●着席の時間
向日葵の髪飾りも可愛らしい九鬼 龍磨(
jb8028)はそのお茶会に喜んだ。
「お茶ー!」
お茶にはお茶請け、これは世の真理なのだ。さてはて、みんなは何を持ってくるのかしらん?
ふんわり香ってくる紅茶の匂いにつられるように、九鬼は軽やかなステップで自らの席を決めた。
「夢の中でも夢を見ているような感じだなぁ、御伽話みたいで」
相馬 カズヤ(
jb0924)はモスグリーンのブレザーにヤマネの耳が可愛らしい。
「ヤマネくん! ‥‥絶対領域!? 萌っ、萌だね!?」
お客を出迎えていた中島 雪哉(jz0080)が相馬の姿を捉えて叫ぶ。白いハイソックスと膝上5センチ紺色半ズボンのその隙間! 膝小僧は正義!!
「ヤマネって名前じゃないし! 萌じゃないし!」
相馬が全否定するものの、中島は聞いちゃいない。本当に夢かもしれない。
中島の友人でもある雫(
ja1894)は相馬と中島のその様子に首を傾げる。
「中島さん? 何時もと様子が違いませんか?」
「雫ちゃん? 何を言って‥‥ボクはいつもこうじゃないか!」
突然、中島はスポットライトの下で悲劇の踊りを踊りだす。やっぱりおかしい。雫の知る中島はこんなではなかった‥‥と思う。
「どうもここは『なんでもあり』という認識の世界でいいみたいですね」
鷹司 律(
jb0791)は冷静に子供達を見ていた。否定するわけでも肯定するわけでもない。受け入れ、寛容であるのみ。
「この世界は常識捨てた方が楽しめそうです」
鷹司は過去に出会った時の中島とのギャップを受け入れた。
「お茶会‥‥お茶会か。こういうのもえらく久々な気がするな」
招かれた覚えはないが‥‥白鷺 瞬(
ja0412)は傍らにいた友人・御笠 結架(
jc0825)に目をやる。
「お茶会、素敵ですね」
栗色のおさげ、膝丈の薄水色の長袖ワンピースにエプロンと白いタイツがとてもよく似合っている。
「‥‥ふふ、今日は少しだけお洒落して来たのです。制服も素敵ですが偶には良いですよね」
白鷺の視線に、御笠はほんのりと頬を染めて微笑む。
「あぁ、いいんじゃないか」
そう言って少しだけ優しげな眼をした白鷺に御笠はにっこりと微笑み、きらきらとした好奇心に満ちた目を白鷺に向ける。
「ありがとうございます。あの、白鷺先輩‥‥猫耳なんてどうですか? 似合うと思って持ってきたんです」
御笠の手から猫耳カチューシャを手渡され、白鷺は多少の動揺を隠しつつそれを装着した。
「よく似合ってます」
御笠が喜んだからこれでいいのだと、白鷺は納得し席まで移動した。御笠はそんな白鷺の袖をそっと掴んでついていった。
「‥‥燕尾服? 何でこんなカッコに!?」
中島を興味本位で追いかけていたら、いつの間にか投網に捕縛され、いつの間にかお茶会に来てしまった鐘田将太郎(
ja0114)。
「似合います。将太郎。和服も似合いますが、洋装もよいです」
にこにことサムズアップするフロル・六華(jz0245)にそう言われ、悪い気はしていない。
「ま、いっか」
心理学的にこういう時は流れに身を任せた方がよいのだと、鐘田はそう思った。
「ハートの女王様と王様のおな〜り〜!」
パンパカパーン! とどこからともなくラッパの音が響く。入ってきたのはハートの女王様と王様‥‥の格好をして腕を組んだラブラブカップル川澄文歌(
jb7507)と水無瀬 快晴(
jb0745)だ。
「今日は雪哉ちゃんや六華ちゃんがもてなしてくれるの?」
「いつも文歌がお世話になってます。どうぞ宜しく、ね」
水無瀬と川澄は眩しいほどの笑顔で丁寧にお辞儀をする。
「文歌先輩! 存分におもてなしさせていただきます!」
「お世話になってます。よろしくです。快晴」
トランプの兵士のようにぺったんこに地面に伏せる中島とちょこんと頭を下げる六華に、水無瀬と川澄はにこやかに席に移動した。
「それでは、茶会を始めよう!」
そう高らかに宣言したのは中島でも六華でもなく‥‥レトラック・ルトゥーチ(
jb0553)だった。
シルクハットに『10/6』の値札のついた自称・片眼鏡の狂い帽子屋。
「茶会と聞いてこの俺が、いない筈がないだろう? この季節ならダージリンが良いだろうか? いや、あれもそれも捨てがたいな‥‥」
たくさんの紅茶を目の前に狂喜を隠せないレトラックは次々と紅茶を淹れていくのであった。
●紅茶談義の時間
「紅茶に合うのは何か? 無論、全てだ」
レトラックは紅茶を配りながらそう言う。
「何故ならこの世界の全ての物は全て紅茶をより楽しむために存在するものであり、それ以外は即ちこの世界にあってはならないものだからだ。万歳紅茶!」
声高にそう言ったレトラックだったが、続けざまにこうも言う。
「滅びろコーヒー!」
これは憎悪だ。何がレトラックをそこまで思わせたのか?
「お茶に欠かせないもの? そりゃ決まってるじゃないか。それはね、友人だよ。レトラック」
紅茶を配っていたレトラックの肩をガシッと掴み、死角をついて逃げられないようにした篠原天(
jb8007)はレトラックに逃げる間を与えずにポケットに潜ませていた不思議な粉をふりかける。
「なにっ!?」
劇的! レトラックの素敵なお召し物が、たちまち我が儘な女王様の格好になってしまったではありませんか!
続いて180cm越えの女王様・レトラックを篠原はぽっかりと空いた穴へと蹴り込んだ。
「面白おかしく、愉快で不愉快な友人がいるに越した事はないだろう? そう思わないか?」
声もないまま落ちていったレトラック。しかしレトラックは這いあがってきた!
‥‥なんということでしょう! 這いあがってきたレトラックは可愛らしい兎の着ぐるみを着ているではありませんか!
「ほらね、彼もお茶会の席では大人しいものだろう? あぁ、少し騒がせてしまったようだ。どうか和やかなお茶会を続けてくれ」
篠原はレトラックを捕まえようとした‥‥が、レトラックは穴の中に引っ込みさらに他の穴へとまるでもぐらたたきのように移動し始めた!
「なんだと!」
レトラックを追いかけていく篠原。友人? そう見えるような見えないような彼らには2人の世界があるようだ。
「‥‥ごほん。お題は紅茶に合うものですか! それでしたらわたくしの出番ですわね!」
場を仕切り直したのは長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)。日に4杯の紅茶は貴族のたしなみである。
「そもそも紅茶というのは‥‥」
手際よく紅茶の用意をしつつもその唇は紅茶に関する知識を次から次へと紡ぎだす。‥‥とりあえず、長谷川の話を聞きながら他の人の意見も聞いてみよう。
「ボクの作ったオイシイお菓子を召し上がれ〜!」
背景に薔薇を背負っている!? クオン・アリセイ(
ja6398)は自作のクッキーを参加者の前に振舞う。
「紅茶に合う、とか考えてないデス。迷惑、かけマス。いらない、なら動物のエサにでも」
「えぇ!? そんなことないよ!」
少々強引にお菓子を振舞うクオンのフォローに回るのはいとこのトウコ・レニングラード(
ja7202)。華やかな振袖に身を包みにこにことクオンの手伝いをしながらも手厳しい突っ込みを入れる。
そんなクオンのクッキーを受け取った六道 鈴音(
ja4192)は、モグモグと一心不乱に考えている。
「『紅茶に合うのは何か?』ねぇ‥‥やっぱりアレじゃない? レモンとか。レモンの風味をちょっと付けるといいわよね。レモンティー好きよ」
そんな六道の紅茶に中島が風のようにレモンを投入していく。
「紅茶を飲むのは久しぶりですね」
「紅茶‥‥? 飲んだ事ない‥‥」
普段は日本茶派の浪風 威鈴(
ja8371)と少々紅茶に興味と知識を持っていた浪風 悠人(
ja3452)。悠人は淹れ方のレクチャーを受けた事もあるが、自分ではとても淹れられないと思い滅多に飲む機会が無かったが、良い機会である。
「紅茶‥‥って美味しいの‥‥?」
「美味しいよ。一緒にスコーンも食べようか。本場ではお茶請けに食べるんだって」
「スコ‥‥ーン?」
悠人は色々なことを知っていてすごいなと思いつつ、威鈴は悠人の淹れたキャンディ茶葉のミルクティーを一口飲む。
「おい‥‥しい‥‥」
幸せそうな顔で微笑んだ威鈴に、悠人も思わず微笑んだ。
六道はマドレーヌをモグモグしながらまだ考える。
「あとはそうだなぁ。和菓子よりは洋菓子が合うイメージよね、やっぱり」
「紅茶に合う物ですか‥‥食べ物なら、香りの少ないケーキ系でしょうかね」
雫は中島にそう言った。中島はうんうんと頷く。
「そんな雫ちゃんのために、先ほど星杜 焔(
ja5378)先輩特製のふわふわシフォンケーキを1切れ譲り受けたんだ!」
ずいっと紅茶と共に星杜特製のシフォンケーキが雫の前に置かれる。
「ありがとうございます。中島さん。‥‥後は、時間を気にせずにすむ心の余裕がれば楽しめる様な気がします」
「‥‥うーん。雫ちゃんは難しいことを言うね。つまり、ここの時間のことだね?」
中島が指差したのは久遠ヶ原学園の時間割の休み時間の部分である。‥‥まぁ、言いたいことはわかるような?
雫は紅茶とシフォンケーキを1口ずつ口にした後、ここに来てすぐに疑問に思ったことを訊いた。
「‥‥ところで、中島さん。そのうさ耳は自前なのでしょうか? よろしければ、もふらせて頂きたいのですか?」
「自前? 本物じゃないから取れるよ! いくらでもモフモフしてよ♪」
中島は笑ってウサ耳をその頭から外して、雫の頭に着けた。なんだ、本物じゃなかったのか。そう思ったのも束の間、中島の頭から新たなウサ耳が生えてきた。どうなってるんだろう? それはともかく雫は邪魔に成らない様に注意して中島のウサ耳をもふらせてもらうのだった。
「えっと紅茶に合うものなぁ‥‥オレは個人的に砂糖かな。角砂糖かりかり食べるのおいしいと思う」
相馬はそう言って紅茶の傍らに置いてあった角砂糖の入ったポットから中島と自分用に角砂糖を取り出した。
「入れるんじゃなくて?」
「入れるんじゃなくて」
怪訝な顔した中島に相馬は角砂糖を食べてみせる。カリッとした歯ごたえの後溶けて消えていく触感が楽しいのだ。
「なるほど。これは確かに紅茶に入れてからでは味わえないね」
「あー、甘くてとろーっとするー」
相馬の顔がほんのりと赤く酔っ払ったようになったのも気が付かずに、中島は納得顔で角砂糖をカリッと食べた。
そんな中島たちの元に、シルクハットにフロックコートの一見王子様姿の人物が現れた。目元だけ隠す仮面で顔が分かり難いが、帽子に飾られたラズベリーがトレードマーク。
「やぁ、雪哉君」
話しかけられた中島はハッとした。
「その声は‥‥ラズベリー・シャーウッド(
ja2022)先輩ですね!?」
「ラズ。いらっしゃいませ」
気が付いた六華がちょこんとお辞儀をすると、ラズベリーも同じようにちょこんとお辞儀をする。
「紅茶に合うお土産を持ってきたんだよ」
小さな可愛らしい箱をラズベリーは紐解く。中には綺麗にデコレートされたチョコレートが鎮座していた。
「紅茶にはクッキーやケーキは勿論だけど、チョコも合うんだよ。アールグレイなど、チョコの甘さとうまく引き立てあってくれるし、百聞は一見に如かず、だ」
手ずから紅茶を淹れ、少女たちに勧める。
「どうぞ、レディたち」
温かな紅茶と口の中でとろけるチョコレートのハーモニー!
「おぉ! これは‥‥!」
「ラズ。これは美味しい発見です」
笑顔溢れる少女たちに、ラズベリーは思う。お茶会に何より似合うのは、可愛いお嬢さん達の笑顔だ‥‥と。
「お紅茶に合うもの‥‥なら、お菓子でしょうか?」
御笠がそう言ってどこからともなく甘さ控えめの苺のタルトと焼き立てパンをそっと差し出す。
「とりあえずチョコチップクッキーは持ってきたけど」
白鷺は持ってきたクッキーをテーブルに置いた。なんとなく、お茶会らしいラインナップだ。
「動物用のも持ってきたんだが‥‥その辺に設置しとけばいいだろうか。来てくれるかはわかんないけど」
動物用のクッキーも取り出して、手近な切り株の上に置いておく。
「ご所望があればバイオリンも弾かせて頂きます♪」
にっこりと笑う楽しそうな御笠に白鷺は「それじゃ、お願いしようかな」と目を細めた。
龍崎海(
ja0565)は賑やかなお茶会に思う。
「紅茶に合うものね‥‥イメージとしてはクラシック音楽とかかなぁ」
丁度その時、張りのあるバイオリンの音が‥‥そうそう、こんな感じだ。
「そして、ふかふかのソファに座って、膝には血統書の猫を乗せているとかもありかも」
龍崎が瞳を閉じたその瞬間、疾風のごとく龍崎の座っていた椅子がソファへと変貌を遂げる。ふっかふかのソファだ。
「猫はどこに!?」
龍崎の希望を叶えるべく、主催者中島は猫を探しに森へと走っていく。
「‥‥と、それらはあくまでイメージなのでケーキを頂こうかな」
龍崎はそう言うと星杜特製のシフォンケーキを頬張るのであった。
「投網でお茶会に誘われるとは‥‥」
ダイナミックなお茶会に戸惑いを覚えつつもレティシア・シャンテヒルト(
jb6767)は可愛らしい猫にすべてを許容した。
紅茶に合うもの。それはお砂糖とスパイスと素敵な何か。素敵な何か‥‥そう、この猫さんとか?
ティーソーサにミルクを分け与えつつ、スコーンやクッキーも分け与えてみる。もしかしたら他にも素敵なものがあるかもしれないけれど、今はこの猫とのお茶の時間を大事に。
中島がその横を猫を探しに行ったなど、気が付かなかった。
九鬼は言い切った。
「紅茶に合う物、それは断然、ケーキ! ケーキ! 甘すぎるのはダメだよ。ほどよく甘く、クリームも生地もずっしりと! 最近流行のパンケーキは邪道だね。空気を食べてるようなものじゃない、あんなの」
そうしてささっと取りだしたるは 贔屓のお店で買ってきたケーキセット。昔ながらの、あっさり爽やかでしっかりしたケーキの詰め合わせだ。
「というわけで、めーしあーがれー♪ そして、いただきまーす!」
たくさんの差し入れを少しずついただいて、紅茶を楽しむのだ。
「マイナス評価物ですが、こちらもよろしければドウゾ」
トウコが配っていたクッキーもありがたくいただき、よりどりみどりの状態である。
六道はいつの間にか取り出した大福を頬張りつつ、さらに考える。
「和菓子もそりゃおいしいけどね! ‥‥あとはティーカップとソーサーは白基調が私は好きかな。香りもだけど、紅茶の色も楽しみたいからね」
「紅茶に合うのは何か? って、それはね‥‥彼とのあま〜い時間だよ☆ はい。あ〜んしてね、カイ♪」
「むぅ、美味しい、ねぇ」
テーブルの上を額にトランプを貼った召喚獣・ピイちゃんたちに中島たちのお手伝いをしてもらいつつ、川澄は水無瀬とクッキーやケーキを食べさせ合いっこしている。同じテーブルの上では水無瀬の飼い猫ティアラが上手にタップを踏んでいる。
「はい、文歌にもどうぞ」
「あーん♪ 美味しい! このケーキも美味しいよ、カイ」
ラブラブである! 繰り返す! ラブラブである!
「あま〜い時間、といえばやっぱりカップルだよね。よし、女王の名においてカップル認定しちゃうよ☆ まずは浪風さんと浪風さんのスコーンカップル!」
「待て待て! 俺たち元々夫婦だから!」
突然の指名にも拘らず悠人から鋭いツッコミが入る。しかし、女王・川澄はめげない。
「雫さんと九鬼さんのケーキカップル! それから雪哉ちゃんとカズヤくんね!」
「ボクとカズヤ君?」
川澄が指名すると中島は驚いたような声を出した。すると相馬が何を思ったか赤い顔して中島にひざまずき、中島の左手をそっととった。
「ヒック‥‥オレ、中島のこと好きだから‥‥ヒック」
どうやら角砂糖で酔ったようだ。視点が上手く定まっていない。だが、相馬はそれを気にせず中島の手の甲にキスをした。
「なんてこと! ボク達両想いだったんだね! ボク、実はカズヤ君をお嫁さんにしたいってずっと思ってたんだ!」
思いもかけぬ両想い宣言! だがしかし、そこで悠人のツッコミが鋭く飛ぶ。
「相馬君が男で中島さんが女だよね!? 逆だよね!?」
「まぁまぁ。細かいことはおいといて‥‥おめでとう!」
水無瀬が川澄お墨付きのカップルとなった相馬と中島に惜しみない拍手と祝福を贈った。
そんな間も六道はモンブランを頬張る。
「あ、紅茶おかわりください!」
「おかわり、どうぞ〜」
九鬼がにこやかにおかわりを入れてくれた。
なんか、午後の優雅なひととき! って感じがするよね、紅茶のお茶会ってさ! あー、やっぱりあったかい紅茶は気持ちが落ち着くわ〜。
心も体もあったかいんだから〜。
せっかくなので紅茶に合うのは何かについて鷹司も考えてみた。
「普通・異説あり・それはない、の3つがありますがどれから行きましょうか?」
普通の回答としては、マカロンやバームクーヘン。つまりは洋菓子類となる。ここまでの意見を安心して聴くことができた。
あとの2つは‥‥どうやらこれから問題となるかもしれない。
「ラスク‥‥が合うと思います」
控えめにちょこんと座っていた只野黒子(
ja0049)はそう呟くと、ラスクを手にとった。理由は昔からそう食べていたから。ただ只野の中で定石の組み合わせだと思っている。
カレーの匂いに衣装は何故だかサリー風。エキゾチックである。
「さぁ! ボクの! 自信作のクッキーも是非紅茶とご一緒に!」
「ありがとうございます」
クオンが配ったクッキーを受け取って、紅茶を飲みつつ、それぞれに花咲く紅茶談義を只野は微笑みで見守る。
こんな賑やかなお茶会も悪くはない。
「‥‥ですから紅茶の歴史と言いますのは‥‥あら! お湯が冷めてしまいましたわ。ごめんなさい、もう一度作り直しましょう」
小一時間ほどの長い紅茶語りを終えた長谷川が気が付くと、既に折角の紅茶は冷めてしまっていた。もう一度入れ直し、蒸らし時間の合間に長谷川はふと思いだす。
「そういえばわたくしの母国のイギリスでは‥‥」
この話もどうやら長くなりそうだ。
●カレー談義の時間
猫耳、横縞衣装、尻尾に笑顔の星杜は幸せそうだった。
「カレーにホイホイされてやってきたよ〜」
お茶会なのにカレー‥‥につられてきたのは星杜だけではない。
カレーは飲み物と断言する最上 憐(
jb1522)。六華にカレーを教えた張本人である。
「‥‥ん。カレーは。万能。何にでも。合うので。紅茶にも合う」
「紅茶に合うものといったら、それはもう勿論カレーだよね。カレーの国でも紅茶は愛されてるのだよ。すなわち紅茶とカレーは黄金コンビなのだよ〜」
星杜はにこにこと紅茶とカレーを肯定する。むしろカレーを愛している。
「お茶請けにカレー‥‥ふむ。確かにインドと紅茶はむしろ仲良しさん。ならばいちゃいちゃもありなの? でもカレーは飲み物とも聞きます。それはお好み焼きをおかずにご飯を食べるようなものなのでは?」
レティシアが鋭い一石を投じる! しかし、カレー好きには何らダメージを負う一言ではなかった、恐るべし!
「カレーの匂いに誘われてフラフラと森の中を歩いていたら、こんな所でお茶会やってる! カレーと紅茶は合うと思うよ!」
黄昏ひりょ(
jb3452)は森の迷子だったところをカレーの匂いに助けられたようだ。
「たくさんカレー、あります。ひりょ、焔、将太郎。食べてください。憐。飲んでください。まだまだあります」
あまりに大量にあるカレーにレティシアは猫さんにカレーを与えられないように断固阻止する戦いを決意をした。負けられない戦いがここにある。
六華が次から次へと大盛りカレーを盛り付けるがなかなか減っていかない。とはいえ、カレーだけでは‥‥。
「こんな事もあろうかとっ!」
黄昏はポケットからタッパーを取り出した! なんとそこには湯気あがる白米が!
「お前、用意がいいな! やっぱ日本人なら米だよな!」
鐘田が感心したように頷く。黄昏は白米の提供を申し出る。これで大盛りカレーも怖くない!
「ナンにカレーも合います」
ひっそりとナンを持ち込んだ只野は、ナンをカレーにつけて美味しくいただいた。
「ライスがあろうとなかろうと、カレーは美味しいよね! あぁ、し・あ・わ・せっ」
ぺろりと大盛りカレーを平らげる黄昏。幸せで頬が落ちそうだ。
「というわけで紅茶を隠し味に使った欧風カレーを差し入れにもってきたよ〜」
星杜は魔法のように鍋を取り出して自作のカレーをかき混ぜる。おおぶりのマッシュルームを中心にヒラタケやエリンギや舞茸茸たっぷりの美味しいカレーだ。
「辛口だけど紅茶でまろやかな味わいになっているのだよ〜」
ニコニコとカレーを振舞う星杜はまさにカレーの王子様。そんな星杜のカレーを六華と最上もいただくことにする。
「‥‥ん。六華。どの。カレーが。一番。合うか。飲み比べて。行こう」
六華の用意していたカレーと星杜のカレー。ごくりと飲み干す。
「‥‥ん。あっさり。より。濃厚な。方が。合うかな。でも。飲み易さ。なら。あっさりかな」
「憐。焔のカレーも、俺のカレーも紅茶に合っている気がします」
最上は六華の言葉に何やら考える。そして結論を出す。
「‥‥ん。結論。やっぱり。どのカレーでも。合うので。甲乙付け難い」
小柄な少女2人の少々異常な会話であるが、少女たちにとってこれは通常運転です。
「‥‥ん。今度は。カレーに。一番。合うのは。どの。紅茶か。探そう」
最上と六華のカレー紅茶道に終わりは無いようだ。
「カレー派とは、すっげぇ気が合いそうな気がするぜ!」
大盛りカレーを鐘田はご飯一粒残さずに食した。そんな様子を見ていた悠人は呟く。
「カレーとハヤシって‥‥おかずなのか? 飲み物なのか?」
「オカズ‥‥にするの? ‥‥ハヤシ‥‥ご飯‥‥よね‥‥。ハヤシ‥‥はおいしい‥‥ねぇ‥‥」
悠人の呟きに威鈴は首を傾げたり、1人納得したりする。
「ハヤシライスも美味しいねえ〜」
カレーのみならず料理全般を得意とする星杜はにこにこと同意する。
「美味しいものは何でも好きだからね〜。色々紅茶と一緒にいただくのだよ〜」
「おっ、じゃあ俺も行くぜ。普通の菓子もお茶請け似合うからな」
「俺も行くよ。そうそう、ミルクティーには『クッキーよりもビスケットが合う』と大親友が言っていたよ。俺も実際にやってみたけど、確かに甘味が増す気がするんだよね‥‥」
星杜と鐘田と黄昏は何やら談笑しながらテーブルに並べられた色とりどりのお菓子をとりに向かった。
「カレーは‥‥どうしよっかな? 食べるとお腹ふくれちゃうしなー」
美味しそうなカレーの匂いにつられた九鬼は少し考えた末に良いアイデアを思い付いた。
「んー、小皿で?」
‥‥と思ったがなぜか大きな皿しか用意されておらず、フランス料理のように大きなお皿に小さく盛り付けることにしたのだった。
ラズベリーは中島に言った。
「カレーは飲み物ともいうし、ストレートの紅茶なら問題なかろう。そういえばカレーにコクやまろやかさを出すのに、ミルクやチョコを入れる事もあるようだけど‥‥雪哉君、カレーに入れて挑戦してみるかい?」
悪戯っぽく笑ったラズベリーに、中島は頷く。
「よし、やりましょう! カズヤ君、初めての共同作業だよ!」
しかし、相馬は酔っ払っている! アルコールは飲んでません!
「カレーにも角砂糖合うよな〜‥‥ヒック‥‥まあかりかりしなさんなって。かりかりするなら角砂糖にしとけ、うん。絶対美味しいからさ、なっ
‥‥ヒック!」
「カレー‥‥の人は多いね。カップル‥‥というより、これってもしかして、カレー家族!?」
川澄がそう水無瀬に訊くと「それもまた、絆の形だよね」と答えた。
「それじゃ、カレー家族に認定します!」
鷹司の紅茶に合わないもの考。『それはない』の回答としては『甘納豆、ビーフシチュー』。
カレーとハヤシはビーフシチューに入りますか!?
だが鷹司は思うのだ。『みんなが楽しければそれでいい』これはそういうお茶会なのだと。カオスなお茶会ではあるが、それはそれとして楽しむべきなのだと。
●強制終了の時間
「トウコ、どうしてボクの作った最高においしいクッキーを食べてくれないんだい!?」
「決まってマス。ボク、和菓子派だから洋菓子は食べないデス」
クオンにトウコのまさかのカミングアウト! トウコは用意してきた野点セットを取り出して抹茶の用意を始める。
今までずっと何かしら食べていて、今もチョコレートをもぐもぐしていた六道の動きが止まった。
「うっ‥‥。ちょっと食べ過ぎちゃったかな‥‥」
切り株の上に置いたクッキーにリスが集まってきた。カリカリと音を立てて食べるその姿を白鷺と御笠は微笑ましく見守る。
「‥‥お話は以上ですわ。さて、紅茶に合うものとしてこちらはいかがかしら? まずはスコーンにクロテッドクリームをたっぷり乗せて。さらにキュウリのサンドウィッチですわね。皆さん召し上がれ」
長い長いお話を終えた長谷川は満足げに紅茶とようやく紅茶に合うものを皆に勧めた。
悠人と威鈴は本場仕込みの長谷川のもてなしにおぉっと歓声を上げた。
「悠人‥‥のいってたこと‥‥ホントだ‥‥った」
「だろ? 長谷川さん、いただきますね」
「どうぞお召し上がりになって」
遠くでやっと捕まったらしいレトラックと篠原がじゃれ合っている。
「次は芋虫にでも変えてやろうか? それともウミガメにしてスープにでもしてやろうか?」
和やかなお茶会。しかし、その終わりの時は突然にやってきた。
「いけない! みんな! 帰る時間だよ!!」
中島が慌てだした。あっちこっちの地面を掘り起こし、出てきたのは投網だ。
「素敵な時間をありがとうございました」
レティシアが優雅にそう一礼をした。主催者、すべてに感謝を。
「最近紅茶も興味が沸いてきて、ちょうど色々美味しいものや美味しい飲み方とかを探っている所なんだ。なんというタイムリーな感じなんだろう! あぁ、夢のような時間だ。夢‥‥じゃない‥‥よね?」
唐突に終わろうとしているお茶会に、龍崎は思う。
この奇妙なお茶会も‥‥紅茶に合ったものなんだろうと。
「そぉれ!」
中島の気合一発の掛け声とともに、来た時と同じように投網が参加者たちを捉える。
「ま、待ってくだサイ! あぁ、せめて和菓子と抹茶をお出ししたかったデス‥‥!」
トウコの野点への未練がお茶会の風景をかすめていく。
お茶会も終了だから鷹司の異説ありの回答を記しておく。
『コーヒー、ノンシュガーの炭酸水』
奇しくも、レトラックと同様の回答が得られたわけだが、もしこれを口にしていたとすると‥‥川澄によってカップル認定されていたはずだ。
この異説ありをこのタイミングで記すことは全て抗えぬ時の流れのせいなのだ。多分‥‥。
「雫ちゃん?」
木漏れ日の下で、雫は目を覚ました。いつもの学園のグラウンド。いつもの中島の顔がそこにある。
「春って眠くなるよね。でも、外で寝ちゃうと風邪引いちゃうよ」
中島の顔の上の方、思わずそこに目をやる雫。‥‥残念ながら、そこにウサ耳はない。
「やはり夢でしたか‥‥」
「ボクの頭がどうかした?」
「いえ、なんでもありませんよ‥‥本当ですから」
誤魔化すように笑った雫に、中島は少し訊きにくそうに口を開く。
「あのさ‥‥雫ちゃん、なんでウサ耳なんてつけてるの?」
「え?」
言われて頭に手をやると‥‥確かにあの時中島に頭に付けてもらったウサ耳。
「夢‥‥だったんですかね?」
「‥‥さぁ?」
中島がふふっと笑うと、雫もふふっと笑う。
そんな2人の後ろをカレーを飲みに行こうと学食に向かう六華と最上が通り抜けるのであった。
「‥‥ん。学食の。カレーでも。紅茶が合うか。試して。おこう」
「俺も、そう思います」