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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:シリーズ
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/06/11


みんなの思い出



オープニング

「あ!」
 さて帰ろうとしていた津崎 海(jz0210)が、教室の戸口で立ち止まる。
 その背にぶつかる、矢代 理子(jz0304)。
「……どうしたの、海ちゃん」
 問われた海は、ほんの少し涙目で眼鏡を持ち上げ、ブリッジ跡を指でもみほぐす理子の横を通り過ぎ、教室のカレンダーを指でなぞる。
 その指が30日を示した。
「もうすぐ修君の誕生日じゃん!」
「うん、そうだね」
 素っ気ない理子の言葉に、口をとがらせる鼻に指を突きつけた。
「知ってたね、りっちゃん!」
「うん、まあ……知ってたというか、覚えてるよ。もちろん。
 修平君だけじゃなく、海ちゃんや澄音ちゃん、他のみんなのもね」
 得意げに胸を張った――わけではないのだが、海にはそう見えてしまい、何となくでその胸を鼻から離した指でつつく。
 ちょっとした悪ふざけに、顔を赤くした理子が「な、何してるのっ」と頬を膨らませた。
「え、なんとなく」
「なんとなくじゃないよ! もう……」
「触りたい時ってのが、あるもんだ!」
 理子の背後から伸びてきた両の手が、ぐわしっと理子の胸をつかむ――はずが、なにやら胸の上に手を置いて、わきわきさせていた。
「ちっせぇー……」
 理子は顔を曇らせがっくりうなだれると、澄音のされるがままである。
「でもマメだな、理子はよ。えれーな」
 うなだれる理子に悪いと思ったのか、澄音がいい子いい子するように頭をなでると、少しだけ口をとがらせながらも顔を上げた。
「ここまでずっと一緒に過ごしてきたんだから、覚えてるもんだよ」
「あれ、それ去年も聞いたような気がする」
「うん、去年も言ったと思う」
 海と澄音が顔を合わせ、覚えてるかと互いに目で問いかけあっているが、お互いに首を横に振るばかりであった。
 だがそんなことも気にしないのが、2人である。
 2人そろって手を挙げると、学級日誌をつけている中本 修平(jz0217)の名前を呼ぶ。
 狭い教室なのに大きな声で呼ばれた修平が日誌から目を離すと、ずかずかとやってくる海と澄音の2人に目を向けた。
「どうしたのさ?」
「相変わらず集中していると、話し声が聞こえねーみてーだな。おめーの誕生日だよ、誕生日」
 澄音に日誌を払いのけられ、迷惑そうな顔をして拾い上げると、海に奪い取られ後ろへと放り投げられる。
「ちょうどいいからさ、今度みんな来た時に祝おうよ!」
「いや、わざわざそんな……」
 放り投げられた日誌は気になるようだが、目の前の2人を相手にしないとよけいに面倒だと判断したのか、席を立たず、ボールペンをくるくると回す修平。
 素っ気無い返事をしようとしたが、手が止まり、その目が大きくなっていく。
「……お祝いはともかくだけど、僕から一つお願いしたいことがあるかな」
「どんなこと?」
 日誌を拾って持ってきてくれた理子へ、「ありがとう」と言いながらその顔をじっと見つめる。
 その表情は思い詰めていると言うより、ふっきれた――そんな表情であった。
「今の僕のピアノを……僕の今の覚悟を、みんなに聴いてほしい」



 いつもの通り、海の家。その地下の防音室。
 そこで行われていたのはいつもと違い、修平1人、集まってくれた皆の前でピアノを披露していた。
 それも練習のためとかではない。かつてないほど本気の、『聞いて感じ取ってもらうための演奏』だった。
 軽快な音のようでいて粘りが強く、前の音を忘れさせないうちに、次の音が先へと運んでくれる。
 滝というよりは、ゆったりと風景の流れ穏やかな清流を思わせる演奏。が一転、何度も繰り返され、少しずつ力強く、そして加速していくフレーズは滝が近づき、急流となっているようだった。
 それからの浮遊感溢れる、間延びした曲調。
 それが落下を始め、恐怖を一瞬だけ感じさせる――しかしそのまま突き抜けるような音に変わると、音と世界が上へ上へと向かって行く。
 雲を超え、空を超え、さらにその上へと目指していく音がフィナーレを迎え、余韻を残して終了した。
 小さくもないはずの部屋だが、部屋が小さく狭くなったような感覚に見舞われるなか、修平が口を開く。
「この前りっちゃんが教わってた物語を描くっていうのは面白いかなと思って、自分の感情を相手に伝えるよりも、聞く人の感情と想像力を沸き立たせる音楽にしていこうかと思います。
 りっちゃんと一緒だと、りっちゃんが想いを聞き手に伝え、聞き手に想いから情景を思わせる事ができるような気がするんです」
 自分の手を眺め「まだ未熟ですけどね」と笑う。
「自分の想いを乗せたピアノ、誰かの想いを表現するために付随する技術のピアノ、その2つを使い分けようと思っていましたが、それを混ぜ合わせて、誰かを引き立たせ心に寄り添う音楽。
 これが僕らしい音楽で、僕が進みたい、楽しみたい音楽――僕はこれを貫こうと思います」
 本気で音楽に没頭する人を目の当たりにし、本気でやるには突き詰めなければいけないと感じて、後悔しないための選択。
 色々と悩んだり立ち止まったりと迷走はあったが、それでも答えを出した。
「8月、ミニコンサート形式でとありますが……僕はその時、りっちゃんの想いを一直線に導くためだけにピアノを弾きます。
 つまりはまあ、最後のトリだけは僕とりっちゃんでって話なんですけど、その間の過程まではみんなと一緒に絡めたらなと思ってます」
 修平がギシリと背もたれを鳴らし、一人一人の顔を順に追っていき、理子と視線を絡める。
 すると、理子が力強く頷いた。
「うん、そうだね。私は今までお母さんに聴いて欲しい見て欲しいって気持ちだけをぶつけてたけど、この前、ちょっとしたイベントに参加して思ったんだ。
 今もちゃんと楽しく生きてます、仲良くしてくれる人がいますから心配しないでって伝えるのもいいなって」
 目を細めてはにかみ、理子の視線が皆へと向けられる。
「みなさんは、どうですか? 私と私のお母さんの為に来てもらってるようなものですけど、皆さんは当日、どんな音で、どんな気持ちで演奏してくれますか?」


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リプレイ本文

 修平の問いかけに、亀山 淳紅(ja2261)がポツリとこぼした。
「……どんな音、気持ち、で?」
「『普通に演奏』だ」
 何を言っているんだという顔の江戸川 騎士(jb5439)。
「死者に捧げる音は死者の物だ。 作曲や編曲、演奏も依頼者の思いにシンクロするが、俺の思いじゃねえよ?
 普通のライブだったら俺は俺の表現するだけだが」
 腰を上げ、戸へと向かう騎士。
 その途中、海の頭を掴んでその顔を覗き込んだ。
「情熱は大事だが、お前も8月の演奏には参加するんだぞ。判っているな――特訓だ」
 楽しげな笑みを浮かべ、頭を引っ張り上げるように立たせた。
「俺は優しくねぇぞ。にや〜」
「え、ていうかぁ、私もだったの?」
「まあいいから、来いよ」
 有無を言わせぬ騎士と共に、部屋を後にする海であった。
 淳紅が改めて考え、そして回答を口に。
「自分の中では……言うほど、特別な感情は無いんよなぁ」
 君田 夢野(ja0561)とアルジェ(jb3603)へ、ちらりと視線を送る。
「8月で……ゆめのんとかアルジェちゃんはともかく、少なくとも自分は」
 へにゃっと眉根が寄った、困ったような笑みを浮かべる。
「言うたら『バイバイ』の関係やしな」
 寂しい事を――そう一瞬思ったが、修平自身もそんな気がしていたのか何も言わない。
「それも踏まえて……自分は、理子ちゃんのお母さんとかに伝えることは特にないからなぁ」
 天井を。いや、その上を見据えていた。
 それからやがて、理子の顔、そして修平の顔を順に見つめる。
「……君達の、未来を想って歌おうかな。
 君達が、音楽をまっすぐ愛していける未来があればいい」
(涙と憎しみと後悔に溺れる日々じゃなく、やな)
 自分の流した涙、憤怒、そういうものを思い出していた。
「笑顔と音と優しい涙に溢れる未来がええな。その手が触れるんは、他の存在の心を震わせる音を奏でる楽器がええ。
 だから自分が謡うんは、願いの歌や」
 自分の歌が他の存在を傷つける武器でもあるからこそ、切に願う。
 そして、ひたむきで、真っ直ぐな音を奏でる手を守れるのは力を持ち、戦う事を選択した、自分の血に濡れた歌だと知っているからこそ、よけい、願わずにはいられなかった。
「……アルは誰かを護る、ずっとそれだけを考えて生きてきた、そしてこれからもそれは変わらない。
 だから、アルの演奏で誰かを護り、包むことが出来ればと思っている」
 その視線が修平と交わると、ほんの少しだが頬に朱がさした。
「護ると決めたものにそっと寄り添い、支えられるような……そんな演奏を、アルは目指す」
(想い。想い、ね……)
 黙って聞いていた夢野が手ごろなメモへさっと、書き起こしてみた。
『始まりは唯の音楽家として
 歌う君の力添えの為にここに来た

 ある日君は俺をセンセイと呼んだ
 それから俺は君に教えるのが楽しくなった

 いつしか俺は君に安らぎを感じていた
 いつしか俺は君に居場所を感じていた

 だから、どうか君の隣に居させて欲しい

 君が望むなら俺は君の為に奏で続けよう
 君が望むなら俺は君の調を聴き続けよう

 音が世界を紡ぐなら
 世界は君の為にある』
「いやいや……こんな小ッ恥しい恋文、三流詩人でも書かないっての……」
 手のひらの上でそのメモは、誰に見せる事もなくパッと熱くない炎に焼かれ、黒く、小さくなっていった。
 煙を目で追い、途中で理子へ目を細め、それから天にまた、消えゆく煙を見上げる。
「まぁ、君の母親さんになら伝えてもいいか」
 ぼそりと独りごちる――と、軽く叩かれる様に肩に手を置かれた。
 横に立つケイ・リヒャルト(ja0004)がニコリと笑い、理子の元へと歩くと同じように肩に手を置いてニコリと笑った。
(当日、どんな音で、どんな気持ちで演奏するのか……か。
 確かに一緒に大切な場に居る、しかも一緒に大切なセレモニーをするならば、当然知りたいこと)
「わかったわ、理子。これがあたしなりの答え――」
 皆の注目が集まる中、すっと息を吸い込み、やがて静かに歌いだす。
 優しく紡ぎ出されるその声は、部屋の隅という隅に染みこむように響き渡り、全てを包み込むかのようであった。
 振り返り、正面から向けられた声は各々の心の奥へ導く。
 すると、聴いている者の目には次第に、情景が見え隠れする。
 地上から見上げ、自分では手に入れようのない星のその輝きへ、必死に手を伸ばし、懇願するように叫ぶ――そんな憧れにも似た感情をあらわにした姿が、見えるように感じていた。
 やがて星に向けられていた意識は、同じ地上にいる人々――すぐそこで聴いてくれているみんなへと向けられ、大切さが滲み出るような感情を起こさせてくれる。
 そして最後、大きく息を吸い、押さえきれぬ感情を全て吐き出す様、息の続く限り声を伸ばす。
 とてもとても大切なモノ達を、愛しむように。
 歌い終わると、修平、そして理子へと顔を向ける。
「……どうかしら? 伝わったなら良いのだけれど」
 ケイの微笑みに、理子も修平も頷き、返すと、それまでずっと無言でいた川知 真(jb5501)も微笑んだ。
「8月は等身大の、そして私達ができる最高の演奏をしましょうか」
「せやな! 最大限に自分をだせばええんや!」
 淳紅が自分を奮い立たせるよう無理にでも笑うと立ち上がり、修平の背中を強く叩くのであった。
 ちょっと咳き込んだ修平が、珍しく淳紅へジト目を見せ背中を叩き返そうとするのだが、ひらりとかわされ、逃げ回る淳紅を楽しげに追い回す。
 歳相応とも取れる行動に「へいへーい、修ちゃんこっちやでー」と、こちらはやや歳相応とは呼べない淳紅が挑発し、楽しげに逃げ回るのであった。
 その間に、アルジェが「すまない、少し席を外すぞ」と、部屋から出ていくのであった。
「本当に、少しは吹っ切れたようだな――」
 感じとれる変化に、顔をほころばせる夢野。そんな夢野の横に、理子が座る。
「ああやって楽しむ修平君は、久しぶりかもしれないです」
 夢野と理子、2人の視線が修平と淳紅を追い、それから何か言おうと口を開いた夢野がしばらく躊躇したのち、口を閉じ、理子へと顔を向けた。
「あー……よかったらでいいんだが、8月の演奏で君と――理子さんとセッションしたいんだが、どうだろうか?」
 驚いた顔を見せる理子。だがすぐに泣き出しそうなほど嬉しそうな顔をして「……はい」と、短くだがはっきりと返事をするのであった――

 海を連れ、騎士が小宴会場へと向かっていた。
 特訓と聞いていた海が首をかくんと曲げると、前行く騎士が突如口を開いた。
「俺を拾って育てた師匠ってのは、子供のなりをした悪魔だったからなのか、毎月誕生日会をやってくれるんだよ」
 どんな表情をしているのか、海にはわからない。
「親の顔も知らないし、本当の誕生日が判らない。
 そんな俺が、近所のガキにバカにされるのが可哀想だったからなのか、 単にイベント好きだからなのかは、最後まで判らなかったがよ」
 肩をすくめ、振り返る。
 いつもと変わらぬ表情だった。
「まあ、年相応ってのは大事だ。盛大に祝ってやろうぜ」
 ぽんと頭に手を置いた時、物陰にいるアルジェと目が合った。
 ばつが悪そうに物陰から出てくると、アルジェは大仰に頷いてみせる。
「生誕の日だ、盛大に祝うのが流儀だろう?
 中途半端にするから恥ずかしいと思うんだ。大げさなくらいがちょうど良い、記憶にもずっと残る」
 海と騎士の横を通り過ぎ、小宴会場の戸に手をかけた。
「さぁ、歌でも歌いながら準備しよう めでたい日だ、祝う側も祝われる側も楽しまなければな」

「修平、誕生日だったんですって? 聞いたわよ。折角だもの、お祝いしましょう」
 ケイがそう切り出すと、修平は気恥ずかしそうに遠慮した。
 だが、ケイが顔を両手で挟み、目を覗き込む。
「祝わせてほしいのよ。修平が、この世に生まれてくれた日を。だからこそ、あたし達に出逢ってくれたことを」
「誕生日かー! 何なんー早よ言えやプレゼントとか買ってきたったんに!」
 べしべしと顔を押さえられているのをいい事に、後頭部を叩き続ける淳紅。そして得意げに指をビシッと天に向ける。
「よし! ほならベッタベタやけどHappybirthday全力で歌ったるからな!」
 大仰な仕草で恭しく、まるで王子が姫に向けるように歌われている方が恥ずかしい仕草をしながら、ノリノリの淳紅は何度も何度も「ディア修ちゃ〜ん♪」と繰り返すのだった。
 修平の顔から手を離したケイが、包装されたCDを修平へと手渡す。
 手渡しながらも、先ほどの演奏について「情景と空気を感じたわ」と伝えていた。
「修平さんお誕生日おめでとうございます。これからの1年が実り多き1年になりますように」
 真が音符の栞がついたブックカバーをプレゼントするのを見て、何の準備もしていなかった夢野がふと思い立ち、ヒヒイロカネを探る。
 そこから一冊の本を取り出すと、修平へと差し出した。
「【神秘の総譜】ってヤツだ。『人の心に直接作用するという不思議な音楽の総譜』って胡散なブツだが、君の意志を叶える為のお守りとでも思っておいてくれ」
「……ありがとうございます、ケイさん。真さん。夢野さん。それと、淳ちゃんさん」
「なんで自分だけ淳ちゃんさんなん!?」
 手を伸ばし詰め寄る淳紅を前に、笑みを浮かべながらその手を払いのける修平であった。
 ――と、そこに。
「おら、誕生会の準備できたぞ!」
 荒々しく戸を開けて入ってきた騎士が、修平へ投げつけるように指を突き出す。
「文句は受け付けねーぞ。飯は黙って受け取るのが、礼儀ってもんだ」
 何か微妙におかしい礼儀を語る騎士へ「はい」と、素直な返事を返す修平。それに少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐにいつも通りの顔で、古めかしい大量の楽譜を修平の前に突き出した。
「俺は、全部見て・考え・覚えて・弾いた。俺は音楽と出会い、俺自身を見つけた」
 ぐっと、楽譜を修平の胸に押し付ける。
「お前は、道を一つ見つけた。
 この先、お前は色々な事に出会うだろう。 そしてまた何かに迷い、悩み、壁にぶつかる事になるだろう」
 受け取らせると腕を組み、続ける。
「だがお前は知った筈だ。
 悩む事は悪いことじゃない。先に進む道を見つける為のステップだってな」
 そして修平の頭を少し乱暴に、髪が乱れるのも構わずになでつける。
「この先も大いに悩んでくれ――誕生日おめでとう」

 誕生会の会場では真が用意した、桃と洋ナシを白いバラの花のように中央に配置し、周りをアザランなどで飾ったレアチーズケーキと、ケイと共同で作った一口で食べられる軽食が用意されていた。
 そこで、主役以上にはしゃぐ淳紅に混じる海と澄音へ、真が声をかける。
「もし良かったら、一緒にセッションしませんか? 今から練習すれば間に合うかと思いますので」
「あ、本当に私もだったんだね。いいよ!」
 了承を得た真が、海へ楽譜を数枚渡した。
「それは、童謡をキーボードとバウロンだけで出来るようにしたものです。
 楽譜を見ていただければわかりますが、バウロンがリズムで、キーボードが主旋律ですね。これは練習用の曲ですので、本番はオリジナルか、クラシック曲を2人で出来るようにソウルフルにアレンジしたいと思います。
 それで、もしよろしければなんですが、これから8月までここで一緒に練習させていただければと思います」
「おっけーだよ」
「地獄の特訓だにゃー?」
 愉快そうな顔の騎士が割り込み海をからかいだすと、真は次に澄音へと向き直った。
「もし澄音さんと皆さんがよろしければ8月、ご一緒しませんか? 前回は本気で歌わなかったと言われてしまいましたからね。今度は、本気の声量で。いかがでしょうか?」
「望むところだぜっ。つーことで修、理子。あたしも参加すっから、決定!」
 有無を言わせない澄音に、誰もが苦笑しながらも頷かざるをえなかった。
「理子のお父様はまだ音楽に携われるかしら? もし可能なら、是非参加して貰いたいわ」
「お父さんは――どうだろう?」
 首を傾げた理子へ「だって」と続ける。
「……きっと、その方がお母様も喜ばれるでしょう?
 理子もお父様も2人共、元気でやってるんだな……って」
「――帰ったら、聞いてみます。ケイさんは、どうするんですか?」
「あたしについて、は……淳紅とデュオが出来れば良いな、って思ってるわ。
 アカペラにするか、それとも伴奏を付けるかは、演奏順と曲調が決まってから、かしらね」
 名を呼ばれたという気がした淳紅が目を離した隙に、修平がそっとケーキの上から洋ナシと桃を抜き取り、口にする。
 それに気づいた淳紅が半泣きで抗議するのを、皆は楽しそうに笑うのであった――ただし、アルジェだけはじっと、修平の横顔を見続けていた。



 その日の夜。川のほとりで月を仰ぎ見ながらアルジェは修平を待った。
「お待たせ、アルジェさん」
 やってきた修平へ、リボンで簡易にラッピングされた、シックな眼鏡ケースを差し出した。
「誕生日プレゼント、何がいいか迷ったんだが……何かもっと気の利いたもの――とも思ったんだがな」
 渡された修平が「ありがとう」と述べると、再びアルジェは月を見上げた。
 そして唐突に「月が、綺麗ですね」と、わかる人にはわかってしまうその言葉を口にして、笑う。
「ふふ――この国はロマンチストが多いようだな」
 半分は冗談だった。だがもう半分は――
「仙北が厳しい状況にある。
 何があるか、わからないからな。言いたい事は言っておこうと思ってな」
 遠くを見つめていた瞳が、すぐ近くの眩しい存在に向けられる。
 揺れる瞳。少し震える唇。
 川の音が高鳴る胸の鼓動を消してくれと願いながら、アルジェが言った。
「アルは修平が好きだ、護りたい。修平が抱えるものを共有できればとも思っている――アルでは、修平を支えることは出来ないか?」
 アルジェの真っ直ぐな目から逃げる様に、修平は川へと視線を落し、それから口を開いた。
「――海ちゃんとの約束が終わるまで、返事は待ってください。その時が来たら、僕から伝えます……だめですか?」
 半ば予想していたのか、アルジェは首を横に振ると「わかった」とだけ伝える。
 そして2人して川に映る、おぼろげな形の月を眺めていた。
「……そうだ、何か修平の物を貸してくれないか?」
 そう言われ、修平は財布の中から、白く小さいながらも神々しさを感じさせる羽を取り出した。
「りっちゃんの、お母さんの羽です。僕しか持っていないこの秘密の一部を、アルジェさんに」
 それが大事なモノで、そして一部と言えど秘密を打ち明けてくれたその信頼に、アルジェがこれまで以上の微笑みを浮かべた。
「ありがとう……これで怖いものはない」




拙いなれどその音律は心に10章   終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
RockなツンデレDevil・
江戸川 騎士(jb5439)

大学部5年2組 男 ナイトウォーカー
白翼の歌姫・
川知 真(jb5501)

卒業 女 アストラルヴァンガード