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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:5人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/01/02


みんなの思い出



オープニング

●クリスマス
 そろそろ夕食時になろうかという時刻、土屋叶美はささやかながらパーティの準備をしていた。
 一番小さいサイズのデコレーションケーキを二個、相手の好みに合わせたビターチョコケーキとマロンモンブランを用意していて、モンブランケーキの方にろうそくを立てる。

 今日はクリスマス。
 そして、叶美の待っている相手とは、塔利四四三(とうりよしみ)だった。

 小学生だった頃天魔襲撃事件で母を亡くした叶美は、十年間、母の死の原因を塔利のせいにし彼を憎んできた。だが撃退士達の説得など色々あって、お互い気持ちをぶつけ合うことでいつしか憎しみに縛られることはなくなった。
 今は週二くらいで塔利と叶美は会っている。
 母を亡くした悲しみや無念だけでなく、日頃の愚痴なども吐き出すことによって、叶美は自分の心を保っているのだろうと塔利本人は考えており、それを受け止めてやるのは今まで叶美を避けてきた自分の償いだと思っている。だから叶美の呼び出しを嫌だとか面倒だとか思ったことはないし、呼ばれたなら最優先で叶美の下に駆けつけていた。

 だが、叶美の中では塔利に会うその意味合いが、次第に変化していたのだった。

 夕食の用意ももうすぐ出来る。この日のために、叶美は肉料理のレシピを何回か練習したほどだ。
「よし、あとは少し休ませて……」
 その間に皿を並べようとした時、スマホが鳴った。
 塔利からの電話だ。
「はい、もしもし? 今どこなの?」
『悪い、緊急で依頼が入ってな、今日はそっちに行けそうもない』
「え――」
 予想外の塔利の断りに、叶美はすぐには言葉が出なかった。
「で、でも依頼が済んでからでもいいから――」
『いや、いつ終わるか分からないし、遅くなる。そんな時間に一人暮らしの年頃の娘の部屋に行けるわけないだろ』
「な、何言ってんの! あたしは別にあんたが何かするなんて思ってないし、約束したじゃない!」
『約束を破ることになるのは悪いと思ってる。本当だ。だけどお前さんは、もうちょっと自覚持て』
 はあ、と電話の向こうでため息をつく塔利。
「自覚って、何よ?」
 ため息に若干イラっとした叶美が、トゲのある言い方をする。
『あのなあ、変な噂が立ったら困るのはお前さんだぞ。周りはお前さんの事情なんて知らないんだ。夜遅い時間に男を部屋に呼ぶとかいうのはもうそろそろ慎め』
「そんなの、別に何もやましいことなんかないんだから、堂々としてればいいじゃない」
『馬鹿。お前さんが変な中傷されたら、俺はお前さんの親父さんに殺されちまうよ。それに、今日はクリスマスだろ? 俺なんかじゃなく、好きな男でも呼べばいい』
「なっ――!」
 叶美の頬は一瞬、カッと熱くなった。
『やべ、もう向かわないと。それじゃあな、俺のことは待たなくていいから。俺を呼ぼうとしてくれた気持ちだけで充分だ。何なら友達と遊んでこい』
「ちょ、待ってよ、あたしはあんたに――」
 すでに通話は切れていた。

 塔利に来てもらいたいのに――。

 その言葉は言えずじまいだった。
 それに、今日はクリスマスだが、塔利の誕生日でもあるのだ。
 いつだったか、
 『クリスマスが誕生日なんて損だぞ、誕生日プレゼントはクリスマスプレゼントと一緒にされるからな。クリスマス近辺誕生日あるあるだな』
 と語っていたことがある。
 だから今年は、ちゃんと誕生日とクリスマス、両方を祝おうとしていたのに。
 ケーキも2個用意したし、プレゼントも2つある。
 塔利がいなきゃ、今日でなくちゃ意味がない。

 叶美は決然とした表情でスマホを取り、久遠ヶ原学園に電話をかけた。
 大まかに事情を説明して、
「ええ、そうです。塔利四四三の依頼を手伝って早く終わらせて、彼をあたしの所に連れて来てください! 絶対に日付が変わる前にお願いします!」
 と依頼したのだった。

●塔利の気持ち
 依頼が急に入ったというのは嘘ではない。
 むしろ運良く、と言うべきか。
 ある街のショッピングモールに天魔が現れたらしく、クリスマスで賑わっていたモール内には結構な数の人が残ったままらしい。その人達の救出のために呼ばれたのだ。
 いつ終わるのか分からないというのも正直なところだし、叶美も今は怒っているだろうが、2、3日もすれば解ってくれるはずだ。
 『呼ばれたら絶対に後回しにせず駆けつける』と約束したばかりの頃は、本当に夜中だろうがこっちが仕事終わり直後だろうが呼び出され、塔利もただ罵られるだけでもせっかく出向いたのに『もういいから帰って』と言われるだけでも、叶美の所に行き続けた。
 最近はそういう無茶な呼び出しもなくなり、こちらの都合を(一応は)聞いた上で『約束』するようになった。話す内容も、初めは何も言わずに睨むだけだったり恨み言だったりしたのが、今は自分の日常の話も増え、楽しそうに笑うことさえある。
 だいぶ落ち着いてきたのだと感じる。

 だったら、もう塔利は必要ない。
 塔利がそばにいれば、どうしても母親のことを思い出してしまうだろう。
 もう解放されるべきだ。

 塔利はそう思っていた。
 ましてや、クリスマスにわざわざ三十路のおっさんと過ごすなんて、どうかしてる。もっと若い娘らしく、同年代の友達や好きな男と過ごすのがいいに決まってる。
 塔利は叶美のそういう楽しみや幸せの邪魔はしたくないのだ。
 だから、今日の偶然はいいきっかけになった。
 こうやって徐々に会わなくなっていけば、叶美も辛い記憶や塔利のことは忘れて、自由に生きて行けるに違いない。

 そんなふうに思いを巡らせながら、塔利は現場へと向かった――。



リプレイ本文

●救出作戦
 塔利四四三(とうりよしみ)が仲間との打ち合わせを終え位置につこうとすると、作戦を仕切ってる男の携帯が鳴った。
 久遠ヶ原学園の生徒からの連絡のようで、彼は塔利達に告げる。
「久遠ヶ原の生徒が協力してくれるそうだ。もうすぐ着くみたいだから、こっちは先に始めるぞ」
「学園の生徒が来る?」
 塔利は何か嫌な予感めいたものを感じた。
 確かに助けはありがたい。だけどなんだろう、その後自分にあまり面白くないことが待っている気がする……。
 とりあえずその予感を脇へ置いて、塔利は作戦に集中することに決めた。

「塔利さんのチームと連絡ついたわ。私達も協力すると伝えた。館内放送もOKよ」
 蓮城 真緋呂(jb6120)が長い三つ編みを揺らし現場に急ぎながら皆に言う。
 フロアマップはネットで調べられたが、警備室などは実際に探さなくてはならない。
「携帯をハンズフリーにして、常時全員と連絡を取り合えるようにしておこう」
 大人の渋さが漂うファーフナー(jb7826)が皆と番号を交換すると、全員それに倣った。
 他者と距離を取るのが当たり前になってしまっているためか、やや硬い表情が抜けない天宮 佳槻(jb1989)は、何年か前に一度塔利と会っていたことを思い出した。
(特に予定もなかったから依頼を受けたけど……)
 塔利もこの数年で色々あったようだ。もっとも、以前に感じた若干残念な印象は変わっていないけれども。
「22時までには納めたいですね」
「当然♪ 絶対に連れて行くわ」
 はっきりした目鼻立ちや女性も羨むボディが人目を惹きつける美女、麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)がふふふ、と若干黒い笑みを漏らす。
「叶美のためにも、間に合わせるさ」
 ダークスーツをスマートに着こなしているミハイル・エッカート(jb0544)も、クールに口の端を上げて微笑んだ。
 麗奈とミハイルは塔利と叶美の経緯をその場で見ていたため、他の仲間達より事情に詳しい。だから塔利の叶美に対しては常に引いた態度がもどかしく感じられる。
「ほんといい歳して何言ってるんだか……ま、気づかないふりかもしれないけどね」
 麗奈はちらとつぶやくのだった。


 蓮城達は現場に到着し、東と南、二手に別れる。
 ミハイルは東側の出入り口付近で潜んでいる塔利の下へ行った。
「よう、手伝いに来たぜ。後で話があるから、終わっても帰るなよ」
 塔利はミハイルの言葉とその後ろでニコニコしている麗奈を見て、嫌な予感が的中したことを悟った。
 そして塔利の携帯に戦闘班からの合図が入る。
『天魔は引き離した! 救出を頼む!』
 今はどうこう言っている場合ではない。
「行くぞ!」
 塔利とミハイル達は速やかにモール内へ入った。

 モールは全体が吹き抜けになっており、通路の先に派手に飾り付けられた大きなツリーが見える。
 ファーフナーは『磁場形成』と『陰影の翼』を使って二階へ飛んだ。
「救出に来た撃退士です! 天魔は別の場所に引き離したので安心してください! 怪我人がいたらお知らせください!」
 声をかけながら店舗を見て回る。
 天宮も二階へ走った。店内はファーフナーに任せ、自分はバックヤードも確認していった。
 南側から入った蓮城は、『生命探知』で隠れている人達がいないか探す。反応のあった場所を塔利の仲間に伝えて、救出していった。
 ミハイルと麗奈は様子を見に出て来た警備員を呼び止め、ミハイルは館内放送ができるサービスカウンターへ、麗奈は警備室へと向かう。
 ミハイルは
「あーあー。館内の皆様、ただいま撃退士が救助活動を行っております。天魔の心配はありません。落ち着いて指示に従ってください。怪我人がいましたら最寄りの撃退士か警備員に知らせてください。なお、館内に残っている警備員は避難誘導をお願いします」
 と放送をしてから、自分も救助活動に回った。
「あ、撃退士さん、子供が怪我してるんです!」
 玩具売り場から母親らしき女性が出てきた。
 子供が棚から落ちてきたおもちゃ箱の下敷きになって怪我をしたらしい。母親は他にも二人の子供を連れていて、怪我をした子だけ置いて行けないのだ。
「大丈夫か」
 ミハイルは『応急手当』で子供の傷を治してやり、母親達と一緒に塔利に託す。
「いいか、おはしの原則だぞ。押さない、走らない、しゃべらない。学校で習っただろ」
「うん、ありがとう、外人のおじちゃん」
「ありがとうございました」
「さ、こっちです」
 頭を下げる母子を、塔利は促す。
 『おはしの原則』だなんて、外国人のくせに変なことを知ってるヤツだな、と塔利は思った。初めて会った時『虫除けに効くのは線香花火』とか言ってたのもいい思い出だ。

 警備室で麗奈は防犯カメラの映像を確認。
 六つあるモニターは、4つの出入り口と中央の広場を二方向から映していた。各店舗の防犯カメラは店の自己管理で、統括されていない。
「あらあら、広場で右往左往してるコがいるわね」
 麗奈はスマホで皆に向けて誰か行ってくれるように頼むと、蓮城から対処するとの返事があった。
「カメラ数がちょっと心許ないけど仕方ないわ。手が足りない所とかあったら、随時あたしに連絡してちょうだいね♪」
 と美貌を駆使して警備員におねだりして、自分も現場へと戻った。

 飲食店からは大勢が出てきて、塔利の仲間が誘導している。
 ファーフナーがそれを手伝っていると、服の裾を男の子に引っ張られた。
「どうした?」
「あのね、パパとママがいないよぉ」
「あぁ泣くな。探してやるから」
 じわじわと泣き出しそうな子供を抱き上げて、ファーフナーは文字通り飛び回って両親を探してやった。

 天宮はバックヤードで従業員を見つけた。
 そのひ弱そうな若い男は、掃除用具入れに隠れていたのだった。
「もう大丈夫ですよ。僕はまだ見回らないといけないので、先に避難してください」
「た、助かったのか? 良かったぁ」
 天宮は『鳳凰召喚』で召喚獣鳳凰を喚び出した。
「いいか、この人を避難させるんだ。通路に出れば他の撃退士が誘導してるはずだから、その通りにすればいい」
 天宮が命令すると鳳凰は一声鳴き、男に振り向きながら少し先を飛ぶ。
「あの鳳凰に付いて行ってください」
「分かった、ありがとう」
 男と別れると、天宮はトイレの個室までちゃんと調べて、隠れたままの人がいないか確認するのだった。

「救助に来ました」
 蓮城は食料品店の奥でうずくまっている老夫婦を見つけた。
「た、助けてぇ」
 どうやら妻の方が襲撃の際のどさくさで腰を痛めてしまったらしい。
「天魔が完全に倒されたと分かるまで、私はここを出ないぞ!」
 夫の方はかなり怯えてしまっている。
「天魔はもういません。私達撃退士がついてますから、安心してください」
 蓮城は優しい笑顔で『マインドケア』を使い、夫の心を落ち着かせる。
「奥さんは私が背負います。安全な所までお二人をお連れしますから」
「あたしも手伝うわ。おジィちゃんは任せて」
 麗奈も助っ人に現れ、夫の方に手を貸す。
 蓮城は婦人を背負い、二人は老夫婦を避難させた。


 学園生の手際が良かったこともあって、救出作戦は一時間半程で終わった。
 天魔の討伐もその前に完了しており、塔利の仲間を代表して年かさの撃退士が蓮城達に礼を述べる。
「君達の協力感謝する。では私達はこれで」
 彼らが解散すると、学園生の前に塔利が残された。

●塔利の葛藤
「まずは、俺と同じ誕生日おめでとう」
 ミハイルが右手を差し出す。
「おぉ、お前さんもか。おめでとう」
 何の魂胆だろうと思いながらミハイルと握手を交わす塔利。
「実は、土屋が急病になった」
 ファーフナーが渋い顔をして言うと、塔利はなに、と声を上げた。
「さっき電話した時はそんな感じじゃなかったぞ? あ、まさか強がってたのか? 何やってんだあいつは――。病状はどうなんだ?」
 隠そうとしているが、心配して焦っているのはミエミエだった。
「ふむ、その様子からすると、お前も土屋のことは憎からず思っているということだな」
「は?」
「いや、急病というのは嘘だ、すまない」
 全然すまなそうじゃないファーフナーに、塔利は唖然とする。
「どういうことだ?」
「私達は貴方を土屋さんの家に連行するよう依頼されたの」
 蓮城が叶美からの依頼を説明すると、塔利は戸惑いを見せた。
「それは……まあ、ありがたいけどな、別に今日じゃなくてもいいだろ? もう遅い時間なんだし、明日改めて行けば」
「駄目です。絶対今日中との依頼なんで」
 天宮がしれっと言い切る。
「こっちの依頼の邪魔する気?」
 蓮城も畳み掛けるように攻める。
「いや、でもだな……俺一人では行けない」
「じゃあ僕達も行きますよ」
「なら一人じゃないでしょ」
「行かない選択肢なんかないわよぉ♪ そんなこと言うなら、この動画配信しちゃおうかしら」
 麗奈が塔利の目の前にスマホを突きつけた。画面には以前の虫型天魔との戦闘で塔利が逃げ回っている動画が再生されている。
「ちょ、おま、まだそれ消してなかったのか! 卑怯だぞ!」
 スマホを奪い取ろうとする塔利から麗奈はひらりと逃げる。
「ざ〜んねん♪ あたしにそんな理屈が通じると思う?」
 とびきりの笑顔でスマホをひらひらさせる。
「チッ、流したきゃ流せよ」
「あら、意外に頑固やねぇ」

「クリスマスと言えば大切な人と過ごす日だろ。叶美は塔利を選んだ。つまりそういうことだ」

 ミハイルの言葉に、びく、と塔利が反応した。
 それは塔利が恐れていた言葉だ。
「違う。それは叶美の勘違いだ。俺が叶美の呼び出しに大人しく応えていたから、それを恋愛感情とすり替えてるんだ」
「なぜそう言い切れる? 塔利だって、初めのうちは罪悪感や義務感だったかもしれないが、『叶美だから』これまでずっと応じてきたんじゃないのか?」
「それは……」
 塔利は口ごもる。
 もちろん叶美のことは嫌いではない。幸せにしてやらなければと思っている。だけどそれが恋愛感情なのかは塔利自身よく解っていなかった。
「今までお前はそういう対象と見ていなかったんだろうが、お前にとって土屋はどのような存在か、今一度考えてみたらどうだろうか。そして、彼女がクリスマスにお前を呼ぶという意味もな」
 ファーフナーが重みのある声で塔利に語る。
「土屋は未成年ではないし、負い目から言い訳したり、気持ちを否定するなよ。幸せは自分で決めるものだ。人は変わる。関係も変わる。罪の意識を根底に考えるな。自分の本心に従うのが相手への礼儀だろう。でなければ彼女はまた不幸になるぞ」
「だが、叶美の傍に俺がいれば、あいつは母親のことを思い出す。辛い記憶を。それは叶美の幸せを邪魔することだ」
「どうしてです?」
 と言ったのは天宮だった。
「思い出さないことが解放じゃないです。傷もまたその人の大切な歴史だということだってあります。塔利さんといることが叶美さんの幸せの妨げになるとどうして決め付けるんです? 叶美さんはもうとっくに塔利さんを許してる。自由になってる。その上で塔利さんに傍にいて欲しいと思ったのだから、今は『行く』というプレゼントをあげてもいいのでは?」
 塔利は戸惑いの目で天宮を見つめた。
 自分もそう思っていいのだろうかと葛藤が渦巻く。
「土屋さんが『今日、塔利さんと』にこだわった意味……、ないがしろにしないで。必要ないだなんて貴方が決めることじゃない。でも自分を偽らないと決めるのは、塔利さんかな?」
 にこりと蓮城が微笑んだ。
「――分かった。お前さん達も行くなら行くよ」
 塔利は『皆で』は譲らなかったが、とにかく叶美の所に行くのは了承した。

「叶美へのプレゼントはあるのか?」
「そんなものない」
 あっさりと否定する塔利にミハイルは呆れる。
「塔利さんメモ持ってる? それで『プレゼントを一緒に選びに行く券』を手作りして贈るのはどうかな?」
 蓮城が気を利かせて提案すると、麗奈とミハイルも賛成した。
「いいわね、年越しデートも兼ねて行ってらっしゃいよ」
「ついでに映画や遊園地券も付ければいい。こういうのは『クリスマスに好きな男性からもらうこと』がミソだぞ」
 何か塔利の脇でトントン拍子に話が進んだが、塔利はもうゴネなかった。

●叶美と一緒に
 叶美が玄関のドアを開けると、塔利が麗奈達に押され前に出た。
「……遅くなって悪い」
「いいわよ、今日に間に合ったから。皆さん、連れて来てくれてありがとうございました! とりあえず中へ」
 全員が中に通され、叶美にお茶やジュースのペットボトルを渡される。食べ物はミハイルが持参したカツサンドを仲間に配った。
 テーブルには二人分の料理と、二つのケーキが用意されていた。
「こっちのケーキは誕生日用」
 叶美はロウソクに火を点ける。
「30歳の誕生日おめでとう!」
 叶美が拍手すると、ミハイル達もおめでとうと言いながら拍手する。
 皆の前なので塔利は妙に照れくさかったけれども、ろうそくを吹き消した。
「あとこれ、こっちが誕生日でこっちがクリスマスのプレゼント」
 大きな袋と小さめの袋を差し出す叶美に、塔利は驚きを隠せない。
「ケーキもプレゼントも、二つ用意してたのか?」
「そうよ。前に一緒にされて損だって言ってたでしょ? ほら、受け取って」
「あ、ありがとう。何だか悪いな……。あ、これは俺からのプレゼントだ。正直に言うと用意してなくて、急ごしらえですまないが」
 と塔利が手作りの券を出すと、叶美は輝くような笑顔でそれを受け取った。塔利はその笑顔を一瞬見間違いかと思った程、嬉しそうだった。だけどすぐツンとした言い方で、
「べ、別に期待してなかったけど。一緒に選びに行くならいいかな。絶対だからね」
「ああ、分かったよ」
 ついツンツンしてしまう叶美にミハイルがそっとアドバイス。
「叶美、鈍感男にはツンデレしても通じないぜ。いいか、塔利をいい男だと思うなら他の誰かもそう思っているぞ。素直にならないと、その誰かに先を越されるかもな」
 叶美はどきりとしたみたいだった。
 ちらと塔利を見て少し頬を染める。
「はい。そうですね」
 ミハイル達には隠しても仕方ないと思ったのか、素直にうなずいた。

 塔利の方は、麗奈が声をかけていた。
「塔利ちゃん、あなたの贖罪は終わり。ひとりの男として、罪悪感とかは抜きにして気持ちに応えてあげなさいね。最後まで傍で幸せにしてあげて、やっとご両親に顔向けできるんじゃない?」
「そう、なのかもしれないな。全く、お前さん達にはいつも教えられちまってカッコ悪ぃが――ありがとな」
 ふふ、と笑って麗奈は塔利の肩を叩いた。


 これからは二人の時間だ。
 お互いが素直に気持ちを打ち明けられるようになるのはもう少し時間が必要かもしれないが――。
 撃退士達は叶美の家を後にし、二人の幸せを願うのだった。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 陰のレイゾンデイト・天宮 佳槻(jb1989)
重体: −
面白かった!:4人

Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
甘く、甘く、愛と共に・
麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)

卒業 女 ダアト