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マスター:壬縞 吟
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/01


みんなの思い出



オープニング

●芽吹き
 内装は和テイスト。ランプシェードはウグイスが羽ばたく柄。流れるのは、琴や龍笛の音色。小さな池もあり、金魚が気ままに泳いでいる。
 入り口に飾られるのは、愛らしいミモザの花。
 春を感じさせるその店の名前は、『和風ぱふぇ ミモザ』。その名の通り、和風のパフェを提供する店だ。この春オープンしたばかり。
 店を開いたのは、まだ年若い女性。和菓子が大好きな彼女は、和菓子が苦手な人にも楽しんでもらえるスイーツを考えた。パフェならば、好む人も多いだろう。そうしてオープンした彼女の店は、クチコミで少しずつ人気になっていった。
 そんな折、彼女から依頼があった。
 先日のこと。急遽団体の予約が数件、入ったらしい。甘味クラブという大学生サークル、旅行客の外国人一行、年配の団体客。席数には余裕があるが、人手が足りない。急な予約にシフトを組むことができないのだそうだ。
 そこで、手を借りたい、との依頼。
「無事一日を終えることができたら、お礼にパフェを食べて行ってください」
 パフェは自由に選んでいい、と言う。
「お店の名前にもなってるミモザは、私の好きなお花なんだ。元々は、幼馴染みの好きなお花で……。彼はね、私の夢を応援してくれてたのよ。だからお店を持ったら、この名前にしようって決めてたの」
 彼女は淡く微笑んだ。まるで少女のように、はにかんで。少し照れ臭そうにして、言葉を続ける。
「……ミモザは、私の夢なの。小さい頃から、自分のお店を持ちたいと思って、それがようやく叶ったから。来てくれる皆さんに喜んでもらいたいんだ」
 だからどうか、手を貸してね。


リプレイ本文

●ミモザの花
 扉を開くとまず目に入る、ミモザの花。ふわふわした花弁はとても愛らしく、明るい色彩が店内ではよく映える。迎えてくれたミモザの花を、見遣ってから、撃退士たちは店の中へと足を踏み入れた。
「おはようございます。今日は来てくれてありがとう」
 ホールでは、既に和服を着込んだ店長のはるのが立っていた。彼らを見回して、まずは頭を下げる。
「おはようございます!」
 何よりも挨拶を大事に。そう考えている、袋井 雅人(jb1469)は元気よく挨拶をした。彼に続くように、他の皆も挨拶をする。
「先に休憩室で着替えてもらうね。Tシャツの上からでも着られるから、着付けができない人は私がお手伝いするよ」
 はるのが休憩室まで案内をしてくれる。休憩室の向かいはお手洗いになっているそうだ。業務中は休憩室の扉を開ける時に気を付けて、と彼女が付け加える。
 休憩室はさほど広くない。ロッカーがいくつか、テーブルと椅子、ソファ、小さいけれどテレビもあった。メニュー表や従業員の日誌、シフト表、漫画やカードゲームの類まで置いてある。他のアルバイトの私物だろう。
「ごめんね、散らかってて。えっと、男の子はこっちで、女の子はこれね」
 男子が差し出されたのは緑色の和服。女子は黄色の和服だ。何でも緑は抹茶、黄色はミモザを表しているらしい。店の雰囲気に合わせたかったそうだ。
「……あなた胸大きいね」
 声を潜めたはるのは、月乃宮 恋音(jb1221)の胸を凝視する。恋音は僅かばかり頬を染めた。
「……着られますかねぇ……」
 着付けは自分でできるとのことで、彼女は自身の胸と悪戦苦闘。
 華桜りりか(jb6883)は和服に着替え終えて、髪をまとめている。邪魔にならないようにとまとめ上げ、今度は水無瀬 快晴(jb0745)の着付けを手伝う。
「ふぅむ? 和装も良いけど着るのが難しいよねぇ……」
 快晴は顔を顰めて一生懸命。その様子に、りりかは小さく笑う。何とか着付けを終えて、彼女は快晴の髪を、ワックスで後ろに流す。
「ふふ……カイさん、和服も似合うの。かっこいいの、です」
 空木 楽人(jb1421)もまた、寿 誉(jb2184)に和服の着付けを手伝ってもらっていた。二人は先日食べたパフェの話で盛り上がる。手際良く着付けを終えると、楽人は落ち着かない様子。
「和服なんて何年ぶりかな……へ、変じゃない?」
「……誠……凛々しゅう……ござい……ます……」
 ほわり、誉は淡く微笑する。その言葉に、楽人もほっとした様子ではにかんだ。
 着付けの手伝いをしてもらっているルル(jb7910)は、和服の仕組みに感心する。木ノ花 柚穂(jb7800)が、ルルの着付けを終えた後、髪を結う。両サイドをアシンメトリーに編み込んで、左右で違った印象を出す。仕上げに、耳の少し上に花飾りを。
「えへへ、如何でしょうか?」
「木ノ花さんありがとう! だいすきーっ」
 雅人は自身で着付けを終え、(主に胸で)悪戦苦闘していた恋音もようやく和服に着替え終えた。
 全員が着替え終えたところで、はるのが店内の案内とシフト、仕事内容の確認を行う。開店まで、もうすぐ。

●来店は笑顔と共に
開店の少し前、柚穂は玄関口を掃除する。店の顔でもあるから、きれいに、と心がける。
「……頑張ってみますかねぇ?」
 窓拭きをしながら、気合いを入れるように呟いた快晴だったが、
「……うん、申し訳ないけど俺は『厨房』はお任せします」
 厨房での仕事は苦手なようだ。
「厨房に入ると破壊する恐れがあるので……その分接客は頑張りますよ!」
 此処にも、料理が苦手(どころではないかもしれない)男子が一人。楽人も接客へ回るようだ。
「恋音は僕と一緒に厨房に。頑張りましょうね」
「……はい、頑張りますねぇ……」
 見落とされがちな店内の隅の掃除を終わらせた雅人と恋音は、掃除道具を片付ける。粗方終わったようだ。はるのは店内を見回し、撃退士に笑顔を見せる。
「――それじゃあ、『和風ぱふぇ ミモザ』オープンします!」
 彼女は扉に開店の札を下げた。客が来る前に、手指の洗浄と消毒を済ませ、各々の持ち場へ着く。
 厨房担当は雅人、恋音、りりか、誉。接客担当は快晴、楽人、ルル、柚穂。
 からん、と扉のベルが鳴る。早速来店だ。
「いらっしゃいませ!」
 来店に気付いた雅人がいち早く声を出す。他の皆も、続けて「いらっしゃいませ」と言葉にした。訪れたのは、二人組の若い女性客。席へと案内するのは楽人だ。少し緊張しているらしい。
「こちらへどうぞっ」
「いらっしゃいませっ」
 柚穂がメニューと水を持って、二人に一礼。
「お決まりでしたらお呼びください。当店のおすすめは、甘さ控えめほうじ茶パフェです! 甘めのパフェしたらスタンダードですが、抹茶パフェをおすすめしています!」
「ほうじ茶パフェって変わってるねー」
「迷っちゃうなぁ」
 悩む二人を見れば、柚穂に笑みが浮かぶ。悩んでしまう気持ちはとてもよくわかる。同じ立場なら、自分も目移りしてしまうだろうから。
(「……初……めての……アル……バイト……がんば、ろう……」)
 厨房ではそわそわしながらも、誉がぐっと拳を握る。
「……抹茶パフェ……には……少々、手を……加えさせて……頂いても……宜しい……でしょうか……?」
 鮮やかな黄の練餡をミモザの花に見立て散らして見ては、と彼女ははるのに提案してみた。より華やかになるはずだ。
「あ、それいいかも! 折角の店の名前なんだから、ウリにしなくちゃね!」
他のパフェには金平糖を飾ってみてはどうだろう、と更に勧める。彼女のレシピや味に問題があるわけではない。けれど見た目に少し手間をかけるのもいいかもしれないと、思ったのだ。
「ひー君、お茶ついでー」
「きゅい♪」
 楽人の召喚獣・ヒリュウのひー君。呼び出して、お茶汲みを手伝ってもらう。愛らしいその姿に、店の女性客の目が釘づけ。ひー君は愛想を振りまいてくれている。
 徐々に客入りが良くなっていく。合間を見つけて、りりかは床をモップ掛けする。クリームやアイスが零れた箇所がべたべたして不快感を感じる客もいるだろう。
「綺麗なほうが気持ちが良いの、です」
 ぴかぴかになった床を見て、りりかは満足そうに、こくんと頷いた。
 最初に来店した二人の客が帰る頃。ルルが店の外まで見送る。
「ありがとうございました。ステキな一日を」
 一度頭を下げた後、彼は柔らかく微笑んで、そっと色紙を差し出した。
「当店はこの春オープンしたばかりでして……今後ますます皆様のご期待に応えるカフェを目指すはげみに、よろしければエールを頂戴できませぬか?」
 卵黄を練りあげたテンペラ絵具。それを指につけて色紙に拇印を押してほしい、と。煎卵をのせたミモザサラダをヒントにしたという。 黄色い拇印は、沢山あつまるとミモザのように見える気がして。
「……いいですよ! 面白そう!」
「私もやる!」

●ごちそうさま
 一組目の団体客がやってきたのは、午後三時を回った頃。甘味クラブなる大学サークルのグループ。男女混合の十名の団体客だ。
「い、いらっしゃいませっ」
 すぐに予約席まで楽人が案内する。店内が混雑してきた。忙しい中でも、彼らは来店の挨拶に気を配る。
「ご注文は如何なさいますか?」
 ルルが団体客の元に、注文を取りにいった。小首を傾げると髪飾りがしゃらりと揺れる。
「食べ比べしたいねぇ!」
「じゃあパフェ全種、いっちゃうか!」
 さんせーい、と元気な声が上がる。ルルは僅かに笑みを零した。
「そんじゃ、抹茶パフェ、煎茶パフェ、ほうじ茶パフェ、黒豆茶パフェ、玄米茶パフェをそれぞれ二個ずつ!」
「足りるかなぁ。足りなかったら追加しちゃおっか!」
 注文の復唱を終えて、ルルは厨房へ向かう。
 その間、また扉のベルが鳴った。来店したのは十二人の外国人団体客。甘味クラブの団体客と同じく、男女混合だ。すかさず、快晴が彼らに近付く。
「和服! 和服だわ!!」
 外国人の団体客からの歓声に、快晴は一瞬呆気にとられる。
「……いらっしゃいませ」
 どうやら日本語を話せる者もいるらしい。話せないなら通訳を、と思ったが杞憂だったようだ。
「席に案内します」
 彼らを予約席に案内する。座敷の席だ。団体客の幹事が希望したらしい。「TATAMI!」と大興奮している。
「後で写真いいかしら。和服好きなの!」
「えっ……」
 突然の申し出に困惑する快晴。頷いてもよいものか、悩む。
「ガールの和服もキュートね! 写真はNG?」
「……店長に聞いてみますので、メニューを見て少しお待ちください」
 できるだけわかりやすいように、と言葉を選ぶ。すぐにはるのに聞きに行くと写真は構わないとのことだった。その旨を伝えると、外国人団体客はまたしても大興奮。周りの客たちは、彼らを見て微笑ましげにしている。
(「かっこいいの……」)
 快晴の接客する様子をこっそり厨房から覗き見するりりかは、ほんのり頬を染めた。
 注文を承り、パフェを提供して、ピークを超えた頃。最後の団体客が来店する。何人か杖をつきながら歩いているお年寄りもいるようだ。
「パフェなんて初めてだから、緊張しちゃうわねぇ」
「いらっしゃいませ。お足元にお気を付けください」
 楽人が出迎え、足元への注意を促す。柚穂も足の悪い年配客に手を貸して、席まで誘導する。
「あら、若いのに偉いねぇ」
「俺の孫くらいの年なのに、よう働くな」
「何かお困りでしたら、遠慮なくお申し付けください!」
 楽人が人懐っこく笑うと、年配客は口々に孫のようだ、と彼を可愛がる。
「そっちのお姉ちゃん、甘さ控えめなのはどれかねぇ」
「でしたら、ほうじ茶パフェがおすすめです。男性も好まれる方が多いですよ」
 楽人が注文をとって席を離れると、厨房から恋音とりりかが出てくる。小さな土鍋とコンロを持って、年配の団体客の元へ。テーブルの端に、コンロと土鍋を置かせてもらった。楽人はその間に湯呑を用意して、年配の団体客の席に戻ってきた。
「……失礼しますねぇ、こちらは、ほうじ茶のサービスですよぉ……」
「失礼致します、です」
 二人はコンロに火をかける。土鍋の中身は古くなった茶葉だ。それを焙じて、目の前でほうじ茶を作る。いいサービス兼パフォーマンスになるだろう。
「あ、いい香り」
「本当。サービスだなんて、いいのかしら」
 どうやら好評のようだ。良い香りが店内に漂う。他の客も興味津々といった様子。
 ほうじ茶のサービス中、柚穂は厨房からへ手伝いに入る。パフェの注文がいくつかたまっているので、それにとりかかった。ミモザの店員に教わりながら、パフェを作り上げて行く。
「あなた器用なのね」
「和食ばかり作って参りましたが……偶にはこういうのも、楽しいですね」
 出来上がっていく愛らしいパフェを見て、柚穂は目を細める。
「忙しいですが、とても充実した時間ですね」
 折角だからお客様には甘い思い出と楽しい時間を提供したい。雅人はそう思っていた。甘いパフェを口にして、笑顔が咲く。話も弾んで、それはとても幸せそうな光景に見えた。
「……皆様……素敵な……笑顔……に……ござい……ます……」
「そうですね! みなさん、きらきらしています!」
 パフェを作りながら、誉と柚穂も和気藹々。そんな時、外国人の団体客が席を立つのが見えた。パフェと店を堪能したので帰るのだろう。会計を終えた頃合いを見計らって、
「ありがとうございました!」
 雅人がよく通る声で、見送りの言葉を口にした。
「ゴチソウサマ!」
 片言の言葉が返る。たどたどしい一言に、たくさんの気持ちが込められているように感じた。

●花言葉は、
 最後の客が帰り、全員は後片付けをする。掃除や洗い物を分担し、閉店作業はスムーズだった。――そして最後のお楽しみ。
「今日は本当にありがとう! サービスだから食べていってね!」
 仕事を無事に終えた撃退士たちに、パフェが振る舞われる。
 快晴は玄米茶のパフェを選んだ。彼の向かいの席に座ったりりかは、ほうじ茶パフェを。
「……お茶の中でも玄米茶が一番好きだしねぇ?」
「わぁ…美味しそうなの、です」
 パフェを目の前にして、目がきらきらする。しかし……
「んぅ…カイさんのパフェも美味しそうなの、です」
 快晴のパフェも美味しそうで、ついじっと見てしまう。その視線に気付いた快晴は、玄米茶パフェをスプーンで一掬い。りりかの目の前に差し出す。
「あの……えと……んと……う……? はぅ……んん」
 きょとり。りりかが首を傾げ、快晴は口元を緩ませる。口を開けて、とそっと囁いた。
「……えっと……空木、さん……あの……その……は……半分……こ……致し……ません……か……」
 抹茶パフェを選んだ誉だったが、楽人が食べるパフェが気になるらしい。誉は顔を真っ赤にしながらもじもじ落ち着きない。
「……あ、半分こね! 勿論いいよ、どこ食べる?」
 にこっと笑みを浮かべた楽人が、彼女の前にパフェを差し出す。
「……こちら、今回のレポートですよぉ……」
 恋音が店の経営について、レポートをまとめてくれたらしい。はるのはそれを受け取って、破顔する。
「わざわざ作ってくれたの? 大変だったでしょ? 参考にするねー。あなたもよかったらウチのパフェ食べて!」
「店長さん、夏らしく麦茶パフェというのはどうでしょう」
「麦茶! いいねぇ、香ばしくって好きなんだー。ほうじ茶みたいに甘さ控えめになるかも! 試作品作ったら、食べに来てよ!」
 夏の新メニューとして、雅人が提案した麦茶パフェが並ぶ日が近いかもしれない。
「抹茶パフェ、美味しいです!」
 柚穂は舌鼓を打ちながら。しかし、満面の笑顔が、ほんの少し硬くなる。
「太っちゃうかな……でもでもっ、ちょっとくらい……ね?」
「いっぱい食べてねー?」
「店長さんっ、誘惑しないでくださいっ」
 いっぱい、という名の甘い誘惑を振り払うのは大変なのだから。
「店長、これを。……『ミモザ』のさらなる発展に生かしていただければうれしい」
 ルルがはるのに色紙を差し出す。それは、ミモザを訪れた客からのエールの『ミモザ』。色紙の上に、黄色の花が咲く。経験不足な自分にできる精一杯をさがしてみたのだと言う。
「……すてき。ありがとう。本当に、ありがとうね!」
 彼女は色紙を受け取って、胸にぎゅっと抱き締める。早速飾っちゃう、とミモザの花が咲く、店の玄関へ。
 傍らにそっと飾れば、それは、とても優雅な。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
能力者・
空木 楽人(jb1421)

卒業 男 バハムートテイマー
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
寿 誉(jb2184)

高等部3年4組 女 陰陽師
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
撃退士・
木ノ花 柚穂(jb7800)

大学部2年294組 女 鬼道忍軍
もと神ぞっ・
ルル(jb7910)

小等部6年2組 男 陰陽師