「必要経費でお腹いっぱい食べられるなんてステキ♪」
普段の準備金3000久遠じゃ、全然足りないんだもの。
樒 和紗(
jb6970)や幸村 詠歌(
jc0244)と固まって座りながら、蓮城 真緋呂(
jb6120)は自身のお腹に手を当てる。
だが大喜びの真緋呂とは対照的に、和紗と詠歌は既にげんなり気味。
「21時間以上ファミレスに居座るなんて、俺に食べ過ぎで死ねと?」
「私は我慢弱いのだがな…」
普段の軍服姿では目立ちそうだったので洋服に着替えた詠歌は、バイクのパーツ(ブレ●ヴ仕様で色は青だ!)に偽装したロペ子ライザーも席に座らせ…もとい置く。
が、突貫作業で増設したせいか、藻部田の尋問に使用したライザーシステム用バインダーがプスプスと煙を噴き始めていた。
「なんと。機体が万全ではないとは」
危なそうなのでバインダーを取り外す詠歌。
その様子を横目に、武田 誠二(
jb8759)は無関係の別客を装いながら他のテーブル席へと着いていた。
図体のでかいおっさんが1人で女子達に混じっているのも不自然かと思い、ゲインと思しき男を見張れる窓際の席に1人で座る事に。
そして誠二は、ふと『ロペ子→オペ子→胃袋要員』という図式を思いつき、オペ子を呼び出そうと携帯を取り出すが――
「オ仕事ガ アルノデ 戻ラネバ デス」
ブ●イヴのパーツ(ロペ子)が立ち上がり、詠歌達に断ってからブオーと店を出て行ってしまった。
と言う事は、オペ子も仕事があってファミレスには来れないかもしれないな。
誠二は携帯をそっとポケットに戻した。
ピンポーン♪
その時、真緋呂が「もう待てない」といった様子でテーブル端に設置されていたコールボタンを押し、店員召喚。
「熟成サーロインステーキ300gセットお願いします!」
まさかの大物。耐久レースなのに正気か。
動揺する仲間達。
「あ、あとドリンクバーとサラダバーも」
ざわ…ざわ…
真緋呂は手馴れた様子で、取ってきたドリンクと大盛りサラダを並べる。早速もぐごきゅしながらメニューを眺め、更に次のオーダーまで検討し始めた。
「お肉は今頼んだし、次はパスタかなー。でも時間はきっといっぱいあるんだし、迷ったらマイペースで順に全部頼めばいいのよね」
依頼の経費で飯が旨い。
それに対し、
「…というか、あまりファミレスって来た事ありません。料亭やフレンチならあるのですが」
さらっとセレブ発言する大阪・帝塚山出身の和紗お嬢。
店員の視線を受けながらメニュー表を開き、
「ふむ。こういうメニューがあるのですね」
「ご注文は?」
「熟考中です」
――5分後
「ご注m」
「今1頁読込んだところです」
――更に5分後
「ごt」
「産地チェック中です」
「推理小説でも読んでんの?」というくらいメニューを熟読する和紗と、SAN値をガリガリ消費しながら律儀にその場で待ち続けるウェイトレス。
一方、テーブルを挟んで反対側に座っていたシエル・ウェスト(
jb6351)は、
「友人曰くドリンクバーで二時間粘れなければ初心者なんですって」
嘗て友人に教えられたアドバイスを元に行動。
とはいえ流石にドリンクだけでは飽きるので、スープバーとサラダバーも注文。
「サラダが好きです。シーザードレッシングはもっと好きです」
野菜とドレッシングの割合1対9。どべちゃあ。
更にドリンクをホットとコールドでローテーションする事で、この過酷な任務を必ずや完遂してみせるであります。
同じくヴェス・ペーラ(
jb2743)も、長期戦を見越して入念にペース配分をシミュレートしながらドリンクバーとサラダバーを選択。玉置 雪子(
jb8344)と共に、グラスと中身を取りに席を立つ。
その雪子はといえば、以前ビーチで毒入りを飲まされた(自分から飲みに行った)せいでコーラにトラウマ。
赤地に白字のロゴマークを見て「コワイ! ゴボボー!」と激震しながらメロンソーダを選んだ。
――ヴェスと雪子が席を離れている間、
(多分食べられなくなる事はないんだけど、ゲインの監視もしなきゃいけないのよね。うーん…そうだ!)
思案していた真緋呂の頭に電球が点る。
「ウェイトレスさん、この注文あのテーブルにお願いします☆」
ゲインと思しき男が座っているテーブルを指しながら、新たにステーキを頼む。
バーでよく?ある『あちらのお客様からです』作戦。
これで相手と目が合ってもニコッて微笑んでおけば、貴方を見つめてます的にガン見しても大丈夫。なはず。
するとそんな彼女の視線を感じたのか、フードで隠れたままの顔を向ける男。
だが真緋呂が笑みを返すと、慌てた様子で再びそっぽを向いてしまった。案外シャイなのか。
それを見て、ふと素朴な疑問が浮かんだはグラサージュ・ブリゼ(
jb9587)。
(…ゲインさんはどうして追い出されずに居座れているのかなぁ?)
8人居ても辛い耐久レースを、彼は1人で乗り切るつもりで居る。そこにはきっと、何か裏技的な策があるに違いない。
真似すれば、自分も楽に長時間居座れるはず。
真緋呂以上にガン見しながら、相手の一挙手一投足を模倣し始めるグラサージュ。
もじもじ
もじもじ
きょろきょろ
きょろきょろ
ごそごそ
ごそごそ
細かすぎる異常に高精度な挙動コピー。
観察眼だとか、見えないナニカで繋がっている双子だとか、もはやそんなレベルではなく、グラサージュはただただ変な子と化していた。
そしてもう1人のぼっち席こと、誠二。
こっそり卜占でお天気占い。結果は、
「台風か(真顔」
不吉である。
●15:30
「さて注文を」
そう和紗が言った瞬間、テーブル傍の床で体育座りしていた店員は、ぱぁっと明るい表情で立ち上がった。
「ドリンクバーとサラダバー。それと…キッズプレートを」
メニュー熟読の結果、少食の自分にぴったりなのはキッズメニューだと確信した和紗。
量の少なさもそうだが、おまけのおもちゃで時間を潰せるというのが素晴らしい。
ほどなくして、和紗は運ばれてきた料理をもぐもぐ。
が、食べきる前に満腹になってしまったのかすぐにフォークを置き、代わりに、おまけで付いていたジェット機の模型を手に取り――
「ひこうきびゅーん(超真顔」
(…和紗さんの様子がおかしい)
真緋呂は代わりに料理を頬張りながら、友の様子を案じた。
●18:00
「…と、あれ? メニュー一巡しちゃった?」
マイペース(スローペースとは言ってない)で食べ続けていた真緋呂が、はたと顔を上げる。
コーヒーを飲みつつチラチラとゲイン?の様子を窺っていた詠歌も、それには感心するやら呆れるやらで思わず苦笑。
一方、物真似にすっかり飽きていたグラサージュはスイーツメニューを片っ端から注文。
ケーキやアイスをパーツ毎に分解し、別メニュー同士を合体・再構成。キメラスイーツを開発して遊んでいた。
「究極スイーツが完成したのです〜♪」
見た目も味も悶絶レベルの激甘。すごいつよい(確信)。
その時、別席でアルコールドリンクを飲み耽っていた誠二がパフェを頼もうとしているのに気づく。
他人のフリの演技をぶっちぎって駆けていくグラサージュ。コメディだから大丈夫(かくしん)。
「お酒に甘い物ですか?」
「甘味は意外と酒に合うんだぞ」
「ならこれをどうぞですー!」
手に持っていたキメラを誠二の口にぐいぐい捻じ込む。
彼がようじょ以外にも興味のある普通のおっさんだったら、夢のような時間だったに違いなひ。
●22:00
ブローカーは未だ現れず。
そんな中、こっそり携帯ゲーム機をピコピコしていた雪子。
ボールを投げてモンスターを捕まえるRPG。黄色い鼠ゲットだぜ!
「近頃は妖怪モノに圧されガチらしい件」
これも妖怪のせいなのね、そうなのね。ブツブツ言いながら、雪子はドリンクを補充しに席を立つ。
と思いきや一同の死角に入った瞬間、なんと蜃気楼で透明化。
(疲れた雪子はこっそり外へ散歩しに行くんですわ? お?)
ついでにすれ違い通信しつつ、雪子は店の外へ――
休憩がてら、一同に断ってから電話を掛けに席を立つ和紗。
店内と店外の間にある待合スペースで携帯プルル。
『もしもし?』
通話の相手はエリス。
「いえ、特別用件はないのですが、声が聞きたくなって」
言いながら自動ドア越しに外を見ると、
どざああああああ!!
台風だった。飛ばされた看板がギュンと道路を横切る。
屋上で待機していたバックの部下が飛ばされていた。ついでに蜃気楼が切れた雪子も飛ばされていた。
キメラスイーツから開放された誠二が、再び1人フリーダムに寛いでいt
ガッシャアアン!
唐突に窓を突き破ってきた看板と雪子のカドが頭に直撃。プヒッと耳血を噴いて転がる誠二。
「大丈夫ですかお客様!?」
店員達が駆け寄ると、
「あの…先輩がたが先にいらっしゃってると思うんですけど…」
under-clock.exeで純人間形態に変身した雪子が、ちょっとひ弱そうな演技で――いや実際瀕死そうな様子で――起き上がった。
under-clock.exeの姿はすっごいレア! 設定図とウェストアップにはあってもアイコンにはない! つまり普段から使ってない! 依頼でも初使用!
これならゲインも雪子が雪子だとは気づかない罠。
●0:30
台風一過。
ヴェスは重たくなってきた瞼を誤魔化す為、サラダバーに置かれていた『ご自由にお取り下さい』と書かれているハバネロソースを直接ぺろり。
舌と喉が痛いが、目は覚めた。
一方シエルは、予め用意しておいたタッパを取り出す。中身は微塵切りにしたジョロキア。
店員に隠れて、指で摘んでぺろり。舌と喉が焼けたが、目は覚めた。
摘んだ指もおしぼりでしっかり拭き取る。うっかりそのまま目でも擦ろうものなら、覚醒ってレベルじゃねぇ。
対して、
「お花を摘みに行ってみるテスト」
立ち上がる雪子。
眠り目でお手洗いに入――った瞬間、個室の窓ガラガラ。
「眠すぎワロエナイ」
脱出してベッドに直行した。
●1:30
ゲイン?も相当辛そう。
ふと、うつらうつらしていた詠歌が眠気覚ましにコーヒーへと手を伸ばす。
ずずっと一口――
ぶふぉぁ!
噴いた。
黒い液体に混じって、ジョロキア片たっぷり。
「私が入れました」
ムフー、と堂々認めるシエル。
「眠くなったら私に任せてください」
「その忠義に感謝する」
言いつつジョロキアタッパに指を突っ込み、その指でシエルの両目を撫でる詠歌。
びたんびたんしてヴェスにぶつかるシエル。
ぶつかられ、眠気覚ましに舐めようとしていたハバネロソースを顔面から浴びるヴェス。
悪魔っ娘2人は無言の悲鳴をあげながら手探りで手洗い場に転がり込み、顔を洗った。
●1:40
寮の自室で、雪子むにゃむにゃすぴー。
●4:00
再び睡魔に襲われる詠歌。直後、
「寝たら死ぬぞー!」
グラサージュが詠歌の胸元掴んでガクンガクン。ついでにダイヤモンドダストでヒュゴオォ!
「こ、これは死ではない…人類が生きる為の――zzZ」
「死ぬなー起きろー!」
笑顔でビンタびびび!(大満足
一度やってみたかったのdeath♪
店内の一角が雪山の遭難現場と化しつつあったその時、店内入口の自動ドアが開いて新たな来店客が。
まさかブローカーか!
反射的に向けられる一同の視線。
が、そこに居たのは、over-clock.exeで天使形態になった雪子だった。
店員に「待ち合わせで知り合いが先に来てる件」と告げ、再び合流。寮に戻ったついでに持ってきたネトゲが題材のラノベでも読もうとした矢先、別席の誠二がノートパソコンでこっそりネトゲ(BrO)をプレイしているのに気がつく。
しれっと合席して観戦する雪子。
「そういえば最近、キ●トって名前のプレイヤーがBrOにも増えた件」
大抵地雷プレイy(ry
一方、騒ぎの陰で密かに寝落ちしていたゲイン?はハッと意識を取り戻し、ダイヤモンドダストで冷えた室温に身震いしながらホットスープを注文した。
●5:00
現れないブローカー。
限界を超え始める一同。
「シーザーうめぇ」
ドレッシングをグラスに注いで、ぐびぐび直飲みするシエル。
「見事な造形だ」
ロペ子から取り外したバインダーを、おしぼりや紙ナプキンでひたすら磨く詠歌。
「……」
おまけの人形で1人遊びを始める和紗。
――その頃、オペ子が居る斡旋所。
業務の引継ぎを見届け、他の職員達に遅れて斡旋所を出る。
まだ暗い冬の夜道。黒い大学部儀礼服の裾を揺らしながら銀髪ツインテールの後ろ頭が帰路を進んでいると、不意に後ろからやってきた誰かにロープで縛られ――
●9:00
ブローカー来ねぇんじゃねぇの?
どんよりした目で一同がそう思い始めた頃、自動ドアをくぐって1人の男が現れた。
真っ黒なサングラスを掛け、長大なレザーケースを背中に背負って店内を見渡す男。彼は一同が見張っていたフードの男を見つけるなり、歩み寄って一言。
「待たせたな」
来た! ブローカー来た!
逸る気持ちを抑えてバックの指示を仰ぐ。が――
『……zzZ』
イヤホンから響く寝息。おいふざけんな。
一同ビキビキ。
だがこの時、コンディション良好な者が1人だけ居た。雪子だ。
段ボールを被ってブローカー達に気づかれる事無く床を這い、彼らの足元にうすい本を設置してその場でじっと待機。
すると、ゲイン?が頭に『!』を浮かべて本に反応し――
「そこまでよ!」
刹那、真緋呂の声。カレーもぎゅもぎゅ。
轟いたカレー臭…もとい叫び声をきっかけに、店内のテンションは一気に戦闘モードへ。
「待ちわびたぞ、この瞬間を!!」
洋服を脱ぎ捨て、一瞬で軍服へと変わる詠歌。
ゲインの爆弾への執念を認め、敢えてこう言おう…
「その思い!! まさしく愛だ!」
抜剣。
飛び掛る詠歌に対し、ブローカーも背負っていたケースの中身を素早く取り出す。
それは50口径の狙撃銃だった。
彼は詠歌達を見て、
「むぅ!? どこかで見たような気がすると思っていたら、まさか収監所前で標的と一緒に居た…!」
今更気づくブローカー兼ウニスナイパー。
あの時は標的しか見てなかったからね、仕方ないね。
ウニ発射。
だが詠歌はそれを切り払い、続く2射目もヴェスの回避射撃によって撃ち落とされる。
攻めるシエルと和紗、抵抗するブローカー、段ボールごと皆に蹴り踏まれる雪子。
そして次の瞬間、シエルの髪芝居がブローカーに命中。逃げようとしていたゲイン?も、和紗のアシッドショットがベルトに当たってズボンすとーん。足を縺れさせて転倒したところへ、グラサージュにキメラスイーツの残りを口に捻じ込まれて御用となった。
「観念してください」
ヴェスがゲイン?のフードを引っぺがして顔を顕にさせ……
なんと彼はゲインでは無かった。
『どういう事だー!』
あ、バック起きた。
プルルル
その時、偽ゲインのポケットで携帯が鳴る。
ヴェスが電話に出てみると、
『やはり藻部田は口を割ったか』
それは、本物のゲインからの電話だった――