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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/03/04


みんなの思い出



オープニング

●???

「皆、揃いましたね」
「ロイよ。ワシらを呼び寄せた、と言う事は、まさか――」
「はい。ご推察の通り、準備ができました。先の岡山の乱で捕獲した人間たち。その全てを交換に出す事となりましたが――入手、できました」
 ロイと呼ばれた男。ヴァニタス集団『八卦』が一人、『湖』のロイは、普段の人をからかう事が大好きな彼らしからぬ、真剣な表情を浮かべていた。
「だが、この作戦の実行は、即ち我らが滅びる事を意味します。――その為に、最後の心残りを断つために、準備期間も兼ねて皆様に猶予を与えました。――作戦への異論は、ありませんか?」
「ちっ」
 舌打ちしたのは、『火』のバート。
「心残りが無いと言えば嘘になる。けど、アレで失敗したのは、俺自身の責任だしな。‥‥何より、守備が厳重な所に入れられた今じゃ、確実に殺せる自信はどうやってもねぇ。‥‥その点、じいさんならまだ機会があるかもしれねぇな」
 他の八卦にも、頷く者は多く。
 それを確認して、ロイは、宣言する。
「――それでは、我らが主、三崩様を復活させるために。――我らが命を、捧げましょう」


●振るうその刃

「……兄さん」
 兄が、撃退士たちの前に斃れた。
 その事実は、一心同体であったはずの彼にも伝わっていた。

 だが、兄は奮戦した。その終わりに、力及ばずに――斃れたのだ。
 そして、それと引き換えに、炉自体はは守り切った。
 ならば――自身もまた、役割を果たすべきだ。

 巨大な炉を背に、彼が地面に突き刺した刃に、周囲から、金属片が集う。
 ヴァニタス『地』のレオンが選んだ戦場は――ジャンクヤード。足場が悪いこの場は、逆に『雑物』を武器へと変える彼には――都合が良い。
 地面の下から、腐りかけた手が伸ばされる。次々と、グールたちが、地表へと這い出る。
 儀式が開始される前に、レオンは準備していた。十分な数のグールが準備できるように。
 彼の能力は搦め手が弱く、基本能力に依存する部分が多い。それは能力が低下する「儀式」自体とは相性が悪い。
 ――故に、彼は十分な『準備』をした。己の能力が弱まるのならば、事前に己を守る兵士を増やせばいい。
 彼にもまた、自身を犠牲にする覚悟はある。故に、彼は――彼の持つ最強の技を、解禁した。

「さぁ来い…!僕は――ここを、守り切る――!」
 大剣に、周囲の雑物が一斉に集う。それが形成したのは…巨大な剣。それは斬城刀よりも大きく。更に鋭く。
「斬国刀――来いッ!」

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リプレイ本文

●Hell of Flame and Poison

「ヒャハー!グールは消毒だー!」
 高笑いを上げながら、飛行形態を展開したたラファル A ユーティライネン(jb4620)。
 撃退士の中で最も高い『反応速度』を持つ彼女は、その利を利用し。味方が前進を始めるよりも前に、レオンの頭上を取る。
 両手の指先から放たれる炎が、地上を一気に焔獄と化して行く。
「ちぃっ――!」
 咄嗟にグールの盾を掴み、火炎を回避するレオン。だが、この技――『ビホルド』では自身のダメージは防げても、八卦炉が焼かれるのを防ぐ事は出来ない。彼にとって唯一幸いなのは、厚いジャンクの層が盾と成り、それ故に下にあったグールのダメージは軽かったと言う事か。
 ラファルの攻撃に乗じ、移動力に余裕のあったルドルフ・ストゥルルソン(ja0051) がジャンクからジャンクへとカバーの間を移動しながら、レオンの背後へと回りこんでいく。
「そこまでしても尚、主の復活を望みますか……。なら尚更、それを果たさせる訳には行きません」
 銃撃による連射を行いながら、前進していくレイラ(ja0365)。それを更にグールの盾でレオンは防ぐが、幾ら防御に優れるとは言え範囲攻撃を防ぐ為に二倍のダメージを受けたグールが、更なる掃射に耐えられる筈も無く、それはそのまま物言わぬ死体へと変わる。
 雪室 チルル(ja0220)、龍仙 樹(jb0212)、そして虎綱・ガーフィールド(ja3547)がそれぞれ各自の位置取りを行う為前進する中、更に炎の弾が放たれる。
「最後の役目…ウチらが砕いてやる」
 黒夜(jb0668)が掌を大きく広げると、それに操られるかのように空中の炎の弾が分裂し、流星のように降り注ぐ。然し、距離の関係で狙われたのはレオンのみ。目標にロックする必要があるこの技ではジャンク下のグールは狙えず、僅かながら八卦炉には届かない。
 拳を強く握ったその瞬間、周囲の炎弾は、一斉にレオンに向かっていく!
「んぐ…っ!」
 苦悶の声を漏らすレオン。大剣でのガードに成功したとは言え、伝わる熱は依然と彼の体を蝕んでいく。
 だが、彼とて、ただ攻撃を受け続けるだけではない。
「‥‥ああぁぁぁぁぁぁああああ!!」
 絶叫と共に、周囲から集まるジャンク。それを固めて弾丸とし――放つ。飛び散るジャンクの破片が、チルルと黒夜を等しく傷つけていく。重装備のチルルの傷はそれほどではない。だが、軽装の黒夜はそうは行かない。
「落ちろよ!!」
 開いた肩部装甲から、無数のミサイルを射出するラファル。着弾する瞬間、それは無数の重力球と化し、範囲内の者の動きを阻害する。
 無論、当たればそれは味方の行動をも妨害してしまう事になる。故に慎重に、彼女は攻撃する範囲を選んだ。
 だがそれは、同時に多くのグールを撃ち漏らしてしまう、と言う事をも意味する。

 ――爆煙が晴れた時。そこには、レオンの姿も…八卦炉も、無い。
「りゃぁぁぁ!」
 叫びにラファルが見上げれば。そこには、跳躍したレオンの姿。剣を地面に刺し、棒高跳びを行ったのか。そして、その剣には――

 ――八卦炉が、装着されていた。

 考えてみればありえない事ではない。八卦炉とて生き物ではない――即ち無機物。そしてレオンの『斬国刀』は、無機物を吸い寄せて剣を構成する。『八卦炉を吸い寄せても』何ら不思議はないのだ。
 振り下ろされる巨大な剣――最早巨大なハンマーと言えるそれを、信じられない程の機動力を発揮し、間一髪で回避するラファル。重力に引かれて、そのまま地面に向かって落ちて行くレオン。着地の瞬間、斬国刀の重量から周囲のジャンクが巻き上げられ、軽くなった地面から、ゆっくりと這い出るグールたち。
「隙あり‥‥っ!」
 背後から襲い掛かったのは、機を伺っていたルドルフ。放たれる裏拳は、完全に虚を突き、レオンの後頭部に命中する。
 ――だが、それは『フェイント』の筈であった。
 奇襲なのであれば、フェイントや牽制の類は、寧ろ逆効果となる。
 フェイントは敵の注意を引きつけ、別の行動から注意を逸らす為のもの。故にそれ自体が『私が来た』と敵に報せる様な物で、奇襲のコンセプトと相反するのだ。本命の蹴撃は、僅かに体を逸らしたレオンによって回避されてしまう。
 直後、瞬速の一閃が、背後から彼を断つ。それは同時に、二体のグールをも斬っていたが…流石に、一撃で完全に倒すには至っていない。
 振るったのは――チルル。
「カインはもういない!後はあんただけよ!」
「ああ、そうだ‥‥だから――」
 地面から伸ばされる手が、ルドルフ、そしてチルルの足を掴む。二人とも直ぐにそれを武器で切断するが、僅かに脱出が遅れたその隙に、レオンは次の手を発動していた。
「――僕は、兄さんと同じように、三崩様の復活にこの命を賭けるッ!!」
 パチンと指を鳴らすと同時に、周囲のグールの死体が、一斉に爆発する。
 毒ガスが周囲一帯を包み込み、ルドルフ、チルル、そして接近して隙を伺っていた樹を同時に巻き込む。
 だが――これに乗じた者も、また居る。

「チャンスでござるよ!」
 即座に全速で駆け出し、斜め後方から一気に距離を詰める虎綱。そのまま放出される毒ガスを物ともせず、跳躍する。
「こんなん、一回目しか決まらないでござるがね…っ!」
 足先に、アウルを集中させる。空中から雷撃を乗せた蹴撃が、レオンと、その剣に載せた八卦炉を同時に狙いそして――
「突破ァ!!」
 一気に、貫く!
「ぬぐぅっ――!」
 ダメージは小さくない。然し――
「まずいな…」
 本来なら追撃すべきラファルは、それが出来ずにいた。何故ならいまここでミサイルを落とせば、味方を巻き込んでしまうからだ。四方に味方が居る状態で、これを巻き込まずにミサイルを叩き込める場所は――無かったのだ。
 即座に接近し、火器コントロールシステムを切り替える。が、その間に四方から這い出したグールが、更に近寄る。

「――邪魔ね」
 それを薙ぎ払ったのは、暮居 凪(ja0503)であった。


●The Truth・The Will

 『眷属殲滅掌』を持つ凪が放った二発の気合の砲撃は、集まろうとしたグールを打ち払った。
「邪魔はさせない」
 残ったグールの一体を、樹の放った光弾が打ち抜く。凪の足元に集うグールの手を、更にその魔道書から放たれる光弾が焼き、行動を妨害される事を防いだ。
「やっと話が出来そうね」
 武器を僅かに下ろし、軽蔑を込めた眼差しを、レオンに向ける。
「‥‥あー、レオン、というのだったわね? 分かってるとは思うのだけれど。八卦炉は貴方を燃やすモノという事は理解しているのよね?」
「ああ、無論だ‥‥覚悟は出来ているッ!」
 次に浮かんだのは、やれやれ、と言った表情。
「私が言えたことでは無いけれど。貴方の復讐は結果を出していない。兄を殺すことを企んだ人を殺せていないわ。それなのに何故、その装置にその身体をくべられるの?」
「僕を救ってくれた大恩ある三崩様を救うためだ」
 さも当然のように答える彼に、冷ややかに笑う凪。
「順序を間違えて守るだのと。悪魔に甘えてるのかしら? 馬鹿馬鹿しい。そんな囮に十分すぎるものを貰いながら、本当の自分の目的にも使えないだなんて。八卦炉を棄ててレニーのところにでも行けば、その命は取れたでしょうに」
「‥‥貴様らが、あの者たちを‥‥保護した事はロイが調べた‥‥その護衛が‥‥如何に厳重で、手の内が知れた僕らでは‥‥攻め込みようがないのかも」
 僅かながらの悔しさが、声の端からは滲む。
「一度‥‥死んだ身である‥‥僕たちには、これ以上の‥‥成長は‥‥‥‥望めない。バートやロイ、轟天斎は‥‥色々考えていたようだけど、それでも‥‥三崩様から‥‥借りた『力』は‥‥これ以上成長しないんだ」
「いいの?そんなぺらぺら喋って」
「構わない‥‥どうせ後4分ほどの命‥‥」
 大剣を握る手に、力が篭る。
「だからッ!僕は三崩様に全てを託すッ!必ず復讐を、代わりに果たしてくれると信じて――」
「くだらないわね」
 まるで興味がないとでも言うかのように、凪はそれを切り捨てた。
「己の手で行わない復讐等、意味があるの?ただの取引ならば目的のために取引を破壊する事も辞さない、そういう思いこそが激情。復讐につながる感情でしょうに」
「何とでも‥‥言うがいい。三崩様が目覚めた時、それこそが‥‥あいつ等の悪夢の始まり‥‥」

 ドン。
「卑怯だというなよ、戦闘中に無駄話する方が悪い」
 炎の刃がレオンの背後に激突し、爆発する。地面に潜む『影』より、それを放ったのは黒夜(jb0668)。即座に再度潜行し、別の方角から炎の刃が放たれる。今度は潜行を予期していたレオンの大剣に受け止められてしまうが、それは他者の攻撃から注意を逸らす為。
「今度は外さねーぞ!!」
 後方から、加速をつけ、跳躍したルドルフ。脚部に纏いつけた帯が解け、螺旋を描く。
 それは決して、縛りが甘かったからではない。噴出する余りの魔力に、解けたのだ。
 前方ムーンサルトで更に回転をつけ、全魔力を込めた強烈な踵落し――『砕氷閃』が、レオンの後頭部に叩き込まれる!
「がっ――」
 強烈な一撃は、レオンの意識を一時的に刈り取る。そして、その機を逃さず――凪が、仕掛ける。

「話はもう終わりね。――失望したわ」
 全ての力を、天界の方に傾ける。全ては敵を滅す為。突き出される純白の槍は、一直線に、体ごと光の矢と化してレオンに襲い掛かる。
 だが、直後。
 パァン。
 レオンの隣に居たグールが、猛然と彼の頬を張り、彼に意識を取り戻させる。
 前回に眠らされた。その教訓から、グールに仕込んでおいた『命令』。それが、レオンを助けた。
 防御の為構えられる巨大な剣。然し純白の槍と激突した瞬間、その一部が欠ける。槍は大剣を貫通し、その切っ先がレオンの右胸に突き立てられる。
「く‥‥うぉぉぉぉぉぉ!」
 如何に大剣で受けたとは言え、天界に傾いていたその極まった一撃は、与し易い物ではない。
 突き刺さった槍先から流れ込むそのエネルギーに身を焼かれ、激痛に耐えながらも、強引にレオンは大剣を横に振るう。
「逆行ォォォォォ!!」
 ――大剣の纏う引力を最大限まで駆動。奪い取るように、槍を強引に凪の手から奪い取る。

 ――その瞬間、樹が動いた。
「待っていましたよ!」
 魔道書のページが、高速で捲られる。まるで独りでに動くかのように。
 愛する者――共に、レオンを追ってきた者に渡された、その魔道書。その全てを開放して、樹は白銀の騎士を召喚する。
「レオン‥‥貴方の悪夢を断ち切ります」
 冷たい宣告と共に、彼はレオンを指さす。まるで白銀の騎士に、攻撃を命じるが如く。
 命を受けた白騎士は、一直線にレオンに突進し、腰の剣に手を掛け――一閃!
「‥‥!」
 両断されたのは、グール。
 樹は、情報を違えていた。『逆行』は、回避不能、防御不能のペナルティを及ぼさない。それ故に――『ビホルド』の使用に、支障を及ぼさないのだ。
 若しもこれが『相殺斬』の瞬間を狙っていたならば、レオンは回避する事が出来ず――白騎士の一閃は直撃していただろう。だが、グールで阻む事が出来た故に。白騎士の一閃はグールを両断し、レオンの頬を掠めたに過ぎなかった。
 断ち切ったグールの体の間から、レオンの姿が覗く。その手には逆手に持った大剣『斬国刀』。全身のバネを引き、既に攻撃の構えに入っている。
「まっじ‥‥!?」
 警戒していたルドルフは、即座に身を引き、範囲内から脱出する事に成功した。だが、残りの者はそうは行かない。
 ――『斬国刀・逆行』は対抗スキル扱いである。次の一撃に、前に喰らった攻撃の力を乗せる物。そして『斬国刀』本体による攻撃は、範囲攻撃である。
 横に回り込もうとしたチルルは、斬国刀の一撃の範囲から脱出できた物の、そのカバーしている余りの大範囲から移動が大回りにならざるを得ず、背後、サイドは取れず斜め前方に着地する。
 足元への猛攻を仕掛ける虎綱は、それにより僅かにレオンのバランスを崩し、剣閃をかすめる程度にとどめた物の――防御に優れない彼は、その『掠めた』状態のみでも相応のダメージをダメージを受けていた。
 そして、その一撃が本来狙っていた、樹は――

「‥‥っ!!」
 本から魔力が迸り、彼自身の光と闇のバランスを元に戻す。
 更に本を構え、一閃を受け止めんとする。
 ――だが、本という物は、受けに向かない。盾ならば兎も角、元々受けの為の兵装ではないそれで、軽減できるダメージには限りがある。更に、彼は既に毒霧に飛び込み、その毒に体をある程度蝕まれていた。彼はある程度こう言った状態異常には抵抗があったが――必殺の一撃を狙うため長居しすぎた、といわざるを得ない。
 猛烈な薙ぎ払いは、足元のジャンクをも崩し。彼を、グールの群れの中に押し込んだのであった。


●Removing the Armor

「はぁ‥‥はぁ‥‥っ」
 如何に殆どは受け止めたとは言え、序盤に受けた範囲攻撃の余波に、撃退士たちの数々の大技。
 樹を薙ぎ倒したレオンの状況も、芳しいとは言えない。
「興冷めね。‥‥仕事終了、帰るわ」
 それを見た直後、薙ぎ払いにより弾き飛ばされた自身の槍を受け止め、回収した凪が、そのままレオンに背を向ける。
「甘えに応えるような温い悪魔なぞ、数でいくらでも磨り潰されるでしょうから」
「フフ‥‥そう考えてくれる人がもっと多いなら、僕も‥‥楽だ。 貴様らの相手をしなくても目的を達成できるのだから」
 それをレオンが阻害する素振りはない。彼の目的は、飽くまでも八卦炉を守りきる事。
「おい‥‥ちょっと待て!」
 仲間の声はその耳には入らず。凪は――戦場を離脱した。

「ったく、ちっと待ってろ…!」
 空中を飛行していたラファルが、虎綱の隣に降り立つ。姿を隠す為の粒子を彼に付着させ、その傷を癒す。
「そこかぁぁぁぁ!」
 放たれる岩弾。回避に優れる虎綱とラファルは何れも飛び散る破片を回避するが――破片の密度から、距離を離す事を余儀なくされてしまう。
 ドン。直後、背中に炎の刃を受け、つんのめってしまう。黒夜だ。
 然し、レオンはそれを気にする素振りはない。撃退士たちの目的の為、技を温存し、隠蔽しながら奇襲を仕掛ける黒夜は攻撃力を上げる事は出来ず、レオンにとっては『優先度が低い』。
 他にもっと脅威となる撃退士はいるし、そうでなくとも明確な目標があるのに、隠れて回っている目標を狙う必要は無い。

 岩弾を放つと共に、同時にその反動を利用して、八卦炉を吸着した大剣と共に後方へ跳躍するレオン。彼が今回執った作戦は、八卦炉を大剣に吸着する事で『移動可能』にして、常にグールの残る方角へ移動し続ける事。然し、その着地を狙い、一気にレイラが肉薄する!
「援護するよ」
 回復を行った直後であるラファルの指が、レオンを指す。肩のランチャーから放たれるミサイルが、四方からグールを爆撃せんと襲い掛かる。
「待ってたぞ――うぉぉぉぉぉ!!」
 方向と共に、レオンの大剣がレイラの方に向けられる。ジャンクを遮蔽物として使い、死角からの接近を狙っていたレイラだったが、レオンの剣は遮蔽物たるそのジャンクを吸い寄せる。簡単に排除される遮蔽物は、遮蔽物足り得ない――彼女の前の、そして足元のジャンクで挟み込むようにして、レオンはレイラをミサイルの範囲内に引きずり込んだ。
「く‥‥ぅっ!!」
 爆撃は、彼女とレオンを等しく襲う。一緒に吸い寄せられたジャンクが壁となってダメージは軽減された物の、それはレオンも同じ。爆発を免れた彼が大剣を上段に構えるのを見、レイラもまた――最後に一矢報いる為、隠れて右手に武器を握り込む。
 縦に振り下ろされる剣。横に振りぬかれる隠し武器――ワイヤー。
 そして、レオンの動きを止めるのと引き換えに――レイラは、倒れたのであった。

「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 虎綱をある程度回復させ、再度飛行ユニットを展開して空中に舞い上がったラファルの息は、少し荒い。彼女もまた、虎綱を回復させる為に近づいた際に、毒気を吸い込んでいた。
 ――グールの爆発によって発生する毒は、ゆっくり体力を削って行く故に、即座に脅威になる物ではない。だが、攻撃力をどんどんと増加させるレオンの前では、その僅かな差が『耐え切れるか』の分かれ目となる。加えて、ラファル以外は、体力を回復させる用意はしていない。故に――一度はチルルなどの努力もあり、グールの粉砕によって撃退士たちの方に傾いた戦いの天秤が、ゆっくりと元に戻っていく。
「ええーい!」
 虎綱による雷撃を纏った蹴撃が、今一度レオンを襲う。それを受けたレオンの全身に雷撃が伝うのを見た瞬間、ルドルフが駆ける。
「踏めるなら‥‥そこは俺の領域なんだよッ!」
 目の前には、樹が落ちた、ジャンクの穴が。それを強引に、中に居るグールの頭を踏みつけるように、飛び越える!
「最後の審判にはまだ早ぇ‥‥止まりやがれ!」
 空中で縦回転して勢いをつけ、右足に魔力を注ぎ込む。狙うは踵落とし。先ほど一瞬なりともレオンの動きを止めたこれならば、グールの助力の無いレオンを今度こそ完全に止められる。そうなれば、フリーに炉を攻撃できるかもしれないのだ。
「‥‥っ‥‥崩れろォォ!」
 大剣を、全力で振りおろすレオン。その剣を構成していた物質が弾け飛び、巨大な壁となってルドルフに襲い掛かった。
「まじかよ!?」
 全力で回避するが、巨大な八卦炉ですら混じったその土石流は、ルドルフのスピードを以ってしても回避しきれない。押し流され、距離を離されてしまう。そして着地しようとした、その瞬間。
「来い、斬国刀――!」
 引き寄せの目標は、ルドルフが着地しようとした地点。空中での制動を考慮していなかった彼は着地地点は変更できない――!
「いちかばちかだ――!」
 強引に、グールの頭を狙い、足を突き出す。その顔を踏みつけて再跳躍するつもりだ。
 足がグールの顔に食い込む。だが、下半身のバネに力を込めて、跳躍しようとした瞬間、ルドルフは異変に気づく。

 ――脚が、挟み込まれた。

 見れば、グールは顔をぐしゃぐしゃに踏み潰されながらも、僅かに残った歯で、ルドルフの足に噛み付いていたのだ。
「この――!」
 逆の足で猛烈にグールを蹴りつける。だが、耐久力に優れるグールは、一撃で倒れるとまではならない。そして、その僅かな時間の間に、周囲のグールたちもまた――彼に、つかみかかっていた。


●The Slash

 ドコン。
 レオンの背後に炎の刃が突き刺さり、そして黒夜は、返された岩弾をその身に浴びる。
 直撃は回避しており、故に致命傷ではなかった物の、ダメージも小さいとは言えない。
「‥‥これ以上は‥‥!」
 黒夜まで倒れれば、今度こそ八卦炉の破壊は不可能に近づいてしまう。再度降下し、ラファルが彼女に近づいて回復を施す。だが、その足元は‥‥岩弾の影響で、ジャンクの多くが弾け飛んでいた。
「!」
 奇襲の如く、伸ばされた手がラファルの足を掴む。本来、動きの鈍いグールが、絶対的な回避率を持つ彼女に掠めることすらほぼ不可能だろう。
 だが、回復の為地上に降りた事、そして突如としてジャンクの中から手が伸び、奇襲になった事で、それが成し遂げられたのだ。
「はぁぁああああ!」
 大剣を引きずるように、レオンが駆ける。範囲攻撃を得意とし、圧倒的な回復力を持つラファルを捉えるには、今しかない。猛然な横振りが、黒夜諸共、ラファルを捉える!
 ――回復甲斐もあり、更に攻撃を受ける瞬間黒い闇の鎧を展開した黒夜は、ギリギリで意識を失う事だけは避けた。だが、元々装甲が薄い上、装備の関係で体力も低いラファルはそうは行かない。
「くっそ‥‥がぁ‥‥」
 武装ユニットを開放し、それをレオンに向けたまま、ラファルは意識を失う。

「そこっ……」
 周囲を冷気が包み込む。
 戦況の不利を見て――チルルが、奥の手の使用を決断したのだ。
 両手を合わせた瞬間、冷気が周囲の水分を氷結させ、剣の形を成す。そのまま、合わせた両手を包み込むように、剣はどんどんと大きくなっていく!
 見計らったのは、壁崩しが使われた後、まだ再使用するにはサイズが足りない状態である、この一瞬。全てのグールが近辺から排除され、レオンの防御が無くなったその瞬間。
 剣を引くようにして構え、一気に距離を詰める。だがその瞬間、レオンもまた構える。
 周囲の土塵が、一斉に彼に集まる。それが、『相殺斬』の前兆であると、チルルは知っていた。
「上等っ!このまま風穴を開けてあげるわ!」
 構わずに、彼女は突進した。それに合わせて、レオンもまた。

 ――一閃。
「ぐ‥‥ぉ‥‥」
 レオンの胸に空いた穴から、冷気が流れ込み、彼の体が氷に覆われていく。
 それでも尚、動く腕だけをチルルの方に向け、岩を掌に集めていく。
「往生際――悪いでござるよ――!」
 疾風。
 一陣の風と化したそれが止まった時、そこに居たのは虎綱。防御をも貫く瞬速の一閃は、レオンの首筋を引き裂き。その命脈を絶っていた。
「三崩様ッ!!!後は――」
 体が、光の粒子に変わっていく。言葉が終わる前に、八卦が一、『地』のレオンは――この世から、消滅したのだった。

「大丈夫でござるか!?」
 その虎綱が振り向いた瞬間。チルルもまた、崩れ落ちていた。
「あたい‥‥の‥‥勝ち‥‥ね‥‥」
 その胸には、横一文字の深い傷が刻み込まれていた。


●The Ritual

 レオンは斃した。が、残る撃退士もまた、虎綱と黒夜のみ。
 ――回復が不十分な状態では、毒による削りダメージと言えども、軽視すべきではない。それが‥‥多くの撃退士の戦闘不能を招いたのだ。
「これで‥‥打ち止めでござるよ!」
 虎綱の疾風の一閃が、八卦炉を大きく揺らす。
「壊れろ――!」
 体に残った最後の力を励起し、限界を超えた魔力として放出する黒夜。
 防御を貫く虎綱の一閃と合わせ、これは大きく炉を揺らす。或いは行けるか、と思った、その瞬間。
「ぐっ…!?」
 黒夜が倒れる。
 ――周りに敵は最早残っていない。故にこれが『敵の攻撃』であると言う可能性は、ありえない。
 ならば残る可能性は一つ。――『毒』だ。彼女もまた、毒にその身を犯されていたのである。
 その状態で、火事場の力が出せる状態まで体力が減っていたのであれば――どうなるかは、自明の理であろう。
「くっそ‥‥動け‥‥あと少しなんだ‥‥!」
 必死に体を動かそうとするが、それは叶わない。
 奥の手を撃ち尽くした虎綱もまた、全力で炉を蹴り付けるが、防御を貫通する一撃と同等の威力を出す術は無い。
 ただ時間が流れて行き、そして――

「間に合わないでござるか‥‥!」
 最後の蹴撃と共に、光の柱は、立ち上ったのだった。

 ――残る八卦は、火のバートと並ぶ『八卦最凶』、『湖』のロイ。
「レオンが逝きましたか‥‥さて‥‥私も、死地へと向かいましょうか」
 目を閉じ、その姿は静かに消えた。

「『最凶』の遊戯、お見せいたしましょう。三崩様。我らの無念は‥‥貴方に託します」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
重体: 銀閃・ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)
   <グールの海に落下>という理由により『重体』となる
 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
   <相殺斬との相打ち>という理由により『重体』となる
 202号室のお嬢様・レイラ(ja0365)
   <味方の範囲攻撃に引きずり込まれ>という理由により『重体』となる
 護楯・龍仙 樹(jb0212)
   <斬国刀・逆行の直撃を受け>という理由により『重体』となる
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
   <回復の隙を狙われ纏めて薙ぎ払われる>という理由により『重体』となる
面白かった!:5人

銀閃・
ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)

大学部6年145組 男 鬼道忍軍
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