.


マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2017/08/04


みんなの思い出



オープニング

「起点は直に完成する」

 そう言ってアカシャは、ゲート外の様子を各自の頭の中に直接映して見せる。
 崩れたビル。抉れた道路。瓦礫に埋まり、跋扈するディアボロやサーバントを前に逃げ場を失った住民達。傷つき膝をつく者達の中には、確かにエリスやメイド達の姿も含まれていた。

 始まりは街一つ。だがこの崩壊はやがて街から国へ、国から星へと広がり、やがて世界を完全なゼロへと戻す。
 そしてまっさらになった次元で、今度こそヒトが安寧に暮らせる世界を創るのだ。

「もはやそれを止めるだけの手段をお前達は有していない」

 お前達の持っていたスキルは、既に情報の中に刻んだ。

 こうなる事を選択したのは、この世界に生きるヒトの“哀しみ”という意思。“幸せになりたい”という願い。
 さあ終わらせよう。一度、この世界を。
 そしてすぐに新たな生命が始まる。互いに傷つけ合う事のない、平穏な世界が。

 そのアカシャの言葉に呼応するように。
 映像の向こう、1匹のディアボロが眼前の一般人へと爪を振り下ろし――


「キエエェェェイ!!」

 突如、一閃。

 気合の声と共に飛び込んできた人物が、ディアボロを両断していた。


 麻呂眉おちょぼ口で白粉顔の、神社の神主。手にした妖刀『斬鉄剣』でディアボロを一刀に伏し、懐から小さな壺を取り出して封を解く。
 瞬間、中に入っていたチーズ霊が神主に憑依。

\チーズうめぇ!/

 黄色いオーラを噴きながら、チーザー神主は次々とディアボロを薙ぎ払っていく。



 弾幕をすり抜けた1体の“銀”。切っ先の届く範囲内にミコトを捉え――

 金属音。
 飛び散ったのは、“銀”の頭部。
 遅れて銃声が届く。

 それが遠方からの狙撃だと理解する前に、更に2体目の“銀”にも穴が開いた。

『ヘッドショット。命中。続いて3体目――命中』
『南から侵攻する一群あり。爆装の使用許可求む』
『許可する』
『了解。爆破』

 轟音。
 炎と黒煙が上がり、塀の向こう側に溜まっていた新手の“銀”がまとめて吹き飛ぶ。

「火線を切らすな。撃ち続けろ」

 現れたのは早上の部隊。十字砲火による同時射撃と爆薬を駆使して、“銀”の前線を押し返す。
 部隊の前衛には、無論、栄一の姿も。

「栄一さん…!」
「もう二度と見殺しにはしない!」

 防衛の輪に加わり、幸恵と背中合わせで銃を握る。

 一方、早上に問う涼介。

「部隊は動かせないはずじゃ…」
「民間人の救助は撃退庁として至極当然の任務だ」

 故に、正当な動員。
 憚る必要など何も無い。

「って言っても〜、やっぱりちょっと敵が多すぎよね〜」

 途絶える事無く湧いてくる“銀”の数に、ミコトが溜息をこぼす。
 その時だった。

「つまり敵でなくなれば良いと言う事ですねぇ」

 輪の外側で声。
 とうに失せたとばかり思っていたウォランが、そこに居た。

 直後、動きを止める“銀”達。

「どうやらコピーのようですが、元は私が作ったモノですからねぇ」

 ウォランを主と認識し、“銀”達は街で暴れる他のディアボロやサーバントの掃討へと向きを変えた。



 交差点を埋め尽くすケモノの群れ。そこへ紫電と斬撃が降り注ぎ、蠢いていた面積にごそりと穴が開く。

「おいコラ、テメエのしょっぱいチャンバラのせいで威力が落ちちまっただろーが!」
「黙れ乾電池。貴様の投げた豆電球が元から弱すぎただけだろう」

 ハルとアーリィ。
 翼で翔けながら、跋扈する下級天魔のコピー体達を爆撃機の如き勢いで吹き飛ばしていく。

 するとその往く手を阻むように、全高十数mはあろうかという特大の人狼が出現。
 振り上げた爪が台風のようなうねりを起こしながら空中の2人を襲う。

 寸前、もう一つの台風が渦を巻いた。

 ビルの間から伸びた巨大な猫手が、暴風と共に巨狼の手を叩き落とす。

「悪そうな狼だなー。大次郎、やっちゃっていいぞー」

 巨猫ディアボロの大次郎と、その頭に乗った女悪魔フェルミ。
 怪獣大決戦。大次郎は音速ねこぱんちを繰り出して、敵の巨狼と壮絶な格闘戦を始めた。

 その交差点に面したビルの中。崩れた壁材に挟まれて逃げ遅れた会社員達の救助に当たっていたレスキュー隊員が、仲間達と息を合わせる。
 ジャッキを差し込み、瓦礫を押す。しかし想像以上に塊が大きく、思うように持ち上がらない。

