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マスター:クロカミマヤ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:50人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/04/13


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


●ニューヨクに行きたいかー!?

 本日の舞台は、九州某県のはずれに位置する小さな離島である。
 島民は全員が顔見知り。産業らしい産業は存在せず、観光業でなんとか成り立っているのが実情だ。
 しかし九州に天使陣営の勢力が拡大している現状――。
 景観や食べ物だけでは人を呼び込めないのが事実である。

 そんな時。集落を取り仕切る中年の男が、なにやら怪しげな情報を仕入れたらしい。
「最近はインターネットで何でも調べられんだよ」
 しかし自慢げに開いたページは、なんだか――ひと昔前のアングラサイト的な危なさを感じさせるものだった。
 黒い背景に赤い文字。右から左へ流れていくショッキングピンクの『ヨウコソ……UndarGraundへ』。
 入口を示すバナーには髑髏と蝶が描かれている。誤記と相まって、明らかにアレである。

 リンクを進んでいくと、やがてページには怪しげな六芒星が登場する。
 大方の嫌な予感は的中である。どどんと踊る『黒魔術』の文字。その下には妙に小さな文字で長文が綴られている。
「この黒魔術ってのをやるとな、ただの水が、えらい温泉になるって話だ」
 食い入るように見つめる離島の人々。
 藁にも縋る思い、なのだろう。彼らの必死さも仕方のない事だろう。

 だけど黒魔術は、ちょっと、どうなのかしらね……?


●秘湯・聖天冠の湯

「聖天冠の湯?」
「うん、今すごい人気で予約取れないらしいよ」
「へー。九州の離島かぁ、いいね」

 大学部のラウンジで、女性が2人、旅行の算段を立てている。
 手にはパンフレット。どうやら誘い合わせて、旅行会社のツアーに参加するつもりらしい。

「ちょうど春休みだし、参加してみようよ! 聖天冠の湯って、なんかアレじゃない? 字面的に髪の毛に良さそー」
「あ、それ天使の輪ってやつー!? やだ、あたしも行きたい!」

 さてここで一つ、問題を出そうか。
 ――『聖天冠の湯』。
 これは一体、なんと読むのが正解だろうか……?


●そのパンフレットが、これだ!

 \おいでませ天国☆ 聖天冠《セーテンカン》の湯・体験ツアー/

 ◇ツアーコースのみどころ◇

 【1】秘湯・聖天冠の湯

 なんと言っても今回の目玉です! 海を見ながらの露天温泉、ぜひお楽しみ下さい。
 おすすめはお食事前の明るいうちですよ! 文字通りの『絶景』です☆

 【2】満腹満足! 海の幸バイキング

 気心知れた恋人やご友人と、おいしい海の幸をご堪能ください。
 バイキング形式ですので、お好きな料理をお選びいただけます。

 【3】温泉と言えばこれ!? ゲーム&卓球コーナー

 浴衣姿にスリッパで卓球に興じるのも、忘れちゃいけない旅の楽しみの一つ。
 地方の旅館にありがちな、古き良きアーケードゲーム等も勿論ご用意しております。
 皆さまお誘い合わせの上ごゆるりとお楽しみ下さい。

 【4】喧騒を離れてリラクゼーション。離島で女子力をアゲる!

 ゲームに興味がなければ、こちらはいかがですか?
 ベーシックな整体&足ツボマッサージから、アロマオイルを使ったフェイシャルエステまで。
 リーズナブルな20分コース〜お選び頂けます。どうぞこの機会にお試しください!


リプレイ本文


 ――という訳で、様々な思惑を胸に秘め、件の島へ降り立つ五十名の撃退士。
 真っ先にフェリーを駆け降りNicolas huit(ja2921)は胸一杯に空気を吸い込んだ。
 フランス育ちの彼にとっては人生2回目の温泉。楽しみで仕方ないのか、大きな瞳をきらきら輝かせ喜びを日本語で表現――
「ついたのだな! んーっと……ひ、湯。……天、えっと……オンセン!」
 諦めたようだ。
 次いで島に降り立つ高虎 寧(ja0416)も、旅行を楽しみにしていた様子。
「暖かくなってきたとはいえ、日が沈むと肌寒いからね」
 大きく息を吸い、久遠ヶ原より少し暖かい春の日差しに目を細める。
「温泉でほかほかになれば気持ちよく寝れそうだねえ」
 桜も満開を迎え、露天の温泉を堪能するには今が一番良い季節かもしれない。
 猫野・宮子(ja0024)は背伸びしながら笑顔を浮かべ。
「やっと到着だね。あんまり情報なかったけど、結構よさそうな所で安心したよ♪」
 ガイドにも掲載されない秘湯。温泉好きの彼女は、初めて聞く地名に首を傾げ心配していたけれど。
 どうやら杞憂のようだ。景色は綺麗で海も空気も澄んでいる。きっと温泉もいい湯だろう。

 まだまだ新婚の夫婦、鳳 静矢(ja3856)と鳳 優希(ja3762)の姿もある。
「うわぁ、なんかいいねえ。いいねえ。楽しめそうだねぇ」
「温泉が売りなんだろう? 楽しみだな」
「内風呂があればいいのですけど、お宿の値段的にキビシそうなの……」
 と、ちょっぴり肩を落とす優希。その頭を優しく撫でながら、静矢は微笑を浮かべた。
「まぁ……温泉以外はずっと一緒にいられるさ」

 甘い雰囲気とは程遠い、ぎこちなさの残る男女もいた。
「ねぇ聞いてる? フレイヤちゃーん」
 と、チャラい口調で問いつつ後輩の顔を覗き込む、百々 清世(ja3082)。
 話を振られた連れ――フレイヤ(ja0715)の動きは、何故かロボットのようにカクカク。
 外見だけならギャルにも見える彼女だが、何を隠そういない歴=年齢なのだ。
「ソーリー何か言いましたかモモちゃん先輩あの私パンフ読んでて全然聞こえなかったんでハイ」
 だが彼女が手にしたパンフレットは、天地が逆である。
「パンフとかどうでも良くね? オニーサンそれより混浴の有無が気になるわー」
「こここ混浴とかある訳ないですし! あったとしても入りませんし!」
 残念、ツアー会社が許しても学園が許しません。

「おっんせん♪ おっんせん♪」
 満面の笑み、明るい声で無邪気にはしゃぐのは珠真 緑(ja2428)。彼女も事件の気配には全く気付かない。
「さて、温泉温泉……と」
 真面目そうに見える字見 与一(ja6541)も例外ではない。緑ほどではないにしろ浮き足立っていた。
 戦いに身を置く撃退士達も、休日くらいは素直で無邪気に、年相応に子供らしく。
 え? 2人とも高校生……?

 とはいえ、誰もが笑顔という訳ではない。
 エリス・K・マクミラン(ja0016)は島に漂う独特の空気に何かを感じ取り、船を降りた途端、フードの奥の目を細め小声で呟いた。
「なんだか空気が微妙にぴりぴりしているような……。気のせいだと良いんですけど」
 魔術の知識がある彼女なら、異変に気づいてもおかしくはない。
 けれど流石に何が起こるかまでは予測できず。ざわつく胸を押さえ、宿へ向かう。


 温泉大好きな宮子は、宿に到着するなり大浴場へ足を向けた。
 テレビの撮影だとバスタオルを巻いていたりするけれど、今日はプライベート。
 マナーに準じて、途中タオルで前を隠しつつ、湯船に浸かる。
 旅の疲れを癒す心地よさにはふぅと息を吐いて――違和感。石組みされた浴槽の縁に腰掛けて状況を確認し、言葉を失った。
「……!?」
 見下ろした下半身に、見覚えのないものがある。控えめにちょこんと。
 真っ赤に染まる顔。動揺しておろおろ周囲を見回せば、変化は他の少女達にも現れ始めていた。

 寧は、自分の胸を見下ろし盛大に溜息。自慢の胸が消えた事に言いようのない喪失感を覚えている。
(壁の向こうで高い声……男湯も同じ、いや反対?)
 下半身を見ないよう目を瞑る。慌てて出たって変わらないだろうし、とりあえず湯冷めしないよう温まろう。
 後の事は考えたくないが。寝て起きても戻ってなければその時に考える。

 緑は涙目だった。
「え、待って、見ちゃだめェ……!」
 幼い外見も高い声も変わらない。首から上はそのまま、胸だけぺったんこ。
 周囲は全員女性のはずだが。次々性転換、つまり衆人外見は男。恥ずがしがってしまうのも仕方ない。
「にゃぁぁぁっ!?」
 さらに上がる悲鳴。神喰 朔桜(ja2099)の声だ。
「何これ何なの如何なってるのっ!?」
 慌てて胸をぺたぺた触る。が、無い。代わりに何か……そう、何かが。触れて確認してみて、ぶくぶくと湯船に沈んだ。
「〜〜ッ」
 唇まで湯に浸かった状態で考える。ぼんやりする頭をなんとか起動させ状況を整理する。
(うわうわ、男の人のって……いや、今は私のだけどさ……)
 しかしこれは……その、標準的なのか? 恐る恐る周囲を見回し、更に顔を赤くした。
(――って比べてどうする私!? それよりこれから如何するか考えろっ)

 しかし妙に冷静な学生も。博士・美月(ja0044)が驚いたのは一瞬だった。
 彼女には性転換した事実よりも、このような事態に陥ったメカニズムの方が重要で。
「……偉い人に聞けばすぐ分かりそうな気はするけど、ホントどういう仕組みかしら」
 ドッキリにしては性質が悪い。観光地として変わったことをしたい気持ちは分かるが、他の名物を作るべきだ。
 小さな溜息を零して美月はもう一度、湯に身体を沈める。
「注意喚起が無かった以上、どうせ時間経過で元に戻ったりするでしょ」
 露天風呂に罪はない。折角の機会だから満喫して帰ろう。
(食後にもう一度、今度は日の沈んだ海を見るのも良いかしらね?)

 桐原 雅(ja1822)は寧ろ、状況を楽しんでいた。少し筋肉の増えた腕をしげしげと眺め、触って、成程と頷いて。
 もしかしたら……今なら、以前試みて出来なかった技が出来るかもしれない。
「温泉でゆっくりするつもりだったけど、折角だし色々試してみようか」
 と。持ち前の探究心を発揮し、慌ただしく浴場を抜け出していく。
「雅ちゃん元気ねぇ……ふぃ〜♪」
 小さくなっていく雅の背を見送りながら、雀原 麦子(ja1553)は持ち込んだ飲み物をぷしゅっと開け。
「やっぱり温泉には麦じゅーす!」
 ぷはぁと息を吐きつつ、眺望と温泉に酔いしれる。
「それにしても皆どうしちゃったの? 慌てて出て行った子も結構いたけど」
 周囲を見回し、自分の胸を見下ろし。ぺたぺた、もにっ。……おや? そういうことかと、遅れて気づいたが。
「……ま、いっか」
 やはり動じず缶を傾ける。
 そんな強者の隣に座る雫(ja1894)にも、やはり変化が現れていた。
 温泉好きは宮子だけではない。雫はいつも長風呂ゆえ、宮子とほぼ同時に浴場へやって来て、今までずっと湯に浸かっていたのだ。
「おし、じゃあ僕も遊んでこよーっと!」
 おもむろに立ち上がり、ぱたぱたと駆け出していく。
「雫ちゃんお風呂で走っちゃ危ないわよー」
「平気ー! 撃退士だもん、怪我なんかしないよっ」
 どうやら長時間浸かっていたせいで湯中りしてしまったらしく、思考まで男性的に……!
 慌ただしく雫が出て行った所で、朔桜も湯船からあがる。結論が出たようだ。
(時間で解決するなら、男の体でしかできない事して楽しむっ!)
 美月の言葉が聞こえていたのか。
(そうと決まれば……ナンパだぁー!)
 目を輝かせてダッシュ。あっ気をつけてね、今女性の姿の人ほとんど元男子だよ!

 脱ひきこもりを目標に掲げた鈴木 紗矢子(ja6949)も、思いがけない変化に狼狽えていた。
「か、変わりたいって……こういう意味じゃ、無いですっ!?」
 年度も変わったことだし、内向的でインドア遊びばかりな自分を変えたかったのだ。
 それが図らずもお嫁にいけない体に……。お母さんや妹にどう説明しよう。考えるほど落ち込んで、結局とぼとぼ部屋へ向かう。
(お洋服もワンピースしか持ってきてないのに)
 とりあえず浴衣を着たけれど、このままツアー終了したら強制男の娘だ。それは嫌、早くなんとかしないと。紗矢子は真剣に悩み始める。
(もう一度お風呂に入れば戻るかも!)
 辿り着いた結論。だが疑問が残る。……どっちの湯に入ればいいのか?
 苦悩、振り出しに戻る。


「金鞍さん……最近坂路調教が足りないんじゃないですか? 背中に肉ついてますよ」
 若杉 英斗(ja4230)が、ふと呟いた。
 折角の機会だし裸の付き合いでもと、金鞍 馬頭鬼(ja2735)の背中を流していたのだが雲行きが怪しい。
 ちなみに馬頭鬼が、馬姿のまま入浴しようとして係の人に止められたのはここだけの秘密である。
「若杉さんこそ、声がなんか変だけど風邪? 鍛え方足りないんじゃ……」
「えぇー、そんな筈は」
 振り向く馬頭鬼。2人の視線は自らの胸へ。
「……えっ」
「えっ!?」
 ぽよん、と。存在を主張する2つの膨らみ。……もしや、と慌てて相手の胸を確認。
(な、生乳!)
(きょ、巨乳!)
 一瞬の間の後、かち合う視線。僅かに見つめ合った後、状況を理解した2人は同時に立ち上がり、
「「――揉ませろ下さい!」」
 ハモった。
「折角だし触らせてくれよ! 頼む後生だァア!」
「触ってもいいですけどその前に俺に触らせて下さい!」
 人に乳もませろって頼む前にまず自分の乳をもませるのが筋だろう。いや待てその理論はどうなんだ。
 切実な叫びが反響する。キャットファイト開幕。

 高野 晃司(ja2733)は、性転換と聞いて意気揚々と湯船に飛び込んだ。
 女体化キターと、己の胸に手をあて、がっくり。
「……なんだ、また巨乳か」
 誰かが聞いたら殴りかかってきそうな呟きと溜息ひとつ。つるぺた教信者特有の反応か。
 捨てる乳あれば拾う乳あり。まさにそんな感じ。
 そんな晃司の前に、突然どこからか幼女が現れる。
「たかのしゃあんっ、たしゅけてぇー!」
 性転換した上、なぜか幼児化した櫟 諏訪(ja1215)だ。
「幼女、だと……」
 ナイスつるぺた。少し若すぎるけど。
 思わず叫びそうになる晃司だが、直前で気づく。幼女の頭に生えた緑色のアホ毛に。
(なんか見た事あるーあのアホ毛……えーまさか……?)
 そのまさか。
「びひんのあかいセッケンつかたら、からだちぢんだですー」
「……ッ! その石鹸どこ」
 だめだこの子おっぱいに塗る気。

 楽しそうな性少年とは逆に、ネコノミロクン(ja0229)は壁に手をつきガックリと項垂れている。
 黒魔術? 何かの呪い返しじゃないか? 勘弁して欲しい。
「お湯は性転換、石鹸は幼児化。じゃあシャンプーはどうなるかな」
 呟いた。ある種の怖いもの見たさ? 否。浴槽に入る前に髪を洗ってしまったのだ。
 しかし女性化以外に目立った外見の変化はない。杞憂か、と気持ちを切り替え、浴場を後にする。
 だが、ふと違和感を覚えて脱衣所の鏡を見る。頭部にそびえ立つ、まさかの猫耳。
「……ネコミミシャンプー?」
 馬鹿な!

 久遠 仁刀(ja2464)も膝をつき。
 違和感を覚えて、下半身と声の変化に気づいたまでは他の面々と同じだが……。
「激戦続きで疲れたんだ、きっとそうだ」
 この位の非日常なんて稀によくある。自分に言い聞かせるように呟き、もう一度湯に浸かってみる。
「ほらこれで元通り……じゃない!?」
 駄目だ。やはり、あるべきものが無い。しかし軽くなった事より、重くならない胸が気になる。
 低身長がコンプレックスの彼には、状況のありえなさよりも「恵まれてない」事実の方が衝撃で。
(……どういうことだ、女になっても「貧」ってなんか呪われてでもいるのか俺はっ!?)
 周囲に続々登場する巨乳を見つめ、涙目手ブラ。

 動じない男もいた。いや動じない女? どっちでもいいや。
 先頭切って男湯にやって来た虎綱・ガーフィールド(ja3547)は、セオリー通り垢を落していざ入浴。
 俄に騒がしくなる周囲につられ自分の体を見る。
「おや、これは……?」
 けれど自分だけではないことを悟ると、もう一度肩まで湯に浸かる余裕。
 皆が変化したなら、原因はこの温泉以外にない。恥ずかしがる事もないだろう。
「まぁ構いませぬ。減るものでも御座らんし……ゆっくりしていくで御座るよ」
 減ってると思います。同時に増えてるからプラマイ0か。っておい。
 長成 槍樹(ja0524)も虎綱と同じく、泰然とした振る舞い。
「これは面白い。中々出来ない貴重な体験だ」
 はっはっはっと笑い声。なんだか姐さんと呼びたくなるような豪快さだ。
「この大きさでこれだけ引っ張られる感じがするという事は、巨乳は本当に肩がこるだろうな」
 与一に至っては、自身の体に起こった僅かな変化自体、気づいていない様子。
 小さな体にそぐわない巨乳をたゆんと揺らしつつ、早々と卓球会場へ向かっていった。
 この子こんなに活発な子だったっけ……?

