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マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/12/27


みんなの思い出



オープニング

 デパートでの騒動から、1週間ほど経ったある日。

 ――撃退庁、早上のオフィス。

「今更だが、随分と無茶をしてくれたな」
「人の事は言えまい?」

 言葉を返したのは栄一。

 民間の施設――オカマバー『Heaven's Horizon』――が“何者か”によって襲撃された一件。
 久遠ヶ原島内で起きたこの事件に対し、撃退士達の活動を支援する組織である撃退庁としても、学園側の要請があれば捜査に協力を惜しまない……と、公にはそういう事になっている。

 実際に事を起こしたのは早上であるし、それは一部の官僚も把握はしている。それどころか暗にそれを肯定した向きもある。無論、学園が本気で調査に乗り出せばすぐにバレるだろう。
 だがどちらも“組織”としては干渉せず。

 別の公務をでっち上げ、書類を偽造し、擬装された転移装置の記録に目を瞑る。
 真相を知っているのは極一部の役人のみ。知らぬ顔を貫き通しておく事で、いざとなれば早上の独断として尻尾切りが出来る。
 学園と撃退庁の対立を引き起こしてまで追求しなければならない案件ではない。
 騒ぎの裏には、そんな暗黙の判断があった。

「辞令は受け取っているな。今日から俺の部隊で動いてもらう」

 隊員を失った栄一の部隊は解体され、その責を受けて本人は降格処分の後、早上の隊に再編。というのが表向きの話。
 実際は、監視し易くする為の措置。
 だがこれは、栄一が反逆者の類として収監されずに済んだという事でもある。

「不満か榊?」
「いや。学生の頃から、成績じゃいつもお前が上だったからな」

 同期が上司というのも、まあ、悪くはない。

「畏まらなくて良い分、気が楽だ」
「ふん……」

 栄一の軽口を聞き流しつつ、早上はくるりと椅子を横に向ける。
 そうして再び口を開き、

「騒ぎが一段落した今の内に、部隊に休暇を出す。過ごし方は各人の自由だが、俺は明日から温泉へ行く。お前も一緒に来い」

 温泉旅館の宿泊券を机に置いた。

「この券はお前が手配したのか?」
「いや、どこぞのお節介な民間人からだ」



 ――オカマバー『Heaven's Horizon』。

「温泉旅行?」

 エリスはママから渡された宿泊券を手に取り、まじまじと眺めた。
 1泊2日。場所は本土の山奥にある旅館。

「どうしたのこれ?」
「貰ったの」

 曰く、郵送されてきた。
 差出人は不明だが、やけに丁寧な手紙も同封されていたという。

『拝啓。紅葉の候、撃退士の皆様におかれましては益々ご清祥の段、心よりお慶び申し上げ――』

 以下略。

 デパートでの件もあり念の為オペ子に調べてもらったところ、旅館そのものはきちんとした許可の下で営業されている老舗らしい。評判も悪くない。
 思い当たる接点が無いので旅館の従業員からとは考え難いが、ちゃんと予約も取れているらしい。
 ともあれ、

「皆の分もあるから、ゆっくりしてらっしゃいな」

 野太くもセクシーな声でママが言う。
 だが「早上や栄一らにも配っておいた」とまでは語らず。

 エリスは隣で同じく券を手にしているリーゼを見やる。

「まあ、また何かあっても、最初からみんな一緒なら大丈夫……かしらね?」
「(こくり)」

 彼はいつも通りの仏頂面で、小さく頷いた。


●翌日
 昼前に旅館に到着したエリス達。
 ふと、建物の前で仔犬と戯れている青肌の少女――どう見ても悪魔――が居た。

「!!」

 青肌少女はエリス達の存在に気づくと慌てて仔犬を抱えて立ち上がり、脱兎の如く旅館の中へと消える。
 一体何だったのか。

 そうこうしていると旅館の女将が出てきて、一同を出迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました。お連れ様も先に到着なさってますよ」
「連れ?」

 誰の事かと首を傾げながらロビーへ入ると、そこに居たのは早上と栄一。他にも刑事の冨岡と、鑑識の丸山――エリス達とは初対面だが――まで来ているではないか。

 しかし向こうはエリス達が来るのを知っていたようで、特に驚いた風でもなく各々挨拶を返してくる。
 尤も早上の場合は、挨拶というほど気さくな態度では無かったが。

 一方、ロビーに面した通路の奥では……

「おい、何でテメエが居やがんだコラ」
「それはこちらの台詞だ」

 鉢合わせしたハルとアーリィが、ごちりと額を突き合わせる。
 更に、

「ぁん? 何だこのメンツ。喧嘩の続きでもやろうってのかぁ?」

 呆れたような顔で舌打ちをする、ルディの姿。
 すぐ傍には、あろう事か涼介も立っていた。

 涼介は慌てて一同に背を向け、ルディに小声で抗議。

「早上達が来てるなんて聞いてないぞ…!」
「俺が知るかよ。無理矢理つれてきたあの眼鏡野郎に言え」

 対するルディは面倒臭そうに普通の声量のまま答える。
 すると、

「ふむ。全員無事に着いたようだな」

 眼鏡野郎こと悪魔ベゾルクトが、スリッパを鳴らしながら現れた。
 1人だけ既に浴衣である。

 もしかして:宿泊券を用意した張本人。

「せっかくの温泉旅館だ。各人ゆっくりしていくと良い」



 浴衣に着替え、娯楽室に集った面々。
 ゲームの筐体や卓球台などが置かれている部屋の一角で、涼介はチラチラと早上の様子を窺っていた。それをハラハラと見守る栄一。
 これはまずい。まずいのだが、どう考えても既に見つかっている。ならば。

