.


マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/13


みんなの思い出



オープニング


 前面ガラス張りのラウンジの向こうに広がる風景を眺めつつ、ヴァナルガンド(jz0132)はコーヒーカップを傾けた。
 コーヒーの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
 キーヨと分かれてからヴァナルガンドは、この小さな街に身を潜めていた。
 人間たちが北関東と呼んでいる地方にある街なのだが、ヴァナルガンドにはどうでもいいことだった。
 ただ、この店のコーヒーの味が気に入ったから、なんとなくこの街に居付いているだけにすぎない。
 寡黙な紳士風のマスターは、常連になっても根掘り葉掘り聞いてこないのが居心地を良くしている要因の一つでもある。
「おかわり、いかがですか?」
 店員の女が話しかけてきた。マスターの娘である彼女は、この店でただひとりの店員だった。
 名を沙彩といったか。
「ああ、頼む」
 残りのコーヒーを一気にあおり、カップをソーサーにもどした。
 沙彩は、テーブルのカップを手探りでさがす。
 そういえば、目が不自由だと話していたことを思いだし、ヴァナルガンドはカップとソーサーをトレイの上に乗せてやった。
「あ、すいません。お手数おかけしました」
「ああ」
 ヴァナルガンドは空のカップを下げる沙彩を見送り、そのまま眺め続けた。
 最近のヴァナルガンドの興味は、もっぱら沙彩にあった。
 店内配置を熟知しているらしく、目が見えていないはずなのに躓いたりすることなく歩き回っている。
 そして、彼女が淹れたコーヒーは、すこぶる美味だった。
 沙彩に勧められるまま店オリジナルのブレンドコーヒーをブラックで飲んでからは、そればかりを飲むようになった。
 沙彩を観察しながら2杯目のコーヒーを待っていると、急に街の空気が張り詰めたものに変わったことを感じた。
 風にのって微かに漂う血の匂い。
「この気配は……」
 席を立つヴァナルガンド。
「どうされました?」
 沙彩は、ミルで豆を挽きながらきいた。
「気にするな。すぐに戻るから、それは淹れておいてくれ」
 そう言い残し、沙彩が止める間もなくヴァナルガンドは店を出た。


 血の匂いをたよりに向かうと、黒い狼型のディアボロが暴れていた。
 黒狼を率いているの剣士風の青年は、ヴァニタスだろう。
 黒狼は無差別で人を襲っているようで、ヴァナルガンドに気付いた黒狼が彼に襲い掛かってきた。
「おい、俺の縄張りで良い度胸だな」
 襲いかかって着た黒狼を魔弾で消滅させたヴァナルガンドは、威圧感を漂わせながらいった。
「……なんだ、はぐれか?」
 ヴァナルガンドから自分と同質の気配を感じた青年は、言葉をつづけた。
「大人しく消えるなら、命は助けてやろう」
「それはこっちのセリフだな」
「……何?」
「10数えるあいだに消えろ。1……2……」
 ヴァナルガンドは、ゆっくりカウントをはじめた。
「はぐれ風情がナメた口を!」
 ヴァナルガンドとの距離を一気につめた青年は、一撃で相手を屠るべく突進の勢いを斬撃に乗せた抜刀斬りを放った。
 しかし、その斬撃はヴァナルガンドの残像を切り裂いたのみで、かわりに青年が吹き飛ばされ剣を持つ右腕がちぎれ飛んだ。
「が――っ、な……」
 さらに追撃の魔弾が右足を粉砕する。
「そんなんじゃ、撃退士にすら勝てないぜ?」
「ば、馬鹿な……」
 自分の身に起こったことが理解できずにいる青年。
「お前、俺をはぐれといったな」
「ま……さか……」
「おれははぐれちゃいないぜ」
 言い終わると同時に放たれた漆黒の魔弾は、青年の頭部を吹き飛ばし、彼の生命活動を停止させた。
「おやおや、まさかヴァナルガンド卿にこんなところでお会い出来るとは……」
 現れたのは、毛皮のマントを纏った戦士風の青年だった。マントは狼の毛皮で出来ているのだろう。右肩にはショルダーガード代わりに黒狼の頭部がのっている。
「私の名はハティ。以後、お見知りおきを」
 仰々しい身振りで礼をするハティ。
「しかし、困りましたね。この地は――おっと!」
 ヴァナルガンドから問答無用の魔弾が飛んできて、ハティは慌ててよけた。
「お前らの事情など知ったことか。俺の縄張りを荒らすなら、誰であろうと容赦しねぇ」
「私も同族にシュトラッサーが屠られて、だまって引くわけにもいきません」
 ハティも引き下がる気は無いようだ。
 こうして、同族同士の戦いがはじまった。

「まさか、これほどとは……っ!」
 ハティは焦っていた。
 同じ魔狼使いとして、ヴァナルガンドの名は聞いたことはあった。実力も噂程度に着たことがあったはあったのだが、これほど自分と差があるとは思っていなかった。
「どうした、それだけか?」
「くっ!」
 持ちうる全てのスキルを使い切ったハティは、もはや八方塞だった。
 自分の力の何割かを分け与えていたヴァニタスを早々に殺されてしまったことが状況を不利にしていた。
「これは、あきらかな反逆行為ですぞ!」
「知らねぇよ。俺は自分の縄張りを守っているだけだ。それに――」
 口の端に笑みを浮かべるヴァナルガンド。
「狼は自分の縄張りを守るため、同族すら殺すことがあることを知らねぇのか?」
「今回のことは、しっかり報告させていただきます」
 防御に徹したハティは、離脱の隙をうかがいながらいった。
「人間界には、こんな言葉があるんだぜ。『死人に口なし』ってな。俺たち向きの良い言葉だと思わねぇか?」
「……っ!」
 ヴァナルガンドの冷酷な笑みをみて、ハティは背筋を凍らせた。
 なんとしても逃げなければ。そう考えたハティは、それまでヴァナルガンドを攻撃させていた黒狼たちを散開させて街中へなだれ込ませる。
「ちっ!」
 小さく舌打するヴァナルガンド。
 何故か脳裏に浮かんだのは、沙彩の顔だった。
 このまま戦えば、ハティを倒すことは可能だ。しかし、その間に街は蹂躙され、沙彩も無事では済まないだろう。
 そんなヴァナルガンドの一瞬の動揺を見逃すハティではなかった。
 その隙に全力離脱を試みる。
 ヴァナルガンドにとって、この街はよほど重要らしい。
 ならば、断続的に黒狼を送り込んでやれば、やつの身動きは封じられる。
 いや、おそらく街を襲撃する素振りを見せるだけで、ヴァナルガンドは警戒して街を離れられないだろう。
 その間に逃げきり、逆賊としてヴァナルガンドを上層部に報告してやればいいのだ。

● 
 キーヨ(jz0133)が昼休みをぼんやりと過ごしていたら、突然頭の中にヴァナルガンドからの呼びかけが響いた。
「マ、マスター!?」
 ヴァナルガンドから呼びかけてくることは珍しく、思わず慌てるキーヨ。
「どうしたんですか!?」
『厄介なことになってな。手を貸せ』
 そして、ヴァナルガンドはこれまでの経緯をざっくり説明した。
「つまり、撃退士の力を借りて、ハティという悪魔を倒したいということですね」
『そうだ。結果的に街も守ることになるんだ。人間どもにとっても悪い話ではあるまい』
 キーヨは悩んだ。主人の力になりたいけれど、どうやって学園に説明したものかと。
 それにしても、マスターはどうしてしまったのだろうか。
 キーヨが知るヴァナルガンドなら、ハティを倒すことに全力を尽くすはずだ。
『とにかく、俺はここを離れられねぇ。急げ!』
「わ、わかりました!」
 キーヨは、四の五の考えるのは後回しにして、急いで撃退士に助力を求めることにした。
 幸い、被害を受けた街からも救援要請が入っていたらしく、キーヨの話はすんなりと聞いてもらうことができた。


リプレイ本文


「今回の依頼は、お前の情報と聞いた」
 被害を受けている街へ向かう途中、元 海峰(ja9628)はキーヨに問うた。
「街の状況やお前の仲間のことを知っておきたい」
「街の状況は、詳しく知らされてません。僕の仲間は……」
 しばし口ごもったあと、キーヨは「とても強い方です」とだけ答えた。
「敵大将の容姿とかわかる?」と龍崎海(ja0565)。
「いえ、そこまでは……」
 そう答えるキーヨの顔は、心なしか不安げに見える。
「敵大将って悪魔?」
 首肯をかえすキーヨ。
「それならその仲間って、本当にすごく強いんだね」
 龍崎にそういわれたキーヨは、曖昧な笑みを返した。
(単独で天魔に手負いの傷を負わせる力を持つひと……)
 ふむと鼻をならした藍那湊(jc0170)は、考えをめぐらせる。
(フリーの撃退士、或いは……)
 釈然としないことが多い今回の依頼。ともあれ、利害が一致している以上は、キーヨの仲間と共同戦線を張ることが妥当だろうという考えに帰結した。
 まずは、キーヨの仲間と合流するべく彼の先導のもと、キーヨの仲間のもとへ目指した。
 街に入ってからしばらくは、狼との散発的な戦闘が発生しただけだったが、キーヨの仲間のもとへ近づくほど、狼の数が増えているような気がする。
「そこの角を曲がれば僕の仲間がいます」
 キーヨが指差す角を曲がると、大通りと合流する広いT字路があり、そこで金髪の青年が大量の狼たちと戦っていた。
 青年と狼の力の差は歴然だった。しかし、彼は積極的に狼を倒そうとはせず、背後にあるコーヒーショップを狼から守るような戦い方をしていた。
 そのせいで、屠られる狼の数より増援として現れる狼のほうが多くなってしまい、あぶれた狼は街のほうへと流れていっていた。
 ここへ来る途中に戦った狼は、あぶれた狼たちなのだろう。
「店守ってるのがタクくんの仲間かな」
 姫路 ほむら(ja5415)の問いに首肯をかえすキーヨ。
「お兄さんにとって、大事な場所なんですねー」
 藍那はつぶやいた。
 ただ狼の殲滅だけを考えて動けば、青年にとって取るに足らない相手にはずだ。だが、あえてそうしないのは、店が彼にとって大切な場所だからなのだろう。
「はぐれ悪魔」のタクの"お仲間"か」
 キーヨの仲間の顔を確かめる江戸川 騎士(jb5439)。
(金髪のワイルドイケメンか……)
 青年の顔に見覚えがあったような気がしたけれど、どこで見たのかまでは思い出せなかった。
「来たか」
 青年は、視線だけを撃退士たちに向けていった。
「タクくんのお友達さん……お兄さん? お名前伺ってもいいですか?」
 ひとまず共に戦う仲なのでと、笑顔を見せる藍那。
「自己紹介は後回しだ。ここは俺とキーヨ……タクに任せて、お前たちは、ハティに止めを刺しにいけ」
「ハティとやらは、どこにいるんだ?」
 獅堂 武(jb0906)の質問に青年は、「北東だ。早く行け!」と不躾な物言いでこたえた。
 ハティ討伐に動いたのは、龍崎と獅堂とキュリアン・ジョイス(jb9214)だった。
 キュリアンは、召喚したウィスカジーアにつかまって移動をはじめた。
「お前は仲間のところに行け。街のこと、敵大将のことは俺達に任せておけ」
 元は、そういってキーヨの背中をおした。
「お前ら全員で行かねぇのか!?」
 青年は、想定していたものと違う動きを見せた撃退士に思わず声をあげた。
「私たちが学園から受けた依頼は、街を守ること。街の安全が最優先です」
 青年は、淡々と答えるサーティーン=ブロウニング(jb9311)の言葉に小さく舌打をかえした。


 途中までハティ討伐班に同行していた藍那は、市街地のはずれで増援として次々現れる狼の対処をすることにした。
「わん。ほら、こっちにおいでー」
 3体で現れた狼に氷結を放つ。
 先頭の狼が動きをとめた。後続2体のうちの片方は藍那へと標的をかえ、残る1体は街へ向かう。
「1体、市街地へ向かったよー」
 すかさずインカム型無線機で仲間に知らせた藍那。さすがに全てひとりで対処することは難しいけれど、彼がここで戦っていれば、市街地へ向かう狼の数を大きく減らすことができるだろう。

 飛び掛ってきた狼の攻撃を回避し、すれ違いざまに【仕込み小柄】を叩き込むサーティーン。追撃はかけず、相手が怯んだ隙に離脱する。
 狼に止めを刺したのは、姫路の【ヴァルキリージャベリン】だった。
 殲滅戦は自分にあまり向いていないと判断したサーティーンは、屋内退避が最も安全と判断した姫路と一緒に街の人の安全を確保するため、屋外にいる街の人がいないか見てまわっていた。
 姫路の頭の中には、ひとつの疑念が浮かび上がっていた。
 それは、タクの仲間という青年の戦闘力のことだった。
 ひとりでハティという悪魔を退け、狼に対しても圧倒的な力を見せ付けている。
(あの戦闘力、はぐれではない筈……)
 では、どうして悪魔と悪魔が争うことになっているのか。
 彼がはぐれていない悪魔だとしたら、タクは一体何なのか。
 はっきりさせなければならないことが多そうだ。

 元と江戸川は、コーヒーショップの周辺の狼を殲滅していた。
 元は陸上で、江戸川は闇の翼で飛翔し、空からサポートにあたる。
 ここには狼の大半が集中している。 
 タクの仲間が圧倒的戦闘力の持ち主であるとしても、手数が決定的に足りていないことは明白だった。
 狼の力はそれほど強くはないものの、敵の数が圧倒的に多く、1体に攻撃をしかけると3体4体から攻撃をうけるという状態だ。
 全ての攻撃を防ぎきれるわけもなく、少しずつ生命力を削られていった。
 色々と疑念はあるものの、気に入った場所を守りたいというタクの仲間のため、全力を尽くして狼殲滅にあたった。
 いっぽう、江戸川は別の考えをもっていた。
 本人が直接連絡をしてこなかったこと。不自然なまでの圧倒的な戦闘力。この2点から、キーヨの仲間は人間ではないであろうとあたりをつけていた。
 あの青年が悪魔なら、この街は悪魔同士の争いに巻き込まれたということになる。
 喧嘩相手が腹いせにディアボロを送り込んでいるという構図を想像し、悪魔同士でよくある話だなと苦笑を浮かべた。
 その上で【意思疎通】を使って青年に揺さぶりをかけてみることにした。
『うかつに動いたおかげで大事な手下の正体がバレそうだぜ』
 しかし、相手からの反応はない。
 江戸川は、かまわず続けた。
『大体、力不足で敵のタマ取り損ねた挙句、尻拭いに学園に頼ろうなんていい歳した男がやるべき事じゃねえぜ』
『お前らこそ、3人だけで平気か? 手負いとはいえ悪魔の力を甘くみすぎじゃねぇのか?』
 青年から【意思疎通】で返事がかえってきた。 
 この時点で人間ではないことが確定した。
 青年の言葉尻には、苛立ちが感じられる。
『狼は、あんたを狙っているんじゃないのか? それなら、あんたが街を出て行けば、狼も町から消えることになる』
『俺を追い出したければ、ハティのように力ずくで追い出してみることだ』
 少なくとも、青年には縄張りを放棄するつもりがないようだ。

 正直、ヴァナルガンドは焦っていた。
 キーヨが撃退士を連れてきてから、かなりの時間が経過している。
 狼の数は半分以下まで減った。
 しかし、狼の増援は途切れていないところをみると、いまだ撃退士たちはハティを倒せていないことになる。
 撃退士がハティに倒されようがヴァナルガンドの知ったことではないのだけれど、ハティに冥魔界へ逃げ込まれるのは都合がわるい。
「キーヨ!」
 やや離れたところで戦うキーヨを呼ぶヴァナルガンド。
「ここはお前が死守しろ」
 背後のコーヒーショップに視線をおくる。
「マ、マスターは!?」
「俺はハティを追う」
 ここを撃退士とキーヨに任せても大丈夫と判断したヴァナルガンドは、キーヨの返答を待たず、己の姿を白狼に姿をかえて戦場を離脱した。
 同じ頃、姫路の戦況の好転を感じとり、サーティーンと共にハティを追った3人と合流するため動いていた。
 そんなとき、背後から白狼が迫った。
 思わず身構える姫路。しかし、白狼は「お前らの足じゃ追いつかねぇ。お前らはここにいろ」と言いのこし、姫路の返事も待たずに去ってしまった。
「あの声は……」
 あの声は、たしかにあの青年のものだった。
 

 時間は30分ほど巻きもどる。
 大将討伐に向かった3人は、増援として現れる狼を道しるべにハティを追った。
 上空から竜崎が索敵をおこない、余計な交戦は避け、遭遇戦も殲滅より突破を優先して行軍した。
 ハティの姿を捉えたのは、街から数キロ離れた山道だった。
 狼の毛皮で出来たマントは血に塗れ、剣を杖代わりにしている。
「てめぇがハティか」
 展開した双剣を構え、獅堂が問う。
「厄介なモン街中に撒いてるんじゃねぇよ!?」
「人間が何故私の名を?」
 ハティは、ゆっくりと振り返った。
「やはり、ヴァナルガンドは人間側になびいていたようですね」
 口ぶりからすると、あの青年が悪魔であるのは間違いないようだ。
「ゲートでも作りに来たのか?」と龍崎。
 しかし、ハティは答えず言葉をつづけた。
「それにしても、追撃がこれだけとは、私もナメられたものです」
 ハティは杖にしていた剣を構え、戦闘態勢にはいった。
 どうやら、問答する気はないらしい。
「速めに、片付けよう」
 武器をフラーウムにかえたキュリアンは、【サンダーボルト】で先制攻撃をしかけた。
 ハティは大きく横に飛び、それを回避する。そこに獅堂が追撃をかける。
 一気に間合いをつめられたハティは、思わず体勢を崩した。
 獅堂の双刀は、体勢を立てなおしきれていないハティの左腕をとらえた。
 ハティは、反撃に大振りの一閃をくりだした。
 双刀で十字受けをする獅堂。しかし、そのまま大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ぐっ」
 刀越しでも重く強烈な一撃に、獅堂の身体は悲鳴をあげた。
 龍崎は上空から魔法書による攻撃をしかけた。
 生み出された石塊がハティにせまる。
 バックステップで回避を試みるハティ。彼の腕を掠めた石塊は、地面に小さなクレーターをつくった。
 ハティの注意が龍崎に向いている隙に、刀印を切り終えた獅堂が【炎陣球】を放った。
 放たれた火球はハティの身体を飲み込んだ。さらにキュリアンの【サンダーボルト】が追い討ちをかける。
「やったか!?」
 獅堂が声をあげたのも束の間、炎から飛び出してきたハティの斬撃が獅堂の身体に刻み込まれた。
 獅堂の意識が遠のく。
 よろめく獅堂を足がかりに、ハティはキュリアンにも迫る。
 間合いを取って回避しようとするキュリアン。だが、ハティのほうが速かった。
 ハティに斬られたキュリアンの肩から鮮血が穂飛ばしる。
「人間風情が、その程度で私に勝てると思っているのですか……っ!」
 ハティの息は荒い。
 槍を構えて急降下する龍崎。降下速度も加えた一撃をハティに放った。
 紙一重でそれを回避したハティは、返す刀で龍崎を斬りつける。
 黒鉄鋼糸を緊急展開させて攻撃を受け止める龍崎。鋼糸越しに伝わってくる衝撃は尋常ではなかった。
「くっ、手負いでもこれほどの……っ!」
 ハティは明らかに手負いだった。こちらの攻撃で彼を追い込みつつある手ごたえもあった。それでも尚、これほどの力を残していようとは、正直思っていなかった。
「この程度の戦力なら、逃げるより倒したほうが手っ取り早いと判断したから、相手をしてさしあげてるのですよ」
「その割には、息が荒いぞ」
 キュリアンの【ハイブラスト】がハティに命中する。
 ハティは、ゆらりとキュリアンに向きなおった。
「うおぉおお!」
 仲間に向いたハティの意識を引き付けるため、龍崎は槍の連突きをはなった。
 身体を刻まれながらも、ハティはゆっくりと剣を振りかぶり、強烈な振り下ろしを龍崎に見舞った。
 その後も戦闘は続き、ハティをギリギリまで追い詰めた。しかし、あと一歩、力が及ばなかった。
「人間ごときが……私を倒そうなどと考えることが……間違っているのです……」
 ハティは、完全に継戦力を失った撃退士むかって言い放った。
「くっ」
 小さく呻く龍崎。
「その割には、虫の息じゃねぇか。ハティ」
 声のほうを見ると、そこには白狼の姿。
「ヴァナルガンド……っ!?」
「思惑とは違うが、足止めとしては、十分に役立ったぜ、お前ら」
 満身創痍の撃退士に彼なりの労いをおくる。
「もう、逃げられないぜ」
 そういうと、ヴァナルガンドはズタボロのハティに襲い掛かった。


 ヴァナルガンドと撃退士たちは、再びコーヒーショップの前に集まっていた。
「あらためて、お名前伺ってもいいですか?」
 藍那は、聞けずじまいだった名前を尋ねた。
「俺はヴァナルガンドだ」
「タクとはどういう関係か聞かせてもらえるか?」
 元が一番知りたいのは、そこだった。
「気付いているんだろ。俺は悪魔でそいつ……キーヨは俺のヴァニタスだ」
「マスター!?」
 正体をばらされ、キーヨは困惑した。
 さり気なく溶け込めた学園生活も、苦労して築いた人間関係も全て水の泡になってしまうからだ。
「何を企んでる」
 元がキーヨに感じた違和感は解消できたが、新たな疑念がわきあがる。
「何も企んじゃいねぇよ。俺は、ここの美味いコーヒーを守りたかっただけだ」
 店の中からは、初老のマスターと若いウェイトレスの姿が心配そうにこちらを伺っていた。
 それを見た江戸川は、ニヤリと笑みをうかべる。
「あんた、あの娘が好きなのか、珈琲がすきなのかハッキリしろ」
「あ?」
「珈琲なら店の邪魔をするんじゃない。娘なら――」
 江戸川は、キーヨの肩を引き寄せた。
「こいつ共々、はぐれちまえ」
 はぐれろという言葉に目を輝かせるキーヨ。
 しかし――、
「はぐれ……か。悪いが俺にはメリットが無ぇな」
「メリット?」
 鸚鵡返したのはキュリアンだった。
「ハティみてぇのが、いつまたここに現れるかも知れねぇ。その時、力を失っていたら戦えねぇからな」
「埼玉が物騒なのと関係あるのかな……」と姫路。
「知らん。興味もない」
 正直なところ、どこまで信用して良いものか、ヴァナルガンドの腹の内は量りかねる。
「だが、借りっぱなしというのも気持ちが悪いからな。この先、俺の力を借りたいときは、キーヨを通じて要請してくれ。出来る範囲っつーもんは、限られるけどな」
 これは、再びキーヨを学園に預けるということを意味していた。
 だが、同時に敵の尖兵を潜入させることにも繋がりかねない。
「僕は、そんなに悪いひとだとは思えないな……」
「過去はどうあれ、俺も店を守るために戦った姿は嘘でないと信じる」
 藍那と姫路は、それぞれ考えを口にした。
 結局、ヴァナルガンドを信用することにした撃退士たちは、キーヨを連れて学園へもどった。
 キーヨの世話役兼監視役としては、高峰真奈(jz0051)が改めて割り当てられた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
主演俳優・
姫路 ほむら(ja5415)

高等部2年1組 男 アストラルヴァンガード
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
元 海峰(ja9628)

卒業 男 鬼道忍軍
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
RockなツンデレDevil・
江戸川 騎士(jb5439)

大学部5年2組 男 ナイトウォーカー
魔法使い・
キュリアン・ジョイス(jb9214)

大学部6年3組 男 バハムートテイマー
撃退士・
サーティーン=ブロウニング(jb9311)

大学部3年7組 女 鬼道忍軍
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA