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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/08/30


みんなの思い出



オープニング

「あれ、みんなまだ来てない?」
 黒地に猫の足跡が白で描かれた水着にシャツを羽織って、猫の海水浴場を見回す黒松理恵だが、他に撃退士らしい人の姿が見えない。
 かわりに見えるのは、家族連れやカップルばかり。
(うんまあ、海と言えばそうだよねぇ……しかも北海道の海水浴場だと人も少ないから、よけいに目につくっていうか)
 家族連れやカップルでなくとも、普通は友達グループと数人で来ている。
 一応目立たないためにも水着は着てきたが、女1人でたたずむ自分に、なんだか泣きたくなってしまった。
 だが元はと言えば、自分でまいた種。仕方ないのだと自分に言い聞かせる。
「こんな所でいったい、何をするのかな。あの子達は」
 以前にお手伝いする事を条件に自分を解放してもらったわけで、そのお手伝いする日と場所の書かれた手紙が届いた――だから理恵はこんな所にいるのだ。
(前、求愛ダンスを見て愛とか恋につながるのかって質問してたらしいけど……どういう意味なんだろ)
「ま、とにもかくにも今日会って聞けば分かるでしょ」
 見た目が子どもとは言え、曲がりなりにも天使からの呼び出しだというのに、楽観していた。つい先日、軟禁されたにもかかわらず。
 だからこそ、かもしれない。
(敵意というか害意を感じられないんだよね)
 もちろん、これまでにアニスとエニスがはなったサーバントが人を傷つけた事は覚えている。だがそれでもあの子供達が、害を振りまくためにやっていると思えなかった。
 そんな事を思いながら波打ち際に目を走らせていくと、それらしい子どもに目が留まる。
 ただし、その行動が何やら不自然なものであった。
 走っている男性と、友達と遊ぶ女性、どう見ても知り合いではないその2人。その2人が通り過ぎるというタイミングで、アニスとエニスが2人を突き飛ばしてよろめかせ、接触させていた。
 男性と女性は訳も分からず首を捻りながらもお互いに頭を下げ、そしてすぐ別れる。男性も女性も、アニスとエニスに気付いた様子がない。
 男性と女性が行ってしまった後で、エニスがアニスに何やら噛みつくような態度で何かを言っている。
「……何してるんだろ、あの子ら」
 一連の行動を不可解に思っていた理恵と、アニスの目が合った。
 手を振り、エニスがまだ何か言っているのを無視して理恵の方へと走ってやってくる。凄い形相でエニスが追いかけてくるが、あくまでもアニスの顔はにこやかだ。
「おねーさん、きてくれましたね」
「ま、約束だしね。じきに他の人も来ると思うよ。
 ――ところで君達って、もしかして他の人からは見えなかったりする?」
 アニスが口を開くも、エニスに首を絞められて振り回されていた。
「そうよ。見えないっていうか、気づかれないようにすることができるって感じね」
「ぼくらはまだ、それしかできないんですぅ、しかも人げんていで」
(ということは、今こうやって話してると私の独り言にしか見えないわけね)
 それは非常によろしくないなと、ごく自然なそぶりで2人を引き連れ人目の少なそうな所へと向かう。
 消波ブロックの陰についてから、そこで改めて尋ねる。
「それで、何を手伝ってほしいの? さっき突き飛ばしていた事と、関係ありそうな気はするんだけどさ」
「今からお魚さんたち、はなすんです。
 女の人をおそうようにいってあるのですが、男の人がたすけに行かなかったとき、おねーさんたちでたすけてあげてほしいです」
「襲うって……なんでそんな事するの」
「女が襲われたら男は助けて、そしてくっつく――そういうものなんでしょ? だからよ」
 アニスの説明と、当たり前と言わんばかりな態度のエニス。
 2人をに比べ、理恵は2人の行動の意味を今の情報から導き出したが、自らの答えに頭を振っていた。
(まさか、そんな馬鹿な目的を持つ天使なんて……とにかく先に、それを止めさせるよう言わなくちゃ)
「襲われたら、みんなわりとそれどころじゃないと思うんだよね」
「大丈夫よ。噛みつかれても肌に少し跡つくくらいだから」
 そう言って見せたエニスの手には、確かにうっすらと赤い歯型がついている。
 だが、子どもとはいえ紛れもなく天使。彼女が噛まれてこれなら、一般人の皮膚など易々と食い破るだろう――と、そこまで理恵は気づく事が出来た。
(そっか。この子達、自分基準でものを考えてて、加減をよく知らないんだ)
 それならば、取るべき行動は少ない。
 ただし、1人ではやはり無理だ。
「今からっていうけど、もうちょっと待ってね。みんなそろってからでないと。
 ――ところで、サーバントはどこに連れて来たの?」
「こことはんたいのところです」
 2人と話しながらもシャツの中に手をつっこみ、何かあった時用にと首から下げていた携帯で、画面も見ず、感覚でメールを作成し、今日くるメンバーへと送信する。
(こんな状況でサーバントでたら、せっかくの楽しい時間を潰しちゃうもん。
 なんとか説得で時間も稼ぎつつ、こっそりと万が一のためにサーバントもどうにかしておかないとね)


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リプレイ本文

 アロハシャツにハーフパンツという、ラフな服装の阿手 嵐澄(jb8176)はメールを見るなり、しかめっ面を浮かべていた。
「……面倒くさいねェ」
 何がという顔をする地堂 光(jb4992)へ、ジッパー付の透明なフリーザーパックに詰めた光の携帯を「はいよォ」と投げて返す。
 そして光もメールを見るなり、姉に無茶振りされた時と同じ顔をする。
「おいおい……一般人に見付からない様にかよ。厄介な話だぜ」
「まったくだ。しかも、なーにが悲しくてキャッキャウフフと楽しんでるカップルを守らなきゃいけないんだ」
 大げさに頭を振って悪態をつく久我 常久(ja7273)だが、そこに本心があるようには聞こえなかった。
「『愛とは全力で護るものなのよ。私も彼女との愛の為に、近寄るものを斬り捨てたわ』と母も言ってました」
 力説するゲルダ グリューニング(jb7318)だが、その姿はすでにワンピースタイプの可愛らしい水着姿である。ついでに傍らで浮かぶヒリュウも、腰回りにヒラヒラが水着を着せられ、メス(?)であるアピールをしていた。
 もうゲルダの母曰くに慣れたのか、古庄 実月(jb2989)は自然と聞き流し、飛びそうになった麦藁帽子を押さえる。
「一般の方が多くいる海岸にサーバントは、流石に危ないですね。何か起こる前に対処できると思えば、ありがたい話なんじゃないかなと」
 実月の言葉に、きっちりとジッパーを閉じたパーカーの城里 千里(jb6410)も気づかれない程度に、小さく頷いていた。千里だけでなく、Vertenette Hautecloque(jb8543)も大きく頷いていた。
「確かにその通りですね――ところでなのですが、一応水着は用意してきたのですけれども、着た方がよろしいでしょうか?」
 ライトグリーンの水着ではないワンピース姿だが、それでも十分に違和感はない。
 だがそんなベルテネットの両肩を、正面からがっしり掴む実月。その顔には必死さが浮かんでいた。
「お願いです。着てください……水着仲間は、1人でも多い方がいいんです」
 そんな2人へ、嵐澄が袋詰めしたスマートフォンを投げて返した。
「防水の工夫はこんなものだねェ。コンビニで買える物、だろォ? まったく、不便なルールだねェ……なんなら、2重にしておくかい?」
「そうだ。説得の方は……」
 思い出したように光がそう口にして、ふいっと千里へと視線を投げかけると、すでにこちらに背を見せ、理恵のいる所へと向かっていた。
(城里が行くなら、黒松も凄く安心するだろうな)
 ただ、妙に気持ちが落ち着かない。
 気のせいと言い聞かせ、「着替えてくるぜ」と更衣室を探す光であった。
 光と千里が動き出すと、常久はサーバントのいる所へ。実月とゲルダは、着替えに行くベルテネットの付き添いで3人(と1匹)仲良く更衣室へ向う。
 1人ポツリと残る嵐澄はというと、望遠鏡と釣竿を携え、見渡せる場所を探して歩き始めるのだった。


「お? 誰もいねえ」
 光が消波ブロックの上で辺りを見回す――と、ひょっこり、ブロックの陰から理恵が姿を現した。
 しかも、それだけではない。
 黒だけのワンカラーで、胸元にフリンジがついたホルターネックのモノキニという、少しセクシーな水着姿である。
「がっはっはっ、どうよ! ワシ、セクシーだろ?」
 口を開けばその声は紛れもなく、常久の声だった。
「久我……黒松にバレたら、死ぬぜ?」
「何の事でしょうか?」
 声の方へ顔を向けると、緑のワンピース水着に着替えたベルテネット、水着の上にパーカーの実月、それとゲルダの3人が来たが、3人の視線は理恵常久に向けられている。
 先に「久我だぞ」と光が伝えると、理恵常久が科を作ってみせた。水着からして一番、セクシーだったりする。
「本人より少しスタイルが良いですね」
「黒松さんより、より女性らしさを感じます。よく、女性を観察していらっしゃるのですね」
 上から下までをじっくり見たゲルダの言葉に、細かな仕草に注目するベルテネット。どちらもオリジナルの理恵よりも、評価は上だった。
 ただ実月だけは、なにやらジト目を向けていた。
「……その姿で着替えたって事ですよね? どこで着替えたんですか」
 さきほどまで女子更衣室にいた実月から冷たい、殺気のようなものが感じられる。
「ブロックの陰でパパっとな。
 ちなみに顔こそ理恵ちゃんだが、身体はわしのイメージしたもんだからな。よりセクシーだろ〜?」
 胸を持ち上げる仕草を見せると、光からの不穏な空気を感じた常久がその手を止める。
(おっと、ここにもこの姿で悪ノリをやめた方が良いのがいたか――)
 サーバントのいる所へと皆が歩き出すと、思い出したように光が「似合うじゃねぇか」と褒めると、不意をつかれた実月が顔を赤くする。
 ただその後にベルテネットにも同じ事を言うと、途端に頬を膨らませドスドスと歩調が荒れるのだった。
「なんだありゃ?」
 2人とも褒めたのは、そう思ったから率直に述べただけに過ぎない光は首を傾げ、不機嫌になった理由がわからないでいる。
「乙女心は複雑なのです」



 嵐澄が辺りを見回すと椅子を組み立て、腰を下ろして優雅に潮風を堪能する。
「ま、監視員のおにーさん、ってカンジかなァ。さて、と……そんじゃあ、はじめますか」
 釣り糸を垂らし、神経を張りつめらせる。
 鋭敏に気配を感じ取り、その目が大きな魚影を捉えた。
「やーっぱり、数は確認しておいて正解だったねェ。
 12匹、わりと君らの側に群がってるよォ。気を付けてねェ」
 スマートフォンで状況を伝え、ついでにメールを確認。
 鮫の動きには注意するが、それ以外、特に自分のやる事がない嵐澄は釣り糸を眺める。
「なァんか、おにーさんだけロクに働いてなくて申し訳ないけどォ……」
 麦藁帽子のつばを押し上げると、キラリと光る。
「でもまァ、しゃーないよねェ? ははっ」


「眩しいですね」
 目を差すような光に目を細めたベルテネット。前を見て歩いていただけの理恵常久と、海を覗き込んでいた実月とゲルダは、そのきらりとした光には気づかなかった。
 鮫の数を確認しながら、女性陣が消波ブロックの端を歩いて鮫達を砂浜からできるだけ遠くへと誘い出している。
 光はいつでも飛びこんでいけるように、身構えながらも後ろから付いて歩く。
「安心しとけよ、何が何でも守り抜いてやるぜ。
 ……しかしこれ、性別が迷子な奴の場合はどうなるんだろうな。見た目で判断するんだろうか」
「ヒリュウでも反応していますから、きっと見た目だけなのでしょう」
 光の何気ない呟きに、ゲルダが海の上を飛ぶヒリュウとその下の鮫を交互に見比べて答えていた。
 知能が低いだけあって思いのほかスムーズに鮫は誘導されていく。
「あとは妹萌え属性の城里さんと、黒松さんの説得次第ですね。しかしいけませんね……あの天使2人は恋愛をよく理解してないようです。
『愛とは相手をよく知り、幸せにしてあげる事よ。私もあの子の事を盗聴や盗撮して調べたわ』と、母も言ってました」
「その言葉は私も理解できないけど……でも男女をくっつけたいなんて、なんなんでしょうかね」
 慣れたはずの母曰くにツッコみつつも、実月の頭の上には疑問符が浮かんでいた。光が「そうだな」と、述べる。
「単なる知的好奇心か、それとも上位存在等から何か吹き込まれたか――吊り橋効果とか言う奴か? それにしたって大掛かり過ぎるぜ」


 正座させられたアニスとエニスを前に、腕を組んだ千里が2人を見下ろす。
「いいかお前ら。こんな場所の男なんて下心100%、女にいい格好するっても、鮫に立ち向かう気概がある連中なんてまずいない。
 ソースは俺といいたいが、俺なら立ち向かう以前に家で寝てる。前提が成り立たん――よって、杉田亮君がソースだ。黒松は納得するだろ、たぶん。
 そして例えば既成のカップルにこの作戦を仕掛けても、高い確率で壊すだけだ。緊急時に出るのは本性。それを互いに受け入れられるカップルは……多分、俺の探す本物だ」
 最後の方が小声になり、顎に手を当てて「……いっそ壊してみるか」と、物騒な事を口にする。
 背中を小突かれ我に返ると、咳払いひとつ。
「作戦自体は悪くないが、鮫相手じゃ撃退士くらいしか心の余裕が持てない――そこで提案です。あそこに撃退士の女の子がいるじゃろ?」
 指を向けた先、消波ブロックで佇む実月がいた。
「襲わせなさい、数の暴力で。実際見てみれば、どうなるかわかるだろ」
「ちょっとちょっと、千里君!?」
 理恵に肩を掴まれ、顔が近づく。
「大丈夫、地堂君ならなんとかするだろ、たぶん」
 小声でやんわり諭す、千里。
「まあ、普段のあいつをみてたら大丈夫だ」


 嵐澄のもとに「数は減らせた。天使相手に上手く芝居を打ってくれ、通信は以上」という短いメールが届き、それが嵐澄の口からスマートフォンで実月達に知らされる。
「地面とキスしてな!」
 連絡が待ちきれなかった常久が飛びかかってきた鮫に抱きつき、飛びあがって抱きついたまま反転し、鮫の頭をブロックに叩きつける。
 どうよワシかっこいいだろと言う顔で振り返るが、誰も見ていない事に少しションボリする。
「これで一安心で――!」
 実月の言葉がそこで止まり、陸地にいるにもかかわらず実月めがけて飛んできた数匹の噛みつきを、寸前で回避してみせた――が、かわした先の足場が悪く、海へと転落する。
 反射的に飛び込む光。
「おっさん!」
「任せろ!」
 吠えて注目を集めた光が飛びかかってきた鮫の下に潜りこみ、真下から光の波を叩き込んだ。
 高々と打ち上げられる鮫――その間に常久は水面を蹴って走り、実月を抱きかかえてブロックへと戻るのだった。
 実月が助け出されると、すぐに光も海から上がる。
「あ、ありがとう……」
「借りもあったからな。それに言っただろ、守り抜いてやるって。傷つけさせるわけねぇだろ?」
「ま、女がピンチになったら助けるっちゅうのが男だろ?」
 光も常久も、その言葉には当たり前と言う意思しか感じられない――今、感じている確かな鼓動は鮫に襲われたせいだ、そう実月は熱い頬に潮風を受けながら言い聞かせていた。
「ほら、言った通りだろ」
 空でアニスに運ばれてきた千里が、エニスに運ばれている理恵へ顔を向けた次の瞬間、アニスが「げんかいです」と手を離す。
「ちょ、まて、タンマ。うおぉおぉ?!」
 アニスが限界だと、だいたいエニスも限界。2つの水柱が上がった。
 水面から顔を出した千里がパーカーを脱ぎ捨て、サラシを外して鮫を威嚇する。
「……つか鮫こえぇな。痛くなくてもこれは精神的に来る……!」
 とはいえ、すでに鮫は攻撃してくるそぶりを見せず、理恵共々泳いで浅い所まで行って立ち上がった。
 濡れたシャツを脱いだ理恵が何気なく千里に目を向け、そして酷い古傷の痕にギョッと目を丸くした。横に着地したアニス達は理恵が驚いた理由を、わかっていない様子だが。
「パーカーとサラシの理由って、それだったんだ」
「一般人を驚かせない為の気遣いですよ。別に隠している訳ではないです。
 いいかお前ら、これはただの人だった頃、崩れてきた建物の下敷きになった『だけ』なんだ。それだけでこうなるのが、人なんだ」
 隠していないというワリに、すぐにサラシを巻き直しながら2人へと言い聞かせる。だがあまり、ピンと来ていない様子だった。
「万有引力でうっかり転んだ、これは不可抗力ー」
 不吉な声と共に、油断していた理恵は水着の上がずり降ろされる。千里の前で。
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!」
 濡れたシャツで隠す理恵だが――残念ながら、遅い。
「みみみ、見た!?」
「何を――と言うには、無理ある状況か」
 能面のように表情で必死に平静をアピールする千里だが、頭の中では今の映像がどうしてもチラつく。
(横一文字の、古傷があったな)
「……傷、見た?」
 小声で問われて千里が小さく頷くと、「秘密にしてね」と告げ逃げていった。
 仲良くしているように見える2人を眺めていた光のどこかが、チクリと傷んだ。
「……ガラスでも踏んだか?」
「あの、地堂君……大丈夫?」
「なにがだ?」
 何かを察したのか実月がおずおずと声をかけるも、肝心の光が自分の心境をわかっていない様子であった
「アニスさんエニスさん、一緒に遊びましょう。
『楽しく一緒に遊ぶ事で愛を育めるのよ』と母も言ってました」
 悪びれもしないゲルダが理恵と千里を無視してアニスとエニスの手を取り、引っ張っていく。
 理恵に見つかる前に着替え戻ってきた常久が、ゲルダと一緒の2人を見るなり、自分に親指を突き立てた。。
「鮫はワシが処理したんだが、だめだったか?」
「もんだいないよ」
「そういや……なんでひっつけようとしてるんだ?」
「あ、それは私も知りたいです。天使は天使でも、キューピッド志望なんでしょうか」
 実月が何気なくもちだした『キューピッド』と言う単語に、エニスが手を叩いて喜んだ。
 的を射た、そんな様子が見て取れる。
「うん、まさにそれ! やっぱり人の間で有名なのね! 昔人間界の本で読んだけど、すごい偉大な天使よね」
「ぼくらのあこがれです。さすぺんだーの子も、こいというかんじょうはとてもいいから、がんばってねって言ってくれました」
「そう、恋とはとても素晴らしい。ですが、お2人と理解していません! これは教育のため、まずこちらに着替えていただきます」
 そう言ってどこからか2人にぴったりの水着を出してきたゲルダが渡し、更衣室へは「私が案内致します」とベルテネットが申し出た。
 まだ幼いからと女子更衣室へ一緒に入るなり、ベルテネットは刃物を取り出すとしゃがみ、不思議そうな顔をする2人の前で、少し緊張した面持ちでおもむろに自分の胸元へ刃を当て、引く――薄っすらと赤い筋が。
「この程度の傷をつけてしまうようなら、それはすでに大丈夫ではありません。
 それに、ただの人ならばもっと傷が深くなるのだと、覚えておいてください」
「そんなものなの?」
「そういうものなんです」
 にっこり笑みを向けると、2人はどの程度理解したかまではわからなくとも、頷いて納得してくれた。
「着替え終わりましたか――と、まだですね」
 ゲルダが顔を出す。その手には綺麗な貝殻があった。
 そしてそれを「これを今日の記念に……」と、何故かぽっと頬を赤くして渡す。
「『恋愛には贈り物も効果的よ』と母も言ってました。
 もっと恋愛についてお教えしたいところですが、それは今度にして今日は遊びましょう。友達として」






 皆が楽しそうに遊んでいる。
 その光景を嵐澄は1人、遠くから眺めているだけだった。
「はは。みんな、お兄さんの事、忘れてないかい?」
 目元に手を当て、天を仰ぐ嵐澄。その手からはキラリとしたものが零れた――かもしれない。





【恋戦】楽しきひと時の裏側では   終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・久我 常久(ja7273)
 育まれた心を君に・古庄 実月(jb2989)
 ぼくらのお姉さん・Vertenette Hautecloque(jb8543)
重体: −
面白かった!:4人

撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
育まれた心を君に・
古庄 実月(jb2989)

卒業 女 ルインズブレイド
道を拓き、譲らぬ・
地堂 光(jb4992)

大学部2年4組 男 ディバインナイト
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
マインスロワー・
ゲルダ グリューニング(jb7318)

中等部3年2組 女 バハムートテイマー
ズレちゃった☆・
阿手 嵐澄(jb8176)

大学部5年307組 男 インフィルトレイター
ぼくらのお姉さん・
Vertenette Hautecloque(jb8543)

大学部3年130組 女 ダアト