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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/21


みんなの思い出



オープニング

●秋祭り 記念祭
 幼い頃両親を天魔によって失ってしまった吉田広士は、祖父母に引き取られて以来、田舎町で暮らしているごく普通の中学三年生だ。以前は自分を撃退士だと思い込む中二病だったが、今は撃退士に対して厚い尊敬の念を抱いている少年である。
 度々天魔に遭遇したり不良に絡まれたりして撃退士に助けを求めていた彼は、今回また撃退士にとある依頼をしようとしていた――。

 一週間ほど前から、町内には提灯が付けられるようになった。回覧板でも掲示板でも、商店街の店中にもポスターが貼ってありアピールされている。

 秋祭りだ。

 市内では大きい祭りで、昔から続いていたものが今の形になって今年で111年という記念祭らしい。
 町内ごとに山車を引き神輿を担いで街を練り歩き、神社に奉納される。15時から始まり5時間程かけて全ての山車が街を回り終えると、お祓いをし、商売繁盛と町の活性化や安全を祈願するという流れだ。
 当然山車の経路には道の両側に色々な屋台がずらりと並び、本部では振る舞い酒なども振舞われ、広場には個人やサークルが出店し自作の手芸やアクセサリーを売ったりできる。さらに特設舞台も設けられ、民謡サークルの民謡や、ダンスサークルのダンス披露など、地域密着の催しなども行われる。
 山車に乗ってお囃子をやる子供は、その練習のために祭りの一週間前から午後の授業は免除されるくらい、町民全員参加の祭りなのだ。
 この日ばかりは広士の住むこの町も近隣から人が集まり、普段からは想像できないくらいの賑わいになる。

 今年は記念祭ということもあって、何か変わったことをしたいらしい。そして何故か、いち中学生に過ぎない広士に声が掛かった。

 秋祭り実行委員会の会長が、広士に直々に会いに来たのだ。外見は少々禿げ上がった恰幅のいい初老のおじさんだが、秋祭りを取り仕切っている代表者だ。
「俺に用ってなんですか?」
 自宅の応接間(といってもただの和室だが)に、広士は会長と向かい合わせに座っていた。広士の後ろには祖母が落ち着かない様子で控えている。
 会長はやけにニコニコして、祖母に菓子折りらしきお土産を渡してご機嫌を取っていた。
「もうすぐお祭りなのは広士君も知ってるよね?」
「そりゃあもちろん」
 広士もここに移り住んで長い。当然毎年の祭りは楽しみにしているイベントだ。親友の優人は毎年山車でお囃子を担当していて、今年で卒業になるからちゃんと見に来てくれと言われている。
「今年はこの祭りが111年目という記念の年なんだ。我々実行委員会も何かいつもと違う趣向をしてみたいと思ってねえ」
「はあ」
 次の言葉がきっと本題だろう、と広士は緊張しながら相槌を打つ。
 大体大人がこういう態度を取る時はめんどくさいことに決まってる。広士の直感がそう告げていた。
「今年は撃退士を呼ぼうと思うんだよ」
「はい? どういうことですか?」
「ホラ、最近はこの辺りにも天魔が現れたりしただろう? その度に撃退士に助けられた訳だが、ここいらみたいな田舎町には撃退士をよく知らない人の方が多い。だから撃退士を呼んで、特設ステージでちょっとした技を披露してもらいたいと思っているんだ」
「あー……」
 なるほど。珍しい撃退士を呼べばもっと集客できるだろうという訳か。芸能人を呼ぶようなものだ。でも撃退士の技は芸とは違う。一般市民を守るための、正義の力なのに。
 渋い顔をしている広士に気付いたのだろう、会長が慌てて取り繕うように付け加える。
「も、もちろん、客寄せのためだけじゃないよ。撃退士と交流することで我々一般市民の撃退士に対する理解も深まるし、イメージアップにも繋がるんじゃないかなっ?」
 確かに、それも一理ある。
 未だ天魔も撃退士も見たことがない人の中には、撃退士をあまりよく思っていない人もいる。撃退士は天魔から自分達を守ってくれると頭では分かっていても、その戦闘後の物的被害を疑問視したりする声もある。
 広士にとって撃退士とはリアルな正義の味方。他の人に撃退士が誤解されているのは悲しい。そういう誤解を解くためにも、技を披露して撃退士の使命や志をアピールできればいいかもしれない。
「舞台が終われば自由に祭りを楽しんでもらって構わないし!」
「……目的は解りました」
 と広士は顔を上げた。
「それでどうして俺の所に来たんですか?」
「いや〜、企画したはいいけど、我々は撃退士なんて関わるのは初めてのことでね〜。こんなこと頼んで大丈夫なのかも分からない。聞けば君は今までの天魔出現の際、何度も久遠ヶ原学園に通報をしているそうじゃないか。他の子供達の話でも君は撃退士の友達がいると言っているし。だから、君の人脈で撃退士を何人か呼んでもらえないだろうか?」
 会長は決まり悪そうに言ってから、
「頼むよ、この通り! 記念祭のために!」
 テーブルに両手を付いて頭を下げた。
「ええっ、俺が!?」
 広士はポカンと口を開けた。
 妙な頼みに驚きはしたものの、仕方ないかと思う広士。それに、これまで何度もお世話になった撃退士に自分の町の祭りを見に来て欲しい、という気持ちも湧き上がってきた。
「分かりました、俺が久遠ヶ原に連絡してみます」
「おお、やってくれるか! ありがとう広士君! それじゃあ頼んだぞ!」

●久遠ヶ原学園依頼斡旋所
『――という訳でですね、うちの祭りに来て、ちょっとしたパフォーマンスをしてもらいたいんです。皆に撃退士はすごいんだって伝われば、今後皆さんも活動しやすくなるかもですし、学園の宣伝もバンバンしてくれていいんで!』
「はあ……、そーいうことですかぁ」
 受付バイトをしている九月沙那(くつきさな)は色々な依頼が来るな、と改めて思いながら答えた。
「分かりました、依頼出しておきます。楽しいお祭りになるといいですね」
『ありがとうございます!』
 ホッとした声を残して、吉田広士からの電話は切れる。
「お祭りかあ〜」
 その楽しげな雰囲気を想像しながら、沙那は依頼書を張り出した。


リプレイ本文

●秋祭り 広場の舞台裏
 会場となる広場は、撃退士が来ることを宣伝したおかげか例年よりも人が集まり大盛況で、町としては嬉しい悲鳴だ。
「皆さん、今日は来てもらってまことにありがとうございます!」
 祭り実行委員会の会長や委員の面々が、舞台裏で初めて目にする撃退士達に恐縮しながら頭を下げていた。その後ろで広士は音響や照明のスタッフと打ち合わせをしている。
 撃退士が人々を守る誇り高い人達なのだと町の皆にも解ってもらえるなら、広士にとってこんなに嬉しいことはない。この舞台の成功はその第一歩だ。
「こんなふうに皆様の前で試合をする機会をいただけるなんて嬉しいですわ!」
 長い金髪を優雅にかき上げて長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)が言った。
「秋祭りにかこつけて……ゲフンゲフン、依頼で勝負できるやなんてな!」
 黒神 未来(jb9907)もパシッと拳を合わせて闘志をみなぎらせている。黒神は長谷川とボクシング勝負をする予定だ。
「この前はKOされたけどな、今回はそうはいかへんで!」
 黒神の挑戦的な視線を、長谷川は穏やかに受ける。
「ボクサーは、自分が闘っている姿を人に見せることで、人々に勇気を与えることができると聞きました。ならばわたくしも皆様に苦難に立ち向かう勇気を与えるため、手加減なし、全力で戦いますわ!」
 お互いに火花を散らす彼女らに、会長はちょっと引きつった笑いを浮かべた。
「皆さん、準備はいいですか?」
 打ち合わせを終えた広士が皆の所にやって来た。
「一番手はガハラちゃんでぃす! にゃもにゃも、会場を盛り上げるでぃす!」
 戦場ヶ原 中将(jc0516)は二本のアホ毛をしきりに動かしながら大はしゃぎだった。こういう楽しそうなことが大好きらしい。

●舞台開始
 舞台に司会者が上がる。
『皆様お待たせいたしました! これより特別ゲストのスペッシャルなパフォーマンスをご覧になっていただきましょう! 今宵は111年の記念祭ということでお呼びしました、久遠ヶ原学園の撃退士の皆様によるパフォーマンスです! まずは戦場ヶ原中将さん、どうぞ〜!!』
 ジャ〜ン♪と軽快な音楽が鳴り、司会者と入れ替わりに戦場ヶ原が元気よく登場する。
「はーい、ガハラちゃんの登場でぃす! さあさあ何が起こるかなでぃす〜!」
 小さな体に見合わないジャンプ力で飛び上がると、頭上4mほどの所にあらかじめ張っておいたアルゲンテウスの上にふわりと乗った。
 客席からおおっと声が上がる。極細ワイヤーなので、何もない宙に彼女が立っているように見えるだろう。本当は一輪車でやりたかったのだが資金が足りず断念。
『撃退士は超人的な身体能力があります。それをその目でお確かめください』
 ヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)が実況を担当し、戦場ヶ原はワイヤーを渡りながらジャンプしたり、バク転からのキリモミ宙返りなどを披露した。
「いつもよりも多く回っているでぃす!」
 技を出す度に拍手が起こり、客の反応は上々だ。

「刃物で命を救うこともできれば、火薬で人を楽しませることもできる。問題なのは力じゃない。それをどう扱うか、なんだと思う。僕達は異能の存在だけど、彼らに寄り添える心がある」
 舞台袖で実況しつつ客の様子を見ていたヴァルヌスは、傍らでスタンバっているパートナーのディートリント・ティッサ(jc0642)に微笑みかけた。半ズボンとハイソックスが似合う女の子のような美少年のヴァルヌスが、本来は人型戦闘ロボな姿だと誰が想像できるだろうか。
 かたや凛とした姫騎士のようなディートリントは、ヴァルヌスの言葉に小さくうなずいた。
「そうね。理不尽に抗う力と、それと戦う術を持ってこそ撃退士と言えるけど、天魔相手に力を振るうことだけが、戦うことであるとは言い切れないわね。人々と心を一つにして理不尽に屈しないことも戦うことになる」
 人々の心に寄り添うために、二人は最高のパフォーマンスを見せようと思った。

 舞台上では戦場ヶ原がワイヤーの上を連続のバク転移動中、足を踏み外した!
 落ちる! 一瞬空気が凍りつく。
 しかしこれも演出のうちで、戦場ヶ原は『光の翼』を不可視で発動させ、ワイヤーに逆さまに立っているように見せたのだ!
「ガハラちゃんには表も裏も上下左右、何もかもありませんでぃす!」
 観客達はさらに歓声。
 戦場ヶ原は最後に高々と打ち上げ花火を持ち上げながら大ジャンプした。すかさず点火する。
「これが最後の悪あがきでぃす!」
 夜空に花火が打ち上がった。
「皆しゃん、お祭りでガハラちゃんと握手でぃす!」

 わあああッ!

 大歓声と拍手で、戦場ヶ原は上機嫌で手を振りながら舞台を後にした。
 音楽が変わり、ワルツが流れ始める。
『お次は、ヴァルヌス・ノーチェとディートリント・ティッサによる空中ダンスをお楽しみください……』
 マイクを置いたヴァルヌスは、もう本来のロボのような姿になっていた。
「緊張してる? ……大丈夫、君に合わせるから、思うように表現すればいい。ここは君のステージだ。……行こう、ディー」
「ええ、華麗に行きましょう」
 ヴァルヌスは手を差し伸べ、姫を守る騎士のような仕草でディートリントの手を取る。二人共翼を出し、舞台の端から、階段を上るがごとく空中を上がっていく。ある程度の高さに到達すると、曲に合わせてワルツを踊りだした。
 空中を自在に動き回る彼らのステップに合わせて照明が追い、色が舞い、幻想的な雰囲気が漂う。会場はしんとしているが、皆二人のダンスに釘付けになっていた。
 奇妙なペアはまるで乱暴なロボットを従えた姫のようにも見える。
 やがて曲が終盤に差し掛かると、ヴァルヌスとディートリントは手を取り合ったままゆっくりと舞台に降り立った。同時に曲が終わり、優雅に一礼。
 一斉に拍手が沸き起こった。

『続きまして、長谷川アレクサンドラみずほと黒神未来の、ボクシング試合です!』
 退場したヴァルヌスが紹介すると、舞台の両端から二人が現れる。舞台中央で見合い、ファイティングポーズを取った。

 カァーン!

 とゴングが鳴るやいなや、長谷川が大きく踏み込みいきなりの右ストレート!
 観客は常人を超えたスピードからの鋭いパンチに度肝を抜かれた。
 黒神はガードしており、すかさず反撃! スウェーで避ける長谷川をワンツーでさらに攻める。
 長谷川は防御の隙間から、黒神の左拳が引かれる瞬間を狙って『Left Cross Combination』を繰り出した。
「甘いですわよっ!」
 一撃が黒神の顔面にヒット!
『おおっと、長谷川の左フックが決まった!』
『今のは十字を描くように一瞬に二撃を繰り出す技です!』
 ヴァルヌスの実況にディートリントの解説も加わった。
「簡単にはやられんでぇ!」
 黒神も果敢に攻めていく。
 打たれては打ち返しのプロ顔負けの打ち合いは、一気に場を熱狂させた。
 黒神はラッシュに混ぜて『ダークブロウ』を放つ。
「っ!!」
 長谷川はボディに喰らってしまった。
「チャンスや!!」
 黒神の左目が赤く光った。『羅眼』で攻撃力を高めた必殺の左ストレートをお見舞いする。
『今度は黒神の左ストレートぉ!』
 黒神のパンチは長谷川の頬を捉えるも、まだ彼女は倒れない。その目は黒神をしっかり見据え、
「油断は禁物です」
 『Damnation Blow』を黒神の脇腹にねじ込んだ。しかし、ギリギリ肘で防がれてしまい威力は半減。
「まだまだ!」
 長谷川の全身から蝶が溢れ出して舞った。目にも止まらぬ連打が黒神を襲う。
 『Butterfly Kaleidoscope』の最後の一発が黒神の顎に決まり、黒神は後ろに吹っ飛ぶ。このまま倒れるかと思われた――が、黒神は踏み止まった!
「まさか!」
「油断大敵、はそっちやったな」
 ニヤリと笑い、動けない長谷川に『ダンスマカブル』を打ち込み、続けてもう一度『ダークブロウ』の渾身の一発を放った。
 長谷川はガードもできずにまともに受け――、とうとうダウンした。

 カンカンカンカーン!

 ゴングが鳴り、
『試合終了〜! 勝者黒神未来〜!!』

 おおおおっ!

 大喝采が二人に向けて送られる。
「撃退士も普通の学生と変わらへん、スポーツにも熱くなるんや! 皆撃退士をよろしく頼むで!」
 黒神が大声でアピールすると、再び拍手。そして黒神は倒れた長谷川に肩を貸して舞台を降りた。

「いよいよあたいのさいきょーのパフォーマンスを見せる時が来たわ!」
 トリを務める雪室 チルル(ja0220)が準備運動を終えて言った。彼女は隣でかったるそうにしている恒河沙 那由汰(jb6459)と模擬戦闘を披露する。
「あんま派手に暴れんなよ」
『最後は雪室チルルと恒河沙那由汰の模擬戦闘をご覧ください!』
 ヴァルヌスの紹介があって、和太鼓の音が流れる。
 雪室が勢い良くバク転をしながら舞台に躍り出た。
「やあやあ我こそは雪室チルルなるぞー! あたいに敵うやつはいないのかー!」
 『ダイヤモンドダスト』で氷の結晶を撒き散らしながら、恒河沙が登場。舞台上の気温が下がった。
「俺が相手してやる。来いよ」
「いくぞー!」
 雪室はジャンプして恒河沙にキック!
 恒河沙はがしっと雪室の足をつかみ投げる。雪室はクルクルと回転して着地した。
 間を空けず雪室が舞台の壁を利用し飛び回りながら攻撃! 恒河沙は『予測防御』で軌道を予測しながら、ギリギリの防御で観客をハラハラさせていた。
『恒河沙は【予測防御】を使っているようですね』
『ええ、この技はその名の通り、相手の攻撃軌道を予測して適切に防御できるというものです』
 随時ヴァルヌスとディートリントの実況解説が入るので、見ている方にも解りやすい。
 二人は動きを派手に見せるために大げさに立ち回っていた。攻撃は寸止め、恒河沙は避ける際もわざと大きく後退したり、雪室は常にワンアクション入れてから攻撃していた。
 二人の攻防を観客は息を飲んで見守っている。
 まさに演舞のようだ。
 そろそろ音楽のクライマックスだと察した雪室は恒河沙に指を突き付けた。
「中々やるじゃない! それじゃああたいのとっておきの出番ね!」
 両手にアウルを集中させると、氷の剣が現れた。客席からどよめきが起こる。
「とどめだー!」
 雪室は助走をつけてジャンプし、思い切り『氷剣【ルーラ・オブ・アイスストーム】』を振り下ろす!
 恒河沙は受けると同時に『ダイヤモンドダスト』を舞い散らせた。霧のように舞う氷晶は目隠しとなり、動きの止まった二人に注目が集まる。
 霧が晴れると恒河沙は無傷で雪室の手には何もなく、剣が霧と共に消えたかのようだった。

 わあああー!

 またも拍手喝采が広場を包んだ。

●舞台の後は
 パフォーマンスが終了すると盛り上がった若者達が舞台に殺到し、スタッフと押し合いながら皆手に携帯を掲げていた。
「皆さんお疲れ様でした! どれもすごくてカッコ良かったです! 町の人にも伝わったと思います!」
 舞台裏に集まった撃退士達の所に広士が駆け寄って来て、興奮した様子で言った。
「お疲れ様! 模擬戦とはいえ結構疲れたわね!」
 雪室がふう、と一息つく。
「後は自由行動ですので。良かったらこれ使ってください」
 広士が皆に屋台の食べ物一つ無料になる券を一枚ずつ渡す。
「ありがとー! じゃああたいは早速!」
 雪室は祭りのただ中に駆けて行き、ヴァルヌスもディートリントと一緒に人混みに紛れ見えなくなった。
「わたくしたちもお祭りを巡ってみましょうか」
 長谷川が黒神を誘う。
「ええな、何か食べに行こ! たこ焼きにお好み焼き、どっちも美味しそうやな、迷うわ〜」
 二人連れ立って屋台の方へ消えて行った。
 黒神も長谷川も顔は腫れ、腕や腹も打ち身だらけだが晴れ晴れとしていた。
「おぉっ、くれるんでぃすか? ありがとうでぃす!」
 ふと気が付くと戦場ヶ原はその愛らしさで大人達に大人気で、綿あめやら景品やらをもらっていた。
 後には恒河沙と広士が取り残され……、恒河沙がぶっきらぼうに口を開く。
「俺はこの祭りをあんま知らねぇから、おめぇがプレゼンしてぇと思う所に連れてってくれ」
「任せてください、師匠!」
 嬉しそうに返事する広士。恒河沙は以前からの広士との付き合いで、成り行きで広士の『師匠』ということになっていた。

「ここがメインストリートです、師匠。どんどんお神輿と山車が来るでしょ? 町ごとに山車も神輿もデザインが違うんですよ」
 広士が説明しながら恒河沙を見上げると、恒河沙は興味なさげな顔をしている。
 恒河沙的にはちゃんと聞いているのだが、決してそれを見せようとはしなかった。
「あっ、雪室さんがお神輿担いでる!」
 見ると、雪室は先頭になって神輿を担ぎ、他の男衆ともすっかり打ち解けているようだった。

 恒河沙は無料券を使いたこ焼きをもらい、もう一つちゃんと買って広士に差し出した。
「おめぇも食え」
「ありがとうございます!」
 二人して歩き食いしていると、焼きそばの屋台でなぜかヴァルヌスが作っているのが見えた。
「知ってる? 世の中の大半の焼きそばは、実は焼いてないんだ」
 とかディートリントに言いながら、麺と具を別々に調理、麺をしっかりと焼いたあと水分を飛ばしたソースを絡めてなじませる。とても手際が良く美味しそうだ。

 さらに歩くと、優人の乗った山車を豪快に引いている黒神がいたり、その側でサインや写真に快く応じている長谷川を見かけたりした。広士が優人に手を振ると、優人も小さく微笑み返した。
「なぁ、祭りを空から見てぇって思わねぇか?」
 不意に恒河沙が提案する。
 広士は一瞬迷ったが、その言葉に甘えることにした。

「うわー、すごい!」
 恒河沙に抱えられた広士が感嘆の声を上げる。空から見る祭りの景色は神秘的な眺めだった。神輿を運び終えたらしい雪室がクレープをほおばっているのも見えた。
「あ、あそこが神輿とかを奉納する神社ですよ! 由緒ある神社だとかで、500年も続いてるんだそうです」
 見てる間にも続々山車や神輿が広い敷地に入って行く。本堂前でお祓いや祈願をしているのだ。
 相変わらず恒河沙の反応は薄いが、広士は気にしない。こう見えてちゃんと聞いてくれているのを知っている。
「今日は本当に来てくれてありがとうございました! 皆さんにも楽しんでもらえたようで、俺も嬉しいです!」
 そんな広士の手に、恒河沙はポケットから取り出したものを握らせる。
「飾り気のねぇもんで悪ぃな。案内してくれた礼だ。色々頑張ってたみてぇだしな。ま、お守り程度にでもしてくれ」
 広士が手を開くと、それはグラップルチョーカーだった。
「――ありがとう師匠! 絶対大事にします!」

 広士は一生今日の祭りのことを忘れないだろう。そして撃退士達にも鮮やかな思い出を残した秋祭りは、大成功に終わったのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
人の強さはすぐ傍にある・
恒河沙 那由汰(jb6459)

大学部8年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
戦場ヶ原 中将(jc0516)

中等部3年6組 女 陰陽師
彩り豊かな世界を共に・
ヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)

大学部7年318組 男 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
ディートリント・ティッサ(jc0642)

大学部5年272組 女 ディバインナイト