 帯刀 弦(ja6271)はここでもマイペースを崩さない。
「ふーん、女の子の体ってこんな風になってるんだ」
 と、興味深げに自分の身体を見つめ、柔らかそうな胸をべたべた触っている。
(……死体なら未だしも、生体の女に触る機会なんてそうないからね)
 生物よりも物体に愛を注ぐ狂気の科学者は、くすっと微笑を浮かべ。
(折角の女体、他人を揶揄ってみても面白いかも?)
 女同士なんだし何の問題も無いだろう? ……なんて、女体に免疫のなさそうな中高生を弄ぶのも、きっと悪くない休暇だ。

 他人を揶揄う目的で動く者も、弦だけではなく。
 そもそも鴉乃宮 歌音(ja0427)は、パンフレットを見て何が起こるか予想していたようだ。
 呆然とした表情で出てきた湯上りの後輩たちへ、にっこりと笑顔を向け。
「やあ、災難だね」
 明日の朝起きれば、この夢は醒めている。従業員に事情を聞いて得たその真実は、今日の所は彼の心の中だけに。
「女性として生きていくというなら、メイクを教えてあげようか? 女性が美しくあるのは当然の権利だよ」
 自分の入浴は後回しにして、少しだけ、意地悪なことをしてみようではないか。


 仲居さんに女湯へ誘導された男子の数、安定の四名。
 事情を説明するも全力で訝しまれ、協議の結果、貸切露天が解放された。わぁい、男の娘湯ここに爆誕!
「僕は男の子といったが、どうしてこうなった……」
 男湯立入り禁止を言い渡され両手で顔を覆うニコラ。
「……ボク、なんでここにいるんだろう?」
 なんだか複雑な表情の犬乃 さんぽ(ja1272)。
「こ、混雑しなくてラッキーだと、思っておきましょう?」
 自分を納得させるように呟く清清 清(ja3434)。
『チェリー男の娘じゃなくて女の子なのにー。……ま、いっか☆ そんな事より温泉温泉っ』
 と、珍しく男の娘扱いを笑い飛ばす何か不気味な御手洗 紘人(ja2549)もといチェリー。
 皆して、胸までタオルで隠している。疑いなく犬柄バスタオルを巻くさんぽの姿につられたらしい。
 とにかく早く浸かろう、と。手早く体を洗って次々と桧風呂へ体を沈め。
 ただ一人、あの子だけ妙に落ち着かない様子で、先ゆく三人の背を見つめている。
(聖天冠……チェリーはキュピーンときたのっ。推測が正しければ3人とも……ふふ☆)
 なんか黒いの出てますよ、チェリーさん!

「わぁ、素敵な景色! それにいいお湯」
 肩まで湯に浸かると、目線の高さにきらきらと輝く春の海が映り込む。
 凪いだ波と潮風の香りにほうっと胸を撫で下ろす。……なで下ろして、さんぽは気づいた。
「……ん?」
 一瞬の間の後、青ざめたかと思えば途端に頬を真っ赤に染める。あわわわ、と視線をさ迷わせ、そのまま湯船にぶくぶくと沈んだ。
 変化は1人ではない。清も自身の変化に気づき、思わず悲鳴をあげた。
「ど、どういう事で……っ!?」
 錯乱した様子でざばぁと立ち上がる。目にも止まらぬ速さでタオルを体に巻きつけ、そのまま浴場から飛び出した。
「な、なんだ? 何があったというのだ」
 事態が飲み込めないニコラは、どうしていいか分からず湯の中でオロオロ。
(よっしゃあああ! ちょっとだけど膨らんでるのを確認した……!)
 3人の様子を見ていたチェリー、待ってましたとばかりに鼻息荒く浴槽へ。
『遂に、遂にチェリーが真の魔法少女になる時が来たのねー!』
 歓喜の叫びと共にレッツDIVE。ざぱーん。
「ど、どうしたのだ?」
 怯えるニコラ(の胸)を凝視するチェリー。だが湯に浸かっていた少年の胸は何故かつるぺたのまま。
 すごく嫌な予感。いやまさか。恐る恐る視線を下へ……そして絶叫。見事なAAA!
『……ちっぱいはデフォかぁぁ!』
 世知辛い。

「僕は男の子だというのに女の子でも僕だった……なぜだ」
 わけがわからないよ、と。チェリーの行動でようやく事態を察したニコラは、脱衣所で浴衣に袖を通しつつ真顔で呟いた。
 鏡に向かって自問自答を続けるニコラの後ろでは、髪を下ろした清がタオルを体に巻いたまま涙目で右往左往している。
(いくらボクだけじゃなくたって……、こんな姿見られたらお嫁さんを貰えません……!)
 心に決めた人は、残念ながら久遠ヶ原。こうなったらもう、涙を飲み部屋に篭ってでも隠し通す。
 意を決し浴衣を着ようとして――気づいた。
(……あれ? ボク、替えの下着持ってきてない!?)
 果して清は、無事に部屋まで辿り着けるだろうか……!?

 清があられもない姿で廊下を疾走する頃、少し遅れて浴場を出たさんぽは溜息を零し。
 自分達だけなのか、それとも温泉に入った全員か。分からないから下手に動けないのだ。
 願わくは、知人に見つからず部屋にたどり着きたい。お気に入りのタオルを握り締め、恐る恐る廊下を進む。
 ――だが、何事もなく終わる訳ない。前からやって来る見覚えのある姿。エリスだ。
「え、エリス先輩っ」
 わたわたと落ち着かないさんぽに、何かを察したエリス。訝しむように彼の体をじっと見つめ――気づいた。
「やっぱりさんぽさん、女の子だったんですか」
「ち、違! ボク、男、男だけど……温泉入ったら――あ」
 焦って弁明するあまり、足を滑らせ倒れ込み。そのままエリスの腕の中へ。そして違和感。固い。呆然とする。
「先輩、男だったの……?」
「えっ」
「えっ」
 指摘されて初めて気づいたエリス。自らの平らな胸に手を当て、ようやく慌て始めるのだった。
「や、やっぱりあの温泉に何か魔術的な仕掛けが……!?」
 魔女の末裔さえ出し抜くとは、やるなネット上の黒魔術師(棒)


「は……はぅぅ〜!?」
 女湯から一際大きな悲鳴が聞こえる。エルレーン・バルハザード(ja0889)だった。
 露天風呂に浸かりご機嫌でバストアップ運動……のはずが。掌中にあった控えめな胸が、忽然と姿を消したのだ!
 確かに大きくはないが、少ないと無いでは全く違う。慌ててざぱぁと立ち上がる少女。
 だがその行動が、彼女を更に追い込んだ。下半身に違和感。いや、まさか。恐る恐る視線を下へ――
「」
 声なき悲鳴が、空に溶ける。

「……?」
 聞き覚えのある声? 否、気のせいだ。ラグナ・グラウシード(ja3538)はそう結論づけた。
 手拭いで前を隠し、湯船に足を差し入れる。上機嫌で肩まで……が、当然こちらにも変化が。
「なッ?!」
 ばいーんと突然現れた2つの塊。状況を理解するのに時間は掛からなかった。
 慌てて股間に手を伸ばす。ない。伝家の宝刀(未使用)が……!
 失った物は大きい。傷心のラグナ、湯船から上がり膝を折る。両腕の狭間で巨乳が揺れた。

 呆然と部屋へ向かうエルレーン。
「くっ、歩くと擦れるな」
 その声に顔を上げ。視界に飛び込む浴衣越しの巨乳に、貧乳代表が絶叫した。
「……うわあぁーッ!」
「え、エル……ッ?」
 突然ぐわしっと掴みかかられ、混乱するラグナ。
「もげろ、もげちゃえ! ラグナのくせに!」
 泣きながらFカップを揉むエルレーンと苦痛に悶えるラグナの姿は後世に語り継がれ……(大嘘)


 青髪の貴公子が、ロビーの鏡前で頭を抱えていた。カタリナ(ja5119)だ。
(……そういう事ですか)
 もう少し早く気づけばと唇を噛むも、既に遅い。恋人の権現堂 幸桜(ja3264)は男湯だ。
 普段でも女性と見紛う容姿の彼。ただでさえ男性受けがいいのだから――
「リナっ」
 名を呼ぶ声に、顔を上げ向き直る。
「コハル」
「どうしよう、僕の体……あれ?」
「やはり、ですね」
「リナも?」
 恐る恐る問う幸桜。カタリナは頷く代わりに、手を伸ばした。そして真顔のまま、幸桜の胸をむにっと掴む。
「ひゃっ!?」
 不意に胸を揉まれ涙目になる幸桜。しかしフォローをするでもなく、カタリナは青ざめたままふっと踵を返す。
「……私、女の人には興味ありません」
「え!? ちょ、待って! リナっ!」
 幸桜の悲鳴が響く。それでもカタリナは振り向かなかった。

 旅館を出て日陰に入り、ベンチに腰掛ける。悲喜交交の声が少し遠くに聞こえた。
「こんなもの……っ」
 愛用の女装ウィッグを放り出し、幸桜は両手で顔を覆う。
 事件にかこつけて自分を全否定された気がした。泣くまいと思うのに、涙が零れてしまいそうだ。
「大丈夫ですか。何か酷い事でも言われて……?」
 話しかけてきた妙齢の女性は心配そうに顔を覗き込んでくる。見られていた。気恥かしくて首を横に振る。
「いえ、大した事じゃ……」
「そんな風には見えませんでしたよ」
「……聞いて、もらえますか?」
「ええ。私でよければ」
 艷やかな黒髪ポニーテールの大和撫子に母親への憧憬にも似た感情を抱きつつ、幸桜は顛末を語り始めた。

 一方カタリナは、食事会場で溜息を零していた。
(……ダメです。今の私は男、下手すればコハルに『そういう』耐性をつけてしまう)
 冷たく当たったのは本意ではない。相手を想うからこそ、突き放した。
 けれど脳裏に浮かぶ。恋人の悲しい表情。何故あんな顔させてしまったのかと良心が痛む。
「どうしたんだ? 悩みごとかな」
 俯いた影に話しかける者がいた。眼鏡を外した暮居 凪(ja0503)だ。ご多分に漏れず男の姿だが、あまり違和感ない。
 旅の雰囲気に流されたのか、相手の正体に気づかぬままカタリナは語る。
「私は、恋人失格かもしれません」
「そんな事ない。君に想われて彼も幸せな筈だ」
「そうでしょうか……?」
 優しく慰めてくれる男の存在が、傷ついた女心を惑わせる。
 女同士の気安さのまま、凪は無防備なカタリナの手に自身のそれを重ねた。
 外見が男同士だということを忘れたまま、カタリナは僅かに頬を染める。寄り添う2人の間に漂う、恋人同士のような甘い雰囲気。
 ――と、その時。
「リナ!?」
 遅れて食事に来た幸桜が、絡む指を見咎め悲鳴をあげた。
「……コハル」
 恋人の隣に女の存在を認めカタリナは渋い顔をする。
「いい人、見つけたようですね」
「そ……」
 俄かに漂う不穏な空気。しかし全ては杞憂に終わる。
「カタリナさんに暮居さん。お揃いでどうしたんです?」
 と、黒髪女性。事態を飲み込めずにいる2人を尻目に、いつの間にか眼鏡をかけた凪が微笑む。
「2人ともお久し振り、やっぱり温泉のせい……なのね」
 その後、凪の指摘で黒髪美女が石田 神楽(ja4485)だと知り、恋人達が酷く驚いたのは言うまでもない。


 風呂上がり動揺していた宇田川 千鶴(ja1613)も、食事の間に落ち着きを取り戻し。
 折角だから楽しもうと、可愛い女子……もとい女体化した紫ノ宮 莉音(ja6473)を捕まえた。
(元々可愛い子だけあって、なんや可愛さが増してるなぁ)
 料理を前にはしゃぐ莉音を見つめボンヤリ思う。浴衣姿で一緒にご飯。なんだか付き合い始めのカップルみたいで妙に楽しい。
「ゴハン美味しいし、まいっか! 別に彼女もいないし……って、千鶴さーん?」
「ん? ああ、せやなぁ」
「……女子の方が身体が柔軟だし、ダンスの振付も衣装も可愛いもんね。ってプラス思考すぎる?」
「ジメジメ考えるより、そっちのほうがええよ」
 くすっと微笑む千鶴は、男装の麗人あるいは男性アイドルの如く。莉音は暫し、向かい合う相手の姿に見惚れていた。

 ……と、良い雰囲気の2人の前に4人組の姿。言わずもがな幸桜達である。
「あ、石田さんやないか」
 ガタッ。思わず立ち上がって、レアキャラもとい神子()の姿を写真に収めようと千鶴、光纏。
「貴重な姿!」
「宇田川さんっ」
 不意を取られた神楽。散る閃光。もといフラッシュ。激写!
「っし! 撮ったり!」
 嬉々としてデジカメを覗くが――
「なんや!?」
 画面には、腕で顔を隠す女の姿。被写体が誰か分からない。
「甘いですね♪」
 したり顔の神楽であった。


 賑やかな夕食風景を遠巻きに眺める水無瀬 詩桜(ja0552)。
 自分の身体で一通り堪能した後、他人の様子も観察しようと食事に来たのだ。
(元が女性だからか、殆どが美形……もうやだ最高)
 にやけを誤魔化そうと仏頂面を装うあまり、握り締めたフォークがプルプル震えている。
 視線の先にはカタリナと凪。手を握り見つめ合う2人の姿に、詩桜は心の中で絶叫していた。
(こ、これは刺激的すぎる『絶景』……! も、妄想が止まらない!)
 折角の温泉旅行が単独行動なんて、と悲観していたのは最初だけ。彼女のテンションは今、最高潮へ。

 本気出していたのは彼女だけではない。黒百合(ja0422)の旅行も今がピーク。
 右手にトング、左手に皿を持ち、疾風の速さで刺身カニ海老ホタテあら汁。
「あはははぁ! 立ち塞がるなら容赦しないわぁ、最後の一欠けらまで私のものよぉぉ!」
 男体化? してますけど何か? と言わんばかりの通常運転。ゆえに隙がない。
 少年の姿をしたまま、性転換の動揺を残す人垣を縫うように潜り抜け、高級食材を根こそぎゲット!
 汚いな鬼道忍軍さすがきたない(褒め言葉)。

 天藍(ja7383)も食事に夢中だった。
 いつもの道着を着てはみたが、胸が出過ぎて前がうまく閉まらず、合せに隙間ができていた。
 戸惑いを打ち明け合う近くに座った人達へ、口をもごもご動かしながら告げる。
「てめーら騒ぎすぎあるよ。女体なる事なんて中国じゃよくある事ある」
 あるあ……ねーよ!
 あまりの衝撃に劇画タッチへ変貌する人々。だが見えないのか見ないふりなのか、天藍はマイペースに食べ続ける。
「好吃好吃、うめーもん食う幸せある」
 瞬く間に積まれていく貝殻、カニ殻、エビ頭。凄まじい食欲だ。
「咬呀、服入んねあるよ……」
 途中さすがに苦しくなったようで、一番上のボタンを外してみたり。

 こちら性別が入れ替わった鳳夫妻。
 2人とも違和感を覚えたのは一瞬だったようで、料理を目の前にした今は落ち着いて食事を楽しんでいる。物凄い順応力。
「本当に良いお湯でしたわ♪」
「そうだな、今度は2人っきりで来ような!」
 静矢……もとい静香のうっとりとした言葉に、優希は目を輝かせて答える。
「あら? この煮付けとっても美味しいわ。……ユウキ君、あーん♪」
「え? あ、うん。あー」
 もぐもぐ。非モテがいたら爆破されかねないラブラブっぷりをここでも発揮しつつ。
「出来た奥さんを貰えてボクは幸せなのだ。これからはボクがしっかり静香を養ってあげるからなっ!」
「……あら、頼もしいですわ♪」
 わたくしの方が収入は上ですけれどもね。そんな言葉を飲み込んで、静香はくすっと微笑む。


 食事処の一角で、滂沱の涙を流す青空・アルベール(ja0732)がいた。
「どうしよラドゥ……今日知ったけど私、女の子だった」
 着流しを是とするスタイルを直ぐ正す事は難しいのか、薄く開いた浴衣の衿から谷間がチラリ。さらし巻けよ。
 無防備な相棒もとい下僕の様子に、ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)は呆れ顔で頭を抱える。
「分かったから、少し大人しくしなさい青空」
「でも……ラドゥだって声まで変わって」
「ふん。吸血鬼たる我輩にとって姿形など飾りも同然、狼狽える必要など無い」
 胸を張る主君。言葉は立派だが言葉尻が微かに震えている。
「……か、可愛いから! すごい可愛いから大丈夫だって!」
「大人しくしろと言っているであろうッ、下僕に励まされる謂れはない!」
 吸血鬼涙目。
「大丈夫、私もベル子として生きてく……のですわっ」
 皿を手にした青空が遠い目で呟く。壊れた。
 その隙に、海老ばかりが大量に盛られた青空の皿へ、ラドゥがいそいそレタスを乗せ。
「女子力向上の為に野菜を食え」
「! ごめん嘘、私男に戻る予定だから野菜いらない!」
「健康な体はバランス良い食事からである。強くなりたいのだろう」
 大根トマト水菜レタス。一気に色鮮やかになった皿を見つめ、青空は泣いた。
 怒られるから口には出さないけど……女ラドゥ余計にお母さんすぎる……。

 大粒の貝と白身の煮付け、そしてお刺身。ご馳走にフォークを突き立て、アイリス・ルナクルス(ja1078)もご満悦だ。
「リアさん、赤貝が好きっておっしゃってましたよねっ。どうぞなのです♪」
 人目を憚らず、隣に座るアトリアーナ(ja1403)に『あーん』を要求。
「へ、部屋に戻ってからにしようなの……」
 困ったように眉を下げるリアは、なんだか落ち着かない様子で。
「うにゅ? 今なら、普通のカップルにしか見えないのですよ?」
 首を傾げるルナ。リアは仄かに頬を染めた。
 ――そう、ルナは恋人だけを温泉に入浴させ、自分は浸からなかったのだ。
 いつもなら手を繋ぐ位が限界だけど……今日は、特別。
「はむ、こっちのリアさんも大好きなのですっ」
「ルナ……」
「もちろん、いつものリアさんも大好きですよ?」
 かくりと首を傾けるルナがいじらしくて、リアは思わず微笑む。
「……大丈夫、わかってるの」
「部屋に戻ったら、一杯ぎゅーしてくださいね?」
 言葉は返さないけれど。はにかんだ優しげな表情は、ルナの願いを肯定しているようで。
(驚いたし、この服のままで恥ずかしいけど……ルナと一緒だから、楽しい……の)
 旅の恥は掻き捨て。食事を終えたら、いつもは恥ずかしくて出来ないことを一杯しよう。
 戦いが続く中の、束の間の休息。甘えられるだけ甘えて、甘やかすだけ甘やかす。性別なんて些細な事。姉妹の契りは、深く強く。


 人が捌けた浴場に顔を出す1人の少女。マキナ・ベルヴェルク(ja0067)だ。
 機械仕掛の腕。普段は隠し通せるが、公衆浴場は流石に。せめて人の少ない時間にと、あえて食事時にやって来たが、
(……これ、他の方も同じ状況に?)
 とにかく宿の人に事情を聞こう。そう決めて、冷静を装いフロントへ向かう――が。
「!」
 内心の動揺までは隠せず、か。普段なら絶対に引っかからない幼稚な仕掛――廊下に張られた紐に躓き転ぶ。
 その様子を確認して走り去る子供の姿が視界の端に。どうやら雫の仕業だったようだ。
(わ、私とした事が……っ)
 これも運命の悪戯か。いや子供の悪戯だが。何より心乱されている己に、衝撃を受け震えるマキナであった。

 準備中の卓球会場脇で、レトロゲームに興じる者もあり。
「おぉ、これは侵略者を倒すゲームの生き残り!」
 槍樹が目を輝かせたのは、日本のアーケードゲームの祖とも言える筐体。
 子供の頃よく遊んだな、と懐かしさに目を細めつつコインを投入、暫しゲームに明け暮れる。

 リラクゼーションサロンでは、ネコノミロクンが全コース横断に挑戦中。
 足ツボのオイルマッサージ施術。ライムの香りに癒されつつ、鈍痛にぷるぷる震えている。酷い飴と鞭を見た。
 だがこれ、まだ健康な方だった模様。
「ちょ、フレイヤちゃん助けて! アッー!」
 遊び過ぎで全身黄色信号なのか。足ツボを押され清世は激痛にもがく。涙目美女を見下し腕を組んだまま、ギャル男フレイヤが鼻で笑った。
「ハッ関係ないね! 精々苦しめッ」
 言外に滲んでいる。私のほうが不幸だ、という中二病の自意識が。
「いくらオニーサンが美人だからって、ひでーなマジドS……ひゃ! んっ」
 身悶える清世をガン無視して自称魔女・田中良子はブツブツ独り言に勤しむのであった。
「男になったって事は、2つ名も変えないと。……我が名は黄昏の魔術師フレ……いや。黎明の奇術師フレイ!」
 なんだかんだ楽しそう。

 サロンの片隅で、雅が寝息を立てている。沢山動き回って疲れたのか、施術中に眠ってしまったようだ。
「……このまま、ね」
 戦いに身を置く撃退士達だからこそ。偶には休息も大事。


 栗原 ひなこ(ja3001)と梅ヶ枝 寿(ja2303)は、放送部の取材旅行と称しこの地を訪れていた。
「こ、こうなったらアイドル系男子目指すもん……!」
 私服を着ることに抵抗が生まれてしまい、浴衣に袖を通したひなこ。
「ひな君くらい格好可愛ければ、それも夢じゃないな。未来のアイドルに取材できるなんて光栄だよ」
 と、何故かイケメン度五割増の寿。
(……なんか梅さん、いつもより格好いいような?)
 姉御、言われてますよー!
「ま、冗談はさておき取材だよね。きっと面白い放送ができると思うな」
「うん、卓球大会も始まったし、インタビューしてみよ!」

 日谷 月彦(ja5877)の呼びかけで、卓球コーナーに集結する湯上りの撃退士達。
「憂不不……面白い事になったじゃない……」
 当初の計画では普通に卓球の予定だったがご覧の通り故。盛り上がる女達(※中身男)は、もう誰にも止められない。
「れでぃーす&じゃんとるめん! お待ちかね、スリッパ卓球の始まりだ〜♪」
 司会を買って出た麦子が高らかに宣言。主催者挨拶の代わりとばかりに、妖艶な美女に変わった月彦がルールを説明する。
「アウル、スキルの使用可。但し建物は傷つけない様に注意する事!」
 頭を使え。攻撃スキルを出し惜しまず、仲間にシールドを要請するのだ!(棒)

「突然ですが、その姿で何かやりたい事はありますかっ? 大会への意気込みもあればどうぞ♪」
 ひなこのインタビューに、幼女……じゃなかった諏訪が笑顔で答える。
「せっかくなので、どーしんにかえってたのしみましゅ」
 寿に同じ問いを投げられたチェリーは、久遠ヶ原で待つ恋人の姿を思い返し。
『やっぱり……ダーリンと一緒に温泉入りたいな☆』
 インタビューを終えた2人は笑い合う。
「なかなか有意義だったね」
「欲を言えば、アロマも満喫したかったけどね〜」
「今からでも間に合うだろう? 好きなものは楽しむべきだ……何なら僕も一緒に行こうか?」
 どうしても気になるのなら、付き添いで来た体にしておけば問題ないだろう。
「梅子姐さん……!」
 きゅーん。やっぱり普段より男前だぞ、どうしてこうなった!

「お待たせしました、1回戦開始ー!」
 司会の声に催促されるように姿を現したのは宮本明音(ja5435)。対する相手は、風鳥 暦(ja1672)。
 2人とも温泉と食事を存分に楽しんだ様子で、元気を持て余しているようだ。
「狙うは勝利! それだけですっ」
 ほんのり黒い笑みを浮かべる明音。何か企んでいる気配を感じる。
 一方の暦は、リラックスしているのかのほほんと笑みを浮かべており。
「はじめ!」
 開始の合図と共に、仁義なき打合いが始まる。緑や与一も、白熱するカオスを熱く見守っていた。
(見える、私にも球が見えるっ!)
 男の姿になって半ばやけくそなのか、開き直ったのか、打ち返す球のキレが異常に良い。
 相手の猛攻に僅かながら焦りを感じたのか、暦も徐々に本気を出し始めた。
「そう来るなら、こっちだって!」
 跳躍。撃退士の能力を無駄に使い、天井スレスレまで飛び上がってからの、スマッシュ!
「どんなもんですか!」
 ギュルギュル音を立て、歪むピンポン球。返しきれるか?
「くっ……秘儀、絶対壁!」
「汚ッ!」
 咄嗟に障壁を出した明音へ向け、叫ぶ外野。反則? んなこたない。言ったろ、カオスだってな!
「勝てばいいのだ勝てば!」
 今日の私は一味違うぜ、とニヤリ。

 何試合か進んだ段階で、休憩がてらの特別戦。先輩後輩の仁義なき戦い。商品、相手のおっぱい。
「行くわよ、英子!」
「手加減しませんよ、馬頭子さん」
 愛すべき馬と鹿が台の両端に分かれ、いざ尋常におっぱい。
「それでは――開始!」
 始まるラリー。序盤は互いに慎重。スリッパにしては中々のコントロール。
「やりますわね馬頭子さんッ」
「英子こそ」
「……勝負!」
 牝馬に負けて堪るか。と思ったかは定かではないが、光纏する英斗。
「秘奥義、フラッシュピンポン!」
 光るスリッパとピンポン玉。謎の回転が加わる球。いや弾。何だこのテーブルテニヌ。
「――魔球、輪廻」
 だが馬頭鬼も負けていない。靴底で球に回転を加える謎の技術で応戦!
 更に回転の加わった球、英斗の側に一度落ち――コロコロ転がりネットへぶつかった。この技どっかで見た。
「っしゃぁぁぁー!」
 勝利の喜びもそこそこに、スリッパを放り出し後輩の胸にダイブする馬頭鬼。
「馬鹿な……あ、ちょ! がっつかないで下さ……、ふぁっ!?」
 いやほんと愛すべき馬鹿だな(※褒め言葉)。

 その後も静矢や諏訪、虎綱に主催者の月彦。美女達が入り乱れ壮絶なバトルが繰り広げられ、夜は更けていく。
 その模様はあまりにエr……セクシーだったので残念ながらお見せできないが。
 学生諸君の豊かな想像力で、状況を補完して貰えれば幸い。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:22人

BlackBurst・
エリス・K・マクミラン(ja0016)

大学部5年2組 女 阿修羅
無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
飽くなき探究者・
博士・美月(ja0044)

大学部5年281組 女 ダアト
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
くず鉄ブレイカー・
ネコノミロクン(ja0229)

大学部4年6組 男 アストラルヴァンガード
先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
泰然自若・
長成 槍樹(ja0524)

大学部9年172組 男 ダアト
妄想☆特急・
水無瀬 詩桜(ja0552)

大学部5年49組 女 ダアト
今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
風鳥 暦(ja1672)

大学部6年317組 女 阿修羅
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
覚悟せし者・
高野 晃司(ja2733)

大学部3年125組 男 阿修羅
撃退士・
金鞍 馬頭鬼(ja2735)

大学部6年75組 男 アーティスト
お洒落Boy・
Nicolas huit(ja2921)

大学部5年136組 男 アストラルヴァンガード
懐かしい未来の夢を見た・
栗原 ひなこ(ja3001)

大学部5年255組 女 アストラルヴァンガード
オシャレでスマート・
百々 清世(ja3082)

大学部8年97組 男 インフィルトレイター
愛を配るエンジェル・
権現堂 幸桜(ja3264)

大学部4年180組 男 アストラルヴァンガード
十六夜の夢・
清清 清(ja3434)

大学部4年5組 男 アストラルヴァンガード
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)

大学部6年171組 男 阿修羅
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
乙女の味方・
宮本明音(ja5435)

大学部5年147組 女 ダアト
人形遣い・
日谷 月彦(ja5877)

大学部7年195組 男 阿修羅
骸への執心・
帯刀 弦(ja6271)

大学部5年84組 男 阿修羅
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
字見 与一(ja6541)

大学部5年98組 男 ダアト
おこもりガール・
鈴木 紗矢子(ja6949)

大学部5年76組 女 アストラルヴァンガード
懐かしい未来の夢を見た・
天藍(ja7383)

大学部8年93組 男 アストラルヴァンガード