抑え目でなんとか切り抜け、北方に投入する。そうすれば、一人一人が倒さなければならない敵の数は人員比で減る。イスカリオテの本隊は特に厄介だろうが、さすがに三倍ぶつけりゃ勝てると思いたい」
「敵は天魔ですからな。一体何がどんな能力の敵が飛び出してくるか……しかし三倍の頭数なら……ただ、そう思って大敗した例なんて史上には沢山ありますから、油断はできませんが」
「正念場だ。頼むぜ」
かくて、部隊が編成され三島市より南北へと出撃してゆく。
伊豆半島での大きな戦いが、今まさに巻き起こらんとしていた。
これが今回、静岡の企業連合撃退組織ＤＯＧの長である撃退長・西園寺顕家等が自ら大部隊を率いて伊豆半島に入った理由である。
伊豆半島でゲリラ活動を行っているのは、旧ガブリエルゲートを根拠地としていたサーバント達だ。
彼等がそれを行っているのは、時間稼ぎの為だと目されている。静岡の企業連合としては利害の関係から早急に伊豆を安全な地域とする必要があり、サーバント達にそれを邪魔されれば、静岡人類側としては、まずこれを排除し安全を確保しなければならない。
富士山のイスカリオテ側が時間を稼いでいるのは「先の死天大戦の敗北で多数の戦力が失われたので、その補充の為に、サーバントを大量作成するだけの時間を稼ぐ必要がある」からであると目されている。
静岡天界軍は人間の捕獲移送能力に優れたサーバントを生み出して防御の手薄な各所へと送り込み、人攫いの活動、通称『狩』と称される行為を頻繁に行っていた。それはサーバントの材料を確保する為、であるなら、敵の戦略とその狙いの辻褄が合う。
しかしそれが解っていても『前撃退長の暗殺』『後継者である副長同士による内部抗争を煽られる』『内通者を仕込まれる』『連合内の企業同士が疑心暗鬼になり足並みが揃わなくなる』『天界信奉組織による妨害工作』『天魔排除主義者による要人暗殺騒ぎ』イスカリオテ・ヨッドによって様々な謀略が仕掛けられ、ＤＯＧはまとまっての大規模部隊を繰り出せずにいた。
先の大戦の勝利よりさらに半年に及ぶ苦闘の末、それらを撃退士達の活躍によって身動き取れる程度になんとか治められたのはつい先日の事である。
「で、やっとこさ伊豆に出撃出来たと思ったら、ギメル・ツァダイが出てくるとか想定外の事になってるんだがな」
目が死んでる系のくたびれた壮年男、西園寺は先の大損害を思い返して嘆息した。かつての京では百人以上を薙ぎ払ったと謳われる笑う爆炎天使、非常に厄介な敵である。
「だがまぁ、やることは同じだ。伊豆の天界勢力を一掃する。大兵力を以って、山野を巡りゲリラの巣を一つ一つ虱潰しにしてゆく――そういう予定だったんだがよ」
予定だったのだが。
「富士火口ゲートのイスカリオテが動いただぁ？」
片腕であるカワード・ホスローが報告する。
「北と北西から伊豆半島に迫っています。ついでに、これに呼応する形で山野に潜んでいたゲリラサーバント達が半島中部で集結し北上を開始、こちらも途中で二手に分かれて二路から三島市へと迫ってきているとの事。四方から包囲してこちらを撃破するつもりですかね」
「……イスカリオテの野郎、えらい中途半端な局面と戦力で博打にきやがったな」
らしくない動きだ。
何か策でもあるのか、それとも伊豆を圧迫した事による流れだろうか、解らない。解っているのは敵が迫ってきている事だけだ。
「どうします？」
カワードが不安を滲ませて問い、西園寺はぶっきらに答えた。
「決まってる、受けて立つぞ。空対空のヘリは失ったが総戦力ではこちらの方が上だ。今までの積み重ねがある。想定外の展開になったが、敵に完全に態勢を整えられてから勝負するよりゃ随分マシだ。ここで敵軍に痛打を与えりゃ後の富士山の攻略戦がぐっと楽になる」
男は卓上に地図を広げると、
「各個撃破といきたいが、復興途中の三島市は守らにゃならん」
ピンを幾つか要所に刺してゆく。
「だから両方に前線を張る。南北抑えつつ中央の駐屯所に本隊を置いてこれが予備兵力を兼ねる」
「正攻法ですな。ただ、単純にぶちあてるとなると現場の地力次第って戦略になりますが。勝てますかね」
言い募るカワードへと西園寺は視線を向ける。
――危機感を抱いている、焦っている。
そんな言葉が脳裏をかすめた。先の敗戦が影響しているのかもしれない。
カワードでこれだから、下はあるいはもっとかもしれない。風見鶏が回り始めると多くは脆い。
「敵は勢いありますよ。特に集団戦で一番厄介なのは広範囲爆炎のギメル、次に竜に乗っててブレスと範囲光柱を持ってるリカって具合ですが、この二柱は一緒に行動しています。生半可じゃ止められません」
「浮き足立つな。勝ち目が薄いならハナから戦わねぇよ」
西園寺は半眼で鼻を鳴らした。
地図上にピンを一つ刺す。
「三島市の中央から境を流れる川沿いには山地からのゲリラどもに備えて復興用の重機も使って陣の築城がされている。今年の一月に抑えてから既に半年、アウル行使者じゃねぇ連中の手も借りて基礎となる地形の改造はおよそ済んでる。範囲がそれなりに広いから手厚くはないが、塹壕くらいなら確か出来てた筈だ。そんで、ネフィリム鋼のバリケードを持ってきてあるから、倉庫から全部出せ」
「全部ですか」
「使い所だ。非アウル行使者も総動員して川沿いの斜面に突貫で組み立てて並べろ。そこで南から来てるギメルとリカの部隊を迎え撃つ」
「なるほど……しかし、川沿いのあれは西から南の半ばまでの大きな川は大丈夫ですが、それより以東の細い川の方がリカの工作で干上がっていますので防御効果が落ちています。東にはカラスの別働隊がいますから、回りこまれて防御が薄い横から突かれそうですが」
「カラスか」
西園寺顕家は呟いた。黒い天使。なかなか強かな男と聞く。だが、強かだけに、
「奴ぁ決死の覚悟って構えには見えねぇな。大幅に力が減衰してるし、ギメルのような爆炎がある訳でもない。サーバントは青銅兵や銀騎士が中心だ、突撃は脅威だが、バリケードを並べりゃ足は止まる。一部隊をあてれば十分止められる筈だ。今は動けるヘリの数が激減してるから問題はドラゴンをどうするかだが……自前で飛んで貰うか、射手を並べて地対空で撃ち落して貰うって形だな。前からやってた形だ。これはリカとギメルの方面にも言える。高度制限が無い空対空がねぇと頭上をスルーされて街を爆撃されて解ってても行かざるをえない陽動をかけられる可能性もあるが、予備戦力はその為の物でもある。人員割いて重要地点は守るから最前線の連中は後方は考慮に入れなくて良い」
「なるほど、では北は」
「そっちは兵力差でゴリ押す」
北にはまだ陣地も無い。敵兵の能力の情報すらないのだ。敵の新サーバント達の情報はまったく無いか、少ないというものが多い。下手な策を打てば逆に不利になるから、正面からあたらざるをえない。非常に危険な状況といえた。こういう場合、まず先発隊で一当てして情報を引き出して次に本命を繰り出す、というのがセオリーだったが、この状況だとまず捨て駒になる。必死が前提となるとその戦術は撃退士達とは相性が悪い。だから出来るだけまとまって有利を生み出し危険を減らしてぶつかる。
「南の二つは人員抑え目でなんとか切り抜け、北方に投入する。そうすれば、一人一人が倒さなければならない敵の数は人員比で減る。イスカリオテの本隊は特に厄介だろうが、さすがに三倍ぶつけりゃ勝てると思いたい」
「敵は天魔ですからな。一体何がどんな能力の敵が飛び出してくるか……しかし三倍の頭数なら……ただ、そう思って大敗した例なんて史上には沢山ありますから、油断はできませんが」
「正念場だ。頼むぜ」
かくて、部隊が編成され三島市より南北へと出撃してゆく。
伊豆半島での大きな戦いが、今まさに巻き起こらんとしていた。
リプレイ本文
該当リプレイは以下のＵＲＬの特設ページで公開されております。
http://www.wtrpg9.com/event/event_shiten/index
http://www.wtrpg9.com/event/event_shiten/index
依頼結果
＜ガブリエルとの戦いで＞という理由により『重体』となる
