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マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/24


みんなの思い出



オープニング

 ――どうして俺なんだ。

 涼介が目を覚ましたと病院から知らせを受け、駆けつけた栄一に投げかけられた最初の言葉がそれだった。

「どうして、幸恵さんを助けなかったんだ」
「……」
「俺に構わなければ、まだ間に合ったはずだ」
「……その時は、お前が死んでいた」
「あんた達2人の為なら俺は死んだって良かった!」

 叫んだ直後、涼介は大きく咳き込む。傍に控えていた医師と看護師が割って入り、

「興奮しすぎです。あなたも、申し訳ないがお話はまた日を改めてください」

 言われて、栄一は病室を追い出された。

「幸恵さんを殺したのは、あんただ」

 部屋を出る間際、後ろから聞こえた涼介の言葉が強く刺さる。だが心の中には、その責苦を歓迎している自分が居た。
 贖罪。誰かに咎められる痛みで、己が背負い続けるべき罪の意識を誤魔化そうとしている。
 それに気づいた瞬間、栄一はそんな自身を戒めるように、深く静かに息を吐いた。

 翌日の夜。
 撃退庁のオフィスで書類の処理に追われていると、携帯が音を立てた。

 病院から涼介が居なくなったという連絡。
 電話を切り、すぐに病院へ向かおうと立ち上がったその時、

「栄一さん」

 他に誰も居ないはずの室内で不意に声がして、栄一は驚きながら振り返る。
 窓際に涼介が立っていた。

 その背に、人間の彼には有るはずのない黒翼を広げて。

「涼介、その姿は……」
「力を貰った」

 刹那、一閃。
 横薙ぎの切っ先が、反射的に上体を反らした栄一の胸元からボタンを1つ弾き飛ばす。そのまま間髪容れずに横に転がった直後、真っ直ぐに振り下ろされた2撃目が事務机を両断していた。

「馬鹿な真似を……」
「恋人を殺した奴に言えた事か」
「……」

 ヴァニタスと化し双剣を携えた涼介を前に、栄一は重々しく口を閉ざして自らの双剣を実体化する。

「この力で俺は、あの時部隊を襲った悪魔を見つけ出して必ず滅してやる。そして、幸恵さんを殺したあんたもだ」

 そう言って、剣の切っ先をゆっくりと持ち上げる涼介。
 だがそこへ、異常を察知した別の職員がオフィスの扉を開け放って現れた。

「榊、今の音は――」

 エージェント早上。
 彼は涼介の姿を見るなり、阻霊符を発動させて拳銃型の魔具を構える。

「血迷ったか宍間!」
「くそっ」

 舌打ちし、窓を破って飛び去る涼介。
 早上は待機中の部隊を呼び出すべく無線機に手を伸ばす。

「待て早上」
「撃退庁の身内が天魔に寝返るなどあってはならん事だ。応答しろC班」
「違う、あいつは寝返ったわけでは――」

 栄一が必死に食い下がったの見て、早上はカチャリと彼に銃口と向けていた。

「榊 栄一、お前を本件における重要参考人及び共謀の容疑で一時拘束する。……悪く思うな。今のお前は職務の妨げになる」
『こちらC班』

 その時、無線機が鳴り、早上の視線が僅かに下がる。

 瞬間、栄一は窓から飛び出していた。

 双剣からワイヤーへと持ち替え、壁の出っ張りに引っ掛けて落下速度を緩める。
 それでも着地の際には結構な衝撃を受けつつ、彼は窓から顔を出した同僚を一瞥してから姿をくらませた――……



 バーの襲撃から一夜明けた朝。栄一は事のあらましを一同に話した。
 部隊を壊滅させた悪魔は、戦闘時に両腕に紫電を帯びていた事。ヴァニタスと化した涼介の事。そして……自分が幸恵を見殺しにした事。

 三原 幸恵という女性が自分にとって最も大切な存在であるというのは、考えるまでも無い絶対の事実。勿論、決して涼介や部下達の存在がそれより下だというわけではないが、こうした心は、単純な順位云々で語れるものではない。

 今でも、他のどんな犠牲を払ってでも彼女を優先したいと、自分は思っている。
 だがそれは余りにも……

「我侭だと。そう思った」

 だからこそあの時、自身の大切なものを優先してそれ以外を犠牲にするという選択が、どうしても受け入れられなかった。受け入れてはいけないと考えた。
 彼女を優先したい気持ちと、私欲を優先してはならぬという気持ち。
 結局はその選択すらエゴの結果であるという幾重もの矛盾を孕みながらも、自分は、最も大切なものを選ばないという道を取った。

 己を戒めるのが尊い事だと思っているわけではない。目の前で誰かが決断に迫られていたら、嘘偽り無く「自己を優先しろ」と勧めるだろう。
 但し、自分は別。
 おかしな理屈だとは理解しつつも、自身の在り方として間違っているとは感じない。

 しかしそれらを口にしたところで、ただの言い訳でしかない。
 だから、涼介には話さなかったのだが……

「言い訳が悪とは限らないわよ。分かり合おうとするならね」
「……思い知らされたよ」

 ママの言葉に、栄一は深く静かに息を吐いた。
 全ては、涼介と話をしなかった自分の過ちだ。

「どうしてリーゼに手伝いを?」

 尋ねたのはエリス。

「彼ならば、手を貸してくれる気がした」

 撃退庁の書類上で何度か彼の存在を目にしていたという栄一。
 カラスや死神などという悪い噂が目立つ一方で、自分は彼の行動にある種の『中立性』を感じていた。

 彼に頼んだのは、横槍の阻止と情報収集。
 これが復讐だと知りつつも引き受けてくれたリーゼの真意は分からない。しかし、

「彼が何かを隠しているような気はするが、嘘をついているようには見えない」

 何より、撃退庁からも追われる身となった自分には、彼の助けが必要だ。
 そして――

「涼介が俺を殺すというのなら、それでも構わない。だがその前に、あの時部隊を襲撃してきた悪魔だけは何としてでも討伐する」

 強く、言い切った。

「……まあとりあえず、榊さんはしばらくウチで身を潜めるのが良いと思うわ」

 ママが提案。
 一度失敗した以上、早上も再び店を襲いはしないだろう。騒ぎになる事を避けるというのが、早上達の最大の枷だ。

「調査は皆に任せましょ」
「結局巻き込んでしまったな」

 栄一は、学園生達へと深く頭を下げた。



「復讐に焦る気持ちは分かりますが、仇は彼1人ではありませんよ?」
「言われなくても…!」

 ローブを目深に被り車椅子に座っている悪魔――ウォラン――の言葉に、涼介は思わず声を荒げる。

「もう1人の仇についてですが、誘き出す為に餌を撒いてみました。と言っても、出てくるのはその配下でしょうけどねぇ」

 紫電の悪魔が飼っているヴァニタス。
 そしてそのヴァニタスは、同じく餌に釣られた撃退士達と鉢合わせ、戦闘になるはず。

「戦闘力からしてヴァニタスがやられる事はないでしょうから、戦闘後を尾行して、主である悪魔の居所を突き止めてください」
「……わかった」

 頷いて出て行く涼介の背に、ウォランは心配そうに釘を刺す。

「相手は主と同様に紫電の技を使うでしょうが、カッとなって飛び出さないでくださいねぇ」



「んだよ、蛻の殻じゃねぇか」

 ハルは、空コンテナしかない倉庫内を見渡しながら舌を鳴らした。
 『悪魔に集められた孤児達が隠れ住んでいる』という情報を元にやって来たはいいが、そもそもここにはヒトが生活していたような痕跡が無い。

「きな臭ぇな」

 情報の出所に不信感を抱きながら出口を振り返った時、そこに現れたのは数人の撃退士。
 都合良く駆けつけてきた一同を見て、ハルは自分が撃退士達に誘き出されたのだと判断し牙を剥く。

「つまり喧嘩売ってんだよな? だったら買ってやらァ!」

 彼は両腕に紫電を纏わせ、地面を踏み砕いて撃退士達へと殴りかかった――

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リプレイ本文

 ――少し前。

「エリスちゃん、遊びに来たのですー」

 バーを訪れたRehni Nam(ja5283)。
 が、店内はボロボロ。栄一が一同に事の発端を話そうとしている所だった。

「どこで、気持ちを取り違えてしまったのでしょう」

 話を聞き終え、涼介の行動に違和感を覚える青鹿 うみ(ja1298)。
 しかしそんな彼女とは対照的に、

「ただ弱いだけやろ? 根っこの部分がな」

 反感も共感も無く、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はただ淡々と吐き捨てた。



 報告の為に斡旋所へ戻った8人にオペ子から新たな依頼が告げられる。

「孤児を狙ってる天魔ですか……」

 不確かな情報と聞き、深森 木葉(jb1711)が小さく唸る。

「っ! いつか参加した依頼を思い出しますね……」

 過去のディアボロ事件を挙げるレフニー。
 孤児を乗せたトラックを襲撃した狼型と、製薬会社の地下に監禁した孤児を奪われまいとした鎧型。
 もしもトラックが製薬会社の所有する物だったとしたら、それを襲った狼はいったい……。

「……悪魔側で、孤児に関わる勢力が2つある……?」

 孤児を集めようとする鎧側と、それを防ぎ助けようとする狼側。
 いや、その2つが今回の件に関係しているとは限らないし、狼側も集める為に動いていた可能性もある。
 それでも、もし関係していたとして、タレコミにある天魔が悪魔だった場合、いったいどちらなのだろうか。

「まだ、パズルのピースは足りてへんなぁ」

 そう言ってゼロは、オペ子に情報元の再調査を依頼するも、

「逆探知前に切れたので無理です」

 バッサリ。

「そもそもこの件が榊さんの件に関係しているかどうかも怪しいです」
「え? じゃあ何で俺らに依頼したんや?」
「ちょうど目の前に現れたので」
「ぺーちゃん……」
「とにかく確かめてみるのです。本当なら孤児たちを助けないと……」

 何か言いたげなゼロだったが、駆け出した木葉を追って一同と共に現場へと向かった――


●倉庫
 そこに居たハルを見て、木葉や華愛(jb6708)、斉凛(ja6571)は首を傾げた。

「あれ? どこかで見た人ですよ?」
「(この間の…黒いお方? 確か…)ハル様!」
「なぜ、ここにハルさんが?」

 ともあれ、天魔は居た。
 タレコミは全くのデタラメという訳でもなさそうだ。

「孤児たちを狙うなんてひどいこと、だめなのですよぉ〜」

 あたしの能力は守るためだけに。
 敢えて武装も光纏もせず、無防備に近づきながらハルを諭す木葉。

 同様に華愛も対話を試みようとして、ふとある事に気づく。

「ん? 今日は、白いヒトは、居ないのです? 前に、一緒に居た…」
「つまり喧嘩売ってんだよな? だったら買ってやらァ!」

 だがその時、華愛の問いを押し退けるようにハルが牙を剥いた。
 紫電を迸らせながら一同に殴り掛かる。

 それを受け止めたのはファリス・フルフラット(ja7831)。

 間に割って入り、実体化した双剣を交差させて防御。
 ハルの拳を受けた瞬間、足元の地面が砕け、ファリスの纏う蒼電のアウルがハルの紫電とぶつかり合って眩い閃光を散らす。
 一方、木葉はその雷鳴に怯む事なく、尚も前へ出て言葉を投げる。

「おいたはやめて、おうちにかえりなさいなのですぅ〜」

 刹那、ハルの片脚が地を離れた。
 力任せに薙ぎ払う回し蹴り。

 ファリスが咄嗟に木葉を庇い、彼女を抱えたまま大きく蹴り飛ばされてコンテナの山に激突。
 コンテナに埋もれた2人には構わず、ハルは轟雷を撒き散らしながら残ったメンバーにも攻撃を仕掛けてくる。

 ストレイシオンを召喚し、その猛攻にひたすら耐える華愛。

「…っ。落ち着いて、下さい、なのです」

 また樒 和紗(jb6970)も防御や回避に専念しながら、先程のハルの台詞を問う。

「つまり、とは」

 まるで自分達が現れた事に対して、心当たりがあるかのような物言いだ。

 天魔が居るという情報は正しかった。
 しかし孤児を狙っているという部分に関しては、これまでのハルの人柄を考えれば違和感を禁じえない。
 仮に彼が孤児を目的としているならば、相応の理由があるはず。

「テメエから喧嘩吹っ掛けといて、いまさら白々しいツラしてんじゃねぇぞコラ!」
「あ? 喧嘩売っとんのお前やろがボケェ! いきなり殴っといて覚悟できとるんやろなぁ!」

 キレたのはゼロ。
 だが言動とは裏腹に、彼の内心は平静だった。

「よう見たら昨日おったアホの方やないか。今日も無駄足の憂さ晴らしか? お?」

 引いて駄目なら押す。
 説得を聞かないのなら、逆に煽って相手のボロを誘ってみようという作戦。

「子ども達をどこにやったのですかっ」

 そんなゼロの怒号に混じって、うみの声も響く。しかし隠密スキルで身を潜めたその姿は見えず。

 ゼロのように相手を挑発しているわけではない。
 ただ、天魔は居た。ならば孤児も確かに居るのではないか。

「揃って訳分かんねえ事ほざきやがって」

 未だハルは拳を引かず。
 その時、コンテナを押し退けてファリスが身を起こした。彼女の腕の中で、目を回した木葉が呻く。

「はうぅぅ……」

 ファリスが庇ってくれたおかげで、大きな怪我は無し。

 木葉をそっと地面に横たえ、ハルへと向き直るファリス。
 情報にある程度の信憑性がある事は分かった。相手がヤル気なのも間違いない。しかし害敵かどうかとなると、

「違うみたい? だったらこちらはその気はないのだけど……」

 仲間達の反応を見るに、知り合いらしい。戦う意思が無い者も多い。ならば自分も刃を納めるのが正解だろう。
 それでも、向こうが攻撃を止めないのであれば――

「私は、この場における勝利のために動くだけよ」

 ファリスの剣に再び蒼電が宿る。だがその切っ先はハルには向けず。
 この身を呈して味方を庇い、手にした刃は敵の刃を払う為。
 それがこの場での勝利であると信じる故に。

「私は勝利を具現する戦乙女になりたいのだから……」
「抑えます、その間に孤児を保護して下さい!」

 それに呼応し、レフニーも盾を構えて前へ。
 華愛が頷き、スーさんと共に倉庫内を探索。ついでに栄一の話していた“紫電の悪魔”の事を考えながら、時折ハルの紫電をじっと観察してみる。

「なんか会話が噛み合ってない気がするのです……」

 むぅと唸ったのは、華愛とは別方向から倉庫内を調べていたうみ。だが孤児達は見つからず。

 誘き出されて戦闘になった……この図はどこかで見た気がする。
 ひょっとして以前会った時も、嘘の情報を掴まされていたのだろうか?

「その真犯人は、あなたを引っ掛けて、何のメリットがあるのでしょう? 影でこっそり笑ってる人なら、私たちには無害なのででオールオッケーなのですが――」

 瞬間、うみの位置を特定したハルがギロリと目を向ける。

「わ、冗談ですよっ?」
「俺はオッケーじゃねェ!」

 組み付いていたレフニーを盾越しに殴り飛ばし、物陰に居たうみ目掛けて雷球を投擲。

「アオカ!」

 うみを庇ってファリスが飛び出す。
 剣で両断され、バシンと掻き消える雷球。だが弾けた紫電を至近距離で浴び、ファリスは自身の色とは違う雷に全身を蝕まれて顔を歪める。

「あ、ありがとうございますっ。大丈夫ですかっ?」

 駆け寄ったうみがファリスに触れようと指先を伸ばした瞬間、帯電していた紫電でバチッと感電。

「はぅあっ!?」

 それが放電となり、ファリスは復活。
 ひっくり返ったうみを、慌てて介抱した。

 代わりにゼロがハルへと肉薄。素手同士の殴り合いを始める。

「どいつもこいつもちまちまちまちま思わせぶりなことばっかぬかしやがってええかげんこっちも腹たっとんじゃボケェ!! 男やったらさっくり分かりやすく物申さんかい! 構って欲しいだけの小悪魔女子か! しょーもな! しょーもなすぎるぞお前ぇ!」
「あァ!? 誰が小悪魔女子だこの小麦野郎、俺がいつ思わせぶったよ! 昨日ハッキリ『気にいらねえからブッ飛ばす』っつったろーが!!」
「やったら『何が気に入らんのか』までちゃんと言――」

 「あ」と何かに思い至って立ち止まるゼロ。

「アホやから説明できへんのか」

 可哀想なヒトを見る目。

「ンだとコラ」

 ごちん、と額を衝き合わせる。

「悔しかったら原稿用紙400字以内で説明してみぃ!」
「上等だコラ、持ってんなら出せよ原稿用紙!」

 メンチを切り合って、奥歯ぎりぃ。
 その時、不意にヒンッと空を切る音が聞こえ――

 ばちぃん!

 レフニーが後ろからハルの片耳をビンタしていた。
 悶絶するハル。

「耳の詰まりは取れましたか?」

 話を聞いてください、と彼を見る。

「貴方は孤児を集め何をしようというのですか? それとも……」

 孤児を助けに来たのですか?
 流石のハルも、疑問に首を傾げざるをえなくなる。

「だから、お前らさっきから何の話してんだよ?」

 その様子を見て、凛や華愛が遠巻きに話しかける。

「孤児を狙う天魔がいると通報を受けました。事件にハルさんが関わっているのですか?」
「『孤児を狙う天魔』…ハル様なのです…? 違ったらゴメンナサイ、なのです」
「つーか、ここに俺を誘き出したのはテメエらの方じゃねえか」

 それこそ誤解だ、と首を振る凛達。

「ハルさんが孤児を狙ってないなら、わたくし達が戦う意味はありませんわ」

 凛は構えていた盾をヒヒイロカネに戻し、捨て身でハルに歩み寄る。

「わたくしはハルさんを信じてますから、攻撃なんてできません。ハルさんと少しでも、わかりあいたいですの」
「如何すれば俺達の話を聞いてもらえますか?」

 同様に、和紗も構えを解く。

「死ねと他者を傷つけろ以外ならば従います」

 一方的に話を聞けと押しつける気も、喧嘩する気もない。
 言いながら和紗が取り出したのは、1本の手錠。昨日ハルに手錠を掛けた時の事を示しつつ、

「貴方の『くだらなくない理由』を知りたいのです。自分が正しいのだと押し通さない為にも」
「あうう……。ふらふらなのですぅ……」

 その時、気を失っていた木葉がむくりと起き上がった。
 頭には、1つだけ小さなタンコブが出来ていた――



 ハルを含め、全員に治癒スキルを掛けるレフニーと凛。

 喧嘩が収まり、木葉がにこにこと笑う。

「お互い情報交換ができればいいですねぇ〜」

 不審な点が多い今回のタレコミ。自分達を戦わせて漁夫の利を狙っている者でも居るというのだろうか?
 もしそうなら、近くで見ているかもしれない。
 木葉は鳳凰を召喚し、上空から偵察してみる事に。

「不審な人を見かけたら連絡するのですぅ〜」

 一方、他のメンバーはハルとの話し合い。
 そう言えば面と向かってハルと話すのは初めてだ、と華愛がおずおずと口を開く。

「まずは、ボクの名前を名乗ってから、なのですね」

 名を告げた後、こちらに争う気はない事、現場まで来た経緯、情報主は定かではない事を話していく。
 更に和紗が、疑念を抱いているのはこちらも同じだと付け加える。
 ハルはそれなりに納得した様子だったが、

「つっても、俺がヴァニタスだってのはもう知ってんだろ?」

 にも関わらず友好的に接しようとする和紗達が、彼には不審であるらしい。

「友人が、『正しいと思う事を』と言ったので」

 不思議そうな顔で答える和紗。

「粗っぽくはありますが貴方の行動には意味がある。ブッ飛ばす理由がありません」

 凛も静かに頷く。

「今までたくさん貴方と会いました。アーリィさんと何度も喧嘩してましたが、一度も怪我人が出た事は無かった。人を大切にするハルさんをわたくしは信じます」

 だから、ほんの少しでも構わない。
 自分の事も、信じてもらいたい。

「昨日貴方は言いました『くだらない理由じゃない』と。その理由教えていただけませんか?」

 自分達は、宍間 涼介というヴァニタスを追っている。
 昨日ハルが居た場所の近くに彼は現れた。もしかすると、今回も近くに居るかもしれない。

「宍間がハルさんの『くだらなくない理由』に関係があるなら、わたくしがハルさんに協力できませんか?」
「くだらなくねえとは言ってねえよ。『くだらねえかどうかは誰が決めンのか』っつったんだ」

 価値観などヒトそれぞれだ、と。

「…あの、少しお伺いしたいのですが…」

 恐る恐る、華愛が尋ねる。
 そもそもハルは、今回の情報をどこから仕入れたのか。

「別に特別な話じゃねえ。情報で飯食ってる奴が居ンだよ」

 尤もこんなデマを売るようでは、あの情報屋は長くは続くまい。

「あと…過去に、撃退庁の方々と交戦した記憶は、あったりするのです…?」
「まあ撃退士と喧嘩する事も多いし、中には撃退庁の奴も居たかもな。いちいち確かめてねえから分かんねえけど」

 確証を得るには至らない答え。
 違和感を取り除くべく、うみが考えを巡らせる。

 情報を追った先で“偶然”想定外の何者かと衝突する確率とは、どれほどのものか。
 昨日、自分達は早上に邪魔されてディアボロの残骸を調べられなかった。だが人間同士の縄張り争いなどは別に珍しくもない。
 問題は栄一の部隊が壊滅した時のケース。
 当時、現場は戦闘員でもない事務員が呼び出されるような『事後処理』の段階だった。

「そこにハルさんが現れたのも、偶然なのですか?」

 彼女の問いに、今日一番の怪訝そうな表情を見せるハル。

「よく分かんねえけど、少なくとも俺はディアボロ引き連れて喧嘩した事なんてねえぞ」

 それを聞き、黙考する和紗。

 ハルが紫電を使うのなら、その主も同様の可能性はある。
 栄一は「リーゼが何かを隠している気がする」と言っていた。もしや…リーゼは紫電の悪魔の正体が分かっていて、それを隠している? その奥にある絡んだ糸を解く為に。
 涼介に力を与えた悪魔も正体不明のまま。思っている以上に複雑に絡み合っているのかもしれない。

「ここにわたくし達とハルさんしかいない…通報も罠ね。何か作為を感じますわ」

 凛がぽつりと呟く。
 するとゼロも、

「おぉついでに教えとったるわ構ってちゃん。お前と同じ雷使うやつ探しとるやつおるぞ」
「誰が構ってちゃんだオイ」
「ついでや。孤児のことも答えろや」

 ここに孤児が居ないというのは分かったが、ならば何故『孤児を狙っている』という情報が付加されていたのか。
 木葉の鳳凰も、未だ第三者の影は確認できていない。

「それともお前も大して知らんのか? アホやから知らんとかか?」
「テメエも知らねえんだったら似たようなもんだろうが? あ?」

 おでこごっちん。
 再び殴り合いかとも思われたが……

「栄一って野郎の部隊だとか俺の雷がどうとか、気になるからちょっとそいつンとこまで案内しろ」

 ハルの要求に、学園生達は思わず顔を見合わせる。だが、彼は騙まし討ちで悪さを企むようなタイプでも無い。
 頷き、バーへ向かうべく共に倉庫を後にする一同。

 華愛はハルの隣を歩きながら、ちらりと彼を見上げる。

「ずっと気になって、いたのですが…」
「おう?」
「今日は、アーリィ様は、一緒じゃないのです?」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 星に刻む過去と今・青鹿 うみ(ja1298)
 竜言の花・華愛(jb6708)
重体: −
面白かった!:9人

星に刻む過去と今・
青鹿 うみ(ja1298)

大学部2年7組 女 鬼道忍軍
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
戦乙女見習い・
ファリス・フルフラット(ja7831)

大学部5年184組 女 ルインズブレイド
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