 だが次の瞬間、何かの腕がゆっくりと瓦礫を押し退けた。

 3mはあろうかという巨大な体躯。
 全身の皮膚が灰色のケロイド状に腫れ、右腕は自身の身長と同じくらいにまで歪に肥大化した、青い眼と赤い眼の2体のディアボロ。

 隊員達は、そのディアボロを知っていた。
 まさかという気持ちを飲み込み、2体の眼を見てただ頷きだけを返す。

「よし、急ぐぞ!」

 隊員達は寄り添うように付いて来る“彼ら”と共に、要救助者を安全なエリアへと担ぎ出した。



 遠くで聞こえ始める反撃の音。
 その中で、エリスはゆらりと立ち上がってエリーを見やる。

「…そうね、あんたの言う通りだわ」

 みんなから好きだと言ってもらえる自分。
 “彼”から好きだと言ってもらえる自分。
 だがその自分は、みんなや“彼”にとっての自分であって、自分にとっての自分ではない。
 それでも、自分を好きだと言ってくれるヒト達がいる。

 みんなを好きでいる自分。
 “彼”を好きでいる自分。
 必要だったのは、ただそれだけ。

 ようやく気が付いた。
 伝えよう。この気持ちを。

 だから、

「こんな所で立ち止まってる場合じゃなかった!」

 全力解放。
 ドンッという衝撃を伴ってアウルのオーラが噴き上がり、眼帯を剥ぎ捨てた右の瞳が金色へと変わる。

 瞬間、アウルを帯びて実体化する、大量の白いうさぬい。

 出発前に受け取った“例のブツ”。対エリー用に突貫工事で新調した、量産型のうさぬい魔具。
 これまでは戦闘で複数のぬいぐるみを使う事はできなかった。だが今、この瞬間なら!

「いいわねぇ…!! どこまでやれるか見てあげるわぁ♪」
「負けるかこなくそー!!」



 ゲート内部。

『援軍のお届けです』

 光信機からオペ子の声。

 終わっていない。
 何一つ潰えていない。
 ヒトは哀しみに囚われ悲観するだけの存在では決してない。


 ――希望は、消えてなどいない。


 ふと気配を感じ、アカシャは振り向く。

 リーゼが立ち上がっていた。

 刹那、彼の姿が消えた。
 否、消えたように見えた。
 一瞬で眼前へと距離を詰め、拳を振るうリーゼ。だが当然、その一撃はアカシャに見透かされt

 めきり

 リーゼの拳がアカシャの頬にめり込む

 瞬間、スローモーションのように映っていた時間が正常に戻り、アカシャは衝撃と同時に凄まじい距離を吹き飛ばされて岩壁に叩きつけられた。

 策は通じない。
 使い慣らしたスキルも効かない。
 ならばこの身は、拳を握るのみ。

 それはアウルの奔流。

「トレースが、追いつかない…」

 困惑するアカシャ。ふらふらと身を起こし、顔を上げる。
 すると視線の先で、他の全員も再び両の足で大地に立っていた。

 リーゼの拳に、炎と雷の意志が宿る――

「世界を創るのは1人じゃない」




前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)が立ち上がりながら言う。

「手段を有していない? “無い”と決めつけるのは早いよ。本気出すの忘れてたのに調子乗らないで欲しいわー」

 眼鏡を外して放り投げ、

「赤い魔眼に色違いの翼とか…中二全開め!(びしぃ指差し」
「……(困惑」
「おィ、そりャつまり俺も中二だって言ってんのかよ」

 “赤眼”のルディがむくりと起き上がる。

「え。あ、うん、そうだね思春期だね(棒」
「テメェは後でレート全開の腹パン決定だなァ?」
「ヤメテ!?」

 他方で、佐藤 としお(ja2489)もむくり。

「痛っつつ……。こんだけ言っても分かって貰えねぇって事は、喧嘩するしかねぇって事か……」
「まだ…立て、ます」

 続くRehni Nam(ja5283)。

「私、は、負けない」

 過去の悲劇ばかりに目を向け、今の…過去の幸せを見ようとしない貴方に!
 否定ばかりで、肯定を知らない貴方に!

「負けるものかぁ!!」

 直後その叫びに並んで、近くの瓦礫が爆ぜた。

 ディザイア・シーカー(jb5989)。
 自身に被さっていた砕片の山を内から吹き飛ばして立ち上がる。

「ハハハ、お嬢が気合入れてんだ! こんな所で無様晒すわけにはいかねぇだろう?」

 と言うか早くお嬢に会いたいんだ!
 エリーとの結果を聞きたいんだ!
 抱きしめて褒めてやりたいんだ!
 だから、ここで倒れてる暇などない!

「今のお前は只の邪魔者、全力で叩き伏せてやらぁ!!」

 一方のレフニーも、気力が噴き上がる。
 友人と、家族と、仲間達と築いてきた数々の想いを抱き、前を向いて未来へ。

 と、次の瞬間、

\がおーん!/

 気合につられて、彼女の召喚獣――クマーニ――が勝手に顕現。
 それに慌てたのは、召喚主であるレフニー自身だった。

(貴方はいろいろ秘密だから出てきちゃだめ?!)
\がお?/

 レフニーが時折使っている白くまー(キグルミ)とそっくりなクマーニ。
 だが白くまーの中身が自分であるという事は周囲には秘密なのだ!

(いえ、私が召喚できる事は知られていないから大丈夫大丈夫)

 平静を取り戻しつつ拳を握り、

「共に戦いましょう白くまー!」
\がお!/

 アカシャの影響で具現化しただけの赤の他人(くまー)と言い張る。

 そうして再起した一同と並び立ち、再びジェンティアンが口を開いた。

「救世主ごっこもそろそろ終わりにしようか」

 それに続くように、樒 和紗(jb6970)が懐から“想い”の片輪を取り出す。
 2つで対となる指輪。1つは自分が、もう1つはリーゼが持っていた。
 【虹霓】の霓。自らの指にはめたそれにそっと触れ、アカシャに言う。

「この世界は貴方だけのものではありません」

 だが力でねじ伏せたくはない。
 暴力による強制ではなく、互いを認め合う共存。
 限界を超えた全力で挑みつつも、諦めず、この想いを。

 対して、ジョン・ドゥ(jb9083)が告げる。

「尚も不殺を貫くと言うなら止めはしない。ならば私も私というセカイを貫こう」

 静かに、されど荒々しく、恐らくは初めて誰かの前で曝す剥き出しの本性。

「…私には帰りを待っている者がいるのでな、それがいる限り、私は殺しても死なんぞ…!」

 生きて帰る。己に課した最大の目的。

 否定はしない。
 否定させもしない。
 例え目の前のセカイを殺してでも、全力でそれを成す。
 故に、そこに一切の矛盾は無く。

 純然たる意志の力が膨れ上がり、密度を増した大気がチリチリと熱を帯び始め…

「いや、参った参った」

 まじいてぇー、と米田 一機(jb7387)が起き上がる。
 痛すぎて今度こそ死んだかと思った。

「ま、皆が盛り上がってるっていうのに独りだけ棺桶で寝てられないんでね」

 軽い調子で、しかし状況には遅れず。

(其れにしてもこの異様なアウルの膨張…まずいな、これ唯じゃ済まない)

 正直、今の今まで、自分がこの戦いに加わる事となった縁を完全には理解できずにいたが、

「…なるほど、やっと僕が此処に呼ばれた理由が分かった気がするよ」

 自分に出来る事。自分にしか出来ない事。
 自分がやるべき事。自分がやりたい事。

「…始めようか、第二ラウンド」

 それを完遂する。

 そして、としおが吼えた。

「拳で語り合うって言うのもある意味、話し合いだな? しゃっ、一丁やってやるよ!」

 完全解放。黄金色のアウルが爆ぜ、巨大な龍となってとしおの体でうねりを上げる。
 猛るオーラは炎となり、燻る戦いの幕に最期の火を点した。

「初手は貰っていくぞ!」

 飛び出したのはジョン。光纏し、『夕星』の銘を持つタービンのようなバングルが紅蓮のアウルを吐き出す。
 眼前の空間へ消え、瞬間、アカシャに隣接した空間へと姿を現していた。

「止める手段を持っていない? ならば私も秒、いや刹那の単位で進化すれば良い。貴様の学習を上回れば良い。進化が貴様だけの特権と思ったら大間違いだ…!」

 空間魔術。意志の力、生命の時を喰らい、その技は操る“術”から統べる“法”へと昇華。躱す余地を許さず、紅帝の権威をアカシャに深々と刻み込む。
 可視化する程の衝撃。真紅の空間に鷲掴みにされ、圧壊するような苦痛と共にアカシャの動きが鈍った。

 だが同時に、ジョンの身体にも裂傷と激痛が走る。
 限界を超えた魔法の反動。それでも、彼の進化は更に加速を見せる。

「エクス、トリームッ……!!」

 言霊による『紅魂』のトリガー。従来の点火を凌駕し、もはやそれそのものが爆発と呼べる程の起爆剤。
 激増した赤光の粒子が、目の前の敵と共に自らの肉体をも内から焦がしていく。

「今の力で足りないなら! 明日も明後日の分も捻り出すだけよ!! 貴様が終わるまでこれは解かん!」

 アカシャに肉薄し、全身全霊の力で殴り殺しに掛かる。
 拳で打ち、肘で抉り、膝で突き上げ、一打叩き込む度に重音が轟き、衝撃で空間が揺れる。

 対するアカシャも、

「お前の進化も、私は内包してみせる…!」

 壮絶な拳の応酬。
 正面きった力技だけではない。互いに関節を狙い、投げも試み、身を捻っては何度もカウンターを放つ。

 進化と創世の体現。
 その数瞬の衝突の末、一度ジョンが大きく吹き飛ばされる。
 追撃しようと再度距離を詰めるアカシャだったが、

 寸前、横からの射撃。
 手にした魔法書から水刃を飛ばした一機の姿。

「好きなように動いていいよ。片っ端から併せてあげるから…!」

 それは決してジョン1人だけに告げたものではなく、

 一機の言葉に押されるように、ジェンティアンがアカシャに突貫。
 握り締めた槍を迷い無く突き込む。

 咄嗟に穂先の軌道を刀で逸らすアカシャ。返す刃でジェンティアンを斬りつけるも、今度は逆に彼が槍の柄を起こしてそれを弾いた。
 器用に長柄を振り回し、攻勢の盾となる。

「普段は後ろでさぼってるだけで、別に矢面も苦手ではない」
「だが刀身の間合いに入ったのは間違いだ」

 アカシャが持つ二刀の切っ先が揺れた。
 “銀”の剣閃。回避や体捌きの概念ごと両断する剣戟はしかし、まるで鉄を斬ったかのような硬い感触を受けてその勢いを削がれていた。

「む…」
「別に防御を捨てた訳じゃないし」

 決して引かず、不動。
 防壁陣。凡そ反応できるはずのない剣速に差し込んできただけならず、ジェンティアンの堅牢さは尋常ではない数値に達していた。

「お前達のその力、どこから…」

 言いながら、翼で距離と高度を取るアカシャ。
 空を飛べないジェンティアンの槍の範囲から逃れ、高高度で頭上を押さえて封殺――

「まあそんな慌てないで、もっと地べたでゆっくりしていきなよ」

 一機の声。同時に、彼の放った星の鎖が全身に巻き付く。
 先刻受けた物とは比較にならない重さの鎖。アカシャは抗う間もなく再び地上に引き摺り下ろされ、

「リーゼ!」

 直後、和紗が叫んだ。

 意図を察し、駆け込んできた和紗の靴底を両手で受け止めるリーゼ。
 真上へ放り投げるようにして、彼女の身体を上空へと押し上げる。

「飛べないなら、“跳ぶ”だけです」

 アカシャの頭上に砲撃の如き数多の光矢が降り注いだ。
 その中の1つ、アウルで顕現した凍龍が顎門を開いてアカシャを喰らう。そこへ、

「凍れ」

 ジェンティアンの連携。地面に槍を突き刺し、氷雪の旋律を流し込む。冷気が地を伝って走り、アカシャの全身を覆う。
 更にジェンティアンは、地続きで氷結している自らの足元に、雷化したスタンエッジを叩きつけ――

 爆破。

 化学的性質を持たないはずのアウル特性を超越。雷撃により融解した氷が水蒸気爆発を引き起こし、中にいるアカシャを容赦なく吹き飛ばした。

「無いからと言って、俺は諦めません」

 例え自分1人では持ち得なくとも、誰かと手を取り叶う事もある。

「見えないとか出来ないとか、それって単に諦めてるだけだよね」

 そんなヤツに世界は渡さない。
 それに、

「“自分の願い”になった時点で、哀しみも生む多くの願いの1つでしかないよ」

 それはアカシャもヒトの1つであるという事。

「ならば尚の事、私は世界という存在へ昇華しなければならない」

 その時、濃霧のような水蒸気の壁に穴が開き、中からアカシャが飛び出してきた。
 和紗の胸倉を掴んでリーゼへと投げつけ、投擲で振り抜いた勢いを回転に乗せてジェンティアンへ回し蹴りを放つ。
 重機にでも殴られたような衝撃を受けて大きく薙ぎ飛ばされ、咄嗟に受け止めた一機と団子になって砂地を転がるジェンティアン。

「今のままでは、必ずヒトは終わる」
「なに勝手に諦めてリセットしようとしてんだよ」

 霧の中から別の声。
 アカシャが反射的に振り返った瞬間、振り下ろされたとしおの拳が彼を真っ直ぐに叩き伏せた。

 地面に叩きつけられた際の衝撃が波状に広がり、立ち込めていた霧を全て吹き散らす。

「お前はヒトの記憶や心が読めるんだろ。だったら今まで何を見てきたんだよ」

 俺達は諦めない。
 絶対お前をこっちに入れてやる。
 小難しい理屈など知らない。
 ただ俺がそうしたいから、

 俺達はこの世界を諦めない!

「俺達の、ヒトの可能性を信じてくれ!」

\置いてけ〜/

 不意に、レフニーが1歩前へ。
 いや、何か様子がおかしい。
 その手には一振りの包丁。ケチャップ()で赤く濡れている。

 なんと、膨れ上がったアウルとアカシャの影響で妖怪『乳置いてけ』が呼び出されてしまっていた。
 妖怪の目には、アカシャが巨乳女子に見えているらしい。

\置いてけ〜/

 右へゆらぁり。

\置いてけよ〜/

 左へゆらぁり。

\乳置いてけー!!/

 突如、最短距離を一直線に移動。
 異常なまでの緩急差で接近し、包丁一閃。強制レート差攻撃。防御の上からアカシャを問答無用で切り刻む。

「こ、これは一体…」
\もげー!!/

 アカシャは包丁の突きをいなし、妖怪の腕を取って投げ飛ばす。
 まじやべえ。

「妖怪に襲われるのは初めてか? 安心しろ、久遠ヶ原じゃよくある事だ」

 死角から肉薄したのはディザイア。
 天にも届く程の雷光、それを纏った右腕を振りかぶる。

 躱せない。そう判断したアカシャは、回避を捨ててカウンターを打つ。
 交差した拳が互いの頬を弾き、靴底でざぁっと土を削りながら間合いを離す。
 だがすぐさま拳の距離まで詰め直し、相手を組み伏せようと打撃の応酬が繰り返された。

「今の俺は不死身の男! 刺され続けて培われたしぶとさを見せてやろう!」

 アカシャの打撃音が轟く度にディザイアの雷鳴が返り、どれほど急所に入れてもディザイアは怯みもせず、それどころか益々勢いを増して相手を押し込んだ。
 そしてその刹那、ディザイアの拳がアカシャの先を取る。

「全力全開だ、吹っ飛びやがれ!」

 脳天に直撃。一際強く弾けた雷がアカシャを撃つ。
 ほんの一瞬、それこそ100分の1秒にも満たない時間、意識が白く停まるアカシャ。
 打撃圏内から即座に離脱し、空間魔術による長距離斬撃に切り替えようとするも、

「おいおい、離れるなんて寂しいじゃないか…ぶん殴れないだろう?」

 ニヤリ、と。
 ディザイアの口元が吊り上がったのが見えた次の瞬間、蔦のようなアウルで強引に引き寄せられていた。

 強烈なボディブロー。衝撃が突き抜け、後方に離れて位置していた岩山が木っ端微塵に抉れ飛ぶ。
 アカシャの口から苦悶の音がこぼれた。

 直後、

\がおーん!/

 大気を震わす獣の咆哮。
 トリスアギオンの詠唱を始めたレフニーの隣で、白くまーがベアクローを翳す。

 瞬間、くまーに変化が。
 真っ白だった体毛は黒に。右目にはレフニーのヒリュウ(大佐)と同じ歴戦の風格を思わせる刀傷が浮かび上がり、つぶらで愛嬌のある瞳は凶暴そうな目つきへと変わっていた。

 フォームチェンジ、ぶらっくまー。

「ぶらっくまー、キミに決めたのです!」
\ぐるるる!!/

 飛び掛かり、右のベアクローでアカシャをザッ!する。
 ついでに左のベアクローでディザイアもザッ!する。

 膝をついたアカシャにレフニーが言う。

「世界を作り直したって、何も変わりません」

 悲劇を認められなければ、きっと何度も作り直す事になる。何故なら、悲劇なき世界はあり得ないのだから。
 あるとすれば、それは時の止まった世界だけ。そんな物、存在する意味がない。
 お前1人の妄執、理想に他人を巻き込むな!

「偽りの楽園が欲しければ1人で勝手に夢見てなさい」

 逃げるな。ヒトはいつか死ぬ。
 それが生命だ。
 立ち向かえ。未来を目指して。

 そしてその為なら、自分は何度倒れても立ち上がってみせる。
 救い、あるいは掬いの手を伸ばす事を、死んでも諦めない覚悟を胸に。

 北極星の体現。
 自身は不動。されど、迷い、彷徨い、道を探す者達に、等しく灯る標となって。

 だから、アカシャにも。
 今を見ない…悲劇しか見られない過去への妄執から解き放ち、救いと掬いの手を。

 対して、ディザイアも起きた。

「今なんで俺までザッ!されたんですかねえ?(むくり」
「ちっ、生きてましたか。もとい、一発だけなら誤射かもしれないのです」
\ぐるるる/

 ディザイアの頭ガジガジ。
 さすが不死身の男だ、何ともないぜ!(流血だくだく


 ――手を取り叶う事もある。

 だがヒトは群れる事で、組織という大きな塊になる事で、往々にして善意を犠牲にする。

 ――ヒトの可能性を信じてくれ。

 数千年もの間、結局ヒトは変わっていない。争いを起こし、そこから学び、されど進歩するのは技術のみ。痛みはすぐに忘れ去られ、強大になった力でより凄惨な争いを繰り返す。
 そしてまた、痛みを受けた側は常に願うのだ。争いが消えて欲しい、と。
 だから私が作られた。哀しみという概念を排した、新たな世界の種として。

 ――それは時の止まった世界。

 だとしても、それはヒトが自ら選択した事の帰結。世界の総意。これは必然。
 そしてそれを自覚した今、その希望を体現する“世界”となる事は、他ならぬ私自身の願い。
 故に正当。

 そのはずだった。

 ――“自分の願い”になった時点で、哀しみも生む多くの願いの1つでしかないよ。

 ワカラナイ。

 世界そのものとなるのが私の存在意義。
 ヒトが新たな世界を望んでいないのだとすれば、私という存在は何のために生まれたのか。

 ワタシノ ネガイハ――


 アカシャが吼えた。
 慟哭が天を衝き、体から噴出したエネルギーが無数の弾丸となって全方位に吐き出される。

 空を穿ち、大地を抉り、立っている者達を全て薙ぎ払う。

 それを止めようと、咄嗟に弓を引く和紗。
 一射。しかし弾幕に掻き消されて届かず。

 ならば、その隙間を見極める。
 飛来する無限の攻撃を前に和紗は避ける事をやめ…

 それを見た一機が、弾幕の中心へと飛び込んだ。

「ちょーっとこっち向いて貰っても良いですかねアカシャさん!」

 手にした双剣に宿るは、太陽と月。時に照らし、時に影となりて友を支える斬撃。
 攻撃を弾き、切り裂き、それでも捌ききれずに受けた痛みには構わず、中心に立つアカシャへと迫る。
 地味だが、しかし確実に。皆が伝えたい事を伝えられるように。
 双方の想いを“繋げる”ように。

 すると間合いを詰めてくる一機を狙って、弾の勢いが僅かに偏った。

 頬を掠める弾にも動じず、ただ一点に集中する和紗。
 射法八節。放つのは矢ではない。唯々アカシャを止めたい、止めて欲しいという想い。残心を終える最後の瞬間まで、己の立つ場所から揺らぐ事なく――

 その一射がアカシャを捉えた。

 掃射が止む。
 だがすぐさま体勢を立て直そうと地を踏む脚に力を籠めるアカシャ。

 それを阻んだのはジョンだった。

「貴様が世界を創る力だというのなら、その逆もあると知れ」

 破界。
 万象を壊する、最後にして最強の法。

「…破滅の力に呑まれて消え失せろ…!」

 瞬間、空間が割れた。
 ジョンの解き放ったエネルギーが、アカシャにより創り出された擬似ゲートに亀裂を入れる。

 そしてそれはゲートそのものであるアカシャへのダメージも意味し、掃射の構えを取っていたアカシャがぐらりとその場に頽れる。
 だがそんな事象を放出したジョンも無事で済むはずはなく…

 機能停止。
 ジョンはその場に立ち尽くしたまま、意識不明に陥っていた。

「まーったく、皆思い切って使い果たしちゃって」

 駆け寄ったのは一機。
 ボロボロなのはジョンだけではない。右を見ても左を見ても、どいつもこいつも満身創痍。

「でも、そんくらいでないと変えられなかったっていうのもあるけどさ」

 それでも誰かが欠ければ悲劇。
 全ての悲しみは救えない。けれど目の届く範囲の、此処にいる連中くらいは、皆救ってみせる。

 最後に見せるのは自分なりの悲劇――運命――との戦い方。
 決して強くはないけれど、

「こういうやり方もある…!」

 サクリファイス――多重接続。
 己が生命を削り、仲間の生命を紡ぐ。だがそれは、1人で背負うにはあまりにも多すぎる値。
 それでも、

(僕の命を賭ければ全員死ぬまでには至らないでしょ)

 徐々に遠のく意識の中、一機は最後まで仲間達の身を案じ――

 その時、急に呼吸が軽くなった。

「僕が休ませない為にアスヴァンやってるの知らなかったっけ?」

 ジェンティアンによる治癒。

「一機ちゃんだけ寝かせるとか無いから」
「なにその締切前の作家を見張る担当編集みたいな専攻理由」

 僕の仲間がブラックな件。
 同時に、レフニーの術式も起動。消えかけていた火を再び点す。

 だが立ち上がったのは一機達だけではない。

「まだだ…」

 アカシャがゆらりと身を起こす。
 炎を纏った拳で一機へと殴り掛かり、

 寸前、としおが割って入った。
 頬で拳を受け、しかし転がった先ですぐさま立ち上がる。

「俺は最後まで諦めねぇぞ、ぜってえお前と友達になってやる!!」

 そして、もう1人…

「もっと貴方にこの世界を知って欲しい」

 陽波 透次(ja0280)。

 思念を読んで得た知識ではなく、その身でヒトと接し、沢山の事を体感して欲しい。

「この世界で一緒に生きませんか? 思い出を積み重ね一緒に考えませんか?」

 誰もが納得する明日を探す為に。
 それが、どちらかが膝を折るまで叶わないと言うのなら…

 透次の中の全てのアウルが一点に集まっていく。


 リミッターを外した極限状態のアウルを、限界まで凝縮。
 己の耐久力の低さは自覚している。先の被弾は既に致命的であり、もしもこれを外せば二の太刀を放つ事も出来ないだろう。
 故に、この一太刀に全てを懸ける。

 常の力が通じないなら今ここで自分を越えるしかない。
 負けてこの世界が終わるなら己の命を温存する意味はない。
 故に、後の憂いは不要。

 ここで死んでも構わない。
 己の全てを掻き集め、限界を超えて振り絞れ。
 身体も心も魂も研ぎ澄まし、全てを燃やし使い尽くせ。

 自分よりも格上の相手は何人もいた。
 けれど、積み重ねて来た努力では誰にも負けない。
 出すんだ。
 この世界で積み重ねて来た僕の全てを。

 ――あんたホント強かったよ

 それは、愛した者に貰った一言。
 それが、僕の戦士としての誇り。
 負けられない。
 誰にも、何が相手であっても。
 この思い出さえも侵すというのなら、己の何を犠牲にしてでも止める。

 脳裏に、心によぎるのは、この世界で出会った様々な者と紡いできた時間。
 守るんだ。
 その歴史の全てを。

「だから今、僕は貴方を止める」


 瞬間、アカシャが二刀の柄に触れた。
 空間斬撃。遠く離れた透次の、その位置している空間を直接切り裂く不可避の攻撃。

 だがそこに、透次の姿は無かった。

 距離という概念から外れた瞬撃。放つと同時に相手に中っているはずのその一撃をも超越し、透次はアカシャの背後に移っていた。

 ジョンのように空間を跳ぶ事は出来ない。
 和紗やとしおのように狙撃する技もない。
 ディザイアやジェンティアンのように頑丈でもなければ、レフニーと一機のように多くを癒せる程の術もない。
 それでも今、この瞬間だけは。

 やり直しが出来ないから、過ぎ去った全てが不可逆だからこそ、命も世界も尊く意味がある。
 駆け抜けろ、極限の一瞬を。
 鍛え抜いた己の速度と力と魂の全てを、この一太刀に。

 神速に至る才能。
 世界を縮めた速度を破壊力へ転化し、光をも凌駕したその一撃は真の烈波と成り――


 刹那、風が起きた。


 透次の動きに遅れること数瞬。
 空間が丸ごと動いたかのような振動を伴って、暴風の如き衝撃波が駆け抜ける。

 星を割る程の、一閃の斬撃。
 それをその身に受けて、アカシャは為す術も無く両膝をつく。

 そして風が止み、静寂と入れ替わった荒野の中。
 ゆっくりと、としおが歩み寄る。

 苦楽を共にするから繋がりが出来る。
 それは与えられたモノじゃない。
 苦しみや悲しみを知っているから、同じ様に苦しんでる連中に手を伸ばせる。
 一緒に頑張ろうぜ! と。

 不幸を知っているから幸せを実感できる。
 アカシャの不幸は幸せを知らない事。

 だがその幸せは一緒に探せばいい。
 この世界にはきっと、幸せの方が沢山ある。

 だから、

「さあ、一緒に行こうぜ!」

 渾身の拳で、としおはアカシャの頬を殴り飛ばした――



 仰向けに転がり、雲の無い空を見つめるアカシャ。
 その視界に、哀しげな顔の和紗が入ってくる。

「全てが当人ということは、他が無い…独りぼっちということ。独りは哀しいです。俺の大切な人の姿で独りにならないで」

 そっとアカシャの頭を胸に抱く和紗。

「聞こえませんか、命の音が」

 心臓の鼓動。

「この世界に響くたくさんの音を、どうか消さないで下さい…」

 その音に、和紗はアウルを乗せた。
 茶色く枯れた荒野に彩が広がるよう、想いをこめて。

 アカシャはただ静かに耳を澄ます。

「生命が聞こえる…」

 生まれ、死に、大きな流れへと還り、再び巡っていく理。

 生命の環。
 それこそが世界。
 喜びも悲しみも、生も死も、その全てが揃って初めて成り立つ在り方。

 ――アカシャもヒトの1つ。

「ああ、そうか……」

 私はもう、世界に成っていたのか。

 答えを見届けた和紗はアカシャの頭を離し、

 ばきぃ!
 全力グー殴り。

「Σ!?」
「皆にごめんなさいは?(超笑顔」

 その様子を見守りながら、ジェンティアンはぼそり呟く。

「アカシャちゃんの致命的な敗因はリーゼの姿をとったことかも」

 リーゼをトレースしたのなら、グーパンの威力も記憶にあったはず。

「あの姿で和紗には勝てないだろ…なぁリーゼ?(にや」
「あれはとても効く(こくり」

 そしてそのまま和紗達には聞こえぬよう、小声でリーゼに言う。

「お前の願いは叶わない。…1代じゃね。大局とか表面的なものじゃないだろ?」

 子に孫に託し…とにかく時間かかる。
 その長い時を共にあるのが、

「お前の、ヤタガラスの比翼が和紗であればいいなと思うよ」

 この時点のリーゼがどういうつもりでいるのかは、ジェンティアンにはまだ分からなかったが…

 一方、アカシャは困惑しつつも、小さく頷いて一同に視線を巡らす。

「強き者達…すまなかった」

 過ちを認め、頭を垂れる代わりに静かに目を閉じた。
 その身体が徐々に光の粒へと変わって空へ昇っていく。

 生命の環に溶けていく。
 それは世界と同化し、世界になるという事。想いは巡り、生きている者達を見守る大きな流れとなって。

 数多のヒトが渇望した未来。
 アカシャが案じた、生命の行く末。

『ありがとう』

 1人のヒトが、救いを得て還っていった――



 打ち負かされ、おどけた調子で笑いながら仰向けに転がるエリー。

「あーあ、負けちゃった」

 まあそれもいいか。
 どのみち、アカシャが逝った。魂の入っていない自分も直に消える。

「あんた、こうなるって分かってて…」
「まぁね〜。でも楽しかったし、満足よぉ? …透次達にもよろしくね」

 そうしてエリーはちらりと目を向け、

「それじゃあね。また会いましょ…エリス」

 クスクスと笑みを残しながら、光になって空へと消えた。

 が、エリーが消えた後、彼女が寝ていた場所に動かなくなったままの黒うさが何故か取り残されていた。
 
 己の在り方を己自身で納得して確立していたエリー。
 空虚だったはずの肉体には、いつしか彼女自身が生み出したネガイが宿っていたのかもしれない。

「……」

 主が消えて動かなくなった黒うさに、エリスはそっと触れてみる。

「…ご主人さまの代わりに、一緒に行く?」

 黒うさが、むくりと身を起こした。



 目が覚めると、一同は擬似ゲートがあった街中の道に倒れていた。
 戦闘でどれほどの時間が過ぎたのか、空には朝日が昇り始めている。

 ふと、和紗は傍にリーゼの姿が無い事に気づき、身を起こして辺りを見回す。
 街に差し込む金色の光の中、リーゼが背を向けて立っていた。

 眩さに目を細めながら空を見上げていた彼は、和紗の気配を受けてゆっくりと振り向く。

 共に歩む道。
 尊く、愛おしい願い。
 それを改めて教えてくれた仲間達。そして、

「ありがとう、和紗」

 朗らかな、満面の笑み。

 ヒトを愛している。
 世界を愛している。
 だから、この道の先にどんな結末が待っていたとしても、自分はきっとこれからも頑張っていk

 ばきっ

 瞬間、和紗にグーパンされた。

「Σ???」
「いえ、何やらそのまま1人で消えてしまいそうな雰囲気だったので」

 違いましたかそうですかそれはすみません。

「…和紗、出発時の件の返事だが――」
「その前に、大切な事を言ってませんでした」

 和紗はリーゼに向き直り、

「Ich bin verliebt in dich. …夫に恋し続けても良いと思うのです。俺は貴方の妻になれますか?(心拍数上昇」

 やばい心臓やばい口から出る。

 対して、リーゼの番。

 これまで無茶をした事もある。
 これからも恐らく無茶をする。
 それでも願わくば、これからは彼女の願いも乗せた新しい道を、

「隣で一緒に歩ませて欲しい」

 愛おしい仲間達の姿。
 けれど、いま感じているこの愛おしさは、それとはほんの少しだけ違っていて。

 【虹霓】の虹。リーゼは懐から取り出したその指輪をはめ、

「申し出を受ける。結婚しよう、和紗」

 その言葉を聞き、和紗がぎゅっとリーゼに抱きつく。
 緊張が解け、ぼろぼろと嬉し涙が溢れてきた。

「俺如きで本当に良いのですか?」

 不安で再確認。

「和紗だから良い」

 如きじゃない。
 いつか告げた言葉を、もう一度。

 その光景を見守っていたディザイアが、ふんすとやる気に満ちる。

「お嬢を、俺もお嬢を迎えに行かねば…!」

 例えお嬢がどんな答えを出そうが俺は何も変わらない。
 あ、お付き合いや結婚を認めて貰えたらそれは抱きしめて撫で繰り回したいからすごい変わるわ。

 だがその時、

「みんなー!」

 エリスの方から飛んで来た。
 降下しながら一同の無事を確認した彼女は、そのまま一直線にディザイアへ着陸ずどーん!

 アスファルトに後頭部を強打するディザイア。
 そんな彼の上でエリスは、

「伝えに来た! 結婚しよう!」

 保留にしていたディザイアからのプロポーズ。それを今、プロポーズで以て返事をする。
 一瞬だけ頬にチュッと一つ。

 倒れたまま両拳を突き上げるディザイア。

「我が生涯に一片の悔いなし…!」

 一方の和紗も、リーゼの手を強く握る。

 が、そこまでだった。


 緊張の糸が切れ、全てのダメージが確定どん!


「「あ、これしぬかも」」

 とさぁっと地に伏し、そして全員動かなくなる。



 光を見つけた、一羽のカラス。
 今はまだ届かなくとも、目指して飛ぶ影は一つではなく――



 入院した病室。
 包帯ぐるぐるな姿で、レフニー達はとしおの作ったラーメンを食べていた。

「いたたた…塩味が口に染みるのです」
「生きてる味がしますね!」

 その横では、ジョンと透次が家具を使って筋トレ。
 それを見た看護師が悲鳴を上げる。

「ぎゃあ!? 何やってるんですか貴方達!?」
「見て分からんか」
「技の感覚を忘れないようにと思って」

 アカシャ戦で見せた限界を超えた力。
 あれから何度試しても再現する事は出来なかったが、鍛え続ければいつかあの高みに届くかもしれない。

「治ってからにしてください、ころしますよ!」

 間違えた。しにますよ。
 看護師は謎の超握力で一同を捕まえ、有無を言わさずベッドに押し込んだ。



 ――4月27日。
 婚姻届を提出しに来た和紗とリーゼ。
 保証人の欄には樒父の名の他に、『ママ』という2文字。

 どう考えても本名では無いはずだったが、職員はそれを見て、

「もしかしてこちら、ヘヴホラの?」
「(こくり)」
「そうですか。ではお預かりしますね」

 受理。

「ゲセヌ」

 和紗は真顔で唸った。






























 ――夢を見た
 岩と砂だけの、赤茶色に褪せた荒野を歩く夢
 振り返るも、大地に刻まれた足跡は砂塵に埋もれ
 疲れ果て、足を止めて立ち尽くす
 だが、ふと落とした視線の先

 その足元で、小さな一輪の花が揺れていた。

 それはやがて彩となって荒れ果てた大地に広がり――




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 未来へ・陽波 透次(ja0280)
 光至ル瑞獣・和紗・S・ルフトハイト(jb6970)
 ついに本気出した・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
重体: −
面白かった!:14人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師