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マスター:真人
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/24


みんなの思い出



オープニング

●某青年の日記
 ――今日、元気な子に出会った。
 しがない出入り業者の僕にも元気に挨拶をしてくれた。
 相良彗……まだデビュー前だけど、あの子はきっと成功する。僕はそう思った

 ――彗ちゃんが新作ドラマの主演に決まった。やっぱり僕が見込んだ通りだ。
 これを踏み台にして、一気に駆け上がれると良いのに。

 ――驚いた。まさか彗ちゃんがこのマンションに越してくるなんて。
 すごい偶然……いや、きっと必然に違いない。僕が彗ちゃんを見守り続けるのは、運命なんだ!


●報告書・追記
 新人女優・相良彗のストーカー被害。
 調査の過程で新たな容疑者として存在が浮上したのは、彗と同じマンションに住む青年だった。
 正体を確認するために青年の自宅へ潜入した学園生が見たモノは、部屋中に飾られた相良彗の写真の数々。
 雑誌の切り抜きからドラマのワンシーンまで――さすがに私生活の隠し撮りは無かったが、その光景は『情熱を向けるべき矛先を誤っている』と偵察をした学園生が柳眉を顰めた程だった。
 室内から見つかったファンレターの下書きや日記の記述から、彼がストーカーである事は明白。
 天塚護――それが青年の本名。
 もちろん『天使』でも何でもない、ごく普通の一般人である。


●作戦会議
 人払いがされた奥の個室で、事件解決に向けて作戦会議が開かれる。
 参加者は仲介役である深紅と被害者の彗。そして、平野翔――彼は先日行った調査の際、彗を取り巻く撃退士の存在に気付き、自ら接触してきた。
 アドバイザーになるという申し出を、深紅は口封じの意味も兼ねて受け入れる事にした。
 当初はほとんど期待していなかったが、彗の認識力が乏しかった事もあり、平野の持つ情報網は予想以上に役立つ事になった。

「あのね、社長さんがマンションを引っ越しても良いって言ってくれたの」
 席に着くなり、これでもう心配いらない、と陽だまりのような笑顔を見せた彗は、自分に向けられた視線に小首を傾げる。
「……これだけじゃダメなの?」
「当たり前じゃない」
 この期に及んで危機感の薄い彗に、深紅は頭を抱えた。
 確かに引っ越してしまえば、私生活を探られる心配はなくなるだろう。
 しかし、仕事場では変わらずに彼の視線を浴び続ける。
 どこからか彗の住所を突き止め、今度は自分から引っ越してくる可能性だってあるのだ。それを避けるには……。
「被害者を特定しないでタレ込んで、出禁にしてもらう?」
「全てのスタジオやロケ現場でかい? さすがに非現実的だね」
 深紅の葛藤を見透かしたように平野が言い切った。
「どうせなら店の方に働きかけて、彼をクビにしてもらう方がよっぽど早い。だけど」
「障害がある程燃え上がるタイプだったら、困るよね」
 天塚の原動力となっているのは、『自分が彗を守らなければ』という純粋な保護欲だ。しかしそれは、いつ独占欲や所有欲に変化するかも知れない危険な感情でもある。
「彼が自分で気付いて止めてくれれば一番なんだけど」
 天塚自身をストーキングするという方法も考えたが、それを彗に対する攻撃と思われては逆効果だ。
 何か良い方法はないか?
 深紅はこめかみに指を添えて意識を集中させた。
 その隣りで新人女優が音を立ててメイプルシェイクを啜り、平野は鼻歌混じりに特大パフェを頬張っていた。
(こ、こいつらは……)
 緊張感のカケラもない。
 一緒に考えるつもりがないなら、せめて静かにして欲しい。
「彗ちゃん、お行儀悪い」
 耳障りな音に耐え切れず、小言を口にする。
「だってこれ、美味しいんだもん。残したりしたら勿体ないよ」
 ぷくっと頬を膨らませる姿は可愛らしいが、深紅は騙されたりしない。女優としての立場。女の子としての嗜み、都会と田舎の違い――それらを懇々と言い聞かせる。
 女の子に甘い平野は、その様子をとても楽しげに眺めていた。
「……あぁ、ごめんごめん、悪気はないんだ。君は本当に信頼されているんだなぁ、って思っただけだよ」
 笑いを漏らし睨まれた平野は悪びれもしない。
「俺達はオフ日でも、世間からは『芸能人』として見るだろ? だから人目のある所じゃ迂闊な事をできないんだ。
 なのにここまで地を出せるってのは、かなり気を許している証拠なんじゃないかな」
「それは、あんたも信用されていると……」
 ――人の目がある所では、迂闊な事をできない。
 その言葉が、深紅の頭の中で鐘楼のように鳴り響いた。
「そうだ!」
 名案を思い付いたとばかりに深紅は指を打ち鳴らした。
「彼を有名にしちゃえば良いんだ! どこに居ても周囲の注目が自然に集まっちゃうぐらいに。そうすれば変な仕込みをする暇なんてなくなるだろうし、彗ちゃんが感じた居心地の悪さも自覚すると思う」
 解決への道筋は見つかった。あとは上手く場を作り上げ、導いてやるだけ。
「そうだ。ちょうど今、知り合のディレクターから『トリック☆スター』の企画を依頼されていてね。どうせなら利用しちゃえばいい」
 深紅が組み立てた骨組みを平野が補強し、より具体的な作戦として形を成し始めていった。


●作戦開始
 リニューアルオープンという事もあり、レジャーランドは開園待ちで長蛇の列ができていた。
 整然と並ぶ人々の羨ましそうな視線を浴びながら、ショッキングピンクのうさたんに導かれた数名が、入場ゲートをくぐり抜けていく。
「状況はどうなってる?」
『天塚君ならロケ隊と一緒にこっちへ向かっているよ。抜かりはない』
 訝しげな深紅の囁きに、うさたんが親指を立てた。陽気な言動と生気のない眼のギャップが激しすぎる。
『さて……と』
 襟を正すように咳払いをひとつして、うさたんは手にしたメガホンを構える。
『今日、撮影をする『トリック☆スター』……芸能人にイタズラを仕掛け反応を楽しむ、という番組の趣旨はすでに聞いているね? 園内にはすでに仕掛人がうようよ。もちろん君達はその一員だ』
 ボイスチェンジャーを介しているうさたんの声は聞き取りづらい。更に奇妙な踊りを混ぜるので、中々話が先へ進まなかったりする。
 痺れを切らした深紅がメガホンをもぎ取り、説明を引き継いだ。
 自分達が利用するのは、実際にテレビで放送されるイタズラ番組の収録である事。
 番組のターゲットが現役女性アイドルであること。彼女達と行動する『一般人役』に天塚護を放り込んだ事。
 そして――アイドルに仕掛けられるイタズラに天塚護を巻き込む事が今回の『依頼』である事
「彼を懲らしめるんじゃなく、注目を集めて欲しいの。もちろん良い意味で。彗ちゃんも、彼の社会的信用が傷付く事は望んでいないから、そこだけ気を使ってあげて欲しいんだ」
 必要なのは、天塚に自分がした行為の意味に気付いてもらう事。決して断罪などではない。
 それがわがままな望みと理解している深紅は、協力を申し出た学園生に精一杯頭を下げた。

 仕掛人の証であるパスを受け取った学園生達は、それぞれの計画を実行するため、園内に散っていく。
 すでに準備は万端。
 そして午前9時――遊園地の入場ゲートが開放される。
 ショッキングピンクのうさたんに導かれ、女性アイドル達と共に天塚護が姿を現した。


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リプレイ本文

●必殺☆仕掛人、集合
「……ドッキリ番組で犯人を目立たせる、かぁ」
 初めての遊園地に瞳を輝かせるRobin redbreast(jb2203) の隣で、ユウ・ターナー(jb5471) はたった今聞いた説明を反復した。
「んと、それって、アイドルさん達も巻き込んでドッキリさせなきゃいけない……ってことだよね? むぅ、何だか難しいけど、ユウ、頑張るよっ!! 」
 小さな身体に決意を漲らせるユウの姿はとても頼もしい。
「さて。追いかけられる事が如何に怖いか、少々思い知って貰おうか」
「手加減しろ、とは言われてないですしィ?」
 徹夜明けの頭痛を堪える戸蔵 悠市(jb5251) に頷いたのは、相方であるルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)……否、今はルド子と呼ぶべきだろうか?
 癖のある金髪は柔らかウェーブの黒髪になり、春を思わせるガーリーな衣装に身を包んだ、完璧な『女性』になっているのだから。
 着慣れない故にキマらない悠市に着こなしを指導する姿は、まるでデートを楽しむカップルのように見えた。
「言われていないから良い……ってワケじゃないさねぇ」
 リミットは自分が思う八割ぐらいに設定するべき、とアサニエル(jb5431) が2人の悪巧みに釘を刺す。
(犯罪者なら、捕まえるか、やっつけちゃえばいいのに……。)
「あたし的には、はっきりさせた方がお互いのためだと思うんだけれど。被害者の彗ちゃんがそう望んでいるなら仕方ないわ」
 なぜこんな回りくどい方法を取るのか?
 Robinが呑みこんだキルマシーン的思考を、タイトルコール(jc1034) が代弁した。
『スキャンダルをバネにできるほど、彗ちゃんは強い立場じゃないからね』
 事件が明るみになれば、晒されるのは間違いなく彼女の方だと平野は断言する。
「まぁ、改心してくれるならそれで良いじゃないですか」
 肩に乗せた小鳥の喉を撫でながら、秋嵐 緑(jc1162) は淡々とした口調で呟いた。


●撮影開始
 ショッキングピンクのうさたんは非常に目立つため、遠くからでも確認できた。
 3人組アイドルの苺、花梨、柚子は、ソレが事務所の先輩・平野だとは夢にも思わず、遊園地のリポートという(偽の)仕事を前に真剣な面持ちをしていた。
「天塚クン発見♪」
 ガーリー娘から放たれた低い声。共に行動する悠市に肘で腰を突かれたルドルフは、裏声でホホホと笑いごまかした。
 2人が考えたのは、天塚に対するストーカーを演じるという作戦だ。
 悠市が一晩かけて書き上げた恋文を、彼自身が彗に対し行ったように、鞄やポケットに忍ばせる。何度も繰り返して嫌がらせすれば、いずれ自分の過ちを悟り、恐れ慄くに違いない。
 そう考えていた。


 ロケ隊を先導していたうさたんが、レストランのチラシを配っていたくまたんに声をかける。
『やぁ、くまたん! 久しぶり』
『まぁ、うさたん。ごきげんいかが?』
 唐突に再会のダンスを始めるうさたん。紳士的な仕草で誘われたので、くまたんを演じるタイトルコールは、苦笑しつつも応じてやった。
 楽しい掛け合いで周囲を和ませた後、くまたんはチラシを渡す。
『ぜひ遊びに来てね』
 アイドルも一般人役も隔たりなく、ギュッとハグを交わし、くまたんはロケ隊を見送った。


●脱出ゲーム
 メリーゴーラウンドで軽く肩を慣らしたアイドル達は、観覧車から見えたドーム型の建物に興味を持った。
 それは新しく導入されたアトラクションだ。
 自我を持つコンピューターに支配された宇宙コロニーを舞台に、数十名のプレイヤーが協力し、襲い来るロボットやシステム異常を切り抜け脱出を目指す体感型ゲームである。
 仕掛け人としてアイドル達と同じ組に紛れ込んだ緑は、ちゃっかりと天塚の後ろに付いた。
 扉が音を立てて閉まり、薄暗くなった部屋に夕暮れの公園が浮かび上がる。

 ――第1ミッション。隠された『ワクチン』を探し出せ

 クリア条件が示されると同時に、敵ロボットが現れた。
「当たった、当たったよっ」
 ロボットの胸元の的が点滅し、天然系アイドル・苺が悦びの声を上げた。クールな柚子はワクチンを探すため、周囲に目を走らせる。
 第2、第3とミッションは進み、参加者達はクリアに必要な撃墜ポイントを積み立てていく。
 その中で殆どポイントを稼げていない者がいた。
 天塚である。
「お兄さん、右手にロボットが」
 緑の声に反応し、天塚が銃口を向けた。しかしそこに敵の姿は無く、逆に奇襲を受けた天塚は、数少ないポイントを失ってしまう。
「天塚さん、体を動かすの苦手でした?」
 気の毒そうな表情で尋ねる優等生系アイドル・花梨。
 緑の妨害が効きすぎているだけで、彼は決してトロいわけではないのだが……違うと即答できなかった天塚は、運動神経が可愛そうなヒトという二つ名を授けられてしまう。
(そろそろですね。)
 そう心の中で呟いて、緑は最後の仕掛けに取りかかる。
 ラスボスとして名乗りを上げたその雄姿は、アイドル達を含めた全てのプレイヤーに衝撃を与えた。


●ホラーハウス
 薄暗い闇の中で交錯する不気味な嘲笑と鋭い悲鳴。
 リタイア出口から出てくるマジ泣きの一般客が、恐怖一層引き立たせていた。
「ひゃうっ」
 水が滴る音に驚いた苺が硬直した。
 宙に浮かぶ血走った眼、前方を過る一輪だけの車椅子――次々と襲い掛かる恐怖の中、健気にハンディカメラを回しリポートする姿は、さすが職業魂というべきか。

 ――楽しんでいって……ね?

 タイミングを見計らい、Robinは『霞声』を天塚に届ける。
 3列の中央に居た天塚だけが不意に顔を上げたので、彼の腕にしがみ付いていた苺が顔を引きつらせた。
「今、女の子の声がしませんでした?」
 何も聞こえてないし誰も言っていない。アイドル達は耳を塞いで否定する。
 してやったり。
 反応を確認しつつ、Robinは更にイタズラを重ねていく。
 暗闇でのかくれんぼ。
 極限まで気配を薄めて忍びよる。
 足首を掴まれた天塚は、バランスを崩して転倒してしまう。
「すみません、何かが足に……」
 電気コードに躓いたのだろうかのだろうか?
 そう思って目を向けた先にあったのは、蹲って自分を見上げている生き人形……。
(あれ? 潜行、解けちゃった?)
 しっかりとハンディカメラが自分を捉えている事に気付いたRobin。
 場をごまかすためにRobinが見せた『にっこり』を、そこに居た全員は『にやり』と受け止めた。
「もう嫌ぁっ」
 柚子の心がついに折れた。
 仲間もクールなイメージも捨て去って、リタイア出口へ向かい、一目散に駆け出した。


●忍び寄る者達
 アイドル達がお花を摘みにいっている間、天塚は訝しげな表情でうさたんに声を掛けた。
「僕はただ一緒いて、話を合わせるだけ良い……はずですよね?」
 そう念を押し、天塚は手紙を差し出した。

 ――いきなりこんなお手紙ごめんなさい。素敵な貴方を見守っています。
 ――その女の子たちよりあたしの方が魅力的なのに。そう、きっと貴方は騙されているのね。

 ファンシーな便箋にいかにもな丸文字で。2通目は、少々文字が乱れていた。
「お化け屋敷と……たぶん、その前の何処かで持たせられたみたいで。これ、僕から彼女達に渡すべきだったんでしょうか? でも、文面が何か変ですし」
 これではアイドルではなく一般人役宛てにしか思えない。
「んー……知らないなぁ」
 学園生の策略と知りつつ、平野は素の声で答えた。
「放っておいて良いんじゃないか?」
 身に覚えがあるのでは? なんて冗談は、たとえ口が裂けても言えなかった。

『手紙が怪しまれている。気を付けたほうが良い。』
 警告のメールを受けた悠市は、息を吐いて傍らの相方に目を向けた。
「……という訳らしい」
「まだ完全にバレたわけじゃないんだろ。っつーか、気付いて貰えなきゃ意味ないしぃ?」
 とは言え、気を付けろと言われた以上、自重するべきだろう。
 ルドルフと悠市は、並行して行ってきたカメラへの映り込みをメインにする事にした。
 ここで再び平野から連絡が入った。
 今度は警告ではなく、アイドル達がレストランへ向かった、という報告だ。
 「へぇ」
 楽しげな店の中、無表情に立ち続ける女――不気味さを引き立たせるには絶好のシチュエーションではないか。
 またひとつ名案を思い付き、ルドルフは笑みを浮かべた。


●呪われたお姫様
『準備はOK?』
 うさたんからの連絡で、ユウはついに自分の出番が来たのだと実感する。
 血や泥で汚れたドレス。艶のある金髪は纏め、ボサボサのカツラの下に隠して……。
 衣装やメイクは『トリック☆スター』の裏方さんが手伝ってくれたので、何処から見ても完璧な仕上がりだ。
「いつでも大丈夫なのっ☆」
 元気に答え、ユウは行動を開始した。

「ママ〜……、ママ〜……」
 か細い声を上げながら裸足で歩く少女に、周囲の視線が集まる。
 もっとも一般客に紛れたスタッフが『ロケ中です』と書かれたボードを見せているので、騒ぐ者はひとりも居ない。
「ママ〜……何処なの〜〜ねぇ、待ってよぉう……」
 少女の存在に気付いたアイドル達が顔を見合わせた。
 どうするべきか? スタッフへ支持を仰ぐ表情も、カメラは絵として撮っていく。
「ママやパパと逸れちゃったの?」
 放っておく事ができず、花梨が声を掛けた。ユウは力無く首を横に振る。
「……パパぁ」
「え?」
 ユウに指を差された天塚に視線が集まった。
 ――自分は一応、仕掛人。
 きっとこの子も仕掛人。
 だから話を合わせなければ、この子が可哀想。
 でも、どうすれば良いんだ?
 ユウに手を差し伸べられ、天塚の思考はグルグルと回転し始める。
「パパっ☆」
 すっかり硬直してしまった天塚に駆け寄り、ガシっとしがみ付いた。その手はまるで氷のように冷たくて……。
「う……わあぁっ!?」
 演技と呼ぶには迫力のある天塚の悲鳴が、園内に響いた。


●くまたんの贈り物
 もっとも混み合うだろう時間帯を避け、くまたんご推薦のレストランを訪れたアイドル達を出迎えたのは、盛大なクラッカーの破裂音だった。
『おめでとうございます! 当店通算1万人目のお客様!!』と書かれた横断幕も。
 もちろんそれはイタズラ企画の仕込みだが、居合わせた一般客から惜しみない拍手が寄せられた事もあり、アイドル達が疑う様子は微塵も感じられなかった
 窓際の、一番目立つ席に案内されたアイドル達の元へ、くまたん(タイトルコール入り)が登場。
 ド派手な音楽とパフォーマンスを背負いながら、花束や記念の限定グッズを手渡していく。

 充分盛り上がったところで、タイトルコールは『くまたん』の皮を脱ぎ捨て、一般客の中へ紛れ込んだ。
 狙っていた写真撮影や握手は、ロケ中である事を理由にアイドル達に断られてしまったが、注目は充分すぎるほどを集める事ができたはずだ。


●ウォーターライド
 ロケの最後を飾るのは、この遊園地でも高い人気を誇るジェットコースターだ。
「水しぶき避けにお使いください」
 係員に扮したアサニエルが営業スマイルでビニールコート配布していく。
「このコート、水で溶けるタイプだったりしますか?」
 慌てて足を引っ張らないためにも、仕掛けに対する心構えをしておきたい――そう天塚に尋ねられ、アサニエルは一瞬言葉に詰まった。
 まさかターゲットの方から接触してくるとは予想していなかったからだ。
「いいえ、当施設で常備している物です」
 動揺を隠しつつ、アサニエルは笑顔で真実を伝えた。

 車体にしっかりカメラが固定された事を確認した後、ジェットコースターが走り出す。
 回転、回転、スクリュー……3分間の絶叫の末、最後は一気に水上へ急降下。車体を包み込むように盛大な水しぶきが上がった。
「水が凄かったぁ」
「はい。コートがなければ、ビショビショになっていたかも知れません」
「ま、アタシはちゃんと対策していたけどね」
 それぞれ感想を口にしながら、アイドル達がコートを脱いだ時。
「お客様、水しぶきにご注意ください」
 アサニエルの声と共に頭上から『バケツをひっくり返した水』が降ってきた。
 水の大半は狙い通り天塚に降り注いだが、煽りを食らったアイドル達も、それなりにびしょ濡れ状態だ。
「きゃ、痛っ」
 水を被った拍子に柚子のコンタクトがずれた。バランスを崩し、手すりを掴もうと伸ばした手が空を切る。
 危ない! と誰かが叫ぶのと、柚子を支えようとした天塚が諸共にコケるのは、殆ど同時だった。


『皆、お疲れ様だったねぇ☆』
 ここで番組名物のネタ晴らし看板を持った平野が登場。
 着ぐるみはすでに脱いでいたが、声と口調はうさたんのままなので、事情はバレバレだ。
「ひょーっ!?」
「平野さん、ひどいです……っ」
 騙された芸能人が口々に抗議をする姿も、この番組の恒例行事だ。
「おや、それはこの夏の新作かな? お洒落さんだね」
 平野の言葉で、柚子はシャツのボタンが千切れ飛んでいる事に気付が付いた。
 露わになっていたのは水濡れ対策のビキニだったが、頭が真っ白になった柚子はもうパニック状態で。
「き、きゃあっ?!」
 折重なるように倒れていた天塚の頬に、強烈な平手が叩き込まれた。


●事の顛末
 いつものように得意先を回り、弁当を配達して回る。いつもと同じ日常のはずなのに。
「へぇ……彼がねぇ」
 囁く声が聞こえ、天塚は俯いたままスタジオを後にした。
 しかしそれは次のロケ現場でも同じで。
 ――とにかくスゴイ事を成し遂げた奴がいる。
 オチこそ箝口令が敷かれているが、イタズラ企画のラストを飾った『笑劇』は、瞬く間に伝説として広まっていた。
「いやぁ、君が芸人志望とは知らなかったよ」
「今度チャレンジ企画に出ない?」
 先々で掛けられる善意のスカウトを避け、ロケ現場を見学する事なく帰るようになった。
 もっとも、人の噂は何とやら。
 やがて業界の興味も新しい噂へと移り、一月過ぎる頃には天塚を弄る者も減っていた。
 天塚見たさで一時的に増えていた注文も元に戻り、勤務先の店長は残念がっていたが……天塚はようやく戻った平穏な日々を噛みしめていた。
 しかし、天塚は大切な事を忘れていた。撮影された企画が、全国枠で放送されるという事実を。
「テレビ見たわよ。オバちゃん応援しているからね」
「くうぅ、あいつが柚子ちゃんの胸をっ!」
 束の間の平穏は終わり、今度は近所のスーパーや電車の中で、様々な人の視線を浴びるようになった。
 再び注文は増え、勤務先の店長は喜んでいたが、天塚にとっては…………。


 一方、相良彗は……。
  あのロケの後、私生活を監視されるような事はなくなった。
 頃合いを見てマンションを引っ越したが、自称『天使』は特に反応を示さなかった。
 ファンレターはその後も続いていたが、頻度は格段に減り、内容も初期のような感想や励ましに留まっているという。

 つまり彗はファンを失う事なく、ストーカー被害からも無事に解放されたのだ。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 籠の扉のその先へ・Robin redbreast(jb2203)
 天に抗する輝き・アサニエル(jb5431)
 天衣無縫・ユウ・ターナー(jb5471)
重体: −
面白かった!:2人

銀閃・
ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)

大学部6年145組 男 鬼道忍軍
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
天衣無縫・
ユウ・ターナー(jb5471)

高等部2年25組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
シシー・ディディエ(jb7695)

大学部6年298組 女 ディバインナイト
みんなのお姉さん・
タイトルコール(jc1034)

卒業 男 アストラルヴァンガード
こそこそ団・
秋嵐 緑(jc1162)

大学部4年291組 女 インフィルトレイター