.


マスター:三咲 都李
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/31


みんなの思い出



オープニング

●復活/覚醒
 かつて、アウル覚醒者からなる『恒久の聖女』という結社があった。
 アウル覚醒者は優等種で、非覚醒者は劣等種であるという過激な思想を掲げる彼等は【双蝕】と呼ばれる様々な事件を起こしたが、久遠ヶ原学園がこれを摘発し、事態は沈静化する。

 けれど、摘み取ったそれから零れた、種一つ。
 それはいつしか根を張り葉を広げ。
「我等の意思を摘み取られる事だけは避けなければならぬと聖女様は仰った。ならば、我等は"種"となり御崇高なる魂を引き継ぐのみ」
 ――今、開花の時を迎えていた。

 ざざ、ざざざ。

 ある日の出来事であった。
 茶の間で。街角で。テレビ画面にノイズが走る。
 巻き起こる砂嵐はやがて一人の少女を映し出した。彼女――京臣ゐのり、かつて『恒久の聖女』幹部であったその人物は、まるで夜影の様な笑みを浮かべると。

「我々は『恒久の聖女』。聖女ツェツィーリア様の御遺志を継ぎ、楽園へと導く者。全てのアウル覚醒者に告ぐ。我々は選ばれた存在であり、この世界の正当なる統治者である。自然淘汰の原則に基づき我々は今、解放されるのだ。力持たぬ者への服従の時代は終わりを告げた。劣等種は我等に何をした? 心の中では異形と罵り、化物と厭いながらも、利用する為に擦り寄って来る。従わなければ、思い通りにならなければそのマジョリティで魔女狩りを行うのが劣等種ではないか。目を醒ませ、我々は劣等種の道具ではない。我等の力は我等の為にこそあり、この事こそ人という種を守ることが出来る唯一無二の術なのだ。全てのアウル覚醒者よ、我等優等種の未来の為、世界の為、『恒久の聖女』と共に歩もう。全てのアウル覚醒者に告ぐ――」

 それはかつての『恒久の聖女』と同じ思想の、プロパガンダであった。


●希望からの絶望?
 『頑張る若者応援バラエティ! 10代ドリーマー』
 100人の10代の子供達を集め、自分の夢を語り合ってもらうという趣旨の番組企画。
 この番組への応募をした中島 雪哉(jz0080)は、見事にその番組への出演権を得た。
「ボク、ついにテレビデビューだ! やったね!」
 実際は雛段に座っての出演なので、デビューなどという大層なものではない。
 胸に期待を膨らませ、やってきたのはとある地方のケーブルテレビ局。20人ずつくらいに分かれて、小さな楽屋をあてがわれた。制服に着替えたりリハーサルやら打ち合わせやらをする。それらをすべてこなし、本番まで時間を楽屋で潰している時、何やら建物内が騒がしくなり始めた。
「どうかしたのかな?」
 最初はバタバタと走り回るような気配、それから怒号。そして静まり返る。
 おかしい。ただ事ではない。
 中島が不審に思い扉を開けようとした時、数人の青年が楽屋へとなだれ込んできた。
「大人しくしろ! このテレビ局は、我々が占拠した! 抵抗する者は容赦しない!」
 数名の青年たちは威圧的にそう宣言する。
 『我々』って誰? ていうか、これって事件??
 混乱する楽屋の中、10代の子供たちは泣き出す者やパニックに陥り大声を出す者が現れる。
「ちっ‥‥うるせぇな! 黙ってろ!!」
 見るからに悪魔と見て取れる男が泣き叫ぶ子供に拳を振り上げようとした。
「!!」
 その場の子供達が息を飲んだその時、隣にいた青年が振り上げられた拳を止めた。
「何の真似だ!?」
「怪我をする者が出れば、それを見てさらに混乱が広がる。混乱が広がれば統制も取れなくなる。それくらい考えろ!」
 拳を止めた青年は廊下の向こう側に声を掛け、さらに数人の青年を呼んだ。
「楽屋は僕たちが見張る。おまえは任務を遂行するんだ」
「‥‥ふん!」
 振り上げた拳を壁に叩きつけ、憮然としながらも悪魔の男は廊下の奥へと消えていった。


●絶望からの希望?
「‥‥すまない。仲間が怖い思いをさせた。怪我はないね?」
 悪魔の男の拳を止めた青年は、楽屋の子供たちにそう頭を下げた。
「大人しくしていてくれれば、君たちに危害は加えない。頼むから大人しくしていてくれ」
「鈴木さん、それじゃ俺たちは他の部屋に分かれます」
「わかった」
 仲間に鈴木と呼ばれたのは、悪魔の男を止めた青年だ。
「あの‥‥これ、一体なんなんですか?」
 恐る恐る、中島が訊ねると鈴木は答えてくれた。
「これは聖女様の声を広めるための任務。アウル覚醒者を非覚醒者たちの元より解き放ち、僕たちの元に集うように呼びかける」
 聖女? アウル覚醒者を非覚醒者から‥‥?? ‥‥あ!?
 中島の脳裏に『恒久の聖女』という言葉が思い浮かぶ。
 な、なんでそんな‥‥? いや、それよりも‥‥。
「ボク達はどうなるんですか?」
 中島の疑問に、鈴木は少し顔を曇らせる。
「非覚醒者である君たちに本来温情を掛けるなどは許されない。‥‥けれど、僕は君たちのような子供を‥‥手に掛けるなんて‥‥。君たちに危害は加えない。ただ、僕の仲間はそうは思わないだろう。仲間を刺激しないためにも、お願いだ。事が終わるまで大人しくしていてほしい。君たちを必ず無傷で解放するから」
 その約束が本当なのかはわからない。けれど、鈴木はそう言い切った。
 中島はこっそりと携帯を握る。
 できることなら、ボクは‥‥。


●作戦のお時間
「テレビ局が『恒久の聖女』の残党により占拠されたようです。不穏な放送を流しています。占拠している人数は不明。また中にいた人間の数も不明。建物自体への侵入は容易いが、作戦は現場で臨機応変にしていただくしかないという状況です」
 状況を説明していた生徒は、そこで携帯を取り出した。
「そして、このメールはそのテレビ局内にいる久遠ヶ原の生徒からの要請です」
 そこには、中島雪哉からのメッセージが表示されていた。

『ボク達を見張っている鈴木という人を説得しようと思います。
 この人を説得すれば、テレビ局内にいる恒久の聖女の仲間の人数やテレビ局内に残された人たちがどこにいるのかもわかると思うんです。
 この人、ボク達を傷つけないようにするって言ってるんです。
 ボク、この人は悪い人じゃないと思うんです。
 だから‥‥少しだけ、ボクに時間をください! この人を説得する知恵をボクに貸してください!』

 メールを見せながら、生徒は静かに言う。
「こちらとしては一刻も早くテレビ局の解放・敵の撃退を望みますが‥‥皆さんにこの件は委ねますので早い決断をお願いします」


リプレイ本文

●テレビ局突入準備
「テロリストによる占拠だなんて、この国も物騒になったわね」
 鷹代 由稀(jb1456)は説明を聞いた後、すぐに見取り図と監視カメラの配置図などが入手可能かを尋ねる。その言葉に動き出した生徒達の横で、長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)は憤りを見せる。
「撃退士の力は力なき人々を守るためにあるのですわ。それを力に溺れるなんて‥‥絶対に許せませんわ!」
 すぐに取り寄せられたテレビ局の見取り図を机の上に広げて、神喰 朔桜(ja2099)は鷹代に意見を求める。
「由稀さん、どう動きますか?」
「‥‥警備員室の確保が第一段階よ。監視カメラがあれば状況確認がしやすくなるわ」
 見取り図を頭に叩き込みながら鷹代はそう言う。幸い、警備員室は1階正面玄関近くに配置されており侵入によってすぐに占拠できるであろうと見込まれた。が、鷹代は言葉を続ける。
「ああ‥‥独断専行は厳禁ね。連中、躊躇い無く人質殺すだろうから」
 とすれば中にいるテロリストたちを一斉に叩くことが必要だ。より迅速な判断と行動が必要だろう。
「主調整室とスタジオへは同時襲撃をすることを提案するよ」
「最優先は人質の安全確保で、その後は速やかにテロリストを殲滅する‥‥ですね?」
 袋井 雅人(jb1469)が見取り図を見ながら確認をとる。
 長谷川は見取り図を持ってきた生徒にテレビ局で流れる放送を止める方法を訊いた。どうやら2階にある主調整室という部屋がその操作をする場所のようだ。
「俺は‥‥主調整室に向かうよ。早々に放送中断させる為にね。出来るだけ人間とは戦わないように、隠密裏に‥‥けど向かって来る者は全員敵だ」
 冷めたような目で鈴木悠司(ja0226)はその言葉の続きを濁す。けれど、濁した言葉は理解されたようだ。
「ま、相応の覚悟はしてるでしょうし‥‥躊躇う必要は無いわね」
 悠司の言葉に鷹代は頷く。そして間下 慈(jb2391)もそれに同意した。
「手加減する余裕も理由もないですねー」
 しかし長谷川は1人、真っ直ぐな瞳で言う。
「敵は決して殺しません。生きて罪を償わせます」
「‥‥それが何になるのか解らないけどね」
 長谷川から目を逸らして悠司は、移動の準備を始める。
「それじゃ気合を入れてテレビ局の中の様子を偵察して来ますか」
 袋井がそう言ってから、ハッと気が付いた。
「‥‥例のメールの件、どうしますか?」
 一瞬お互い顔を見合うが‥‥対応は淡々としたものだった。
「説得かぁ‥‥まぁ、私には無理だし期待させて貰おっか」
 神喰がそう答え、長谷川が「成功するとよいのですけど」と答える。
「メールを打っておきましょう」
 間下がそう言って説得をしたいと要請してきた中島 雪哉(jz0080)へメールを打った。
「さ、時間がないですよ。僕達も動きましょう」


●テレビ局・楽屋にて
 中島と同じ楽屋に、撃退士が2人ほど一緒にいた。
 男で再デビューだ! と意気込んできたもののこのような事態に巻き込まれてしまった姫路 ほむら(ja5415)。肩を落としたのも束の間、男らしく一般人の命の優先を心に誓う。
 もう1人、中島の友人で興味を持って付いてきた相馬 カズヤ(jb0924)。応援するつもりだったのだが‥‥中島の巻き込まれ体質に改めて呆れつつも(こいつのフォローはやっぱりしないとなぁ)としみじみ思っている。   
「また事件か‥‥しかもあの『聖女』がらみ。絶対に何とかしないと」
「‥‥返信が来たよ!」
 返事を待っていた中島は姫路と相馬と頭をくっつけるように携帯のメールを覗き込んだ。

『説得に関しては任せます。時間はこちらの偵察が終わるまで。鈴木さんがどちらにつくにせよ、彼らの何名かはそのまま楽屋の安全を守っていただきたい。情報が出れば順次送って下さい。間下』

「‥‥」
 中島は二の句が次げない。差し出した手に必ずしも助けの手が入るとは限らないのだ。
「俺は中島の直感、信じる。あの人と話してみよう。何か手がかりがあるかもしれない」
 姫路がそう言った。中島は頷いた。相馬は怪しまれぬようにこそっとスマホを操作すると録音と通話を開始した。
「鈴木さん。何故そこまでしてくれるのです? 本来なら温情かける事は赦されない‥‥なら聖女様の声に背いてまで?」
 姫路がそう訊くと、鈴木は少し強張った顔を姫路に向ける。
「‥‥僕には守れなかった命がある。小さな子だった」
 思い出したくないのか、鈴木は苦しげに顔を伏せて頭を振った。
「君たちは守るから。僕が必ず守るから」
 『子供を守る』ことに固執していることが伺えた。
「例え他の怖い人に殺されても、守ろうとしてくれた事忘れません。本当にありがとうございます」
 姫路は礼を述べた。鈴木は虚を突かれたような顔をした。けれど、姫路はさらに言葉を続けた。
「‥‥でも無実の誰かの命奪えばそれまでです。皆同じ命。子供以外守らないというなら、いっそここで俺を殺せ」
「ほ、ほむら先輩!?」
 姫路の思わぬ発言に、中島が慌てた。人質になっている子供達にも緊張が走る。
「お、落ち着いて! 大丈夫だから‥‥」
 相馬は恐怖におののく子供達のフォローにまわる。みんな、姫路の言葉に酷く動揺していた。
「聖女の本来の教えはそうなのでしょう? いつかやる時が来るのでしょう?」
「それは‥‥」
「ほむら先輩!」
 必死で姫路を止めようとする中島。その時、姫路の目から一筋の涙がこぼれる。鈴木は多くを語らなかったが、きっととても傷ついたのだ。その傷の痛みに、姫路は泣いた。
「いつか殺す? それは‥‥できない。僕には。だけど‥‥劣等種を守る必要はないと‥‥違う‥‥でも」
 鈴木は混乱しているようだった。
「貴方は守りたいのですか? それとも‥‥」
 相馬は姫路の言葉に顔を歪ませる鈴木を、凄く辛そうだと思った。
 どうして聖女に縋ろうとしたんだろう? でも聖女のやり方は‥‥とても無茶苦茶じゃないか? ここにいる子どもたちだって怖がってるじゃん‥‥。
 鈴木が顔をあげた。苦悩の光が見てとれた。
「僕は‥‥」


●局内にて
 テレビ局近辺への転移、そこからの行動は迅速に行われた。
 まず潜入偵察。袋井の俊敏な移動力とスキルの力で、まず警備員室の状況をいち早く正確につかむことに成功した。廊下を巡回する敵は定期的に回ってくるが警備員室には常駐してる者がいない。巡回する敵に見つからなければここを押さえるのは容易だ。偵察結果は逐一スマホを使ってメールで一斉に送信する。
 長谷川も局内に偵察に入っていた。
 恐らく人質を取られていると思いますし、あまり派手には行けませんわね。
 1階を慎重に歩き進める長谷川は、廊下の奥に見張りらしき人間が立っているのを見つけた。2人だろうか。見張りの足元には無残に壊された携帯らしき機械の部品が散らばっている。あの部屋に人質がいる可能性は高いと思われた。
 同じく偵察に入っていた間下は、巡回する敵の数を数えていた。幸いにして局内は大道具や祝いの花などが廊下に立てかけたりしてあり、物陰には事欠かない。息をひそめ、定点で巡回する敵の数を数える。1‥‥3‥‥5人。一定の間隔を保ちながら、主に外に警戒しているようだ。
 悠司はその間も主調整室を目指していた。物陰に隠れ敵との接触を避けながら。
 袋井の警備員室の情報と間下の敵の巡回人数を把握した神喰と鷹代は警備員室への潜入を試みた。途中、巡回してきた敵と接触しそうになったが、鷹代が咄嗟に敵の背後に回りその首を捻った。これが発見されれば事は露見する。近くの扉に押し込もうとしたが生憎一番近くの扉が警備員室であった。
 警備員室に入った鷹代は監視カメラの存在を確認した。どうやら局内のいたるところに配置されているようだ。
 モニターを操作し各所の状況を確認していくと、スタジオや廊下の風景が映し出される。スタジオには一塊に肩を寄せ合う人々の姿。そして、主調整室と思われる部屋の内部も映された。主調整室の機械の前に座りそれらを操る人が5名とその後ろに悪魔と思われる男、人が2名、さらにディアボロが1体映し出された。ほぼ、把握しただろうか。偵察から攻撃へと行動を移すタイミングだ。
 その時、メールが入った。姫路からだ。

『説得に成功しました。楽屋は鈴木さんたちが守ってくれると約束してくれました。それから、敵は局内の巡回に5名、スタジオに5名、主調整室室内に5名。ディアボロが2体いるそうですから、気を付けてください』

 ディアボロが2体? カメラには写っていなかったから死角にいると見るべきだろう。
 現状で手に入る情報は出揃っただろう。その情報を送信し、各々が攻撃へと態勢を変える。
『攻撃開始す』
 戦いの火ぶたは切って落とされた。


●局内戦闘
 相馬、姫路と中島は楽屋を飛び出した。
 相馬の召喚したロゼの視覚で局内の戦闘を確認できたからだ。
「スタジオに! 最優先は一般人の命だ!」
「わかった!」
 ロゼが戦闘を始めた仲間の1人、袋井と合流をした。それを相馬は中島に耳打ちした。
「よかった!」
 これで全てが上手くいく。そう信じている笑顔。
 相馬たちは袋井とまず合流した。来る途中に2名の巡回していた敵を無力化してきたと袋井は言った。
「主調整室に向かっている鈴木さんや神喰さん、鷹代さんや長谷川さんたちと同時に仕掛けないと意味がなくなっちゃうから急ぎましょう」
 スタジオに向かう4人は廊下に立つ見張り2人を目視する。姫路が視覚から気配を出して誘い出そうとしたが、その見張りはガクリと膝をつき崩れ落ちた。
「!?」
 よく見れば既にそこには間下が立っており、先に見張りを倒したようだった。間下は手早く着用していたコートを脱ぐと、所持していた汚れていないホーリーコートへと替えた。
「行きましょうー!」
 スタジオの中に入るには、扉を開くしか手はない。スタジオの扉を中島が開くと同時に相馬がストレイシオンを召喚し、スタジオ内の闇を使い袋井が中にいた敵との距離をいっき縮めて背後を取って無力化させる。
「しばらく大人しくしていて貰いますよ」
 スタジオ内にいた一般人は何が起こったのか把握する前に間下の誘導の声を聞く。
「どうも! 久遠ヶ原の撃退士ですー。頭を低くして歩いて逃げてくださいー! 振り返る暇はないですよー。慌てずとも大丈夫。時間はいくらでも稼げますからねー」
 間延びした間下の声が一般人の耳にしっかりと届き、それほどのパニックを招かずに避難していく。
 間下は自身にアウルの弾丸を撃ち込んでいた。最大限の力を持って一般人の避難を助けた。敵を入り口に近づけさせないこと、敵を外に出さないこと。
 姫路は敵が2階に逃げることを懸念したが、スタジオ内にいたのは敵は3名。既に無力化に成功していた。

 同時刻、神喰と鷹代は1階から2階の主調整室へと向かっていた。
 神喰の放つ雷槍と鷹代が放つ弾丸が巡回していた敵を射抜いていた。神喰は余裕の微笑みを湛えたまま突き進み、鷹代は咥え煙草のまま疾走する。
 長谷川も主調整室へと向かっていた。
「さあ、ゴングが鳴りましたわよ!」
 蝶のように華麗に走り、主調整室へと駆け込む。途中1人倒れていた人間がいたが、それは無視した。先にそこを通った悠司が掌底で転がしておいたものだ。2階に上がる階段で神喰と鷹代と合流し、ほぼ同時に主調整室へとなだれ込む。
 そこには悠司の背中と怯える様に機械の下に潜り込む数人の人影。そして、すでに攻撃を受けたらしい悪魔とディアボロ1体、そして敵の姿。
「既に手負いとはいえ、容赦はしませんわ。あなた方のような相手、一発でKOしてみせますわ!」
 長谷川が手近な敵に容赦ない拳を叩きこむ。壁に叩きつけられ、意識を失う。だが、息はあるようだ。
 まぁ、アレだ。テロリストには厳粛な対応をって全世界共通だし、私のする事は決まってるかな。襲いかかるディアボロに神喰はそう考えたが、ふっと微笑む。あぁいや、これは言い訳か‥‥。
「――私は総てを愛している。相対するなら是非もなし。皆、私の焔で愛してあげるよ」
 一直線に走る毒を孕んだ魔炎がディアボロの後ろにいた覚醒者も巻き込み燃え上がる。痛みに悶え苦しむ人間とそれでも向かってくるディアボロに、神喰は手にした銃をディアボロに向け撃った。
 フラフラと悪魔は悠司へと襲いかかる。悠司の最初の攻撃をまともに食らったため、多少のダメージは入っているがまだまだ戦えるようだ。
「劣等種に使役される愚か者どもめ‥‥!!」
 そんなセリフと共に、悪魔は悠司に攻撃をしようとした。悠司はその隙をついた。間合いに入りこみ具現化したウルフズベインで悪魔を袈裟切りにした。何も感じないような無表情のまま。悪魔は倒れたが、かろうじて息をしていた。
「おかしいな」
 鷹代は情報との差異を怪訝に思った。ディアボロは2体いると姫路は言っていた。ここにはいないのか? いや‥‥。部屋の隅の影が動いた! 鷹代はそれを見逃さなかった。一歩踏み込むと襲いかかってこようとしたディアボロの頭めがけてアウルを纏わせた弾丸を撃ち放ち、ザクロのようにそれは飛び散った。


●放送終了
 生き残った残党は鈴木を含め学園がすべての身元を引き受ける手はずになっていた。彼らは尋問に掛けられ、その後に洗脳を解くプログラムを受けることになるだろう。
「に、しても、鈴木って名前が一緒なのは皮肉だね」
 大人しく座っている鈴木に同じ苗字を持つ悠司は話しかける。
「‥‥守れなかった‥‥守れるはずの命を救えなかった。それは‥‥俺も同じ」
「君も?」
 鈴木がそう訊くと悠司は無表情なまま言葉を吐き出す。
「だけれども、アウル覚醒者が優等種とか思えないね。‥‥所詮誰もが劣等種だよ」
「みんながそう思ってくれたのなら‥‥良かったんだけどね」
 暗い影が落ちる。誰もが陥るかもしれない深い闇との境界線の上でぐらぐらと揺れる。鈴木は境界線を越えた者だった。
「‥‥そんな無様も愛しいね」
 神喰は人間の弱さを知る。壊してしまいたいほどに愛おしい。
「ボクは‥‥いいことをしたのかな?」
 中島の呟きに相馬は微笑んで頷いた。けれど、その心のうちは苛立ちがあった。
 人間が人間を相手にしてる場合じゃないだろうに。‥‥でも、悪魔がバックにいるんだっけ。一番許せないのはそいつかな。
 いたるところで同じようなことがことが起こっていた。これでまたどれほどの悲しみの種が蒔かれたのだろう?

『更生中の元信者や聖女の声に心奪われそうな者に告げる。悲しみにつけこみ玩具にする悪魔、外奪の行為を忘れるな』

 恒久の聖女のメッセージは途切れ、代わりに姫路のメッセージが放送の終了を告げた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
主演俳優・
姫路 ほむら(ja5415)

高等部2年1組 男 アストラルヴァンガード
未来につなぐ左手・
相馬 カズヤ(jb0924)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
Rapid Annihilation・
鷹代 由稀(jb1456)

大学部8年105組 女 インフィルトレイター
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