●前哨戦〜突破槍盾〜
地を黒く覆うほどの、ディアボロ級。
目の前の物量だけを見れば、この戦闘はエリュシアパイロットたちの方が不利であると見えるだろう。
だが、戦況と言う物は――表面に見える物が全てではない。
「数だけで勝てると思ってるのかねぇ。‥‥甘い。 ほら行くよ、食い散らかしてやろう」
「はいはーい、張り切っていっちゃうよ〜」
ディアボロ後衛の砲撃が飛来する。
着弾。しかし、狙われた二人にダメージは皆無。
その攻撃を合図にするかのように、煙幕の中から常木 黎(
ja0718)と点喰 因(
jb4659)の機体が飛び出す。
飛来する機銃弾。それが肩にある彼の家紋――夕浪兎のマークに直撃する前に、青い光が点り、弾丸は弾かれる。
「っと、危ない危ない」
因の機体『月兎』に装備されている斥力発生装置――一種の、バリア発生装置であるそれは、しかし出力と重量のバランスを取る必要がある関係で、それ程広域に発生させる訳ではない。
――故に、命中箇所に正確に力場を収束させる、パイロットの腕が非常に重要になる装備なのである。
「It’s payback time‥‥ってね」
脚部ローラーによるアドバンテージを最大限に生かし、因の機体の後方ぎりぎりを追随していた状態から急激な移動方向転換。横に滑るようにして射線を確保し、黎の機体――Wardogの重機関砲が火を噴く。弾幕に乗じ、狙うのは中央の一体。
「逃げた方が――ああ、逃げられるはずもないね」
機関砲を投げ捨て、ガコンと両腕部の弾倉が装填される。そのまま急激に前方へと突進――一気に、両腕を突き出す!
ドン。ドン。
鈍い音が二発。
交差するパイルバンカーがディアボロ級を貫き、爆散させる。
が、その直後、敵の機関砲弾もまた雨霰が如くWardogを狙って降り注ぐ。
物量では圧倒的にディアボロ側が有利。故に彼らは弾幕を張る作戦に出たのである。
「んー、ちょっとやばいかな〜?」
力場の収束場所を次々と変え、自機と――同時にWardogの援護も行いながら、因は僅かに眉をしかめる。
機動力で回避を行うには、弾幕の厚みが余りにもありすぎる。かと言って、遮蔽物は先ほどの砲撃で粗方破壊されている。
二人分の防御を行うには、フィールドの面積が余りにも不足していたのである。
既に、『月兎』と『Wardog』は何れも多少の被弾を受けている。急所を力場でガードしていた故に致命的ではないものの、多少の能力の低下は否めない。
ジリ貧か。そう思われた直後、弾幕を展開していた敵の一体が爆発した。
●前哨戦〜瞬閃・重閃〜
二筋の風が、戦場を駆け抜ける。
「斬られて――燃え尽きろッ!」
真紅の熱風。胸のコアに火を点し、長大な大太刀にそれを纏わせる。
恙祓 篝(
jb7851)の操る機体の火炎を纏った一閃が、ディアボロを二体纏めて断ち切る。
当然、四方の敵から一斉に銃口を向けられる事になるだろうが、即座に胸の炎を最大出力まで高め、四方に吹き出す事で全てのセンサーを瞬間的にさえぎる。
炎が晴れた時、その姿はその場から消えており。そして、彼を探していたディアボロ級の後ろから、接近する影!
「助かったよ。‥‥今度は、こっちの番だね」
砲撃のプレッシャーが緩まった事で、余力が出来た『月兎』が、後方から敵へと肉薄。
「これ、こういう使い方もあるのよ〜」
突進の勢いそのままに、両足へフィールドを集中させる。
そのまま、両足を合わせ、ドロップキック。フィールドを尖らせドリルのように構築したその一撃は、二体、三体と敵を貫いていく!
そして、それに怯んだ周りの敵に――
「どこ見てるんだ? 俺はここだぜ!」
脚部のブースターから、炎を噴出し。篝の機体は空中へと舞い上がっていた。
そのまま、大上段に大太刀を掲げ――
「灰すら、残さねぇ――!」
炎獄の一閃が、地を引き裂いた。
「あーあー、派手にやってるわね」
遠くに上がる火の柱を見て、東雲 桃華(
ja0319)が苦笑いを浮かべる。
「こちらも――負けてはいられないわね」
肩部の装甲をシールドの様に使い、振り下ろされる剣を受け止める。
「出力ではこちらの方が圧倒的に高いわよ。油断したわね」
ゴッ。
押し出された斧の刃が、敵の腹部に食い込む。そのまま、全ブースターを起動させ、敵ごと突進していく!
横一閃。
さらに斧――『桜牙』のブースターまでも起動させた桃華の機体の一閃が、目の前の敵のみならず、斧を大きく回転させ周囲の敵を全てなぎ払っていく。
慣性止まらぬその機体に襲い掛かる機体も居たが、強烈な加速により生み出される鋼鉄の旋風が、周囲の敵を寄せ付けない。
弾かれた機体が空中で、体勢を立て直そうとしたその瞬間。小さな自立ビットより放たれたレーザーが、恐ろしき精密度でその中央を貫いた。
ブン。
僅かに空間が揺らぎ、そこに機体が出現する。
「さて、次は誰かな」
ブン。
月臣 朔羅(
ja0820)の呟きと共に、再度その姿が消える。
何もない虚空から打ち出された如き銃弾が、敵を追い詰め、狙いやすい所へと近づけていく。
●前哨戦〜殲滅する者たち〜
「良い場所だ」
それに銃口を向けたのは、アスハ・ロットハール(
ja8432)の操縦する機体。
――彼の機体は、圧倒的に攻撃一辺倒であった。
比喩ではない。この機体の装甲はそれこそ申し訳程度。また、その武装の巨大さ故に、回避能力もほぼ無に等しい。
――そこまで、ほぼ全てを犠牲にして。この機体は何に力を注いだのか?
答えは、その手に持つ、巨大な砲。
『アンチマテリアルランチャー』。そう分類されたこの規格外の兵器は、既に対ユニット兵器の枠を超越しており、対艦、対基地級と分類されるべき物だ。
この様な物を引っ張り出し、改造するような奇特な人物は――それこそこの機体のパイロット、アスハ位のものだろう。
「これだけの弾数だ。生きていられると思うなよ」
巨大な砲口から、散弾が放たれる。
無論、その砲身の大きさに比例し、放たれる散弾数も並みのそれではない。
一地域を覆いつくすと散弾が、大量のディアボロたちを次々と殲滅していく。
その後も、なんらかしらの理由で僅かに生き残った物が居ないわけではない。
先ほどを以ってして、アスハの機体は現戦場に於いてディアボロ級たちには最大の脅威として認識された。
ならば、その脅威を排除しようとするのが筋合いだろう。
一斉に飛び掛る、獣型のディアボロ級。元より防御を度外視していたアスハ機に、これを防ぐ術は――
「守るための力。それが、この機体だ。ならばその力を‥‥今使わずしていつ使う!」
重装甲の両腕を合わせ盾のように構成し、穂原多門(
ja0895)の機体が、飛び掛る敵を全てその体で受け止める。
ギシギシと、駆動系が悲鳴を上げるが――彼がそれを気にする様子はない。
僅かに盾の間に隙間を作ると、そこから覗くのは――無数の砲口。
「殲滅させてもらおう」
砲撃が、目の前の敵を全て吹き飛ばす。そして、空中に飛ばされたそれを、アスハもまた、狙っていた。
「砕けろ‥‥!」
巨大な砲弾が一直線にディアボロ級を貫通し、文字通りそれを粉砕した。
「遅れました。――これより3分後、全戦域に無差別破壊攻撃を行います。速やかに離脱してください。繰り返します――」
傲慢とも言えるその宣言。当然ながら残留した敵は、宣言をした者――双羽 芽楼(
jb3773)の機体へと押し寄せる。
「はいはーい、邪魔はさせないよ〜」
「ふん。通しはしない」
二枚の盾。多門と因が、芽楼の機体を前後から挟み込み、防衛する。無数の弾丸が飛来するが、それらは一発も貫通はしていない。
「あーあ、警告したのに‥‥仕方ないね」
