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マスター:宮沢椿
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/27


みんなの思い出



オープニング

●露天風呂はいいぞ
 南関東は雪の少ない土地柄である。雪が降るのは年に数回、積もることは年に一度あるかないか。複数回積もった年は語り草になってしまう。
 ……が、それは平地の話。山間ならば雪が積もるのも珍しい話ではない。
 というわけで、箱根の山もうっすら雪化粧。都心に近い観光地として有名な場所だが、幹線道路や主要な観光施設を離れてしまうと普通に鄙びた山奥だ。

 そんな立地にひっそりと建つ温泉旅館。
「ほら坂森、こっちこっち!」
 野森千晶は露天風呂に足を踏み入れ、後輩の名を呼んだ。
 ボーイッシュな見た目の彼女の体は、筋肉質で引き締まっている。手足は健康的に日焼けしているが、いつも服に隠れている胴体は妙に色白なのがなまめかしい。控えめな胸のふくらみもそれはそれで官能的だ。寒さのせいで湯気が濃いのが残念。

「野森さん、待ってください」
 後から来た坂森真夜(jz0365)は、建物の中から顔だけを出した。
「早くおいでよ、どうしたの?」
 千晶が不思議そうにたずねる。
「あ、あのう……。私、露天風呂って初めてで」
 真夜は警戒するように辺りを見回す。
「裸のままで外に出るって、何だか落ち着かないというか」

「何言ってんの」
 千晶は笑った。
「それがいいんじゃん。気持ちいいから早くおいで! 大丈夫、この外は斜面でずっと森だから、のぞくヤツなんかいないよ」
「はあ」
 真夜はおそるおそる外に出た。中の大浴場で体は洗ってある。長い髪は頭の上でまとめてタオルで覆った。色白で年齢相応、ちょっとだけふっくら目の体つき。千晶とはまた違う趣きだ。恥ずかしそうに体の前半分をタオルで隠している。

 一月の冷気が肌を刺して、真夜はぶるっと震えた。岩風呂に近付き、足を浸す。千晶はもうお湯の中で笑っている。
 お湯は少し熱目だった。覚悟を決めてドボンと肩まで体を沈める。
「気持ちいいでしょ?」
 聞かれて真夜はうなずいた。見上げれば、冬の高い空。澄んだ空気の中で熱い湯につかる。最高の贅沢だった。


●忍び寄る影
 しばしのんびりとガールズトーク。真夜が手編みを楽しんでいる話とかねこかふぇの猫の話とか、千晶が依頼の間を利用して彼氏と東京デートをした話とか。
「ほら最近、埼玉で何かと騒ぎが多いでしょ。そこまで行ったから、ついでに東京にも行こうか、って」
「デートかあ。いいですねえ」
 千晶や、手編みを教えてくれた先輩。そんな幸せそうな人たちの姿を見て最近の真夜は、そういうのっていいなあ、と思ったりするのだ。

「あれ、でも」
 ふと気付く。こんなにのんびりしていて良いのだろうか?
「今回も、依頼だったはずでは……」
「まあね」
 千晶はお湯の中で肩を揉んだ。そう、今回は依頼。一緒に行こう、と千晶が声をかけた。
 討伐対象は、この旅館近くに出没するディアボロの集団だが。

「数は多いけど、被害はいたずら程度で大した戦闘力はなさそう。死人も怪我人も出ていない。依頼人も、迷惑だから何とかしてって程度だし。坂森にちょうどいいでしょ?」
「あ、はい。ありがとうございます」
 しっかり戦える撃退士になりたい、という望みはあるのだが。昨年は授業について行くのと生活費稼ぎのバイトで精一杯だった彼女には、弱い天魔相手の依頼はありがたい。

「あたしも、今回は阿修羅のレベル上げが目的だから。あたしで分かることなら教えるしさ」
 地形の確認や情報収集。そういうことも覚えさせようと、仲間たちより一足早く現地入りしたのだ。
 しかし。
「被害状況を確認しようと思ったら、旅館の人に『まずは露天風呂でくつろいで』って言われちゃったんだよなあ」
「やっぱり、詳しい話は皆さんがそろってから、ってことでしょうか?」
「そんなガチな依頼って感じじゃなかったんだけど」
 千晶は首をひねる。むしろ、軽い戦闘をこなすだけで温泉旅館を楽しめてラッキー的な雰囲気だったのだが。まあ、もしかしたら女将が礼儀とか筋とかを重んじるタイプなのかもしれないし。

「ま、いいか……。そろそろ上がる? ちょっとのぼせてきたかも」
「ですねえ」
 二人が立ち上がった時。

 カシャリと響くシャッター音。

「……はい?」
 千晶が。錆びついたロボットのような動きで音のした方に首を向けた。
 その視線の先。フェンスの上で、デジタルカメラを構えるニホンザル風の何かが一匹。

 カシャカシャカシャカシャ。
 二人がぼんやりしている内に、連続してシャッターが押される。
 我に返ったのは千晶の方が早かった。
「ちょ……! お前っ?! 乙女の入浴シーン撮影するなんて、何考えてんだあっ!?」

