●スイカ割り合戦!?
「つーことで、ルールは大体わかったな? んで、この紙にポジションを書いて審判に提出しろ。チーム内でもちゃんと互いのポジション把握しとけよー?」
一太郎のやる気がありそうでない声とともに、チームに1枚筒渡された用紙。そこに各自ポジションを書く。
「みんな頑張ってねー」
ルーナ(
ja7989)が手にスイカをもち、椅子にこしかけて声援を送っている。
「お前、参加しないならせめて審判手伝ったらど」
「先生もファイトー!」
「……まあ、いいけどな」
どうやらルーナは『みんなが必死に頑張っているのをのんびり応援する』ことを楽しむつもりらしい。一太郎はそれ以上何も言わなかった。
【あのっよろしくお願いします】
「健人さん、こんにちは。健人さんチームで頑張りますね」
「よぉーし、頑張ろうね♪ ところで健人くん。ソレ暑いんじゃない? 大丈夫?」
【大丈夫です!】【ちゃんと保冷剤を縫いつけましたので】
Aチームのスイカ役、鎌海 健人(jz0081)が挨拶をすると、市来 緋毬(
ja0164)栗原 ひなこ(
ja3001)が笑顔で返事をし、やや緊張していた健人がホッと肩をなでおろした。
他のメンバーもそれぞれ挨拶を交わし、ポジションについて確認し合う。
「あ、そだ。これ。あらかじめ調べてきたんだ」
姫路 ほむら(
ja5415)が一枚の紙を皆に見せた。それは両チームのジョブ分布だった。
「Bチームはインフィルトレイターが多く集まったみたい。
狙撃班を早期撃破しないと厳しそうー。でもこっちは逆に、回復のアストラルヴァンガードと機動力の鬼道忍軍が多いしチャンスは……あるはず!」
「へぇ。これは助かる。ありがとう」
若杉 英斗(
ja4230)が礼をいうと、ほむらは少し照れくさそうに笑った。
Bチームもまた、ポジションの確認を細かくし合っていた。
「どういう事情があるのかよく分からないが、こういうお祭りごとは嫌いじゃない。思いっきり楽しませて貰うぜ」
榊 十朗太(
ja0984)がそう言って、自分の動きを軽く説明した。つられるように各自の動きを簡単に説明する。
「おぉー! いいないいな、あのスイカ着ぐるみ! ビーチのすいかざねと呼ばれた私への挑戦ですね」
一体何の挑戦なのかは不明だが、二階堂 かざね(
ja0536)も自分の狙いについて告げた。
「これも……授業の一環? まぁ、いいさね。泳がないなら。適度に頑張るかねぃ」
「ちょっと変わったスイカ割りだけど、思い出作りにはいいかも?」
九十九(
ja1149)に森林(
ja2378)、と各々参加する理由はいろいろだ。
その話合いを、一太郎は何を言うでもなく聞いていた。
そしていよいよ、試合開始である。
●【A】左翼vs【B】右翼
開始の合図とともに、両軍が慎重に前へと進む。そして激突。
【今です】【みなさん、がんばってください!】
「お前ら〜、ぼちぼちがんばれ」
両チームのスイカ役による士気高揚が発動。片方のが士気上がりそうもないが気にしない。
まず動いたのはAチーム。ジョーン ブラックハーツ(
ja9387)が合図をした。
「スイカ割りは戦いだ! 戦いには負けられないね……さあ、いくよ!」
「夏だ! 水着だ! 美少女だ! ……スイカが噛み砕けないのが残念……でも絶好の散歩日和! にゃはは」
姫宮綾(
ja9577)がその合図を受け、口に何かをくわえて四つん這いで走り出す。あらかじめ作戦を聞いていたチームメイトが軽くジャンプをして何かを避ける。
綾は自分に動ける最大の距離を移動してから再びジョーンの元へと戻ってきた。
「ひゃっほーう! 皆でスイカ割りにゃー! って、なんなのだ?」
「くっこれは」
砂の中に隠れていたそれは、ロープ。Bチームの前衛、大狗 のとう(
ja3056)と御堂・玲獅(
ja0388)の足に巻きつき、2人の体勢を崩した。
「猪突猛進戦法なのだ! 暴走ツインテール!」
ほぼ全員の目がロープへいっている隙に飛びだしたのは、Bのかざね。Aチームの横に回り込み、フィン・スターニス(
ja9308)へ二対の棒を振りかぶる。
「これがスイカ割りかは不明ですが、やるからには負けませんよ!」
攻撃途中の無防備なかざねを狙おうとした風鳥 暦(
ja1672)。今まで保護色シートに身を隠しつつ全身してきたが、絶好のチャンスにシートをはぎ取ったのだ。
「させませんわ」
「くっ」
しかしその攻撃は体勢を直した玲獅によって阻まれる。
(私の攻撃を受けても失格じゃないということは……)
(今少し驚かれましたわね。なら……)
無言のまま、互いに相手のポジションを読みあう。
そして邪魔されずにすんだかざねは、躊躇なく得物を振り降ろした。フィンは受け止められる体勢ではない。
その時、飛び出す影があった。
「フィン! さがって」
「龍実さん」
恋人であるフィンのピンチに志堂 龍実(
ja9408)が漢を見せる。無理やりフィンとかざねの間に入り、その攻撃を身に受けたのだ。無理に入ったために受けることもできない。
攻撃と言ってもおもちゃの武器。痛くはないのだが、笛が鳴った。
「志堂 龍実、失格」
一撃で失格。これによりかざねがオフェンスであることが分かった。龍実が身を張って得た情報は大きい。
(せっかくの初デートだったんだけどなぁ)
残念に思いつつも、恋人を守れた満足感が彼の中にあった。
「それでは一つ、お相手願いましょうか」
体勢を崩しているのとうに向かって鳳月 威織(
ja0339)が得物を振るう。のとうは受け止めようとしたが、失敗。攻撃を食らってしまう。
「まだまだ、なのな!」
「くっ。やりますね」
しかしのとうも反撃。互いにダメージを与えあう。全体の動きを見ようと考えていた威織だが、もう意識が目の前の相手へと向かっていた。それはのとうも同じ。2人とも楽しそうに互いの動きから目を離さない。
「スイカ割りというのは初めてする。できれば勝ちたいものだが」
海へ初めて来たコンチェ (
ja9628)は、スイカ割りも初体験。……これがスイカ割りだと勘違いしないか不安である。
誰か後で本当のスイカ割りを教えてあげてほしい。
「はっ」
目の前のBチームのメンバーへと一撃を加える。薄ぼんやりとしか見えていないはずだが、関係ないと言わんばかりの的確さだ。
「こちらの方を狙ってください。おそらくオフェンスです」
「了解!」
玲獅の声に元気よく答えた藤咲千尋(
ja8564)が暦へ狙いをつける。暦はそれらの動きを冷静に眺め、受けとめた。笛は鳴らない。
その時、ずっと気配を消していた烏丸 あやめ(
ja1000)が動く。一瞬でかざねの背後に回り込んだ。
「…………」
無言のまま攻撃を
「なんのっ! かざねコプターに死角なしですよー」
かざねの秘儀、かざねコプターが発動(?)。そのおかげ……かどうかは分からないが、ぎりぎりで攻撃を受け止められた。どういう原理なのかとかは、きっとつっこんじゃいけない。
「龍実さんのためにも、私が」
そうしている間にフィンのエナジーアローが玲獅へと命中。笛が鳴り、玲獅失格。
「スイカは美味しく頂かないと、なんだね!」
真野 縁(
ja3294)は士気高揚中に、とスイカを狙って魔法を放ち、すぐさま後ろに下がった。
かざねが暦の背後に回り込む。
「もらいました」
「しま、う……あ〜」
暦は残念ながらリタイアだ。しかしジョーンがすかさず「甘いよ」かざねへ攻撃をし、かざねもまた失格となった。
「道は……開いた! たぶん(ぱたり)」
「よしっ。どんどんいくよ」
前衛で戦っているコンチェは、おそらくディフェンスであろう相手に苦戦していた。攻撃は当たったものの、まだ倒せない。
対峙しているのとうと威織。先に動いたのはのとう。だが攻撃は避けられてしまう。のとうは攻撃直後で隙だらけ。そのチャンスに、威織は得物を掴む手に力を込めた。
「攻撃が一回とは限らないんだよ」
しかし縁が威織をさらに魔法で攻撃。こちらは避けられず、威織はあえなくリタイア。
「負けちゃいましたか。でも楽しかったです。お相手ありがとうございました」
再び気配を消していたあやめが、今度はのとうの背後に現れてのとうを失格へと追いやる。
「あちゃー、やられちゃったのな」
そんなのとうの影から飛び出たBの1人があやめを襲い、あやめも失格となる。
「ま、こんなもんやな」
続いてフィンへBの1人と千尋が攻撃し、フィンも失格となる。
(でもこれでゆっくり龍実さんとデートが……少しくらいは遊んで行っても大丈夫よね? せっかく水着も気合い入れて……)
次のターンでコンチェと姫宮がディフェンスの1人を倒すが、集中攻撃を受けてコンチェがリタイア。
「む。スイカ割りは難しいな」
残るはAのジョーン(オフェンス)と姫宮(なし)の2名と。Bのオフェンス、縁、宣言なしの3名。
共にダメージはなく、その後も接戦を繰り広げた。
しかしながらやはりわずかな数の差か。ジョーンも綾もリタイアとなった。
「……くっ。まあ、しょうがないか」
「ボク、まだ遊び足りない!」
「あのスイカにでも遊んでもらったらいいんじゃないか?」
ダダこねる綾だが、ジョーンの言葉に瞳を輝かせ、健人が首をかしげた。
Bチームの縁と宣言なしの2人が残り、こちらの戦いはBチームが勝った。
●【A】右翼vs【B】左翼
同時刻。こちらは先ほどとは真逆で行われている熱戦だ。ルーナが眺めながらスイカを食べているのは、とにかく今は置いておこう。
士気高揚がかかった瞬間、一番最初に動いたのは氷月 はくあ(
ja0811)だった。
「うぅーー! こういうのってテンションあがるよねっ!」
遊びだが、遊び故に全力を出す。集中力を高め、Aチームの狙撃手と思われるファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)を狙った。
「ふふりっ、止まって見えるよっ!」
「ふふ、こうしてたくさんのお知り合いと動くのは勝負であってもわくわくしますね。
浮かれて失敗しないようにしませんと」
気を引き締め直していた神月 熾弦(
ja0358)は、ファティナへと向かって放たれたおもちゃの銃弾に気づいた。
「あれはっ! くぅっ」
身体を入れ込み、ファティナの代わりにおもちゃの銃弾を身に受ける。気づくのに遅れたからか、受け止めるのはできなかったようだ。
(いまのでいくつポイントが減ったのでしょう。分からないのが厄介ですね)
「私が……ひきつけている間に……回復を……シャー!」
そんな熾弦をカバーするようにアイリス・L・橋場(
ja1078)が飛び出す。そして暗赤色のオーラと漆黒の影を腕にまとわせ、威嚇の声を上げながらBチームの前衛へと一撃を与えた。
笛はならないが、かなりの衝撃があったのだろう。身体がふらついている。熾弦はアイリスへ礼を述べてから自らにヒールを使って回復する。
(やはりファティナ君が狙われたか。狙撃手を狙いたいところだが)
天風 静流(
ja0373)は、目の前の敵に意識を向ける。
「そうやすやすと狙わせてはくれないか」
「そういうことだね」
一気に突っ込んできたグラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)へダメージを与えた。それを見ていたBチームのディフェンスが回復しようとしたが、先ほどのダメージが抜けていないらしくできなかった。
(なるべく遠距離の方を狙いたいところですが……ん?)
弓を構えたまま、ファティナはじっと相手の動きを見る。
(さて。ただ突っ込むのも芸がない。なら)
Bチームの十笛和梨(
ja9070)は、榊十朗太の影に身を隠す。十朗太はその動きを見ても何も言わず、そのまま敵陣へと突撃する。
目指すは――スイカ!
「‥‥こういう一か八かな特攻も悪くない」
「(なんて無茶な突撃を)させません! これで終わり」
弓の狙いを十朗太に向けたファティナ。魔法の矢が十朗太へ突き刺さる。
「さて、それはどうでしょうか?」
突きささる、前に……ニヤリと笑った和梨が十朗太の前へと飛び出して代わりに矢を受けた。
「さあ、お先へどうぞ」
「助かった。またあとでな」
あらかじめスイカを狙うと宣言していた十朗太を和梨が援護したのだ。飄々とした様子で戦場の外に出ていく和梨に礼を言ってから、十朗太は一気に駆け抜けて後方で待機していた緋毬の背後をとった。
「悪ぃが、道を開けてもらうぜ」
「敵の気配っ? ひまちゃん、しゃがんでっ!」
「ひゃう」
だがいち早く気づいたひなこの指示に、緋毬はなんとか十朗太の攻撃を避けた。
「おっやるなぁ」
「今度はこっちからだよ、ひまちゃん!」
「はい!」
お返しとばかりに緋毬が反撃するが、十朗太もまたひらりと攻撃を避ける。避けた先に、ひなこの弓矢が飛んでいく。しかしこれも何とか避ける。
「よっとと。このまま抜けさせてもらうぜ」
十朗太はそのまま、中央の戦いへと飛び込んでいった。ひなこは前方の戦いを確認しつつ、いつでも参戦できる位置まで十朗太を追いかけることにした。緋毬もその指示に従い、健人を守りに行く。
そしてこちらは睨みあっているグラルスと静流。グラルスが戦場を見まわしてとある一点に目を止めた。
「(今しかない)一気に行くよ。……押し流せ、太陽の炎よ。ヘリオライト・ウェーブ!」
グラルスが生み出した炎の球が、アイリスと静流を襲う。
(できればもっと大勢巻き込みたかったところですが)
Bが範囲攻撃をしてくるだろうという予測をほむらから聞いていたため、Aチームはなるべくばらけていたのだ。
それでも2人同時にダメージを与えたのは大きい。
「この手の集団戦に於いて、最も重要なのは攻撃力だ。さぁ、ガンガンいくぜ!」
弓を構えたテト・シュタイナー(
ja9202)が、そう呟いて矢を放つ。狙うはスイカへの道をふさぐ敵――回復を終えたばかりの熾弦。鋭い一撃が熾弦を襲い、
「ピーっ神月 熾弦、失格!」
「すみません。やられてしまいました」
熾弦が退場する。
ここで士気高揚の効果が切れた。
グラルスが後ろに下がる。
「貫け、電気石の矢よ。トルマリン・アロー!」
「ぐっ」
静流が追いかけようとした足を止めて矢を受けた。これで静流はもう後がない。
(一端体制を整えるか)
「アイリス君っ」
「はい」
静流、アイリスともに一端後ろへとさがり、ファティナを守る。そこへひなこが近づいてきた。
「私よりもアイリス君に」
ヒールもこの試合の中ではたった1ポイントしか回復しない。ならアイリスを回復させた方がいい、と静流は判断した。ひなこも頷き、アイリスにヒールを使う。
「ここは確実に狙わないとね」
「道を開けろぉっ」
はくあが静流を。テトがファティナを狙い撃ちし、静流は失格。ファティナはぎりぎりで避けた。
1人敵陣へ乗り込んだ十朗太は、緋毬へ一撃を加えて再びスイカへと向かおうとしていた。
「ごめんなさいっ!」
謝りながら攻撃しているのは緋毬。十朗太は「さすがに簡単には抜けられねぇか」と呟き、放たれた攻撃を受けてしまった。笛が鳴る。彼はオフェンスだったのだ。
(ということは、今私は1ポイントダメージと)
「ふぅ。二度目のチャンスはあげませんよ?」
そしてファティナが動く。射程から外れていたテトを狙うために前進し、弓を放つ。見事に命中! テトが失格となった。
残るは【A】アイリス、ファティナ、ひなこ、緋毬。【B】ディフェンス1、グラルス、はくあ。
互いに回復を使い切り、最終的に残ったのは緋毬だった。こちらの勝者はAチームだ。
緋毬は少し呼吸を整えた後、中央の戦いへと向かって行った。
●中央vs中央
中央の人数は13人対13人。特徴としてAはオフェンス、Bはディフェンスがやや多い。
「う〜ん、やっぱりみんなが必死に頑張っているのをのんびり応援するのは快楽なんだなー」
スイカを食べてご満悦のルーナの口から本音が漏れ出ている。この子、中々やりおるっ?
「っしゃ! いっくよー!」
「さあ、行こうか」
気合い十分なのは真久遠プロレス部長の與那城 麻耶(
ja0250)と阿岳 恭司(
ja6451)。……海辺にチャンコという組み合わせは、とても暑そうだ。しかしこれから行われる戦いの方が暑くなることだろう。
なぜなら
「海といえば……やっぱりスポーツだよね〜。そしてあたしとエリスの連携なら怖いものはなしっ」
「これもまた一つの戦いではあるわけですから全力で行きましょう」
対するのがフューリ=ツヴァイル=ヴァラハ(
ja0380)とエリス・K・マクミラン(
ja0016)だからだ。こちらも気合は十分。
「日本では海といえばスイカとは聞いていますが、これは何か違うような気がします」
エリスは若干首をかしげていたが。
「先手必勝!」
士気高揚がかけられた瞬間、麻耶のドロップキックがフューリにさく裂する。さらに恭司が追い打ちをかけようとしたところでエリスが間に入り、赤く光る手で恭司の攻撃を流した。
「お2人が相手だからこそ、全力で行かせて貰います!」
と、その時。Aチームの他のメンバーが手伝おうとしたが、恭司はそれを制した。
「助太刀無用! これはプロレスラー同士の真剣勝負じゃぁ! 君たちは進むといい」
チャンコマン恭司は見た目以上に熱いハートの持ち主なのだ。
「やるなぁっ」
ヒューリはヒールで傷をいやして、笑った。そして渾身の力を込めた蹴りを麻耶へ放つ。
「なんのっ」
麻耶もまたその蹴りを蹴りで受け止めて、笑った。全身から楽しいという思いがにじみ出ている。
そんなプロレス対決の横を駆け抜ける者がいた。戸次 隆道(
ja0550)だ。
(流れをこちらに引き込めればっ)
できることならスイカ役まで一気に行きたいところだが、さすがに届かない。それでも前衛にいた1人に攻撃を当てることができた。
(笛が鳴らない……なしかディフェンスか)
倒すことはできなかったが、今まさに前進しようとしていたBチームの足並みが乱れる。
「すいかはやらせない、の」
驚いていたぴっこ(
ja0236)が、前へ向けていた意識を隆道へと変更し、銃を放つ。隆道は何とか避けようとしたが、間にあわずあたってしまった。
「やられてしまいましたか。仕方ありませんね」
苦笑しつつも、意表をついて足並みを乱すことには成功したので、隆道はAチームの応援に回った。
「あたいがスイカを一番に叩くんだから!」
ぴっこの後ろに控えている雪室 チルル(
ja0220)は、その手にマグロを握っていた。
いや、正確に言うと本マグロの浮輪。愛用の大剣の代わりに持ってきたようだ。……どこで売っているんだろうか。
「あ、あたいにかかればこれでも十分なんだから!」
大声と共に走るチルル。途中で砂とは違う感触を足裏に感じたものの、気にせず進んでいった。
(ぐふぅぁっ! み、みぞおちにぃっいや。耐えろ。耐えるんだ!)
必死に耐えているのは佐藤 としお(
ja2489)。先ほどチルルが踏んだものの正体だ。
このスイカ割りを聞かされた時「そんなスイカ割り聞いたことないよ!」と叫んだとしおだが、全身に砂をかぶって擬態しているところを見ると、ノリノリである。
なるべく人が通らない場所を、と思っているが今は混戦状態。敵も味方も分からぬ足に踏まれる。
「ハムちゃん、いくさー!」
「はい、がんばりましょう、アリサちゃん」
Aチームの与那覇 アリサ(
ja0057)と紅葉 公(
ja2931)も、としおの上を通過してBチームへと攻め込んでいった。ぴくりと砂が動いたが、としおは無事だろうか?
アリサと公たちの狙いは、1人で行動している相手だ。
まずアリサが戦場を見まわし、1人おどおどしているぴっこを発見した。
「ごめんなー」
謝りつつもすばやく懐に入り込み、小さな体を上空へ蹴り上げる。そこへすぐさま公が追い打ちをかけ、避ける間も、逃げる間も、思考する間も与えず、ぴっこをリタイアさせた。タイミングはばっちしだ。
「やるじゃない! でもこのあたいの必殺技で道を切り開くわ!」
チルルが大きな声を発すると同時に、マグロの先端にエネルギーが集まっていく。
「あれはまずいさー。ハムちゃん、さがって!」
「は、はい」
「遅い! 氷砲『ブリザードキャノン』」
集められたエネルギーがチルルの前方一直線に放たれた。格好いいのだが……マグロから放たれたというのが何ともシュールだ。
「ピー! 紅葉 公、失格!」
「ああハムちゃん、ごめんさー」
「いえこちらこそごめんなさい、アリサちゃん」
オフェンスであった公はあえなくリタイアとなってしまった。
(範囲攻撃。あの人は要注意……でもオフェンスではなさそう。他にオフェンスらしい人は……)
冷静に戦場を見まわしていた権現堂 桜弥(
ja4461)は、チルルの範囲攻撃が直線であることに目を止め、仲間に直線を避けるように指示を出す。
それからオフェンスらしい人を探すのだが、どうにも見当たらない
「もしかしてオフェンスいないのでしょうか」
「そうですね。俺もいないと思います」
英斗が同意する。少なくとも自分たちが狙える範囲にはいなさそうだった。となると、範囲攻撃を出来る相手を倒す方がいいだろう。
「範囲攻撃の人を狙いましょ。……って、まったく。これの何処がすいか割なの?」
「先生も物騒な遊びを考えましたね……ええ、わかりました。全力で、一緒に遊びましょう!」
「守りは俺に任せておいてください」
「どうせなら勝ちたいなぁ。よし、守備を信じて、私、ちょっと頑張ってくる!」
「ダメージ受けたらすぐ戻ってください。回復します」
カタリナ(
ja5119)、英斗、天原 茜(
ja8609)、ほむらは、それぞれの役割を果たそうと動きはじめる。
その頃、プロレス部の戦いはというと恭司のお腹にエリスのファイアバーストが綺麗に入ったところだった。恭司はオフェンスであったために、これでリタイアとなる。
「む。やられてしまったか」
「阿岳先輩!」
「よそ見はよくないよ」
わずかに気が逸れた隙にフューリのロイヒテンシュテルン・リュトムスと名付けられた蹴りが、麻耶の身体を吹き飛ばす。
すでに2ポイントダメージを受けていた麻耶はこれで失格だ。残念そうだが、でも笑顔で退場していった。
「ぷはー! 良い試合だったね!」
「うん。またあとで」
「これ、スイカ割りと言うよりは狩りの様な物ですね」
「本物のスイカを割れぬのは残念でありますが……その分、皆様を狙い撃たせて頂くでありますっ!」
冷静に呟くのは雫(
ja1894)。混戦状態に陥っている戦場を見まわして、オフェンスを探しているのは綾川 沙都梨(
ja7877)。ともにBチーム。一太郎の守りは他のメンバーに任せ、攻撃へ動こうとしていた。
「反撃開始だよ!」
飛び出してきたのはAチーム、天原 茜。攻撃したりばかりで体勢が整っていないエリスへ拳を振るう。そしてそれは見事に命中。そしてそこへ、ほむらがコメットを打ち込んだ。
ヒューリは避けたが、エリスはそうはいかなかった。エリス、失格。
そこへ緋毬が加勢にやってくる。
「ごめんなさいっ」
やはり謝りながら、霧を発生させてヒューリの視界を奪う。カタリナが桜弥の名を呼び、桜弥はその声にヒューリへ銃を撃つことでこたえた。命中する弾……しかし笛はまだならない。ヒューリがすぐに回復していたからだ。
「いざ、南無三!」
今度は沙都梨が銃を放つ。茜へと飛んでいく銃弾が当たったのは、カタリナだった。
「中々やるであります!」
「そう簡単にはやらせません」
さてここで、何かを忘れていないだろうか。
そう。砂に擬態していたとしおである。彼がどうしているかというと
「当たれ当たれ、わははははー!」
Aチーム前衛の背後に回り込み、なぜか高笑いしながら射撃していた。楽しそうでなによりだ。
としおの攻撃はアリサに当たった。だがまだ失格とならないアリサは前へとツッコミ、チルルへ一撃を与えた。しかし横に回り込んだ雫が素早い一撃を。
「狩らせて戴きます」
こちらを避けることはできず、アリサも失格となった。
「左からも来てます。気をつけて」
後方から英斗が雫ととしおへの警戒を促し、自ら盾になるように陣取る。
「ここは俺に任せろ!」
そう声を上げ、としおへと向かっていった。
●本陣
「わーいスイカわりースイカわりースイカー食べたいねー、かまみー」
【か、かまみー?】
「ん。普通のスイカ割りと違うスイカ割りなんだねーじゃあボクスイカ守っちゃうー」
【ありがとうございます】
噛み合っているようで噛み合っていない会話をしているのは、健人と鬼燈 しきみ(
ja3040)だ。
「鎌海さんのスイカ……割らせないの……」
【根来さんんもありがとうございます】
根来 夕貴乃(
ja8456)が続いてそう言うと、健人がぺこりと頭を下げた。なんだか随分とのんびりしている。
そんな様子に苦笑したのはもう1人の守り手、龍崎海(
ja0565)。和やかな空気はいいのだが、前線ではかなり激しい戦いが起こっているので、そのギャップが激しい。
それでも3人とも時折飛んでくる流れ矢流れ玉をきっちりさばき、時には健人の代わりに身に受けているのだからさすがだ。
「ん〜、ちょっとAチーム押されてるねぇ」
「どうやら向こうのチームはディフェンスの方が多いようだね」
「ディフェンス多い……壁?」
「遠距離攻撃が得意な人多いし、前衛に壁になられたら……きついな」
【ボクらも出た方がいいでしょうか?】
不安そうな健人の言葉に、
「あー、それ楽しそうだねー」
「楽しいかはさておき、数が少なくなってきたし加勢した方がいいかも、逃げ続けても勝負は決まらないし」
「私……回復を」
3人はそれぞれの方法で頷き、健人たちも参戦したのだった。
一方こちらはBチームの本陣。
「大勢で遊ぶの、楽しそうです……ディフェンス、頑張りますね」
「おっしゃー、思いっきり遊ぶぜー! 海来たかったんだよなー、先生ありがとー!」
「おう。これ終わったら自由行動とるつもりだからな。他にも遊べ」
「じゃあ、えっと、魚獲って焼きたいな」
「それいいな。他にもいっぱい遊ぼうぜ。健人にーちゃんとかAの人も誘って」
久慈羅 菜都(
ja8631)、花菱 彪臥(
ja4610)の頭をポンポンと撫でながら相手している一太郎。そんな彼を守るように構えつつ、楯清十郎(
ja2990)も近くにいた九十九や森林へ声をかけた。
「遊びながらですが集団での戦闘を学ぶ良い機会ですね」
「そうさねー」
「でも、スイカ割りってこんなに怖かったっけ……」
「細かいことは気にしない方がいいさね」
そんな話をしつつ、清十郎はスイカの動きをじっと見た。
(それにしてもあのスイカの動き……どこかで見たような?)
「ここは一気にいかせてもらいます! ごめんなさい」
と、その時前衛をくぐりぬけて本陣へとやってきた緋毬の魔法が、一太郎へと飛んできた。しかし九十九はまるで慌てず
「その攻撃に対しては、暗紫風さねぇ」
わずかに狙いのそれた攻撃を、一太郎は一歩下がって避けた。そして森林の放った一撃が緋毬をリタイアさせた。
「さぁてと、そろそろいこうかねぇ」
「あ、俺も行きます」
「そうだな。そろそろ最終戦にするか」
「先生行くのかっ?」
「向こうのスイカ役も出てきたみたいですしね」
「スイカ……」
九十九と森林の言葉に一太郎も攻撃へと加わり、さらには縁たちも戦線に復帰。
戦いは長引いたものの、Bチームの勝利に終わった。
●一応授業でした
「はい、ごくろうさん。
今回はかなり特殊なルールだったが、各々思ったように動けたか?
俺から言いたいのは1つだ。
チームとしての方針をきちっと決めておけ。今回ならスイカを倒すかスイカ意外を全滅させるか。
ちゃんと決めて全員へその方針を伝達。その上で方針に従う従わないは自由だ。だがどちらに向こうとしているのか分かってなければ、味方の足を引っ張るつもりじゃなくとも足を引っ張ることもある。
大人数になれば意思疎通は大変だが、ま、そういうことだ」
一太郎はやる気があるのかないのか。淡々と総評を述べてBチームにお金を配った。
「あとは自由にしろ。本物のスイカも用意してるから、食べたければ食べろ」
解散! の声に誰もが歓喜の声を上げ、好きなことをし始めた。
「折角だし、これで普通にスイカ割りしないか?」
海が一太郎から受け取ったスイカを掲げて言うと、あちこちから声が上がる。
「のと姉、縁ちゃん、ぎゅむむうううううう……って、スイカ! やるやる!」
「おっつかれさまー! 楽しかったねーー! んんっ? 俺もスイカ割りしたいのな」
「ちょうどスイカ食べたくなったところなんだよー」
これはお互いぎゅうぎゅうと抱きしめあっていた千尋、のとう、縁の三人。スイカ食べられないのか、
スイカ割り たべられないのよね スイカ割り
という心の俳句を作ってしまっていた千尋が飛びつき、のとうも縁ものりのりだ。
「スイカ割り? 先ほどのをもう一回するのだろうか?」
「いや違うわ。あれはスイカ割りなんかじゃなくて」
「なるほど。あれはやはり普通のスイカ割りではなかったのですね」
「私もスイカ割りしてくるねー」
「本来のスイカ割りは、目隠しをしてスイカを砂浜において」
良く分かっていないコンチェに、桜弥があれはスイカ割りじゃないのだと説明し、カタリナも横で納得していた。茜はスイカ割りへ参加し、英斗は本来のスイカ割りについて教える。
「さっきはスイカ割れなかったし、こんどこそあたいが割るわよ!」
「マグロでスイカ割り……そんなスイカ割り見たことないよ」
「いけー、名刀マグロ!」
木刀ではなくマグロを振り回すチルルに、としおがツッコミを入れたり、ルーナが楽しそうに応援したり。
「この水着、どうかな。龍実さん」
「え、その……似合ってる、すごく」
フィンと龍実が見つめあって、いい雰囲気を醸し出していた。変わった初デートになってしまったが、なんとかうまいこといったらしい。
「その、今日は……」
「今日の龍実さん、凄く格好良かったよ」
「フィン……ありがとう」
みんな、大変だ。リア充がここにいるぞーーーっ!
「変わったスイカ割りでしたけど、こう言うのも楽しいですね」
【ボクも楽しかったです】
雫がそう健人に声をかけ、健人は目を細めた。雫はさらに舞踏会で着ぐるみを褒めてくれたことについてお礼を述べ、今日の着ぐるみの出来についても褒めた。
「今日の着ぐるみも素敵ですね」
【あ、ありがとうございます】
表情をあまり浮かべることのない彼女だが、唇はかすかに弧を描いていた。
「お疲れ様です、アイちゃん」
「え、あ……あの……」
「ふふ。お疲れ様だ、みんな」
「お疲れ様です。負けてしまいましたが、良い経験になりました」
ファティナに抱きつかれて顔を真っ赤にさせているアイリス。を眺めながら、熾弦と静流は笑いあった。
「いやー、あの技のかけ方はよかったね」
「私なんかまだまだで」
「でもたしかにキレがましていたな」
「今回はポイント制でしたしね。別の条件でしたらどうなっていたか」
プロレス部の面々は一カ所に集まって、互いにかけ合った技について真剣に、かつ楽しそうに話し合っていた。
「魚……獲れた」
「おおっすっげぇ。健人にーちゃん、魚獲れた〜。火の準備はどうだー?」
【も、もうちょっと待ってください】
「ここはこうするといいさ」
【ありがとうございます】
九十九と健人が火を起こし、彪臥と菜都が獲った魚を焼く。食欲をそそる香りに、人が集まって来る。
「しかし普段から着ぐるみ姿でいたとは知りませんでしたよ。『ケントーンジャー』さん」
健人に冷えた水とタオルを渡した清十郎が苦笑した。健人は頭を下げ、着ぐるみの上から水をぶっかけた。
【とても気持ちいいですねぇ】
「う〜ん、そうなんだ?」
まったく着ぐるみを脱ぐ気配のない彼に驚きつつ、その頭部分にかじりついた綾を見て口をぽかんとあけた。
「健人様、あっそぼー」
【わひゃぅっボクは美味しくないのですよ〜】
「まったく。ほどほどにな」
ジョーンが肩をすくめつつ、止める様子はない。
「な、健人のスイカって、海に浮くのか? 俺ってば気になるんだな」
「あ、それボクも気になる!」
「おお。かまみー泳ぐの?」
【え? え?】
「そうだな。海に来てスイカ割りまでするのに、泳がないってのはないだろ」
「一緒に……泳ぐの」
のとう、しきみ、海、夕貴乃まで加わってスイカを海まで引っ張っていく。他にも大勢巻き込んで、みんなで楽しく遊んだ。
「泳ぎでは負けませんよ」
「俺もこっちでは負けないさー」
「ふふ。がんばってください、アリサちゃん」
「あらあら」
「おおっスイカが浮いてる。というか泳いでる」
「ひまちゃん、みんな。お疲れさま。アイスどうぞ〜。あ、そだそだ。記念に一枚撮らない?」
「わっえへへ……写真ですか。それはとても素敵ですね」
たっぷり遊んだ後、ひなこと緋毬がみんなに冷たいアイスを配った。それからひなこのカメラで記念撮影することに。
「……もうちょい真ん中寄れ〜……んじゃ、撮るぞ〜……久遠チーズ」
「そんな掛け声聞いたことないよ」
「あははははっ」