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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/08


みんなの思い出



オープニング

 アニスとエニス、キューピッドに憧れた幼い双子の天使が起こした騒動は、2人が学園へ入学し、黒松 理恵(jz0209)と共に住むことで終結した――かに見えたが、まだそうでもないことを若林 雅は毎朝ニュースと同じようにかかさずチェックしている依頼一覧で気がついた。
「おい、アニエニ。お前ら、東北の方でも活動していたのか?」
「いえ?」
「してないわよ」
 2人の即答に雅はむうと、うなる。
「そのわりに……こいつらはお前らが連れていたサーバントだよな?」
 雅がスマホを2人に向けた。
 そこに映っているのは、イタチのようなサーバント――ほんの数か月前、アニスとエニスが衝突したさいにエニスが乗っていたサーバントである。
 アニスはエニスの顔を覗き込み、エニスは「そうよ」と頷いた。
「でも作ってもらった分は、あたしが全部持ってきたはずだけど」
「作ってもらってるのか」
「まだ作り方とかよくわかんないから、同じくらいの年恰好しているけど偉そうな感じの子に、作ってもらってるのよ。
 作ってもらってるから、これは基本的にあたしだけのオリジナルって事ね。どっかではぐれた1匹でもいたのかしら……」
 訝しむエニスだが、首を捻るばかりで一向に次の言葉が出てこない。
「こいつはなにかしたんです?」
「いや、何かしているわけではないが畑に迷い込んでいるとかで、駆除の依頼だな。害が出ていなくとも、まだ害がないだけかもしれんし、一般人にとってはあんなサイズのイタチなんて、十分怖い」
 エニスが乗る事ができたほどだ、軽く大型犬ほどはあるだろう。
 猪が出たようなものだが、得体のしれなさでは遥かに猪の上を行く。
「ぼくらのせきにんですね、どうにかしなきゃ」
「なら、私が退治に行こうか? 責任が気になるんなら、一緒に行くだけでもいいんじゃないかな」
 乾かし具合が足りないのか、髪をタオルでしきりにもみほぐしている理恵がそんな提案をする。
「理恵。今日はバレンタインだから午前中には作るぞーと言っていただろ」
 冷蔵庫に目を向ける雅へ、理恵は「まあ大丈夫」と笑顔で手を振った。
「ちゃっちゃと行って帰ってくれば、昼前には戻ってこれるでしょ。3時くらいまでに作り終えれば、何とか渡しにも行けるしさ」
「ふむ……だそうだが、どうするんだアニエニ」
 アニスとエニスは顔を見合わせ――頷くのであった。




「ああ、あれね。見覚えあるわー……」
 槍を手にした理恵はオオイタチの姿を見るなり、全力疾走中、見事なまでに転ばされた事を思い出してげんなりとした顔になる。
「もう、ぼくらのいうことは聞いてくれないんですね」
 アニスが悲しげな顔をする。きっと呼びかけていたのだろうが、何も反応がなかった様子である。
「仕方ないんじゃない? あたしら、堕天したわけじゃないけど向こうにすれば同じようなもんだし」
 悲しそうな顔をするアニスと違い、エニスの顔に悲壮感はなく、あっけらかんとしたものだった。
 正反対な2人だが、お互いの役割がこうであるというだけで、見事にお互いの足りない部分を補って生きてきたというものを感じさせるなと、理恵は思った。
 戦闘開始直前だというのにそれほどの緊張感がなく、しばし2人のやり取りでも見てようかなとか思ったその矢先。理恵の目つきが鋭くなり、2人を両脇に抱えて前へと跳んだ。
 その直後、アニスとエニスの立っていた地面に細い剣が突き刺さり穴が穿たれる。
 十分に距離を取ってから振り返った理恵の顔から、さっと血の気が引いた。
「なんでこんなとこにヴァルキュリアシリーズ……!」
 見た事のない蒼色の鎧に、突きに特化しているであろう細い剣。それでもその鎧の形状や表情のない顔立ちは、間違いない。
 紛れもなく上位サーバントの、ヴァルキュリアシリーズである。
 ――正直、勝てる気がしない。
「それどころか、1匹だけならまだしも3匹とか……っ!?」
 不意に理恵の足が掬われ、2人を脇に抱えたまま雪の上に尻で窪みを作ってしまう。その横をオオイタチが通り過ぎていく。
 尻の冷たさに嘆きかけた理恵に迫りくる2本の剣は、アニスとエニスを狙っていた。
 理恵は切っ先をレガースで蹴り上げ、後転する様に一回転。立ち上がるとすぐに全力で走り出していた。
「もしかしてこの子らが来るかもしれない事を見越しての、罠……!?
 ああもう、逃げ切れるかすら怪しいとかサイッテー! 実に私らしい最悪のバレンタインだこと!」
 悪態をつきながらも走る理恵だが、悲しいくらいその通りだなとか思ってしまう。
 逃げながら連絡を取ろうにも、両手は2人で塞がっている。ならば2人に連絡してもらおうと目を落すのだが、様子がおかしい。青ざめて歯を鳴らし、肩が震えていた。
 エニスはさらに涙まで流し「コワイコワイコワイ……」と、繰り返し呟いている。
 殺意・敵意を向けられたのは生まれて初めてなのだろう――そう思うと、理恵としてはこれだけは要っておきたかった。
「今、君らの抱いている感情が、これまで君らのサーバントに襲われた人と同じものなの。
 明確な殺意はなかったかもしれないけど、一般人にとってはない事に気づくだけの余裕もないしわかったりしない。そんな状況で恋だなんだって感情を抱けると思える?」
 2人がフルフルと首を横に。
 これまでどう言おうかと思っていた事を伝えられた理恵は、少し荒い呼吸ながらも鼻息を荒くして満足する。
 だが、状況は何一つ打破されていない。
「なんとか君らだけでも逃がさなきゃね……!」
 ポケットの中で小さなチョコと隣接している携帯はその存在感を主張する様に、さっきからずっと振動しているのであった――



「理恵が出ない……」
 何か嫌な予感を覚え、雅はアニスやエニスにもかけてみるのだが一向につながる気配がない。
 順当であればもう帰路についてはいるが、さすがに電話が通じないような飛行機やらなんらにもういるとも思えない。
 ――不安だ。
 転移装置を使えばすぐだし見に行くかとも思ったが、入れ違いになるのもおいしくない話。ならばここは見て来てもらう他ないだろうと、雅はすぐに連絡のつきそうなメンバーへと連絡を取るのであった。


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リプレイ本文

「お邪魔ましまー……す」
 古庄 実月(jb2989)が電話中の雅に気付きすぐ後ろのVertenette Hautecloque(jb8543)へ、静かにしようとジェスチャーで告げると、ベルテネットはこくりと頷いた。
「――というわけでだ。暇そうなやつからまず電話をしてみた次第で」
『ざんね〜〜〜〜ん!! ワシめっっっっっちゃ忙しくてなー!! ほら、なんていったってヴァレンタインじゃん?? そらワシも忙しいのよ! あー忙しい! 忙しい!!』
 ひとしきり捲くし立てた久我 常久(ja7273)だが、急に静かになってしまった。
「――気は済んだか?」
『忙しい……ハァ。で、なんだ? あのガキがまた何かやらかしたのか?』
「さてな。嫌な予感もするんでな、それを確認して来てほしい。依頼扱いにしてもらうから、詳細はそっちを参考にしてくれ」
 心配そうな顔の実月が時計を確認すると、もうそろそろ正午になろうとしている。
「黒松さん、遅いですね……何もないといいんですけど……」
「そうですね。ご一緒しているアニスさんやエニスさん達も、心配です」
 今日の為に読んできたカップケーキの本を、大事そうに抱えるベルテネットの腕に力がこもる。
 そんな心配顔の2人へと、同じくらいに心配顔の雅が向き合う。
「――すまないが、正式な依頼として見てきてくれないか?」


 転移装置の前で常久や実月、ベルテネットだけでなく、地堂 光(jb4992)に城里 千里(jb6410)とゲルダ グリューニング(jb7318)の3人も緊急と聞き、飛んでやってきた。
 そのいつものメンバーに加えて初顔となる、新田 六実(jb6311)が自己紹介を済ませるなり、今回の事態について眉をひそめた。
「何が起こったのかは判りませんが、連絡に応答しないと言うのは気になりますね」
「ああ、なんかやばそうな予感がしやがるぜ。前に黒松が消息不明になった時みてぇだ」
 不穏な空気に、自然と皆の足は転移装置へと向かっていた。


 剣先をやり過ごそうとしたしゃがんだ理恵だったが、肩へと突き刺さる。
「痛ァッ……!」
 肩から流れる血が服を染め上げるも、すでに服は赤い染みだらけである。それでも泣きじゃくる2人のために、理恵は笑顔を作っていた――内心の、絶望を隠して。
 ――そこへ。
「黒松さん! 迎えに来ましたよ!! もう少し頑張ってください!」
 実月の声。 理恵が顔を向けると、到着した7人がこちらへ走ってきている。
「この子らを優先して!」
 自分でもなぜそこまでの使命感を感じているのかわからないが、理恵がそう叫ぶと千里が「……わかった、あと20秒稼いでくれ」と落ち着いた声で応える。
 ただその目が肩口の傷などを捉えると、表情は変わっていないが青ざめたような気配で千里の足がさらに早まった。
「ヒリュウさん、お願いします!」
 ゲルダが呼びだしたヒリュウの手を掴み、ヒリュウはゲルダをぶら下げてあまり高度は取れないが上空へと飛び、理恵の元へと目指す。
 ゲルダの横に、飛ぶには不向きそうなやや小さな翼を広げた六実がよたよたとしながらも並び、飛んでいく。
 オオイタチと1体のサファイアヴァルキュリア(以降、蒼乙女)が駆け寄る撃退士達に向かってきた。
「私の弟妹をひどい目に遭わせる人は、誰であろうと赦さないです」
 ベルテネットの憤りを表すかのように、前後に動かす防水ブーツがぬかるみを跳ねあげ撒き散らし、服が汚れるのも構わずに駆けている。
「頼むぜ? 城里。足止めはきっちりするからよ」
 光の声がなんとか耳に届いたのか、必死さが滲み出ている背中をした千里がこくりと頷いたような気がした。
 その見た目とは違い蒼乙女の足はずいぶんと速いがオオイタチはさらに速く、千里の射程にもう踏み込んできた。手に持つ銀色の銃身から、無数の怪しげな蝶が飛び交いオオイタチを包み込む。
 視界を遮っているうちに千里は斜めへ進み、オオイタチとの距離を開けようとした――が、蝶の群れの中からオオイタチが飛び出し千里は真横につかれてしまった。
(失敗したか……!)
 舌打ちする間もなく足が尻尾で掬われ宙に浮いたが巨漢の影がよぎり、千里の手が掴まれて前へと抛り投げられた。
 数歩、泥を激しく跳ね上げてたたらを踏んだものの何とか転ばず、走る勢いもそのままに保つ事ができた。
「はよいってこんかい!!」
 常久の檄が飛び、その言葉に押されて千里は振り向かず真っ直ぐに理恵へ目指す――この行動はほんの数秒のロスを防いだだけだったが、その数秒が明暗を分けるのであった。
 まだ一番近い千里を追いかけようとするオオイタチだが、空から降ってくる妖蝶の群れをかわしたため、距離が離れてしまう。
「足さえ止められたなら、それでいいんです」
 よたよたとしながらも滞空している六実が、次なる矢を弓に番えていた。
 蒼乙女との距離が縮まり再び千里の銃口から無数の妖蝶が飛び交うも、全力で移動して狙いがぶれているせいもあるのか、蒼乙女は機敏な動作で横に跳び、簡単にかわされてしまう。
 だがその蒼乙女の前に常久が立ちはだかり、レイピアの剣先が常久へと向けられるのと同時に常久は大地に拳を振り下ろす。
 その瞬間、せり上がる畳が蒼乙女の視界を遮る。
 だがそれでも剣先は畳を貫通して、脚を狙っていた剣先は常久の肩の付け根に突き刺さり、捻じられる。常久は痛みを無視しそこを目印に、毒々しい色のアウルを纏った右腕で畳を貫いた。
 しかし右腕が畳を貫くより先に剣先が引かれ、手ごたえがない。
「反射速度がずば抜けてやがる! 視界も遮られてるってーのにこの距離でかわすとか、嫌なヤローだな!」
 退く蒼乙女と、常久――と、そこへ。
「当たって!」
 実月の放った封砲が横を通過し、蒼乙女のいるラインまでステップしながら斜めに下がってくるオオイタチ。
(物は試しです)
 近づきすぎない程度に足を止めていたベルテネットが水の玉を生み出し、オオイタチへの正面よりやや横、蒼乙女のいない側を狙い、撃った。
 撃退士が集まった事でその本性を現したのか、以前戦った時よりもはるかに俊敏で制作者の悪意を感じさせるオオイタチがあざ笑うかのように、水の玉が到達するよりも先に横へ大きく跳んでいた。
 その先に、蒼乙女がいた。
 オオイタチの尻尾が自動で範囲に入った蒼乙女の足を掬う――が、倒れるより先に片足が前に出ていた。
「隙ありです!」
 ヒリュウの手を離したゲルダが、倒れるのを堪えた蒼乙女の背中へ落下して抱きつくように押し倒す。
 泥にまみれ、転げまわり肘打ちを頬に喰らい引き剥がされると、威嚇しながらも突進してきたヒリュウの頭突きで蒼乙女をさらに転がして上空へ戻っていくヒリュウ。
 泥だらけのゲルダが跳躍してヒリュウの手につかまり、再び上空へ。
 すぐに立てない蒼乙女の顎が艶消しされた鞘で跳ね上げられ、鞘はそのまま蒼乙女の影に突き立てられ、影から影が伸び、蒼乙女に絡みつく。
「しばらくそこで大人しくしてな」
 見下ろす常久が前を向き、理恵が生きており千里が間に合った事に安堵しつつも走り始め、そこにオオイタチが近寄ろうとしてくる。
 その間に散弾の弾が割り込み、オオイタチは足を止めた。
「当たらない……けど!」
 実月がもう一発、ショットガンを撃ってオオイタチと常久の間をさらに広める。さらに六実の放った妖蝶がオオイタチを包み込む。
 それでもオオイタチは妖蝶の中から飛び出し、足を止めようとはしない。
「攻撃能力がない分、抵抗力が高いのでしょうかね」
「お前はこっちだ!」
 常久とオオイタチの間に出来上がった空間へ光が割り込みながらも咆えると、その後をオオイタチが追いかけ、実月はベルテネットの横について影は絡みついているものの立ち上がった蒼乙女の動向に気を配るのであった――




 限界の理恵。ストンと腰が落ちてしまう。
 アニスへと向けられていたはずの剣先が、ちょうどよく下がってしまった理恵の顔に。
 間に合いそうにないタイミングだが必死で頭を傾けたその直後、甲高い音と共に剣先が弾かれ大幅に軌道を変えて理恵の顔の横を通過する。
 そして理恵の前に、最近ずっと目で追いかけているあの背中が。
「悪いな黒松、延長だ。もう15秒くらい我慢しろ」
「――うん!」
 気力も体力も底を尽きかけていたはずなのに、力強く頷いた。衝動的に背中へ飛び付きたくなってしまったがぐっと堪え、いつまでも座っているわけにはいかないと立ち上がれないと思っていたのが馬鹿らしくなるほど、素直に立てた。
(チョー危ねー……)
 理恵の前で平静を保っているように見える千里だが、ギリギリだった事に心臓は早鐘である。
 次々と襲い来る剣先を銃身で弾いたり、撃って軌道を逸らせ、たまにかわしきれずに脇腹を刺されたりもするが、手を当ててアウルを流しこみ、とりあえず傷だけは塞いで何とか耐えきってみせる。
 1匹くらい胡蝶が当てられないかと思うのだが、攻撃に転じている暇がない。
 15秒もキツイかと思った矢先、蒼乙女の後ろを取った光のハルバードに1体は弾かれる。光は後ろを振り返りオオイタチの尻尾で足を掬われるが、その横っ腹に光を纏ったハルバードを叩きつけ、オオイタチをもう1体の蒼乙女へと押し付けた。
「いったぞ! 城里!」
 足が掬われる蒼乙女が転ばぬように出した足を、横に避けてしゃがんだ千里がレガースで足を引っ掛け転倒させる。
「このぬかるみにその鎧、転べば俺らより悲惨だろ?」
 千里と共に逃げ出そうとする理恵へ1体の蒼乙女がレイピアを振るうのだが、その剣先を光は自らの腕で受け止めた。それを見た六実が光のもとへ行こうとするのだが、上空の六実へ光は手で制した。
「こっちはまだ大丈夫だ、他の奴の手当頼む!」
 そして次の一手を銀色に光る障壁で受け止め、剣先を通さない。
 そこに畳がせり上がる。
「ピンチに駆けつけるってなぁ!!!」
 常久の声が上から聞こえ、畳の反動で跳躍した巨体が上から蒼乙女の頭部へ渾身の力を込めて直刀を振り下ろした。それが兜を砕き、額の割れた蒼乙女は足元がおぼつかなくなる。
 もう1体はもうすぐ立ち上がろうとしているのを見て、光と常久も撤退を開始する。
「やるじゃねーか、おっさん」
「へっ、畳の扱いには慣れてんだ。そうだな……畳の王子様とでも呼んでもらおうか!!」
 結構な怪我をしているが、親指を立てる常久が大人の余裕を見せつけた。
 もっとも冗談を冗談と見抜けない光は「畳の王子か。ぴったりだな」と至極真面目に応え、理恵達の横についた。
「よく頑張ったな、俺達が来たからには安心しろ。ぜってー無事に帰るぞ?」
「オオイタチが追ってきます!」
 上空からのゲルダの声。
「皆で無事に帰って最高のバレンタインにしましょう!
 折角のバレンタインを台無しにするなんて、恋路を邪魔するも同然です! 絶対に許しません!」
 少し前に出てきた実月が理恵に声をかけ撤退する光達の後ろを守るように、追ってくるオオイタチへ向けて最後の封砲を放つ。そして封砲が放たれた直後、ベルテネットが光弾をオオイタチが回避するであろう先を狙い、撃った。
 ベルテネットの予測が的中し、封砲をかわしたオオイタチがベルテネットの光弾の直撃を受け転げまわり、さらに六実の矢が追い打ちをかけると短い雄叫びをあげて泥濘に倒れ伏す。
 そこに束縛が解けた蒼乙女のこれまでにない踏み込みで一直線に距離を詰め、突き出された剣先は常久がかばい腹部を刺し貫かれながらも影を縛り付けて再び束縛すると、光が零距離から衝撃波を放ち後ろへと吹き飛ばす。
 追かけてくる蒼乙女へベルテネットは光弾を放ち、届きはしないと知らない蒼乙女に回避行動をとらせ、少しでも距離を稼ごうとした。
 どうにか撤退しようとする全員の前に、弓を番えた軍服ワンピースで金髪の女性の姿が。
 放たれた矢は目で追えないほど速く真っ直ぐし、蒼乙女の顔面に突き刺さるのであった。
「ご苦労。そちらの少年と少女はこちらで保護するので、諸君らはこの場を離れろ」
 怪しい――それが全員の印象だった。
 そっと六実がその気配を探るのだが、今一つはっきりしない。ただ言えるのは、自分よりも遥かに強い――それだけである。
「聞いてないんで、俺らは俺らの依頼優先で連れ帰ります」
 ダメかとか思いながら走りながらも千里が告げると、女性は「了解した」と思いのほかあっさり引き下がる。
「もともとつまらないお願いだったのでな、それはそれでいいだろう。すぐに帰って傷を癒すがいい」
 色々と不安はあったが、つまらなそうに言う女性の横を通り抜け、皆はその場を離れていった――不思議な事にもう追ってくる気配がないと、だいぶ走った後で気づくのであった。
 息が落ち着いたところで、六実はだいぶ深手になっている理恵と常久の傷を癒し、光は転げまわって全身泥だらけのゲルダにタオルを差し出す。
「ま、顔くらい拭け」
「どうもです――さて黒松さん。泥だらけになりながら貴方を助けようとした城里さんに一言どうぞ。無言は許されませんよ」
 ゲルダからエアマイクを差し出された理恵は目を丸くさせたが、千里の横顔を見上げて一言を伝えた――




「あそこで『チョコ、あげる』だなんて、軽く失望ですよ!」
 頭から暖かなシャワーを浴びるゲルダの言葉に、エニスの背中をこすってやっているベルテネットや、湯船にいる実月と理恵も苦笑する。
 風呂の広さだけで決めたという理恵の部屋の浴室に、全員がそろっていた。六実もちょこんと湯船の角の方に困惑しながらも浸かっていた。
「あの……ご一緒しててもよろしかったんでしょうか」
「いーのいーの、恩人さんだし。服が乾くまで時間あるだろうし、これからカップケーキ作るんだけど、どうかな?」
 理恵が笑顔を向けると、六実もはにかみ返して「はい」と答えるのであった。


 部室では今、光がシャワーを使っているので座り込んで順番待ちしている千里と常久。
 理恵から受け取った、包装が破け、泥だらけのチョコを眺めていた千里。常久は雅から受け取った試作品という名のカップケーキを一口で食い、そして千里の背中を強く叩いた。
「どうよ、必死になるのもいいもんだろう?」
「……そうですね」
 素っ気ない言葉だが、それでも常久には千里の変化が少しだけ感じ取れていた。
(俺みたいな歳になってからじゃ、必死になれないもんだ。若いうちに経験しておけよ、千里)
 常久の心の内など知る由もなく、チョコを眺めていた千里は口に抛りこむ。
 口の中が切れていたらしく、血の味と泥の味がするが――それよりも千里の心には満足感が広がっていった――




【恋戦】最悪【MV】  終


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・久我 常久(ja7273)
 Survived・城里 千里(jb6410)
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
育まれた心を君に・
古庄 実月(jb2989)

卒業 女 ルインズブレイド
道を拓き、譲らぬ・
地堂 光(jb4992)

大学部2年4組 男 ディバインナイト
Survived・
新田 六実(jb6311)

高等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
マインスロワー・
ゲルダ グリューニング(jb7318)

中等部3年2組 女 バハムートテイマー
ぼくらのお姉さん・
Vertenette Hautecloque(jb8543)

大学部3年130組 女 ダアト