 涼介は、思い切って早上に声を掛けようとして――

「名前は?」
「――え?」
「お前の名だ」

 寸前、早上のほうから声を掛けていた。

「…………宍間、涼介」

 意図を量りかねつつ、名を告げる涼介。

「そうか、偶然だな。同じ名の男を知っている。……その男は、もう死んだそうだが」

 だから、ここに居るのは恐らく他人の空似。

「俺は撃退士だ。お前が人類に害を為さないヴァニタスであれば良いが」
「……肝に、銘じておきます」



 一方、マッサージチェアではアーリィがベゾルクトの隣に座り、真剣な表情で何事かを尋ねていた。

「気になっている事がある(ヴヴヴヴ」
「何かな?(ヴヴヴヴ」
「あのヤンキーと通じていた貴公が、何故ウォランにも通じていた。冥魔でありながら、私の主に接触してきた事も解せん(ぐいんぐいん」

 一体どこまで知っていて、どこに属しているのか。

「どちらにも通じていた訳ではないよ。ただ、“彼”を取り巻く環境に少し興味があって、ずっと以前から見ていた。その中に偶々君達やウォランも居たというだけの話だ(ぐわしぐわし」

 ベゾルクトの視線は一瞬だけリーゼのほうへ。

「全て筋書き通りか(ごりごり」
「むしろ逆だ(ぎゅぎゅー」

 事実、ウォランは死ななかった。

「何を考えている」
「世界の行く末を」

 ヴヴヴヴヴヴヴヴ

「「あ゛〜゛〜゛〜゛」」



 ところでそのリーゼはと言うと、

「こうして面と向かい合うのは初めてだな、カラス」

 早上に絡まれていた。
 卓球で。

 台を挟んで立ち、ラケットと球を手にする早上。
 対してリーゼはボーッとしているように見えなくもない態度で、どこかやる気なさげ。

「逃げるのか?」
「……」

 正直、何故自分が絡まれているのか全く分からなかった。
 とりあえずラケットを構えてみる。

 瞬間、早上がサーブ。
 リーゼがレシーブ。
 ラリー。

 と、リーゼの打った球が明らかにオーバーライン。
 早上は「フッ」と勝ちを確信してその球を見送――

 カツンッ

 ――エンドラインギリギリでバウンド。

「!!」

 早上が飛んだ。
 頭から突っ込み腕を伸ばすがラケットは届かず――


 逆さまになって床に刺さる早上の姿が、スローモーションで流れていた。




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リプレイ本文

「やあ、みんな! 今日はヨロシクね☆ミ」

 集まった仲間達と元気よく挨拶を交わす佐藤 としお(ja2489)。
 普段にも増して、妙に気さくで爽やかウキウキ。そんなに慰安したかったのだろうか。

 一方、深森 木葉(jb1711)や青鹿 うみ(ja1298)も紅葉彩る山の空気をたっぷりと吸い込む。

「慰安旅行で、温泉旅館ですか〜。楽しみですね〜」
「慰安旅行というより、なんか実家に帰ってきた気分です…」

 ちょうど田舎がこんな感じ。

「でも、山や紅葉の景色は私に力を与えてくれるのですよ?」

 野山は私のフィールドですっ。

 そして旅館で待っていたのは、覚えのある面々。

「あ、ルディさん」

 通路の奥に居る彼に、「お久しぶりですよ」と声を掛けるRehni Nam(ja5283)。

「まだ1週間だろぉが」
「そうでしたっけ?」

 最後に会ってから4ヶ月近く、もっと言えばあの事件が起こってから1年以上経ったような気がしtまあそれはともかく。

「シシマさんとは仲良くやれてますか?」
「四六時中、横でゴチャゴチャ抜かしやがる」
「お前の素行が悪すぎるんだ」
「日陰者になったって自覚が足りねぇんだよ」
「自棄になって腐りたくないだけだ」

 面倒くさそうに舌打ちするルディと、食い下がる涼介。
 そんな2人を眺めながらレフニーは、

「…お引き受け頂いて、本当にありがとうございました」

 ぺこり。
 上手くやれているようで良かったのです。

 すると他の久遠ヶ原勢もわらわらと集まってきて、ありがとうと連呼しながらぐるぐる囲む。
 ある意味いじめ。

 レフニーは、改めて彼へ向き直ってニッコリ。

「前に言った通り、私にとってこれは借りです。いつでも取り立ての連絡、下さいね」
「……チッ」
「ふむ。全員無事に着いたようだな」

 そこへ浴衣姿のベゾルクトが登場。

 物言いからして、どうやらこの場を用意したのは彼らしい。
 そう思い至った華愛(jb6708)は、じーと彼を見上げる。

『ぉー? 温泉、なのです?』

 宿泊券を貰ってあれよという間に旅館に到着してみれば、初めてお見かけする方も居らっしゃる。
 とりあえず、券をくれたであろうヒトにお礼を言わねば。

「ありがとうございます、なのです(ぺこり」
「喜んでもらえたのなら何よりだ」

 次いで木葉も、ロビーに居た大人達に挨拶しようと思いつつ、

(はじめましての方が、たくさんなのです…。ちょっと怖いかも、です…)

 エリスの後ろに隠れながら、半分だけ顔を出してぺこり。
 一方、ベゾルクトと少しだけ面識のある樒 和紗(jb6970)。

「関係者総揃えとは…何者か今は問いませんが」
「ペットショップの一件では世話になった。アレも一緒に来ているから、見かけたらまた仲良くしてやって欲しい」

 その会話を聞きながら、斉凛(ja6571)は考える。

(わたくしも、ハルさんとアーリィさんともっと仲良くなりたいですの)

 ここに来ているという、彼らの主達とも。

「そうですわ」

 ぴこん、と豆電球を浮かべる凛。

「急用を思い立ちました。ちょっと出かけてきますですの」

 いそいそと旅館を出て行った。



 ――女子部屋。

「私は館内を見て回るのですよっ」

 うみは荷物を置くや否や、しゅたっと駆け出す。

「あたしは、旅館前にいた女の子とわんちゃんが気になるのです」

 探しに行くと言う木葉。

「ふむ…。せっかくですから、俺も」

 ついていく和紗。
 2人で館内を散策していると、自販機コーナーの前で青肌少女と仔犬を発見。

 木葉はとてとてと駆け寄りながら声を掛ける。

「はじめまして〜、木葉なのですよ〜」
「ひえっ」

 知らない幼女に話しかけられてビビる悪魔。

「わんちゃん、かわいい〜のです〜。もふらせてほしいのですよ〜」
「い、犬、好きなの?」

 木葉の反応に少しだけ警戒心を緩める。
 仔犬を抱っこしたまま恐る恐るしゃがみ込み、木葉の手が届く位置へ。

「もふもふですね〜」

 手の平でなでなでと堪能する木葉。
 そこへ和紗も追いついてくる。

「縁がありましたね。仔犬、元気なようで何よりです」

 そっと手を伸ばして一撫で。

(だ、誰だっけ……)

 和紗の登場に再びビビりつつ、必死に記憶ぐるぐる。
 思い出し。

「あっ、ポチ盗みに来た悪いヤツ!(主観」
「ひどく誤解されているようですが」

 一先ず自己紹介。
 ベゾルクトに呼ばれた旨を話すと、青肌少女は相変わらずこちらにビビリながらも、何とか逃げずに会話してくれた。

「こわくないですよ〜。一緒に遊びましょ〜」
「い、いじめない?」
「苛めません」

 2人に連れられて、ナナコとポチも女子部屋へ。
 丁度良いタイミングで凛も戻ってくる。

「ただいまですの」

 とりあえず昼食の前に、1回目のお風呂へ行くとしよう。



 ――女子部屋の前に、としおが立っていた。

「古来より温泉旅行と言えば、そう覗きですね? 今日はその古くから伝わる伝統行事を実践したいと思います(眼鏡キラーン☆」

 旅館に到着した時、やけに爽やかだと思ったらそんなこと企んでやがった。
 気さくで爽やかな印象により皆の警戒心を緩める作戦。この行事…いや勝負は既に始まっているのだ。

 するととしおの肩に、不意に誰かの手が置かれる。
 振り向くと、刑事の冨岡と鑑識の丸山の姿。

「しまった国家権力!?」

 捕まる!
 かに思われたが、2人は徐にサムズアップ。

 おまわりさんが なかまになった!
 3人は頷き合って女子部屋の扉に耳を当て、入浴準備できゃっきゃしている中の声を盗み聞き――

「いやダメでしょ」

 冷静につっこむ、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)。
 「何してるの」と3人を扉から引っぺがす。

 対して丸山が弁解。

「砂原君、お腹が空いたらご飯食べるでしょ」
「うん」
「温泉に来たら入るでしょ」
「まあね」
「じゃあ覗くでしょ」
「おかしいよね」

 『温泉』から『じゃあ』までのくだりがワープ航法すぎて困るんだけど。

「女の子のお風呂無理矢理覗くとか、ありえないし」
「女の子がお風呂入ってるのに覗かないとか、ありえないでしょうがぁ…!」
「え、僕いま何で怒られたの…!?」



 散策を終えて戻ってきたうみ。
 と、女子部屋の前で屯する男子4人を目撃。咄嗟に通路の陰に身を潜める。

 お風呂…
 覗く…

「むむむ、湯けむり温泉旅館っ。女子高生探偵は見たっ!」

 ばばーんと脳内テロップ。

「…とかならないですよね、やっぱり」

 でも何やら乙女的には不穏な会話。

「これは調査が必要な気がするのですよっ」

 だが客である自分が必要以上にウロウロすると目立ちすぎる。
 ならば。

 うみはダッシュでロビーへ向かった。



 納得してくれないジェンティアンに、としおが反論。

「砂原さん、僕の今の専攻はインフィルトレイターです」
「うん」

 『鋭敏聴覚』で会話を盗聴。女子達が風呂へ行く時間帯をチェック。
 『マーキング』で女子の位置を把握。脱衣所に入ったタイミングを見逃さない。
 『サーチトラップ』で反撃を回避。もしも女子達が覗き対策の罠を張っていても対処できる。
 『開錠』で扉を突破。通路の移動もスムーズに。
 『夜目』で視界を確保。夜風呂も安心。
 『侵入』で浴室へ潜入。そこに広がる桃源郷。

「インフィルトレイターの本領発揮だ……(※個人的見解です」
「合ってるけど間違ってる」
「作戦成功の暁には勝利の美酒(酒盛り)が待っているのに!?」
「まさか既に酔ってないよね?」
「枕投げもありますよ!?」

 その時、部屋の中から女子達が出てくる気配。

「「!!」」

 こうしてはおれぬと、先回りして風呂へ向かうとしお。
 そうはさせまいと追いかけるジェンティアン。
 そして――

 何故か冨岡と丸山は、2人を見送って反対方向へと歩いていった。



 うみは撃退士免許(久遠ヶ原の学生証)を見せながら女将に協力要請。

「仲居さんの制服を貸してくださいっ」

 変装して捜査。
 仲居さんなら館内を歩き回っていてもおかしくないのですっ。

「あ、着物は自分で着れますよっ」

 田舎で手伝いをしていたので、旅館仕事は調理以外はきちんとこなせる。はず。
 無音歩行で静かに移動し、読唇術で遠くからでも指示を読み取り、霞声で返事もばっちり。なんだったら変化の術も使えますよっ。

 従業員をせっせと手伝い、久しぶりの仲居仕事に気持ちの良い汗を流すうみ。
 あれ? 何か忘れているような……

「はっ! 捜査がまだだったのですっ」

 当初の目的を思い出したうみは、ロビーでまったりしている冨岡&丸山を発見。女子部屋の前で何をしていたのか直接問いただす事に。
※仲居さんに変装した意味は思い出さなかった模様

「とりあえず、女の子の部屋の傍とかうろうろするの、あんまりよくないと思いますよー?(じとー」

 個人的に、ちゃんと『依頼』してくれるのであれば、協力も吝かではない。

「それは、誰かを疑う為ではなく、信じる為にです。…冨岡さんたちのことですよっ?(じと」

 すると2人は隠す素振りもなく、すぐに白状を始めた。

「じゃあ1つ頼まれてくれる?」
「片棒以外ならお任せくださいっ」

 耳打ちゴニョゴニョ――



 女湯(露天風呂)。
 隅のほうで草木と同化して息を潜めるとしおを、ジェンティアンが引っ張る。

「ダメって言ってるでしょ!」

 女湯には和紗も来るんだから!

 対して必死に抗うとしお。
 女湯の中でひそひそジタバタ。

 ふと、湯気で2人の眼鏡が曇る。

「「おっと、眼鏡が曇った……」」

 ぴたりと揃って手を止めて眼鏡を外し、改めて顔を上げると――

 目の前に服を着たままの女子達が立っていた。

「Σ!? バカ、な」

 なぜばれた!?

「冨岡さんと丸山さんが教えてくれたのですよっ」

 答えたのは仲居姿のうみ。

『一頻り盛り上がったし、捕まえといてくれる? by 冨岡』

 曰く、目的は“覗く事”ではなく“お約束を発生させる事”。
 当然、失敗してOHANASHIされるまでがデフォ。

「謀られた!?」

 ふん縛られて、簀巻にされるとしお。
 とジェンティアン。

「待って!? 僕止めようとした側なんだけど!?」
「覗きはメッですよ〜」
「おしおきですの」
「覗きころすべし、慈悲はないのです」

 簀巻のままレフニーや凛に担ぎ上げられ、柵で隔てられた隣の男湯目掛けて高々とポイされるジェンティアン。
 次いでとしおも放り投げられ…る寸前、女子達の手が滑った――



 ――隣の男湯。

 かぽーん、と湯船に浸かっていた早上と栄一。
 降ってきたジェンティアンが、どばしゃーん!と湯底に沈む。

「愚かな」
「青春だな」

 一方、明後日の方向へ飛んで行くとしお。
 崖側の仕切りを越えて、山の彼方へ真っ逆さま。

\あー!?/

「愚かな」
「青春だなぁ」



 ――その頃、華愛は。
 タオルと羽織を持って、足湯でぽけー…。

 初めて入った足湯。
 温すぎず熱すぎず、思いのほか気持ち良い。

「はふ…」

 まったれー。
 折角なので、金平党の竜達も呼び出して一緒に浸かる。

 ヒーさん、ぱしゃぱしゃ。
 リルさん、ばしゃばしゃ。
 スーさん、ばしゃんばしゃん。
 プーさん、ばっしゃーん!
 お湯びしゃあ。

「ぉー…」

 間欠泉かな?

 その時、上からカツンッと眼鏡が落ちてきた。

「これは、たしか、佐藤様の…なのです?」

 辺りをきょろきょろ。しかし誰も居ない。

(あとで、渡しておくのです)

 こくり。



 娯楽室。
 リーゼと早上の卓球勝負を見ていた和紗は、歯噛みしている早上に声を掛ける。

「挽回の機会を差上げます」

 言いながらラケットを持ち……
 リーゼとダブルス。

「待て。なぜ2対1なんだ」
「…逃げますか?」
「せめてこちらも榊を――」
「サーブです」

 待たずに天井高く球を放り上げる和紗。リーゼの膝、腕、肩を駆け上がってブワッと跳躍スローモーション。
 少林ピンポン。

「これは破壊された店の分、迷惑を被ったママ達やリーゼの分、そしてこの俺の怒りです」

 隠し持っていた球も取り出して、超高角度からの3発同時弾丸サーブ。

「卓球にそんなルールは無(メメキャア!」

 台ではなく早上の顔面に着弾。
 球が肌の上でドシュウウウ!と煙を噴きながら回転し、早上は顔にピンポン球をめり込ませたまま引っくり返って動かなくなった。

 着地した和紗は、『?』を浮かべながらリーゼを見やる。

「何か間違っていたでしょうか。すみません、卓球はあまりやった事がないので」
「大丈夫だ(こくり」

 俺もよく知らない。



 広間で昼食。
 お手伝い継続中のうみがせっせと御膳と座布団を並べ、各々好きな場所に座る。
 が、そこにとしお(人型)の姿は無し。

 とりあえず華愛は、空いている座布団の上にとしお(眼鏡)をそっと乗せておいた。

「…樫崎様、お隣、いいのです?」
「オペ子です。遠慮なく座るとよいです」

 がつがつむしゃりと食べ進めるオペ子の隣で、もきゅもきゅいただく華愛。
 食べ終わった後、満腹でまんまるになった小次郎を転がしたり、皆とキャッキャウフフしているエリスを遠巻きに眺めてみたり。

 ふと、オペ子の格好が気になって尋ねてみる。

「樫埼様は、いつも儀礼服、なのですね。浴衣、着ないのです?(こじ様に指を差し出し」

 指あぐあぐ。

「樫埼様の、違う姿も、偶には見てみたいのです(こじ様もふもふ」
「オペ子です。オペ子は儀礼服を着ていないとオペ子では無くなってしまうので、代わりに小次郎がフォームチェンジです」

 小次郎(浴衣仕様)。

「なるほど、なのです」

 華愛は頷きつつも少し残念そうに、小次郎の浴衣の帯を「あ〜れ〜」してみた。



 食後のティータイム。

「お茶会スペースを用意いたしましたですの」

 凛が、きらっきらした笑顔で告げる。
 駐車場近くの庭に、優雅にセッティングされたテーブルと茶会道具一式が置かれていた。傍には運搬に使った4tトラック。
 午前はあれを取りに行っていたらしい。

 ハルやアーリィの主達も含め、天魔勢へ声を掛けて回る凛。
 その顔ぶれにビビって逃げようとするナナコに対しては、骨型おやつでポチを釣ってからナナコを友釣り。芋づる的にベゾルクトも釣ろうとして……

「興味深い席だ。お言葉に甘えるとしよう」

 釣るまでもなく、既に席についていた。
 道中、1人で散歩していた榊も捕まえて、最後はルディに声を掛ける。

「あぁ? 何で俺が」
「人間界の美味しいスイーツ食べ放題ですわ」

 右手にティーセット、左手に釘バットでニッコリ。
 招待(強制)。

 テーブルへ戻ると、早速ハルとアーリィが啀み合っていた。

「おい、何でテメエも呼ばれてんだ」
「そう言う貴様が欠席すれば良い」
「仲良くしてくださいませ」

 他の参加者達に釘バットを配る凛。
 振り向くハルアリ。

「待てコラ」
「何を配っている」
「人間界では悪い事をしたらオシオキで釘バットで殴るのですわ」

 皆でぼっこぼこ。
 しかし元人間のハルアリが全力で否定。

「そんな風習聞いた事ねえぞ」
「貴様のせいでとんだとばっちりだ」
「上等だ表出ろコラ!」
「もう出ているだろう、馬鹿め」

 ケンカ続行。
 すると凛はスゥっとどこかへ姿を消し……

 ゴゴゴゴ

 ショベルカーに乗って戻ってきた。
 ハルアリを掬い上げ、掘った穴にぽいちょ。土に埋め埋め、上から生コン流し込み。 
※専門家の指導が無いまま撮影を行なっています。絶対に真似しないでください。

 怪我した分は幻想茶会で回復ぴろろん。

「最高の夢を見せてさしあげますわ」

 走馬灯かな?

 静かになった所で凛がテーブルに戻ると、いつの間にか席の1つにとしおの眼鏡が乗っていた。

「あら? 忘れ物かしら」

 とりあえず眼鏡の前にもカップを置いて紅茶をとぽとぽ。腕によりを掛けて振る舞いながら、全員に喫茶店キャスリングの名刺を渡す。
 そこには自身のメルアドと電話番号が記載してあった。

「今後何かあればいつでもご連絡くださいませ」

 忘れずに生コンの上にも名刺置き。

「ハルさん、アーリィさん。お友達になってくださいませ」

 返事が無い。ただのコンクリのようだ。
 だがまあ、きっとこの2人が拒否する事はないだろう。

 それを知ってか知らずか、凛の興味はベゾルクトへと移る。

「クラウさんはともかく、天使のお知り合いってどういう経緯なのでしょうか?」
「知り合いと言う程の仲ではないよ」
「だが貴公らについては、私も興味がある」

 口を開いたアーリィの主を振り返る凛。が、ちょうど目に陽が射してきて、眩しくてよく見えない。
 眩んだままの目で、凛はクラウも交えて話を続ける。

「ハルさんとアーリィさんの事、色々教えてくださいませ」

 できれば、主達本人の事も。

「何を話せば良いのか、よく分かりません」

 淡々としたクラウの声。
 物事に興味を持つという事が下手な彼女の、無垢な返事。

 一方でアーリィの主は、

「私について語れる事もそう多くは無いが……そうだね、アーリィの目的くらいならば話しても構わないだろう」

 それは私にとっての目的でもあるが、と付け加えつつ。
 曰く、自覚と誇りを重んじる。

「独善ではあるが、自覚はヒトとして在る為に必要な尊厳だと思っている。そういう点では、恐らく貴女と私は同じとお見受けした」

 クラウを見やる。

「そうかもしれません」

 違いがあるとすれば、それを“得る為”か“失わない為”かという部分。
 そんな在り方が重なり、2人の主と2人の男はそれぞれの契りを交わして今に至る。

「アーリィの生前などについて知りたければ、それは本人に直接聞いてみると良い」

 そう言って顔が隠れたままの彼の主は、凛が淹れた紅茶をゆっくりと味わった。



 2回目のお風呂に行くレフニーと木葉とエリス。
 除き犯は撲滅したので、今度はのんびり入れる。

「温泉はゆっくり温まりましょう〜。エリスちゃんのお背中を流してあげるのです〜」
「じゃあ次は木葉の背中流してあげるわね」

 そしてレフニーの背中は2人でごしごし。

「折角なので、召喚獣も全員召喚しましょう」

 言うが早いか、レフニーは召喚獣を呼び出す。

「おいで大佐、スナオ、ソラ、クレナイ、トウ、毛玉!」

 呼ばれて飛び出てなんとやら。
 ところで、

「…召喚獣の雌雄ってどうなってるんでしょう。全員女性風呂で大丈夫ですよね?」
「考えた事もなかったわ」

 まあ犬猫なら雌雄関係なく入れるし、召喚獣も大丈夫だろう。

「って、あれ、毛玉が居ない?」

 確かに呼んだはず…あ。

 もしかして:スキル枠が足りない

「こ、コメディですし…! 戦闘じゃないし、気合入れれば何とかなるのです!」

 改めて呼び出し。極めて特殊な温泉コメディ補正全開で追加召喚に成功し、白い毛玉が湯船に浮かんだ。

 対して木葉も、

「鳳凰ちゃんを召喚して、一緒に入るのですよ〜」

 召喚して、丁寧に洗ってやる。

「翼はいつもキレイキレイですよ〜」

 ちゃぷちゃぷ。

 その様子や露天の景色を眺めながら湯船に浸かるレフニー。

「ふう、平和ですねぇ…(ぼへー」

 こんな日がずっと続けば良いのにと思う。

「でも、まだまだ、ずっと先なんですよね…」

 それでもいつか掴んで見せる。

(それを、私は諦めない…)

 と、その時。
 気がつけば木葉がカメラを回していた。

(そーいえば、お風呂に来る前にコノハちゃんに記録係をお願いしていたのです)

 ぴこん、とレフニーの頭上で豆電球。
 カメラを気にしてこちらに背を向けているエリスに後ろからスイーと近づき、その背中を指先でつー――

「にぎゃ!?」

 ツインテが跳ねて頭のタオルがすぽーん。

「綺麗な背中だったので、ちょっとつーってしてみたのです」
「ムキー!」

 ばしゃばしゃ。

「平和なのです〜」

 カメラ越しに木葉もほっこり。



 結局、としおの覗きアトラクションは未遂で終わったわけだが、でもちょっぴり「覗けるならそれはそれで…」とか思ったりもする丸山。
 そんな気配を感じたのかジェンティアンがやってきて、

「不本意だけど覗きよりマシだし」

 皆を混浴に誘う。

「あ、リーゼちゃんと早上ちゃんは拒否権ないから」

 栄一と涼介も連行。
 女子は和紗以外にも、女湯から戻ってきた木葉が「賑やかで楽しそうです〜」と承諾してくれた。

 水着や湯浴衣を着用。今度はきちんと眼鏡に曇り止めも施した。
 湯船に浸かりつつ、ジェンティアンは徐に話を切り出す。

「リーゼちゃんの願い、はっきり聞いてないよね? 僕ら…最低限泣かされた和紗は聞く権利あるでしょ」

 女泣かせタラシと思われろ(心の声

「泣いてません」
「ふむ……」
「泣いてませんよ?」

 リーゼはしばし考えた後、

「皆が笑って手を取り合える世界」

 それが願い。しかし言葉の内容の割に、相変わらず顔はムスッとしたままだった。
 すると和紗が不思議そうに首を傾げる。

「その“皆”にリーゼは入らないのですか?」

 確かに、笑顔も人を頼れるようにもなった。
 だがその願いの内訳に、リーゼ自身の笑顔は含まれているのか。

「ヒトの幸せを願うなら、自分が笑顔で幸せでなければ。貴方は自分を犠牲にして諦めてしまう」

 願うなら先ず己から。

「俺は子供で諦め悪いので、貴方の幸せを諦めたくない」
「……」
「…ですから俺がリーゼを幸せにします」

 良案でしょ? 褒めて? と。
 言い切った和紗の姿に、ぱたぱたと犬耳尻尾の幻影が浮かんでいた。

 リーゼは、わんこっぽくなった和紗の頭を自然に撫でつつ、

「…難しいな」

 順序の問題というか、そもそも順序という概念が無いというか。
 誰かの幸せと自身の幸せが完全に同期している、と言えば良いのだろうか。だが――

「ありがとう(なでなで」

 但し仏頂面は変わらず。
 その光景にジェンティアンは、わんこと飼い主のやり取りを幻視してほっこりしかけて…

「…はっ!? そんなプロポーズ許しません!」

 正気?に戻って湯船ばしばし。
 対して言葉を続ける和紗。

「俺は大切なヒトを傷つけられて許せる程寛容じゃない。だから俺が誰かを憎まずに済むよう、リーゼ自身も大切にして下さい」

 瞬間、合点がいくリーゼ。
 自分の願いに順序が無いように、彼女の願いもまた、過程と結果が同一なのだ。

 そうして彼女は、

「竜胆兄もです」
「へ?」

 湯を叩く手をピタッと止めるジェンティアン。

「先に失礼します」

 一礼し、和紗はいつの間にか茹でダコのようになっていた木葉を引き上げて出て行く。
 2人が完全に去った後、

「いい子でしょ…」

 ジェンティアンが呟いた。
 眼鏡を外し、リーゼを直視。

「僕は和紗を傷つける奴は許さない。…リーゼちゃんは、許す?」

 もし躊躇も苦悩もなくYESと答えるなら、和紗と近づけさせる訳にはいかない。
 リーゼの答えは、

「……それでも、どちらも助けたいと思う」

 グレーな返答。

 だがそれはとても難しい。
 だから、

「砂原が必要だ」
「へ?」

 和紗を最優先にできるジェンティアンが。
 自分にも和紗にも、ジェンティアンが――他の誰かの力が――必要なのだと思う。

「まるで楚辞だな」

 ぽつりと言ったのは早上。

 中国の古い詩。
 湯谷(ようこく)にある扶桑の木には10の太陽がとまっており、普段は交代で1つずつ空に昇るのだが、ある時、10全てが同時に空に昇ってしまい草木が焼け始めたので、弓の名手が10の内9の太陽を射落として草木を護った…という話。
 この太陽は、ヤタガラスの元となった金烏であるとする説もある。

「だからと言って貴様を光の鳥などとは思わんが」

 言いながら早上は、ツンツンと背を向ける。

「ふーん……でもリーゼちゃん、とりあえずその発言いろいろ危ないから」

 手を取り合う世界の前に、新世界来ちゃうから。
 御免被ると、ジェンティアンは再び眼鏡を付け……

「あれ? これ僕のと違う」

\やあ、良いお湯ですね!/

 としおだった。

「ちょ、外れないんだけど!?」

 どうやら呪われているようだ。

「見せてみろ」

 早上や栄一、涼介、リーゼらが代わる代わる引っ張ってみる。

「痛い! はがれる! 顔の皮剥がれる…!」
「仕方ない。しばらくそのままで居ろ」
「え」



 夕食後、早上の部屋を襲撃するジェンティアン達。

「いい機会だし飲もうよー」

 酒盛。というより宴会。
 レフニーら未成年組も、隅っこで羨ましそうにソフトドリンクで参加。

「忘れてたけど、はいこれ」

 ジェンティアンが、ヘヴホラの修理代(2割増)の請求書を早上に突きつけr

「酔いが回ったようだ私は寝る(お布団ばさぁ」

 早上すやぁ。
 そっちがその気ならと、ジェンティアンは栄一に携帯番号とメルアドを聞きに行く。

「早上ちゃん、教えないか教えて着信拒否しそうだから」

 転送よろしく。



 リーゼと散歩していた和紗。
 紅葉が見える渡り廊下で長椅子に腰掛けて話をする。

 じー、と彼の青い瞳を覗きこみ、

「貴方の願い、純血の人間でない事も理由の一つですか?…その瞳」

 自然、無意識にそっと瞼にキスして微笑む。

「む?」
「たくさんの想いが重なった不思議で綺麗な瞳なので。カイヤナイトに似ていると思ったんです」

 先日贈ったネクタイピン。

「知らない事が多いので、もっとリーゼの話を聞かせてくれませんか?」

 育った国。
 大切な家族。
 見てきた世界。

 貴方の言葉で知りたい。

「俺の話もしm…別に知りたくないですね、すみません(耳ぺしょ」
「聞かせてくれ」

 こくり、と。

 互いに話す内、やがて和紗の声は寝息に変わっていた。
 リーゼの浴衣を握ったまま。

「これ結婚式で流すのです(によによ」

 いつの間にかレフニー達が物陰から見ていた。
 カメラでREC。

「…そんな穏やかな顔で寝てたら起こせないじゃん」

 ジェンティアンが毛布を被せると、皆も1枚また1枚と毛布をふぁさぁしていく。
 もこもこ。
 ちょっと寝苦しかった。



「早上ちゃん恋人いないのー?」
「zzZ」

 酒盛に戻り、絡み酒なジェンティアン。
 ちなみに早上はガチ寝だった。

 その後ろでは、木葉の提案で枕投げ大会が勃発。
 うみも休憩中に合流してドタバタきゃっきゃっ。

 枕を振りかぶった木葉は、しかし浴衣の裾を自分で踏んづけて顔からびったん。

「えううぅ…」
「隙ありですー!」

 全力投球レフニー。
 釘バットで打ち返す凛。

 顔に貰って引っくり返ったレフニーは、そのまま顔を埋めたまま動かず……

「zzZ」

 あ、落ちてる。
 一頻り暴れた後、他の面子も突っ伏すように就寝。

「お布団はエリスちゃんのお隣なのです! これは譲れないのですよ〜!」

 木葉も枕を抱え、エリスに寄り添いながら目を閉じた。



 ふと、目を覚ます木葉。

 微睡みに浮かぶは悪夢。
 皆と仲良くすればするほど、あの時の事を夢に見る。

 ――獅子のような天魔が父を引き裂くところを…
 ――撃退士が放った銃弾が母を貫くところを…

 こっそり部屋を抜け出し、夜空を見上げて呟く。

「今が、楽しくても、忘れちゃ、ダメなのですね…」

 お父さん、お母さんのこと…。

「でも…、天魔も、撃退士も、今は大切なお友達なのです…。例え、怖くても…、震えが止まらなくても…。あたしは、みんなを好きでいたいのです…」

 ぽふっ、と。
 不意に、足に柔らかい感触。

 見ると、エリスのうさぬいがただ黙って手を添えていた。



 同じくこっそり部屋を抜け出した華愛は、露天風呂へ。
 1人静かに湯船でぽけー…。

 これまでの事を色々考えながら、ぶくぶくぶく…
 ぶくぶく…
 ぶく…
 …

 死ーん…

 あれ? これ溺れてね?

「ふー、やり遂げたのですっ」

 そこへお手伝いを終えたうみが。
 湯船にうつ伏せで浮かんでいる華愛を発見。

「はぅあっ!?」

 仲居さんは見たっ!

\チャラララッ チャララッ チャーラー!/

 あ、違うこれ家政婦じゃなくて火曜のほうだ。
 まあいいか。
 いやよくないか。

 華愛の顔をぺちぺちして蘇生。
 今度は溺れないようにお話しながら一緒に湯に浸かる。そうして……

 話してる内にうみものぼせて一緒にぶくぶく死ーん。

 そこへ車椅子のクラウに付き添って凛が現れ、2人を発見。

 メイドは見t(以下略



 翌朝、チェックアウト前。
 お土産コーナーでルディに手招きするうみ。

「旅館での思い出に、エリスちゃんたちとお土産を買うのです。ルディさんも一緒にどうですかっ?」
「いらねぇ」

 一蹴。
 が、うみも引き下がらず。

「他の思い出が増えたら、ユートさんとの思い出が薄まってしまうとか、考えてるんでしょうか? でも彼女が望んだのは、ルディさんが一人ぼっちになることじゃない。だから押しつけがましくてもいい、ユートさんの思いと寄り添えるように、ルディさんにプレゼントをしますっ」
「うるせぇ、全部声に出てんだよ」
「うっかりっ!?」
「んな面倒くせぇ事いちいち考えてねぇっつーの。普通にいらねぇ」
「なら良かったのですよっ。はいどうぞっ」

 温泉饅頭のストラップを差し出すうみ。

「聞ぃてんのかよ」

 顔を顰めながらも、何だかんだでルディはそれを受け取ってくれた。

 他方で、早上に声を掛ける華愛。

「あのヒトは、お変わりないのです…?」

 ウォランの件。
 頷く早上。

 すると華愛は、伝言を頼む事に。

 ――いつかまた、空の下で、お友達として…お茶でも致しましょう。

「……伝えておく」



 そうして一同は、一泊の宿を後にした――……






























●1年後
 安全教習会の跡地に出現した迷宮、その探索から帰ってきた直後の事。
 ヘヴホラで、1匹の白熊が面接を受けていた。

 向かい合って座った白くまー。
 ママが履歴書に目を通す。

 氏名:白くまー
 種族:白くまー
 希望業種:調理(紅茶・コーヒー含む)。
 志望動機:最近攻勢激しいグロ…黒天使の監視・牽制。エリスちゃんを愛でる(最重要。でもちゃんとお仕事優先します)。

 ちなみにママは、白くまーの中身がレフニーだと気づいている。…かもしれない。

「じゃあ早速、今日からお願いできるかしら?」

 採用。

\がおー(こくり/

 その時、2階からエリスが下りてきた。

「店に熊が!?」

 続いてリーゼと和紗も。

「こちら、今日からお店で働いてもらう事になった白くまーちゃんよ」

\がおー(ぺこり/

 いそいそとエプロンを付ける白くまー。
 やがて店の扉を開けて“彼”がやって来て――




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 星に刻む過去と今・青鹿 うみ(ja1298)
 ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 ついに本気出した・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
重体: −
面白かった!:9人

星に刻む過去と今・
青鹿 うみ(ja1298)

大学部2年7組 女 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード