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マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/23


みんなの思い出



オープニング


「――とまぁ、こんな感じです。一件落着めでたしめでたし〜っと」
『ご苦労だった。一件落着した所で申し訳ないが、近日中にまた奴らが動き出すらしい。引き続き頼んだぞ』
 警察も引き上げた明け方の倉庫街。春夏冬が本国の上司へと報告を行っていた。
「はぁー……軍人ってこういう所ブラックだよな。別にいいんですけどー」
 春夏冬が本国にいた頃は数週間ぶっ通しで任務が立て続けに舞い降りてくる事が幾度と無くあった。数日の猶予があるだけマシなのだろう。
『詳細は後ほど送る。目を通しておくように』
「了解。この間に何か手がかりはあったんですか?」
『まだだ。あいつらは中々足跡を残さん』
「ヤタガラス……って確か三本足だったっけ。二本の足じゃどうにかできても、残り一本の足は隠せないと思うんだけどなぁ」
『奴らは烏でなければ鳥頭でもない。一筋縄ではいかんのさ』
「ま、奴が潜伏している位だし……当然か」
 春夏冬はイワノビッチの狡猾さをよく知っている。何故ならば、春夏冬はイワノビッチをこの目で見、その声を聞き、そして戦った。
 だからこそ、夜明けの八咫烏という組織に計り知れない何かを抱く。しかし、まだそれは今回の八人には言えない。いずれ言わなければならないが、今はその時ではないと思う。
『それでは休息はきちんと取って置くように。万全の体勢で次の任務に挑め。以上だ』
「了解で――す。お疲れさんしたー」
 本国ではちょうど夜であろうか。だとすれば上官も中々働いている様子で、部下としてはこれに応えなければならない所がある。
「さてと、今回も頼まれてくれるかな……」
 詳細が送られてきたことを通知する携帯の画面を見ながら、春夏冬は水平線の向こうで上る朝日を眺めた。

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リプレイ本文


 台風が近づいている事を示すかのような曇り空の下、肌寒い風に吹かれた春夏冬に水枷ユウ(ja0591)は声をかける。
「アキナシアキナシ、名前ナツナシにしない? 秋よりも夏が無くなるべき。そうおもうでしょ」
「そうだな。本国じゃあ夏は短いうえに涼しいから、日本の夏は慣れないよ」
「夏なんて暑いだけでいいことないし、あったとしても暑さで差し引きマイナスだし。だから夏はなくなるべき。ね、だからアキナシじゃなくて春秋冬でナツナシにしよう。冬冬冬でフユダケもいいかも知れない。ん。完璧な理論」
 きりっと胸を張るユウ。
「この名前……上司から貰った名前だからなー。この件が片付いたら、考えてみるよ」
 苦笑する春夏冬を見つつ、ユウは問う。
「えっと、類似岩伸びっち? だれだっけ、それ」
「ルイジ・イワノビッチだ。すげぇ変換で来たな」
「そう、たしかその人。……何かインネンでもあったりするの?」
「因縁……そうだなぁ」
 痛いところをいきなり突いてきたな、と春夏冬は思う。もしかしたらその名前を呼ぶ時に、何かを篭らせているかも知れない。例えば憎悪、例えば怨恨。
「……これが終わったら話すよ」
「ほんと?」
「ああ」
 『これ』が何を示すかは、春夏冬にもわからなかった。
「さて、風になるとしようか」
 最終チェックを終えたディザイア・シーカー(jb5989)が、サイドカーにちょこんと乗り込んだユウに防風ゴーグルを渡す。
「そうだね。わたしは、風に、なる」
 受け取ったゴーグルを着け、ハーフのヘルメットを被る。
「何度見ても格好のいい車だな。俺も欲しいよ」
「ロマンと実益を兼ねた良い出来だろう? 春夏冬、これが終わったら一度乗るか?」
 くつくつと笑うシーカーが乗るは、迷彩の2WD。ただの2WDではない。強化パーツでタイヤを覆い、強化タイヤに変更してバーストし難くし、駆動系、エンジン部にも金属板で補強。ハンドルの邪魔にならない左側面前方に銃架を設置。ガルムSP、ガトリングを後付固定できるように改造したものだ。
「そうだな、考えてみるよ。――で、晶ちゃんはそれでいいのかい?」
「別になんでもいいわよ。走れば」
 素っ気無く応えた神埼 晶(ja8085)は、中型のオンロードバイクにエンジンをかけて待機していた。時間からしてそろそろと思った彼女は、ヘルメットを被る。
「それじゃ春夏冬さん、捕まえた標的の護送はよろしくね」
「あたぼうよ。任せとけ」
 春夏冬の背後に控えるのは対アウル覚醒者用の護送車である。クラッシュしていった者を片っ端からこの車の中に放り込んでいくのが今回の春夏冬の役目だ。

「子供の兵隊の次は武器ね……まったく次から次にと他人ん家の庭で好き勝手してくれてさ。――まぁそう簡単に帰れるとは思わないで欲しいね 」
 倉庫の影に隠れて様子を伺う佐藤 としお(ja2489)が、オフロードバイクに跨ってその時を待つ。――来た。
「作戦開始……っと」
 敵が倉庫を出発した。光信機に報告を入れ、追跡開始。
 退士達が風を切る。
(麻薬はともかく、銃は二、三丁くらいちょろまかせないものだろうか……)
 極限の高速が始まろうとする中、先行で暗視眼鏡を装着した牙撃鉄鳴(jb5667)は目標となる積荷の事をふと思い出して心の中で呟く。
 闇夜に紛れる漆黒のバイクに跨り、闇夜を切り裂く。佐藤と合流した事を確かめると、次に神埼もやってきた。
 準備は整った。後は――
「おい、そろそろだ」
 カーナビにリアルタイムで表示される佐藤達の位置を見たシーカーは眠そうなユウに声をかける。彼女が眠そうなのも無理はない。普段ならば布団に入って眠る時間。しかも夜風が気持ちいい事この上ないので、舟を漕ぐなどという領域を通り越して寝ていた。
「指示を頼む、その通りに動いてやるぜ」
「うん。じゃあとりあえず、おねがい」
 標的の気配を感じ、ぺちぺちと頬を叩いていると敵影を捕らえたバイクが発進。支流から乗り込み、追撃開始。
 シーカーとユウの役目はトラックの護衛の撃破。標的を丸裸にし、後に繋げる。
 牽制はシーカーが、主力はユウが担う。
 突如として現れたバイクに驚くのは当然か。しかしその隙こそ狙っていたもの。
 先行のバイク班との連携を図り、主に後輪、タイヤを打ち抜く。
「そのままよりは大分マシ、と言った所か」
 シーカーは運転もしている。あくまでも安全は第一だ。それに、本命はシーカーではない。
「頼むぜ撃墜王、援護は任せときな」
 丁度のタイミング。そこで補助の炎の烙印。
「出ておいで、カミノハトリ」
 サイドカーのユウ。
 蒼雷を抱く鳥の短剣がぱちぱちと音を立てて疾走する虚空に舞う。そして当たるは車体。強化されていようとも、絶妙な角度から飛来した鳥は猛威を振るう。
 一機クラッシュ。火の粉を上げながらバイクの運転手が高速で遠ざかってゆく。勿論クラッシュさせる位置も考慮してある。山道で道路から落ちてしまったら危険極まりないからだ。
「……アウル使えるし、この速度でクラッシュしても死なないよね? 」
 見る限りはヘルメットにプロテクターと抜かりは無い。
 護衛車による銃撃が始まるが、両者共に歩みは止めない。止まるときが最後だからだ。
「ハハッ、ロマンの犠牲になりやがれ」
「くる、くる、くるり 」
 攻撃は装甲や防護壁で弾き、シーカーはユウの安全を確保しつつ、距離が近くなればガドリングをぶっ放す。そしてユウの災禍の風が幸せを囁きながら猛威を振るう。
 後続していた形のバイク組が並走に、または先回りに移り始める。
「バイクは背中向けてる分、後ろからの攻撃に弱いんだよね」
 そこで殿を務めるのが佐藤である。車に弾き飛ばされない様にバックミラーを撃ち後方確認を阻害。一歩間違えれば取り返しのつかない事になるこの状況で、視覚の一つが失われることはどれほど恐ろしい事なのだろうか。
 敵の銃撃を掻い潜り、神埼は接近して一台のバイクに宣告。可能性は低くとも、止めさせる事が重要なのだ。
 そして先回りは牙撃。彼の選んだバイクはゼロヨン九秒台、最高速度300?/hオーバーの化け物バイク。さらにスピードリミッターを解除しているので、本気を出せば山から港まで十数分もかからない。安定した速度で付かず離れ図の距離を保ち、急な加速にも対応できるようにするためだ。
 運転手に当てないように不意で早撃ち。怯ませてミスを誘発させる為で、止まってくれればよかったのだが。
「怪我をする前に停車した方が利口だと思うわよ?」
 しかしつい先程仲間が一人クラッシュしたと言うのに、動きに躊躇いがない。運転手は腰の警棒を取り出し、神埼に振るう。彼女はそれを間一髪で避け、活性化させた愛銃で車体を早撃ち。銃弾はエンジンを避けた絶妙な軌道を滑り、タイヤに激突する。
 クラッシュした敵は春夏冬に任せておけば大丈夫であるが、されども停車する気配はなく。走りを止めなければ攻撃も止めない。
 ならば容赦はなしだ。
「遠慮なくいかせてもらいますよ」
 佐藤の言葉通りであった。支流から一台の軍用車が突如として現れる。
「俺の腕の見せ所だな」
 全員揃った所でシーカー班はクラッシュした敵の回避に移る。ここでの役目はもう終えたのだ。
「頼んだぞ」
「昔よく運転していたからな。任せろ」
 運転手はルーカス・クラネルト(jb6689)。リアにはミハイル・エッカート(jb0544)。
 予め決めていた出現地点は山道と直線道路のちょうど狭間付近。そう、もう山道を抜けたのだ。
 クラネルトの運転でトラックと並走。同乗のエッカートの補助として、片手で支援射撃行う。それでも走行が安定しているのは、機械化部隊に所属していた経験があるからだ。
 銃弾をシールドで防ぎながら、エッカートは高めた視覚で状況を確認しつつ貫通弾を放つ。
 当初の予定通り車組はトラックへの攻撃に集中する。バイク組が着実に護衛をクラッシュさせてくれているからだ。
 猛攻。しかしトラックは止まる様子はない。
 港への距離は着実に狭めていっている。
 なれば。
「今だ!」
 エッカートが手元のスイッチを押した瞬間、先の道にスパイクベルトが現れる。追走開始直前、あらかじめ設置しておいたものだ。スイッチで出し戻しができるため、無関係の車を巻き込みにくく、奇襲の感覚で設置できるのがポイントだ。
 猛スピードで走る鉄の塊が、器用に突如現れた罠を避けられる筈がなかった。
 形容しがたい乾いた音を立てながら、トラックは夜の道路を面白いほどスピンしてゆく。幾度か回転し、ようやくトラックは停車。
「抵抗は無駄だ。防具も突き抜けるぞ。蜂の巣になりたくなければ武器を捨てて出て来い」
「おとなしく投降しろ。命までは取らない」
 エッカートの通告も空しく、運転席から銃弾が。攻撃も止むなしか、と思い貫通弾を撃ち掛けた所をすかさずバイクを停めた牙撃が乗り込み、運転手の手足を破壊する。
「ふわぅ……ねむねむ。帰りは寝ててもいいよね……?」
 ようやく停止した空間の中で、ユウはそう呟いた。


「こんなもんかなーっと」
 護送車の中を確認し、春夏冬はうんと呟く。全員、大した怪我ではないようで重畳である。お陰で拘束もエッカートに手伝って貰いつつ容赦なく迅速にできた。
「……黒い軍服を着た男に、制服を着たガキ共……逃げろ……」
 そこに、そんな呟き。通信機の類は全て取り上げた筈だが、周到な奴もいたようだ。隠したサブの通信機をそのまま破壊し、微笑む。
「お前さ、馬鹿じゃねぇの?」


 船舶も当然落とすべき目標であり、シーカー班と神埼・佐藤・牙撃そしてクラネルトがそのまま向かう。
「さぁ、終わりの時間だぜ!」
 シーカーが意気込む、しかしもう体力がないのは彼らとて同じ。早く片をつけなければ。
 船員も訓練されたアウル覚醒者のようで、ある程度消耗した状態では苦戦する。船舶制圧用に換装した銃火器の重さも相まって、操舵室に乗り込もうとも埠頭の敵に苦戦する。
 逃す訳にはいかない。敵をひとまず仲間に任せ、牙撃は後退。
 そして取り出したのは二メートル近いレールガン。両手で確かと持ち、大量のアウルが食われてゆくのが感じる。しかし悪いことではない。ごうんごうんと唸る銃身のその先では電気が塊となって圧縮され、その時を今か今かと待ち構えている。
 トリガーを、引いた。
 鉄の塊が、光の尾を引いて飛び出す。その威力たるや使用者にまで影響し、流石の牙撃でも数メートル後ろに引き摺られた。革靴の底が饐えた臭いが微かにする。
 しかしそれも幾つかの刹那の出来事である。ふわりと浮いた牙撃の前髪が落ちきる前に、船が轟音を上げて海へと沈んでゆく。
 明るくなった海に何の感慨も抱かず、牙撃は背を向けて立ち去った。


 船舶制圧組も戻り、警察が来るまでの暫しの間。エッカートが春夏冬に問う。
「敵に内通者がいるのか? 前回の人身売買も今回の武器輸送も、場所や敵の編成、運搬ルートも計画全体を把握しているなら、組織内ではそこそこ上のポジションと推測できる。そろそろ身バレするのではと思ったが大丈夫か?」
 前回と今回の件について渡された状況が詳しすぎる。そこで思いついた可能性が内通者による密告であるとエッカートは踏んだのだ。
「その通り。だが心配するな、俺の軍は諜報活動に長じているんだ。本国は小さな国だし、大した武器もないから情報を制しようとした結果だな。諜報活動とその精度ならどこにも負けない自信がある。で、今回の件はうちの軍でも精鋭を連れた。俺もよく知っている奴らでな。身バレはしないだろうし、引き際もちゃんと弁えてるから大丈夫だ」
 かくいう春夏冬も諜報活動は得意であり、様々な組織に潜伏していた事がある。
「なら、お前も情報の重要性はお前もよく知っているだろう。出し惜しみされては捕まるものも捕まらんぞ」
 話に入ってきた牙撃の言葉はもっともであった。春夏冬は重要な情報を出していない事は明白である。これから激化していく状況に対応していく為には、春夏冬が持っている情報を明かして貰わなければならない。
「……そうだな」
 何かを一区切りするように、
「夜明けの八咫烏ってのは前から知っている奴も多いとは思うが、主にアウル覚醒者で構成された犯罪組織だな。何が目的かはわからん。だが何かデカい事をしようとしている事は確かだ。近年の勢力拡大もそうだが、国内外でアウル覚醒者がぽつぽつ失踪しているのも気になる」
 どこかで聞いたことのある噂であった。
「そしてルイジ・イワノビッチ――こいつは俺の国の出身なんだ。恥ずかしいながらな」
 吐き出すように言った春夏冬の表情は険しい。
「国内外を問わずやらかし始めた頃より前から、俺ら軍は奴を追っていた。時には結構デカい作戦で奴を捕らえようともしてな――俺もその中にいた。そこで色々あったんだが――別の話か。まぁ今も追跡は世界各地で行われていてな。今回は俺が適任という事で、大々的に動く事になった。……しかし、犯罪組織も仕留めて来いとは随分な無茶だが」
 困ったように溜息を吐く春夏冬を見て、佐藤にはある考えが浮かび上がる。
「――なら、八咫烏の運営資金を抑える事が出来れば戦局も変わってきませんか?」
「それをしたいのは山々だが、運営資金の殆どを海外の銀行に入れられている。どうにかするのが難しい状況だ。パトロンも同じ。海外に複数バラかしているらしいからか、特定も全員を押さえるのも難しい」
「そうですか……」
 しかし国外となれば事情は異なってくるのが問題だ。諦めた方がいいらしい。
「あっ、春夏冬さん!」
「どうした?!」
 荷台を確認している神埼の悲鳴。駆けつけると、そこには――
「人……?」
 敵か、と思ってエッカートが反射的に銃を構えたが、否。
「テッド――!」
 何らかの訓練を受けていそうな男。どうやら、春夏冬の知り合いらしい。
 怪しげなダンボールや木箱の間に押し込まれるようにして、テッドという男は拘束されていた。意識はないようだ。
「知り合いか?」
「ああ。俺らと同じようにイワノビッチを追いかけていた奴の一人だ。ある日突然消息不明になったんだが……まさかこんな形で見つかるとはな」
 拘束を解きながら脈に触り、生きていることを確認する。負傷し、ひどく衰弱しているようだが、命に別状はなさそうだ。エッカートの問いに若干の生返事で答えながら、テッドと呼ばれた男を楽な姿勢にさせる。
「……こうもでかい獲物が芋づる式で取れるもんだ」
 珍しく困った顔で春夏冬が呟いた。
「次はどうなるのやら……」

【続く】


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 総てを焼き尽くす、黒・牙撃鉄鳴(jb5667)
 護黒連翼・ディザイア・シーカー(jb5989)
 暁光の富士・ルーカス・クラネルト(jb6689)
重体: −
面白かった!:8人

ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
STRAIGHT BULLET・
神埼 晶(ja8085)

卒業 女 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
暁光の富士・
ルーカス・クラネルト(jb6689)

大学部6年200組 男 インフィルトレイター
闇に潜むもの・
剣崎・仁(jb9224)

高等部3年28組 男 インフィルトレイター