 アウルが一気にレッドゾーンへ。千晶の両手足がチリチリと火花を発する。
「喰らえっ、あたしの『乙女の怒りキック』!!」
「ダ、ダメです野森さん、女の子としてそれはダメですうっ」
 おサルに向けて跳び蹴り体勢に入ろうとする千晶を、後ろから抱きとめる真夜。うんキックはマズイ。
 そして女の子二人が絡む百合っぽいショットが更に撮影される。

「ふ、服! とにかく服を着ないとです!」
「そんなことしてたら逃げられちゃうじゃん! ああもう、何であたし今日に限って阿修羅なんだ!」(ルインズ本職)
 そんなことを言っている間に、おサルはニヤリと笑ったような顔をしフェンスの向こうへ姿を消した。


●標的はおサル
「実際に体験していただくのが一番早いと思いまして」
 服を着て、フロントに飛んで行った千晶と真夜を出迎えたのは、旅館スタッフのそんな言葉だった。

 つまり、今回の敵はあのおサル。デジカメを持っているのはボス格で、他に手下らしきサルが十匹ばかりいるらしいとのこと。
 人を殺したり怪我させたりするようなことはないのだが、風呂場をのぞいて宿泊客を驚かせたり、脱衣場に入りこんで下着を盗んだり、宿に行き来する人の荷物を奪ったり。

「最近は図々しくなって、宿の中にまで入ってお客様用の食事に手を出したりする始末……」
 旅館スタッフはため息をつく。
 稼ぎ時の正月に、おサルの跳梁でそれはそれは大変な目に遭ったのだとか。

「うーん。出来損ないのディアボロか。『人間が嫌がることをする』って中途半端に命令が入ってるっぽいね……」
 千晶は腕を組んで考え込んだが。
「って! それならそうと、先に話してくれたらよかったじゃないですか! あたしら裸の写真撮られたんですよ?!」
「一般のお客様もそういう目に遭っているのです」
 スタッフは厳粛に言った。いわく、自身が被害者になった方がことの重みが分かるだろうと。納得できるようなできないような。

「怪我人も死人もいないから、と軽い事件扱いされてしまうんですが、当館としては大ダメージですから。このままではお客様に安心してお泊りいただくことが出来ません」
 というわけで。
 
 おサルを倒して、この旅館に平穏と安寧の日々を取り戻せ。
 それが今回のミッションである!


リプレイ本文

●許されざるサル
 千晶と真夜が脱衣場を走り出た時。
(あれは一緒に依頼を受けた方たちでは?)
 雫(ja1894)は声をかけようかと迷い、結局やめた。風呂は一人で入りたい。背中の傷を見られたくない。
 早目のこの時間だったら人も少ないだろう。そう思って、仲間より先に現地入りしたのだ。

 細く華奢な体をバスタオルでくるみ、露天風呂へ足を踏み入れた。人がいないのにホッとしてタオルを外したところへ、響くシャッター音。
 裸、撮られた。背中、見られた。……殺す!

 殺気を感じ取ったか、サルは素早く塀の向こう側へ。急いで脱衣場に戻った雫に、更なる屈辱が待っていた。サルに下着を盗まれていたのである。

 というわけで。
「ひき肉にして欲しいんですね……」
 依頼を受けた者が集まるミーティングの席で、彼女は低く呟いていた。
 激怒のあまり、一見落ち着いて見える。かなりヤバい。

 千晶の説明を聞き終わってザラーム・シャムス・カダル(ja7518)が立ち上がった。褐色の肌の美女だ。
「カーディス、温泉にゆくぞ」
 同行のカーディス=キャットフィールド(ja7927)に声をかける。
「わらわはサルを倒す為に囮役を買って出るのじゃ」
「私、護衛を致します」
 スタスタと部屋を出る彼女の後を、黒猫の着ぐるみが追う。
 作戦的にはそれしかないだろう。他の女性メンバーも、積極的に囮を買って出ると言った。

 だが。
「猿だろうが、覗かれるとか駄目!」
 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)はその流れに顔を青くした。
「個室があるっていうから、和紗はそっちへ。ね?」
 はとこの樒 和紗(jb6970)にそう勧めるが。
「それでは任務を遂行出来ません」
 一蹴されてしまった。それどころか和紗は、通りかかった真夜に『一緒に囮になろう』と声をかける。むしろやる気満々だ!

「大丈夫。一回撮られれば二回も同じです」
 真顔できっぱり言い切られ、真夜もそういうものかと納得。
「やめて和紗! 坂森ちゃんも信じちゃ駄目!」
 追いすがるジェンティアンの叫びは、完全に無視された。

 木嶋香里(jb7748)は旅館スタッフの元へと向かった。こういったことは許せない。囮はやる。だが、敵の思惑に乗る必要はない。
 水着での入浴許可と対策協力。これが必要だ。
 混浴以外での着衣入浴は遠慮してほしい、と旅館側は渋るが。同じ目的で来たマリー・ゴールド(jc1045)と共に香里は粘り強く交渉をした。


 夫婦水入らずの温泉旅行。そう思ってやって来た浪風 悠人(ja3452)は、友人の黄昏ひりょ(jb3452)から盗撮の話を聞かされ愕然とした。
「猿……自然が多いのかな? でも……餌が欲しいからかな」
 サルに盗撮される。それがピンとこない浪風 威鈴(ja8371)は、不思議そうに首を傾げる。無垢である。
 一緒に温泉は延期。嫁の裸を撮ろうもんなら、タマァ取らせてもらうからなッ……悠人はサルを狙う夜叉となった。


 言わない方が良かったのか。でも知っていて教えないのも……と浪風夫妻を見送りながら悩むひりょ。 そこへ一人旅に来たシェリー・アルマス(jc1667)が通りかかった。
 どうも見知った方が多い気がする、と不審に思っていた彼女はさっそく事情をたずね。
「え、サルのディアボロが盗撮してるの!?」
 思わず声を上げる。

 と、横のソファーからレティシア・シャンテヒルト(jb6767)がひょこりと顔を出した。
 雪見温泉で趣を愛でつつまったりぽん……そんな旅を目指して来た彼女。
 しかし、あっさり予約が取れた事はまだしも、集まっている客層に違和感マシマシ。そこへ耳にしたこの話。旅館側の目論見も推測し、いつの世も人は強かなものと大層感心したのだった。
「話は聞きました。協力します」
 にっこり微笑み、他の依頼参加者との顔合わせもソツなくお願い。


「あれ、偶然ですねー?」
 ファリオ(jc0001)も知り合いを見付け、声をかけた。
 華やかなオーラをまとった桜井・L・瑞穂(ja0027)と、フェロモンたっぷりの美少女天使アムル・アムリタ・アールマティ(jb2503)が振り返る。

 挨拶を交わした後、無邪気そうなファリオの瞳がきらりと光る。
「ここの露天風呂はすごく気持ち良いのでオススメですよー。今なら、まだ誰も居ないんじゃないかなー?」
 サルに一切触れずオススメ! いきなり腹黒炸裂!

「あら、それは楽しみですわね。アムル、いきますわよ♪」
 アッサリ思う壺にはまる瑞穂は、何も知らずに浮き浮きと温泉を目指すのだった。



●渾沌の始まり
 ザラームは混浴露天にいた。大人の魅力が溢れるシルエット。肌に刻まれた刺青が妖艶さを増す。
 見たところ、他に誰もいないようだが……実はカーディスが遁甲の術で気配を消しつつ物陰にひそんでいた。サルが現れたらザラームを守りつつ、影手裏剣・烈で戦うつもりだ。
 英国紳士な彼は入浴着姿のザラームを直視しないように気も遣っている。

「カーディス。そこにおるのか?」
 ザラームが少し心配そうに声をかける。
(私ここにおりますが)
 とカーディスは電波で返信。
(あまり動くと術が切れてしまいますのよ!)
「おるんじゃな?」
 ……受信はされていないようだ。

 しかし、ここは入浴着必須のエリア。他の風呂に比べて入浴客の反応が薄いため、サルのディアボロはあまり現れないのだった。



「和紗〜! 坂森ちゃ〜ん! 無事ー!?」
 男風呂。板塀に向け叫び続ける男が一人。
 自分も囮になって、はとこに行くサルを減らす! と露天風呂にINしたジェンティアン。女湯からは色っぽい嬌声も聞こえてくるのだが、彼は今それどころではない。

 東條 雅也(jb9625)は黄金の髪を湯に映し、温泉に浸っていた。
 噂を耳にした彼は、出ると判っている場所で使わない理由が無い、と阻霊符を展開。海水パンツも着用と備えは万全だが、そう言えば。
(どうでも良いことですが、男性向けの水着はどうして『海水パンツ』と呼ぶんでしょうか? そう呼ばないとあらぬ誤解を呼びそうだし)
 ……思索にふける彼だった。 

 
 ファーフナー(jb7826)は林の間に身を隠していた。
 青い瞳は山の清澄な空気を映し、鋭く四方の気配を探っている。防寒着に身を包み、潜伏の長期化にも対応可能だ。
いつでも標的に襲いかかれるよう身構え、白い息を吐きながら彼は五感を研ぎ澄ます。
 ……アレ、これコメディ依頼じゃなかったっけ?


「さっぶ! いやー、偶にはね、外に出ないとねって思ってね、出てきたんだけどさっぶ!」
 寒さの余りつぶやきながら、米田 一機(jb7387)は森の中を歩いていた。
「もー、さっさと風呂入ってただ飯喰いたいんだから。お猿さん、さっさとつかまってくれないかなぁ」
 ボヤキながらサルを探して山へと分け入った彼の出番は、しばらく後になる。


 塀の上にサルが姿を現した。同時にファーフナーが翼を広げ、不吉な影のように襲いかかる。
 しかしサルはひょーいと避けた。回避全振り万歳!
 その足に黒色の鉄鎖が絡みついた。のんびり湯に浸かっていた逢見仙也(jc1616)だ。鎖に引きずられ、湯の中に落下するサル。高々と飛沫が上がる。

 残るサルたちに向かい、カードが宙を舞った。表面を鏡のように特殊加工されたそれは、雅也の長い指に操られる。
 サルたちは何とか避けたが、その瞬間を狙う男がいた。
 轟音が山間にこだまする。全長1045mmのスナイパーライフルSR-45を構えた悠人が、狙いすましたヘッドショットを放ったのだ。

 そして。
「はっ、女湯で騒ぎが! 和紗、今行くよ!」
 騒ぎの中でジェンティアンが、なぜか女湯の異状を察知した。進路上のサルをヒプノララバイだのファイアワークスだので薙ぎ倒し、一目散に向かう。腰にタオル一枚巻いただけだが、大丈夫か。


 ファーフナーが飛んだ。足場の悪さを嫌い、飛行状態を継続したままだ。アイビーウィップが宙を滑る。
 その間に仙也は、温泉の中のサルに向けスタンエッジを撃った。命中! 一匹がぷかりと浮く。飛び出して逃げた他のサルを悠人の執念の弾丸が狙い撃つ。更に雅也のミラーカードが所狭しと駆け回り、ファーフナーの氷の夜想曲も唸る。
 互いの危険をまったく考慮せぬそれぞれの仮借ない攻撃。男湯は戦場と化していた。



●渾沌の華が咲く
 時間は戻り女風呂。香里の奔走で、半分くらいが水着や入浴着を纏っている。
 川澄文歌(jb7507)は不思議そうに周囲を眺めた。本日、アイドルも撃退士もオフ。のんびり慰安旅行中なのだが、なんだか空気がぴりぴりしているような?
「皆さん、のんびりしましょう〜」
 そう声をかけ、まったり露天風呂を楽しむ。

 温泉好きとして、平和を台無しにする猿を退治に来た猫野・宮子(ja0024)。バスタオル一枚の発育途上の体からは少女らしい色気が香る。彼女も温泉を楽しみつつ、油断なく時を待った。
 準備万端なのはマリーも同じ。召喚した鳳凰に自分の体をカメラから隠してもらう作戦だ。これで万全のはず!

「瑞穂ちゃん、綺麗な肌だね♪」
 一方。アムルは瑞穂の白磁のような肌をつ、と撫でた。そのままボリュームのある胸に手を伸ばし、揉み揉み☆
「あっ?」
 思わず声を上げる瑞穂。
「えへへへぇ〜♪ 瑞穂ちゃんこーゆーのが好きだもんねぇ♪」
 笑いながら、柔らかいトコを更に揉んだり、カタくなったトコを擦ったり。
「い、いけませんわ。こんな所でぇ!」
 派手な水音と共に瑞穂の嬌声が上がる。

 そんな中。
「いつも愚再従兄が迷惑をかけて世話になっているようで……有難うございます」
 和紗は丁寧に頭を下げた。真夜は焦り、
「いえ! お世話されてるのは私の方で!」
 ぺこぺこ頭を下げ返す。

「甘い顔するとつけ上がりますから注意して下さいね?」
 そう言って、和紗はにっこり微笑んだ。
 挨拶したことはあるが、ちゃんと話すのは今日が初めてだ。湯気に煙る白い体と嫋やかな黒い髪が美しい。なのに纏う空気は凛として。

 彼女を心配するジェンティアンの声が、五分おきに板塀の向こうからは聞こえて来る。和紗といる時の彼は、真夜が知っているのとは違う人のようで、何だか不思議だ。
 たくさんの時間を重ねてきたはとこ同士。そのつながりをうらやましいな、と真夜は思った。


 ところで。この光景を別角度から眺めている者がひとり。ラファル A ユーティライネン(jb4620)である。体の八割がメカに置き換わっている彼女に水気は厳禁、温泉なんてもってのほか。
 だから離れたところで張り込んで、サルの出現を待つしかないのだが。
「……暇だから、俺も撮影しとくか」
 デジカメを出して女子たちの入浴風景を撮影し始めるラファル。おいおい。


「アルねぇのお風呂は覗かせねぇよ!?」
 女湯の塀の向こう側には獅堂 武(jb0906)と影野 恭弥(ja0018)がいた。
 同行したフローライト・アルハザード(jc1519)に温泉を堪能してもらう為にも全力で頑張ろう、と武は張り切っている。
 彼は明鏡止水と抗天魔陣を使用、恭弥は雪上迷彩服に身を包みハイドアンドシーク。息をひそめてサルを待つ。


 ひりょも少し離れた斜面にいた。
 頑張っている真夜を陰ながらでも応援したい。そう思って彼は依頼に参加したのだが。真夜はお風呂に行ってしまったので、現状支援不可能。
 それでも。
(なんとしてもこのサル退治、成功させないと)
 力になれることはないかと様子を窺うのだった。


 やがてサルたちが姿を現す。一番の猟場である女風呂に気配があれば、強襲一択である。
 だがその足下に見えない矢が撃ち込まれた。嚆矢を放ったのは恭弥。戦いは始まった。

 武が刀印を切り、闘刃武舞を発動。現れた刀剣は次々にサルに襲いかかる。
 ボディペイントで潜行したラファルも攻撃に参加。
「学園の方から来たお猿スイーパーだぜぇ。よろしくなー」
 限定偽装解除し、丁寧にサルを仕留めていく。

「現れましたね……逃がしません」
 柵の上に乗ったサルに、いち早く気付いたのは和紗だった。右の小指にはめた指輪から長大な和弓を取り出し、すかさず一射。

 威鈴の狩人の目も鋭く辺りを見回す。
「サルが隠れそうな場所……」
 ここか、と岩陰にクレセントサイスをぶち込むと、サルが飛び出す。既にどこからか侵入していたようだ。

 翡翠色のビキニで抜群のプロポーションを包んだ香里は、挑発で敵を引き付け囮として立ち回るが、数が多い。
 そしてリーダーザルが、無防備だった文歌のバランスの良い体を激写。
「……アイドルのオフショット、それも入浴シーンは高くつきますよっ!」
 状況理解。文歌、参戦!

「おサルさんなら、やっつけれるかもです」
 実力はあるのにドジでビビリ。このままじゃ撃退士として不味いんじゃ、と一念発起したマリーは蝶のような翅を広げ、湯煙の中を飛び回っていた。狙いはサルの持つデジカメだ。
 大人っぽく発育したボディは小さな三角のビキニで隠されているが、何だか全裸よりエロい。鳳凰がその姿を隠そうとしてはいるが、やはりエロい。
「うぅ、我慢です」
 恥ずかしいのをこらえながら、マリーはリーダーザルを探す。

 宮子は隠し持っていた猫耳を装着。
「温泉の平和を脅かす不埒な猿は……この魔法少女マジカル♪みゃーこが退治してやるにゃ!」
 魔法少女になった彼女はノリノリである! ただし変身は脳内の出来事。
「獣の躾には鞭にゃよね? マジカル♪ウィップにゃー♪」
 マジカル♪ウィップという名のアイスウィップを発動! 鞭状に結晶化させたアウルが、サルたちを追う。
 自らも囮になろう。そう思ったシェリーが胸元をチラリとのぞかせようとした時、思いがけないことが起こった。


 のんびり現れたファリオは、まっすぐ露天風呂を囲う板塀に向かう。狙いをつけてエナジーアロー。
「ワー、手が滑っちゃったー」(棒)
 イヤ確実に故意。サルを倒す気微塵もない。
 もうもうと上がる埃と湯煙の中、女風呂が露わになる。

 恭弥は素早く武の目を覆った。
「はいそこ、見ない」
 続けてナイトアンセムを発動する。周囲が闇に閉ざされるのを見て、ひりょはホッとしファリオは舌打ちした。しかしスキルの効果が切れたその時こそ、と彼は小さな手にスマホを握りしめる。(撮影する気満々)


 恐慌に駆られるサルたちを追い、バスタオル一枚という恰好も忘れ、宮子は跳び蹴りとかしている。いろいろ見えそうで危険。
「悪い子は許しません!」
 香里もサルを追う。
「デジカメだけでも取り上げてください!」
 シェリーの声が響く。

「アルねぇ、どこ?」
 闇の中、武はフローライトの無事を確かめようと呼びかけた。しかしその時!
「和紗! 無事なの?!」
 後ろから突進してきた何者かに押され、更に倒れた柵につまずき。彼の体は豪快に飛んだ。そのまま、ぼっちゃんと露天風呂の湯の中へ。上がる湯柱、女子の悲鳴。
「和紗!」
 普通に脱衣場から廊下を通ってくれば簡単だったのに、焦るあまり男湯の板塀をよじ登り、斜面とか踏破して大冒険してきたジェンティアンは、必死ではとこの名を呼ぶ。

 折しもナイトアンセムの効果が切れ、闇は去りつつあった。
 そして女子たちの目に映ったものは。女湯横に仁王立ちするIKEMEN。腰に一枚巻いたタオルは、今にもはずれそう。

「きゃー!」
「のぞき?!」
「というかHENTAI?!」

「えっ? 違っ! 誤解っ!」
 ようやく状況に気付くジェンティアンだが、どんな言葉を発すれば皆の心に届くと言うのだろうか。イヤ無理。
「ここ、女湯ですよ? なんでいらっしゃるんですかね?」
 ごごご、という効果音を背負ったシェリーの姿が全てを語っていた。


「きゃー。逃げなくちゃー♪」(棒)
 アムルは湯の中から立ち上がり、うっすら桃色に上気した豊満な肉体を惜しげもなく晒した。ついでに瑞穂の腕を取り、一緒に立たせる。むっちむちの肢体が丸出しに!
「ああっ、見ないで下さいなぁぁぁっ♪」
 体を隠して叫ぶ瑞穂も、ポーズはばっちり決めていた。
 いつもスケベは忘れずに♪ by アムル

 その様子をスマホで撮影していたファリオ。だが、
「な、何をしてるんですかぁ〜!?」
 デジカメザルを探していたマリーに見つかった。彼は無邪気な笑顔を浮かべ、
「あ。依頼の記録を」
 と取り繕うが。
「これは記録しちゃダメですぅ〜!」
 さすがに無理があった。
 翼を広げて逃げるファリオ、スマホを取ろうと追うマリー。空中戦だ!


 威鈴はリーダーザルと出くわした。タオルを巻いただけの白い体にデジカメを向けられ、羞恥で頭の中が真っ白になる。
 悲鳴を上げながらリリスレガースを装着。精密殺撃でサルに襲いかかる。だが、それは『異性を惑わすようなアウルを纏う』武器。その恰好で蹴りは(いろんな意味で)ダメだ!

 猛攻から逃げるリーダー。それを守ろうと飛び出した、別のサルの頭が砕ける。
 ハッとして振り返ると、離れた木の上にスナイパーライフルを抱えた夫の姿があった。妻の危機を察知した悠人の怒りの狙撃だった。

「悠……怖い、よ……」
 威鈴は。その殺気あふれる姿に怯えた。


 サルの出現と同時に戦闘を開始したフローライトは、柵が倒れても構わず戦いを続けていた。混戦の中、出会ったリーダーザルをタウントで引き付け、フォースを放つ!
 ストラップがちぎれ、デジカメが宙を舞った。
 その瞬間、文歌が吼えた。アイドルの咆哮(正式名称:不協和音)が、一瞬でカメラを吹き飛ばす。

 そして、まったりお湯に浸かっていたレティシアも動く! 創造でニセデジカメを素早く作成。宝物を失ったリーダーザルに、これ見よがしに見せつける。
 取り戻せるかもと希望をちらつかせ、逃走する選択肢から遠ざける。サルが襲いかかって来ると、ニッコリ笑って仲間にパス。

 だが誤算が。
「これは、あのデジカメ!?」
 破壊の瞬間を見ていなかったシェリーが、パスされたカメラを本物だと信じた。サルからこれを守り抜かないと!
 逃げるシェリー、群がるサル。そこへ。
「堕ちて下さい、目覚めぬ永遠の夢へ」
 文歌の歌声が響く。次々にサルたちを眠りに落とす氷の夜想曲。ついでにシェリーほか周りの人々も眠った。


「坂森さん、大丈夫!?」
 指で目を覆い、ひりょは倒れた柵の外から真夜を呼んだ。混乱がひどく、何がどうなっているか分からないが。それだけに無事は確かめたい。
 その呼び声に応えるように、湯気の中からゆっくりと近づいてくる影があった。
「坂森さん?」
 思わず手を下ろした彼の目に映ったものは。

 お湯にぷかぷか浮いている、半裸の美少年二人のBL像だった。(デコイ用に文歌製作・無銘。腐女子属性のない者に心的ダメージを付与する)
 だが負けない! ダメージを食らいながら立ち上がった彼を、しかし大爆発が襲った!


 爆心地には長い銀の髪の少女。サルを探し山野を彷徨っていた雫が今、渾沌の湯処に舞い降りる。
「皆殺しです……」
 呟くと同時に、神威、乱れ雪月花、烈風突。殺傷力の高いスキルが吹き荒れる。
 さすがにヤバい。リーダーザルは撤収命令を出した。

「逃がさないよ」
 足下で声がした。のぞき容疑で拘束されたジェンティアンが、それでも不敵に微笑んでいた。
「和紗を辱めようとするヤツを、僕は絶対許さない」
 発動する奇門遁甲。逃げ道を見失ったサルたちは雫の刃に倒れていく。
 その光景に微笑みを浮かべつつ、彼はゆっくり眠りに落ちていった。(原因:氷の夜想曲)

「追います」
 攻撃を逃れていくサルたちにマーキングを撃ちこみ、和紗は脱衣場に飛び込んだ。素早くバスタオルを体に巻き付け、廊下へ飛び出し戦闘続行。艶姿のまま髪芝居、バレットストームと嵐のように旅館内を進撃!
 
 自分の名を地に落としても。ジェンティアンには守りたいモノがあった。
 しかし当の和紗にそれを守る気がなかった場合、全ては徒労なのだった。


 ひりょはうっすらと目を開けた。タオル一枚の姿でサルを追っている真夜の姿が見えるような。
(ああ……坂森さん、頑張ってるみたいだな……)
 ぼんやりした意識の中で、彼は思う。
(多分あの子に今必要なのは、経験を積み重ねていく事で培われる自信だと思う。気がつかれない程度の支援でも出来ればいいな。『私でも依頼をこなせるんだ』って実感してくれれば……)
 温かく真夜の姿を見守りながら。彼の意識も遠くなっていくのだった。



●天女舞う
 人的物的に多大な被害を出しつつも旅館内のサルは駆逐され、戦場は外へ。
「指令は一つ、索敵滅殺です」
 雫の意志は固い。

 付き従う者は、ラファルとファーフナー、そして。
「一度酷い目に会わないと身の程が分からないなら……徹底的にやりましょうか」
 風呂から上がろうとしたら着替え一式盗まれていた仙也。炬燵にこもるのも忘れ、全力で潰す気である。
 山野でサルを探していた一機とも連絡を取り、こちらに向かってもらっている。


 仙也のポイズンミストがサルたちを包み込む。ラファルの肩から射出されたミサイルが敵をまとめて爆殺する。二人の攻撃を逃れても、ファーフナーがいる。集中力を高めた攻撃に、とりこぼしはない。
 雫は枝から枝へと飛び移って逃げるサルを追った。追いつめた相手に向け、剣を振り上げた時。サルは命乞いをするようにキーキーと声を上げ、しきりに頭を下げた。
 哀れを催すその姿。雫は眉をひそめる。
「命令で仕方なく盗撮や盗難をしたとしましょう……でも、死ね」
 容赦なし。


 全てが終わったか、と思われた時。
「あっ、俺のデジカメ(女湯映像所収)?!」
 ラファルの狼狽した声が響く。リーダーザルは狙っていた。奪われたデジカメの代わりを手にする機会を。

 リーダーザルは林の中に逃げ込む。追尾してくるミサイルも根性で避ける。これさえあれば仲間はいなくても、命令を果たすことが……。
 林を抜けて、風景が開ける。逃げ切ったと思った時。

 待ち構えていた一機のコメットが、サルの動きを封じる。続けて放たれた星の鎖が、その偽りの命を終わらせた。
「ん? これが例のデジカメかな?」
 転がり落ちたカメラを拾い上げ、とりあえず(興味本位で)中の映像をチェックしようと……。

「ダメですぅ〜〜!!」
 空から声が響いた。

 マリーは、ファリオを追い続けていた。頑張った末、映像を消させることに成功。旅館に帰ろうとしたところで彼がデジカメをいじっているのを目撃した。
 止めなくては、と決意した彼女は勢いをつけて飛び込んでいく!
 美少女(半裸)が空から降ってくる。まるでラブコメのワンシーン。(だが高速)

 この時上がった雪煙は、林の向こう側からも目撃された、とか。
 デジカメは無事(?)破壊。
 


●戦い終って日は暮れる
 依頼は完遂された。後は、それぞれの時間である。

 ザラームとカーディスは個室で和食を楽しんでいた。
「わ〜! 美味しそうですね。舟盛りもありますよ!」
 日本情緒たっぷりの食事に、カーディスは喜ぶ。

「おつかれさまでした。ザラームさん」
 酌がれた酒を美味そうに飲み、彼女は笑った。
「にゃはは、たまにはこういうのも悪くはあるまい? カーディスも飲め」
「私、下戸なのですけど……じゃ、ちょっとだけ」
 小さなお猪口で乾杯。

「そら、刺身じゃ。猫なら嫌いでなかろ。ほれ、あーん」
「わ、私、なまざかなはだm……」
 むぐ。強制的に大トロがお口の中に突っ込まれる。むぐむぐむぐ。
「あ! 美味しいですの!」
 緑の瞳が輝く。新しい味に開眼!

 お疲れ様会はゆっくり進み。
「もう一献どうじゃ?」
 声をかけたザラームは、相手が寝入ってしまっていることに気付く。
「なんじゃ、寝落ちか」
 彼女はそう呟いて旅館の半纏を手に取り、眠る黒猫にそっと掛けてやった。


 カラオケルームにジェンティアンの美声が響く。
「この人、これくらいしか特技ないので」
 そう言う和紗の表情はとても優しい。
「坂森ちゃんデュエットどう? どう?」
 ジェンティアンに誘われ、真夜はあわてて首を横に振った。一緒になんて歌えない。いや。
 ただ、いつまでも聴いていたいのだ。甘美なその歌声を。

「竜胆兄。坂森が困っていますよ」
「だって和紗は聞き専だから、延々僕のオンステージになっちゃうじゃない。一緒に歌おうよ」
 そんな風に言う彼は、はとこが聞き専になってしまう理由に気付いていないようだ。

「坂森ちゃんも聞き専かあ」
 ジェンティアンは軽くため息をついてから、にっこりと笑った。
「センセから、クリスマス兼進級祝ちゃんと貰った?」
 真夜が驚くと。
「選ぶの見てたしー?」
 更に笑顔。

 それで、真夜は合点がいった。もらった物は可愛いブーツで、実はそれがちょっと意外だったのだけれど。
 きっと一緒に選んでくれた。その光景を想像すると、とても可笑しい。
「ありがとうございます」
 小さな声は、次の曲のイントロに溶けた。


「やっぱり風呂っていうのはこう……救われてないと駄目だよね」
 男風呂。星空を仰いで一機は呟く。
「孤独で……静かで……豊かで」
 帰りには、お土産に入浴剤でも買って帰るか。そう思う彼だった。
 
 ファーフナーも湯の中にいた。皮膚から体の芯へとしみ渡る熱を楽しみながら、静かに戦いの疲れを癒やす。


 ラファルは和風バイキングで思い切り食べていた。やっぱり温泉には入れないのだが……彼女にはこれが骨休め。


 レティシアはお土産コーナーにいた。
 進級試験の時に一緒に勉強した真夜に、進級のお祝いを贈呈しよう、と考えたのだ。ちなみに本人は狙って落第。
 回すと音が鳴る縁起物の独楽、可愛いミニチュア家具。何が彼女に似合うだろう?
 様々な細工物を候補に、むむむと吟味。
 きっと明日はこの場所で。真夜がレティシアに似合う物を探している。


 混浴露天。
「酷い目に遭いましたわ。まったくもう!」
 自慢の肢体を過激な青いビキニに包み、瑞穂はため息をついた。傍らではアムルが、ほとんど紐のピンクのビキニで微笑んでいる。そしてファリオもちゃっかり一緒。