次々と、彼女の目の前のスクリーンに、『Lock On』の文字が現れていく。
「よし‥‥全ターゲットロック。fire! fire!! fire!!」
盾になっていた者が離れた直後。その機体の背後から、多弾頭ミサイルが発射され、同時に両腕に装備したガトリング砲が、あたり一帯をなぎ払う。
無数の火器が、辺り一帯を焦土と化した。
●親衛戦
大範囲をなぎ払う技は、残留していたディアボロ級の殆どを蒸発させていた。
しかし。その射出点が1点であり、多を狙わざるを得ない以上。どうしても着弾のムラは発生する物だ。
そして、その僅かな間隙を突き、戦闘を続ける者たちはいる。
「あたいが一番槍よ!全員突撃ー!」
雪室 チルル(
ja0220)が機体を回転させ、間一髪でその腕に装備した実体剣で飛来するミサイルの一発を受け流し、更にもう一発のミサイルの後方を蹴りつけて方向転換させ、目の前のヴァニタス級に向けて飛ばす。
無論、敵もさるもの。直ぐに肩部機関銃でそれを迎撃するが――本命は、ミサイルの後方に隠れていた。
「えーい!」
ライフル弾を敵の肩に当てて体勢を崩し、即座にソードで斬りかかる。空中で一回転したヴァニタス級は間一髪で直撃のみを避けるが、刃が僅かに機体表面を掠り、塗装に痕をつけていた。
「って、同じコンセプトか‥‥奇遇だね」
そのヴァニタス級を背後から蹴りつけ、マシンガンを構える日下部 司(
jb5638)の操縦する機体。
この二機は、細かな武装の差異こそあれど、基本コンセプトは同一の物。『汎用型』である事により、如何なる状況にも対応する――と言う物だったのである。
初めて会った者同士とは思えないほどの精密度を以ってして、二人のコンビネーションはヴァニタスに襲い掛かる。
日下部がグレネードを投げれば、その弾幕の中からミサイルが飛び出す。実弾兵器の弾幕を張り、それを迎撃していたとしても、お互いの隙を補うような連携攻撃にヴァニタス級は後退せざるを得ない。
――そして。餌を待つ蟷螂の如く。その後ろを襲う者もまた、居る。
「戦場で出会えば斬るか斬られるか、だよねぇ」
キン。
甲高い金属音と共に、雨宮 歩(
ja3810)機のプラズマブレードがヴァニタス級の背部に突き刺さる。高熱が装甲を溶解し、赤い光を放つ。
隠密性能に優れるその機体能力も一因だが、チルルと司のコンビネーションが完全にこの敵の注意を引いた事も大きい。
「長居は無用だね」
即座にブースターを逆噴射。プラズマブレードを抜き、距離を取ると共にミサイルを一斉発射する。
――ミサイルの弾幕をすり抜け、二本の巨大なチェーンが射出される。
その先についた巨大なアンカーは、機動力を生かして制御し回避した物の‥‥アンカーについたブースターが横にそれを移動させ、絡まるようにしてチェーンが彼に巻きつく。
電子ジャミング弾の射出が、一瞬遅れた。いや、僅かに敵の反応が早かったのか。
どちらにしろ、電子ジャミング弾を射出したものの、実体が敵に捕縛されている以上、効果は薄いと言わざるを得ない。
ぎりぎりと、ゆっくりチェーンが巻き取られていく。
その時。一条の光が空を割き、ヴァニタス機に直撃する。
僅かに敵機が怯んだ隙を突き、マシンガンの弾幕を盾にした司機が急速に接近。チェーンをブレードで切り裂く。
「ありがとう。‥‥さぁ、行こうか、リストレイン」
すぐさまありったけの電子干渉弾を放出し、ノイズの闇に消える歩機『リストレイン』。
「どういたしまして。皆様を助けるのが、私の役目。――エクレールから交戦機各位へ。援護はお任せくださいな‥‥!」
隙を作った一条の光は、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)機――『エクレール』から放たれた物だったのである。
目標を変え、今度は彼女を狙ってきたチェーンアンカーを、自立機動兵器『トネール』のミサイルが迎撃する。が、然し、やはりパワーが足りない。アンカーのブースターが軌道修正を行い、チェーンは『エクレール』の後ろへと回り込み、巻きつく!
「っ‥‥かくなる上は!!」
敢えてチェーンに抵抗せず、逆にブースターを噴射して急速接近。トネール2機を呼び戻し、盾にしてヴァニタス級に体当たりする。
「!?」
敵の焦りが、目に見て取れるようだ。コックピットのシェリアは、にやりと微笑んで、叫ぶ。
「華麗なる乙女は…最後も…華々しく、散るのよ…! 」
爆発が、『エクレール』諸共、ヴァニタス級を飲み込んだ。
●親衛戦〜決闘〜
「今日こそは‥‥決着をつけようか。なぁ、龍牙!」
スタっと、両者が向かい合って構える。
既に相当の合数、打ち合ったのか――両者共に、機体に細かい傷がついている。こと、ヴァニタス級の右肩装甲は吹き飛ばされており、それと相対している機体――中津 謳華(
ja4212)の『シュテンドルフ』は、右半身に無数の弾痕のような傷跡を残している。
「お前との腐れ縁も、いい加減終りにしたいものだ」
「‥‥」
敵機は、答えない。
幾度も拳を交えた相手。この反応も予想していなかった訳ではないが、やはり少し、苛立ちは覚える。
「最後まで答えんか。‥‥それもまたよし。後は拳で語るのみ」
重心を落とし、どっしりと、構える。
「『殲鬼』シュテンドルフ、参る‥‥!」
幾千の敵機を殲滅してきた、その機体。その鬼の如きの顔が、一気に敵機の前に詰め寄る。
突き出される鋼鉄の拳。それは確かに、敵機の腹部に触れるが――
「‥‥」
軸をずらし、回転するように、ヴァニタス機は拳の衝撃を受け流す。その勢いで、裏拳が『シュテンドルフ』の顔面を襲う。
だが、その拳は空中で、見えない壁に阻まれたように停止する。
「相変わらずの柔の拳か。だが!」
壁が横となり、シュテンドルフはそれを踏みつけるようにし跳躍する。そのまま空中から、踏みつけるような強蹴。
それを受け流そうと、ヴァニタス級が腕を伸ばした瞬間――
「油断したな!」
右足はフェイント。突き出された腕を踏みつけるようにして、今度は左足が、ボディのど真ん中を狙う!
「俺の――」
蹴撃と共に、ヴァニタス級の逆の腕も突き出される。
「勝ちだ――!」
蹴りがヴァニタス級の胴体を貫通すると共に。一点に力を集中した、ヴァニタス機の一指も、また障壁諸共シュテンドルフのコックピットを貫通していた。
一方、別のヴァニタス級とは、二機が相対していた。
「流石に一人では厳しかった。‥‥けど、これからが本番‥‥そうだよね?」
「ああ。見せ付けてやろう、俺たちのコンビネーションを!」
狼型の機体に搭乗しているのは、浪風 悠人(
ja3452)。先行して仕掛けた彼の機体は、相方――翡翠 龍斗(
ja7594)の騎士型の機体より損耗が大きい。だが、戦意で劣る事は決して非ず。
まるで事前に打ち合わせたかのように、狼に騎士が飛び乗ると、そのまま狼は敵への突進を始める。左、右と跳躍し、打ち出される鉄球を回避していく。
だが、敵もさるもの。鉄球が回避されると見ると、大地を腕で強撃し、そのまま畳返しの如く岩盤を投げつけてくる。
「行け、悠人!」
龍斗機が強引に、岩盤を受け止める。
鎧が軋みを上げ、凹んでいく。
だが、時間は稼げた。岩盤と地面の僅かな隙を縫って、機体高が低い悠人機が抜け出す。そのまま、ヴァニタス機に肉薄すると、機体は変形し――機狼は、機人となる。
背部のウィングがそのままブレードとなり、両腕に装着される。交差状態からの一閃。敵の巨大な腕に阻まれ、直撃には至らず。返す拳を後方に跳んでかわすが、跳ね上がった土石に機体が削られ、バランスを崩す。ぎりぎりで交差させたブレードの前に更に障壁を展開し、次の拳を受け止めるが、出力の差は如何ともし難く、少しずつ、押し込まれていく。
キィン。
甲高い音。
壊れかけた鎧を脱いだ龍斗機。その四肢から伸びる4本のブレードが、ヴァニタス級の背に突き刺さっていた。
僅かに力が緩む。その機を逃さず、障壁を一時的に前方に集中させて出力を高め、拳を大きく横へと受け流す。
駆け抜けるように、すれ違いの一閃。手ごたえはあった。致命的なダメージを与えたはずだ。
だが、爆発間際の敵機は、最後の力を振り絞り、背に乗った龍斗を掴む。
「龍斗!」
「来るなッ!こいつを、倒せるのならば!」
機体の全身が、操縦者に呼応するように黄金に輝く。
そして、お互い、最後の一撃を放ち――
●首領戦〜平和の歌を届けるために〜
「皆様、お願いします。私たちに、一度だけ、チャンスを!」
敵の首領。デビル級を前に、蒼の舞姫の如き細身の機体が、前方へと躍り出る。
「私たちの歌を、彼らに届ける‥‥その、チャンスを!」
その機体に乗るのは、川澄文歌(
jb7507)。チーム『KGH―48』がリーダーにして、メインボーカル。
「その作戦、乗りましょう‥‥但し、許すのは一度だけです‥‥」
露払いは任せろ、とばかりに。異形の機体を駆り、ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)が仲間と共に前線へと推進する。
「『星の金貨財団』の方ですか? 心強いです」
感謝の言葉を掛ける文歌に軽く手――触手のような物を振り、ジェラルドは最前方へと出る。
――彼らは、大財団である『星の金貨財団』が組織した試験部隊。それも、敵を完膚なきまでに破壊する事に特化した、『Bloody13』のメンバーなのであった。
最前線に突出したジェラルドの乗機『九十九式悪食』を狙い、ソードを構え突進するディアボロ級。振り下ろされた刃は、ジェラルド機に食い込み――
「フッ‥‥」
そのまま、『飲み込まれた』。
「どうした?もう‥‥来ないのか?」
一回り大きく膨張したジェラルド機を見て、周囲の敵が怯んだように見えた。
正体不明の能力を見たのならば、それも仕方のない事なのだろう。
――『九十九式悪食』の機体に、純粋なる本体はない。
それは、ナノマシンにより、周囲の素材から『構築』された物。それ故に出撃時には困難な操作が必要となり、ジェラルド以外には操作できない、非常に癖のある機体であった。――『機体』と呼んでいいのかすら不明だが。
「成程な。‥‥ならば」
周囲を、無数の鳥のような物が舞う。
光線が無数の鳥の目から放たれ、ジェラルド機を貫かんとする。
「させない‥‥」
巨大な機体がジェラルドの前を横切り、その体を盾にし、光線を受け止める。
爆発が起こるが、その中から出現したのは、ブースターユニットを排除し武装を装備した、一回り小柄なロボット。
「ここまでくれば、もう突進力はいらないからね」
テイルユニットを鳥ユニットに向け、一瞬で伸ばし、その先のクローで敵を捕縛する。そのまま両手のハンドキャノンを連射。姫路 神楽(
jb0862)機『白夜』は、敵を文字通り『粉砕』する。
別の一体の背後に、疾風の如く細身の機体がブースターを吹かし回り込み、逆噴射によって慣性を殺し、ブレードを突き刺してそのままマシンガンで蜂の巣にする。
「歌で平和をもたらそうってのは、甘い考えだねぇ」
ウェル・ウィアードテイル(
jb7094)機が、そのままブースターを敵に向かって噴射し、ブレードを抜いて後退する。
「けど、うちのリーダーも同意したし‥‥何より、その甘さ、嫌いじゃない」
彼は元よりこの部隊の出身ではない。外部より、雇われて来た傭兵。
故にその機体も、神楽やジェラルドのそれに比べれば、癖は少ない。
だが、それは決して『弱い』と言う事ではない。速度に特化したその能力は、無数の鳥ユニットの中でも致命傷を受けることは無く、寧ろ次々とそれを破壊していっている。
「さて、これでも、人を甘く見ますか‥‥?」
来ないのであれば、こちらから行けばいい。鳥ユニットを捕食しながら、ジェラルド機はデビル級へと接近していく。
だが、彼の耳には、突如なる冷笑が届いた。
「喰い過ぎは食あたりの元‥‥人は、その様な理も理解できぬほど愚かだったのか」
ビィン。
胸部装甲を展開したデビル級から、耳を突く高音が放たれる。
「っ‥‥」
多くの者が、その不快感に耳を塞ぐ。だが、ジェラルドは、それ以上の衝撃に襲われていた。
「なっ‥‥」
機体が、内部から崩壊を始めている。
データ採取のため手元にあった、分析用機器で周囲をチェックする
「取り込んだ分子による、共鳴作用‥‥?」
そこが限界であった。
崩壊する機体から、ウェルがジェラルドを回収し、後方へと送る。
直前に、ジェラルドから、エリュシア全機に連絡が入る。
「敵の能力は、恐らく‥‥音波操作」
●首領戦〜衝突する思い〜
「種が分かればしめたもんだ!」
全身に装備した火器を一斉に発射。周囲の鳥ユニットを破壊し、共鳴による破壊を防ぐ神楽機。
音波の影響が減少した機を見て、『KGH―48』が前進する。
「音なら‥‥私たちも!」
弓の弦を竪琴に見立て、奏でるRehni Nam(
ja5283)機。
天使のようなその機体から放たれた音は、文字通り天使の歌となり、破壊の音色を中和する。
音の効き目が薄いと見るや、周囲の鳥ユニットが一斉に方向を変え、非武装であるレフニー機、文歌機のほうへと突進するが――
「友達はやらせん‥‥!」
飛来する、光の円月輪。鳥ユニットを撃墜しながら戻っていくそれを黄昏ひりょ(
jb3452)の機体がキャッチすると――その正体は、巨大な大鎌であった。
「増援だー!」
盾を構え、敵の直突進を食い止めたのは、九鬼 龍磨(
jb8028)機。古い機体ながら数々のカスタマイズが施されたその機体は、外見からは想像できぬ頑強さで、幾度も鳥ユニットによる突進を阻んでいく。
そして、逆手で大剣を抜刀。突進してきた物を切り捨てる。
「僕こそが、倒れぬ万里の長城だー!」
数々の仲間たちの尽力により、ついに文歌機はデビル級を射程に捉える。
「ありがとうございます‥‥皆様の作ったこのチャンス、無駄にはしません‥‥!」
銃を向け射出した物は、然し銃弾ではなく、小型のスピーカー。
それがデビル級に張り付くのを確認すると、後衛に布陣していたカナリア=ココア(
jb7592)の『金糸雀』もまた、その全身のスピーカーを一斉に展開する。
「届け私達の歌っ! 平和と共存の歌、『久遠なるエリュシア』!!」
「私の‥‥私達の歌を聴けェーーっ!! 」
――優しい音色が、辺り一帯に響く。
それは郷愁と、平和への願いと、愛情と優しさと。全てが混ざったような、美しい歌。
カナリアと文歌がボーカルを。音楽をレフニー機が奏で、龍磨がひりょと共に、武器を楽器にしてリズムを取る。
その音が、デビルの元へと届いた瞬間。その動きが、鈍るのが見て取れた。
(「私たちの思いは、届いている――!」)
そう考え、より一層マイクを強く握り締める文歌。次の瞬間。
――デビル級の背中で、爆発が起こった。
●首領戦〜強攻〜
「悪党は悪党らしく‥‥正々堂々、卑怯に立ち回るのですわ!」
高笑いを上げ、 背後から動かなかったデビル級を強襲したのはルナリア・モントリヒト(
jb9394)の機体。
ナイフのようなアンカーをデビル級に突き立て、そのエネルギーを吸い取る。
「成程。いきなり殺傷力の無き音波を放つ故、どのような手なのかと大人しく見ていれば、注意を引きその隙に強襲するという古い手か。つまらぬ」
デビル級の赤い目が、ギロりとルナリア機を睨む。
「っ!」
本能的に脱出スイッチと自爆スイッチを同時にを押す。
巻き起こる爆発は、しかしデビルに吸収されるようにして小さくなり‥‥そして、そのエネルギー球は、文歌機の方に向かって放たれる!
「守るんだー!」
大剣を収納し、両腕の盾を合わせる様にし、龍磨機が文歌機の前に立ちはだかる。
「龍磨さん!」
文歌もまた、歌のエネルギーを変化させ、音波障壁として彼の前に展開する。
激突。そして大爆発。
自爆のエネルギーを全て収縮させたその爆発の威力は尋常ではなく、障壁援護を得てなお、龍磨機の両腕はボロボロに破壊されている。
「やはり、こうなったか‥‥」
螺旋のような動きで放出されたエネルギー球を回避しながら、高速で後方からデビル級に接近するのは鳳 静矢(
ja3856)機。
「何度も何度も後ろから襲い掛かるのは、芸がないとは思わんかね」
無造作に、無数あるデビル級の腕が後ろに向けて伸ばされる。
「ぐっ!」
襲い掛かる、衝撃波の壁。巨大すぎるが故に回避できないそれを、静矢はその超人的な操縦で、壁に刃を突き刺すようにして『受け止める』。
しかし、ダメージは避けられても、壁と一緒に後ろに押し飛ばされるのは避けられない。
「今のうちです」
ウェルが、非武装機も多い『KGH―48』の機体を案内し、脱出させていく。
その隙に神楽機が別方向からデビル級に襲い掛かるが、静矢機同様、衝撃波の壁に迎撃されてしまう。
何とか第二層のアーマーをパージし、撃墜を免れるが――火器の大部分がアーマー同様破壊された以上、火力の低下は否めない。
「なら、こういうのはどうかしら?」
一発の弾丸が、視界外から飛来し、音の壁を放った直後のデビル級に直撃。僅かにバランスを崩す。
「狙撃支援は任せてね」
コックピットで伏せるような格好を取り、電子スコープを覗き込んでいたのは、ディアボロ級を殲滅した芽楼。
「下等が――ッ!」
「今のうちに‥‥行って下さい!」
体勢を崩しながら放たれた衝撃波を、ひりょのビームサイズによる高速の乱舞が切り払い、相殺していく。
「余所見は戦場では命取りだな」
ブースターを吹かせ、放物線を描くようにして、上空から静矢機が降下し、一閃!
腕の2本を、切断する。
「やるではないか‥‥!」
振り向きざまに、着地の瞬間だった静矢機を、他の腕が掴む。
だが――
「やっぱりよそ見してるし」
静矢機に気をとられ、低姿勢で地を駆け接近したウェル機に気づかなかった。
「さあ、この切り札で焼き尽くさせて貰うよっ!」
腰部に、光が点る。
それを、掌底で、押し出すようにして――打ち込む!
「が‥‥ああああああ!」
光がデビル級を焼き尽くす直前。
最後の力を振り絞って、放った、最大級の『振動』。
それは近距離にいた、全ての機体を飲み込んだ。
かくして人は、多大な犠牲を払いながらも、この強敵に勝った。
だが、世に現存するデビル級は一体ではない。果たして幾らの犠牲を払えば、この地獄は、終わるのだろうか――
「――って言う夢を見たんだけど、本当だったらよかった!」
四月二日。チルルが、とある教室で、がっくりと肩を落として居るのが、何人かの生徒に目撃されたと言う。
世に事も無し。されど、予兆は往々にして、思いも寄らぬ所にある物なのである。
果たして今回の夢は、何かの予兆か、それとも――