ラブリーパークリプレイ
Act1・執事とメイドと食べ放題
●
パーク1階のカフェは、中世ヨーロッパをモチーフに作り込まれていた。
猫足のチェアにテーブル。そして壁際にはカウンター。
ずらりと並ぶガラスドームの中には、色とりどりのケーキがお行儀よく並んで、客が来るのを待っているのだ。
「ふわー……飲食店のバイトって聞いてたんだけど、私の知ってる飲食店と全然違う」
実家は飲食店、接客なら楽勝! そんな理屈で依頼に参加した天王寺茜(
ja1209)は、想像と違いすぎる佇まいに目眩を感じていた。
鏡の前で貸与されたユニフォーム──本格的なメイド服──を広げた時点から、未知の世界に来た感はしていたのだが。
「そう堅く考えず時間制で交代しながらやったらどうだ? ずっと仕事と言うのもつまらねえだろうし、息抜きも必要だろう」
食べ放題スタートまではあと30分ほど。神楽坂 紫苑(
ja0526)は開店前の準備に気を配りつつも、茜を気遣う余裕っぷりだ。
その他の接客担当たちは、従業員更衣室でお着替えの真っ最中。殆どの者が「はじめてのメイド&執事体験」である。
照れくさげに袖を通した者の反応は、概ね二つに分かれていた。すなわち
「かっちりした服もたまにはいいな。格好いい、これはいいもの……」
「‥‥ん、たまにはこういうのもアリ、かな」
鏡の前でポーズを取る青空・アルベール(
ja0732)やユウ(
ja0591)達の「まんざらでもない組」と、
「可愛い制服ですけど、私には似合わない気がするのですが……」
「しかし仕事とは言え、この服装は…」
雫(
ja1894)、ユリウス・ヴィッテルスバッハ(
ja4941)らの「どうにも居心地悪そうな組」である。傍から見るととてもよく似合っているのだが、本人の認知は別モノらしい。
「そろそろ時間だよ。参加してる学園の皆が楽しめるようにしたいね」
女生徒ながら執事服に身を包んだ桐原 雅(
ja1822)が時計を見上げ、オープンが近いことを告げる。
雅の思いはただひとつ、影のごとく静かに淀みなく執事の鏡を目指すことだ。
「……紅茶を葉で淹れた経験は無かったりするんだけど、大丈夫だよね」
だ、大丈夫だ! ──多分。
「ラブリー☆ホワイトパーク☆カフェ、只今オープンでございます」
マイクを通した支配人の声が、館内に響いた。
●
「レナ(
ja5022)ちゃん、こっち!」
カフェに一番乗りしたのは、緋伝 瀬兎(
ja0009)。
「はい瀬兎さん! ケーキいっぱい食べれるのだ! サクランボのケーキあるかウキウキなのだ〜!!」
その後ろにぴったり着くレナは、好物のケーキを憧れのジャパニーズ忍者と一緒に楽しめるとあって、目を輝かせている。
「よし、まずはひと通り味見しなくちゃね」
「チェリーパイとかサクランボなケーキ、食べてみたいのだ。成長しないといけないからいっぱい食べるのだ」
忍者志望の少女は、握りこぶしを作って胸を張る。忍び装束の胸元から覗くたわわな胸がぶるるんと揺れた。
「あたしはまずこの苺ショートと洋梨のタルトとパイに挑戦だっ」
「戦利品」を携えた瀬兎とレナを待っていたのは、キュートな執事、犬乃 さんぽ(
ja1272)だった。金髪をシニヨンにまとめ、黒いジャケットを着こなした男装の美少女……と見紛う少年である。
(よし、ここはお嬢さんたちに教えてもらった日本語の挨拶を……)
緊張を飲み込み、とびきりのスマイルを浮かべるさんぽ。
「いらっしゃい、子猫ちゃん。ニンジャの耳で注文を聞き分けて、美味しい紅茶とケーキを君にプリーズするよ♪」
誰だ、この子に間違った挨拶教えたの誰だーーっ!!
「ここにもニンジャなのだ! レナちゃんかっこいいお姉さんとかわいいクノイチとご一緒できてマジ幸せなのだ!」
「クノイチ? ボク、男だよぉ……ちゃんと執事の格好なのに」
いや問題はそこじゃないだろう。
瀬兎さん何か言ってくださいよ、正統派忍者の末裔として。
「ん? 他所の家ではありなのかも。それよりこの苺ショート……!」
もぐもぐと口を動かしながら、瀬兎は手帳に何かを書き記していた。
さすが忍者、食べただけで材料の調合がわかるのか……と思いきや。
「『基本である苺ショートはクリームと苺、スポンジのバランスが絶妙。職人の丁寧な仕事が光る…』と……」
どう見てもグルメメモです。本当にありがとうございました。
●
カフェの中に、ゴムウエストのジャージにゴム底靴の女子が一人。女子を捨てし強者の名は大谷 知夏(
ja0041)。
「ふっふっふー♪ 食べるっすよ! 超食べるっすよ!」
雰囲気を楽しむなど眼中外。ひたすら甘いモノを食べることを選んだ両手には、ケーキが無造作に積み上げられた銀のトレイ。もはや甘味に取り憑かれた修羅である。
「いっただきまーすですよー!!」
修羅……もとい知夏がまず頬張ったのはシュークリーム。もちろん豪快に手づかみだ。
「例え、後日体重が大変な事になっても、食べ続けるっすよ!」
返す左手で掴んだのは、金色のアルミに包まれたモンブラン。てっぺんの栗ごとマロンクリームを、がぶりと行ったァァァーッ!
「五臓六腑に染み渡る糖分! 最高っすよ♪ あっと執事さん!紅茶お願いするっすよ!ミ ルクとお砂糖たっぷりで、甘々なのっす!」
「はーいっ」
呼び止められたアルベールは、紅茶を淹れて知夏のテーブルに置いた。
「ありがとっす!」
知夏の食べっぷりを、見習い執事は羨望をこめてまなざす。
(あああ、シュークリーム美味しそうだなぁ……)
やっぱり接客じゃなく、お客さんにすればよかったかな? そんなことを考えながら。
(今日家に帰ったら、何か作ってみようかな)
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ミルフィーユ、チーズケーキ、チョコバナナパイ、それから、それから。
数えきれないスイーツを囲み、お喋りを繰り広げるのは与那覇 アリサ(
ja0057)と紅葉 虎葵(
ja0059)。
「美味しいものが食べ放題はハッピーなんだぞー♪ トキのさくらムース一口もらいっ♪」
「ん〜、美味しい。このトルテもほっぺがとろけそうだよ〜」
ふたりは高等部1年1組のクラスメイト同士、話題には事欠かないのも道理だ。
パークを風評被害から救うという趣旨は忘れているかもしれないが、楽しんで参加してこそ、ナンボである。
「あ、影野みっけー! 今日はいつもと雰囲気が違うぞー!」
アリサが傍を通った執事……2人と同じ1年1組の影野 恭弥(
ja0018)……にぶんぶんと手を振る。
「よ」
恭弥は頷くと、空いていた2人のカップに紅茶を注ぎ、ついと離れていった。
びっくりするほどの無愛想ぶりだが、彼をそれなりに知っているアリサは驚きもしない。
「お腹に余裕があるようでしたらお代わり、如何ですか?」
虎葵の皿が空いた頃を見計らって、雅が穏やかに声をかけた。手にはフルーツケーキを携えて。
「もちろん食べるよ! 大丈夫大丈夫、僕の胃袋はこれくらいじゃ平気平気!」
美少年執事は元気に答える虎葵の皿にケーキを乗せ生クリームも添える。
(楽しんでくれてるようで、よかった)
穏やかな笑みが、あたりの雰囲気を和ませていた。
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中世ヨーロッパの貴婦人たちは腰をコルセットで締め上げ、胸を強調したシルエットで茶会に臨んだ史実があるが。
「カロリー? 確かに脂肪は増えていますが……」
コルセットで締めあげなくとも、アーレイ・バーグ(
ja0276)の豊かな胸は十分にたゆんたゆんしていた。
「ほわゎぁ……この甘い香り……天国ですね♪」
向かいに座る柴島 華桜璃(
ja0797)のいでたちも、フリフリのワンピースでこれまた貴族のお嬢様風。
カフェの一角だけ、まるで映画の撮影でも行なっているように見えた。……うず高く積まれた、山盛りのケーキさえなければ。
「食べ放題のお店で出入り禁止になっていないこの幸せ……10kgは食べますよ!」
「10kg!? はうぅっ、な、何て恐ろしい胃袋なんでしょう」
「あら、華桜璃さんは小食ですね?」
「え?」
流れるようにケーキを平らげるアーレイに、戦慄を覚える華桜璃であった。
「お嬢様方にお飲み物、お持ちしましたよ」
絶妙のタイミングで、紫苑が新しい紅茶をサーブする。
接客に慣れた彼だから出来る、丁寧かつ素早い所作、品のある微笑み。
「あぁ…幸せですぅ〜」
ケーキに合う芳醇な香りに、美少女達は幸せを、確かに感じていた。
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「目指せ全種制覇、かな」
黒い髪と瞳、おっとりした雰囲気の青柳 翼(
ja4246)。
「ケーキ……いっぱいなの」
おさげの銀髪と小柄な体型、仕草のすべてが小動物チックな若菜 白兎(
ja2109)。
そして
「くくく…ケーキ食べ放題か、騎士の血が騒ぐぞ!」
明らかに雰囲気が異質な非モテ騎士、ラグナ・グラウシード(
ja3538)。
「いらっしゃいませー♪ お席にご案内しまーす」
今回の依頼に一人で参加した翼が、同じく一人っぽい白兎とラグナに声をかけたことから(そして茜がにこやかに案内したことから)3人は同じテーブルを囲んでいた。
「好きなだけ食べていい、となれば、これはもう全力を尽くすしかない!」
ナニかを熱く滾らせつつ、ラグナはケーキを主君の仇のごとく喰らう。
他方翼はあくまで穏やかで、
「……テーブルが高くて、自分じゃ取りづらいの」
「ん、どれが欲しい?」
「あの、苺ののったケーキが食べたいの。……わあ、ありがとなの」
「どういたしまして」
初対面の小さなレディを優しくエスコートしつつ、自分好みのケーキをいくつか皿に取るのだった。
「ケーキ、皆、おいしいの」
「うん、今度は寮のみんなと来たいな、あの娘も喜ぶだろうし」
「『あの娘』だとおっ!?」
翼の独白とが、非モテ騎士の逆鱗に触れる。だが翼はそんなこと知ったこっちゃなく
「うん、今日は僕一人だけどね。ここは彼女と来るにはぴったりのところだよな」
「かの、じょ?」
可愛く首を傾げる白兎と、血の涙を流しそうなラグナ。
確かにラグナの脳裏にも浮かんでいた。「ここはデートにぴったりの場所だ」というよからぬ考えが。
だが己の口からは死んでも言いたくないと思っていたのに、いたのに!!
一触即発(?)の空気を和ませたのは、ユリウスだった。
「お待たせしました……だ。これで良かったか…?」
白兎のホットミルクとラグナのアールグレイを持ってきてくれたのだ。
有名貴族の生まれのせいか、ユリウスの身のこなしは気品があり洗練されている。最初気乗りしなかった執事服も、随分慣れたようだ。
「熱いから気をつけて飲むようにな」
もっとも口調は接客向けではなかったが、白兎は頓着する様子もない。
「両方のおててで持って、ふぅふぅするの」
「……くっ」
可愛らしい白兎の向かいで、ラグナはアールグレイに山盛りの砂糖を入れる。
頑張れ非モテ騎士! 負けるな非モテ騎士!
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「ザッハトルテとダージリンティーをお願いします」
窓際の2人席に1人で座った新名 明日美(
ja0222)は、執事を見上げて静かに唇を動かした。
ワイシャツのボタンを外し、少しばかり着崩した格好の恭弥が短くオーダーを復唱し
「『かしこまりました』と」
最後に、とってつける。
明日美の表情に、笑みはなかった。
故に恭弥も彼女が「食べ放題を楽しみに来た」のでないことには気づいたが、根掘り葉掘り訊くほど野暮ではなかった。
そう、ただ淡々と仕事をこなすのみ。
紅茶を丁寧に淹れ、ザッハトルテに泡立てたクリームとを添える。粉糖を振ったらトレイに乗せて、紅茶と一緒に、テーブルまで。
「『お待たせしました』」
カップにダージリンを注ぐと、フレッシュな香りが湯気と共に立ち上った。
「ありがとう」
明日美はフォークでザッハトルテを切り分け、口に運ぶ。
「美味しい、です。甘い物は、心を、ほぐしてくれます……ね」
その瞳には憂いがいっぱいにたたえられていたけれど、それでも彼女は、確かに笑えたのだ。
「ごゆっくり」
恭弥はひょいと頭を下げ、その場から離れた。
明日美の時間と空間─憂いも含め──は、明日美のものだ。彼はそれを弁えていたから。
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黒いジャケットとベスト、真っ白なシャツにリボンタイ。
(ああ……やっぱりイイッ……!)
憧れの執事服を纏った七種 戒(
ja1267)は、カフェの裏方でこっそりと感動に浸っていた。長い黒髪を後ろで束ねた細面の美青年に見えるが、れっきとしたおなごである。
メイド服を勧める支配人にダダをこね……もとい、頼み込んで得た執事の座。「お嬢様方」に良いところを見せるため、立ち居振る舞いも完璧だ。
「お姉さま、可笑しくないですか……?」
袖を引かれ振り返ると、そこにはメイド服に身を包んだ雫(
ja1894)。エプロンドレスの裾をぎゅっと握ってもじもじしている様が愛らしい。
「ああん子猫ちゃん、頬を薔薇色に染めて恥じらうなんてっ」
褒め殺しトーク半分、本音半分。戒は星やら花びらやらを散らす勢いでまくしたて、雫をハグハグした。
おーい、仕事は? 報告官がツッコミかけたまさにその時。
「ケーキ、ケーキ、美味しいケーキ! セブのとどっちが美味しいかな?」
鈴を転がすが如く声がした。
見るとそこにはNicolas huit(
ja2921)の姿があるではないか。白を基調にしたフェミニンないでたちは、砂糖細工のお人形のようだ。
「いっ、いらっしゃいませ、お嬢様」
いちはやく一礼し、お出迎えに赴いたのは雫。しかし出遅れた戒とて負けてはいない。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お寒かったでしょう、ささっ」
ダンスのような仕草で手を取り、テーブルまでエスコート。すぐさまポットの紅茶とケーキを席まで届けて、名執事ぶりのアピールもこなす。
「あ、カイ! とってもよく似合ってるよ。もちろんこちらのメイドさんもね」
ニコラはお花のように微笑み、優雅な手つきでケーキを口に運ぶ。
「美味しい! 甘くて、ふわふわで、とけちゃうみたいで……とっても幸せ!」
ふにゃんと蕩けるような極上の笑顔に、雫が安堵の息をついた。一方戒は目を潤ませているが……?
「ふふ、そのように目を輝かせて……少し、妬いてしまいそうです」
しかし涙はすぐさま、嫉妬から歓喜に変わることとなる。
何故なら
「ね、ね! これすっごく美味しい! カイにもあげるね!」
ニコラ自らが、ケーキを戒に「あーん」したのだから。
(執事人生に一遍の悔いなしッ……!)
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カフェの奥手、半個室的なスペースに【青薔薇】の面々は腰を下ろしていた。
「お友達同士ゆっくりと」という支配人からの心づかいである。
「美味しいケーキが食べ放題、……とは夢のようですが、際限なく食べても迷惑になりますからね」
斐川幽夜(
ja1965)がついと振り返り、ローズティのポットを携えた執事に問う。
テーブルに飾りつけたのと同じ青薔薇を胸に挿した黒葛 琉(
ja3453)は、呆れた表情を浮かべながら答えた。
「どんだけでも食べていいぞ」
つーか、どんだけ食うつもりよ。その一言は、ごくんと飲み込む。
「やったあ! こんな美味しい企画、折角ですものね! 甘い物は別腹って言いますし!」
雪成 藤花(
ja0292)の笑顔が弾けた。皿を持ち、音を立てて椅子から立ち上がる。お目当ては勿論、ケーキだ。
幽夜、それに桐生 直哉(
ja3043)も一緒にカウンターへと足を伸ばした。
果たして数分後。
「また全力で取ってきたな」
琉が引いてしまう程の量……具体的に言うならば銘々大きなトレイに山盛りのケーキと共に帰ってくる3人。
「バレンタインなので、ガトーショコラを中心に攻めてみました」
藤花が微笑めばその横で
「自重したのですが、やはり足りないようですね。あ、そちらの薔薇の方、ケーキのお代わりをお願いできますか」
幽夜はしれっと琉をパシリに使おうとする。
「便利に使うんじゃねえよ」
文句言いつつも「お嬢様」の我儘を聞いてあげるあたりが、良い執事な琉。
「とっとちゃん、持ってきすぎだと思ったけど……ここのケーキ美味いからいけちゃいそうだな。ってか、食ってるなーみんな」
ケーキの山に圧倒されていた直哉も、もぐもぐと口を動かすのに余念がなかった。5つほど平らげた所で、口の中の水分がなくなっていることに気づく。
「ユウ(
ja0591)、アッサムをストレートでー」
テーブルの傍でメイドとして控える少女に、美味しい紅茶をオーダー。ユウは頷き一旦キッチンに消え、ポットを持って戻ってきた。
カップに注がれたのは、バナナの香りを纏ったミルクティー。
「こちら、バナナオレティになります」
「えっ、アッサムのストレー……」
「こちら、バナナオレティになります」
わかんないんだから小難しい事言うな。笑顔にメッセージを乗せ、ずずいっとバナナオレティを差し出すユウ。
「ってかミルクの代わりにバナナオレ……しきみ、これどう思うー」
アッサムに少しばかりの未練?を残す直哉は、隣に座る鬼燈 しきみ(
ja3040)に声をかける。
「ン?」
猫系少女は気づいてはくれたが
「おー。ケーキーケーキーおいしいねーすごいねー」
ケーキをもきもきと咀嚼するのを、中断しようとはしなかった。他人の飲み物より自分のケーキである。
しきみの皿にはモンブランと、抹茶スポンジで小豆を巻いた和風ロールケーキ。生クリーム控えめがお好みのご様子。
「おー、くりりんだー。なにしてるのー? 撮影?」
と、新たにかぼちゃタルトに手を伸ばしたしきみの目が、栗原 ひなこ(
ja3001)のをとらえたぞ?
「あ、しきみちゃーん」
動画班として参加中のひなこは、肩にかついだカメラをぐるんと【青薔薇】テーブルに向ける。
「すっごいケーキの量だねっ」
「くりりん食べないのー? 食べ放題だよ?」
「それは……」
今は撮影中だし。一瞬葛藤するひなこ。
だが、理性で目の前の食べ放題スイーツに抗えるものだろうか。いや、抗えない(反語)。
「しきみちゃん、あーんしてっ」
「いいよ〜 くりりんにはボクが食べさせてあげる」
しきみの指がケーキをつまみ、ひなこの口にぽいっと放り込む。インカムの送話口を少しずらしてモグモグし、ごっくん!
「お……思わず食べたくなる美味しさでした〜」
ラストカットは可愛くごまかし、無事に撮影終了である。
Act2・中庭にて
●
パークの中庭は、煉瓦が敷き詰められたガーデンだった。
後2ヶ月もすれば季節は春、花壇にはバラや草花が咲き乱れ、訪れる者たちの目を楽しませるのだろう。
晩冬のこの時期、花を愛でるには少し早く。代わりに咲くのは、光の花。
冬だけのお楽しみ、イルミネーションだ。
小雪舞うベンチに、人影が2つ。
「綺麗だねー、ロマンティックだねー。来てよかったー」
大崎優希(
ja3762)は白い息を吐きながら、隣に座る鳳 静矢(
ja3856)を見上げて微笑んだ。
夕暮れ時の中庭は寒いけれど、腕を取ってぴったり寄り添っているから、彼女は平気だった。
それでも静矢は着ていたジャケットを脱ぎ、恋人の肩にかけてやる。
「寒いだろう、これを掛けておくと良い」
「え、でも静矢さんが風邪ひいちゃ……」
「いいから」
「静矢さん……」
照れたのか静矢の腕の中でじっと動かない優希。白い頬が紅くなっているのは、寒さのせいではないだろう。
ぎゅ、と静矢の腕に力が込められた、気がした。
「優希、動くなよ?」
「?」
恋人の問いには答えず、男は少女肩を抱き寄せる。
己の唇で触れた優希のそれは、外気のせいでひんやりしていた。
柔らかく甘やかな感触。
「びっくりしたかな? ふふふ…」
離れると少女は目を伏せ、
「……あったかいコーンスープ、飲む?」
照れ隠しのように銀色の水筒を取り出した。
●
愛を育む二人から、植え込みを隔てて反対側。
一つのベンチに一定の距離を置いて座った黒百合(
ja0422)と久遠 仁刀(
ja2464)は、ぽつぽつと会話を交わしていた。ふたりとも面識はなかったが、同じ撃退士同士、パークを救わんとする志を共にする者である。
「これも天魔の爪痕なのかね。半分は人間の仕業って気がするが……」
完璧に手入れされたイルミネーションを眺めつつ、仁刀は息を付いた。
「いや、天魔の爪痕なら祓うのが撃退士、か」
天魔そのものを倒して終わりではない、人の心に射した闇までを拭い去る必要性を感じながら。
「人間の信用ほど取り戻すのに面倒な物は無いわよねぇ……」
黒百合も概ね同意のようだ。
ふと思いついたように、脇を見る。膝の横にはカフェから運んできた珈琲のポットとカップがふたつ、それにクッキーの盛り合わせ。
「まぁ、たまにはこんなゆっくり出来る依頼も良いかもねぇ」
珈琲はふたつのカップに注いでも、まだポットに余った。
「美味しいと噂のお菓子でも摘みましょうか」
カップの一つを仁刀に差し出し、クッキーを摘む黒百合。
「ロマンチックな夕暮れ時、一人で見るのも悪くはないか……夕焼け眺めて黄昏……失恋の傷心客とか増えなきゃいいが」
赤髪の大学生は珈琲を受け取り、口に含む。
苦味が冷えた身体を温めて、胃に落ちていった。
Act3・手作りスイーツのお味は如何?
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お菓子作り体験の会場となる「ゲスト用キッチン」は、女の子の夢をそのまま形にした佇まいだった。
真っ白なタイルを貼った調理台に、ホウロウの流し台。もちろん水栓まわりも真鍮と陶器のハンドルだ。
もちろんクッキーの抜き型も様々なものが取り揃えられている。定番のハート型、猫、小鳥、花々等々。
ここに作り手のイマジネーションが加われば、それは美味しいスイーツが出来るはずだ。
「ホワイトパーク、一度来てみたかったんです……♪」
濃茶と白のエプロンドレス姿の伊那 璃音(
ja0686)は、周囲を見回し楽しげに微笑んでいた。
フリルエプロンのポケットには、白猫のアップリケ。まるでアンティーク絵本から抜け出てきたようだ。
「お友達とか、いつか素敵な人ができた時のために……今日は予行演習、かな」
クッキー型をつまみ上げ、いくつかを選ぶ。
「さあ、じゃんじゃか作っちゃおうか〜♪」
一方、雀原 麦子(
ja1553)は今回もノンアルコールビール片手の参加だ。
酔ってはいないはずなのに既にご機嫌、楽しそうである。
「では皆さん、生地を配りま〜す」
木村良大(jz0015)がテーブルを回り、参加者達にボウルを手渡した。中には「バニラ」「チョコレート」のクッキー生地がひとかたまりずつ鎮座している。
「よし、始めよう〜」
麦子が缶を置き、打ち粉を敷いたボードの上に生地を乗せる。
「バレンタイン直前‥‥腕が鳴るわね」
桃色の盛り髪をまとめた光藤 姫乃(
ja5394)も、生地に麺棒をあてがい体重をかけ、瞬く間に均一な厚さに伸ばしてゆく。
一朝一夕には出来ない、高い女子力を示す巧の技だ。いや、身長2m超えのオカマだが。調理台低すぎて、腰曲がってるが。
「はい♪ 一杯一杯愛情込めるのです…!」
一方、姫乃の所作を見つめるライム・アンティー(
ja4676)はお菓子作り初心者。
「ライムちゃんは少し自信が無いみたいだからサポートするわね、楽しんで作りましょ。お料理はね、愛情さえこもってれば何だって美味しくなるものよ」
微笑むオカマの言葉に、13歳は首を傾げる。
「愛情、愛、あい?? ど、どういうものでしょうか?」
言葉の響きに照れながらも、本質を知るのはまだまだ先のようだ。
「レイン様は、わかります?」
「ぶっ」
特別な感情を抱く少女に無茶ぶりされ、レイン・レワール(
ja5355)は生地に顔を突っ込みかける。
「そ、そんなことよりクッキーに集中です! お菓子作りをなめてはいけません!」
それにしても、赤毛の優男と金髪の美少女と2m超えのオカ(ry が並んで仲良くクッキー種をこねる姿はなかなか壮観だ。
レインもお菓子作りには心得があるらしく、彼のサポートで
「わぁ、すごいのです」
生地伸ばしで悪戦苦闘するライムは、笑顔の花を咲かせた。
「さ、型を抜いていきましょ。可愛いのがたくさんあるわよ」
姫乃が手を伸ばし、抜き型の沢山入ったかごを取る。
「これ、借りていいですか?」
「勿論よ、仲良く使いましょ」
プラチナ色の髪をアップにした望月 忍(
ja3942)も、かごから動物の抜き型を選んだ。
「小鳥さん〜♪ 猫さん〜♪ かわいい型で美味しいクッキーを作るのね〜♪」
小鳥はからだをバニラに、羽の部分はココアで。猫はベースがココアで、口の周りがバニラのハチワレだ。
「猫ちゃん、美味しく焼けるといいな」
璃音も2種類の生地を猫型で抜いてゆく。天板の上に可愛らしい猫がたくさん並んだ。
「上手くできるといいんですけど……」
不安半分、期待半分な璃音に、桜宮 有栖(
ja4490)は柔らかな笑顔を向ける。彼女の手元の生地は、食紅でほんのりと桜色に染まっていた。
「誰かのために作るのは、いつ以来だったかな……? 」
形は春を告げる花びら。どこか「和」の趣をも感じさせるクッキー、焼き上がりは如何様になるだろうか?
そんな有栖の向かい側には麦子。天板には、牛柄のハートクッキーにチェック柄のクッキー、さらには大好きな缶ビール型クッキー。
そして姫乃、ライム、レインの天板にはバラをあしらった繊細なハート型、手ごねワイルドハート型、優等生的なシンプルなハート型が並んでいた。どれが誰の手によるものかは、察してあげてください。
それぞれのクッキーが並んだ天板を、良大がオーブンに入れる。
「さ、焼きあがるまでパーク内を散策しておいでよ!」
●
さて時は30分ほど遡って、クッキー作り体験が始まった頃。
「当パークのケーキ体験は、かなり本格的ですよ」
クッキー班と廊下を隔てたキッチンで、調理服に身を包んだ支配人は自信を覗かせていた。
なるほどその言葉通り。
つややかなケーキミックス、新鮮な卵。そして生クリーム、さらにはバニラビーンズ──。
調理台に並ぶのは素人目にも拘りが伺える、厳選素材ばかりだ。
「これは本格的だ。全く落ち度がないのに天魔のせいでさびれていくというのは勿体ないことですね。楽しむことが助けになるなら、お言葉に甘えるとしましょう」
「ああ、風評被害……か、情報という物は本当に怖い物だな。人の心理という物は切欠さえあれば、容易く傾く物だしね」
支配人の言葉と目の前の材料に、神月 熾弦(
ja0358)と天風 静流(
ja0373)が揃って頷く。2人が作るのは、バレンタインディにぴったりのチョコレートケーキ。
「家族に贈るぐらいですが……やっぱりチョコですよね」
「ザッハトルテでも……と思っているのだが」
それぞれケーキミックスにココアを混ぜ、粉ふるいで振るう。周囲に甘い香りがふんわりと漂い始めた。
鳥海 月花(
ja1538)とアトリアーナ(
ja1403)が目指すのは、いささか個性的なケーキのようだ。
「何作ってんす?」
カメラを担ぐ撮影担当、柏木 丞(
ja3236)に、月花がボウルの中身と型を示す。
「まぁ、楽しんでいきましょう。こちらはロールケーキ、カップはフォンダンショコラです」
ボウルの中にはチョコレート色の生地。
「うおぉ、既に美味そうっすね」
焼きあがった頃にもう一度来よう。心に刻む丞であった。
「……栗は濃い目。……栗は至高、なの」
一方、呪文のように唱えながら、アトリアーナは黙々と淡々と栗を裏ごしている。既にボウルの中には、裏ごし栗が山盛りだ。
「……練る、の。……弱火で、なめらかに、なの」
「コレ、モンブランっすか?」
「……お楽しみ、なの」
丞の見立ては、はたして正解か、ハズレか? 答えはCMのあと……じゃなくて数千字あと!
と、そこに。
「あ、月花さーん! 作り方教えてもらっていいかな?」
右手にメレンゲの入ったボウル、左手に粉を乗せた紙を持った七海 マナ(
ja3521)がやってきた。
ケーキ作りということで、金髪を高い位置で一つにまとめた様は儚げな美少女。しかしその実、海賊の血を引く少年である。
「これ、どうやって混ぜたらいいんだろ? 適当に混ぜればいいのかな?」
月花は自分のチョコ生地を台に置いた。代わってマナのメレンゲに向き直る。
「メレンゲは泡を潰さないのがポイントです。底から切るようにね」
ぎこちなくゴムべらを使うマナに手を添え、混ぜ方をレクチャー。
「わあ、ふわっふわ!」
見事粉を抱き込んだケーキ生地が出来上がった。
「ありがとう。月花さんのおかげでちゃんと作れたよー!」
とはいえ、そんなマナより初心者っぽい者もいたりする。そう
「ねえ、これで焼いてもいいんだよね」
「爆発したりはしない……はず」
武田 美月(
ja4394)とエルレーン・バルハザード(
ja0889)の2人だ。
美月が挑むのは、シンプルなチョコスポンジケーキ、エルレーンが作っているのはチョコチップ入りのケーキ。
いずれも「焼きっぱなし」で失敗しないレシピだが、お菓子作り初心者が不安と期待を抱くのも無理は無いことで。
「お、これから焼くのか」
撮影に訪れた小田切ルビィ(
ja0841)のカメラから、美月はケーキの型を隠す。
「撮った奴って公開されるんだよね? その……見られちゃうかもしれないじゃん」
失敗したらどうしよう。恥じらう少女の手から、調理服姿の支配人が型をひょいと取り上げた。
「あ、返してっ」
「お菓子は、美味しくなるって信じて拵えるものです。武田さんのもエルレーンさんのも、良い状態に出来てますよ」
「そりゃ焼き上がりが楽しみだ」
支配人と2人の少女を、ルビィのカメラがフレームに収める。
「うふふ……楽しみだなあ」
オーブンの中に入った自分のケーキを、エルレーンは目で追っていた。
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さて再び、クッキー班のキッチン。
「でっきたかな〜」
一同が戻ってきた頃、クッキーは既に焼き上がっていた。
「美味しそうに焼けてますね」
ライムは満面の笑みで、姫乃とレインを振り返る。
「ふふ、仕上げは超☆可愛くデコっちゃいましょ」
オカマさんがウキウキする横で、レインは数勘定に余念がない。
「友達と、部活の後輩と……」
しかし、天板の一番端っこ。気合を入れて作ったハート型の贈り先だけはもう決めていた。そう、目の前の──。
「おぉー、可愛い出来っすね!」
動画班から撮影にやってきていた五辻 虎々(
ja2214)が、3人から少し離れたところで声を上げた。
彼がカメラを向けているのは有栖と、手元の桜色のクッキーだ。
「私、“味音痴”なので……よろしければ、ご試食していただいてもいいかしら?」
「え、いいんすか?」
虎々に頷く黒髪の乙女。
と、その横から誰かがフレームインしてきた。あ〜んと口をあけて、おねだりアピールの麦子である。
「おふたりともどうぞ」
「うお、うめえっす!」
「おいっしい! VDは誰かにあげたりすっるのかにゃ〜♪」
おすそ分けに預かった2人の笑顔に、有栖もつられて笑った。
「残念ながら想い人はおりませんので、お世話になっている部活動の部員さん用です」
美味しいとか恋しいという感情は忘れてしまったけれど、愉しいかも。そう感じながら。
「よし、クッキーも綺麗に撮れたよ」
日比野 亜絽波(
ja4259)のカメラは、璃音と忍のデコレーションの様子を撮していた。猫クッキーは、いずれも可愛らしく美味しそうに焼き上がっている。
「これ? 家族チョコと友チョコです……よ? カメラさん味見どうぞ?」
チョコサンドの白猫と、ホワイトチョコサンドの黒猫。
「ありがと」
差し出されたひとつを摘んだ亜絽波。口の中で柔らかな甘さが、ほろりととけて消えた。
●
クッキーの焼き上がりと時を違わず。
「わぁ、いい匂い!」
ふっくら焼き上がった各々のケーキに、1日パティシエ達は歓声をあげた。
調理台に用意されたデコレーション材料と器具が、楽しくも美味しい飾りつけのひとときを予感させてくれる。
ココアのスポンジを焼いていた熾弦と静流は、仕上げもやっぱりチョコレート。
生チョコクリームとフレッシュフルーツで飾り付けた熾弦に対し、静流はガナッシュをグラサージュしたザッハトルテ風だ。
チョコの香りとオレンジの香りがキッチンに広がる。
「うわぁー♪ 凄い、凄いよこれっ!」
おや、向こうの調理台で歓声があがったぞ。
「生クリーム、かき混ぜてるのに、固まってるよ!」
声の主は、美月だった。なるほど、手には氷を当てて冷やしたホウロウのボウル。
美月ちゃん、あんまり混ぜすぎると分離してバターになっちゃいますからね。
その横でエルレーンも神妙な顔をしている。
「うーん、これはもっと練習しなきゃダメだなあ。本番までに間に合わないよ」
焼きあがったケーキにアイシングで模様を描いているようだが……?
「えーっと……これは」
デコレーション風景撮影中の虎々には、ミミズがのたうっているように見えた。
(や、でもケーキにミミズはないっすよね?)
「っていうか、本番って誰かに上げるんすか?」
模様には触れず切り返したところ、エルレーンは見る見る赤くなった。
「はぅ、何をどうやってもモテないすごいおばかで哀れなおとこのひとがいるから…ボランティア、なの!」
「へぇ〜」
ニヤニヤせずにはいられないシチュエーション、撮影成功!
「武田さんは?」
「ん、お世話になってる両親にね♪」
一緒に孝行娘も、撮影成功!
ルビィのカメラが、レアチーズケーキを映す。その横にはフォンダンショコラ。さらにぐうっと引いて、製作した月花の姿をもフレームイン。
「月花さんのケーキ、美味しそうー」
マナが手を叩いて歓声を上げた。そんな彼の両手には、たっぷりのチョコでコーティングされたシンプルなケーキ。
繊細な月花のケーキと並ぶと、豪快さが際立つ「男のケーキ」だ。
「こりゃまた対照的だな。食べ物を美味そうに撮るってのは技術がいるんだぜ」
ルビィのレンズはマナのケーキを舐め、さらに横に。
「……スペシャルもんぶらん完成、かも」
ラストカットにアトリアーナを捉え、栗づくしのホールケーキに寄った。
「よし、いい感じだ」
Act4・素敵な時間を、作品に
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かくして、撃退士たちによるラブリー☆ホワイトパーク一日体験は、大成功のうちに幕を閉じた。
その場で紅茶と共に手作りスイーツを楽しむ者あり、参加賞として配られたチョコとともに持ち帰る者あり。
皆の笑顔が弾けた冬の一日。
しかしこの物語には、少しだけ続きがある。
そう、舞台を久遠が原学園視聴覚室(のひとつ)に移して……。
動画班が撮影した映像が、沢山あるモニタに映し出される。
「わあ、どれも綺麗に撮れてるねえ!」
思わず良大が声を上げた。
「良大先輩『綺麗めロマンチック』なのと『学生がわいわいしてるVサインだとかハプニング込みのヤツ』を意識して撮ってみたッス! どうっすかね」
「どうも何も、すごいよー!! コレ、美味しそう」
クッキー&ケーキ作り体験の様子に目を輝かせる良大に、丞は確かな手応えを感じていた。
これでパークを盛り上げられる、支配人を『勝たせて』あげられると。
「この素敵なパークをみんなにアピールしなくっちゃね! 」
仲間の笑顔を撮ることに集中していたひなこも拳を握る。
「早回しを見ながら、コンテ切ってみたんだ。パークの魅力をあますところなく伝えるようにしたいね」
即興で描いた絵コンテを手に、亜絽波が一同を見回す。
彼女は知っていた。撮影映像はあくまで素材、編集作業があってこそ、作品になることを。
「動画投稿で鍛えた腕の見せ所っすね!」
「よし、じゃあもうひと頑張りだ、マスゴミなんかに負けてられっか」
虎々が力強く頷き、ルビィが皆を鼓舞する声を上げる。
時は午後9時。──長い長い夜が始まり……
「うわ、この執事似合いすぎワロスww」
「栗原さんの撮ったグループ、楽しそうでいいね」
「……たくみてろよマスゴミ!」
「皆さん作業おつかれさまです! 珈琲いれてきました!」
「日比野、あと何カットぐらいだ?」
「えっと、ケーキとクッキーは終わったから……」
「良大先輩! 寝たら駄目です!」
「やばいww眠すぎwwワロスww」
朝日が差し込む頃
「完成……っと。これで風評なんざ吹っ飛ばしてやろうぜ!」
ようやく、終わった。
「早速アップロードするっす!」
机につっぷす一同の中、力を振り絞った虎々が動画サイトにアクセス。
「『腰痛部』か『にっこりしちゃう動画』かどっちにします?」
「……どっちも」
しばしの間を置いて映像作品「満喫! ラブリー☆ホワイトパーク」は発信されたのだった……。
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それから数日後。良大の携帯電話が鳴った。
発信元は、ラブリー☆ホワイトパーク。
「はい、木村です。え、バイトに大至急入ってくれ? お客さんが急増して捌ききれてないって! はい! すぐ行きます!」
今度は学内でスタッフ募集もすればいいんじゃないか?
そんなことを考えながら良大は走った。
仲間たちの手で息を吹き返した、白いパークへ。