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マスター:クロカミマヤ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/04/16


みんなの思い出



オープニング

●守崎の願い

「先日、この街にディアボロが出現した話は知っているか?」
 守崎の言葉に、その場に立つ全員が頷きを返した。
 未だ記憶に新しい、屈辱的な敗北。
 力の差を思い知らされたあの夜のこと。
 思わず沈みがちになる撃退士達の姿を見ると、守崎は何かを察したように頷いた。

「報告書を読んだんだ。実家の地域だから被害状況が気になってね。……だが、予想外の記述があった」
 守崎は続ける。
「俺も写真がなければ気づかなかったかもしれないが。その日、街で目撃されたというヴァニタス……いや、『黒野咲』は」
 言葉を詰まらせる青年。
 俯いたまま、かすれた声でつぶやく彼の絶望は、一体どれほどのものであろうか。
「――俺の、恋人だった」 


●断ちきれぬ因果

 黒野の兄と守崎は幼い頃からの親友だった。
 田舎の学校ゆえ、1学年は2クラス。
 何の因果か6年のうち5年を同じクラスで過ごした小学時代は、むしろ腐れ縁と表現した方が適切かもしれない。

 そんな状況、いわゆる家族ぐるみのつき合いも当然存在した。
 一つ年下の咲。兄弟のように育った3人。
 よくある陳腐な恋愛物語だ。笑ってしまうほど青臭い。
 親友を兄と呼ぶ将来を妄想して妙な居心地の悪さを感じたり、モリサキサキという名前は如何なものかと真剣に議論したりもした。
 手をつなぎ、腕を組むだけで、とても幸せだった。

 ――それなのに。

 守崎が中学3年になるほんの僅か前。三月、春休み。春の彼岸の頃だった。

 黒野の父は九州北部の出身。家族旅行を兼ねた墓参りに出掛けるのは、毎年恒例の行事。
 九州にはすでに天界陣営のゲートが存在していた。
 だがこの時勢、どこへ行こうと似たようなもの。
 天魔の襲撃がなかった場所にゲートが発生する確率と、天魔の支配地域近郊で彼らに遭遇する確率。
 どちらが高いかなど、一介の一般人が安易に推測できるものではない。
 それがわかれば、誰だって安全な場所に逃げている。

 守崎が異変に気づいたのは、4日目の朝だ。
 前夜、眠る前には、確かに咲とメールのやりとりをしていたのだが――朝起きても、最後に送ったメールへの返信がなかったのだ。
 メールを先に止めるのはいつも、守崎のほうだった。
 何かがおかしい。そう察した瞬間、階下で母親が電話する声が聞こえた。
 虫の知らせに体を震わせ、跳ね起きる。
 寝起きのまま階段を駆け下りた守崎の目に先ず飛び込んできたのは――

 絶望的な状況を告げる報道番組。
 黒野家の向かった地に小規模ゲートが出現したという、第一報。


●後悔と懺悔は姿を変えて

 行方不明。メディアはそんな言葉で、彼女の状況を表した。
 だが、そんな言葉で括られて納得行くものか。
「天使に魂を抜かれ、肉体をいいように扱われて……。
 あいつらの痛み、苦しみを、考えるだけで気が狂いそうになる。
 だから、俺は久遠ヶ原へ来たんだ。いつか、あいつらを奪った天使を見つけ――この手で倒すために」

 それなのに、どうして。
 強く強く握り締めた少年の手は、白く――

「咲は天使に攫われたわけじゃなかった。生き延びていた。
 それなのに。家族の仇を――天使を倒す為に、悪魔の軍門に下ったんだ」

 天使を殺す、悪魔の術式。
 撃退士がカオスレートと呼称するその技術を、強く欲したがために。
 悪魔のささやきに唆されて、少女は自ら死を選んだのだと。


●浜に潜む悪魔

 話を聞いた後、撃退士達は複雑な想いを抱えたまま帰路につく。
 守崎の言葉をすべて真実と考えるなら、黒野咲は天使を討伐する事を目的としているはず。
 なぜ、撃退士という道を選択しなかったのか。
 素養がなかった?
 それとも、撃退士では天使は倒せないと思っていたのか?

 どちらにせよ――
 人を愛するゆえ、人を殺め続ける彼女の宿命に、やりきれないものを感じる。

「……ともあれ、俺の個人事情に巻き込んでしまって悪かった。
 お詫びになるかは分からないが、折角だし旨いものでも食べていってくれ。俺の、気持ちだ」

 聞けば守崎の友人の実家が、近くで鉄板焼の店を営んでいるという。

「安心してくれ、この街の住人は撃退士に対して友好的だ。……何度も窮地を救われているからだろうな。
 浜に近くて眺めもいい。こんな時勢じゃなければ、観光客で賑わっているんだろうが……まあ、お察しというか」

 確かに、戦い疲れた身を癒すには悪くない。
 体を休めることだって、見方を変えれば仕事の一環であるのだ。
 守崎の言葉に甘える形で、一行は鉄板焼を楽しむことに決めたのだった。

 遅れてやって来る、招かれざる客の存在を、彼らはまだ知らない。
 

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リプレイ本文


 束の間の休息を得るため、一行は海岸近くの店を訪れていた。
「この状況で店を続けているとは……なかなか肝が据わっている」
 切り分けられた肉や野菜を運びつつ、相楽 空斗(ja0104)が店主に話しかける。
「奴らと戦う撃退士に比べれば、大した事ないさ。……俺にとっては店を手放す方が怖い。それだけだ」
 切なげに笑う年かさの男が悲しくて、空斗は悟られないよう目を細める。
「おーい、買ってきたよぉ」
 2、3km先のスーパーへ向かった雨野 挫斬(ja0919)と染 舘羽(ja3692)、そして守崎が戻ってきた。
 手に提げた買い物袋には缶ビール、それから各人の好みに合わせた飲み物が数種。
「やっぱり外で飲むビールはサイコーよねぇ」
 おじさんの分も買ってきたからね、と店主に冷えた缶を差し出しつつ。
「はい次、烏龍茶の人ー!」
「挫斬さん牛乳そっちに入ってるー?」
「ミルク希望? お子ちゃまぁ」
「違うよー、パンケーキに必要だって言ったじゃないですか!」
 挫斬と舘羽の様子を横目に見つつ、氷月 はくあ(ja0811)は鉄板の準備を手伝う。
「氷月殿! 拙者やるでござるよ?」
「あっ、えっと……わたしが料理すると何が生まれるか解らないので、お手伝い今のうちしか出来ませんから……!」
 どこまで本気かわからない少女の呟きに、断神 朔樂(ja5116)は笑って答え。
「こういう時に働くのは男と相場は決まってるでござ〜」
「うむ、レディ諸君はゆっくり待ってくれて構わんぞ」
 両手にトウモロコシを持ったまま空斗が胸を張る。
「おー。焼くぜー超焼くぜー」
 2人の言葉を肯定するように、虎綱・ガーフィールド(ja3547)はコテを握った。
「……よく、わからない……が。力仕事、食う……両方、得意……」
 運ばれてくる食材と程よく熱した鉄板を前にして、ザクセン(ja5234)もようやく状況を理解し。
 戸惑いつつも周囲の行動に倣い、準備を手伝い始めた。
「よし焼モロコシだッ! めんどくせーしパンケーキも焼いてしまおうそうしよう」
「ままま待たれよ、物事には順序というものが! 先に肉と魚、あと焼そば!」
「焼かせたまえ虎綱君ー! そろそろ糖分切れで俺死ぬ! 死んじゃう!」
「……平和でござるなぁ」
 一時でも幸せに浸れるこの時間が。きっと、今後の皆の勇気に変わる。

 海を眺めながらテラスを囲う金網に手をかけ、守崎はジュースのプルタブを引いていた。
 重い溜息に気づき、空斗は運んでいた大量の野菜を机に置いて、守崎に話しかける。
「――美しいな」
 隣に並び立ち、彼の視線の先にある広い海を見つめて呟いた。そんな空斗の心遣いに、守崎も微かに笑みを浮かべる。
「だろう? 自慢の海だ」
「夏場であれば泳ぎたかったが、流石にまだ早いな」
「……ああ」
 ふっと笑う青年に向け、空斗は胸の前に握り拳を作る。
「海水浴の季節にもう一度ここを訪れよう。その時は、是非この街を紹介してくれ」
 空斗の申し入れに、守崎は驚いたような表情を浮かべる。
 だが、すぐに頷き拳を前へ突き出した。空斗のそれに、合わせるように。

 食事を前に色めき立つ仲間から少し距離を置いて、燕明寺 真名(ja0697)は波の音に耳を傾けていた。
 空は抜けるように青いのに、海岸には荒波がざあざあと押し寄せてくる。
 まるで、少女の心の内をそのまま写し取ったかのように。
 ――守崎さん、あなたにお訊ねしたい。
 彼らが買出しに出掛ける前。真名は、ひとつの問いを守崎へ向けた。
 ――どんな天使です。貴方知ってるんですかっ……!
 天使への復讐。守崎が告げた黒野の本質を指すその言葉は、真名にとってもひどく重く。
 過去を顧みて思わず震える手を、ぎゅっと握り直す。
「……燕明寺さんは、お茶でいいんだよな」
 ペットボトルを差し出しながら、守崎が歩み寄る。真名は返事をせず、僅かに頷いた。
「君も背負っているんだな……。俺や、黒野と同じように」
「こんな時勢です。珍しい事ではないでしょう……けれど、仇敵です。私にとって、とても赦しがたい存在」
 天使の存在を仄めかされるだけで、心が酷く揺れる。未熟な己の精神を情けなく感じるけれど、蹲っていては前に進めない。
「けれど私はジャーナリストですから。鉄の心を持ち、あの天使を追い続けます」
 決意は一層固く。信念は揺らぐ事なく。
 眼下の海は混沌を孕んだまま――表向き、静かに凪ぎ始めていた。


「あ、それもう食えるで御座るよ?」
 朔樂がトングで、焼けた肉や貝を取り分ける。
「浜辺で鉄板を囲む……王道ですねぇ」
 先ほどまで厳しい顔をしていた真名も、さすがに食事中は穏やかな表情だ。
 素晴らしい、と呟きながら野菜で肉を包み口へ運んでいる。
「お腹いっぱい食べれるって嬉しいよね〜! あ、はくあちゃんお肉食べた? 魚とかエビは?」
 肉の焼ける音を聞いて楽しくなってきたのだろう。舘羽が海老や魚の切り身を乗せた紙皿を渡す。
「あっ、いただきます! おいしいお肉食べれば元気出ますよねっ」
 どこか緊張した面持ちでいたはくあも、少し笑顔を見せた。
(もっと強くなるんだ。繰り返さないように。そのためにしっかり食べるのも、大事だよね)

 網の上でぽんっと何かが弾け。
「うわっ」
 飛んできた水粒に驚き、朔樂が思わず後ずさる。
 撃退士である以上この程度で火傷などする訳もないが、本能的に避けようとしてしまうのは当然。
「イカの水分が跳ねたで御座るか……」
 鉄板の上で踊り狂うイカの切り身。隣で見ていた空斗は顎に手を当て、成程と頷いた。
「よし断神君、俺が代わろう」
「お、驚いただけで御座るよ!」
「ふっ案ずるな。俺のこれは何の為のものだと!」
 胸を張りサムズアップする英雄候補生。親指の先は彼の特徴的なゴーグルへ向けられ。
「成程、相楽殿はアウトドア活動に命を賭けてるんで御座るか」
「……あ、えっと、一応言っておくが冗談だぞ……?」
 たわいもない言葉の応酬に、誰からともなく笑い声が零れる。

 はじめは貝や焼そばを見て首を傾げていたザクセンも、初めて味わう料理の数々に、少しだけリラックスした様子で。
 本当の意味で気を抜く事はできていないかもしれない。
 けれど、戦いの最中で見せる表情とは、少し異なる落ち着きを持っている。
「あ、それは牡蠣だよー」
「カキ……?」
「そう。海に住んでる貝!」
 バーベキューの作法から食材の事まで、ザクセンの疑問に答える舘羽。
 2人の様子を微笑ましく眺めつつ、虎綱も口を挟んだ。
「養殖ではなく天然物だそうで。そろそろ時期も終わる、次は秋まで食べられないで御座るよ」
「……ヨウショク……?」
「ああぁ、えっと養殖っていうのは……」

 3人の様子を遠巻きに見守りながら、守崎は低いフェンスを背に炭酸飲料を開けた。
「守崎殿。少し、話をしませぬか」
 声を掛けたのは朔樂だ。
 仲間の前では明るく振舞っていたが、彼もまた、自らに重い枷を科している。
 黒野が掲げる『復讐』。その言葉に、感じるものは少なくない。
「……復讐なんて、するもんじゃない。俺も以前はそう思っていました」
「以前、で御座るか?」
「はい。今は……それを志す人間の気持ちが、分かるから」
 どういう意図で、守崎がそう言ったのかは分からない。
 けれど一つ確かなのは――守崎が、誰かを強く憎んでいる事。
「……まぁ、そんなに落ち込むことも御座らん」
 話が少し聞こえていたのだろう。パンケーキの生地をひっくり返しなつつ、虎綱が呟いた。
「この世には野良悪魔なんかもいる、ヴァニタスと共存できる可能性もあろうよ」
 夢のような話だ。希望的推測に基づく、根拠のない願望にすぎない。
 それでも、呟かずにはいられない。ここで沈黙するのは、あまりにも悲しすぎる。
「言葉は通じている。さすれば救える道も、きっとどこかにあるで御座ろう」
 胸に提げた御守りを、ぎゅっと握り締め朔樂が言う。守崎は顔を歪めたまま口を開く、が。
「ガーフィールド殿、パンケーキの焼き加減はどうで御座るかー?」
 まるで何かを誤魔化すように、朔樂が言う。虎綱が頷いた。
「今が食べ時。おーい相楽殿ー! パンケーキが焼けたぞ、メープルシロップをもてーい!」
「燕明寺くーん、メープル借りるぞー!」
 暗くなりかけた雰囲気を、吹き飛ばすように。努めて明るく。


 賑やかに食事を楽しむ仲間から離れ、缶ビール片手に挫斬はゆっくり守崎へ近づいた。
「ねーぇ、守崎くん」
 低い金網の縁に肘を預け、海風を浴びる守崎。
 彼の背後から、両肩の上を通るようするりと腕を這わせ、挫斬は小さく息を吐いた。
「お姉さん酔っぱらっちゃったから変なこと言っちゃうかも……先に謝っておくね。ゴメンなさい」
「……何ですか」
 顎を引き、振り向かずに守崎は答える。挫斬は満足げに唇の端を釣り上げると、更に小さな声で、青年に囁きかけた。
「クロノ……ううん、咲ちゃんの事。どうするつもりかな? 死人は生き返らない。ヴァニタスは、絶対にヒトには戻れないよ」
「分かってる。俺も、……撃退士だ」
 握り締めた守崎の手が僅かに震えているのを察し、挫斬はくすくすと笑った。
「彼女を殺して終わらせるか。彼女と同じ道を歩むか。……あなたは、どうする?」
 耳に息を吹きかけ、挑戦的な口調で挫斬は語り続ける。
「よく考えて。全ての為に彼女を屠るか、彼女の為に全てを捨てるか。
 あなたは、どちらか選ばなきゃいけない。決めずに会えばあなたは迷いに殺されるでしょうね。
 何も決めず逃げてもいいけれど……その時はついて来ないでね。あたしが、咲ちゃんを解体してあげるから」

 守崎の顎、そして首筋を指でなぞり、ようやく身体を離しながら挫斬は冷酷に告げる。
 現実を――突きつける。
「忘れないで。彼女は、捨てたんだよ。故郷も友達も、命さえ。……勿論、あなたの事もね」
 硬直する守崎に、挫斬はポケットから取り出した阻霊陣を渡す。
「これは余裕がある時に使って。おじさんは任せたよ。――お客さんが来たみたいだから」
「え……」
 顔を上げる。眼下の浜辺に、砂を掘り上げながらこちらへ進み来る不穏な影がふたつ。
 それは、巨大な貝の姿をしたディアボロだった。


「……休息……邪魔、するか」
 やや不満げな表情を浮かべ、ザクセンがいち早く敵の気配に気づいた。
 砂に身体を隠した貝は、ともすれば撃退士達を挟み撃つ心算だったのかもしれない。
 だが、緊張を解ききらず警戒を続けていた面々には通用しない。
「無粋な輩で御座るな」
 表情は笑んだまま。声色だけが、冷たく鋭利に表情を変えて。
「食事中の奇襲は卑怯で御座るよ……」
 溜息を吐きながらも、心は冷静。どこかで、招かれざる客の気配を感じていたのかもしれない。
 各々の手中には、光を纏う唯一無二の武器がある。
「守崎君、すまないが後方を頼むぞ……!」
 撃退士だけに許された力。アウルの光をもって、闇を制する――。

「あはは、ここまで大きいと気持ち悪いねぇ〜」
 ほろ酔いのまま武器を手に、挫斬が砂浜を駆ける。
 異常に発達した斧足を殻の隙間から差し出し、地を蹴った貝が宙を舞う。
 砂を撒き散らしながら、勢いをつけたまま体当たりを試みる敵。
 なんとか躱しつつ、挫斬は守崎・店主と距離を広げていく。
「此方にも居るで御座るよ?」
 挫斬を狙う貝の背後に回った虎綱が、持ち替えた忍刀で差し出された敵の足を狙う。
 距離を詰め、砂浜に落ちる大きな影を縫い止めるように踏みつけながら、貝の隙間を狙い刀を振るう。

「……何これ、貝? 焼かれて踊りたいの? 空気読んでよね……」
 溜息を吐きながら舘羽。焼き貝にしてやりたい、とぼやきつつ敵の外殻へ斧を叩き込む。
「見た目に違わず硬いなぁ! って事は、中身はどうかな?」
 食事を邪魔された腹いせとばかりに、等しく差し出された足に狙いを定める。
「おっきい貝だけど……食べられないよね、流石に」
「だよねぇ、残念!」
「さくっと倒して休養に戻るとしましょうっ」
 はくあは苦笑しつつも、僅かに開いた貝の隙間を狙い、的確に光の弾丸を撃ち込んだ。
「ずいぶんと固いみたいだけど…、これでどうっ!?」

 地面に向け、光の矢を穿ち空斗が叫ぶ。
「断神君ッ、後ろだ!」
 銀色の焔を纏う彼の太刀は、然して一度鞘の中に。敵の一撃を受けるも、回避を試みるも難しい。
「ッ」
 思わず舌打ちが漏れる。けれど。
「朔樂さんっ」
 襲いかかる敵との間に、舘羽が割り入り攻撃を凌ぐ。
 同時に、閉じようとした貝の間に斧を差入れて防御を阻害する。
「よし! 片付けよ!」
「――染君、右に跳べ!」
 空斗の放つ矢が、貝の蝶番を容赦なく破壊する。
 挟み込もうとする力が弱くなった処へ。
「相楽殿、かたじけない……! これでケリをつけるで御座る!」
 銀の炎を纏った朔樂の刀が、命断つ一撃を放った。
「――切り裂く。その全てを!」


 食事を邪魔されたことで、全員が多かれ少なかれ苛立ちを感じている。
 しかし真名がそれ以上に不機嫌なのは、当然、この襲撃にも黒野の影を感じたからだ。
 黒野のことを考えると、どうしてもその先にいる『天使』の存在に思考が向いてしまう。
「粉々にすり潰して海の肥料にしてやりますよ!」
 魔法書をぎゅっと胸に抱き、生まれ出る鋭い光の一閃で敵を屠るべく。
「あはははは! 真名ちゃんだけじゃなく、あたしの事も楽しませてよ! ……ねえ!」
 挫斬がなぎ払う。貝の表面を滑る爪は、僅かながら敵に衝撃を与え、怯ませる。
「……海、汚す……許さない……!」
 終始、貝の柔らかい内臓を狙うザクセン。
 手加減などするものか。敵は己の食事を、休息を阻害し――あまつさえ海の平穏を脅かそうとしている。
「これで……終わり……!」
 このままにらみ合っていても、不利になるのは此方。一気にケリをつけよう。
 真名を狙い、飛びかかろうと足を出す貝。
 僅かに開いたその隙間へ、狙いすまし鉤爪を差し入れると、そのまま力任せに二枚の貝を引き裂いた。
「――!」
 きぃん、と耳に痛い高音を発し抵抗を見せる貝だったが、つっかえ棒よろしく斧を差し込まれてしまえばなす術もなく。
 怒りを胸に秘めたザクセンの、重い一撃によって――勝負は、決着を見る。


「動いたらお腹空いたぁ〜」
「そうですね、仕切り直しましょう!」
 わいわい盛り上がりながら、パンケーキ焼きを再開する女性陣。
 その背中を見守りながら、虎綱は小さな声で呟く。
「……見ているので御座ろう? 黒野咲」
 彼らを見守る影は答えない。ただ、息を潜めてじっと、笑う守崎の姿を見つめている。
「此処でけりをつけるのは粋では御座らん。……次に遭った時が、その時。違うか?」
 音もなく、闇が嗤う。唇の端を上げた魔の者の気配を察し、虎綱は言葉を続けた。
「先日琥珀樹と剣を交えた、あの丘で。……また逢おう」
 答える声はない。けれど。
 どこかで、ヴァニタスの笑い声が聞こえた気がした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 高松紘輝の監視者(終身)・雨野 挫斬(ja0919)
 世紀末愚か者伝説・虎綱・ガーフィールド(ja3547)
 ハラヘリ大巨人・ザクセン(ja5234)
重体: −
面白かった!:6人

英雄を期する者・
相楽 空斗(ja0104)

大学部5年25組 男 インフィルトレイター
報道員の矜持・
燕明寺 真名(ja0697)

大学部6年302組 女 ダアト
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
死を見取る者・
染 舘羽(ja3692)

大学部3年29組 女 阿修羅
銀炎の奇術師・
断神 朔樂(ja5116)

大学部8年212組 男 阿修羅
ハラヘリ大巨人・
ザクセン(ja5234)

大学部7年276組 男 ルインズブレイド