「なんと……こ、こんな事が! こんな事が起こるなんて!!」
ルチア・ミラーリア(
jc0579)達が車内へと雪崩れ込む。
その時、桜井疾風(
jb1213)は助手席に座る見慣れた銀髪頭と黒猫の姿に気がついた。
「お、オペ子さん!? なぜここに!?」
「乙女の急用です。命に関わります」
「オペ子さんと一緒の車……は! もしやこれはデート!?」
落ち着けよ。
「小次郎の肉球はぷにぷにだね♪」
一方、オペ子の頭にしがみ付いていた小次郎に手を伸ばす天宮 葉月(
jb7258)。
ケセランのふわもふも良いが、このぷにっと感もやはり捨て難い。黒毛もモフモフ。
こんな気持ちいいナマモノをいつも頭に乗せているとは……羨ましい。
「…って、和んで現実逃避してる場合じゃなかった。何としても逃げないと! 八嶋さんはやく!」
その時、裏口から局長が追いかけてきた。まずい。
すると――
「悪い事したらちゃんと謝らないとダメだよ…!」
「オペ子さんを巻き込む訳にはいきません……自首しましょう」
やはり逃げるのはよくない、と言い出すマリス・レイ(
jb8465)と疾風。
止める間もなく後部ハッチをバァンして飛び出していく。
「俺が犯人です! 他の人には手を出さないでください!」
「きょくちょーさんごめんねええええええ!」
スライディング土下座する疾風。謝罪しながら局長の首根っこにタックルをかますマリス。
瞬間、
ごきっ
局長の首がおかしな音を立てた。
疾風は倒れて動かなくなった局長を見て、
「し、しんでる!?」
刹那、ディザイア・シーカー(
jb5989)と嶺 光太郎(
jb8405)が証拠隠滅にマリスと疾風をグルグル巻きにして車に放り込み、急発進。
「ふぅ…危なかった」
汗を拭うディザイア。
しかし、落ち着いて考えてみるに普通に謝れば良かったんじゃないだろうか?
というか、ころっと倒れた程度で取っ手が折れるだろうか?
それに、これ見よがしに卓上に転がっていた接着剤。自分達が塗る前から、断面には既に乾いた液剤が付着していたような気もする。
普段から局長の机の上を触っていても怪しまれない人物。それは局長本人と……
ディザイアは、車内前方に目をやった。
必死にハンドルを握る八嶋と、助手席のオペ子。まさか――
(…いや、よそう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない)
すぅと目を瞑り、彼は脳裏によぎった考えを飲み込んだ。
殺人容疑も増えたしな。
「あー……くそ、ツイてねえな…」
頭を掻く光太郎。
同様に、蓮城 真緋呂(
jb6120)も、
(…私、何故逃げてるのかしら)
きっとドジっ子発揮しちゃってカップ壊したんだろうけど、具体的にどうやったのか思い出せないし。ていうか転んで机に手ついただけだし。
でも逃げなきゃいけないと本能がシャウトしてる!
「少し時間がたって落ち着いたら謝るから、とりあえず今は逃げるに専念するわ」
簀巻状態で暴れるマリス&疾風を一瞥。
人生、時にはそんな日もある。
ほら、火曜の夜9時とかだってよく人が死ぬじゃない? 大丈夫、よくあるよくある。
●しょーしゅーりき
一同の車へと迫る2つの影。飛翔するはぐれ悪魔ベルと、その背に乗った嘉島 大地。
まさか局長が首ゴキする前に雇った刺客か。
「八嶋さん、私が運転します! 彼氏をギャフンと言わせるべくゲームセンターで練習したから大丈夫!」
「それホントに大丈夫!?」
狭い運転席でもぞもぞと身を捩って何とか交代。
悪魔のフェアレディ葉月。
タコメーターの針が跳ね上がり、箱型の車体がぐあっと加速。青は進め、黄は飛ばせ、赤は見ないでアクセルベタ踏み。
「にげるのかしら? ……おにごっこね」
柘榴姫(
jb7286)がごちる。
よくわからないが、追いかけてくるからにはあの2人が鬼に違いない。
「おにさんこちら、てのなるほーへ」
窓から身を乗り出して手を振る。
一方、透過して車の屋根上へと躍り出るディザイア。猛追するトイレコンビを一瞥してから、車の進行方向を確認。
直線、幅広、障害物無し。
「視界を塞ぐぞ、前だけ見ててくれ!」
直後、彼はスキルで砂嵐を巻き起こした。大地とベルを巻き込んで、車体が砂の壁に包まれる。
砂一色になる景色。しかし次の瞬間、前方にだけぽっかりとトンネルが出来ていた。
エアロバースト。
アウルの風が砂壁に穴を開け、局所的に視界がクリアになる。
「すまないが急いでるんだ、邪魔をしないで貰おうか!」
口に入った砂をぺっぺっと吐き出しながら追いすがる2人に、ディザイアは手首を合わせた両掌を腰だめに構える。
アウルを収束し、両手を一気に前に突き出して解放。
かめ○め波…もとい、太陽の柱。
直撃して墜落するベル。だが、大地は寸前で回避して着地。
全力移動で尚も追走――
ヒュルル、バシィ
刹那その体を、窓から伸びた真緋呂のアイビーウィップが縛り上げていた。
ズザアアア!とアスファルトの上を引きずられる大地。今120km/hくらい出てます。
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
「ふふふ…結婚式の車の後ろの空き缶カラカラみたい☆」
適当に引きずり回した後、曲がり角の手前でポイしてやった。
●全にして個。個にして全
爆走する一同の車が横断歩道に差し掛かる。と、そこにはなんと買い物帰りの豚侍の群れが!
「あぶない!」
叫びながらアクセルを踏み込む葉月。ブレーキ? なにそれおいしいの?
車体にアウルの鎧をかけ、バンパーにシールドを緊急活性。
どっかん!
数匹の豚を跳ね飛ばし、車は尚もドライブアウェイ。
「「貴様ぁ!?」」
豚侍激おこ。そりゃそうでしょう。
バックミラーに映った新たな追手の群れを見て葉月は、
「…コメットで吹き飛ばそう♪」
誰か運転代わってください。
真緋呂と交代し、よいしょと窓から身を乗り出してコメットぶっぱ。更に数匹の豚が爆炎に消えた。
「さあ、アクセル全開で行くわよ!」
叫んだ真緋呂は、何を思ったかギアをバックに。
車は前に進むものなんて誰が決めたの。
いきなり全速後退してきた車を避けられず、豚侍の群れがぷちりと下敷き。
前進。後退。前進。後退――
その場で往復して何度も豚を轢く真緋呂。ついでにアンタレスを詠唱し、
「焼き豚侍となれ!」
爆ぜるチャーシュー。嗤う少女。更には定点ドリフトまでかまして、焼き豚侍をぎゃりりんこ。
タイヤが鳴り、豚侍が泣き、2つの悲鳴がアンサンブル。
「よし☆」
満足した笑顔でギアを戻して、真緋呂再発進。
だが豚侍とは個人に非ず。
生き残りが尚も追いすがる。
それを迎え撃ったのは光太郎。
土遁の術で地面を発破。足下から吹き飛ぶ豚の群れ。残弾全てをぶち撒けてやろうかとも思ったが……
(1発残しておくか。なんか面倒くせぇ予感がする)
――トイレコンビは、果たして本当に倒したのか。
動かなくなった豚侍を振り切り、車は再び葉月の運転で港へと急いだ。
●しょーしゅーりき(詰替用)
光太郎の予感は的中していた。
「トイレどぅぁいすぅきぃぃぃやっはぁ!」
「ヴァヴァヴァァア!」
狂ったようにCMソングを歌いながら、大地&ベル再襲来。ぶち切れてる。
「なんかヤバそう! 捕まったらきっと…薄い本が厚くなっちゃう///」
R-18展開を回避するべくアクセルを踏む葉月。
光太郎は追手に溜息を向けながら最後の土遁で道路を爆破。だが敵は咄嗟に高度を上げて回避。
「大人しくやられろよ、面倒くせぇ……」
また、ここにきて未だに状況を理解していなかったのは柘榴姫。しかし――
「おにさんの、じゃまをすればいいのね」
とりあえず「追手を潰せ」という事だけは理解したようだ。
窓から身を乗り出し、手にしたのは牛乳。
――顔にかけて目潰しに。
「……」
パックを開封して、追手を見る
「……」
手元の牛乳を見る。
「……」
追手を見る。
「……」
手元の(ry
この間、僅かコンマ2秒。壮絶な葛藤。そして――
ぐびぐびごくり
あれ。飲んじゃったよこの子?
「やっぱりぎゅうにゅうをすてるのは、もったいないわ」
その時、車が大きく縦に揺れた。
よろけてぶつかった衝撃で後部ハッチが開放。そのまま外へと放り出される柘榴姫。
が、寸での所で着物の後ろ襟がドアノブに引っ掛かって宙吊りに。
「こぼしたら、もったいないわ」
時速120km/hで宙吊りになりながら手にした牛乳パックに口をつける幼女。
そしてあろう事か、強風と体重に引っ張られた着物が見る見るうちにはだけていく。
着物の下は穿いてない。
重力に引っ張られた幼女の四肢が、ずるりと着物から脱げ落ちr
「うぉっと」
寸前、手を伸ばした光太郎が彼女の腕を掴んだ。
色んな意味で危機一髪。
「…おかしい。なんでただのバイトがハリウッドカーチェイスになった」
幼女を車内に引き戻す光太郎。
それを援護するように、ルチアが『消毒薬』と手書きされた火炎瓶をどこからともなく取り出して、追手に投擲。ヒャッハー。
しかし大地とベルは、降り注ぐ火炎をものともしない。
服の端を焦がしながらとうとう追いついた2人は、開きっぱなしの後部ハッチにがしりと手をかける。すると、
「…後はガンバレ」
ぽつりと言い残し、1人紅翼を広げて車から飛び降りる光太郎。
ここは任せた先に行く。
「「ちょ!?」」
飛び去る光太郎、乗り込んでくるトイレ。残された一同がぎりぃと歯噛みしたその時、
「撃退士として……同じ戦場に並ぶ者として! 皆さんのところへは通しません!」
どんっ、と。
トイレに体当たりするルチア。
揃って車外に放り出され、団子になって地面を転がる。
遠ざかっていく光景の中、魔具を構えてトイレに挑む彼女の後姿が見えた――……
●
多くの犠牲を払い、港に到着。だがそこに待っていたのは、
「お疲れ様。でもここまでよ(野太い声)」
筋骨隆々のオカマの集団。
だがここまで来て諦めるわけにはいかな――
「ここまでか…」
「すみません、私がやりました」
――いかと思いきや、そうでも無かった。
即座に膝をつくディザイアと額を地に擦る真緋呂。
いや、だってもう見た目からして勝てなさそうじゃん?
「というか、何で八嶋さんまで?」
同じように頭を垂れる彼の姿に気付き、真緋呂達が首を傾げる。
「え? そういう君達こそ……」
「「え?」」
沈黙。
そこへ、縛ったルチアを抱えてトイレが追いつく。
恐る恐る白状する八嶋と一同。
「結局誰が犯人?」
「うーん、じゃあもう私が犯人で良いや」
「いやいやじゃあ俺で良いぜ?」
「いやいやいやここは大人の僕が」
「では私が」
「「どうぞどうぞ」」
などとダチョウな事をやっていた時、ふとディザイアが気付く。
「ん? オペ子はどこだ?」
いつの間にか姿が無い。
一同が首を巡らすと、チケット売り場を越えてフェリーへの橋を渡ろうとしている銀髪ツインテールと黒猫の後姿を発見。
ディザイアが呼び止めると、彼女はくるりと振り返り、
「オペ子壊してないです」
「「あっ…(察し)」」
さあ、と潮風が吹き抜けた。
「オペ子ちゃんの辞書には反省って二文字は無いのかな…!」
誰かの声がして、全員が振り返る。いつの間にか簀巻から抜け出したマリスが立っていた。
「心外です。オペ子は反省ができる子です」
ただし局長以外。
するとマリスは徐にオペ子の頭上へと手を伸ばして、小次郎を引っぺがす。べりっ。
そのままモフモフの黒いナマモノを、自身の服の胸の中にIN。
「ブラすっかすかだから子猫くらいよゆーで入るよ!」
どやぁ。
「「マリスちゃん……」」
後ろで見ていたオカマと女性陣が口元を押さえてほろり。
「さあこじろーを返して欲しかったらあたしと一緒に謝りにいこ! お墓に!」
そう、これはあくまでも説得。決して小次郎をモフモフしたかったわけではnモフモフモフ。
と、そこへ加わる新たな人物。
「自主をしましょう」
マリス同様、簀巻から脱した疾風。
だが、なにやら様子がおかしい。
「マグカップは壊れました。局長さんは死にました」
局長をやったのはマリスだが。
だが疾風は、「細かい事は良いんです」と唐突に忍刀を抜き放つ。
「局長の墓前で謝るか、ここで俺に斬られるか好きな方を選――」
「「血迷ったでござるか少年ンン!」」
その時、横から焼豚侍の塊が飛んできた。
疾風にドフッ!と体当たりをかまし、揃って海にドボン。
「乙女に刃を向けるとは何たる狼藉!」
「何たる暴挙!」
「がぼぼぼ!」
ばしゃばしゃと水飛沫を立てる侍と忍者。
その時だった。
カシャンッ
オペ子の手にかかる手錠。振り向くと、背後にエリスが居た。
ずっと隙を伺っていたが、マリスと疾風のおかげで何とか近づけた。
「わああいエリスちゃんだー!」
瞬間、目的を忘れてエリスに飛びつくあほの子…もといマリス。
「ちょ、あばー!?」
ばっしゃーん!
海に落ちる金髪ツインテとお茶天使。
「なになに? なにやってるのこんなところで! あ、そーだ! あのねこの間美味しいケーキ屋さん見つけたから今度みんなで(ry」
その光景を、誰にも気付かれずにフェリーから眺めていた光太郎。
結局、自分達は犯人では無かった。が、
「あー……勘違いした経緯とか説明すんの面倒くせえな」
報告書とかだるい。
「…このまま逃げるか」
港を離れ始めるフェリー。
彼はそのまま、本土へのプチ旅行を決め込む事にした。
●斡旋所
「局長さんごめんなさい☆」
勘違いだったとは言え、逃げたお詫びにと真緋呂が差し出したのは『寿』と書かれた新しいマグカップ。嫌がらせか。
首にギプスを巻いた局長は、ぎりぃと奥歯を鳴らしながら受け取ってくれた。
また、慰労の意も込めて一同にクッキーを配っていたのは疾風。ただしオペ子の分は無し。
「ちゃんと反省してくださいね?」
だがしかし、気付くと疾風の分が無くなっていた。
代わりに、オペ子の手の中にクッキーが。
「オペ子に刃を向けようとした罰です。桜井さんの分はオペ子が頂きm」
「悪いのはお前だろう」
ごつん、と。
小次郎を抱き上げてから、銀髪頭にげんこつを落とす局長。
タンコブの上に乗りなおす小次郎。
するとそこへ、中身が半分ほど残っている牛乳パックを持った柘榴姫がやってきて、
「おぺこ、ぎゅうにゅうのむ」
ガッ
躓き。
びしゃあと散った白い液体はしかし、頭上に居た小次郎が傘となって受け止めていた。
「もったいないわ」
猫に付いた白液をペロる幼女。
一方――
「デート行こうぜお嬢!」
爽やかな天使スマイルでエリスを誘うディザイア。だがそこへ、
「えりす、きょうのともだちりょう」
ともだちには、ともだち料を払うんですよ。 by 完璧なししょー
柘榴姫が残り3分の1ほどとなった牛乳パックを以下略
ガッ
びしゃあ
「あんたまた……」
「もったいないわ」
エリスに付いた白液を(ry
「ちょうど良いから服買いに行こうぜお嬢!」
やいのやいの――
斡旋所支部は、今日も平和である。