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マスター:宮沢椿
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/06/26


みんなの思い出



オープニング

●美しいセカイ
 彼のセカイは二つのもので出来ている。
 片方は血と暴力。片方は繊細で儚いもの。そのどちらもが彼にとっての『美』で、そのどちらの上にも君臨するのが紫銀の髪の彼の主だ。
 他人に話せば笑われる矛盾だらけの価値観。だがそれだけが彼を動かす真実。

 そんな彼にとって今度の任務はちっとも面白くなかった。彼は彼女の猟犬だから、命じられた場所に行きはするけれど。無力な『資源』たちがぎゅうぎゅうに群れ集うセカイなんてものには、望む美などカケラもない。そう思っていた。

 けれど、存外に美しいものがあった。四季を彩る美しい花、繊細な建物、優しい言葉。そんなものに彼は魅了され夢中になった。『資源回収』になど相変わらず面白みを見出せなかったから、それを忘れるように『美しいもの探し』に夢中になった。
 幼馴染がうるさく言わなければ、ずっとそうしていたかったのだけれど。
 あまり必死だから、仕方ないからちょっとだけ付き合ってやろう、そう思った。

 ヴァニタスなんかが考えた計画は面白くもなかったから、友人を引き込んだ。一緒に悪事を企むみたいでちょっと楽しかった。
 なのに。

「え……ちょっとカーラ、何、どうしたの……!」
 花の名残を見終わってエンハンブレに戻った彼が見たのは、見るも無惨な友の姿だった。
「嘘だろう? 君が人間なんかにやられたって言うの?!」
「……わざわざ口に出して言わないでくれる。殺りたくなるから、きみを」
「そうよっ、治療中に大きい声で騒がないで、このはた迷惑なロンゲ茶髪!」
 カーラの治療に当たっていたジェルトリュード(jz0379)が、手にしたフルートから唇を離しギロリと彼を睨む。
「怒りであたしの邪眼が発動するわよ、まったくもう!」
「うん、姐様の邪眼とかどうでもいいんだけどさ」
 彼女の中二発言は流し、横たわっている友人の傍に立った。
 この友人は強い。彼がいつか本気で殺し合ってみたいと思うくらいに。それがこんな姿に?

 『人間』。この世界に蠢くモノ。彼はそれをただの資源だと思っていた。
 もちろんゲキタイシとやらのことは聞いたことがある。けれどそれは鶏のようなものではないのか? たまに歯向かってきて、直に攻撃を食らえばちょっと痛いが、ただそれだけのこと。彼我の強弱は揺るぐことはない。
 そのはずだったのに。

 その時から、彼の中で何かがざわめき始めた。
 家畜に友を傷付けられた怒り。それが引き金、それは確か。だが、それだけではなくて。

 心のままに戦いたい。

 この世界では叶えられないと思っていたノゾミ。押さえ続けたそれが、形を取って暴れだす。
 ここに彼が戦うに値する『敵』がいるというのなら、存分に血を流し合おう。

 そしてアルファール・ジルガイア(jz0383)は初めて、地球を戦場と認識した。


●その日・久遠ヶ原
 冥魔による列車ハイジャックの一報は、久遠ヶ原にも瞬く間に広がっていた。
 集まった斡旋所職員の前では、SNSに投稿された現場映像が次々に流されている。
「すみません! 今のシーンもう一度お願い出来ますか」
 画面を凝視していた西橋旅人(jz0129)は、巻き戻した映像を見て確信めいた表情になる。
「あの頬の刺青……間違い無い」
 映っていたのは、頬に小さな刺青のある男の姿。
 二ヶ月ほど前の新幹線襲撃事件で対峙したディアボロだった。
「このディアボロを使役する悪魔に心当たりがあります。……恐らく、今回の事件は複数の冥魔が関与しているのではないかと」
「もしかして……ケッツァーですか?」
 坂森 真夜 (jz0365)が発した言葉に、スタッフの表情が一層深刻さを増した時だった。

「報告! 埼玉・大宮駅と栃木・宇都宮駅で悪魔の襲来を確認!」
「な……」
 次々に舞い込む凶報に愕然となる者、やはりという表情になる者。
 騒然となる斡旋所内で、その言葉が告げられる。

「一刻の猶予もない。今すぐ生徒を集めろ!」


●デンワ
 騒然とした斡旋所の中で、真夜は目の前で鳴った電話を取った。
『もしもし……って言えばいいんだってね? 僕だけど』
 くすくす笑い、嬉しそうに若い男の声が言う。

 まさかの、この大変な時に振り込め詐欺?! 真夜は硬直する。
「あ、あの。ここは久遠ヶ原の斡旋所で、私の家族はお父さんとお母さんと妹だけなので、お金は振り込まないですっ」
『んー? この前のヤツと違うね? そう言えばジュルヌも、デンワはいろんなヤツが出るって言ってたかなあ……』
 真夜が勝手に個人情報を流出するのには構わず、電話の相手はどうでも良さそうに言う。そして彼は笑った。

『まあ別に誰でもいいや。この前、綺麗なモノを教えるって言われたけどさあ。今回はそれはいいから、代わりに戦えるヤツを寄越してよ。僕の友達を痛い目に遭わせてくれたお礼がしたいんだ』
「お礼……ですか?」
 真夜にはまったく話の筋が読めない。困惑するばかりだ。
『そう』
 相手は華やかに笑った。
『待っているから。早く来てよね……存分に楽しもう』

 一方的に切れた電話を握ってきょとんとしている彼女に、別の職員が声をかける。
「ええ、あの……何だか変な電話が」
 彼女は首をひねりながら、今の出来事を報告した。
 その話が紆余曲折あって大宮駅を襲撃した悪魔と結びつけられるのは、討伐チームの出発直前になる。


●バカは高いところに
 アルファールはビルの屋上に腰を掛けて、眼下の景色を眺めた。
 その線路は壊しちゃダメだとかあの架線は切っちゃダメだとか、ヴァニタス風情にごちゃごちゃ言われた。本当に面倒くさい。あまり壊すと宇都宮を押さえている意味がなくなるのだとか言うが、その場所とはうんと離れている。意味が分からない。

 ここにゲートを作れば人間をたっぷり収穫できる、とそいつは言った。確かに人だけはたくさんいる。でも別に美しくないから面白くない。
 今の彼は、カーラにあれほどの傷を負わせたという『撃退士』と戦ってみたいだけ。
 別に、カーラと戦った本人が来なくても構わない。アルファールにとって人間など皆、同じだ。区別する必要すら感じない。

 重傷のカーラには絶対に来るな、と厳しく言っておいたが……一緒に来たそうな顔をしていた。
 もしかしたら寂しがっているかな。エンハンブレに帰る時は、何か土産を持って行ってやろうか。
 さっきの『デンワ』は戦いのために使ってしまったが、今度は本来の目的に使ってもいいかもしれない。この世界にある美しいものの在り処を教えてもらうために。

 でも、怪我人にウロウロされたら思い切り遊べないから。今はおとなしくしてろ。
 ……そう思う彼は知らなかった。
 カーラがヴァニタス葉守庸市(jz0380)に声をかけていたことを。
『”あれ”を爆発させるには、俺が近くにいないとダメなんだよね』
 そう言って、ヴァニタスが事件を起こした車両に乗り込んでいることを。

 何も知らず、知ろうともせず。
 彼はただ心躍らせながら、『敵』の到来を待つのだった。




リプレイ本文

●戦闘前
「集まったか」
 現れたジュルヌは撃退士たちを見てそう言った。
「アルファール様がお待ちだ、案内しよう。ところで」
 内ポケットを探ると折りたたんだ紙を出す。
「こういう者たちを知らないか?」

 先日の依頼に参加した撃退士たちの似顔絵だと気付いて砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は笑いを堪えた。ジュルヌの画力の低さが絶妙で、肩の震えが止まらない。

 同じくその依頼に参加していた佐藤 としお(ja2489)が進み出た。
「オマエが兄貴(自分)を殺った奴かっ!」
「あっ、その刺青……! 生きていたのか、探したのだぞ」
 目を潤ませるジュルヌを、としおは憎しみに満ちた目(演技)で睨みつけた。
「俺は前回の戦いで殺された(ことにしておく)撃退士の弟(嘘)だ!」

 同じ撃退士として共に研鑽を積み切磋琢磨をしていた仲の良い兄弟。しかし依頼中に兄が死亡。報告書を読んだ弟は、関係する天魔全てに復讐を誓った!
 ……という設定でいくことにしたらしい。
「そうか、弟か。お前の兄は忠勇の士だった」
 ジュルヌの記憶も都合よく美化されているので、こうするしかない(合掌)。

 そんな二人を眺め、
(人相手に悲しむジュルヌさん……優しいんだな……。何だか憎めないな……)
 と思う陽波 透次(ja0280)も何だか少しずれていた。

 その横でファーフナー(jb7826)はこれからの戦いに思いを馳せる。
 判明しているのは雷の範囲攻撃二種類。だが他にも攻撃手段はあるだろう。
(これまでと違う動きがあれば警戒だな)
 気になるのは戦場となる場所だ。敵の雷撃で崩れたりはしないだろうか。彼はジュルヌに屋内の人々を移動させるよう頼んでみた。
「この場所はそんなにもろいのか?」
 ジュルヌは驚いた様子で、手配すると約束した。

 階段で屋上に向かおうとしたジュルヌにエレベーターの使い方を教え、皆で乗り込む。
「まるで決闘か……酔狂な悪魔も居る物だな」
 鳳 静矢(ja3856)は呟いた。
「戦いたいという相手、には全力で応える、のみ!」
 隣に立つ水無瀬 快晴(jb0745)は金の瞳に強い光を宿らせる。

「アルちゃんヤル気出しちゃったかー」
 ジェンティアンは苦笑する。
「でも、人間に興味出たのは良い傾向……かな」
 以前は撃退士が目の前に現れてもほぼ無視だった。変わったものである。

「アルとはあんま戦いたく無ェケド、しゃーねーな」
 ヤナギ・エリューナク(ja0006)もため息をついた。
 その横で鈴代 征治(ja1305)は静矢と『絆』を互いに使用しあう。
 エレベーターが屋上に到着する。戦いの幕が上がろうとしていた。


●序盤
 屋上コートの周りには破壊された防球ネットの残骸が散らばっていた。
 空中に浮かんだアルファールは嬉しそうに『敵』を見下ろす。

「じゃあ、闘ろう」
 性急な言葉に、
「戦えないわけじゃないですが、飛ばれると剣が届かないのでつまらないですね」
 透次が言った。
「地上で僕らと踊りませんか?」

「俺らとヤりに来たンだろ? 降りて来て、タイマン張ろーゼ」
 ヤナギも片目をつぶる。
「人間は飛べない。注意しておかねばならんのは他にもある。足場を崩されては長く戦えない。同じ箇所を何度も破壊しない方がいいだろう」
 うまくすれば攻撃範囲を狭められるかもしれないと思いながらファーフナーが静かに言う。
「ふーん」
 アルファールは首を傾げ、おとなしく降りてきた。
「まあ、気を付けてはおくよ」

「じゃ、始めよっか」
 ジェンティアンが笑顔で手を振る。
 アルファールがうなずくと戦闘が開始された。

 誰が倒されてもいいよう、複数が阻霊符を展開する。
 透次は真っ先に『飛燕烈波』で敵に襲い掛かった。悪魔は瞬速の技を避け楽し気に笑う。
「お互い存分に楽しみましょう」
 戦闘好きを装い、透次も笑い返す。囮として敵を引き付け熱くさせるのが彼の役目だ。

 その間に、他の者たちは『雷撃』対策のため一定の距離を保って散開しつつ、敵を包囲した。
 快晴は『ハイドアンドシーク』で潜行しつつ、スナイパーライフルXG1で死角から悪魔を射撃する。
 反対側から静矢が和弓・絶影での『強撃』、ファーフナーが『ゴーストアロー』。
 息を合わせた波状攻撃を、悪魔はふわりと飛び上がって避ける。

 征治がランスを人工芝に突き刺し、てっぺんに向け全力跳躍した。そこを足場にさらに跳び、空中のアルファールに飛びつく。
「そんなところじゃ遊べやしない。一緒に降りましょうよ!」
「こんなことしなくても降りるってば!」
 アルファールは征治をはねのけ降下する。
 透次が再び仕掛けた。
「的当てゲームはどうですか? 貴方が僕に当てれば貴方の勝ち、僕が最後まで避け切れば僕の勝ち」
 にっこりと微笑みかける。
「僕の回避と貴方の雷撃、どちらが上か勝負です」

「言うじゃないか」
 アルファールは興味をひかれたようだった。
「じゃあ受けてみろ!」
 両手の間でパチリと音がし電光が走る。次の瞬間雷鳴が轟き、光と熱が屋上を焼いた。
 だが悪魔は眉を顰める。狙った場所には焼け焦げ溶けた人工芝と、砕かれたコンクリート片があるのみだ。

「この程度じゃ熱くなれません。もっと狙って来て下さい」
 無傷の透次が笑った。敵のわずかな動きで着弾地点を予測したのだ。
「調子に乗るなよ!」
 悪魔の顔に怒色がひらめく。薔薇の蔓を模した鞭を取り出して一振りするが、またしても攻撃は空を切る。

 その背にとしおの『アシッドショット』が突き刺さった。
「見たか、兄貴の仇!」
 律儀にRPを続ける彼は、相手の戦闘欲を満たした後で人質の解放交渉を行いたいと思っていた。そのために最後まで立ち続ける。
 単に勝利するより難しい条件を自分に課し、としおは再び攻撃の機会を狙った。


●中盤
 アルファールは何回か透次を狙ったが、攻撃は全く当たらない。
 その隙に撃退士たちは前に出た。ファーフナーが悪魔に接近し、バランスを崩そうと下半身を狙い『掌底』を打つ。が、相手は難なくそれを避けた。
 死角からヤナギが弓で狙うが、これも矢を鞭で叩き落とされる。
 的にならないよう縦横無尽に動き続けながらヤナギは計算違いを感じる。一直線な性格のアルファールは戦闘に夢中になるだろうと予想していたが、敵は冷静さを失っていない。

「ふむ……私も前に出ようか」
 静矢が武器を持ち替え前に出る。それに合わせ、
「随分余裕があるんですね。でも、後悔させますよ!」
 征治が側面から敵に接近し槍を構える。
 『絆・連想撃』。二人が息を合わせ連撃を放つ。

「待っていたらこちらが不利。手数と連携で押し切る!」
 六連撃を意地でも撃ち切ろうと征治は吼える。
「先程までが全力だと思ったか?」
 不敵に笑いながら静矢も攻撃の手を止めない。
 連撃は敵を確実に傷付けていく。

 この猛撃にはさすがに回避や防御に気を取られるだろう。としおが再び『アシッドショット』を放つ。
「……さぁ、俺たちと思う存分戦い合おう!」
 快晴も襲い掛かった。『氷の夜想曲』が周囲を凍らせる。
 四方から狙われたアルファールは再び上空へ逃れる。

「……あんた俺たちと戦いたいんじゃないの? 上空ばかりに居るのは俺たちが怖いから?」
 快晴は挑発する。静矢が呵々と笑う.。
「いやいや……自身で戦いを挑んでおいて安全な場所でのうのうとは笑い話にしかならんな。この程度の輩が一員とは、ケッツァーも底が知れたな」

「僕に飛ばれたくないんだ? 生憎だけど僕は飛びたい時に飛ぶよ。けど、今はまだ遊んでやる」
 降りてくるアルファールに、透次が声をかける。
「暇です。狙ってくれませんか? カーラは僕に当てて来ましたよ」
 だが悪魔はもう彼に構おうとはしなかった。
「もう飽きた。僕は追いかけっこがしたいんじゃない……お前の相手はまた今度だ」

 鞭が閃き、快晴の体を鞭に植えこまれた棘が引き裂く。瞬く間の三連撃で快晴はその場に倒れた。
「快晴!」
 思わず静矢は叫ぶ。
「まかせて」
 回復担当のジェンティアンが走っていく。

 敵に息をつく暇を与えてはならない。ファーフナーが『フェンシング』で挑みかかった。反対方向からはヤナギが鎖鎌で攻撃する。
 鞭がまた一閃し、二人は薙ぎ払われる。

 その間にジェンティアンは快晴の様子を看た。命に別状はないが、回復させても戦闘は無理な状態だ。戦闘の影響を受けない場所まで運び出してやることしか出来なかった。


●終盤
 戦いは続き、双方に傷が増えていく。
 征治とファーフナーが牽制する間に、としおは最後の『アシッドショット』を命中させた。鞭の反撃が三人に飛ぶ。ジェンティアンは気を失ったとしおを『神の兵士』で目覚めさせる。

 二人を狙おうとしたアルファールの前にヤナギが飛び出した。持っていた花束を敵の顔に押し付けるように突き出す。
「綺麗なモノ、好きだろ?」
 悪魔が花束を払いのける一瞬に、ヤナギは鎖鎌で自身ごと敵を拘束した。『風遁・韋駄天斬り』の一撃が自分もろともアルファールに炸裂する。

「自爆か。そんなことして面白いのか?」
 口許の血をぬぐいながら、アルファールはぐったりしたヤナギを鎖鎌ごと放り捨てた。
「敵は一方的にねじふせるものだろ? こんな風に」
 指先に電光を纏って狙うのは、ヤナギに走り寄ったジェンティアンだ。

 まずいと思いながらもジェンティアンは微笑んだ。
「治さないと楽しいの続かないでしょ?」
「そうだな」
 悪魔は楽し気にうなずいた。
「自由に仲間を治療していいよ。けど、僕がそれを狙うのも自由だろ?」
 再び雷鳴が響く。ジェンティアンはとっさにシールドを張って自分とヤナギを守る。

「耐えきるのか」
 驚いた様子の悪魔に静矢が立ち向かう。左右の腕が明度の違う紫のアウルを纏っている。
「見たくば見せてやろう……撃退士の力を!」
 鳳流抜刀術・奥義『紫鳳凰天翔撃』。気合いと共に刀身が振り下ろされ、アウルの鳳凰が舞う。
 だが刀を受けた悪魔の腕は電光に包まれていた。魔力がアウルを相殺している。
「まともに受けたら危なかったかな」
 アルファールはにやりと笑い、静矢に鞭の一撃を食らわせる。

 その背に『赤刃弾』が撃ち込まれた。囮作戦が機能しないと見た透次の、カオスレート差を利用した重い一撃だ。正面からは回復したヤナギが弓で敵に狙いを付けている。

 気付けば悪魔は全身、朱にまみれていた。
「……いいな。うん、結構楽しめたよ、お前ら」
 再び『飛燕烈波』で襲い掛かる透次をいなし、翼を広げ急上昇する。
「カーラがやられたっていうのもちょっと納得いったかも。けど飽きてきた。だからさ」
 雷光を今度は両手、更に全身に纏う。
「これで終わりにしよう。お前らバラけてるから適当に撃つよ。半分残ったらほめてあげよう」

 その言葉と同時に複数の稲妻……『群雷』が撃退士たちに向かって放たれた。

 光と熱と音の三連撃が大宮の空に響き渡る。
 それが収まった時、残骸の中から血を流した征治が立ち上がった。
 ジェンティアンととしおは倒れてすぐに動けないが、意識はしっかりしている。
 ヤナギは戦いに戻れないほどの傷を負ってしまったが、残る三人は攻撃を免れた。

 ほとんどがすぐ戦闘に戻れる。それを見て悪魔は嬉しげに笑った。


●交渉
 アルファールは機嫌良く『もう帰っていい』と言ったが、撃退士たちにはまだやることがある。
「桜どうだった?」
 ジェンティアンは微笑んでから本題に入る。
「提案なんだけど、この場所はアルファールちゃんにとっては大して意味がないでしょ? 解放してくれないかな」
 ストレートなお願いは、
「ダメだ。べリアル様が欲しがってらっしゃるからな」
 ストレートに拒絶された。

 だがそれは計算の内。
「そうか……仕方ないね」
「人だけでも解放して貰いたい……ですが」
 ジェンティアンが失望を装い、透次がおずおずと言う。『最初に不可能な条件を提示し、本命の要求を譲歩したと錯覚させる作戦』の完成だ。

「ふーん、だったら……」
 あっさり引っかかりかける主を、
「いいわけないでしょう」
 ジュルヌが全力で遮った。
「解放などダメです!」

 しかしこれも計算の内。
「俺の様に戦いで親兄弟を亡くし、悲しむ者を増やす事が貴族のやり方なのか?」
 秘密兵器・としおがジュルヌの情に訴える。
「頼むからこれ以上俺みたいな不幸者を増やさないでくれ……」

「む、確かにお前の兄の忠義には報いなくてはならないが」
 ジュルヌが困惑したところへ、
「美しい花も、建築物も、便利な機械も生み育てるのは人の手だ。これからも未知なる物を作る。ここで散らすのは惜しくないか?」
 ファーフナーが重厚な口調で追い打ちをかける。

「じゃあ、一人につき百人。持って帰っていいよ」
 面倒くさくなったらしいアルファールに、ジュルヌが多すぎると反論。そこでとしおが、
「兄貴と俺は仲が良かった……」
 思い出話(嘘)を始めたため、ジュルヌも折れた。
 交渉の末、解放されたのは五百人。全被害者の約六分の一だが、この状況では上々の成果だろう。

「お礼と言う程じゃないけど」
 ジェンティアンがジュルヌに小銭(電話代)を渡す。
 次はとびきりの情報とイイモノを提供する、ついてはべリアルに相応しいものを用意したいとデジカメも差し出した。これで彼女の姿(とエンハンブレの内部)を撮影させるつもりだったが。
 初めて触る電子機器を悪魔たちは使いこなせなかった! 操作説明の過程で珍写真を濫造、面倒くさくなったアルファールはカメラを放り出してしまった。

 返信用封筒まで用意してきたジェンティアンは落胆したが、
「分かった。これ、怪我したお仲間へお土産」
 あきらめて納豆キャンディと金平糖を差し出す。
「これ、綺麗だな」
 アルファールは金平糖をしげしげと眺めた。
「これは僕がもらおう」
 納豆キャンディのみがカーラに渡されることに。(友情とは)

 スマホを操作していた征治が口を開く。
「他の場所でも色々と動いてるようですが……今連絡があって、どこも収束したようですよ」
 ブラフである。あんまり敵の戦略の中枢には関わってなさそうだし、これで帰ってもらいたいと思ったが。
「そうなの? 興味ないな」
 残念ながら動く気配もない。が、
「ロウワンちゃん、まだお頭のスリーサイズ測るの頑張ってる?」
「何それ、ロウワン君何やってるの?!」
 ジェンティアンのこの言葉には反応。確かに戦略とかどうでもいいらしい。


 席を離れていたジュルヌが戻り、アルファールに何事か告げる。その後すぐ撃退士たちに退去が命じられた。
 
 快晴を背負った静矢は去り際に振り返る。
「一つだけ……カーラに伝えてくれ。あの時『心の底』を突いた紫髪紫眼の剣士が、また貴様と戦うのを楽しみにしているとな」
「分かった。覚えていたら伝えてやるよ」
 うなずいたアルファールの笑顔は戦意にあふれており、ケッツァーとの戦いはまだ続くのだと撃退士たちは肌で感じた。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: Eternal Flame・ヤナギ・エリューナク(ja0006)
   <雷の直撃を受けたため>という理由により『重体』となる
 紡ぎゆく奏の絆 ・水無瀬 快晴(jb0745)
   <薔薇の棘に切り裂かれたため>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA