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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:シリーズ
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/16


みんなの思い出



オープニング

 昼休み――学校敷地内のブランコに腰をかけて、練習もせず、ただぼんやりと、遊んでいる下級生達を眺めている矢代理子の姿があった。
 もっともその目は下級生に向いているようでいて、全く見ていない、そんな感じだった。
 顔に影がかかり、そこで理子の意識はこちらへと戻ってきたらしく、顔を上げる。
「どうしたの、りっちゃん」
 津崎 海(jz0210)だった。理子の様子に顔を陰らせている。
 心配させてるなと気づいた理子が手を振り、ほほえみを浮かべた。
「あ、ううん。ちょっと考え事してただけだよ」
「この前の音楽祭の事?」
 ついこの前、町で主催の音楽祭があった。それの管楽器部門に出た理子は、惜しみない拍手や歓声をもらった。
 ――が、優勝はできなかった。
 別に優勝するつもりはなかったし、それについて悔しいとかは別になかった。優勝した人の演奏が、自分にも響いたからだ。
 響きすぎたぐらいに。
「やっぱすごい人はたくさんいるんだなって。上手いとかそういうことよりも、とにかく歌や音楽が好きなんだなってよくわかるし、本当にすごかった。
 なんていうかな……ずっしり響くというのか、浸透して来るっていうか」
 様々な人を思い浮かべる。知った顔もいたが、まさか思い浮かべたその全員が撃退士だとは知る由もない。
「それでね、思ったんだけど……教えに来てくれる人達の本気ってどれくらい、響くんだろうって。近くで聴いてみたいなって、思っちゃったんだ」
「じゃあ、そういえばいいじゃん」
「言えないよう。教えに来てくれてるのに、聴かせて下さいなんて」
 首を横に振る理子を不思議そうな顔で見つめる海は、腕を組んで首を傾げた。
「え、なんで?」
 そういう海の顔を、理子は瞬きを繰り返し見つめ返した。
「なんでって……失礼じゃないかなぁ」
「あの人達って言うか、撃退士さん達ってわりかし気がいいから、喜んで聴かせてくれると思うけどな」
「かなぁ……?」
「少しワガママになれよ、どーんっ!」
 背中を押され、ブランコからずれ落ち前のめりにたたらを踏んだ理子。
 口をとがらせ後ろへ振り返ると、吾亦紅 澄音が腰に手を当てて強気な笑みを浮かべていた。
「聴きたいと思ったんなら、素直に言えって。遠慮なんかしてたら、得るもんも得られねぇぞ」
「澄音ちゃんは遠慮とかそういうの、覚えた方がいいと思うんだけど……」
 少しだけ恨みがましい目を向け、先ほどのおかえしとばかりに小さな皮肉を伝えるが、腰に手を当てたまま仁王立ちの様子から、まるで効いた気配がしない。
「あたしも聴きたいっつーか、一緒に歌ってみたいのばっかりなんだよ。こういうのは刺激しあって磨きあうのも、いいんだ」
 この前の音楽祭で随分刺激を受けたらしい澄音が、自分の拳を何度も平手で叩く。
 音楽祭の後、自分も出ればよかったと、そんな場で歌う事に興味のなかった(あと寒かった)はずの澄音が悔しがっていたのだ。それのリベンジがしたいのだろう。
 だから強烈にプッシュしてくるのだ。
「つーことで決まりな! 修に言っとくぞ!」
 理子の返事も待たずに、すぐ側の音楽室へ駆け出す。そして開いている窓からヒョイッと侵入し、音楽室から先生の怒鳴り声が聞こえてくる。
 澄音の背中を2人して目で追いかけていたが、やがて海が口を開いた。
「澄ちゃんの言ってるのも、正しいんじゃないかなぁ。凄い人の演奏を聴いて発奮するとか、習っている最中の人の音を聞いて、追われてる感を感じてみるとか、色々収穫はあると思うよ」
「……うん、そうだね」
「それに一緒になって演奏するんだし、そろそろ教えてもらう立場ってよりも、一緒に演奏する仲間って意識を持った方がいいんじゃないかな」
 言われてハッとする理子が、驚いた顔でまじまじと海の顔を眺めていた。
 その様子に、眉を潜める。
「なに?」
「いや……なんか海ちゃんが大人になって来たなって」
「神様といろんなお話してるからね!」
(それに先に大人になってきたのはりっちゃんの方だし、おいてかれないようにしないとね)
 苦笑と共に不思議そうな顔をする理子の額を、指でつつく海であった。


 窓から入ってきた所を担任の黒松智恵に見つかり、追い掛け回されていた澄音が息を切らせ、音楽室に戻ってくる。
「や、やっと撒けた……」
「すごいね。並の体力や運動神経じゃ絶対逃げきれない相手なのに」
 音楽室で色々な人が演奏しているピアノ曲のCDを聴いていた修平がプレイヤーを止め、息を切らしている澄音と向かい合った。
「で、何か用?」
「おー……マテ、ちょっとマテ……」
 手で待ったをかけると大きく深呼吸――ゆっくり吐き出して、から喋り出す。
「今度よ、来てもらった時に練習を教えてもらうんじゃなくて、歌とか演奏聞かせてもらえないかって理子が言ってたんだ」
「りっちゃんが? この前の影響か――」
(音楽祭で影響を受けたのは僕だけじゃないのか)
 立ち止まるなと、言われたわけではないのに感じ取った。感じ取れる事が出来た。だからこうやって、人の演奏を聴いて色々感じ取ろうとしている最中だった。
 つまり、話したわけでもないのに奇しくも2人が今必要と感じている事である。
「そっかそっか――じゃあそう連絡しておくかな」
 携帯を取り出したところで、枯れ草と枯れ葉、枝まみれの智恵が音楽室の戸を開け、剣呑とした目を澄音に向けた――直後、澄音が窓から飛び出た瞬間、すでに追いついていた智恵がしっかりと両手で後ろから空中キャッチしていた。
 そして智恵に引きずられるまま、澄音は音楽室を後にするのであった――

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リプレイ本文

「明日だねー。恒例のやつ」
「ああ、そうだな」
 津崎海とアルジェ(jb3603)が、並んで帰路についていた。
「あれは修平と騎士?」
 アルジェの言葉通りに、中本修平と江戸川 騎士(jb5439)、その2人が神社の鳥居をくぐるのが見えた。
「あ、本当だ――」
 手を振り上げ、大きな声で呼ぼうとしている海の口に、アルジェがそれを止めた。
 2人の表情が、気になったのだ。
「何やら妙な雰囲気だな……海、ちょっと様子を見よう」

「それで、りっちゃんと海ちゃんについて、何が聞きたいんですか?」
「――修平、お前の意見を聞きたい。
 理子の母親について、もうわかっている。そして何度調べても、海は『天使の取替えっ子』という推論に至る。
 お前、知っていたんだろ?
 だから海が人間を嫌わないよう、人間が海を嫌わないよう、風波が立たないように、お前はしてきたんじゃねぇのか?」
 修平の顔色は変わらない。まるでこういう日が来るのを想定していたかのように、冷静だった。
「もっと信用してやれよ。
 俺は、病死したと思っている母親が実は天使だった理子と、天使の取替えっ子である海が出生の秘密に気がついて傷ついたとしても
あいつらはあいつらでしかないと思うぜ。
 実際、この地の天使がどう出るか判らねぇし、『実は理子の母親も生きており、この地の管理者です。上層の方針が変わって侵攻します』だったら流石に厄介と思うが、俺は驚かねぇよ」
 口を開きかけた修平は目を動かし、視線で何かを訴える。修平の視線の先を騎士が目で追うと、鳥居のすぐ下、階段のところに青いポニーテールが揺れていた。
 視線を修平に戻すと、口元に手を当てて考えるそぶりを見せ、修平の方から一歩、近づいてくる。
「半分正解、半分ニアピン、と言っておきます。
 りっちゃんのお母さんが天使なのは、正解です。でも、確実に死にました――若くして亡くなったから、世間的に病死と思えたんでしょうけど、実際は力が尽きての寿命みたいです」
 また一歩。
 もはや真横である。
「海ちゃんは『人間』、です。こればかりは絶対に、これ以上のことが言えない……約束なんです」
 そして横を通り過ぎた――その際かすれる様な声で、「海ちゃんは江戸川さんに近いです」と伝えるのであった。



「え!? なになに、ステージ?」
 まるで初めて聞いたというような反応を見せる亀山 淳紅(ja2261)に、修平が「メール、しましたよね……」と少し落胆してみせる。
「ごっめーん、気づかなかった」
 キャッとぶりっこぶると、すぐに手をあげて「一番手、もっちろん歌いまっすやでー♪」と、真っ先にアピールする。
「自分の本気の意味は、2種類、かなー」
 そしてへしょっと、吾亦紅澄音へ笑みを向けた。
「ちょっと澄音ちゃん、最初の2曲だけは混ざらんといて。練習してへん状態で合わせられるほど、器用やないの。ごめんな」
 咳払いをし、学ぶ姿勢を見せる修平と矢代理子の2人の正面に立つ。
「曲があってない。その人のイメージじゃない……ってのは確かにある思うんやけど、コンテストの課題曲とか避けて通られへん時はある。
 そゆ時のために『完コピ』や。自分の色を極限まで消して……演技とかに近いんちゃうかな?」
 自分を抱きしめるように左腕を腰に回し、右手を顎の下、艶のある仕草で歌い始めた。
 声量がいつもよりずいぶん控えめだが、リズムや音程、それにブレスとその長さ、抑揚と掠れる位置が原曲と全く一緒である。
 さらに言えばその表情までもが、淳紅らしからぬ歌い手そっくりの女豹を思わせるようなものだった。
 まさしくなりきっているというよりは、そのものである。
 歌が途切れ、目を閉じた淳紅――開いた時には、いつもの彼に戻っていた。
「……どやっ。色気でてた?」
 コクコクと頷く2人に満足し、今度はアコースティックギターを手に取ると、肩にかける。
「んで、次はどんな歌でも楽しく歌える――そういう風に練習してきたけど、そん中でもやっぱり『自分が歌いやすくて声に合う』曲はでてくる。
 コピーやなくて、自分を最大限いかせる歌。自分はポップス系のフォークソングっちゅーんが性にあっとるみたい」
 ギターでリズムを刻み始め、それに合わせて歌いだす。
 原曲など気にせず遠慮なしに、自分の想いとシンクロしたその歌を心の底から全力で歌い上げていた。歌から溢れだすエネルギーは短い時間歌っただけだというのに、玉の汗となって零れ落ちる。
 歌い終わり、息を吐き出す――と、澄音を手招きし、にぱっと笑った。
「お待たせ! 一緒歌お!」
 待ってましたとやってくる澄音を、手拍子と床をドンドンと足でリズムを刻みながら皆を見回すと、淳紅が何を求めているのか察して、皆もそれに合わせてリズムを取りだす。
 淳紅が満足げに笑い、再びアコースティックギターでメロディーを奏ではじめた。
 それに合わせて歌いだす澄音に、淳紅はやや音量控えめにして後追いで支えるように歌い、2人の声には歌が好きすぎる想いで溢れているのだった。

(ふむ、音と楽曲のミスマッチか……)
 思考を巡らせる君田 夢野(ja0561)。立ち上がると理子のすぐ横に移動して、そっと告げた。
「選曲について一番重要なのは、理子さんが何を演奏したいか、だ。それに練習を合わせるのも必要か――」
「えっとそれじゃあ、眠れなくなっちゃうのを防ぐには……?」
「本番前日に安眠を取る方法?
 ……そっちは俺の専門外だから、自分で調べなさいッ」
 理子の頭に手を乗せ乱雑になでると、歌い終わった淳紅と入れ替わりでトランペットを手にした夢野が前に立つ。
「さて、前回俺は『志」と言った訳だが、今回の楽曲のテーマもそれで行こうか。
 今回は即興だ。ジャンルは行進曲、楽器はトランペット独奏、タイトルは……そうだな、『撃進歌』とでもしとくか」
 夢野の息を吸う音が聞こえるほど、空気が静まりかえる。
 ――最初は歩くような速さでゆったりと、それでいて大地を打つ軍靴の如く一定のリズムで深く、力強く刻む。
 だがその音は、ただの行進曲ではない。
 昂揚感や強い意志が含まれているその音はまさしく、『敵地へと向かう前進』だった。
 不安や恐れがあっても決して歩を緩める事の無いその前進には、『脅威に立ち向かう勇気』を感じさせる。ならばなぜ勇気が沸き立つのか。
 その心、即ち『護るための意思』――その『志』を、音が作り上げていた。
 勇壮な曲調はやがて穏やかになり、優しい音へと変化する。
 それは戦いが終わり、平和になった世界で戦う力を人々を癒す力に変えたいという『志』の新たな側面であった。
 演奏が終わり、静けさが戻る。
「心を籠めるという点では理子さんに敵わないが、物語を詠うという点ではまだ俺は勝つ自信がある――自らの音を再確認して、それを思った。
 ……勝ち負けという問題ではないけど、まぁ、張りあいたくなるくらい理子さんも上手くなったわけだ。出藍の誉れって奴だな」
「できた世界を音で表すだけでなく、音が世界を紡ぐ事もできるんですね。また一つ、勉強になりました」
 ぺこりと頭を下げる理子から、夢野は視線を外さない。
(だから、俺は決めた。俺が4ヵ月後に奏でる音楽は、俺の『センセイ』として皆と共に過ごした物語。
 そして俺が望む未来予想図……ただ、今はまだ何を望むのかは自分自身でも分からない)
「だがそれを見出すには、まだ時間は十分ある――そう。まだ、な」
 聞こえない様に独りごちると、席へと戻って行くのであった。

「にしても、後ろから追いかけられているのがリクエストとは、言うようになったな。
 皆の前でトランペットを吹くのは、久しぶりだ。ワクワクあがるぜ――バイト先のクソ親父共に駄目出しされ続けた俺様の、進化を見るがいい」
 騎士がトランペットを吹き始める。曲目はSoleao。
(そういえば学園に来て1年経ったな。って事はあいつを殺して1年になるのか……)
 騎士のトランペットには、誰か特定の人物のみに向け、想いを捧げるような想いが籠められている――それが聴いている皆に十分、伝わっていた。
 その想いが途中で、止まった。騎士が止めたのだ。
「あ〜……しんみりだな。やだやだ」
 自ら作り上げてしまった空気に嫌気がさし、トランペットを置くなりヴァイオリンを手にすると、最初はゆっくり語りかけるような曲調、それが途中からガラリと速弾きパートへと移行するパルティータ第2番を演奏するのであった。
 全てを、振り払うように。

「まだまだ未熟なれど、聴いてもらおう。
 曲目は『愛の挨拶』。なんだかんだと、多分一番練習している曲だからな」
(それに、一番聴いてほしい曲でもある)
 アルジェの視線は自然と、修平に向いていた。
 1音1音、丁寧に気持ちを籠め、聴いている者を口説き落とす様に、愛を音で語る。まだまだ技術面の拙さは承知の上――それでも今の想いを精一杯に表していた。
 吹き終わりには頬を上気させ、額に汗が輝いている。
 いつもと変わらぬ無表情のはずなのに、その情熱が表情に滲み出ていた。
「……これが今のアルの演奏だ。どうだっただろうか?」
「すっごく気持ちが籠ってたよ」
 海が代表して、皆の言葉を伝える。
「そうか……良かったら海、皆が終わったあと一緒に演らないか? 海のソウルフルなリズムに乗るのは楽しい」

 ピアノの前に座った川知 真(jb5501)が、鍵盤に指を乗せてから動きを止めた。その顔には苦笑いが浮かんでいる。
(王を賛美し、兵の士気を上げる歌の仕事を放棄して堕天させられた私が、神を賛美する歌を歌うのは……神と王が別の存在だと分かっていても何とも言えない気分ですね)
 それでも、歌う事はやめられない。
 ゆったりとピアノを弾き始め、真の高いソプラノが部屋全体に程よく響き渡る――曲は、アメイジンググレイス。
 神へ捧げる歌にして、悔恨の歌。それがなぜか真にしっくりと、していた。
 歌詞の意味など知らないがその手の歌が好きな澄音が割り込んでくると、真の声質と音量が変わり、2人の声がハモリ出す。
 だが声量は1人で歌っていた時よりも大きく、澄音もそれに負けじと全力を出していた。部屋全体が震え、今使っていないピアノの弦すら震え、わずかな音を出すほどに2人の声が響き合っていた。
 歌い終わり、「やっぱり1人より一緒に歌ってくださる方がいた方がいいですね。ありがとうございました」と伝えるのだが、どことなく澄音は不満な顔をしている。
「……声、もっと出るだろ」
「屋外ならいいんですが、ここで全力で声を出してしまうと声が反響しすぎてしまいますから。
 あっ、音楽祭の時は全力でしたよ。マイク使いませんでしたので」
 照れたように笑う真。そんな真に指を突きつけ、「今度は外でな!」と挑戦状の様に言葉も突きつける。
「ええ。構いませんよ」
 にっこりと、笑みを返す真であった。

 そして最後に立ったケイ・リヒャルト(ja0004)は、何も持たない。
「あたしは……歌なくしては生きていけなかった……そして生きていけない」
 胸に手を当て、すっと瞳を閉じて大きく息を吸う。
「だから、歌うわ」
 瞳を開けた時には別人のような気配をかもし出し、静かに、滑るように歌いだす。
 それは真と同じ、アメイジンググレイス――ただ、真と違うのは誰かに捧げる歌い方というよりは、自分自身を表現するための歌。
 その声はどこか遠くを彷徨う様に、奥行きを感じさせる。
 優しく穏やかで、静かに――神の恵みを歌に、見出したかのように。神の恵みである歌を、尊ぶかのように。
 別世界が繋がるような感覚。徐々に抑揚のある声へ変わっていく。
 瞳を閉じ、心の奥深くを歌い上げ、それは段々と力強く確信的に変化していくと、瞳も開き、目力が強く輝きを放つ。
 いつしか、胸に手を当てていた。
 まるでこみ上げそうな感情を、押し殺している様である。
 穏やかに――けれど、確信を持って力強く伝える。
 命が続く限り、そう、心と体が朽ち果てる時が来た時に、喜びと安らぎが訪れるのだと。
 そして最後、たっぷり間を置いて溜めを作ると、優しく、愛しげに歌い上げる。
 歌は、永遠に私の物だと世界に伝えるのであった。
 ……歌い終わり、少しばかり静かな世界が広がっていたが、その時を動かす様に再び歌いだす。
 これまでと違い、そこにまるで伴奏があるようにリズムに乗り、楽しげに妖艶な声で。
「The tryst of overnight as long as tonight
 The romance of overnight as long as tonight
 OK,let’s enjoy
 OK,let’s crazy dance
 Do’nt miss the moment
 Do’nt miss you――」
 澄音が割りこもうとするのだが、珍しく躊躇していた。
 それは、ケイの歌への想いと自分の歌への想いが別のところにありすぎて、自分が入る事でケイの魂とも呼べる歌を壊したくなかったからだった――


 皆が帰ったり温泉へと向かったりした中、修平は1人、ピアノの前で座っていた。
『どうだったかしら、修平』
 ケイに感想を求められた時、その場では「凄かったです」としか答えなかったが、ピアノが弾きたくなってしまったのだ。
 そこに真が顔を出す。
「先日はすみませんでした。差し出がましいことを言ってしまって」
「先日――ああ、いえ。そんな事はありませんよ」
「修平さんは技術があります。だからこそ音楽を楽しんでいただきたいんですよ。
 それにまだお若いんですから、我侭を言ったり甘えたり、自分の思っていることや感情を、もっと表に出した方がいいと思うんです」
 そして真が、寂しそうに笑う。
「今のうちに出しておかないと、後で後悔しては遅いですよ」


「……やはり大きいほうがいいのだろうか?」
 温泉で海の胸と自分のを見比べ、つい、口に出していたアルジェ。
 空気が和らいだかという所で、切りだしてみた。
「海は聞いていないか? 修平が戻ってきた理由とか」
「え? 私のために戻って来たってのは聞いたけど、それだけしか知らないかなぁ」
「ふむ……」
 隣の男湯に、誰かが入ってきた気配――それにアルジェが「すまない、海」と脱衣場へと戻って行った。

(話しても、いいかもしれないとは思うんだけどね……)
 真の言葉を思い返しながらも、それでもまだ、思い留まっていた。
「言ってはいけない、か……」
「修平、背中流すぞ」
 ガラッと開けて入ってくるアルジェのタオルが、はらりと落ちる。
 だが鍵をかけ忘れ、入られた時点で色々と結果が見えていたのか、目を閉じていた修平であった。
(こんな日常でも、壊すわけにはいかないからね……)




拙いなれどその音律は心に 9章   終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Blue Sphere Ballad・君田 夢野(ja0561)
 白翼の歌姫・川知 真(jb5501)
重体: −
面白かった!:2人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
RockなツンデレDevil・
江戸川 騎士(jb5439)

大学部5年2組 男 ナイトウォーカー
白翼の歌姫・
川知 真(jb5501)

卒業 女 アストラルヴァンガード