『容疑者はオペ子ちゃん。彼女は局長のあんぱn――ごほん……。えー、局長の私物を――』
「あんぱn…あんぱん、なのです?」
放送を聞いた華愛(
jb6708)が首を傾げる。
「オペ子さんが……、オペ子さんが悪の道に!!」
同じくロビーに居た桜井疾風(
jb1213)は放送が終わるや否や、いの一番に外へ飛び出していく。
一方、受付に居た局長に声をかけるディザイア・シーカー(
jb5989)。
「オペ子にアンパン食われたんだって? それで緊急依頼とは大人気ない気もするが…そんなに食いたかったのか?」
彼は徐にアンパンを取り出し、
「コレでも食って待っててくれや」
激おこぷんぷん丸長さんに差し出した。
「ん、ありがたく頂こう。だが樫崎は逃がすな」
やはりこれだけでは収まらないようだ。
そこへふらりと現れる神雷(
jb6374)&柘榴姫(
jb7286)。
燃えないゴミを出しそびれた為、ロペ子に食べさせようと持ってきた――ちょおま…――所で事件に遭遇。
「おぺこ、ぎゅうにゅうのんでないのね」
遺留品を見て呟く柘榴姫。空になっているアンパンの袋とは違い、牛乳パックは未開封のまま。
「ぎゅうにゅうはしこうよ」
至高である飲み物を残しているのはありえない。
オペ子に何としてでも牛乳を飲ませる為、柘榴姫は依頼書にサインした。…ん? 捕縛じゃなく?
次いでサインしたのは斉凛(
ja6571)。
彼女は愛猫の小凛を頭に乗せt――おや誰か来たようだ……あ、偉い人だ。何でしょうか。え? ペットの描写はNG? ……なるほど。ちょっと何言ってるか分からないですね。
まあ成否判定に影響しない事なら、ちょっとくらい大丈夫なんじゃないかな!
そうして斡旋所を発つ5人。
――ふと彼らとは別に、帽子を目深に被った私服の少女も1人出て行った気がしたが……たぶん気のせいだろう。
「局長さん眼鏡美人さん!」
対して、5人とすれ違いで現れたのはマリス・レイ(
jb8465)。
「怒ると美人さんが台無しだよー! はいあんぱん! あまいもの食べて落ち着いてね!」
あんぱん(牛乳付き)を渡すマリス。美味しく頂く局長。
「だが樫崎は逃がすな。いいか絶対だ」
局長ぷんぷんドリーム。
マリスは翼を広げ、元気良く外へ飛び出して行った。
あ、ちなみに不燃ゴミはそっとロペ子の前に置いてきました。
●トイレな2人
地上ルート。
「そのまま素直に逃げるとは思えん」
ディザイアが言う。オペ子の事だ、何かしら逃げる算段を練っているはず。そう考える彼を肯定するかのように――
「悪いがここから先はタダじゃ通せねえ」
胸の前で拳を打ち合わせながら、嘉島 大地が現れた。できれば穏便に済ませたいが……
「私の考えたありとあらゆるパターンでは説得(物理)になってしまいました」
これしかない、と神雷が言う。流石ぽんこつ悪魔っ娘。ロジックも穴だらけだぜ。
彼女はディザイアに足止めを任せ、そそくさと通り抜けようとする。
応じるディザイア。そうはさせんと立ち塞がる大地。
「すみません、通りたいのですが」
ふと、帽子を被った通行人の少女が通りがかった。一同は「あ、すいません」と頭を下げて道を譲る。
少女が見えなくなってから――
「ここは任せて先に行け!」
エアロバーストで大地を押し退けるディザイア。その隙に突破する神雷&柘榴姫。
「ちっ、やるじゃねえか!」
「役目は果たさんとな!」
2つの拳が衝突し、爆ぜたアウルがアスファルトを粉砕する。ガチバトル勃発。コメディは迷子になりました。
一方、飛行ルートその1。
小凛を頭に乗せたまま、凛は空を翔けてGPS信号を目指す。が、
「ヴァ!」
ベルが出現。突然襲来してきた彼の一撃を、凛は咄嗟に釘バットで受けた。
壮絶なドックファイト。白と黒が空中で目まぐるしく交差する。
一瞬の隙をついて凛が快音長打のホームラン。互いの距離が開き、凛は狙撃銃に換装。左右に回避しようとするベルを追って、揺れる銃口。
緑色のターゲットカーソルがピピピと徐々に焦点を絞っていき……ピコンと1つに重なって赤に変わる。
瞬間、頭上の小凛がぺしっと凛のおでこを叩いた。
発射。
ベルは大口径の直撃を受け――
拳の応酬を繰り広げるディザイアと大地。刹那、大地のアウルが一際強く輝く。が――
「ヴァアァ!」
ご〜〜ん……
墜ちてきたベルが大地の頭を打ち、除夜のような音が響く。
ぴくりとも動かなくなった2人に手を合わせ、ディザイアは先を急いだ。
●飛べない豚
「…ん?」
スレイプニルのスーさんに乗って飛行ルートその2を進んでいた華愛は、視界の端を黒い悪魔が落下していった気がして顔を向ける。が、ビルの陰に隠れてよく見えなかった。
まあいいかと思った矢先、コンビニを発見。スーさんにお願いして地上に降り、あんぱんを数個購入してから再び飛び上がった――
「こら〜、パンツ穿きなさい!」
紐パンを振り回しながら柘榴姫を追いかける神雷。その前方に見えるは豚侍の群れ。
彼らがこのまま道を開けなければ、穿いてない幼女と正面衝突。社会的にさぞよろしくない展開になるだろう。
だがそれこそが彼女の作戦だった。
「さぁ、(逮捕が嫌なら)道を開けるのです!」
どや顔の神雷。が、柘榴姫の足は思いのほか速かった。
避ける暇もなくストライク。ボウリングのように転がる幼女と豚侍。
帽子を被った通行人の少女が1人てくてくと通り過ぎていく中、運良く?パトカーが通りがかる。
「きゃぁぁぁ、この人達痴漢です!!」
「何ぃ!? どこの豚野郎だ!」
叫ぶ神雷。振り返るおまわりさん。
「え、冤罪でござる! 冤罪でござる! 冤罪でござるぅ!!」
まじで大事なことなので3回言いました。
しかし主張も虚しく、侍達は揃って豚箱へと連行されて行った。
●ツンデレとオカマ
障害の無くなった空を抜け、GPSを頼りに地上に降りる凛。そして発見したのはオペ子――
ではなく、エリスだった。思わぬ再会に目を見開く。
「エリスさん…学園に来ていたのね。よかった…また会えて。わたくしの事覚えてますか?」
「あ。あんた確か、前に商店街で」
頷いたエリスに、凛は笑顔を浮かべる。その目には薄っすらと涙が。
「会いたかった…ずっと、ずっと、貴方の事気になってたの。貴方が今どこにいるのかと…」
「ちょ、え? そ、そうなの?」
再会の喜びに打ち震え、そっとエリスを抱きしめる凛。
出来る事なら、ずっとこうしていたい。だが、今の自分には任務がある。
「ひとつだけ教えて。その職員証を渡した人はどちらに行ったの? 凶悪犯を追ってるの。教えて」
「そ、それは……」
エリスが口篭る。流されたとは言え、一度は囮を引き受けた身。いやしかし……
やがて彼女は、真剣な様子の凛に負けて犯人は港へ向かったと白状。
「ありがとう」
凛は静かに微笑んで仲間に連絡。電話を切り――
「さてお仕事も果たしましたし早速エリスちゃんとティータイムですわ♪」
パッと笑顔になる凛。涙ェ……。
「ちょ、さっきあんた、オペ子追いかけないといけないからって……」
「ちょっと何言ってるか分かりませんですわ♪」
汚いなさすがメイドきたない。
凛はどこからともなく大きなリュックを取り出して、ごそごそと中身を漁り始める。紅茶にお菓子、キャンプ調理セットも取り出して寄せ鍋を作り――
刹那、エリスが不意に飛んできたワイヤーで逆さ吊りにされていた。
「おぺこ、ぎゅうにゅうのむ」
現れたのは柘榴姫。GPS情報を鵜呑みにした彼女はそれがエリスだと気づかない!
そのままムリヤリ牛乳を飲ませようとして……
ぽとり。
逆さエリスのポケットから零れ落ちる、棒付きキャンディ。
柘榴姫の脳内メーカー:きゃんでぇ=えりす
「……? えりす、おぺこだったのね」
ようやく気づく。
「えりす、ともだち」
ともだちは、おろさないといけないわ。
拾ったきゃんでぇを舐めながら、エリスを下ろす。直後、遅れて来た神雷がエリスにタックル。
犯人とったどー!とそのまま抱きつくが、ふとコレジャナイ気がして匂いを確認。くんかくんか。
「くひゃい……あくまくひゃい!」
鼻を摘む神雷。
悪魔の臭いがしました偽物です。ツインテール違い!
「く、くさい……?」
ガンッ、とショックを受けるエリス。
「ともだち、いぢめた」
それを見た柘榴姫が、ハリセンの柄の角で神雷の頭をガスッと刺した。
「凹んでるエリスさんもカワイイですの」
対して、鍋を煮込みながらドゥフフと鼻息を立てる冥土。カオス。
だがそこへ――
「エリスではありませんか。如何して貴女がオペ子の職員証を?」
一同が振り返る。帽子を被った通行人の少女が立っていた。
帽子を脱いだその姿は、なんと樒 和紗(
jb6970)。
妨害を見越して無関係の一般人を装って信号を追跡していた和紗。ここに来るまでにも、実は背景にしっかりと映りこんでいた。
ともあれ、
「その職員証、オペ子には職務上必要なものでしょう?」
ならば、いずれは回収しに戻って来るはず。確保はその時でも良いだろう。
「そういう訳ですのでお店に戻りましょう、エリス」
「エリスさんのお店!?」
凛がピコッと反応する。
エリスは和紗に手を引かれ、凛と共に一足早く撤収した。
凛の報告で、GPSが囮だと知る華愛。スーさんと共に港へ進路を向けると、少し先の地上部分でオカマの集団に阻まれている疾風が目に入ってきた。
それまで忍スキル全開で障害をスルーしてきた疾風。だが港まで後1歩というところで、異常に勘の鋭いキャシー達に見つかってしまったらしい。
「人の物を取っておいて謝らないで逃げ回る……。あなた方の好きなオペ子さんがそんなオペ子さんで良いんですか!! オペ子さんは悪い事したらちゃんと謝れる子です!! 俺がそれを証明してみせます!!」
だからそこをどいてくれ。
だが、キャシー達は道を譲ってはくれなかった。
着陸した華愛も説得に加わる。
「あ、あんぱんを、どうぞ、なのです」
あんぱんで交渉。賄賂とも言う。
「それとこれを、エリスちゃんに」
自前の金平糖包みも添えてみる。
「あら。それじゃあなたがエリーの言ってた、ハナちゃんね?」
いつもあの子から話は聞いてるわ、とキャシー。
だがそれはそれ。事情は分かるが、一度乗ったからには最後まで付き合うのがオカマの矜持。
「むぅ…。仕方、ないのです」
直後、スーが吼えた。が、
『いやぁぁん!? このドラゴンちゃん凄い声ぇぇん!!』
スーの超音波を押し返すオカマ波。
だがその隙に、疾風が単身突破に成功していた――
●
「オペ子さん……。人のもの取ったら泥棒です。悪い事したらごめんなさいです」
今まさにフェリーへの階段に足を乗せようとしていたオペ子の背に、疾風の声がかかる。
「嫌われても良いから俺は言います。局長に謝ってください。俺も一緒に謝ります。局長が理不尽な怒りをぶつけてきたら俺が守ります!」
振り返った彼女へ懸命に呼びかける。
「だから、もうこんなことはやめましょう?」
「桜井さん」
不意に、ちょいちょいと手招きするオペ子。疾風が首を傾げながら近づくと、
「オペ子は悪の道に堕ちてでも逃げ切る所存です」
突然ガバッと後ろから組みつかれた。小次郎の肉球を押して爪を出させ、鼻先に突きつけるオペ子。
その気になれば振り解く事は容易いかもしれない。ああだがしかし!
(お、オペ子さんがこんなに近くに……!)
どきどき。
細い腕に首を押さえられたまま、疾風はすっかり逃走の為の人質へと成り下がっていた。
一拍遅れてディザイアが到着。
「何かえらい事になってんな」
むうと顎に手を当てつつ、
「某猫と鼠の喧嘩みたいに仲がいいのは結構な事なんだが、まぁ親しき仲にも礼儀ありと言うし、お叱りは受けるべきだろう」
オペ子は頷かず。だがそこへ――
「おぺこ、ぎゅうにゅうのむ」
柘榴姫エンカウント。
牛乳を持ってオペ子の元へ駆けていき、何とそのまま衝突。何故止まらなかった。
オペ子が堤防の縁でぐらりとバランスを崩す。
危ない落ちる!
「オペ子さん!」
「ちぃ!」
疾風とディザイアが咄嗟に腕を伸ばし――た瞬間、オペ子はぐいんとバランスを立て直していた。
「危ないところでした」
「「ちょ」」
伸ばした手が空を切る男2人。
どぼん!
誰を庇う事も無いまま、疾風とディザイアは揃って海に落ちた。
追手沈黙。逃げるなら今しかないとオペ子はフェリーへ向かうが、
「電話でもいいからちゃんとごめんなさい言ったほうがいいよー? ごめんなさいとありがとうは、すっごく大事なんだって教わったもの」
唐突に、ふわりと上空から現れて道を塞ぐマリス。
誰とも面識が無いから誰にも邪魔されずにここまで来れた! COOL!
「でも噂に聞くとしょっちゅう怒られてるらしいのに、なんで今回に限って全力逃亡? なんか理由でもあるのかな? 理由如何によっては見逃さなくもないよ!」
理由…理由は……たぶんきっとすごく特別で経緯の深い事情があったりなかったりぶつぶつ。
ちゃうねん。最近重い依頼が続いてたから、胃に優しいおバカな話がやりたかっただけやねん。堪忍しておまわりさん。
「アウトだね!」
「オペ子はまだ何も言ってませんが」
解せぬ、と首根っこを摘まれるオペ子。
2名ほど海の藻屑と消えたが、一同は何とか犯人確保に成功した。
●Heaven's Horizon
隅でオペ子が局長にこってりと絞られている店内。
華愛はカウンター席に座り、ママやキャシーと一緒にもきゅもきゅとアンパンを頬張っていた。
ふと、普段のエリスの様子を尋ねてみる。
「……ハナちゃんはエリーが大好きなのね」
こくりと頷く華愛。だが、それはきっと皆も同じ。
素直で、不器用で、優しくて、温かで、そんなあの娘が、皆好きなのだろう。
「エリスちゃんに、友達ができるのは、嬉しいこと、なのです」
――だから、ボク的に、少し寂しいとか、言えないのです。
もっきゅもっきゅ、もっきゅもっきゅ……
テーブル席で鍋を温め直していた凛。ふと、
「え、エリスさん。よければお友達に…いえ何でもないです」
小声で顔を真っ赤にしてゴニョる。
だがそれ以上に赤くなったのはエリスだった。
「え、あ、えっと…わ、私も、友達になり…たいかも……」
「あ、ずるい! あたしもあたしも!」
小凛と小次郎をもふっていたマリスが身を乗り出す――
「本当に、エリスちゃん、モテモテ、なのです…」
俯き、グラスに注がれた牛乳をちびちびと飲んでいると、
「ハナ、どうしたの? 何だか元気ないみたいだけど……」
いつの間にか、目の前にエリスが立っていた。
ふわり、と。エリスが華愛の頭を撫でる。
いつもの、彼女の手だった。
「…えへへ。大丈夫、なのです…。元気、出たのです」
にへらと笑う華愛。
見守るようにその光景を眺めていた和紗は、カウンター越しに立つリーゼと顔を見合わせてふっと笑みを零した――