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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/12/01


みんなの思い出



オープニング

●青年の思い出

 10歳くらいの少年と少女が、小さな川に並行しているあぜ道を隣り合ってそぞろ歩いている。落ちかけた陽が畑の向こうの低い山に差し掛かりながら、眩しい西日で二人を染めた。
 人家もまばらで、都会とは違う景色はどこか心を落ち着かせるような風情があった。

 少女が、悲しげな顔で言った。

 『あたしね、明日から入院するの。……もう、学校には行かれないんだって』

 『えっ、そうなの……? ……でも、ちゃんとお医者さんの言うこと聞いてればまた通えるようになるよ!』

 『……ねえよっちゃん、去年埋めたタイムカプセル、覚えてる?』

 『もちろん覚えてるよ!』

 『それじゃあ、約束のことも覚えてる?』

 『約束って、都希子ちゃんのハタチの誕生日になったら、一緒に開けようってやつ?』

 『そう。……もし、あたしがハタチになる前に死んじゃっても……』

 『そんなこと言うなよ! きっと元気になるよ! そんで二人でタイムカプセル開けに行こう?』

 『うん、そうだね……。でももし、あたしが死んじゃっても、タイムカプセル、開けに行ってくれる?』

 『――分かった、約束する』


 ――よっちゃんと呼ばれていた平岡善也が約束を交わしたのは10年前。
 そして今日は、彼女――都希子が生きていれば、二十歳になるはずの日。
 あの頃は、入院しても治らない病気の人が身近にいるなんて、考えたこともなかった。そういう病気になってしまう人はごくごく少数なのだと。
 幼い頃からの入退院は辛かっただろう。手術も何度かしたはずだ。だけど都希子は小さいながらもそういう大変さや弱音などは一切、平岡に言ったことはなかった。
 だから蒙昧な少年だった平岡は気づかなかったのだ。都希子がそれほど重い病気だったなんて。
 平岡と埋めたあのタイムカプセルは、彼女なりの希望だったのかもしれない。あの約束を唯一の拠り所として病気を乗り越えようと。

 だけど都希子はいなくなり――、約束だけが残った。

 平岡は5年前に亡くなった都希子との約束を果たすために、久遠ヶ原学園に来た。
 ここに頼むしか手段がなかったから。

●青年の依頼
 平岡はちょっと特殊な事情ということで、依頼斡旋所の事務アルバイトの生徒ではなく、男性教師が話を聞いていた。
「僕と彼女は幼なじみでとても仲が良くて、小さい頃は毎日のように一緒に遊んでました。でも都希子ちゃんは生まれつきの病気で体が弱くて、入退院を繰り返してたんです。それで小学校高学年になってからは病気が悪化して、学校に来なくなりました。タイムカプセルは病気が悪化する前に、二人でよく遊んだ場所の木の下に埋めたんです」
 見るからに気弱そうな平岡は、でも今日は今までの人生イチの勇気をかき集めてきたかのような、決意に満ちた目をしていた。
「僕はできるだけお見舞いに行ってたんですけど……、入院して一年くらいしたら会わせてもらえなくなって……。多分僕に会うと自分の境遇が悲しくなるからだと今にしてみれば思うんですけど」
 平岡はそこで悲しみを出すまいと大きく息をしてから、続けた。
「それからしばらくして亡くなったと聞きました。都希子ちゃんは僕にとって初めての友達で……、今までずっと、忘れたことなんかありません。彼女との約束を果たしたいんです! お願いします、僕をタイムカプセルを埋めた場所まで連れて行ってください!」
「しかし君の言っている場所は――」
 男性教師は躊躇いながら地図を見、言葉を切る。

 平岡が行きたいと訴えている場所は、千葉県佐倉市にあるゲートからほど近い場所なのだった。

 そこは占領地域となっており、住民は避難して今は放棄された地区だ。占領地域と通常地域の境界は撃退庁や久遠ヶ原学園の監視下にある。当然、一般人が入ることは禁止。
 ゲートの主は今の所あまり活発な活動を行っていないとしても、サーバントがうろついていて、見つかれば危険は必至だ。
「お願いします! 彼女との思い出はそれしかないんです! 約束なんです!!」
 平岡は来客用のテーブルに頭をこすりつけんばかりにして頼む。
「うーーーーむ……」
 教師は散々悩んだ挙句、承諾した。
「仕方ない、その依頼受けましょう。君の気持ちが分からないわけではないからね……。その代わり、くれぐれも危ないことはしないこと。危険だと感じたら君の命を優先する。それでいいなら、です」
「あ、ありがとうございます!! よろしくお願いします!」
「分かりました。通行許可は私が取っておきます」


 佐倉市に着き占領地域に入れてもらうと、撃退士達は平岡の案内で進む。
 周りは以前は田んぼだったり畑だったりしたであろう平地が広がり、のどかささえ感じられた。ゲートがあるということさえ忘れてしまいそうだ。撃退士達は努めて警戒を怠らないようにしなければならなかった。
「良かった、昔とあんまり変わってない」
 平岡は自分の記憶と今の景色を合わせながら、撃退士達を導いて行く。
 10分程歩いて、平岡が声を上げた。
「この先です、あっ、並木がある!」
 小さな川に沿って、何本も木が植えられていた。そこはもう占領地域のど真ん中だ。
 平岡は堪らず走り出す。
「待て、慌てるな!」
 撃退士の一人が先走るのを止めようとするが、平岡はどんどん走って行く。
「あれです、あの木の下――」
 と平岡が目的の木を指差し撃退士達に振り返った時。

 木の根元が盛り上がり、下から何かが出現した。

「うわああぁっ!!」
 平岡の悲鳴に、撃退士達は素早く彼の前に出る。
 カピバラのようなハリネズミのようなサーバントだ。しかも体が3mはあろうかというほどデカイ。
「あっ、タイムカプセル!」
「なに?」
 サーバントに向けられた平岡の視線をたどると、天魔の背中のトゲトゲした体毛に、土まみれのビニール袋が引っかかっていた。
 クッキーの缶をプチプチの梱包材で巻いて、さらにジッパー付きビニール袋に入れたタイムカプセルらしい。
「あれを取り返してください!」

 撃退士達が前に出ようとする平岡を押し留めていると、サーバントが彼らの方を向いた。


リプレイ本文

●占領地域へ
「ここから先はサーバントがいます。くれぐれも気をつけて」
「了解」
 通常地域と占領地域の境界を防衛している撃退士の一人に念を押され、彼らは平岡を連れて境界の先へと足を踏み入れた。
 平岡が辺りを見回す。自分の記憶と照合しているのだろう。
 やがて自信に満ちた足取りで進み出した。
「こっちです」
 依頼を受けた撃退士らも、平岡を守るように位置しながら付いて行く。
「良かった、昔とあんまり変わってない」
 多少荒らされてはいるものの、元は畑や田んぼだったと分かる平地を成しており、今の所サーバントの姿も見えず静かだ。占領地域でさえなければ、のどかな風景でも見ながら一服したくなるほどに。
「タイムカプセル、か。仄、は行った事は、無いが面白そ、うな試みではある、な」
 独特な口調で仄(jb4785)が静寂を破った。
「今、の、怪現象の色々が載った本、を、何十年、か後に開けたら、その謎、も、解けていたりするのか、もしれんな。それはそれで、面白くは、無いが……」
 仄の表情はずっと無だったけれど、興味を持っているらしいことは平岡にも分かった。
「善也、達は、何を、入れたのだ? 自身の、病状を知っていた、都希子、は、如何だろうか」
「僕は確か……、その時流行ってたトレカのレアカードとか、百点のテストの答案を入れたはずです。都希子ちゃんは何だったかな……手紙を入れてた気がする」
「……今……十年後、でないと意味の、無い何か、を、善也、に贈り、都希子、の、存在証明、を、手渡したかった、のだろうか。仄、なら、存在証明、は、要らん。躰、は、朽ちようと、魂、は、残る。そういうモノ、だ」
 でも、残された者はそれだけじゃあ寂しい。
 平岡がそう思っていると、
「……幼き日の約束、か。タイムカプセルの手紙に、何が書かれているのかは分からないし読んで逆に辛い思いをするかもしれないが、記憶にとどめ続けることが、死者への慰めになるのかもしれないな」
 ファーフナー(jb7826)がぽつりと言う。
 様々な経験をしてきたであろう大人な雰囲気も相まって、ファーフナーの落ち着いたトーンの言葉には説得力があった。
「ええわぁ〜、愛に生き抜く若者か……助けてあげないとね♪」
 妙に色気の漂う和装美人、麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)が平岡にパチッとウィンクする。
「愛にってほどじゃないですけど……」
 明らかに女性慣れしておらず照れている平岡を見ながら、不知火あけび(jc1857)は彼の一途さを感じた。
 いくら平岡が律儀な性格だったとしても、普通の人の身で天魔がうろついている場所にまで行こうとするなんて、よっぽどの想いでなければできない。
(絶対平岡さんにタイムカプセルを渡してあげなくちゃ!)
 不知火は決心していた。

 そうして10分ほど歩くと、平岡が声を上げた。
「この先です、あっ、並木がある!」
 小さな川に沿って、何本も木が植えられていた。
 平岡は堪らず走り出す。
「待て、慌てるな!」
 戒 龍雲(jb6175)が止めようとするが、平岡はどんどん走って行く。
「しょうがないな」
 大柄な体躯を持つ逢見仙也(jc1616)も万が一に備えて平岡の後を追った。
「これって何か良くないパターンじゃなァい?」
 未だ子供のように見える外見でも戦闘経験豊富な黒百合(ja0422)は何かを感じたのか、警戒を強め周囲に目を配る。
「あれです、あの木の下――」
 と平岡が目的の木を指差し仄達に振り返った時。

 木の根元が盛り上がり、下から何かが出現した。

「うわああぁっ!!」
 平岡の悲鳴に、不知火や麗奈は素早く彼の前に出る。
 カピバラのようなハリネズミのようなサーバントだ。しかも体がデカイ。
「あっ、タイムカプセル!」
「なに?」
 戒が平岡の視線をたどると、天魔の背中の刺々しい毛に、土まみれのビニール袋が引っかかっていた。
「あれを取り返してください!」
「ふむ、引っかかってるな」
 落ち着き払って戒が確認する。
「きゃはァ、あのタイムカプセルを回収すればいいのねェ……じゃァ、さっさと終わらせましょうかァ♪」
 黒百合もサーバントを前に不敵な笑みを見せ、光纏した。

●タイムカプセルを取り戻せ!
 トゲカピバラが戒と黒百合に爪を振り下ろす。
「「!!」」
 二人は飛び退り回避。思ったよりスピードがある。
「あれには都希子ちゃんの思い出が!」
 今にも天魔に走って行きかねない平岡の腕を、不知火はしっかと掴んだ。
「ダメです、危ないから離れてください! 都希子さんは貴方の怪我を望んでいないはずです! だから大人しく守られてください!」
 不知火は戦闘の邪魔にならない所まで平岡を引っ張って行く。
「外見はカピバラとハリネズミを合成したよう、出現の仕方からモグラも混ざっているか? 針や爪の攻撃が考えられるな。穴を掘って逃亡もあり得る。皆気を付けろ!」
 戒が仲間に注意を促し、自分は一旦距離を開けた。
「土の中に逃げられたらタイムカプセルを回収できなくなるな」
 ファーフナーは『タウント』を使い、トゲカピバラを『注目』させる。それから『陰影の翼』で翼を出し、平岡とは逆方向の川向こうへ飛ぶ。
 悪魔の血の証である翼を使うのはファーフナーにとって胸を掻き毟りたいほどの苦痛だが、依頼を優先し痛みを無視する。
 易々と川を渡ったトゲカピバラが、ファーフナーを攻撃してきた。
「っ!」
 ファーフナーは咄嗟に魔槍ゲイ・ボルグで受けるも、足にかすり傷を負う。
「素早いようだ、が、捕らえ、る」
 仄がカピバラに接近、『呪縛陣』を展開した。
「動けなくなれば、逃げられる心配、はないから、な」
 だがトゲカピバラは持ち前の速さで、軽いダメージを受けただけで結界の範囲外へ逃れてしまった。

「待って、攻撃したらタイムカプセルが壊れる!」
 戦闘の様子を見ていた平岡が、撃退士達を止めようとする。
 しかし不知火は行かせまいと平岡の前に両手を広げて立ち塞がった。
「大丈夫です、私の仲間が絶対タイムカプセルを無傷で持って来てくれます! 信じて待っていてください! 貴方が戦闘に巻き込まれれば、仲間も危うくなりタイムカプセルを回収できなくなるかもしれません! だからここは私達に任せてください!」
 不知火の真摯な説得に、平岡は幾分落ち着いたようだった。
「――分かった。学園に頼んだのは僕だし、言う通りにするよ」
「ありがとう」
 不知火は小さくうなずき、祈るような気持ちで戦闘を見守る。

 黒百合はタイムカプセルを傷付けないよう、『忍法〈髪芝居〉』を使いカピバラに幻影を見せる。意思を持っているかのように黒百合の髪の毛が蠢き、カピバラの体を拘束するという幻を。
「タイムカプセルを回収するまでは、逃がさないわよォ」
 トゲカピバラは見事術中にはまり、『束縛』された。
「大事なものは早々に確保しとかないとね」
 麗奈が『闇の翼』で飛び上がりカピバラの背中に近づく。
 けれども、カピバラはファーフナーや黒百合を攻撃しようと体を上下させたりその場で回ったりして、中々ビニール袋を掴めない。
 麗奈が苦戦していると、カピバラは何やら前足や頭を縮め始めた。
「! 体を丸めてるわァ!」
 黒百合が体当たり攻撃の前兆だと気付き、ロンゴミニアトで顔を狙って薙ぎ払う。
 戒もライトブレットAG8で援護射撃。
 トゲカピバラは丸まるのは止めたものの、今度は土を掘り出した。
「マズイな」
 ファーフナーは再び『タウント』で己に意識を向けさせる。
「動く、な」
 土を掘らせないよう仄はその前足にアヴォーリオを巻きつけ引っ張った。
「くらえ!」
 カピバラの行動が阻害された隙に、逢見が『スタンエッジ』を放つ。
 全身に電気の衝撃が走り、カピバラは『スタン』し動けなくなった。
「本当ならここで一発お見舞いしたいところだけど、今回は目的が違うからねぇ。純粋な気持ちは汚させるわけにはいかないのよ」
 麗奈はすぐさま背中に取り付き、ビニール袋を毛から引き抜き離れた。
「皆、タイムカプセルは取ったわ!」
「よし!」
 もうこれで遠慮はいらないと見た戒が、『縮地』で一気にトゲカピバラに近接した。
 そして『闘気解放』で闘争心を解き放つと、戒の背後に浮かぶ虎のアウルが燃え上がるかのように輝く。
「一気にカタを着けようじゃないか?」
 闘神の巻布を着けた右拳を思い切り叩き込んだ。
 だが、拳が当たったのは体を丸め針だらけのカピバラの背中。威力が削がれてしまった。

 麗奈は不知火と待つ平岡の所まで飛んで行き、タイムカプセルの入ったビニール袋を渡した。
「ありがとうございます!!」
「さ、これで大丈夫。危ないから離れときましょうか♪」
 麗奈と不知火は平岡を通常地域の境界まで連れて行こうとする。
 と、トゲカピバラが不知火達の方へ転がってきた!
「危ない!」
 麗奈が平岡を抱えて飛び、不知火が身構える。
「届け!」
 ダッシュで向かっていた逢見が、不知火に『防壁陣』をかけた。
 トゲカピバラがぶつかる直前、不知火はカリオペーシールドを出現させ体当たりを受け止めた。『防壁陣』のおかげで、衝撃をくらったがたいしたことはない。
「逢見さん、すみません!」
 礼を言ってから、不知火は麗奈達の後を追う。
 黒百合が側面からフリーガーファウストG3を発射した。
「ごめんなさいねェ、アナタと長々と遊んでられないのォ」
 玉状態の体の中心に命中し、カピバラは仰向けに倒れ鳴き声を上げる。
『ピギイィイ!!』
「もう、お前に用は、ない」
 仄はワイヤーをカピバラの首に絡め、食い込ませた。
「大きければ強いということもなかろう。沈め」
 戒がもう一度『闘気解放』でトゲカピバラの腹に拳を打ち込み、ファーフナーが『フェンシング』を使用した。
「これで終わりだ」
 トゲカピバラが反応するよりも早く魔槍を繰り出し、目から脳天へ通れとばかりに突き刺した。
『ゲギイイィ!!』
 トゲカピバラは断末魔の叫び声を発し――、
「他のサーバントに気づかれたみたいよォ」
 黒百合が周囲を見渡して言う。
 黒百合の言う通り、左右から鳥のようなものや熊のようなもの等、何体かのサーバントがこちらに走って来ていた。
「撤退よォ!」
 全員全速力で走り出し、先に境界へと向かった麗奈と不知火に続いた。

●境界
 不知火に追いついた黒百合達だったが、サーバントも追ってきている。
 ファーフナーと逢見は殿に付き、二人で『タウント』を使い囮となった。
「こっちだ、サーバント共」
「彼は傷付けさせないよ」
 ファーフナー達に引き寄せられた二体のサーバントに、黒百合が『影縛の術』、仄は『呪縛陣』で『束縛』し時間を稼ぐ。
「しばらくそのままでねェ」
「追ってきても、無駄、だ」
 麗奈は平岡を抱えたまま境界まで飛ぶことだけに集中し、その両脇を戒と不知火が固める。
 コウモリのようなサーバントが上から襲って来た。
「うわあぁこっち来た!」
 麗奈の腕の中で怯えまくっている平岡。
「そう簡単にやれると思うな」
 戒が銃で応戦、不知火は『影手裏剣』を投げサーバントを寄せ付けまいとする。
「もう少しです、頑張って! 都希子さんは弱音を吐かなかったんでしょう? 平岡さん、彼女に笑われちゃいますよ!?」
 不知火が叱咤すると平岡はハッとして、恐怖を飲み込むように歯を食いしばった。
「境界です!」
 防衛している撃退士達が数人並び、銃や弓をこちらに向けている。
 麗奈達が全員境界を越えると、
「撃てーーーっ!!」
 リーダーらしき一人の号令で、一斉に攻撃が放たれた。
 追って来たサーバント達は足を止める。敵わないと感じてか元々境界には近寄るなという命令なのか、サーバントは彼らを値踏みするように見て、やがて回れ右して引き返して行った。
「た、助かった……」
「ね、大丈夫だったでしょ!」
 思わず安堵のため息を吐く平岡に、不知火はとびきりの笑顔で笑った。


 黒百合達は前線の休憩所のような所で一息入れることにした。
 軽傷ではあるがダメージを受けたファーフナーや不知火は、仄の『治癒膏』で回復してもらう。
 皆の頑張りで平岡の身もタイムカプセルも無傷だった。
「皆さん、無事にタイムカプセルを取り戻してくれて、ホントにありがとうございました!」
 平岡は勢い良く頭を下げる。
「中、は、見ないの、か?」
 仄に言われ、平岡はまだきつく胸に抱いているビニール袋を見下ろした。
「そう、ですね。開けるのが約束だったから……開けてみます」
 平岡が慎重に袋を開け梱包を解き、クッキー缶の蓋を開けるのを、撃退士達は静かに見つめていた。
 中には、平岡少年が入れたであろうトレーディングカードが何枚かと、テストの答案用紙、そして――

 都希子が入れたらしい小さなウサギのぬいぐるみと、淡いピンク色の封筒が入っていた。

「都希子ちゃんのお気に入りだったウサギと、これは……」
 封筒の表に『よっちゃんへ』とある。
 震える手で手紙を取り出してみると、そこには

 『よっちゃんだいすき。大人になったらおよめさんにしてね』

 と子供らしい字体で書かれていた。
「―――!!」
 平岡の目から涙が零れる。
 小さな子供の約束。もし今も都希子が生きていたら同じ気持ちでいたかどうかは分からない。
 でもあの時はそれが本当の気持ちだった。今でも平岡は同じ気持ちだ。
「都希子ちゃんはずっと善也ちゃんを想っていると伝えたかったのね」
 いたわりを含んだ麗奈の声。
「とっても素敵なことだと思うけどね。月並みやけど彼女はあなたの幸せを願ってるのよね。もうあなたは気付いてるんでしょう? この想いに囚われ過ぎちゃダメ。でもあなたはとても優しいから……だから……これが必要だったのかな?」
 麗奈はそっと手紙ごと平岡の手を自分の手で包み込んだ。

 都希子を忘れるわけではない。
 大切な想い出として胸の宝箱にしまい、前へ進むために。

「誰にだって命よりも大切なモノがある。お前が危険も顧みずここに来たように、都希子が約束に想いを託したように。これからはその想いを裏切らないように生きていけばいい、応援しているぞ」
 戒がぽん、と平岡の肩を叩くと、平岡は涙を拭いながらゆっくりうなずいていた。
 都希子の魂が今ここにいて平岡を見たなら、きっとその顔は満足そうに微笑んでいるに違いない、と不知火は思う。
(死んでも想ってくれる友達って良いなぁ……)
 自分もそんな相手に出会えるだろうか。
 不知火には平岡も都希子も、眩しく感じられた。

 あまりにも純粋で、あまりにも無垢な思い出。
 ファーフナーの幼少時代とはまるで違う。出自のせいもあり、そんな甘酸っぱい経験など思い出そうにも思い出せない。
 平岡の涙も都希子の手紙もファーフナーには明るすぎて、その輝きは羨望となり――、

 ファーフナーの胸の奥がチクリと痛んだ――。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
 明ける陽の花・不知火あけび(jc1857)
重体: −
面白かった!:6人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
静寂の魔女・
仄(jb4785)

大学部3年5組 女 陰陽師
限界を超えて立ち上がる者・
戒 龍雲(jb6175)

卒業 男 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
甘く、甘く、愛と共に・
麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)

卒業 女 ダアト
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