 女湯映像をスマホにおさめるという目的こそ達せられなかったものの。カオスの中で美女たちの肢体を眺め、追ってきたマリーの魅惑的なボディも観賞し。(鳳凰は途中で召喚時間切れ)
 更に、官能的なお姉さま二人と混浴を楽しめる……とあっては、もうファリオ大勝利としか言いようがない。
 これぞ男の本懐。彼のウハウハナイトはまだ幕を上げたばかりだ。


 悠人と威鈴も並んで湯に浸かり、ようやく取り戻した温泉旅行を満喫していた。
「え……俺、怖かった?」
 怯えていたと聞かされ、悠人は焦る。
「ん……でも、今は怖くない……の」
 威鈴はそう言って少し身を寄せる。銀の髪をそっとなでると、気持ちよさそうに目を閉じる。とても、可愛らしかった。


「坂森さん」
 カラオケを終えた真夜を、ひりょが呼びとめた。
「さっきはバタバタ慌ただしい感じだったね。ご苦労様」
 あられもない姿を目撃した気もするが。夢かもしれないし、触れないでおこう。

「あ、そういえば……」
 ひりょはクリスマスカラーの包装紙で包まれた細長い箱を差し出す。
「だいぶ遅くなってしまったけど……これ、進級のお祝い。前に街中で見つけた時に、似合いそうだなって思ってね」
 遠慮しながら包みを開けると、月の形をしたペンダントがケースの中で光っていた。
「可愛い」
 真夜の表情がほころぶ。
「ありがとうございます」

「真夜ちゃん。一緒に温泉に行きましょ♪」
 少し離れた部屋から香里が顔を出し、声をかける。
「あ、はい! 行きます!」
 返事をしてから、真夜はもう一度ひりょに向き直った。
「本当にありがとうございました!」
 もう一度おじぎして走って行く後ろ姿を、ひりょはしばらく見送った。


 宮子は改めて温泉を堪能していた。もう猫耳はつけていない。
「ふぅ、やっぱり温泉はまったりと浸かるのが一番だねー」
 昼間よりも冷たさを増した夜気が、火照った肌に心地よかった。


 武はフローライトと恭弥が来るのを待っていた。
 これから三人でゆっくり温泉に浸かって。その後は、温泉饅頭や温泉卵、風呂上がりのコーヒー牛乳。甘味好きのアルねぇに、美味しい物も堪能してもらいたい。
 昼間はのぞきと間違えられたり、さんざんな目にあったが。壊れた場所の修復も手伝ったし、後はゆっくり楽しもう。
 そう思って、彼は口許をほころばせた。


 少し時間は戻る。
 ディアボロが残っていてはいけない。そう考えた恭弥とフローライトは周囲の森を探索していた。
 山の夜は静かだ。通る車もない県道の脇を、敵を求めて二人は歩いた。掃討は完了したのだ、と納得できるまで索敵を続けた後。恭弥はフローライトに、星を見に行こうと言った。

 雪交じりの斜面を登って開けた場所を探すと、そこは二人だけの特等席だった。冬の澄んだ空気が星を明るく見せる。
 フローライトは翼を広げ、ふわりと恭弥を包み込んだ。彼が驚いた顔をすると、
「風邪を引かれても困る」
 と説明する。
「これじゃお前が冷えるだろう」
 恭弥は自分が巻いていたマフラーをほどいて、細い首にふわりと巻きつけた。

 あれがオリオン座、あっちが双子座。指さして教える恭弥の声を、フローライトはうなずきながら聞いた。やがて少し言葉が切れて。
「その……昼間はすまん」
 恭弥がぽつりと言った。フローライトは首を傾げる。
「何のことだ?」

 彼は言葉に詰まる。あの時、女湯の柵が倒れ、辺りが闇に閉ざされる前。
 彼の目にフローライトの姿が飛び込んできた。濡れた入浴着が体にはりつき、スタイルが良いことがはっきり分かった。

「いや……分からないなら、いい。そろそろ戻ろう。獅堂が待っている」
 彼はゆっくりと斜面を下り始めた。
「旅館に帰ったら、しっかり温まるのだぞ」
 フローライトは言い。それから、
「温泉饅頭というのは、美味いのか?」
 とたずねた。

 恭弥は、ああ、と答えた。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 ついに本気出した・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
 あなたへの絆・米田 一機(jb7387)
 撃退士・東條 雅也(jb9625)
 神経がワイヤーロープ・ファリオ(jc0001)
 UNAGI SLAYER・マリー・ゴールド(jc1045)
重体: −
面白かった!:13人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
Walpurgisnacht・
ザラーム・シャムス・カダル(ja7518)

大学部6年5組 女 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
好色天使・
アムル・アムリタ・アールマティ(jb2503)

大学部2年6組 女 陰陽師
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
東條 雅也(jb9625)

大学部3年143組 男 ルインズブレイド
神経がワイヤーロープ・
ファリオ(jc0001)

中等部3年3組 男 アーティスト
UNAGI SLAYER・
マリー・ゴールド(jc1045)

高等部1年1組 女 陰陽師
守穏の衛士・
フローライト・アルハザード(jc1519)

大学部5年60組 女 ディバインナイト
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード