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マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/14


みんなの思い出



オープニング

 ――魂(ネガイ)を得た“思念の塊”は、全てを思い出した。

 昔、サーバントを造る技術をとある研究に応用しようとした天使が居た。
 目指したのは、ヒトの願いに形を与える力を持ったサーバント。それは天魔を超越した、世界そのものとでも言うべき存在。

 だが、研究の完成を見届ける事なくその天使は姿を消した。
 詳しくは分からない。駆り出された先の戦いで討たれたか、危険分子として同胞に処刑されたか、はたまた単に肉体的な寿命だったのか。

 研究半ばで放置された“ソレ”はしかし、長い年月を経て形を保てなくなった試験管からこぼれ出るに至る。
 不完全な状態による代償。自身が創られた理由、課せられた目的、混濁とした知性はおぼろげな本能となって人界へと降る。

 ――だが、全て理解した。

「全ての生命が安寧に暮らせる世界」

 それを新生し、その核となるのが自分。
 セカイの意思。あるいは根源。それを構成するあらゆる情報。

「アカシャ」

 “ソレ”は己の名を自覚した。



 長らく管理が放棄されているらしい、古びた家屋。ルディは最近、この場所を仮宿として利用していた。
 その一室で、ソファーに腰を下ろしたユートが自らの膝をぽんぽんと叩きながらルディを見やる。

「ん」
「何の『ん』だよ」
「膝枕してあげる。やったね!」
「いらねぇ」
「そっかー…。はい、じゃあここに頭乗せて(ぽんぽん」
「聞ぃてんのかよ」

 チッ、と顰めた顔でジト目を向けながらソファーの上で横になるルディ。
 ユートは腿に乗せた白髪頭をふわりと撫でた。

 ――死んだはずのユートが現れてから、数日。彼女の中には確かに本物の魂が備わっていた。
 姿形を真似た天魔の類ではなく、ましてや生き別れた双子の別人などでもない。正真正銘、過去に自分が出逢ったユート本人。
 差異があるとすれば、今の彼女には車椅子が必要ないという点。

「1回死んだからねー。怪我もリセットされたのかも?」

 軽い調子で言いながら、この数日間ユートはルディを街に連れ出し、立ち寄った楽器店で久方ぶりのヴァイオリンを披露したりしていた。
 彼女の死後にルディが1人で2つ付けていた八分音符のペアアクセサリー。片方は今ユートの首元で揺れている。

「ねぇ、ルディ」
「何だよ」
「いま幸せ?」

 膝上の赤い瞳をじっと見つめるユート。
 一方のルディも眼前にある彼女の瞳を黙って見つめ返していたが、しばらくして、

「…ンな事いちいち考えて生きてねぇ」

 むくりと身を起こし、ユートの膝から頭を離した。
 隣で座り直して、ソファーの背にもたれかかる。

「そっか。良かった」
「あン?」
「一人ぼっちで過ごしてなくて」

 ユートは、ルディがポケットにしまっている温泉饅頭のストラップを布越しにつつく。

「押し付けられただけだっつぅの」
「でも大事に持ってるよね」
「……」

 再び黙るルディ。
 ユートはそんな彼の肩にふわりと頭を乗せて目を閉じる。

「私ね、楽しい事も悲しい事も、起こっちゃった事は元には戻せないと思うんだ」

 死んだ者は生き返らない。
 だからこそ、ヒトはその尊さを知る事が出来る。

 けれど同時に、また最初から新しく始める事も――そういう意味での“やり直し”なら――出来ると信じている。
 しかしそれは他の誰かの手によってではなく、決めるのも創るのも己自身であるべき筈のものだ。

 自分はあの時、あの瞬間を、精一杯生き切ったのだと胸を張って言う為に。

「…知ってる。馬鹿正直だからな、テメェは」

 知っていたから、そう感じていたから、彼女をヴァニタスにはしなかった。

「うん。だから、そろそろいくね」

 今ここに在る姿は確かに本物の自分だが、本来のカタチではない。
 ユートは自らの首に下げていたアクセを外し、再びルディの首に。

 そして彼女は、もう一度彼の肩にぴとりと身を寄せ――

「大丈夫。体は消えちゃうけどずっと一緒だよ、ルディ」



 しんと静まり返った部屋の中、1人分軽くなったソファーでルディは佇む。
 首に下げた2つの八分音符を、指先で一撫で。

「ったく。どこのクソ野郎か知らねぇが、ヒトの頭ン中、勝手に覗き見くれやがって……。けどよぉ――」

 やがて彼はゆらりと立ち上がり、

「こんなふざけた真似して、タダで済ますわきゃァねェよなァ!?」

 怒りに満ちた笑みで、口端を大きく吊り上げた。



「緊急事態発生です」

 そう言われてオペ子に呼び出されたリーゼとエリス達。
 本土のとある街に、ゲート…のような物が現れたらしい。

 その結界内では一般人の魂あるいは精神が吸われる事はなく、しかし急速に地面や建物が劣化していると言う。

「ディアボロとサーバントの同時発生も確認されてます」

 それもゲートから出てきているのではなく、まるで降って湧いたかのように結界内の至る所で。
 現在、地元撃退士や警察、消防組織が対応に当たっている。

「始まったみたいだねぇ」

 リーゼに付いて来ていたエラが口を開いた。
 曰く、ゲートの主の名はアカシャ。

 今はまだ無機物が徐々に崩壊していっているだけに過ぎないが、いずれ影響はヒトにも及ぶだろう。
 吸収ではなく、消滅という形で。

「当然」
「止めに行くんだろう?」

 聞き覚えのある声にリーゼ達が振り向くと、ロビー入口に式葉兄弟が立っていた。

「そこのオペレーターの子に呼び出されたんだ」
「僕らのアプリが役に立つんじゃないかって」

 光纏バイタルアプリ。
 それを一同のスマホにインストールしに来た。

 2人はリーゼへと近づき、

「仕方ないから、あんたの携帯にもインストールしてあげるよ」
「さあ、端末を貸して」
「(こくり)」

 ポケットごそごそ。はい、と差し出したのは“折り畳み式”の機種。
 ガラケーだった。

「「……」」
「……」

 受け取ってぽいちょ。

「Σ」

 この後、インストール済みのスマホを貸してくれました。

「オペ子は応援を手配しておくので皆さんは現場急行よろしくどうぞです」
「それじゃ、あたしゃオペ子の情報整理を手伝うとしようかね」

 頷いたリーゼ達は、オペ子やエラ、式葉兄弟に見送られて斡旋所を後にする。
 と、その間際、

「エリスさん例のブツが届いてます」

 オペ子はエリスを呼び止めた――



「来たわねぇ(クスクス」

 一同が結界の街へと入ると、エリーが待ち構えていた。

「別に“アレ”に肩入れする義務はないけど、この方が盛り上がりそうだし〜」

 通せんぼ。
 すると、

「あんたの相手は私がするわ!」

 前に出るエリス。

「みんなは先に行って。大丈夫、今度は意地でも負けないから」
「ふ〜ん? いいわねぇ、そのやる気ぃ…♪」

 対するエリーも、残りのメンバーが進むのを黙認する事に。
 下手に食い下がってエリーの気が変わるのも拙い。リーゼ達はエリスを信じて、ゲートへと足を向けた。



 ゲート前に到着。
 が、入口に力場のような壁が張られていて通れない。

 その時――

「なンだァ? このちゃちな壁は」

 声と共に、一閃。
 爪状のエネルギーを帯びたルディの右手が、入口の力場を消し飛ばしていた。

 彼はリーゼ達を一瞥すると、しかし構う事無くゲートの奥へと歩いていく。
 それを追う形で一同も中へ。

 内部は、茶色く枯れた砂と岩だけの、広い荒野のような空間になっていた。
 それはゲートの主の心象風景そのもの。

「ここから新たな生命を始める」

 声の元へ視線を向ける。
 荒野の中心に、ヒトの輪郭をした光体が立っていた――




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リプレイ本文

 吸収ではなく消滅。その話を聞き、佐藤 としお(ja2489)は真剣な面持ちで息を呑む。

「何を考えてるのか……」

 そんな事になったらその土地のラーメンが食べられなくなってしまうじゃないか…!

「止めないと…!」

 目的:アカシャの阻止。

「そうですね」

 樒 和紗(jb6970)も頷く。
 だがその前に…

 ごそごそと何かを取り出す和紗。
 それを持ってリーゼの元へ行き、

「リーゼ・ルフトハイト、結婚を申込みます」

 婚姻届ばーん!

 相手に婚姻届を投げつけるのは決闘の合図…!(ざわ

 恋を自覚し、
 出逢って後を、
 傍で暮した1年半を考えた。
 未来で悔やまぬ為に。

「貴方の背を生涯任されたい」

 家族になり子を産んで…共に老いて「良い人生だった」と笑えたら。

 それを傍から見ていた砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は、内心で唸る。

(…そこまで飛んだか。でも和紗らしいっちゃらしいわ)

 見守りつつ幸運を祈る構え。
 対してばーん!されたリーゼは、果たし状()と和紗を二度見した後――

「あ、返事はこの件が解決後で良いです」

 と思ったら、和紗自身がリーゼを遮っていた。

「む。そうか」

 頷くリーゼ。氏名の記入位置に線が入らぬよう丁寧に畳んで、ポケットにしまう。
 なくさないようにしよね。

 気持ちを切り替え、一同は和紗が申請した光信機を受け取って現場へと向かった。


●ゲート突入
 離脱したエリスを思うディザイア・シーカー(jb5989)。

「ぐぅ、一緒に戦いたかった!」

 口に出しながら、内心びたんびたん転げ回り。
 だがその意地、心意気を無下には出来ん。お嬢の為にも先に行き、終わらせるのだ!

 カチコミじゃあ!と中心部へ到達。
 待っていたのは、ヒトの形を模した光体。恐らくアレが…

 瞬間、ルディが吼えた。

「蛍光灯みてェな見た目しやがって、死ぬ覚悟は出来てんだろォなァ!」

 踏みつけた地面にびしりと亀裂が走り、砲弾のような勢いで一直線に光体へと突進し――

「待った」

 それを押し留めるジェンティアン、そしてとしおとRehni Nam(ja5283)の3人。
 盾、あるいはその身を挺して、間に割り込んでいた。

「い、いきなり暴力はダメですよー!?」
「ボコすのは良いですが、出来れば殺さずにお願いしたいのですよ」

 詳しい事情は知らない。だがルディが怒るとすれば、それはきっとユート絡みの何かかもしれない。
 エラが現れたように、もしかしたらユートも。

「貶められ、汚されたと感じるのは私も良く分ります。でも、嬉しかった気持ちが0だなんて、言えませんよね? だったら、トドメだけは刺さないで欲しいのです」
「関係ねェ、今すぐブッ殺す」
「すこーし話すくらい待ってくれると嬉しいんだけどな? 焦らずとも逃げたりしないでしょ、アレ」

 チラリと光体を見やるジェンティアン。
 一方で、和紗もルディに時間の猶予を願う。

「故人の魂を弄られ怒るなとは言えませんが…俺は嬉しかったです」

 会えた事が。
 安心して眠って貰える事が。

「貴方の記憶の最後のユートは、笑顔に変わりませんでしたか?」

 その言葉にルディは、

「……チッ」

 苛立ったまま、しかしそれ以上食い下がる事無く、背を向けて光体から距離を置いた。

 その機に、陽波 透次(ja0280)が光体へと話しかける。

「貴方は何をするつもり、なのですか?」
「世界の新生。安寧たる生命の創造」

 この世界は哀しみで溢れすぎている。
 幸せは塗り潰され、不幸は膨張し、ヒトが自ら奈落へと落ち続けていく光景。
 負の連鎖を止めるには、もはや世界そのものを創り直すしかない。

 その言葉を、米田 一機(jb7387)が反芻する。

「安寧、か。ま、言いたい事は解るんだけどさ」

 対して透次は、即座に反論。

「世界の事を一人で決めないで欲しい。一人の独断で作られた世界は、当人だけに優しい世界になると僕は思います。善意であっても、それを望まぬ者達にとっては押し付けに過ぎないから」

 一方でジョン・ドゥ(jb9083)は、彼らのやり取りを黙って見守っていた。
 特に語る言葉は無く、しかし説得や対話の邪魔するつもりも無い。眼前の存在が敵になるのならば敵として、そうでないのならばそれに応じた扱いを返すのみ。
 ただ、言葉だけでは判らない別の手掛かりが現れていたりするかもしれないと考え、会話を眺めている間も光体の様子には常に気を配っていた。

 そんなジョンを他所に、ジェンティアンも会話に参加。
 ルディの苛立ちがいつ爆発しても割り込めるよう、立ち位置に気をつけつつ。

「アカシャ…って言うらしいね」

 (リーゼの)ばっちゃが言ってた。

「その名前ってやっぱりアカシャ年代記から来てるのかな? 世界の記憶とか大層な名前だけど、随分と淋しい世界だ」

 言いながら、辺り一面の荒野を見渡す。

「幸せな世界とか説得力無いわー」

 草木の1本すら無い、干乾びた風景。

「和紗が前に『願うなら己から』って言ってたんだ。世界を幸せにしたい君自身は幸せ? 笑えてる? 1番身近な自分さえ幸せに出来ないなら、世界を幸せになんて無理だよ」
「願い…自身のカタチ……」

 ふと、光で出来たアカシャの体が揺らめく。
 輪郭を保った、確かな体。しかしそれは、決して実体を持たない光の集合体。
 この光は、果たしてどこから出でたモノなのか。
 自身か、それとも他人か…。

「あんたはやり方を間違えているんだ」

 そう断言したのはディザイア。

「確かにその『不幸』はない方が良いとは思う。生き返って欲しいと、もう一度会いたいと願うこともある。だが、それは最もやってはいけないことだ」

 一つの意思が全てを決めては歪みが、矛盾が生じる。ケジメをつけた者の傷を抉り、さらに今以上に新たな『不幸』をばら撒く事になる。
 幸いまだ被害は少ないと言える。今なら間に合うこともある筈…その少ない被害の中で致命的に傷を抉ってしまっているのが問題だが。

「あんたが他人の願いを感じ取れるのなら、ルディの、今ここにいる俺達の心を読めばわかる筈だ」

 今までがあったからこそ、自分達はここにいるのだから。
 それは、あった『不幸』をなくすのではなく、『不幸』になる原因をなくそうという決意。

「心を、読む…」

 そうだ。今この身は、読み取ったヒトの願いによって出来ている。
 いわば、他人のカタチの集合体。

「貴方が今ある世界を壊そうとするなら止めますが、殺したくはありません」

 レフニーが言う。
 いざ戦闘となれば全力で戦う。そうなれば最悪死なせる事になっても仕方ないと割り切ってもいる。
 それでも自分が不殺を望むのは、

「まだ誰も死んでませんし」

 しかしいつ大量の人死にが起きても不思議ではない。
 だから、これはそうならない為の説得。
 レフニーは自身が思う事を素直に吐き出す。

「死んだ大切なヒト達については、死んで欲しくなかったですが生き返って欲しいわけではないのですよ」

 欲しいのはそのヒト達が生き返った世界ではなく、死ななかった世界。
 死んだ辛さは、悲しさは、そのヒトがそれだけ大切だった証でもある。
 その意思が無いにしても、それを弄ぶ事は看過出来ない。死者を貶められていると感じるから。

「まあ、でも、エリーちゃんと会えた事は、感謝してあげるのです」

 ディザイアも、改めて口を開く。

「…救われる者がいることも確かなんだ。死に目に会えなかった者、別れすら言えなかった者、伝えたいことがあった者も…。だからこそ、使い方を間違えてはならない!」

 また、和紗も、

「幸福か否かを決めるのは自分です。貴方の言う“幸せな世界”、それは創り出した魂――オーマ達を簡単に消し、今ある幾つの幸福を壊せば完成するのでしょう」

 削除し上書きするのではなく、変化しながら続いて、その過程も含め幸せになるのだと、自分は思う。

「俺は今恋をしていて、ドキドキや痛みさえも幸せで…この想いを失いたくないです」

 それは、誰にも譲れない、譲りたくない、強い想い。

「失くさずに、貴方も“この先”を共に紡いでみませんか」
「この世界はこの世界に生きる者達全員のものです。結論を急がず、まずは僕らと話をしませんか?」

 透次の言。

「僕は今のこの世界を大切に想っています。苦しい世界であっても、この世界で積み重ねて来たものがあるから。多くの出会いと別れを経て…大切な者達と積み上げて来た世界だから。例えそれが悲しみであっても…無くすわけには行かない、捨てたくない」

 透次は徐に1枚の写真を取り出して見せる。

「先日、エリーさん達と温泉で遊びました。この思い出は貴方がくれたものだ。だから感謝しています。この思い出も僕は大切に思っている。弄ったり消されたりされたくない」

 あの日、帰り際に写した光景。

「考え直してくれませんか? 『この世界』で僕らと共に明日を探して欲しい」
「『幸』と言うものは、人其々違うモノであると考えます」

 後に続いたのは、としおの声。

 それこそが個性であり……『不幸の拒絶』ではなく『不幸を受け入れ』、その苦難や痛みを『乗り越える事』で人は成長し、“其々”の『本当の幸せ』を手に入れられる。
 拒絶するばかりでは逃げているのと同じで、真の幸せとは自ら追い求めるモノ。
 その過程で様々な事に気付き、出会い、融合していく事。
 それら諸々が自身を、家族や集団を形成していると言う事。
 存在する世界自体が問題ではなく、その中で『幸』を望む心が大切だと言う事。

 世界を変えるのではなく、自身の概念をもう一度見直して、考え直して欲しい。

「そして我々と共にこの世界で『幸』を探さないか?」

 武力ではなく、対話による試み。
 一同の意志を視たアカシャ。
 しかし、

「今の世界を続ければ、不幸という概念を切り離す事は決して出来ない」

 何が幸福で何が不幸かはヒトによって違う。
 その通りだ。
 だが、それこそが哀しみの元凶だ。

 ヒトの数だけ正義がある。だからこそ他の正義との間で争いが起こり、傷つき、哀しみが生まれる。
 確かに、択一された世界は当人だけに優しい世界でしかない。しかし、全ての生命が完全に統一された思考を持っているとしたら、どうだろうか。
 一は全であり、全は一。それはつまり、全てが“当人”であるという事。正義に差異はなく、衝突が起こらず、傷つけ合う事もなくなる。
 今ある世界をリセットして0から創り直せば、それが可能となるのだ。

「でもそれって要するに、何もないって事だよね」

 対して、一機が言った。
 辛いことがない。その世界は同時に幸せもない。

「その安寧の世界とやらの為に此処にいる連中、皆消すってことかな。なるほどね、相容れないや」

 はっきりと拒絶の意志を示す。

「僕の望みは今ここにいる和紗、ジェン君、リーゼ君、そして皆、彼らが笑う世界なわけ。僕は英雄じゃないんだ、知らない誰かや未来の誰かの犠牲になるつもりなんてない」
「全て無用な心配だ。積み重ねた想いへの未練も、他者の為の犠牲も、何一つ発生しない」

 全てをリセットして創り変える。
 0にするという事は今ある全ての事象が、あらゆる概念そのものが、元より存在していなかった事になるのだから。

「その苦しみを、新たな世界でのお前達が覚えている事はない」
「因果・時空を書き換えるとしても『ここにいる私は、それを知っている』」

 その時、レフニーが言った。

 その言葉に、アカシャが初めて動揺の色を見せる。

「それは…ありえない事だ」
「言い切れるんです? 私からすれば因果律の壁なんかより、豆腐のカドの方がよっぽど頑丈です」

 リセットされた世界のリセットされた概念なんて関係ない。
 今ここに在る自分の、今ここに刻んだ想いは、絶対に消えたりなんかしないとそう決めた。自分で決めた。
 だから、それでも尚この世界を消そうと言うのなら、

「その光るおでこに頭突きをしてでも解らせてやるのです!」

 いざ戦闘となれば全力で戦う。
 その意志に偽り無し。

 武装を展開したレフニーに、ルディも動く。

「最初からそうしときャァ良いんだよ」
「さっきも言いましたが、出来れば殺さないようにお願いします」
「俺に何の得があンだよ」
「借りでも貸しでも。共闘についてはお互い利用しあうという事で一つ」
「チッ、面倒くせェ…」

 言いながらルディはゆっくりと前へ進み出て、

「死なせたくなきャ、精々俺より先にゴメンナサイ言わせてみるんだなァ!」

 瞬間、加速。
 大気に穴を開けて距離を詰め、アカシャを殴り飛ばした。

 戦闘開始。

 倒れているアカシャの左側面へ回り込む透次。

「ジョンさん、翼をお借りします」
「了解だ」

 鏡傀儡。感謝の意を返しながら、蝙蝠のような大羽で上空に位置取る。
 一方のジョンもアカシャの上方を取り、歪曲場を展開。周囲の空間を捻じ曲げ、不可視の防御膜を張る。

 透次はむくりと身を起こしたアカシャめがけ、アウルで編んだ符を降らせた。
 小さく爆ぜた符から夜色の月灯が散り、視界を覆う。

 そこへジョンが斬撃を繋ぐ。

「アカシャ。この世界は人の仔のものだ」

 我々天魔はあくまでもこの世界の異物、後から来た漂流者に過ぎない。この世界の行く末を選択する機会があるとするなら、それはまず人間が行なうべき事。
 仮にアカシャの感じた事が人の仔の総意だとしても、こんなモノに頼らず、新しい生命は人間自らが成すべき事なのだ。
 故に、

「お前はすっこんでいろ、アカシャ」

 断裂させた空間による不可視の刃。

 直撃。
 だがどれだけ堅牢に出来ているのか、どちらの一撃もアカシャの動きを止めるまでには至らなかった。
 アカシャは透次の撒いた幻月符の効果を意にも介さず、飛翔。先ほどルディが見せた打突と酷似した一撃を、透次へと見舞う。

 それを空蝉で躱す透次。
 対してアカシャは急激に軌道を変え、今度は近くにいたジョンへと突進して弾き飛ばす。しかし同時に、ジョンが纏っていた歪曲場の反射を浴びて勢いが削がれる。

 瞬間、その光体に星の鎖が巻き付いた。

 和紗と一機による、二重掛け。
 抗いきれずに地上へと落ちるアカシャ。

 ――一機はこの空間…ひいては外の結界部分について、ずっと気になっている事があった。
 急速な劣化現象という、通常の結界とは異なる影響。
 異質なゲート。もしもその影響の中に『範囲内でだけ時間の流れが速くなる』といったものが含まれていた場合、戦いが長引くほど不味い事になる。
 可能であれば、先にゲートだけでも破壊しておきたい所だが…

「そうも言ってられないか」

 狙いをこちらへと変えて振り向いたアカシャを見て、ごちる。
 どのみちこの擬似ゲートを作ったのがアカシャであるのなら、本人を屈服させれば撤去できるはず。となれば、今は目の前の攻勢に集中。

 正面からアカシャへと突っ込む一機。繰り出された光る腕にぶつけるように、双剣を振る。しかしそれは攻撃に非ず。
 鍔迫り合いでアカシャの手が止まった刹那、一機の背後を跳び越えてリーゼが姿を見せた。

 体を帳代わりにした目眩まし。
 リーゼが高い位置から二刀を斬り下ろす。アカシャはもう片方の腕でそれを振り払おうとするも、寸前、何故かリーゼは刀を引いていた。同時に、一機と共にその場から飛び退く。

 直後、空振りで体勢を崩したアカシャの肩を、蒼い矢が穿った。

 2人の後方から射られた、和紗の矢。
 二段構えの目眩まし。

 肩の輪郭が抉れ、しかしすぐに元に戻ると、アカシャは距離の離れた和紗に向けて射撃で以て応える。
 指先から放たれた、細い針のような魔法属性の一射。見覚えのある技。いつかウォランが使っていたものと同様の攻撃だった。
 和紗はそれを横に転がって回避。

「厄介なスキルも覚えてそうだけど、所詮コピーだよね」

 右側面からの声。
 振り向くより先に無数の小隕石が降り注ぎ、アカシャは彗星の炎に包まれる。
 距離を保った位置で、ジェンティアンが立っていた。

 如何に大量のスキルを有していようとも、それがただの模倣であるなら易々とやられはしない。
 記憶の再現だけではオリジナルを超える事は出来ない。『想』が伴っていないのだから。

 コメットによる重圧の付与。
 鈍化したアカシャに、更にディザイアが猛攻を掛ける。

「悪い予感やらを下手に実体化されたら堪らんからな!」

 黒と白の雷を拳に纏い、ただひたすらに無心で殴りに行く。
 雷撃を叩き込まれ、片膝をつくアカシャ。

 動きが鈍い。
 それは重圧による影響か、それとも迷いか。

「武力による解決は俺達の本意ではありません。どうかもう一度話を」

 和紗が説得。
 しかしアカシャは引かず。

 見た目ほど効いてはいないのか、ジェンティアンがディザイアの拳打に合わせて放った魔術書の一射を、アカシャは素手で弾いた。
 続けざまに立ち上がり、ディザイアの拳に真っ向からぶつけようと、紫電を纏わせた自らの拳を突き出す。だがその一打は、寸前で横から飛んできた和紗の回避射撃によって軌道を逸らされ、空振りに終わった。
 対して、ディザイアの拳がそのままアカシャの胸部を殴り飛ばす。

 大きく突き飛ばされて後退したアカシャの背面に、レフニーが回り込む。

「ボコ程度で済んでる内に大人しくするのですよ」

 アカシャは応じず、代わりに振り返りながら放った回し蹴り。
 それを阻んだのはとしおの回避射撃。攻撃系のスキルは捨て、徹底して対話への意志を示そうとしていた。

「何事も話せばわかる! 話せばわかる!」

 大事なことなので。

「余地は無い」

 それがアカシャの返答。
 分かり合う道を拒絶した訳ではない。むしろ、そうしてこなかったのはヒト自身。
 目先の衝動を抑えられず、一時はその行いを悔いるも、生涯の中で何度もそれを繰り返す。そうして出来上がったのが、この世界。それは理不尽な苦痛となって他者に降り掛かり、抗えない不幸の中で、やがて誰もがこう思うようになった。

 ――世の中そういうものだから、仕方ない。

 それでも、自らの幸せを捨てきれないヒトの心。
 だからリセットする。
 この世界は、もはや手遅れなのだ。

 手数で押されていると判断したアカシャは多数のディアボロやサーバントを具現化し、集団戦への適応を試みる。

 それにレフニーが即座に反応。
 トリスアギオンの詠唱を挟みつつ、雑魚の群れにコメットを落とす。無理にアカシャを範囲に収めようとはせず、頭数を削ぐ事を優先。
 一方でジェンティアンもコメットを発動。こちらはその射程にアカシャもしっかりと含めた状態で。

 着弾。
 群れが消し飛び、アカシャも両膝をついて動きを止める。

『今です』

 光信機のイヤホン越しに、和紗の合図。

 瞬間、アカシャ周辺の空間が歪んだ。
 流転隔絶。ジョンの作り出した力場の檻がアカシャをその場に釘付けにする。

 間髪容れず、多方向からの同時攻撃。投射した盾で薙ぎ、弾雨を浴びせ、決意を刻む。
 “この世界”を護りたい。和紗もまた、想いを番えたバレットパレードでアカシャを射た。

 強烈な“一撃”。
 するとアカシャは、立ち上がるまでの時間を稼ごうと再度ディアボロを具現化。
 甲冑の姿をした、視認速度を遥かに凌駕する剣速のディアボロ――移動式の“銀”――の群れ。

 咄嗟に身構える一同。
 それぞれの眼前に現れた“銀”の攻撃は、出現と同時に音速を超えた斬撃を繰り出し、確実にダメージを入れてきた。
 防御系スキルの補正を掛けて耐えるも、回復の手が間に合わない。

 だがその時、レフニーの仕込んでいたトリスアギオンが発動。
 仲間達の中心に飛び込み、行動の隙を埋めて範囲回復。

 それにより空いた一手分のオーダーに、再び同時攻撃を差し込む。
 反撃を捌き切れず、鉄屑へと代わる“銀”の群れ。

 未だ膝をついたままのアカシャ。
 その機を逃さず、透次が翔けた。

『僕はこの世界を守りたい』

 精一杯の想いを思念し、唯一無二の刃に魂を込めて。

 荒野にだって、諦めなければきっと花を咲かせる事は出来る。
 一人では無理でも皆と一緒なら。
 どうか一人で悩まないで欲しい。

 振り抜いたコトバが、深々とアカシャの光体を貫いた――



 地に伏したまま動かないアカシャを、上から恐る恐る覗き込む一機とレフニー。

「…生きてる?」
「たぶん?」

 レフニーは、アカシャの顔部分の前にそっと手のひらを当ててみる。

「Σ?! 息してないのですよ?!」
「っていうかソレ、元から呼吸とかしてるの?」

 ジェンティアンのツッコミ。
 なんか全身ただの光の塊だし。

 対して、一度だけピクリと小さく指が動くアカシャ。

「あ、生きてるのです」
「とりあえずは状況終了かね?」

 じゃあもう行っても良いよね!?と尋ねるディザイア。
 アカシャの生存を確認した彼は、居ても立ってもいられないという様子でそわそわと辺りを見回す。

「お嬢は、お嬢はどうなった!? 勝っても負けても抱きしめに行く! 絶対だ! おのれ出口はどこだ!?」
「なんならディザイアさんだけ一生ここに残ると良いのです」

 天狼牙突ぐさー。
 ぐわー。

 一方、静かな面持ちでアカシャを見下ろしていたジョン。

「もういいのだ。我々が手を出さなくても、もうこの世界の人の仔は選択していく。態々天魔がそれらしく手を出す必要は……もう無い」

 ぽつり、と。
 アカシャに告げたのか、あるいは、自らに改めて言い聞かせたのか。

 その時、そんなジョンの後ろからルディが近づいてきた。

「どけライオン野郎。このテの馬鹿は生かしとくとロクな事になりャしねェ」

 トドメを刺そうとするルディ。
 真っ先にとしおが飛びつく。

「勘弁してあげてください!」

 アカシャはまだ子供的思考で、良い事をしたと思っている。
 少なくとも自分の目にはそう見える。

「せめて! せめて『拳骨ごちん!』位で許してやってください!」
「うるせェ放せこのモヒカン野郎!」
「モヒカンじゃないですよ! ソフトモヒカンですよ!」


 周囲の声を意識の隅で聞きながら、アカシャは混濁とした思考の海を漂っていた。

 ――世界を幸せにしたい君自身は幸せ? 笑えてる?

 自分が笑うとは、どういう事だろうか。
 自分は世界そのものとなるべくして生まれた存在。世界が笑顔になるとすれば、それはそこに在る生命が笑顔でなければならない。

 ――1番身近な自分さえ幸せに出来ないなら、世界を幸せになんて無理だよ

 おかしい。生命が笑顔である前に、世界が笑顔になる訳がない。
 その順序は因果として成立しない。

 ――因果・時空を書き換えるとしても『ここにいる私は、それを知っている』

 その確信は、どこから来るのか。

 ――あんたが他人の願いを感じ取れるのなら、ルディの、今ここにいる俺達の心を読めばわかるはずだ

 そうだ。
 心を読んだ。
 思念を読んだ。
 願いを読んだ。
 だからこそ自分はこの世界を消去しようとしたのだ。

 世界を見限ったのはヒト自身。
 等しく統一された幸せを願ったのはヒト自身。
 全ての生命が安寧に暮らせる世界。

 ――願うなら己から

 ……ああ、そうか。
 この願いは、ヒトのネガイ。そこに自身の意志は無く、他人の願望を纏っていたに過ぎない。
 ただの借り物であるが故に、カタチを得たと思っていたこの体も、輪郭のみであったのか。

 新たな世界そのものとなるべく生まれた自分。
 与えられた存在意義。
 されど、紛う事無き己の意味。

 ふと、一羽のカラスが脳裏をよぎる。
 根源を認め、因果を識り、それでも尚、見えぬ光を目指して飛び続ける姿。

 伸ばした手は違えど、ヒトを案じたその身は同じ。

 ならば、この身に宿すカタチは――


 としおに加え、和紗もルディを宥めに入る。

「俺としても、何とか殺さずに事を収めたいのですが…」

 きっかけは悪意ではなく、死者もまだ出ていない。

「決着がついた以上、“この先奪う可能性”を理由に殺すというのは見過ごせません」

 更にジェンティアンも続く。

「コレの仕業はマイナスだけじゃなかったでしょ。プラマイ差引して残り分を僕が代りに殴られる…で手打たない?」
「そこまで肩持つような相手かよ」
「アカシャの為じゃなく、大切な子達の為だよ。それが僕の幸せだもん…けどレート調整するまで待って。しぬ(真顔」

 いそいそとカオスレートマイナスの魔具に換装するジェンティアン。

「その必要は無い」

 不意の声。
 振り向くと、倒れたはずのアカシャが立っていた。

 だがその姿は先程までの光体ではなく、

「うわ、そうなっちゃったかー…」

 ジェンティアンが呟く。

 濡れ羽色の黒髪に、縦に伸びた鋭い瞳孔。一同の前に立つアカシャは、一目見てそれと分かるほどリーゼに酷似した容貌へと変化していた。
 違う部分があるとすれば、リーゼの眼が青であるのに対し、アカシャは赤。そしてその背に黒と白の、左右相反する色の翼を有している事だった。

「…あと帽子も被っていませんね」

 などと和紗がぽつった直後、

 トンッ

 いつの間にかジェンティアンの目の前に移動していたアカシャが、彼の鳩尾に片手を押し当てていた。

 瞬間、音の軽さに反して凄まじい衝撃と共に後方へ吹き飛ばされるジェンティアン。
 岩山に叩き付けられ、轟音を被せて砕片と砂塵に埋もれる。

 何が起きたのか理解する前に、レフニーも倒れていた。
 正面からアカシャに頭を鷲掴みにされ、後頭部から地面へと叩き付けられる。大地に波紋のようなヒビが走り、一拍遅れて陥没。大きなクレーターが出来た。

 重体となる程のダメージでも回復出来る『生命の芽』を持つ2人を、真っ先に封じたアカシャ。
 だが他のメンバーに対しても、身構える時間は与えない。

 予備動作なしで透次に肉薄し、具現化した刀が“銀”を超える速度で閃く。空蝉すらも許さぬ一撃。
 先の戦いで、眷属として半端に頭数を増やしても効果が薄い事が判った。ならばその分の技のみを内に発現し、複合して行使すれば良い。

 刀の柄に添えたアカシャの手が、再度揺れた。刀身よりも遠くに位置していたはずのとしおが血を滴らせて頽れる。
 抜刀の瞬間は見えず。飛ぶ斬撃…いや、命中位置の空間そのものが内から裂けたかのような動作。ジョンが持つ空間スキルのコピー。

 性質の理解。それは効果を完全に中和する術にも変わり、

 刹那、再展開していた空間歪曲の壁をすり抜けて切り伏せられるジョン。
 しかし手を出したアカシャは反射ダメージを受けず。正確には、その反動を別途断裂させた空間へと逸らしていた。

 同様に、防御そのものを無効化してディザイアと一機をねじ伏せ、ルディの力場も容易く突破。
 そして残るは――

 寸前、和紗がリーゼを庇い、彼の前に飛び出していた。

 まるで和紗がそうする事を知っていたかのように、アカシャの攻撃に身を割り込ませるだけの僅かな時間が空く。
 否。事実、予見していた。
 思念の完全なるトレース。彼女が身を挺すと同時に、容赦なく吹き飛ばす。そこにリーゼが庇い返す余地は一切無く。

 一瞬で後方へと消えた和紗を目で追い、反射的に振り返るリーゼ。
 瞬間、彼もまた岩壁へと叩きつけられていた。

 桁違いの力。だがそこに殺意は欠片も存在せず。
 死なぬ程度に、しかし確実に全員を重体へと叩き落としたアカシャ。

「私は、私という生命を完成させる」

 “世界”となる事。それが己の願い、魂のカタチ。
 そしてその中には、ヒトの平穏も含まれる。

 それを成す為にも……



 ――幾度目かの射撃戦。
 その全てで、エリスは終始エリーに圧倒されていた。

 物量で劣り、一撃の出力でも負け、そして何より本人の動きに明らかな差が出来ている。
 それは、“迷い”の差。

 這い蹲っているエリスを見下ろしながら、エリーがクスクスと嘲笑う。

「ホント、おバカさんねぇ…♪ 自分がどうあるべきかで悩むなんて〜」

 彼女はエリスの迷いを見透かしていた。

 みんなから好きだと言ってもらえる自分。
 “彼”から好きだと言ってもらえる自分。
 それらの想いに、自分はどう応えるのが正解なのか。

「そんなの、自分で好きに決めればいいだけじゃなぁい」

 外から見た自分にどんな価値があってどんな意味を持っているのかは、それを見ている周りの者がそれぞれ勝手に決める事。
 ならば自分にとっての自分は、自分が勝手に決めればいい。

「それで結果がどう変わるのかなんて、ただのオマケよねぇ…♪」

 だからエリーにとって、エリスの悩みはただの足踏み。前はおろか、後ろにも横にも動いてすらいない。
 叩き伏せるのは造作も無い。

 その言葉を聞き、エリスは力なく地に伏していた手のひらを、ぐっと握り込んだ――



 武器を構え、血を流しながらも、懸命に子供達を背に庇うリョウコやミコトらメイド部隊。

「ったく、多すぎんだろこれ。どうなってんだ」

 視界を埋め尽くす“銀”の群れ。
 報告書で対処法は把握していたが、それを上回る物量で大挙され、彼女達は窮地に立たされていた。

 ウォランが放ったものではない。常に監視されていた彼に、そんな動きはなかった。
 だがどちらにせよ、突如として押し寄せてきた銀の群れに遮られ、今はその監視も途切れている。危険を感じて1人逃げたか、呑まれて死んだか。それを確かめる余裕は無い。

 子供達を庇う輪の中で、涼介も幸恵と共に銃を手にして歯噛みする。

「くそっ、このままじゃ押しきられる…!」

 自分はまた何も守れずに終わるのか――



 荒野の中、立っている者がいなくなった一同を静かに見渡すアカシャ。

「ここまでだ」

 今のお前達に、希望は残っていない。
 今の世界に、未来はない。
 哀しみで溢れたセカイ。慟哭に割れるココロ。その連鎖の先に光は見えず。
 故に、一度ゼロに帰す。

 その時、リーゼ達の懐でそれぞれのスマホが警告を発した。
 バイタルアプリのアラーム。画面に示されたのは、エリスやメイド達の異常だった。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 光至ル瑞獣・和紗・S・ルフトハイト(jb6970)
重体: −
面白かった!:10人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師