カーテンを締め切り照明も消した暗闇の会議室@斡旋所。
唯一の灯りである卓上の電子モニターが、顔の前で手を組んで座っているゼロ=シュバイツァー(
jb7501)をぼうっと照らし上げる。
「アドリブ? わかってるよな? 存分にやれ」
『アドリブか……』
SOUND ONLYと表示されたモニターの向こうから返ってきたのは、謎のMSの声。
『じゃあロシアンルーレットしようぜ。お前先行な』
直後、暗がりから銀髪ツインテールのドラム缶ロボがブオーッと進み出てくる。
その手にはアウル式の45口径オートマチック拳銃が!
「ちょ待」
ぱぁん!
どさぁ
『リプレイ終盤まで無事だとでも思ったか! 残念だったな!』
●
「Heaven's Horizonがピンチと聞いて!」
ガラッ、と厨房の横引き窓から顔を覗かせる天宮 葉月(
jb7258)。
「調理も接客もお任せ下さい。拗れたアレコレを聞くのも大丈夫」
特に、生霊の相談とか聞くの得意です@実家が神社。
葉月は「どっこいしょ」と窓枠に身を乗り上げて中へ入ろうと…
「あれ? 胸が引っ掛かって……」
じたばた。
一方で、開きっ放しの正面入口からは白目を剥いた砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)の声。
「僕のオアシスが…!」
ぶらりと遊びに来てみれば、キャシー達が不在という由々しき事態。このままでは干乾びてしまう。自分が。
そこへ、依頼を受けた学園生達が続々と到着。
「皆さんと協力して、バーの危機を乗り切らないといけませんね」
「大量欠員のヘルプだね。うん、頑張るよ」
ユウ(
jb5639)とRobin redbreast(
jb2203)。
オカマとして…ではないが、ユウは執事服姿で男装して配膳を担当する事に。ママから言葉遣いと常連客の名前や特徴などを教えてもらいつつ、不作法がないようにしっかりと心がける。
「男装の場合、言葉遣いも徹底したほうが良いでしょうか?」
「無理に変えなくても大丈夫よ(野太い声」
勿論、もてなしは大切である。しかし「お客様は神様です」と一方的に傅くのではなく、あくまでも対当に。
「ユウちゃんの出来る範囲で自然に接してあげれば、お客さんも安心してくれると思うわ」
「なるほど……」
メモメモ。
対して、元暗殺組織構成員という経歴を持つロビンは、
「お料理のほう、お願いしても良いかしら?」
「わかった」
早速厨房へ行き、魚を捌く。
サンマを1匹まな板に乗せ、包丁だーん!して3等分に。
「できた」
「うーん、ちょっと豪快すぎるわねぇ」
刺身と言うにも無理がある。
次いで皿洗い。
スポンジに洗剤を塗りたくり、ぐしぐし泡立てて皿をごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし――
「きれいになった」
10分で1枚。
戦闘では有能なのにどうしてこうなった。
「ロビンさん、一緒に接客を頑張りましょう」
見かねたユウが、笑顔でやんわりと別の仕事を勧めてくれた。
間違ってもお客さんを暗殺しないでね。
「ふぅ、やっと抜けた」
それまで窓に嵌まっていた葉月。
厨房に降り立った彼女は、手にしていた紙袋を差し出す。
「ところでエリスちゃん、たまには甘ロリとかどうかな?」
中に入っていたのは、白やらピンクやらサックスやらの衣装たくさん。
「いや、ここ別にそういうお店じゃないし……ちょっときゃるんとしすぎで恥ずかしい気が……」
「え、いつもゴスロリ服なのに」
「これはきゃるんとしてないし」
普段着だし。
「でもエリスちゃん、最近はゴシックの要素すっかり抜け落ちたよね」
「え」
「…そういう店、じゃないの…?」
その時、背後から別の声がして、振り返るとΩ(
jb8535)が立っていた。
黒のワンピースに白エプロンというウェイトレス姿で、頭にはツインテールのカツラを被っている。
そして何故か手には巨大な裁ち鋏。
「…妻(エリス)と、お揃い(ツインテールが」
表情の乏しさと前髪はいつも通りだが、心なしか満足気なご様子。
「さぁさぁ、お着替えお着替え」
葉月とΩはエリスを引きずって、従業員控え室の奥にある更衣室へ。
その頃、フロアのバーカウンターでは――
「まーこれでも酒屋やってるんでな、酒の扱いには慣れたモンよ」
見た目は少年、中身はじいちゃん。酒屋【梵天】の店主、赭々 燈戴(
jc0703)。
有能な猫の手こと燈戴様にカウンターでのお仕事はお任せ☆ カクテルでも何でも提供するぜ。
「なんならオカマの仕草だってしちゃうわよォ(裏声」
燈戴は、手近に立っていたジェンティアンへ向かってくねくねと揺れながら、
「アアヤダおっとそこのカワイコチャン、アタシと愛のハーモニーを奏でない?」
「アッハイ」
「なぁんてなー」
かっはっは、と快活に笑って元に戻る燈戴。どうやらガチでオカマ役を担うつもりはないようだ。
そうなると、オカマ役のヘルプは今のところ無し。
「仕方ない、代理を努めようじゃない」
それを受けて、今度はジェンティアンが名乗りを上げる。
風邪で不在のキャシー達の代わり。すなわちオカマ役。
「大丈夫。女装なら偶にやってるしね」
それもどうなの。
「助かるわ。控え室にある衣装は好きに使ってちょうだい」
「うん、了解」
ママに頷きを返して、ジェンティアンは控え室へ。
そしてその背を見送りママが視線を戻すと、いつの間にかカウンターにバーテンダーがもう1人増えていた。
ミニタイトバーテン服を着た、樒 和紗(
jb6970)。
グラス拭き拭き。
「あら和紗ちゃん、いらっしゃい」
「話は聞きました(こくり」
こんな事もあろうかと、日頃からバーテン服を準備しておいた。
そんな彼女を早速ナンパする燈戴。
「美人のお嬢ちゃん、俺と燃えるような愛のカクテルを一杯どーだい?」
「……(グラス拭き拭き」
ガン無視。
という訳ではなく、よもや自分がナンパされているなどと毛ほども思っていない和紗は、耳に届く燈戴の声が右から左へ物質透過。
「おっと、こいつぁガードが固ぇやねぇ」
かく言う燈戴もナンパというよりは挨拶のようなもので、「かはは」と特に気にした風でもなくカウンター仕事に戻っていく。
実年齢82歳の彼からすれば、客をもてなすのも同僚をからかうのも、子供を可愛がる事と大差ない。
が、子供と呼ぶにはかなり年季の入った見た目の同僚も居た。
「俺は裏方を担当しよう。清掃や洗い物等か」
ファーフナー(
jb7826)。
マフィアなオーラが漂う、渋みのある容姿。
だがそんな事には構わず、平常運転でからかいに走る燈戴。
「アラヤダ、渋メンさんねぇ。アタシと一杯付き合わない?」
「気持ちだけ受け取っておこう」
ファーフナーは引くでもなく、乗るでもなく。
オカマに対して偏見無し。が、そっちの気も無いので努めて丁重にお断り。まあ、燈戴がガチのオカマではない事も分かってはいるのだが。
次いで姿を見せたのは、ディザイア・シーカー(
jb5989)。
「よぅお嬢、応援に来たぞ」
だが残念。お嬢(エリス)は現在フォームチェンジ中です。
「ふむ、まあ後からいくらでも会えるかね」
とりあえず、今のところ足りていないのはオカマ役と調理役辺りか。
だが生憎と、男女の機微は分からない。偏見は無いつもりだが、それよりも慣れたものをやった方が良いだろう。
「じゃ俺はキッチンに入るぜ」
家事ならばお手の物。料理も然り。
するとRehni Nam(
ja5283)もやってきて、
「私もキッチンを担当するのです。中華以外も、まーかせて!」
どんっ、と自らの胸を叩――強く叩きすぎてげほげほっ。
胸に厚みが無いから衝撃g(ry
「ああっ、レフニーちゃん、だいじょぶですか?」
「大丈夫? チャーハン食べる?」
傍に居た深森 木葉(
jb1711)と絵美が心配そうに背中をさすりさすり。
「ありがとうですよ。あ、チャーハンは後でいただくのです」
呼吸を整え、いそいそとエプロンを結ぶレフニー。
髪はポニテに束ねて、準備完了。
「…皆さん、早く良くなると良いのです」
「終わったら見舞いに行かんとな」
●開店
Heaven's Horizonがオカマバーだと知った上で訪れる常連客達は皆一様に戸惑いの色を見せたものの、テーブルに案内されてからはすぐにいつもの調子を取り戻していた。
何故なら、そこにちゃんとオカマが居たからである。
「いらっしゃ〜い!」
ドレス姿でばっちりメイクの女装ジェンティアン。
化粧がハマりすぎて普通に美人(女子的な意味で)になってしまっていたが、引き締まった腕や肩幅は一目で男のそれと分かる出で立ち。
「見ない顔だねー? 新人ちゃんかな?」
「ヘルプで来てるの〜! よろしく〜!」
また、別のテーブルでは蓮城 真緋呂(
jb6120)も接客係(オカマ)でお手伝い。
「真緋呂さんって言うんすか。なんか本物の女のヒトみたいっす」
特に胸が。
サイズFくらいありそうっす。
「最先端のバッグ入れてるのぉ(くねくね」
あくまでオカマと言い張る。
「凄い技術力っす。ちょっと触ってみても良いっすか」
「やぁだぁ! 山田ちゃんてばぁ〜(ばちこーん」
「すんません自分調子に乗ったっす」
その一方で、キャバクラやホストクラブではなく普通のバーとして利用する客も居る。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」
出迎えたのは執事服姿のユウ。
異性恐怖症のお客さんも多いと聞いていたので、基本は男性客には男性的に、女性客には女性的な振る舞いで接し、ストレスを感じさせないように気を配る。
その姿に見惚れた女性客から時折「一緒に写真お願いしても良いですか?」と尋ねられたりもして、その度にユウは笑顔で応じていた。
「すいません、注文いいですか?」
客の1人が小さく手を挙げる。
それに気づいて、ぬっと現れる1匹のペンギン。
「今日の俺はツンデレペンギンウェイトレスだぜー」
着ぐるみ姿のラファル A ユーティライネン(
jb4620)。
金欠でなりふり構わず入ったバイト先がオカマバーだったのが運のつき。しかし別にエロイことをされる店でもないようなのでまあ良いかと開き直り、給仕役をやる事に。
ちなみにペンギンの着ぐるみは自前。着る物全部洗濯中でこれしかなかった。
ついでにヒリュウも呼び出し、お揃いのペンギン衣装を着せて手伝わせる。手が多いに越した事はない。
メニュー表を持って、もふもふぺたぺたとテーブルへ。
「ぺ、ペンギン…?」
「なんか文句あんのかこらー」
「え、や、す、すいません……。えっと、この生ハムサンドって、ピクルス抜きでお願いって出来ますか? それとレッドアイ1つ」
「メンドクセーな。ちょっと待ってろー」
ツンツンした様子でぺったんぺったんキッチンへ消えるペンギン。
ほどなくしてラファルがレッドアイのグラスを、ヒリュウがサンドイッチの乗った皿を頭に乗せて戻ってくる。
「生ハムサンドピクルス抜きとレッドアイお待ち。飲みすぎに注意しろよ。他に何かあったらまた呼ばれてやるぜー」
本日のキャラ設定:毒舌ツンデレペンギン風味。
ラファルさん、コッテコテっす。過積載ぱねぇっす。
そして、そんな重装型のペンギンウェイトレスに負けじと働くもう1人の新人ウェイトレス、Ω。
2Pカラー…もとい白ロリ服バージョンのエリスと共に各テーブルを回り、注文取ったり運んだりと、意外?にも普通に仕事をこなしていた。なんかハサミ持ってるけど。
「…ん、ビーフジャーキーとバーボン…ロックで…。……すぐ、持ってくる、ます(こくり」
きちんと復唱して、小さくお辞儀も忘れない真面目っぷり。ハサミ持ってるけど。
また、お客さんを待たせている間のサービスも忘れない。
ピリングと名づけたケセランを召喚して、もふもふを提供。更に、エリスのうさぬいにバニー服を着せてセクシーサービス!
完璧なおもてなしである。ハサミ持ってるけど。
対して、こちらはウェイターの藍那湊(
jc0170)。
普段からメイドバーでバイトしている事もあり、力になれたら幸いとヘルプに来てくれた頼もしい男子…ん? 男子?
つまり普段からメイドバーで女s
「女装はしないから! 自前のメイド服だって男子用だから!」
誰かに何かを指摘されそうな気配を受信したのか、頭頂部でぶんぶんと暴れまわるアホ毛。
着ているメイド服もスカートではなく半ズボンタイプの改造品。エプロンを外して着こなし変えれば、執事風に早変わり。
「女装じゃないから恥ずかしくないもん…(ふるえ声」
静かに賑わい出した店内を、右へ左へと大忙し。しかしスキル『磁場形成』をフル活用して、遅れる事無くお客さんの元へと馳せ参じる有能ウェイトレ…ウェイター。
「俺だってやる時はやるんだからねー」
そんな彼の様子を密かに注視していたのは、カウンターに立つ燈戴@湊のおじいちゃん。
バーテンダーの仕事をこなしつつ、孫の動向を横目でチラチラ。
慣れた様子でメイド服(ぎりぎり半ズボン)を着こなす、(いろんな意味で)可愛い孫。
(…色々大丈夫なのか!? ソッチ系に走ってるわけではないよな!? 割とマジでお爺ちゃん心配よ…?)
そんなおじいちゃんを他所に今日も今日とて男らしさを磨いて頑張る湊は、待っているお客さんが居ないかぐるりと店内をチェック。
(さすがオカマバーだけあって、客層もなんだか風変わりなような…)
特にあの、大量のアタッシュケースを抱えた隅の3人組。
(なんだか空気が沈んでる? 悩みでもあるのかなぁ…お話を聞きつつマインドケアで気分を和らげようか)
そう考えて、そっと声を掛けてみる事に。
湊が近づいた瞬間、アニキ分と思しき男がびくりと懐に手を入れながら振り向く。
「な、なな、なん、何か用か!?」
「いえ、どうしたのかなと思って」
「ど、どど、どう、どうもしてねえし!?」
「俺で良ければお話聞きますよ」
マインドケア発動@アホ毛みょんみょんみょん――
――10分後。
「ホント、こいつら2人はガキの頃から何やらせてもトロくて。いい加減、ストレスで俺の髪がもたねぇ」
「ひ、ひどいんだなアニキ。オ、オイラだって、アニキのラブレターを何度も代筆してやった事あるんだな」
「アニキのハゲは元からじゃねぇかよ〜」
「子分想いなんですねアニキさん」
「おお、分かってくれるか!」
「はい! 頑張ってくださいアニキさん!」
親身になって耳を傾けてくれる湊に、すっかり心安らいだ様子のアニキ。
「愚痴ったらスッキリしたぜ……ありがとうなぁ“お嬢ちゃん”」
「は?」
瞬間、にっこりキレる湊。女子じゃないし。男だし。
威圧。
「す、すみませんでした……」
アニキ、再び沈黙。
そんなやり取り(孫の声)を、鋭敏聴覚で終始盗み聞きしていた燈戴おじいちゃん。
(なんだか知らんが、アイツも頑張ってんだなぁ……でもやっぱりお爺ちゃんは心配よ――って、何だこの音?)
ふと時計の針のような雑音が混じって、周囲をきょろきょろ。店の壁時計…ではない。
見ると、カウンター端の床にアタッシュケースが置かれているではないか。
「アナログ時計か? なぁんだ、時限爆弾だったりしてなー」
かっはっは、と笑いながらカウンター仕事へと戻っていく燈戴。
孫も頑張っているのだ、自分も給料分はきっちり働かねば。
他方では、湊とは対照的なテンションで客の身の上話を聞いているロビンの姿。
「それでねー、うちの妹ってば彼氏とか友達とかと遊んでばっかで、全然アタシの相手してくれないのー。ひどくないー?」
「ふーん、そうなんだ」
「でもこの前の誕生日、サプライズパーティーとか開いてくれちゃってさー。お姉ちゃん嬉しかったなー」
「ふーん、よかったね」
棒。
いや違うんですこれでもロビンちゃんは真剣に話を聞いてるんです。
実際、字面の素っ気無さの割にじーっと目を見て聞き役に徹してくれるロビンの事が気に入ったらしく、客のおねえさんは上機嫌な様子でぐりんぐりんと彼女の頭を撫で回していた。
真剣な姿勢で任務に当たるフロア組と同じく、裏方組も至って真面目にお仕事。
厨房で出た紙パックや瓶などの容器は、水洗いしてからきちんと水気を切るファーフナー。
ふと、内側にアルミ箔が貼ってあるタイプの紙パックを発見。
「これは燃えるゴミのほうだな」
判り易いように、牛乳パック等とは別の場所に束ねておく。
仕事こそ自身の存在意義。受けたからにはきっちりこなす。
「ゴミはきちんと分別して出しますよ。環境にもやさしい撃退士なのです」
その横で、種類ごとに分けたゴミを袋に詰めて縛る木葉。ファーフナーと共に、店裏のゴミ置き場へ袋を運ぶ。
マフィアなオヤジと初等部1年の幼女が一緒になって、せっせとゴミを分別している光景。
こんな絵面、二度とないかもしれない。
写真に撮っておこう。
偶然通りがかったエリスはデジカメを取り出し、パシャリとシャッターを切った。
意図的に普通のバーとして訪れる客とは別に、オカマバーだと全く知らずに来る客も極稀に居る。その場合の客が選ぶのは、大抵がカウンター席だった。
しかし今日、いつもならばリーゼが居るその場所に立っているのは少年(爺)と少女。そこへ極々普通の若い男の初見客が、ふらりと立ち寄る。
先客の相手で盛り上がっている燈戴の代わりに、和紗が応対。
とはいえ自分はまだ未成年な上に、手伝い初日。まだ満足にカクテルを提供する事はできない旨を正直に伝えると、
「じゃあお試しで。ノンアルコールで良いよ」
「分かりました。では…」
和紗は少し考えた後、以前――かなり前の事だが――逃亡したオペ子を捕まえた日の帰りにリーゼが作っていたノンアルカクテルを、記憶を頼りに見様見真似でグラスに注いで差し出す。
すると男は差し出されたグラスと交換するように、何やら折り畳んだメモ用紙を和紗のほうへと……
「あら〜! こちらイケメンさん!」
その時、オカマジェンティアンが乱入。隣の席に座り、ぐいぐいと男に肩を寄せる。
男は苦笑いを浮かべつつもジェンティアンを無視。なんとか和紗に自分の携帯番号を記したメモを渡そうと――
直後、ジェンティアンが男の頭を両手でガシィ!と掴み、
「よそ見しちゃ、い・や☆」
首ゴキィ
どさり
おーい、ヒトが倒れたぞー。
「飲みすぎでしょうか。大変ですね、奥で休ませないと」
駆けつけたユウがひょいっと男を担ぎ上げ、テーブル席のソファーへ運んでいく。
アフターケアも万全です。
その間にジェンティアンは、カウンターに残っていたメモ用紙をむしゃむしゃごっくん。
和紗に群がる悪い虫を闇に葬るはとこ@オカマ。
そこへ、オレンジジュースを飲みながらやってくる真緋呂。
「和紗さん、ジュースおかわり!(ぐびぐび」
「飲まないで働いてください」
「違うの、これはお客さんに貰ったの。おかわりはお客さんの分だから大丈夫!」
「なるほど」
そういう事ならばと、新しいグラスでおかわりのジュース差し出す。
「ありがとう! いただきます!」
受け取って、ぐいっと飲み干す真緋呂。
おいそれは お前のじゃない
「はっ、つい!? おかわり!」
おう仕事しろ。
その頃、キッチンでは。
「えいえいおー! なのです!」
アルフィーナ・エステル(
jb3702)の気合一声。
料理はまだ苦手だがお菓子作りはそれなりという事で、デザート担当を買って出る。
タイミング良く、ミニパフェのオーダーが1つ。
「えと、卵や牛乳を使うのですー♪」
ふわふわと僅かに宙に浮かびながら冷蔵庫へ。
それと並行して他のメンバーも、おつまみのオーダーを捌いていく。
レフニーの得意分野は独・仏系中心の洋食料理。和食もかなり自信があるが、葉月の得意ジャンルが和食系という事でそっちはお任せ。
「なんたってお神酒は日本酒だからね」
意気込む葉月。
一方で夜桜 奏音(
jc0588)は、サバイバルな料理ならどんとこいだが、お店で出すような料理は未だまともに作ったことがないので今回は盛り付け役。ちょっと前に、海上で現地調達したタコなら刺身やカルパッチョにした事もあるが。
葉月や奏音と協力しながら回転率を上げ、さくさく調理を進めるレフニー。
スキルは使わず、普通に料理。魚を開き、肉を刻み、シエル・ウェスト(
jb6351)そっくりの喋る怪草シエりじを(食用)をまな板に乗せて包丁でだーん!
\ま゛ー/(断末魔
真面目にお仕事。
お客さんを待たせる事無く料理を仕上げていく。
(これでエリスちゃんに粉かけつつ仕事するはずのディザイアさんは、相対的に評価ダウンするに違いないのです)
なんという高度な戦略。
そうとは知らないディザイアは、
「今のところ人手は足りてそうだな……。今の内に見舞い用のフルーツを冷やしておくか」
上着を脱いで手を洗い、アルコール消毒してから持参したフルーツ片手に冷蔵庫へ。
ついでに食材の在庫確認を……
「…む? 随分温いな、故障か?」
温度計チェック。現在12℃。
明らかに高すぎる。
試しに『▼』のボタンを押してみるが、作動する気配なし。
一体いつから停まっていたのか。
そういえば先程、アルフィーナが卵や牛乳を使ってたいたようだが……大丈夫だろうか?
「き、気づかなかったのです……」
既に完成したミニパフェを手に、しゅんと小さくなるアルフィーナ。
「毒見が必要ね!」
真緋呂登場。
ミニパフェもぐもぐ……うまし!
更にラファルペンギンも出現。
利き乳が出来るほどの牛乳好きという彼女に残っていた牛乳を舐めてもらって、品質検査。
「とりあえず、今すぐ腹壊すって事はねーと思うぜ」
でも危ないから魚や肉は生で使うのはやめとこうねせやね。
既に作ってしまった生食系の料理もお客さんに出す訳にはいかないので、この場で真緋呂嬢が美味しくいただきました。
アルフィーナは、失敗にくじけず気合を入れ直す。
「別のお手伝いで取り戻すのです!!」
ジョブチェンジ。
キッチンを飛び出して、配膳やゴミ捨てを頑張る事に。
とはいえ、壊れた冷蔵庫はどうしたものか。
「機械がダメなら人力もといアカレコ力です」
「手伝います」
言いながら、唐突にディザイアをロープでぐるぐる巻きにするレフニーと奏音。縛って冷蔵庫へぽいちょ。
困った時の自然現象再現スキル。
「縛る必要はあったんですかね?」
解けないので、ディザイアは仕方なく透過で抜け出――せない! 阻霊符…だと…!
床の上をびたんびたんしている彼を尻目に、レフニーは自分でもダイヤモンドダストや氷結晶を使って、別途用意したクーラーボックスに氷を敷いていく。
そこへ冷蔵庫の故障を聞きつけたΩもふらりとやってきて、密かに冷やしておいたデザートの豆腐を緊急避難。自身の氷結晶でクーラーボックスを支援しつつ、そっと豆腐も入れさせてもらう。
他にも使いそうな食材を箱の中に詰め込んで、冷蔵庫を後にするレフニー&Ω。
一方、ぐるぐる巻きから何とか抜け出したディザイアはダイヤモンドダストを吹雪かせながら、なんとか冷蔵庫を修理できないかとパネルを剥がして中をガチャガチャ。
その後ろで奏音は懐中電灯でディザイアの手元を照らすと同時に、何を思ったのか氷結晶で密かに彼の足元から凍らせていく遊びを始める。
しかし彼はそれに気がつかない。
「真夏だったらやばかったな」
「鮮度を落とさないように冷やさないといけませんね」
配管ガチャガチャ。
氷結晶パキパキ。
だが彼はそれに全く気がつかない!
結局、冷蔵庫は直らなかったが、ディザイアの頭上には1つの名案が浮かんでいた。
氷結晶を使い、凍らせた土台を元にお嬢(エリス)の荘厳な氷像を作成するのだ。
早速パネルを元に戻し、そのまま壁際に氷結晶を積み上げ始めるディザイア。
そして繊細に、時には大胆に形を整え、史上稀に見る力作が完成!
「ふぅ、良い仕事したぜ(晴れやかな顔」
コレとダイヤモンドダストがあれば、壊れた冷蔵庫でも充分に冷えるだろう。
でもちょっと、いやかなり、寒すぎる…よう、な――……
「ここが新しい雪子小屋ですね」
その時、冷蔵庫の扉を開けて玉置 雪子(
jb8344)がIN。
「雪子の称号をよく見てくだしあ。『氷結系の意地』なんですわ? お? ぶっちゃけコメディ称号以外は共通称号くらいしかないんですがそれは。ていうか真面目なシナリオで真面目に動いてもコメディっぽい称号が付くのはなんでですかね」
ゆきこだからさ。
「ともかく冷蔵庫の応急処置はユキコにおまかせ!」
雪子と言えば氷。氷と言えば雪子。
冷蔵庫と冷凍庫は雪子のフィールド。ここでの雪子は戦闘力が何倍にも跳ね上がるに違いない罠。
雪子はダイヤモンドダストをベースに据えつつ、氷製武器スキルで形成したブツを次々とぶち込み始める。
<short-cut.exe>――長剣。
<double-click.exe>――投斧。
<scraping.exe>――槍。
<trouble-shooting.exe>――弓矢。
<hang-up.exe>――短剣。
<collision.exe>――メイス。
<bind.exe>――フレイル。
<recovery.exe>――長杖。
冷蔵庫の中身は無限の氷製。
「氷の丘にディザイアニキが居た希ガス」
気のせいですね。
中身は全部冷やさなきゃ(使命感
そこへ様子を見に来た和紗。
冷蔵庫の中では雪子を筆頭にアカレコーズが絶賛フル稼働。
「アカレコ……そういえば真緋呂もアカレコでしたね」
「私が冷蔵庫入ると、食材無くなるわよ?」
氷結晶でカキ氷しょりしょり。
「店内で氷作りや冷やすとかなら手伝ってあげる」
シロップだぱー。
「ならば仕方ありませんね。竜胆兄」
「は〜い?」
呼ばれて飛び出てジェンティアン。
「クリスタルダストお願いします」
冷蔵庫にどーん。
施錠ガッチョン。
「ちょっと!? 僕の氷は本物じゃないって! アカレコじゃないし!」
ドンドンドンッ
『本物の氷じゃないとか冷えないとか、細かい事は気合いで何とかして下さい』
「細かくないし気合いじゃ無理…!」
このままでは細かくない等身大のブロックアイスにされてしまう。実際、冷蔵庫内の壁際には既にそうなったディザイアが。
その隣では、追加の氷結晶を削って他のメンバーの氷像(こちらは中身無し)も建築して遊んでいる奏音も居た。
「ここをこうしてと、よしできました」
所狭しと並べた氷像にハムやフルーツを盛り付けて満足気。
「さて、そろそろ仕事に戻りましょうか」
そう言って奏音は、雪子やディザイアの横をすり抜けて冷蔵庫の扉を開――
ガチャガチャ
「あ、あら? 開きません」
ゆっくりしていってね!
フロアへ戻る途中、和紗は備品倉庫の物音に気づいて中をチラリ。
なんと、バックがサラリーマン風の客を椅子に縛り付けて尋問していた。
バックの頭にぷすりとアイスピックを刺して、リーマンを救出する和紗。
「大変でしたね、此方へ」
勧めたカウンター席の足元にはアタッシュケースが。
キョドりだすリーマン。
その様子に、食器を下げに通り掛かったファーフナーが気づく。
次いでケースから聞こえる針の音。よく知る音だ。
だが騒ぎにするのは不味いと考えたファーフナーは、こっそりとママの元へ行って耳打ち。
「何か恨みでも買っているのか…? 何とか処理しなければな」
ついでに、例の3人組についても。
何となれば、あの大金が詰まったケースの1つと入れ替え、4人揃って早々に店から遠ざけたほうが良いのではないか。
「そうねぇ、それも1つの案だとは思うわ」
でも、と。
「別にこのままで構わないわ」
ここはそういう場所なのだと答えるママ。
『Heaven's Horizon』という名の由来。それは『世界が交わる場所』という願い。
断罪するのではなく、諦観するのでもなく。どちらか一方ではない、性別に、立場に、国に、種族にすら囚われず、互いが互いを赦し合える場所。
だから、追い出したりなどしない。
「でも他のヒトが吹き飛んじゃうといけないから、爆発だけはしないようにお願いね」
「……難しいオーダーだ」
ファーフナーは小さく吐息をもらした。
「ちっすー! 1羽と1MS行けますか〜?」
新たな客の到来に振り向くと、そこには頭に包帯を巻いたゼロ@カラスの着ぐるみ姿。右手にたこ焼き、左手にマイグラスを持っている。
リプレイ開始後20秒で仕留めたと思っていたが、どうやら45口径では軽すぎたか。
「で、これ何の飲み会なん?」
バイト依頼とは露知らず。
ゼロはきょろきょろしながらテキトーな席に座って油性ペンを取り出すと、マイグラスに『水音』と書いてMSを憑依させる。
『私(グラス)にお酒注いでその辺のおっちゃんのテーブルに置き去りとかするなよ。絶対するなよ(3回繰り返してないからマジなやつ』
「え!? フリ!?」
『ちげーよプレ見たんだよ! やめてくだしあ!』
「あちらのお客様からです」
その時、ソファーの後ろからニョキッとシエルが現れた。
「言ってみたかった……!(ふんす」
興奮気味に吐いた息から漂うウォッカの香り。右手には空になった大瓶が。
タダ飲みできる依頼と思ったら真面目に働くバイト依頼だったので、気落ちして手持ちのウォッカを隠れて飲んだった。
シエルタスお前もか。
場酔いしてフラッフラになったシエルは、それでも一応お仕事を思い出して接客を始める。
でも聞こえてくるオーダーが全部チーズにしか聞こえない。
「オーダー入ります。ボルケーノチーズ一つー!」
ボルケーノチーズ。
すなわちグッツグツのチーズ。
それだけ。
辛いとかそんなのではない。
直で食うのだ。
「お待たせいたしましたですー!」
ボルケーノ入りの鉄鍋を持って、全力飛行で突っ込んでくるアルフィーナ@料理の失敗分を取り返す。
衝突。そして転倒。
壁まで突き飛ばされ、1人綺麗にバウンドして戻ってくるシエル。
その上に、びゃーっと宙を舞っていたボルケーノチーズがびちゃあ。
\熱ぅい!?/
直で食うのだ。
騒がしさに呼応するかのように増えるオーダー。ディザイアだけでなく奏音まで欠けた厨房は大忙し。
対して毒舌ツンデレペンギンとお供のヒリュウが、欠員なんて知らねーと言わんばかりにガンガン料理をせっつく。
それを見た木葉が、厨房の手伝いへ。
足りなくなった食材を補充しに、何も知らぬまま冷蔵庫の扉を開け――
「冷蔵庫の中に凍死体が!!」
チャラララッ チャララッ チャーラー!
(CM明け)
とかやって場合じゃない。
木葉の声で気づいた葉月はエリスを呼び、
「…エリスちゃん、冷蔵庫で凍ってる人が居るんだけどどうすればいい!?」
「え、えーと、えーと! と、とりあえず冷凍庫に…!?」
「…妻、落ち着いて、考えよ」
アカレコチームの本気で冷蔵を通り越して冷凍になった一団を、ハサミでつんつこするΩ。
と、一部の氷がむくりと起き上がったではないか。
雪子とジェンティアンと奏音。
「雪子の戦いはまだ始まったばかりですしおすし……」
「リジェネが無かったらしんでたよね……」
「料理に華を咲かせましょう……」
それぞれの持ち場へと戻っていく3人。撃退士だから大丈夫。
営業再開。
リーゼ帰還。
「む? 砂原、ここに居たのか」
カウンター席でリーマンの相手をしているジェンティアンを見て、首を傾げるリーゼ。
「はぐれたから心配していた」
一緒に買い物へ行くと言っていた友人とは、ジェンティアンの事だった。
×:はぐれた。
○:置き去りにされた。
「また何をしているんですか竜胆兄?」
「待って、誤解だから! リーゼちゃんが自分で選んだほうが相手も喜ぶだろうって思っただけだから!」
要するに、
「遅くなったが、以前貰った春服の礼にと思ってな」
リーゼは、持っていた紙袋を和紗へと手渡す。中に入っていたのは、バタフライスリーブのチュニック。
「それは……わざわざありがとうございました」
和紗は驚きと喜びの入り混じった顔で口元を押さえた後、そっとそれを受け取った。
直後、リーゼめがけて突撃する物体が1つ。
「初めまして、です!」
アルフィーナ。今度は衝突せずにきちんと止まれた。
彼女は自己紹介しつつ経緯を話し、よければ友達になりたいと申し出る。
最初は彼女の事を客かと勘違いしたリーゼだったが、それを聞いてすぐに合点がいった。
「こちらこそ、よろしく頼む」
ぺこりと。
うっかりすると見落としそうなほど小さな所作で、リーゼは礼を返した。
「ところで、俺もリーゼが帰ってくるのを待っていました」
そう言って和紗は、リーゼをカウンター内へ促す。
曰く、カクテルの作り方教えれ。
せっかくなのでアルフィーナも勉強させてもらう事に。
「シェイカーの振り方、こうですか?」
実際に手や腕を取ってもらって指導を受ける和紗。
ふむふむと観察するアルフィーナ。
そして……
「公衆の面前でしょうがぁ! リア充爆発しろ!」
突如ブチ切れるリーマン。
「そうだよ爆発しろ!」
とジェンティアン。
「「爆・ぜ・ろ! 爆・ぜ・ろ!」」
同調手拍子。
そのままリーマンは、足元にあったケースを持ち上げるとパカリとオープン。
分かり易すぎるほどに時限爆弾な見た目のそれを掲げて見せた。
「…って、あれ? 爆弾魔!?」
思わず手拍子をやめてリーマンを見つめるジェンティアン。
膠着――
「な、なんだかヤバそうな雰囲気なんだなアニキ。早く帰ったほうがよさそうなんだな」
「お、おう、そうするか……」
「なんや、遠慮せんともっとゆっくりしてったらええねん」
不意に間近で声がして、3人組は隣を見る。
いつの間にかゼロが相席していた。その手には、アウル式の45口径拳銃@冒頭の遺産。
笑いながら撃鉄を起こして『水音グラス』に銃口じゃきぃ!
「もちろん次は水音神の番ですよね!」
『やめて! 憎しみからは何も生ま』
ぱぁん!
がしゃーん
満足気に羽ばっさばっさ。
「アニキ〜、やべぇよアニキ〜。こいつら絶対カタギじゃねぇよぉ〜」
「び、ビビんじゃねぇ! いざとなったらコッチにだってあんだろぉが!?」
3人組はいそいそと立ち上がって、店の出口へ――
ゴトッ
アニキの服の下から拳銃落下。
「あ、拳銃おちたよ、はい」
それを拾ったのはロビン。
純真そうな瞳に、にこっとした笑みを貼り付け、平然と銃を差し出す。
やばい。
やられる。
震えるアニキの手から、ケースも落下。蓋が開いて札束ばさぁ。
店内は冷房効いてるのに、すごい汗だね。暑いの?
もう帰るの? すごいお金持ちなんだね。
ありがとうございました。また来てね。
次第にロビンの声がグニャリと歪んで聞こえ始め、まるで産まれたての仔鹿のようになっていくアニキの膝。
一方、カウンター席で爆弾を掲げていた爆弾魔は――
ゴシャア!!
突然、爆弾魔の後頭部でウォッカの瓶が砕け散った。
フラ〜っと振り返ると、そこに立っていたのはシエル。
「アチラのお客様からです」
3人組を指差し。
「「……」」
「「…………」」
「「……………………え?」」
「 上 等 だ コ ル ァ ! ? 」
大乱闘。
アニキに素手で殴りかかる爆弾魔。
セーフティーが掛かったままの拳銃を空撃ちし続けるアニキ。
誤射を装ってリーゼにパイを振りかぶるジェンティアン。
その前にジェンティアン目掛けてアイスピックを投げる和紗。
カウンターに乗り込んで酒瓶を漁るシエル。
一般客を庇ってなんかいっぱい被弾するユウ。
えらいこっちゃでー。
――その頃、店の外では。
騒ぎの隙に、爆弾魔のケースを持ち出したファーフナー。
「警察沙汰は評判に関わるからな…」
できれば無力化したいところだが、さて中身の作りにもよる。
乱闘の弾みで閉じていた蓋を改めて開けると……
中身は爆弾などではなく、何の変哲も無いただの鳩時計だった――
「こんな事もあろうかと爆弾を鳩時計に変えておきました。さすが俺」
カウンターの内側でしゃがみ込みながら、かははと笑う燈戴。
「あの人はまた変な事を…」
その様子に溜息をこぼす湊。
「……ん? じゃあ本物の中身はどこですか?」
「さぁ?」
乱闘騒ぎでどっかいった。
2人が首を伸ばして店内を見渡すと、なんとフロアのど真ん中に落ちているではないか!
しかも残り時間はあと3秒!
「「ば、爆発するー!?」」
かに思われたその時…!
大の字で飛び出して、爆弾へと覆い被さる1人の少女。
真緋呂だ。
――霊気万象
刹那、爆発。
ボウンッ!と僅かに真緋呂の身体が浮かびあがり、再びその場に落ちる。
しばらくして……
むくり、と。
真緋呂は無傷で起き上がった。
「お客さまぁ、サプライズ演出のお手伝いありがとぉ(はぁと」
一般客へ向けてドッキリアピール。
おう関係者は全員私に後で飯奢れ。
ところがぎっちょん!
「まだだ、まだ終わらんよ!」
爆弾犯が予備の小型爆弾ばばーん!
しかも残り時間はやっぱりあと3秒!
「爆弾の処理方法? 簡単やろこうすれば」
飛び出したのはゼロ。
INI24.7から繰り出される移動力22のロケットダッシュで、爆弾犯の手から爆弾を毟り取りつつ店の外へ。同時に、爆弾の表面に『水音』と書き殴り、
「じゃあ水音神いってらっしゃい♪(夜空ノムコウへ」
遥か真上の空へポイ。
00:03――
00:02――
00:01――
00:00――…………
……あれ?
爆発しない。
ボトッと真っ直ぐゼロの手の中に戻ってくる爆弾。
『絶対に(1人では)爆発したくないでござる』
タイマーの表示が、『00:00』から『(水ω音)』に変化。
でもそろそろ限界。もうだめ爆ぜる。
直後、ガションッと開くラファルの兵装。
一斉発射。
カラスごと天高くかち上げて、今度こそ秋の夜空に盛大な花火を飾りつけた――
●
「駄目ですよ、めっです」
フロアの真ん中で湊に正座させられる、銀行強盗3人組と爆弾魔。
この日、彼らを捕縛する意思を示した者は多かったが、その場で一方的に裁こうとする者は居なかった。
断罪するのではなく、諦観するのでもなく。互いが互いを赦し合える場所。
ママは「あらあら」と楽しげな様子で、散らかった店内を眺める。
そんな訳で、仲直りして飲みなおそうぜ!
「…デザート、できた(こくり」
「い、いいのかしらこれ……」
「料理の華です」
Ωがエリスや奏音と共に台車を押して運んできた物。それは、見事な氷像と化して味付けされたディザイアだった。
肉や魚、野菜、フルーツ、各種シロップに死のソースといった、豪華食べ合わせ全部乗せ。
存分にぺろぺろされてきてね!
「…おもてなしの、ココロ、大事…」
自分は冷やしておいた豆腐を取り出し、苺シロップで『水音』と書いてむしゃぁ。
他方では、ぐったりと横たわる酔っ払いシエルの光景。
心配した葉月と木葉が介抱に向かうと――
「…え、吐きそう? パサランに運んで貰おう。汚れても外に出て水掛ければ…!」
それは道路に? それともパサランに?(戦慄
シエルを乗せてふよふよと外へ向かう巨大な毛玉。が、体がでかすぎて出入口の壁に引っ掛かる。
強引に通過バキバキー。
その後を追いかける木葉。
キッチンにあったシエりじををすり鉢でゴリゴリと煎じてシエルに飲ませてあげつつ、
「飲み過ぎはめっ!なのですよ」
やんわりと叱る。
お酒はほどほどにね。
包帯まみれでフロアのソファーに身を預けていたゼロ@カラス。
手羽で器用に携帯を操作し、オペ子に電話。
「ぺーちゃんうまいもん注文したから遊びにこーへん?(空腹」
ついでに俺の見舞いにこーへん?(切実
一緒にロペ子も来れば掃除も出来て一石二鳥。
「奢りですか」
と思ったら既に後ろに居た。
「ユウさんにお呼ばれしました」
「オペ子さんもきっとお店の危機に心を痛めていると思ったので」
本当は閉店後に斡旋所へ差し入れに行くつもりだったが、せっかくだからと。
「ちなみに今回シュバイツァーさんは斡旋所で依頼を受けていないので報酬出ないです」
「嘘やろ!?」
「オペ子に奢ればワンチャンです」
「断固拒否する!」
報酬出てもぺーちゃんに奢ったら、たぶん結局赤字やしな!
――閉店。
と言ってもフロアのあちこちで、客や店員達の多くが未だ寄り添って寝息を立てていた。
宴の余韻。
そんな中、眠い目をこすりながら頑張って後片付けをする木葉。煙草の吸い殻や、酔ったヒトの吐瀉物もきちんとお掃除。と言っても、吐いたヒトは居なかったが。
エリスもΩと一緒に木葉を手伝っていると、キッチンの片付けとリーゼへの引継ぎを終えたレフニーがやってきて、エリスにハグぎゅー。労いを求める。
「よ、よしよし」
なでなで。
「でも今日は本当におつかれさま、助かったわ。ありがとう、レフニー。もちろん木葉とΩも、他のみんなもね」
一方、カウンターのほうでもひっそりとお疲れ様会が開かれていた。
バーテン仕事に戻ったリーゼに、いつぞやのトナカイ便の送料を請求する真緋呂。
「利子はリーゼさんの気持ち分で」
超笑顔。
対してリーゼは無言で頷き、さっきまでキッチンで煮込んでいたカレーの大鍋3つを鍋ごと並べる。
豚、牛、鶏の王道3種。肉厚たっぷり、ご飯もいっぱい。
「鍋ごととは感心♪」
それじゃ、いただきまーsもぎゅもぎゅもぎゅ。
そんな借金返済現場の横で、和紗は何やらママに言いたい事があるようだった。
やがて彼女は意を決し、
「住み込みのバイトとして、俺を雇っていただけませんか」
此方で学びたい事が沢山。
「何よりママ達から女子力を学びたいです」
真顔でママの手を握る。
するとママは特に悩む素振りもなく、
「2階の部屋はまだ余ってるから、好きに使ってちょうだい」
リーゼの隣室の鍵を貸し出してくれた。
それに真っ先に反応したのはジェンティアン。
「まあ…やりたい事は尊重するよ」
和紗があまり望みを言わない子だという事を、よく知っている。
だから叶えてあげたい。
「…毎日店来るけどね!(ぎりぃ」
「ありがとうございます」
ママに、そしてジェンティアンに。和紗は深々と礼を述べた。
「リーゼとエリスも、構いませんか?」
おそるおそる尋ねる。
「(こくり)」
「もちろん。お店の方でも、これからよろしくねっ」
「ありがとうございます」
ほっと胸を撫で下ろす和紗。
「改めて、これからよろしくお願いします」
●解凍
「ハッ、何があった!?」
ディザイアが目を覚ました時、そこは病院の個室だった。
冷蔵庫でお嬢の氷像を完成させた辺りからの記憶がない。
ふと賑やかな声が聞こえて首を持ち上げると、見知った顔の仲間達が病室内の畳スペースでトランプに興じている。
「あ、復活した」
エリスが気づき、全員がベッドを振り返っておはようの挨拶。
終わったらキャシー達のお見舞いに行くつもりが、お見舞いされる側に。どうしてこうなった。
「まあ、その様子だと店のほうは問題なかったみたいだな」
するとエリスが、バッグから何枚もの写真を取り出してシーツの上に広げてみせる。
フロア、厨房、控え室、店の裏から表まで。店員も客も、笑ったり怒ったり乱闘したり。ディザイアも含め、冷蔵庫組が凍死しかけている場面まである。
あの夜、エリスは仕事の傍らみんなの様子を撮って回っていた。時折、ママとカメラマン役を交代してもらいつつ。
ヘルプを依頼して正解だった、とはママの言。
ただ、全てが上手くいったかというと、そういう訳でもなく……
――店の冷蔵庫内。
「誰か雪子に温かいココアをくだしあ……」
真っ青ガタブル。
氷結系の意地(寒さを感じないとは言ってない
交換部品を手配する都合上、修理業者でもすぐには直せない。
修理完了(雪子解放)まで、後?日――