歓声とともに凱旋する船の上で、幾人もの撃退士達がOrzになっていた。
その体には年齢制限くらいそうな勢いの白いでろりっちが盛大にかかっている。
どうしてこうなったのか。
すべての答えは、彼らの手の中にあった。
●
風が駆け抜けた。白い帆が鮮やかに翻る。
「ようこそ、我らの海賊船へ。歓迎するよ」
突如姿を現したかのようなレガロ・アルモニア(
jb1616)の声に一般客から歓声があがる。ハイドアンドシークを使用した彼の姿は、直前まで彼等に感知されていなかったのだ。容姿の優雅さと相まって、多くの女性客の感嘆を誘っている。
「足元にお気を付けください」
穏やかに微笑み、老婦人に手を差し出すのはアイリ・エルヴァスティ(
ja8206)。本人も感心したパークの凝った衣装がいやにハマっている。それもそのはず、彼女の祖先はれっきとした貴族であり北方の海賊。典雅な風貌にその衣装はよく似合う。
次々に導かれ船に乗り込む人々から新たな歓声があがった。沖縄の県花・梯梧の赤い花弁が空を舞う。
何もない空間に花弁を出現させたのは紺屋 雪花(
ja9315)。常よりもたおやかな印象が強いのは、三月から乙女人格『ゆき』のまま一度も元の人格に戻れていないためらしい。
その様子を熱心に撮影するのは漆黒のパニエドレスを着こんだルーガ・スレイアー(
jb2600)。撮った映像を熟練の指捌きで次々ネットに公開していく。
しかし自身も華麗な貴婦人姿。早速一般客に撮影されて慌ててポーズ。
「おほほほほほー、だぞー(・∀・)」
素早く器具を仕舞おうとして
「あっ…(;´Д`)」
ドレスにポケット無かったよ!
しかし大丈夫だルーガ先生。貴方には豊かな胸の谷間ポケットがある。
一般客の撮影を受けているのは一人では無い。家族連れが群がっている一角には龍崎海(
ja0565)の姿が。
「航海の加護を」
声とともに掌を翳された子供の腕に聖なる刻印が発動する。歓声をあげシャッターがきられるのに、海が紳士的な微笑で対応していた。その向かい側で杖をついた老紳士に手を差し伸べているのは石田 神楽(
ja4485)だ。
「船の床は滑りますので、お気をつけください」
足元への注意を呼びかけ、老紳士をエスコートする。すぐ近くでは宇田川 千鶴(
ja1613)と鎹 雅(jz0140)が車椅子の老婦人をそっと床に降ろしていた。
エスコートを慣れた人々に任せ、古き良き海賊の出であるジェイド・ベルデマール(
ja7488)は、上品な襟元を軽く緩めて苦笑する。
「良いねェ、ホントなら向こう側なんだろうが、お遊びならこういうのも悪かぁねぇや」
流石に潮風とまではいかないが、水上ならではの揺れと水の気配、風をはらむ帆の音がなんとも懐かしい気持ちを呼び起こす。
(それにしてもよぉ…これ、いつまで着てりゃ良いんだ?)
お仕着せが堅苦しいのがいささか窮屈だが。
そんなジェイドが立つのは船の船首楼。見下ろす先には、溌剌とした笑顔で大きく手を広げるメリー(
jb3287)の姿。
「ようこそ、S・マリア号へなのですー」
ワンサイズ大きな服をだぶつかせながら動く姿はなにやら非常に愛らしい。
ちょうど桟橋から渡ってきた群雀 志乃(
jb4646)は、手を取ってくれたメリーにはんなりと微笑んだ。
「お招き頂きまして…楽しませて下さいね」
「わぁー綺麗なのですー!お姫様みたいなのです!」
「ふふ」
接待を受ける人々の傍ら、久遠 仁刀(
ja2464)は周囲を見渡していた。
(妹に「ちょっと戦いから離れろ」と無理やり連れてこられたんだが……)
「注意力散漫、です」
「あいたっ」
突如耳を抓られて驚いた。ファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)が女王の如き気高さでそこに立っている。
「たまには気を抜くのも大事ですが、抜きすぎるのもどうかと」
エスコートを忘れる程では、叱られるのも仕方がない。
「う……気をつけよう」
恭しく手を取る相手に頷き、ファティナは一転して悪戯な笑みを浮かべた。
「ところで、彼女さんとは最近、いかがです?」
問いにおたつく仁刀の向こうでは、桜木 真里(
ja5827)が嵯峨野 楓(
ja8257)の手を恭しく取り甲にキスを落としていた。
「どうか楽しんでね、Lady」
「わ、わ……勿論。貴方と一緒にね」
その微笑みに楓の頬が朱に染まる。
ほぼ全ての乗客が乗り込んだ所で、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)は船尾楼の上に立った。
「皆様、本日は<S・マリア号>へようこそおいでくださいました。歓迎します」
最も豪奢な衣装に身を包んだ彼女は<S・マリア号>のパトロン役。出航準備が整うまでの僅かな時間も、時代背景説明で観客に時を忘れさせる等細かな配慮も怠らない。
「さぁ、参りましょう、大海原へ! 海賊の皆さん、敵国から財宝を得てくださいな、我等が帝国の繁栄のために!」
園の係員からの合図に頷き、みずほは高らかに宣言する。同時に響くのは鐘の音。
貴族役4名が優雅にお辞儀し、私掠船員役十一名が剣を掲げ、若々しい声が船上に響く。
「往くぞ!」
蒼穹に銀の輝きが煌めいた。
●
帆が風をはらみ、軋み音とともに船体がゆったりと揺れる。
「凝ってるわね…」
風に髪を靡かせながら操舵席に立つアイリが苦笑した。これで潮風があれば完璧なのにと、少しだけ残念に思う。
そんなアイリの眼下では、多くの観光客を相手にみずほと海が岸部の建築群を説明している。
観客のほとんどがそちらに興味を惹かれている間、撃退士達もめいめいくつろいでいた。
「ゲザパーク…正式な名前よりこちらの方が覚えやすいですよね」
「ゲザパーク、わかり易いやん」
衣装の片隅にこっそり入ったOrzマークを見て神楽が微笑み、千鶴が真顔でコックリ頷く。のんびりと景色を楽しむ二人の上を風は渡る。
「川の上だし風が強いね。大丈夫?」
庇うように立つ真里の言葉に、風を遮ってもらった楓は微笑む。
「うん、寧ろ涼しくて丁度いいかな。地中海かー…いつか一緒に行けたらいいね」
言葉に、真里ははにかむように微笑んだ。
その傍らではメッされている男性の姿。
「何度言ったか忘れましたが最近、いえ以前からですが無茶ばかりですし」
心配する側の気持ちを考えては如何かと、友達の為にも釘をさすファティナに仁刀は僅かに体を縮める。恋人云々から逸れた会話に少しホッとしているがいつ戻るか戦々恐々。この危機をどう切り抜けるかと、とこっそり思案した所で船上に警鐘が響き渡った。
全員がザッと鐘楼を振り仰ぐ。
敵船襲来を告げる鐘の音だった。
何故か小道具に渡されたパイプを弄びつつ、眼帯姿の仁科 皓一郎(
ja8777)は近づく私掠船を気だるげに見つめる。
(沖縄か…何年ぶりかねェ)
照りつく日差しはすでに夏の気配。照らされた船と濃い影が印象的だ。
「よーし、あいつらにしよ♪」
コンビの龍騎(
jb0719)は望遠鏡で獲物を捕捉。ニィ、と口元に笑みを刻んだ。
「対撃退士訓練だと思えば楽しいよな」
疑似刀を抜き放ち、赤い眼帯をした礼野 智美(
ja3600)は薄く笑む。腰に巻かれた赤いサッシュが風に靡いた。
「海賊っす!チョー頑張るっす!」
オシャレ眼帯を締め直し、あえて下っ端海賊服に身をつつんだニオ・ハスラー(
ja9093)は帆から垂れたロープを狙う。アーアアーで飛び乗る気満々だ!
「ねえねえ可愛くないコレ私似合ってない?」
「可愛いーよ! ね、写真写真!」
海賊姿のポラリス(
ja8467)と鴉女 絢(
jb2708)は互いの姿を写し合う。ポーズを決めた二人は確かに無茶苦茶愛らしい。
「海賊だから、ワルしなきゃね! あっちのデート邪魔しちゃおっか!」
「でも、海賊ってあれでしょ?お、覚えてろよー!ってやるやつ!」
なんか負けフラ早くも立ってませんか!?
一部壮大なフラグ立て乙な傍らで、チョコーレ・イトゥ(
jb2736)は悠然と周囲を観察している。
「ほぅ、このあたりの水面は、美しいな」
循環された水は淀むことなく透明さを保っている。遊園地の水辺としては驚くべきだろう。
「連中、徹底抗戦の構えか」
一際高い船尾楼の上でバッカニアのリーダー・柘榴明日(
jb5253)は仁王立ち。ちょっと服がブカッてしまっているのがやたらと愛らしい。
「海賊旗、変えていいんだよね?」
相手船上に輝く武器の煌めきに、錦織・長郎(
jb6057)は薄い笑みをはく。明日がサッと片手を上げた。
「赤旗を揚げな!」
「くっくっくっ、面白くしようね」
同時、大砲が一斉に私掠船へと照準を合わせた!
即座に動きに反応するのが私掠船側撃退士。
「あいつら大砲を打つつもりだな!危険だからあんた達は下がってくれ」
レガロの声に、観客達に動揺と緊張が走る。一瞬で武器を抜き放ち、皆を安全地に誘導する撃退士達の動きは俊敏そのもの。声と動きに臨場感が出るのは遊びでなく本物の戦場を潜り抜けた者ならではの迫真だ。
そこに大砲の轟音が響き渡る!
「来たぞ!」
「させない!」
風をきって飛来する砲弾を海のアウルによって作り出された槍が空中で撃破する。悲鳴と歓声が同時に湧き上がった。続く砲弾をレガロの見えざる弾丸が打ち砕く。
「! 船に向かっているぞ!」
軌道修正ミスか、砲弾の一つが船を直撃するコースをとっている。ギョッとする観客の前、雪花の迅雷が間一髪でそれを切り裂いた。
「あの者たちは返り討ちにしてくださいませ!大英帝国の繁栄のために!」
みずほの号令と共に船が独特の揺れに包まれる。大砲を撃ち返したのだ。
「やっこさん等、やり返しに来よったな!」
黒い海賊服の襟を立て、黒部 小太郎(
jb6093)はぺろりと唇を舐める。明日が片手をあげ、エナジーアローで砲弾を撃ちぬいた。
「大したことないねぇ!」
アトラクションとは思えない程の迫力。一般人の足がやや竦むも、
「うおー!しゃったーちゃんすだぞー!」
ルーガの声にハッとなった。飛び出すドレスの貴婦人にこそ続けないが、次々にシャッターがきられる。ルーガに至っては即座に実況サイトにアップロードだ!
【ぱいれーつおぶ】ド迫力海賊バトル生放送!【おきなわん】
即座にカウントが回った瞬間、画面いっぱいに炎が踊った。迎撃の弾を打ち砕いた龍騎のファイアワークスだ。
「…お前さん、派手だねェ」
その様に薄く笑みつつ、皓一郎は小天使の翼で船外へ。丁度飛来した砲弾を一閃で叩き切った。
すでに船は目の前。小太郎はキャプテンハットを被り直し、カットラスを抜いて天に向ける。
「突撃するで、遅れんなや!」
白兵戦が始まった。
●
ぶつかり合う船体が大きな軋み音を立てた。鍵付縄で固定された二つの船体を戦場に撃退士達が対峙する。
「行くよ皓一郎、背中はヨロシク」
「了解」
小太郎に続き、龍騎と皓一郎が乗り込んできた。
「戦闘開始、やねぇ」
千鶴の声に、神楽は玩具の銃を手に笑む。
「玩具で戦うのは初めてですね。まぁ、玩具でも狙いは外しませんけどね」
「ほな、よろしゅうです」
「いってきます」
「頑張れ!」
「行ってらっしゃい」
観客の護衛についた雅とアイリが笑顔で千鶴と神楽を見送る。その頭上に飛来する影。振り仰ぐ人々の頭上には翼持つ青の化身。
「鎹提督、凛々しいな!」
「チョコーレか!ここで会ったが百年目!お縄につくがいい!」
「先生、なにか違うものになってるわ」
雅の横でアイリが微笑む。
天魔を見るのが初めてな人々は、チョコーレの姿に喝采をあげた。二つのカットラスが激突し、間近に顔を見合わせてチョコーレはひそひそと問いかける。
「海賊はあとなにすればいいのだ?」
一般客を喜ばせたいが手段が少し心許ない。生徒の真剣な問いに切り結びつつ雅もひそひそ声で相談にのる。
「さぁ! この刀の錆びになりたいのは誰だ?」
その間に勢いよく私掠船に乗り込み、智美が高らかに声をあげた。
「お相手させてもらいます」
するりと刃を抜き放つのは雪花。見た目は「凛々しい美少年VS可憐な美少女」しかし実性別は男女逆である。
\ヤッハーっす!金目のものを頂戴するっす!あ!お菓子でもいいっすよー!/
突如上空から響いた声に顔を上げれば、ロープで敵船からターザンの如く乗り込んできたニオが空中で一回転! 見事な着地を決めて立つ。
「残念だけど、あげられる物は無さそうだ」
そこに迫る白刃に、ニオは側転して回避した。次の一撃を放ちつつ、レガロは微笑む。
「どうしてもというのなら、倒して行くんだな」
「望むところっすよ!」
不敵に笑い、ニオは右手にカットラス、左手にマスケット銃を構える。
対峙しあう二人の横で、千鶴は船の縁へと飛び乗った。
「おおっとぉ!」
鋭い一閃に小太郎が縁の上でバク転、その一撃を避ける。
「やすやすと乗り込ませる思わんといてな」
「は! 落ちるのはあんたのほうやで!」
小太郎の一撃の前、千鶴は自身の銃を後手で後方の神楽に放る。
「では、参ります」
受け取り、神楽が鋭く照準を合わせた。
緊迫の剣戟に観客の眼差しが熱い。
「いいぞー!こっち向けー(・∀・)!」
ルーガ先生の撮影も熱い。すでにタグには【Orzの本気】が発生している。
「要は襲ってきた連中を落としゃァ良いんだろ?」
次々に乗り込むバッカニアと向かい合う人々の傍ら、ジェイドは不敵な笑みを浮かべる。その手のカットラスがキラリと光った。
「一つ派手に大立ち回りでもやってやらァ」
声と同時、その長身が踊った。全力跳躍で向かうは敵船。相手船側の縁に降り立ったその姿に観客からどよめきと喝采が上がる。
その船の上、待ち受けるのはバッカニアのリーダー、明日!
「命知らずめ!」
「来な!」
乗り込むジェイドへ向け、明日は照準を合わせた!
この時、観客陣の近くでも戦闘が始まっていた。
「危ないのです!」
放たれた長郎の一撃をメリーが呼び出した盾で弾く。背に庇われ、志乃はわずかに頬を染めた。
「メリーさんとても格好良いの…!」
その声援を背にメリーはフェンシングのポーズで構える。
「悪いことをするのは駄目なのです!お兄ちゃんに言いつけるのですよ!」
メリーの心の中は九分九厘お兄ちゃんで占められている。大好きなお兄ちゃんがいてくれればとどれほど思ったことだろう。たぶん後ろに幻影が顕現するレベル。
各所で刃が交わされる。陽光に煌めく銀光。
「リア充びしょ濡れの刑だー!」
軽やかな声と同時にポラリスが乗り込んできた。無駄に高い視力で捕捉したターゲットは――真里&楓!
「きゃっ」
「へへー、お譲ちゃん可愛いね、私達と遊ばない?(きり」
同時、空から来襲した絢が咄嗟に楓を庇った真里の退路を塞ぐ。
「それ海賊?」
むしろ放たれた一言にキョトンしつつ、(ただの不良だよねぇ)と楓はしっかりと上空のパンツを見る。
「可愛いのには同意するけど渡せないな」
ポラリスと対峙する真里が静かに言い放つ。一瞬の緊迫感。しかしそこに新手が現れた!
「リュウの獲物だぞ、女はすっこんでろよ!」
なんと龍騎と皓一郎の獲物もこの二人。三つ巴な状況だ。
「俺に攫われてみねェ?」
からかう様に笑う皓一郎に、慌てて楓は真里の背にそっとしがみつく。
「彼女を狙うなら……俺も手加減はしないよ」
アウルを高め、真里は本気の構えに入る。
「どうなっても知らないよ?僕が本気出したら」
受け、龍騎もアウルを高めていく。
観客も思わずゴクリと唾を飲み込む。緊迫感が復活するものの、
「ちょっ……私達が先なんだからっ」
「うるせーパンツ見えてんぞバーカ!」
「ちょ、ちょっと見ないでよー!」
あっという間に瓦解である。
絢も赤くなってスカートを抑えるがすでに遅し。龍騎のカットラスはぱんちゅに照準ロックオン!
「やーね、あれは見せてるのよ」
な・なんだってぇ!?
しっかりちゃっかりガン見してるポラリスの言葉に周辺一同は愕然。
「も、もぅーっ」
真っ赤になって絢は逃げるように飛ぶ。銃の照準は次の標的である貴族の志乃!
「へへー、おじょうt(ry」
この時、船上で自身の銃の中身を知覚している者はほとんどいなかった。
これがどのような悲劇となるのかというと――
――とりあえずこうなる。
ぶりゅっ(効果音)
「「「「「えっ?」」」」」
丁度同時に引き金を引いた一同から声があがった。
「きゃあっ」「ひゃあんッ!」「うわっ!」「なに…!?」「ちょっ!確かに俺はクロコやけどその黒子とちゃう!」
銃の先にいた志乃、絢、楓を庇った真里、レガロ、小太郎の五名も思わず悲鳴。
その体にかかるのは係員が対黒子戦用にと補充してくれている白いでろりっち液。例え外見がマスケット銃型になろうとも、「黒子が所持する銃」以外はでろりっち液充填だったのだ。かろうじて通常の水鉄砲を持っているのは、二種類の銃をそれぞれ係員に詳細つきで申請したバッカニアリーダー・明日だけである。
そしてこの瞬間、ルーガのUPした動画にこのタグがつけられた。
【デロイ】←
閲覧カウント、回転ぎゅんぎゅんである。
しかしこれは超危険。なにしろ約一名、外側でなくぱんちゅにかかっている!
しかしよく見れば係員のミスで龍騎の銃だけ黒子専用所持銃と同じくただの水鉄砲であったもよう。あやうく画面が<しばらくお待ちください>になるところだった危機一髪!
「や……やぁ……湿ってる……」
危機去って無かった!
濡れた下着に涙目な絢のなんたる背徳感。けしからんけしからんルーガ先生向かってください!
「レディは守るものだぞー( ´∀`」
ルーガ先生、淑女でありました。
ちなみに絢、こっそり志乃にゴメンネのジェスチャーして
「お、おb(ry」
シパタタターッ。可憐に飛び去って行く。
「こ、こらー!」
ドレスが白いでろりっちな志乃はすでに【年齢制限】【どこにありますか?】状態だ。
ルーガの実況動画、現在24時間ランキング一位である。
大変なのが敵陣に一人乗り込んだジェイドと現在もニオに狙われ中のレガロだ。
「ほうれ、ほうれ!避けてみやがれ!」
通常水鉄砲持ちのリーダー・明日、二丁銃でジェイドを遠隔攻撃。一丁は通常水鉄砲(本来黒子側所持用専門)だがもう片方は<お察しください>。
「くっ……こいつは、喰らいたくねぇな!」
全くである。
「これは酷いですね……」
想定外な大参事にファティナが考え深い顔。
「まったくだ……が、この状態は……?」
その前、猫の子のように首根っこひっつかまえられて盾状態な仁刀がぽつり。
「どうかしましたか?」
「…………いや、なんでもない」
いつものツケがこんなところで発動中。仁刀、甘んじて受け入れ中である。
「こうしてはいられませんわっ」
我が物顔で船上を駆けるバッカニアに、みずほがハンカチを拳に巻く。今にも飛び出しそうな勢いだ。
その眼下では黒い海賊服に白いでろりっち液な小太郎が千鶴に怒りの反撃を開始したところ。
「この借り、返させてもらうわ!」
「くっ……!」
小太郎が右上から袈裟がけ、勢いのまま左手に持ち替え踏み込む。咄嗟に回避した千鶴の胴の在った位置を剣が薙いだ。勢いのまま一回転し、小太郎は踏込み鋭い突きを放つ!
「ああっ!!」
観客から悲鳴があがった。攻撃を避けた千鶴の体が船の上から落下したのだ。
思わず縁にかけより、彼等は見た、中空で綺麗な一回転の後、水上に降り立った女性の姿を。
水上歩行の術である。
そのまま壁走りで駆け戻る姿に、ルーガの動画でタグが発生。
【忍者】←
動画内鬼道忍軍解説ページ求む!
同じ頃、壁走りでメインマストに駆けあがる影があった。
「く!?」
壁走りによって避けられ、智美が軽く呻く(演技)。鮮やかな弧を描いて舞い降りた雪花に今度は智美が技を放つ。宙返りの後に急降下とともに放たれる痛烈な蹴撃――!
即座にタグ【ライダーきっく】が発生した。
「さァて…お歴々の方々、攫われてェのはいるかい…?」
完全に観客となっている一般人に向け、皓一郎が紳士的対応を使用しつつ声をかける。
「海賊、てのは美女に目がねェモンだろ?」
スキルではない魅力的な笑みに多くの女性が頬を染めた。
「……っと」
突如揺らいだ光景に皓一郎は顔を引き締める。陽炎を放った仁刀がその前に立ちはだかった。
「へぇ?やんの?」
新たな敵に龍騎がニィッと口に笑みを浮かべる。だが両者が新たな技を解き放つ前、緊迫した放送がポートエリアに響き渡った。
\Warning! Warning!!/
\只今エリアに黒子が発生!/
\各員は黒子の一斉攻撃を撃退せよ!/
その放送とほぼ同時、船上で警告があがる。
「敵船来襲!」
「海賊船発見! 黒子だ!」
アイリと海の声に全員がそちらを見る。
はためく海賊旗。帆に描かれた黒子の絵柄。第三の海賊――黒子海賊団の襲来だった。
●黒子襲来
「出たな、黒子共!」
パークイベント発生に色めき立つ観客の前、レガロが声を放つ。
「あー…無粋な客が来たねェ」
軽く髪をかきあげ、皓一郎は腰のサッシュに差していた銃を取り出した。
「銃、あんま使わねェが…まァ、何とかなっかよ」
「ボスがどっかにいるはずだよね。けど、数落とそうか」
バッカニアとプライベーティア、両者がそろってその標的を黒子へと切り替えた。戦場に現れた部外者は即時排除が鉄則だ。
「皓一郎、壁ヨロシク♪」
「壁?構わねェが、どうせなら踏み台、してやろうか」
無言のまま恐ろしい勢いで迫る海賊船に、ニオが大声を張り上げる。
\獲物を横取りしに来たんすかー!?/
答えは無い。だが、海賊旗が下ろされ、赤旗が翻った!
「勝負はここまでだ! 総員、黒子迎撃に入るぞ!」
明日の号令と同時、全員が銃を天に掲げた。まるでそれに抗うように轟音が響く。
「大砲!」
だが続いて響いた轟音が放たれた砲弾を空中で撃墜した。
「上手い!」
大砲を利用し、砲弾を相殺させたチョコーレが観客に一礼してみせる。船が密着するまでの間、砲撃戦となるのは海上の常だ。だが、怯える客は一人もいなかった。
新たに放たれた砲弾が、二つ纏めて空中で粉砕される。
「何発撃とうとも、当てさせはしないよ」
バッカニア戦同様、ヴァルキリージャベリンで船を守る海は完全に私掠船<S・マリア号>の守護者となっている。
弾をことごとく撃ち落とされた黒子海賊団の船が迫る。甲板の上にいる黒子は、パっと見るだけでもこちらの人員の倍以上。
「一般の方を巻き込むようなら、手加減は無用ですね」
鮮やかな銀髪を後ろに払い、ファティナは銃を取り出す。仁刀も銃に持ち直して立つ。
(ファティナの応戦の構え、か。なら、盾になるように動く…)
首根っこ\むんず(握り)/され、肉盾。
(…っていうまでもなく盾にされた!?)
これで迎撃準備は万全だ。
「こういう時に役に立たなくてどうするのですか」
さらりと言い放ちつつ、ファティナはぺろっと悪戯っぽく舌を覗かせる。これを拒否できる男がいれば見てみたいほどの愛らしさだ。
「決着はつけれなさそうやな」
「仕方ないな」
小太郎が銃を構え、頷いた千鶴が背後を振り返る。頷き、神楽がその傍らに立った。
圧倒的質量で黒子船が寄せてくる。船体が軋み、みずほが号令を放った。
「撃破を!」
瞬間、智美が縮地を解き放つ!
襲来前まで切り合いをしていた雪花に背を向け、一瞬で黒子の集団に躍りかかった。
「続く!」
一般人に水鉄砲を向けさせない為、千鶴が撹乱と隙作りを狙い密集地に飛び込む。
しかし黒子はこちらの倍以上。雪崩のように押し寄せる黒子達に観客も総立ちだ。
だが相手は一般人。撃退士達の敵ではない。
「あら…なにか酷い外見に…」
一瞬で銃を取り出し、一撃放ったアイリは相手の姿に淡く微苦笑。白いとろみ液がまた黒い体に目立つことこの上ない。
「被弾が分かりやすくていいわね……っ!?」
感心したところで、別の黒子が一般人に水鉄砲を向けているのに気づいた。咄嗟に庇い、あっという間にぬれねずみになる。
「びしょ濡れだわ…」
肌に張り付いた服のおかげで、自己主張の激しい胸がくっきりと現れた。
一般人を守る為、貴族達も銃を構える。
「ふふ、大人しく…は性に合わなくて」
自分にかかっていたでろりっちをペリペリぽいちょして志乃は微笑。その手に銃がキラリと輝く。一般人へと向けられた水を具現化させた盾で防ぎ、隙を見つけて反撃する。
「させないんだよっ」
別の一般人に照準を合わせた黒子に、楓もまた素早い一撃を放った。銃では無くスキル不動金縛である。動きの止まった相手に向けて、容赦なく顔面に白いでろりっち液をびしゃー。
「! 危ない!」
「ぁっ」
突然覆いかぶさるようにして壁ドンされ、楓は目を見開いた。動きの止まっていた所に集中して水鉄砲で狙われていたのだ。
「濡れてない?」
「平気ー。えへ、ありがと」
かわりに全濡れになった真里に、楓は半歩踏み出す。首にまわわされる腕。
――全ての攻撃を身を挺して庇ってくれる大切な人。
触れた柔らかさを、彼は一生忘れないだろう。
圧倒的な射撃で黒子達が瞬く間に白子和えになっていく。
黒業を纏う神楽の前にあっては、明らかに回避不可能なレベルの精密射撃で射抜かれていた。
一方、黒子達の射撃はなかなか撃退士を捉えない。雪花の分身の術に翻弄され、メリーのタウントに強制的に惹きつけられ、彼等のペースは乱されまくった。
(お兄ちゃんの海賊姿がみたかったのです…)
彼女の心の中には常に兄がいるようだ。
「おっと」
混戦地から抜け出し、客に向かって放たれた水を海がシールドで防ぎ、水鉄砲でカウンターの如く射ち放つ。庇われた子供の笑顔に微笑み返し、ふと表情を引き締めた。一斉に黒子が雪崩れてきたのだ。
客側から悲鳴とも歓声ともつかない声があがる。
だが、それよりも上空からの迎撃が早い!
「これが真の海賊無双だー!」
絢だ。上空から銃を放つ。飛び散るでろりっちが雨の如く黒子達に降り注いだ!
「やっはー!無双だー!」
船上のポラリスも段差のある背中合わせ的に逆側を射撃。しかし上空からもれなくでろりっちが降ってきた。
「こらーっ!」
なんということでしょう。TAKUMI(絢)の手によって、ポラリスが大変けしからん姿に生まれ変わりました。
「しかし、これは…当てづらいな」
同じく上空から迎撃していたチョコーレが、とろみのある液に困り顔。確かに黒子の被弾は分かりやすいが、上空から見ると闘ってる面々も一部でろりっち塗れで酷い有様なのがよく分かった。
(生クリームを被ったよう…だな)
大人数が闘うには狭い戦場だから仕方がない。むしろエリア的には確信犯な状況だ。
(これも仕事。…覚悟してもらおう)
チョコーレは集中して迎撃を再開する。
その時、声が上がった。
「ボス黒子捕捉!」
海の声だ。全員の目がギラリと光った。全エリアを駆け抜ける特別ボーナスキャラ。それがボス黒子!
「狙え!」
連撃で雑魚を担当しつつ龍騎が叫ぶ。集中して放たれるでろりっち銃。
\おまえがボスっすかー?!その首もらうっすー!/
「覚悟しな!」
各所から放たれたでろりっち液が宙を舞い、バッカニアの幾人かが犠牲になった(黒子に非ず)。
「流石はボス、といったところですか」
しかし神楽のでろりっち液は明らかに避けれなかった。顔面にくらい、ほぼ目潰しになったところにアイリ達の銃が殺到する。
戦場を荒らされた明日が二丁銃を構えた。
「この海の上は私達の砦同然…勝手は許されねぇんだよ!」
リーダーの怒りの一撃。わずか十秒で二十を超すでろりっちに襲撃されたボス黒子、あっという間にヌレヌレな白子となって駆け去った。この間、わずか三分。どうあがいてもパーク最短記録だ。
彼の心に深い傷が出来ていないかどうかは不明である。
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「勝鬨をあげろーっ!」
明日の声にあわせ、バッカニア、プライベーティア、貴族、観客が一斉に勝鬨をあげる。
すでに黒子船は遥か彼方。出現と同じく瞬く間に去るその姿は軍隊なみに素早い。
(訓練されてるわねぇ……)
身を挺して庇い続けた結果、全濡れなアイリが怒りのままに黒子からはぎとった黒ズボンを畳みつつおっとりと見送る。
普段おとなしい人を怒らせてはいけない。これはみんなのおやくそく。
「縄を外せ! 凱旋するぞ!」
おりしもゴールである岸部が見え始めた頃。それに歓声をあげる人、互いの健闘を讃えあう人、撃退士達をカメラに収める一般人とごったがえす中、濡れ透けな自分や白いでろりっち濡れな自分にパーク名物Orzが誕生。その手には元凶たる銃が握られている。
「おー。すごいことになってるぞー( ´∀`)」
そんな中、ルーガはアップした動画の結果に嫣然と微笑んだ。熾烈なタグ争いも発生したという【ぱいれーつおぶ(ry)】は当日の新着ランキング1位。
わずか二十分の遊覧中、久遠ヶ原撃退士のタグロックとともに書かれた最後のタグは【クインティプル・ミリオン達成】。
その達成時間記録は、しばし真偽の物議をかもしながらも、今も伝説として語り継がれている。