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マスター:丸山 徹
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/08/03


みんなの思い出



オープニング

●竜のごとく嗤うもの

 ドラギニャッツォ(竜のごとく嗤うもの)は焦っていた。
 そして弱っていた。
(ちくしょう、俺の片腕が)
 悪魔が人間世界に、そう簡単には来られないこと、それにはいくつか理由がある。最大の敵である天使のことが第一だが、それに次いで、ゲートでの移動に意外と手間どる、という場合もある。
 気脈の上に、完璧に根付いているゲートなら安定した使い勝手だ。ディアボロなどを送り込み、魔界の気質を生み出すことができる。
 だがそのためには時間がかかる。設置してすぐ使えるものではないし、設置してしまえば動かすことは出来ず、早晩敵対勢力の目に留まる。だから隠すにせよ拠点にして戦うにせよ、そのための準備が必要だ。
 移動のみにつかう簡易的な術もある。だが、時としてこれは、使用者の力が影響する。大きな力の持ち主では、小さな転移術を使えないこともある。それにそう何度も使っていると、力や魂を消費してしまう。
 だから『竜嗤』は、人形(特殊ディアボロ)の中に片腕を隠し、人間界に送り込んだ。その人形自体にも色々仕掛けをしておいたので、適当に遊んでから本性を表す予定だった。その人形、マリス=ミゼルの素体の力を使って、片腕分の力を実体化させる。文字通り悪魔の片腕、並のヴァニタスを凌駕する分身を作り出す。
 しかし、引き剥がされてしまった。実体化前にダメージも受け過ぎた。
 もう、片腕分の力が、あるのかどうか。
 しかしそれでも魔力の大きさはディアボロとは桁違いだ、適当な転送術では移動できない。かなりの魂が必要になる。
 かと言って見捨てる訳にはいかない。これを失ったらますます力を失い、魔界での居場所を喪う。
(近いゲートから魔界に戻すか)
 幸いこの辺りなら、まだ誰かのゲートが……

 次はお前の番ですよ、と、女が言った。

 『竜嗤』は頭に血が上った。
(ゴミクズが)
 決めた、皆殺しだ。
 その後で『三代目死人形』マリス=プレザンスの研究や集めた魂を全て奪ってやれば、かなりの力を回復できるはず。よし、それでいい。
 皆殺しだ。
 俺さまを舐めた奴は生かしておけねえ。



●ある竜の日に

 奴はあなたを知っている。
 マリスは言ったが、角河トホルは少しも考えようとしなかった。
 今まで何と戦ってきたかなんて忘れている。向こうは恨んでいるらしいけれど、どうせ逆恨みだ。一方的な殺戮の経験などない。殺しに来たから殺しただけ。
 ああでも、そういえば。
「トホルくん、戦ったことがあるの?」
 白い髪のマスターが、いつも店で話すような調子で訊ねた。
「ああ」
 トホルは頷いた。
「どんなだった?」
「僕以外みんな死んだ」
 そこは思い出した。
「……」
 冷たい空気が流れた。
 敵が、迫ってきている。
 逃げようか? トホルは言おうとした。
 だって、怖い。
(いまさら?)
 何が怖い。
 死ぬことか。
 それは、嫌なことであって、怖くはない。
 じゃあ何だ、何が怖い、いまさら。
(いい加減、バカのフリはよそう)
 自分の気持にはとっくに気づいていた。
 ここにいる、誰か一人でも死なれるのが、怖いのだ。
 言ってみようかな。
 そういうの、死ぬほど恥ずかしいけれど。
 言ったら、みんな、何て言うかな。
 たぶん、まずは関西弁が返ってくるな。
 あいつは笑うだけかな。
 全部ひらがなみたいなローテンションで返す奴がいるな。
 あのこは、応えてくれるかな……
(……いつの間にこんな)
 何とも楽しくて。
「何がおかしいの?」
 マリスに言われて、トホルは笑っていることに気づいた。
「たぶん、まあ、あんたと考えてることは同じだよ」
 トホルは頭を掻いて、記憶の糸を辿り、敵の情報を伝えてゆく。

 巨体に潰された人がいた。
 その人の顔は思い出せない、でも、それが彼の顔と重なった。

 二首の牙に引き千切られた人がいた。
 その人の顔は思い出せない、でも、それがあの子の顔と重なった。

 炎に焼きつくされた人がいた。
 その人の顔は思い出せない、でも、それがあいつの顔と重なった。

 五本の首、硬い鱗、再生能力……
 みんなが……
 ああ、みんなが……

「胴体の動きは遅いよ、首はけっこう早いけど。あー、こんなもんか」
 説明を終えた。
 震える拳は隠し通した。
「ママは、わたしが」
 マリスが言った。
「頼む、『ナディムジャバード』がもう来ると思うから、あいつと、車に運べ」
 それで距離を取る。
 追いつかれるのはこちらが全滅した後だから、その時はどのみち終わり。
(最後に何か、言うべきか?)
 死ぬときは一緒だぜ。
 ……いやあ、ダメだな。
 ツッコミとか冷やかしとか、くるな。
 あと……
 本気で怒る子も、いるな。
 あのこは怒るだろうな。
 そんなふうに思っていると。
「なあ」「ねえ」「おい」「ちょっと」「失礼」「もしもし」「……」「トホルさん」
 全員から。
 全員かよ。
 トホルは応えた。
「まあ楽勝だ、あの時とは、色々と状況も違うし」
 違うのだ。
 自分のちから。
 仲間という存在。
 守らなければならないもの。
 あと、その後のお楽しみ。
「「「  ……  」」」
 そんなことは分かっていると、全員が銘々の肯定を返す。
「そんな感じで」
 トホルはポケットに親指を引っ掛けた格好で、振り向いた。
 向こうの、壁面にヒビの入ったビルの陰。
 敵が現れようとしていた。

 

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リプレイ本文


●さいしょから

 巨体が地を揺るがす。
 市街地でこれほどの巨大な敵と戦うのは、誰もが滅多にない経験だ。
 五つ首の怪物、パイロヒュドラ。圧倒的な暴力が迫り来る。
 撃退士たちは待たない。
 まずは各々が傷を癒やした。
 最高の癒し手である銀髪の女性はいない。先にナディムジャバードたちと合流している。マリス(jz0344)を守り、その母プレザンスに何かが起きてもすぐ対応するために。
 それでも、ここには癒し手が揃っていた。
「つちのこだわ」
 と、パイロヒュドラを指さして目を輝かせている柘榴姫(jb7286)もその一人。とてもそうは思えないが。
「違いますよ柘榴姫ちゃん。あれはね、ヒードーラ」
 神雷(jb6374)が、幼子に説明するように言った。
「ひどら……」
 柘榴姫はもう一度、敵を見上げ、「おおきな、はなくらげね」
 神雷はそれ以上なにも言わなかった。つっこみようがないだけなのか、それとも、柘榴姫の四神結界に信頼を置いているからか。
「……」
 翼を広げ、己のダメージを確認するイリン・フーダット(jb2959)。
(問題はない、護れる)
 再生のスキルによる回復は、完璧とは言えない。それでも彼は、皆を守護する盾を請け負う。
(しかし再生といえば)
 敵はヒュドラ。伝説では首を切っても再生するというが……
「真打ち登場ってワケ、か」
 同じく自らのスキルで傷を癒やすため、ヤナギ・エリューナク(ja0006)は静かに紫煙を燻らせていた。
 物思いに耽っているような弛緩した立ち姿は、まさしく嵐の前の静けさ。間合いに入れば、疾風となって駆け出す気構えは完了している。
「相手が何でも、基礎とスパイスを忘れずに……ってな」
 しかし、メンバーは自ら回復できる者ばかりではない。
 そのせいで大忙しだったのが、華桜りりか(jb6883)だ。儚げな容姿に似合わぬにもほどがある、強力な術式を修めた少女。攻防のみならず癒しのわざも確かなものだった。
「ありがとう、りんりん」
 まだ微妙に照れのある呼びかたで、角河トホル(jz0314)がりりかに礼を言う。そして、敵のほうを見やった。
 りりかは黙ってトホルを見る。
「……龍が、好きなんだ」
 言葉に詰まったからか、それとも今だからこそなのか、トホルはそんなことを言った。
「外界を気にせず眠り、時が来たれば滝を登り、天に舞い……自然を愛し、神にも依らず邪悪を祓う。昔、何かで読んで、憧れた」
 怪物。
 遠くにあってもあの巨体。
 口元から漏れる炎や肉食獣めいた牙、ゴツゴツと棘の生えた頭部。
 まるで、竜だ。
「いや、だから何だって感じなんだけど」
「トホルさん」
 呼ばれて、トホルはりりかを見た。
 りりかはずっと彼を見ていた。 
「あたしたちが力を合わせれば大丈夫なの」
 戦いの経験、陰陽師の訓練、記憶を失ったという生い立ち……何一つ関係なく、桜が、ただ桜であるが故に美しいように。
 りりかは、華桜りりかである故に、真理を伝える。
「ほら、勝利しか想像できないの、ですよ?」
 微笑みを残して、りりかは治療を必要とする仲間のほうへ駆けてゆく。
 それを見送ったトホルは、北條 茉祐子(jb9584)の姿に、目を留めた。
 茉祐子も気づく、というより気づいていた。声も聞こえていた。
 トホルの隣へ並び、パイロヒュドラを、敵を見据える。手には阻霊符。戦場を作り出すための道具。
「……終わらせます」
「ああ。奴は、許せない」
 みなぎる闘志は、友のため、己の信じる路(みち)のため。
 同じ色の、違う形なのか。
 同じ形で、違う色なのか。
「……」
 あなたを守る。
 茉祐子の、言葉もなく解放した水の烙印は、文字通りにトホルの心を潤した。
「……」
 目を合わせて、口を開きかけて……
「オジサマ頑張って!」
 反対側から、炎の烙印。
 神雷だ。
 してやったり、という小悪魔どころか悪魔的な微笑に、茉祐子はそそくさと視線を逸らす。
「ありがとうよ」
 トホルは苦笑を返し、その場を離れた。
 茉祐子の脇を通り過ぎ、去り際に小指を絡ませて。
 はじめよう……
 少女たちは祈り、撃退士たちは力と笑顔を取り戻してゆく。
「ヒュドラとは神話的!」
 あれだけの激闘を制して、精魂尽き果ててもおかしくないはずのジェラルド&ブラックパレード(ja9284)だが、むしろ先程よりも楽しそうに見えた。
「お相手するのは、ナイトか、それともクラウンか♪」
「ヘビを食らうんはカラスの仕業や」
 相棒、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はのびのびと翼を広げた。彼もまた、ひと仕事終えたというにはあまりにも危険すぎる役目をやり遂げたばかりだというのに、いつもどおりだった。
 ナイトもクラウンもいない。
 けれど、騎士の誇りと道化の矜持はここにある。
「酷薄さを考えれば、ボクはピエロに近いのかな」
「涙の似合わんピエロだな」
 声をかけたのはトホル。
 ジェラルドは道化の笑顔で笑う。
「泣きながら、ひとを笑わせるのさ」
「笑いをとるんは命がけや」
 相方……いや相棒のゼロもそれにノる。
 だからトホルも笑った。
「ありがとう」
「いえいえ、どうぞコンゴトモヨロシク」
 キザに一礼して、ジェラルドは華麗に身を翻し、
「さ、フィナーレと行きますか」
 ゼロは一枚の黒羽を残し、空へと舞い上がった。



●どんなときでも

 撃退士たちは、それぞれが最大の力と技術を駆使して、風のごとく影のごとく、光のごとく敵に迫る。
 寸前。
「回避!」
 ジェラルドの叫びはかき消された。
 陽炎が踊る。
 熱旋風が疾り抜けた。
 パイロヒュドラが空間の温度を変化させ、直接そこに超高温を生み出したのだ。
 撃退士たちは……
 平然と立っていた。
「じぇらるどさん、ありがとう、なの……」
「ううん、りんりんのおかげ♪ よく気づいたね」
 りりかが咄嗟に上げた声を、ジェラルドが受け、ある者は躱し、ある者は防ぎきった。
『うざってえ!』
 爆炎のブレスがアスファルトの大地をえぐったが、撃退士たちは散開する。だが、これでは近づけない。
「あなたの事はゆるさないの……」
 それでも、りりかの瞳は燃えている。
 そこに水をさしたのは、あろうことか味方の声だった。
「降参降参!」
 ジェラルドだ。
 白い髪の青年は、道化めいた哀れな仕草で、揉み手をしながら進み出た。
「ねえ、命だけでも助けてくれないかな?」
 首がひとつ、ジェラルドを向く。
「ここでボクが裏切ったらキミの勝利は揺るがない。どう思う?」
 気を引かれたというより、敵は最初から、強力なスキルを持つジェラルドを常に警戒していた。
 しかし、止まったのは首ひとつ。
『バカかてめえ』
 その左右の首、一つずつが、牙を剥きだして炎を放つ。
『俺に何の得がある!』
 二つの爆炎が撃退士たちを包み込み……
「何もないよ」
 トホルとイリンがそれぞれを防ぎきって、ジェラルドは笑った。
「首ひとつでも止まってくれればな〜って思っただけ♪」
 それと同時に。
 いや、それより早く、刃が、矢が、弾丸が、魔力が……アウルが次々と竜嗤の前身に突き刺さっていた。
 まずは一斉攻撃。
 成功した。
「頭のわるい事しか考えられないなんてざんねんなの、ですね」
 普段のりりかしか知らない者なら、今の酷薄な瞳の彼女に驚くだろう……「踏んでくれ!」とか言い出す奴も居るかもしれないが。
 まあともかく、充分だ。
 まず先陣を切ったのはゼロ。
 この男、速い。
「あとセコい♪」
「意外とな」
「いやー別に意外じゃないっしょトホルくん」
「じゃかあしいわ!?」
 内面や本質も相まってのことかもしれないが、その速度を活かす術をよく知っている。
 ビルを大きく迂回するその動きが、まったく無駄のない陽動になっている。茉祐子が阻霊符を使ったので、さらに効果的だ。
 敵の首が五つあろうと、胴体は一つ。そこを狙う。
『見えてんだよカス野郎!』
 勝ち誇ったように首の一つが振り返る、途中で、その動きが止まった。
『!?』
「ほかへは向かせないの、ですよ?」
 りりかの生み出した式神が絡みつき、パイロヒュドラの動きを止めた。
 ゼロは絶対零度の爆風となって、敵の胴体を包み込んだ。氷塵の中、静かに目を開き、笑う。
「あ? 何か言うたか、Jokes君?」
『死ね!!』
 捻りも何もない返答。
 五つの首が爆炎を放ち、辺り一面が炎の海に呑みこまれてゆく。
「りーん、ぴょ−、とーぉ、しゃー、なんとかー」
 聞いてると眠くなりそうなローテンションの九字が(四字しか言ってない)、アウルの網となって少女たちを庇う。接敵直前の四神結界もあって、ダメージの遮断に大きく貢献した。
 それでも凌ぎきれない部分は、イリンが請け負った。
 白銀の輝きが翼とともに閃いて、少女たちを庇う。
 フェミニストでもなければ助平心もない彼は、同性のこともしっかりカバーした。
「無茶しやがる」
 ヤナギは苦笑して、庇ってくれたイリンを支えた。カオスレートを鑑みると、庇うべきかは微妙なところだ。
 焼け焦げた翼はみるみる再生してゆくが、もう少しダメージが深ければ回復しきれなかっただろう。
 それでも、当然、イリン・フーダットの心は揺るがない。
「私にできる最大限です」
 光のように真っ直ぐな思いは、天使だからか……天邪鬼な自分には少し難しいかもしれないと、ヤナギは思う。
(だがしかし、それがヤナギ・エリューナクってな)
 変わり続けることが戦いであり、生き様。
 それが俺にできる最大限。
「ま、そういうスタンスも悪くねーケドな」
「……路(みち)が定まったように感じたのは、最近です」
 意外な言葉に、ヤナギは言葉に詰まった。
 何も変わらないように見えたイリンこそが、実は一番変わってきたのかもしれない。
「出会いがあったから、でしょうか」
「あのコ、か?」
「……」
 無言の声が聞こえて、ヤナギは冷やかすことも出来なかった。
 でも盗み聞きしてる奴らは遠慮なく冷やかした。
 たまたまその瞬間、近くにいた男たち。
「天然ジゴロんなるなぁ、あれはホンマに」
「そうだねノーマル・ジゴロくん♪」
「やかましいわ職業ジゴロ」
 そんな楽しい男の会話に、ヤナギは付き合わない。
「何か言ってやれ、トホル」
「一度でも 言われてみたい ジゴロとか」
「誰が詩にしろっつったよ……いや元気だせよ」
「ありがとう……」
 ボーイズトークに、女の子たちが眉をひそめるまでもなく、パイロヒュドラの牙と炎が容赦なく浴びせられる。
 刃が、拳が、迎え撃つ。
 そして。
『!!』
 獣の絶叫。
 パイロヒュドラに痛みを届かせたのは、疾風と化した一撃。
「翼はなくとも風に乗る、これぞ忍術ってやつだ」
 鱗を抉った風牙の刃から血を滴らせ、鬼道忍軍ヤナギ・エリューナクは不敵に笑った。

 

●いつもおもってる
 
 パイロヒュドラの巨体はそれだけで凶器だ。口を開いて閉じるだけで、生身の撃退士などバラバラになる。
 その戦力差を、神雷はよく理解していた。
 槍の突進から二刀に持ち替え、できるかぎり消極的に戦う。威力こそ無いが、眩い太陽の柱は複数の首を巻き込み、敵の意識を向けるのに効果的だった。
 隣の首を相手取るトホルが、身を翻して牙を躱しざま、ムエタイ式のコンビネーションを見舞う。鱗が何枚も剥げ飛んだ。
「オジサマ素敵っ!」
「その余裕はどこから来るんだ」
 こういう『よくわかってる』タイプの女がトホルは苦手だが、神雷には苦手がっている男も味方につけてしまう賢さ、強かさがある。
「愛ゆえに、とか?」
 こんなふうに。
 言いながら、神雷は二刀を舞わせて突撃をいなし……きれない。
 列車が激突したような衝撃に、小さな身体はバラバラになる二歩手前で飛ばされた。背をぶつけたコンクリートの壁にヒビが入る。
「敵からツッコミが来たぜ?」
(ちょっとは心配してくれてもいいんじゃないですか? 抱き起こすとか……)
「やかましい、休んでろ」
 実質二体に増えた敵を相手に、トホルは防戦一方となる。
 それでも、声も出せない私に応えてくれるのは、さすがのナルシスト。神雷は小さく笑った。

 一対一、というより首一本を相手に、りりかはどうにか戦線を保とうとしていた。
 魔力戦ではメンバー随一の彼女だ、パイロヒュドラの爆炎を掻い潜り、同じく爆炎を返し、時に敵の生命力を吸い取って己の力とする。
 敵は温度を操ってりりかの炎術を相殺し、傷を再生する。じりじりとりりかは圧されている。
 そして、その近くで戦うジェラルドは、はっきりと苦戦していた。
 いや、傍目には苦戦に見えないかもしれない。
 いつもどおりの笑顔で、血を吐くのを堪えている。
 彼の攻撃は強烈だ。だが、敵の攻撃もいなしきれない。同等のダメージを与え合うなら、敵には巨体と再生能力があった。
「そろそろ佳境かな? クライマックスを飾るのは、僕の役目じゃないんだけど」
 歯を食いしばっても笑顔はできる。
 それでもふらつきかけた時……
 りりかの回復スキルが、ジェラルドを救った。
 ばれてたのか。
「道化と愚者には、明確な差があるんだよねぇ」
 彼にしては珍しく、バツの悪い笑み。
 しかしりりかは、長い付き合いだ。
「じぇらるど、さんは……みんなを笑顔にしてくれるの、いつも」
「……」
 よし、わかった。
 ジェラルドの足元から、黄金のアウルが立ち上る。
「りんりん、炎の術は止めないでね。ゼロぽんに合わせて」
「はい、なの」
 敵の再生を抑えるには、それが不可欠。
 聞きつけたパイロヒュドラの首が、わざとらしく嗤う。
『無駄だゴミども! てめえらの魔術は効かねえ!』
「うっそだぁ」
 金色に輝く瞳が微笑の形に歪む。「だったら何で温度変化で防ぐの? 一斉攻撃の時も、ヤナギくんの土属性にビビってたよねぇ?」
 炎でも、氷でもいい。刃や打撃とは違う攻撃に、こいつは再生能力が阻害される。
 だからこそ防御しているのだ。
「なるほどなぁ」
 上空を飛び回っていたゼロが、静かに凍える詩を紡ぎだす。
 ジェラルドを睨んでいた首が不意に伸び上がり、ゼロに喰らいついた。
 小さくはないダメージ、だがゼロは悲鳴も上げない。
「で?」
『舐めんなクロバエ!』
 もうひとつの首がゼロに向き直り、さらに喰らいついて引き裂こうとする。
 漆黒ノ冷気ヨ黒キ夢ヘト誘イタマエ……
 次の瞬間、ゼロの氷塵とりりかの爆炎が同時に炸裂し、アウルに研ぎ澄まされたジェラルドの瞳が正確無比な刃を運んだ。
 絶叫を上げて、首のひとつがのたうち回る。スタン状態だ。
「チャンス到来♪」
 ジェラルドはさらに刃を繰り出した。

 パイロヒュドラの首は五本、彼らは、九人。
 単純な数では上回るが、相手は首ひとつで並の撃退士数人を食い荒らす。
 だから。
「首の数を減らし、敵の攻撃手段を減らします」
 最初から案としてあったが、はっきり言い切ったのはイリンだ。だから最も辛いポジションに居る。
 いや、彼はいつだってそうだ。
 首の中央を空から見据え、仲間の危機には翼をはためかせ急行する。
 チェーンを操り、敵の首に引っ掛けて邪魔をする。
 当然、攻撃は彼に集中した。
 一撃が重い。誰かの盾になる都度、イリンの身体が軋んだ。再生も追いつかなくなってきた。
 それでも彼は皆の盾だ。
 そして皆も、盾に隠れるばかりではない。
 茉祐子の弓は、味方すら驚くような効果をあげていた。
 非力に見える彼女のアウルだが、父……顔も知らぬ悪魔と交じり合った血の力が、矢尻の鋭さを増していた。
 それと、怒り。
「マリスが、どんな思いで、ミゼルを……!」
 その怒りは、家族に対する言い知れぬ何かを孕んで、強まる。
(怒ると一番怖い、でも怒った顔が魅力的でもある)
 オヤジ臭に塗れた高評価を下したナルシスト野郎がいたが、そいつは「やはり自分は間違っていなかった」と自賛した。そんなことしているから爆炎を浴びて「やばい死ぬ」と、かなり痛い目を見た。
 必死の覚悟が篭った矢とともに、なんかちょっと気の抜けたテンションの低い矢も飛んでいた。
 ぺちぺちとパイロヒュドラの顔に当たる。その度に、「おしい」とか「じゅってん」とか、緊張感のない射手は呟いている。
 ほとんど誰からも気にされなかったその一矢が……敵の目に当たった。と言ってもこの程度、視力を奪える程ですらない。
「おっけー」
 射手、柘榴姫はポンと手を打った。
 矢が砂塵となって広がり、パイロヒュドラの顔を包み込む。
『な、なんだ!?』
 陰陽術のひとつ、学園では八卦石縛風などと呼ばれる。
 格上の天魔に通用することは滅多にないはずが、まさしく幸運の白ウサギか、大成功だった。
 そして、ヤナギは見逃さない。
「まずは首ひとつだ」
 鎖鎌の鎌のほうを竜巻のように振り回し、巨大な回転ノコギリとして叩きつける。
 大木のような首が、半ば石化した状態で断たれた。
 再生は、ない。

「ふざけんな……」
 遠く離れた魔界で、竜嗤は、立ち尽くした。



●まずはあなたに

 中央の首が消え、パイロヒュドラは一気に劣勢となる。端の首が逆端の首を援護するのは難しい、間に邪魔者が多すぎる。
 ゴアアアアアアアア!!
 咆哮は、先程よりも小さい、首四本分。
「ヤナギ先輩、あちらへ!」「おう! そっち頼むぜ北条!」「ししょー、おげんき?」「すぐに援護を」
 逆に撃退士たちの声は大きくなる。中央にいた四人がそれぞれ散開、味方の元へ。
 上空から無言で援護を開始する茉祐子へ、トホルは笑顔を向けながら、敵には後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「茉祐子さん、氷とか風とか頼めるか? 僕だと再生を止められなくて」
 トホルの打撃は鱗を貫き骨にまで響いているのだが、撃ち込む傍から再生してゆくので彼はうんざりしていた。半端ではない連打のため、逆に悲惨な有り様だったが。
「はい!」
 茉祐子はアカシックレコーダーだ、自然を操る術は得意分野である。
 アウルの氷鞭を、パイロヒュドラは必死に防いだ。いま再生を止められたら、全身複雑骨折に近い肉体をそのまま背負うことになる。
 ギィッ!
 もう一本の首が真下から茉祐子へ伸びる。
「へにっくすぶれいず」
 そこに小柄な鳳凰が飛びかかった。
 敵の狙いが逸れて、茉祐子は難なく距離を取る。
 鳳凰は柘榴姫の指令通り、積極的には戦わず、不本意そうにパイロヒュドラの顔の周りを飛び回った。
「おじさん、あのコとゆびきりげんまん?」
「そーか見てたのかー、誰にも言っちゃダメだぞー? マジで」
「わかったわ」
 ゼロやジェラルドに見られていたら炎上必至だが、柘榴姫もまた不発弾めいた危険性があり、トホルの不安はうなぎ上りだ。
 不安といえば。
 柘榴姫と呼ばれるこの少女、時折、別人のように乾いた瞳になることがある。
 見間違いかと見直すと、もう元に戻っている。そんな一瞬のことなので、本当に見間違いかもしれない。
 だが……
「ありがとう。お前がいて助かったよ。マリスも、僕も」
 トホルは言った。
 敵は待ってくれない。手刀受けで牙を逸し、続ける。
「もし柘榴がいなかったら、殺し合ってたかもしれない」
「そんなことにはならないわ。マリーセも貴方も、いい人だもの」
「……」
 振り向いた時には、またいつものようにぼんやりとした顔で、弓矢を番えている。
「どしたの? おじさん。はなくらげがみてるわ」
「刺胞動物門ヒドロ虫綱花クラゲ目ヒドラ科とは違うからなアレは」
 ついに、首の片方が、地に伏した。トホルの与え続けたダメージを茉祐子が再生不能にしたおかげで、一気に崩壊が始まったのだ。
 トホルは空を振り仰ぎ、拳を突き上げた。視線の先に茉祐子がいた。
 茉祐子もわずかに口元を緩ませる、が、それがすぐに悲鳴に似た形に変わった。声より早く、矢を番える。
 もうひとつの竜頭が大口を開けて迫った。
 ざくり。
 そんな音が、続いてもう一つ……ざくり。
 トホルはゆっくりと振り向いた。
 灼熱の牙が、目の前にあった。
 その視線のやや下に、二刀を上下に構え、パイロヒュドラの口腔を内側から貫く少女の姿があった。
「ししょー、おはよー」
「ええ、おはようございます」
 神雷は、瞬間その二刀から手を離し、印を組む。
 雷撃がほとばしり、突き立った刃を通して、パイロヒュドラの口腔を蹂躙した。
 オゴォォォォォォ!!
「見事な囮でした、さすがは名優、角河トホルですね」
「はいはいどーも」
 パイロヒュドラの絶叫の前で、撃退士たちはいつものように巫山戯る(ふざける)。
『ふざ、けるな……!』
 そう言われても、巫山戯る。
 巫山戯るついでに、倒す。
「言ったでしょう? 次はお前の番だって」
 神雷は、もう笑ってはいない。
「良い事を教えてあげます……私は弱い」
 二刀を引き抜き、舞うように翻す。
 トホルが胎息を整え、並ぶ。
 柘榴姫が印を組む。
 茉祐子が弓を引き絞る。

「しかし、私達は強い!」
 
 パイロヒュドラの首は五つだった。
 撃退士たちのこころはひとつ。

 

●それからきみに 
 
「おう、パパ、もうちょい目立ってくれて構わんで!」
 遠くから届いた声に、トホルは思わず振り返ってしまい、自分を責めた。
 言い返そうにも、黒い奴はなんか大変そうにブンブン飛び回っている。
 まったく、ひとの命も自分の命も、とことんまで使い尽くすやつだ。
「じゃ、柘榴は神雷を回復してからな」
「おっけー」
「すぐに参ります」
 トホルは散歩に行くような足取りで歩き出す。
「悪いが茉祐子さん、よろしく」
「はい」
 言われなくとも、と気分を害するだろうか。
 それとも喜んでくれたりして。
 ……いや、そんな余裕ないってのが普通だな。
 そんな軽い自己嫌悪を感じている間に、茉祐子の矢がパイロヒュドラの胴体に次々と突き刺さってゆく。
 いかんいかん僕も何かしないと。
「わがまま、気紛れ、ナルシスト……か」
「マリスさんの、お父上ですか?」
 イリンが並んだ。
 敵の視線がトホルに向いたからだ。本当に生真面目な男だ。
「うん、まあ」
 マリスの、パパと、ママ。
 そんなネタにされていることを、イリンは分かっているのだろうか……トホルはたまに、イリンが羨ましくなる。
「君とは正反対だよな」
「私にも、それなりのナルシズムはあります」
 何気ない軽口に真っ正直な返答があって、トホルは思わず動きを止めた。
「マジ?」
「魅力的な知り合いが増えましたので、影響されたようです」
 言うが早いが舞い上がり、空中で爆炎を抑えこむ。
 おかげでジェラルドの煉獄めいた連続技が最高の形で入ったが、イリンもついに限界だった。
「おい!」
 危険な体勢で落下するのを、トホルが飛び込んで支えた。
「イリン……!」
「……ざっとこんな感じ、ですか」
「は?」
「イケテル、でしょう?」
「……」
 三文役者もかくやの棒読み。
 トホルは笑った。
 好意的な笑みだった。
「おいおい誰の影響だよ?」
「「「えっ?」」」
「なんで皆してこっち見んだよ! あとイリンくんその顔やめて、君がそんな驚いてんの初めて見たよ……」
 
「楽しそうやなぁ」
 ギアァァァァ!
「たのしそう、なの」
 グオオォォォーーッ!
「まったくねぇ、ボクたち、こんなにがんばってるのに」
 アイィィィィィィ……!
「お前は言えんやろ?」
 ゼロの右腕で大ガラスが啼くと、死の輝きが敵を穿つ。両目を抉られた大蛇が泣き叫ぶ。
「は♪ は♪ はー♪♪」
 その唄を背にジェラルドが乱れ舞う。
 狂おしく踊る。
「そないなワザ持っとんなら、ハナからやらんかい」
「だって楽しむためにはがんばらないと!」
 得意のワイヤーが跳ねると、魚屋のように鱗が舞い散る。
 剥き出しになった肉に大斧の刃が埋まり、碧い刀身が肉片をほじくり返す。
 抉れた傷口に銃身をねじ込んで連射する……
 目を覆いたくなるような残酷劇(グラン・ギニョール)。苦痛に喘ぐ大蛇の悲鳴は、天敵のカラスに穿たれた時より遥かに大きく、絶望的だ。
 演奏がゼロ、主演がジェラルドなら、観客のりりかは目を背けているだろうか?
「じぇらるどさん、は……」
 否。
 彼女は大事な、特殊効果だ。
 攻撃的な術式の数々が、パイロヒュドラの再生を阻害する。
 だが、そこに加虐の気配はない。
「みんなを、えがおにするのが、たのしいの」
 ただ、仲間のために。
 みんなで掴む勝利のために。
「だから、がんばるの……ね?」
 この子の前では悪ぶっても仕方ない。 
「そう、みんなで笑顔になるためにね♪」
「そない言うたら俺かてそうや」
 男たちは照れたように笑って、

「「さぁ、永久なる無へと還るがいい」」

 敵をズタズタにした。
 

 
●そして、みんなに

 オ、オオオ、オオオオオ……
「嘘だ、ふざけんな、畜生、ちくしょう……」
 悪魔『竜嗤(ドラギニャッツォ)』の創りだした『分身』パイロヒュドラの、五本の首。
 残っているのは、ズタズタになった一本だけ。
 チクショウ……コンナ、クズドモニ……
 今や、魔界にいる本体の絶望と、分身の言葉は連動していた。
 竜嗤の右腕の感覚がほとんど消えていた。傍目には在れど、分身が戻らなければ右腕は失われるのだ。
 そうなったら、体の他の部分から力を移して再生させなければならない。左腕の時と同じだ。
 全体としてはさらに力を喪うことになる。
 魔界での、居場所も。
「チクショオオオオオ!!」

「5本の指が首で、指の連結部分が掌、胴体が腕……」
 茉祐子が呟く。
 トホルが頷いた。
「元は片腕そのものなんだ、身体を分離して、分身を作ることができる」
「大した能力だけどねぇ」
 ジェラルドがせせら笑った。
「カラダを切り売りして、ジリ貧になっていくワケだね。戦力の逐次投入は下策、基本中の基本だよ?」
 ゼロが続く。
「トホルに片腕を潰され、もう片方もここで消えるわけか。あとドコが残っとるんや?」
「頭と心臓はありそうです」
 冷静に、イリンが言った。
「メンドくせぇ、さっさと全部出てこいよ」
 ヤナギが、全員の気持ちを代弁するように言った。
 トホルが進み出る。少女たちに、こんな下衆と語らせたくない。
 横倒しになった顔の前で、無造作に立つ。
「手を引け」
 その言葉に反応したのは一人ではなかった。
 けれど、トホルの気持ちを汲んで、口を開きかけた仲間を留めてくれる仲間もいた。
 トホルは仲間たちに心中で礼を言いながら、言葉を続ける。
「マリスは今後、魔界とは関係を切る。言質もとってある、状況的にもそうせざるをえないだろう、そして……」
「ぷりんちゃんはうちのこ、よ」
「わたしたちが守る」
 ひとりはそう言うだろうと思っていた。
 けれど、彼女が……あれほど怒っていた彼女が、そう言ってくれて、トホルは嬉しかった。
 本当なら、こちらから魔界に殴りこんでやりたい。それは総意だ。
 だが、マリスはもう、そんなことを望まない。
「ぜんぶ水に流す。マリスから手を引いてくれ」
 トホルは頭を下げた。
「……」
 グフッ。
 グホホホ。
 グホホッグホホホホ……
『誰ガテメ』
 ぱん。
 乾いた音がして、竜の頭が消えた。
 トホルの右足が最初の位置よりわずかに後方にあった。
「だと思ったぜクソ野郎」
 ズタズタの首と傷だらけの巨大な胴体が残った。
 それは、半ば廃墟と化したビルの間に横たわっていたが、ゆっくりと消えていった。
 トホルは肩をすくめて、仲間たちを振り返り。
「そーゆーわけで、ごめん」
 笑った。
 仲間たちも、笑ってくれた。
「ところでトホル。俺らが死ぬとでも思ったんか?」
「え?」
 ゼロに図星をつかれて、トホルの顔が固まった。
 固まった顔で辺りを見るに、どうやら仲間たちはだいたいそこに行き着いていたらしい。
「……もしかして、それでイリンくんはあんなに張り切ってたのか?」
「不器用ですので他にやりようもありませんでしたが……多少は」
「ホントに多少かよ?」
 ボヤくヤナギに肩を借りながら、イリンは「ええ」と生真面目に返した。
 イリンにまでバレていたとなればどうしようもない。
 いや、別に彼が鈍いわけではないのだが。
「ありがとう」
 トホルはイリンの手を握りしめた。
「でも、誰か死ぬなら、自分が、くらいには思ってたけどね」
 そんなトホルに、ある者は「キザだ」と笑い、ある者は「ちゅーに」と言ってはならんことをぬかした。
「……」
 茉祐子は、黙って拳を握りしめていた。
 正面にいたら反射的に殴っていたかもしれない。
 いや、別に後ろからでもいいだろう、この際。悪いのはコイツだ。
 ……という少女の葛藤は、殺気とは少し違うのだろうが、トホルに気づかれる何かを放っていたらしい。
 トホルは、茉祐子を振り返った。
 茉祐子は慌てて拳を背中に回した。
「茉祐子さん」
「はい、なんですか」
 気づくと、仲間たちはそれぞれ傷の治療や、学園への連絡をとっていた。迎えも呼ばなければならない。そうだ、マリスはどうなっただろうか……
 何となくの空白。
 トホルは、小さく咳払いして、言った。
「いや、スキルで補強してくれたろ? 水の烙印だっけ? あれのお礼、まだ言ってなかったから」
「……言いませんでした?」
「あ、たぶん……だから」
「……」
 こいつはバカか。
 そんなの改まって言われる方が気まずいだろう。
 茉祐子が何も言えずにいると……トホルが「あ、ごめん」と後ろを向いて携帯機器を取り出した。着信らしい。
「あーカオル、じゃなくてナディム? うん、戦闘は終わってるんだけど、ああ」
「……」
 間も悪い。
 ジゴロと呼ばれることは一生無いだろう。
 ……
 その冴えない男が。
 姿勢を戻し、携帯機器を耳から離した。
 スピーカー機能に変更したらしい。
 声がする。少女の声、マリスだ。

『どうしよう? ママが、そんな……ここじゃあ治療も……』

 そして。
 落ち着いた、女性の声がした。
 位置が遠かったのだろう、声はマリスのものほどはっきりしていなかった。
 それでも一言、聞き取れたのは……



●ありがとう

 本当に、ありがとう。
 

 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Eternal Flame・ヤナギ・エリューナク(ja0006)
 守護天使・イリン・フーダット(jb2959)
 Cherry Blossom・華桜りりか(jb6883)
重体: 守護天使・イリン・フーダット(jb2959)
   <皆の盾として攻撃目標になり続けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:9人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
守護天使・
イリン・フーダット(jb2959)

卒業 男 ディバインナイト
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
ふわふわおねぇちゃん・
柘榴姫(jb7286)

大学部2年278組 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
守り刀・
北條 茉祐子(jb9584)

高等部3年22組 女 アカシックレコーダー:タイプB