.


マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/05/13


みんなの思い出



オープニング

「ええ‥‥ご推察通り。あの男、秋月 無幻は‥‥私の夫でした」
 久遠ヶ原学園、空き教室の一つ。前回の『山』のムゲン襲撃の事件の際、撃退士たちによって救出、保護された女性‥‥秋月 遥は、事情聴取のため呼び出されていた。
 その目に僅かな悲しみを浮かべ、彼女は下を向く。

「では、何故あなたは、夫を‥‥?」
 思い出したくない事なのは、理解できた。だが、事は深刻である。
 あのヴァニタスを止めるためにも、少しでも多くの情報が欲しいのだ。
「父が‥‥夫に殺された、と告げられたからです」

 そして、遥は、ポツポツと。ゆっくりと。事の次第を撃退士たちに話していく。
 夫が、技を高めるために、名ある剣士と「死合い」をしていた事。
 ある日、その夫ともう一人の剣士の「死合い」に、自身の父が巻き込まれ亡くなったととある者から聴かされた事。

「‥‥それを貴方に聴かせたのは、誰ですか?」
「‥‥夫の兄、です」


●岡山市内・無名道場

「誰だ?」
 和服の、中年の男が振り返る。
 道場は既に、閉まっている。既にこの道場に用がある者は、片付けをしている自分しかいない。そのはずだ。
 
 ‥‥背中越しに、気配を感じる。
「道場破りか? 悪いな。皆もう帰った。また明日来い」
「久しぶりだ。兄上」
「っ!?」
 背中から発せられた一言は、男を驚愕させ、振り向かせるのに十分であった。

「‥‥何故、お前が‥‥」
 後ずさりながら、咄嗟に隣にあった刀を手に取る。
 彼とて武芸者。数々の鍛錬が、彼の命をこの場で一旦救ったと言っていい。

 ――或いは‥‥一撃目で殺すつもりが、その敵には無かった、と言うべきか。

 キン。
 その目の前に立った姿は、動いていないように見える。だが、金属のぶつかりあう音と、目の前で真っ二つに折れた刀だけが、『攻撃が成された』事を示している。
「っ!?」
 中年の男は、信じられない、とでも言うかのように折れた刀を見る。
 これは既に人間業ではない。例え、本当に目の前の影が、天才と謳われた、あの弟だったとしても――

「‥‥兄上。私を陥れてまで得た当主の位について尚‥‥その程度の実力しか、持ちえないのか?」
 月光を反射し、煌く白刃。
 それを遮るように、降下する撃退士たち。
「‥‥また、貴様らか‥‥」
 影――ヴァニタス、『山』のムゲンの顔に、僅かに忌々しそうな表情が浮かぶ。

 事前に既に、切断していたのか。
 彼の刀の一振りで、道場が崩れ始める。
 かくしてこの道場は、出口無き死闘の舞台と化したのだった。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

●Deathmatch

「‥‥っち、やってくれるじゃねーか」
 瓦礫によって閉ざされた道場を見回し、ラファル A ユーティライネン(jb4620)は舌打ちする。
 出口はと言えば、上方。自分たちが降りてきた穴のみだ。
「出口が無いなら、開ければ良い。‥‥皆、援護を頼むぞ」
 気配を薄めたまま、呟くケイオス・フィーニクス(jb2664)の言葉に、撃退士たちは頷き、それぞれの持ち場へと向かう。

「先手必勝です!」
 落下の勢いのまま、空中で雷撃を身に宿し。一直線にカーディス=キャットフィールド(ja7927)が飛び込む。しかし、落下する位置の関係から、ムゲンの正面からの攻撃となってしまったこの一撃は、不意打ちの効果を発揮できず、体を横に倒したムゲンに回避されてしまう。

「四の五の言うのは、性に合わないからね!」
 大太刀を抜刀。ワンモーションで神喰 茜(ja0200)が、目の前に立つヴァニタスへと飛び掛る。
 振るうと見せかけた刃はフェイント。本命は、左手の掌底の一撃。先ずはヴァニタス――ムゲンをその場から動かし、その最大の特徴でもある『不動の構え』を解除させるのが目的だ。
「‥‥二度も同じ手は‥‥食わん!」
 ムゲンの左の刀の峰が、跳ね上がるようにして突き出された左手を下から弾く。同時に突き出された右の刀が、茜の脇腹を抉る。彼の剣術の一つ‥‥攻防一体の『裏刃返し』だ。
 追撃を警戒し、後ろに跳ぶ茜だったが、振り上げられたムゲンの左刀は空を斬り、真空の刃を作り出し――彼女ではなく、幽現の方へと向かう。

 ドン。
 爆発と共に、その風の刃は盾に阻まれる。
「あなたを周りの人が裏切った、それは腹立たしいことでしょうね」
 構えられた、白と黒の盾。僅かにそれを下げ、レグルス・グラウシード(ja8064)は、目の前のヴァニタスを睨みつける。
「でも‥‥天魔になったあなたが人間を殺すのが、正しいとは思わない!」
「ほう、ならばどうする?」
「あなたを止めます‥‥! だって、僕は撃退士だから!」
 確かな信念を以って、盾は構えられた。
 その後ろで、黒の翼が、舞い降りる。気配を消し、可能な限り接近を悟られないようにしながら、ケイオスは幽現をその場から引き上げ、担ぎ上げる。

「前回の屈辱、忘れはせん‥‥が、我には我の役割があるのでな」
 小さく呟いたそれは、無論ムゲンには届かない。隠密行動を取る者には、己の姿を示す全ての行動は厳禁なのだから。闇の翼を広げ、悪魔は空を舞う。
 だが、纏いし黒き闇は、ケイオスの姿、気配は隠せても‥‥一般人である幽現を覆い隠すには至らない。幽現が動き、ケイオスによって『空に浮いた』幽現は、この状況では余りにも目立ちすぎていた。
「またもや小細工か‥‥小癪な」
 ヴァニタスには人間と同様の知恵がある。故にこの場で、弁えるべき優先事項は理解していた。
 自分へと向かって来るラファルにあえて対応せず、両刀が振るわれる。交差する風の刃が作られ、一直線に幽現へと向かう。
「っ‥‥届か‥‥っ!?」
 空を舞った事で、空挺が出来ないレグルスが幽現とケイオスをガードする事は出来なくなっていた。元より防御、回避面よりも攻撃を得意としていたケイオスに出来る事は‥‥己の体で、幽現を守る事のみであった。

 ドン。鈍い音を立て、ケイオスが墜落する。身を挺したお陰で幽現には負傷は無かったが‥‥二発の風刃を受けた体に、墜落の衝撃が加えられた事実は‥‥彼の戦闘継続の不可能を意味していた。
「‥‥頼んだぞ」
 短く言い放ち、幽現をレグルスの元へと推す。


●Chain Combination

 だが、この行動は、撃退士側に利が無かった訳ではない。
 先にムゲンが風刃を放ったと言う事実は、即ち彼の守りの要である『裏刃返し』が使用不能になった事を意味する。
「よそ見すると、死合いは楽しめないよ?」
 この機に付け込んだのは、先ほど一撃を防がれた茜。
 太刀を片手に持ち、切り上げでムゲンのもう片方の刀を弾き上げる。
 がら空きのボディに、もう片手で掌底が叩き込まれる。
 衝撃に後方へと吹き飛ばされるムゲンの首を狙って、一発の弾丸が飛来する。
「キョーダイ喧嘩は駄目なのー! 」
 無邪気なその言葉。しかし、その殺傷力は本物だ。飯島 カイリ(ja3746)の放った光の弾丸が、その首に迫る。
 弾きあげられたその刀を、無理やり下ろして首の前に立て。
 ムゲンはアウルの弾を両断してそれを防ぐ。首という小さなターゲットを狙うが故に、弾道が見えやすくなっており、それ故に防げた、とも言える。
 だが、背後から忍び寄るもう一つの影に。彼は気づくのが遅すぎたと言える。

「待っていたぞ、この時を」

 前回の依頼に、ラファルは参加していなかった。
 故に彼女の能力は、ムゲンにとっては未知数。彼女は、その事実を最大限に生かす事を選択した。
 先ほど直線的に突っ込んでいったのも、ケイオスの援護と言う意味合いも無論あったのだが‥‥猪突猛進タイプと言うイメージを、ムゲンに植えつけると言う意味合いもあった。
 背中合わせに立ち、ムゲンの首筋にワイヤーを掛ける。
 静かに、音を立てずに。背負うようにして、ムゲンを一気に締め上げ、首を切断しようと――
(「‥‥違う!?」)
 僅かな手ごたえの違いに気づいた直後。脇下から刀が突き刺される。
「いい攻撃だ。‥‥準備行動がなければ、もっと‥‥な」

 ――脇下とは人体の急所の一つ。心臓に近く、血管が集まり。腕をコントロールする神経も集まる箇所である。
 腕の力が緩み、ワイヤーが地に落ちる。
 振り向いたラファルが見たのは、刀を首の前に立て、ギリギリで完全に首にワイヤーが食い込むのを防いだムゲン。
 首にワイヤーをかけるためにワンステップを要し、攻撃行動に気づかれ‥‥背中合わせになったが故に反撃が見えなかったのだ。
「死合おうか、無幻」
 空気を裂く、鳳 蒼姫(ja3762)の蒼の雷撃が、振り向いたムゲンを後ろから強打。ラファルへの追撃を止める。
「そこで止まって‥‥もらうよ!」
 飛び込んだ茜の薙ぎ払いは、しかしまたもや『裏刃返し』に阻まれる。刃を床へと流すように受け流され、その衝撃は道場の床板を割るに至る。返された刃を、首の皮一枚でかわすが、縦に振り下ろされたもう一本の刀による風の刃が、彼女ごと、遠くにいる幽現を狙う。
「‥‥まだまだっ!癒せ、僕の力よ!」
 盾を構え風の刃を四散させた後、即座に自分にライトヒールを使用し体力を取り戻すレグルス。

 攻撃を受けた茜の横から、ファリス・フルフラット(ja7831)が前へ出る。
「ここで、止めさせていただきます」
 カーディスが放った、雨霰のような手裏剣の弾幕に乗じ、一気に接近。前回傷つけられた片腕を狙い、それを切り落とすべく双剣を振り下ろす!
 ぬるり。
 武器を振るい、動いている腕に攻撃を当てるのは、決して易しい事ではない。前回の一戦で蒼姫が成功したのは、茜とカーディスの捨て身とも言える援護により両腕の動きが止められたからこそだ。
 その援護がない今回のファリスでは、確実に当てることは出来ず。
「これなら‥‥どうだ!」
 ギミックを用い、伸ばされた双剣は、間合いを計り間違えたムゲンの肩を抉るが‥‥それまでであった。
「‥‥お前さんと言い。先ほどの暗殺嬢と言い。久しぶりに楽しめる事になりそうだ」
「見えます‥‥今度は前のようには」
 振り上げられる刀を、持ち前の回避力でバックステップしかわす。僅かに胸元の服を切り裂かれるが、気にする事は無い。


●Fight with the Time

 状況は、膠着に陥っていた。ラファル、ケイオスが共に倒れた今、残る撃退士は六人。
 その内レグルスはガードと回復に徹しているため、実際に猛攻を仕掛けているのは五人だ。
 誰一人として、万一ケイオスが倒れた場合に幽現を運び出す用意をしていなかった事。そして、猛攻でムゲンを退けるためには、多くの小さな状況の食い違いがあった事が、この状況の理由であった。
 
 ――茜の薙ぎ払い、掌底は何れも裏刃返しで受け流されているが故に。不動の構えによって、状況は段々と、撃退士たちにとって不利な方へと傾いていた。
「く‥‥ぅ!? 動きが早くなってる‥‥楽しいよ、ムゲン!」
 後ろに自分から吹き飛び、『裏刃返し』の斬撃によるダメージを軽減する。追撃にファリスが横から跳躍、柱を蹴り飛び掛るが、猛獣の牙の如く襲い掛かった双刃は再度、受け流され‥‥返す刃は今度こそ彼女の足に傷跡を刻む。
「僕の力よ…仲間の痛みを癒す、光になれッ!」
 戦場に吹く、癒しの風。レグルスが放ったそれは、前衛全員の傷をある程度回復させる。

 ――そう。ムゲンの体力と共に。

 無差別に癒しの魔力を運ぶ風は、至近距離に接敵していた味方と共に、敵であるヴァニタスの体力をも、回復させていたのである。
 振るわれる刃。作り出された風の刃を再度、受け止めるレグルスであったが、長時間の持久戦により既に回復の術は尽き、体力もまた、底をつきかけていた。
「そろそろ、幕引きさせて頂きたい物だ」
 茜の薙ぎ払いを受け流した後。そのまま二枚の風刃がレグルス、そしてその後ろに居る幽現を狙って襲い掛かる。蒼姫が雷撃を放つが、僅かに着弾は間に合わず、既に刃が放たれた後にムゲンを打ち据える事となる。
「やらせるか‥‥っ!」
ファリスが、その前に立ちはだかり、体で受け止めようとするが‥‥

「‥‥防御体勢ならまだしも、その程度で俺の刃が止められると思うか?」

 元より、ファリスは防御するよりは回避するタイプの撃退士だ。盾を構えたまま待ち構えているのならばまだしも、このように急な妨害で、直線範囲を持つムゲンの風裂きは防げない。
 彼女の肩を引き裂き、風の刃は進み続ける。盾でそれを受け止めたレグルスは、終に膝をつき‥‥
「――っ!!」
 二本目の風の刃が、幽現の体を、縦に真っ二つに引き裂いた。


●Final Decision

 依頼は失敗した。だがしかし、ここで引き下がるのは、撃退士たちの性に合わない。まだ半数以上の撃退士が立っている。せめて、ムゲンに手傷を――

「くっ‥‥今です!」
 機を伺っていたカーディスが、機動力を生かして急激にムゲンへ突進。背後から一刀、切りつける。
 彼の呼びかけは、同時に蒼姫への『奥の手のチャンスは今』と言うサインであった。
 魔力を高めた蒼姫。しかしここで一つ問題が発生する。
 ‥‥彼女の奥の手、魔力による花火の大爆発は、自身や味方を含め全員を巻き込む。
 ムゲンがカーディス、茜、ファリスによって包囲されており、更に付近ではラファルが倒れている現状。『味方を巻き込まずにムゲンに打ち込める』位置は、一つも存在しなかったのである。

「そろそろ崩れそうだよ〜」
 のんびりとしたカイリの声。放たれた弾丸はムゲンの脚を狙ったものの、またもや刀の腹で弾かれる。
 彼女の言葉通り、最早道場が崩れるまでに時間は無い。次に取るべき手は如何なる物か――

「隙ありだ」
 僅かに状況確認のため回りに視線を向けた。その一瞬。
 戦闘開始から今の今までムゲンに対する集中を解かなかった茜に向け、両の刀が振るわれる。
 流れるような連撃。二発までは体捌きで、かすり傷に留めるが。残る七本の斬撃が、雨霰の如く彼女に降りかかる。強引に大太刀を振り回し、片方の刀を弾き飛ばすが、しかしもう片方の刀が終に彼女の胸に突き刺さる。

 撃退士たちの半数が、戦闘不能になったこの状態。蒼姫とカーディスには撤退の意が芽生えていた。
 ムゲンへのダメージは、途中で回復が挟まってしまった事もあり、そこまで大きくは無い。このまま戦っても良い結果には恐らくならないだろう。
 顔を見合わせ、撃退士たちは最後の攻勢を仕掛ける。

「もらいましたよ!」
 跳躍したカーディスが、空中から雷を纏った一撃を放つ。同時に、脚を掬おうと下段からファリスが切りつける。この一撃は地面にムゲンの刀が突き刺さる事で止められていたが、元よりダメージを与える事を狙ったものではない。武器同士が接触した瞬間それを引き戻し、持ち前の敏捷でファリスは後ろへ飛ぶ。
 見れば、既にカイリがレグルスとケイオス、蒼姫が茜とラファルを担ぎ上げており、先ほどのカーディスの雷撃も、目くらましのための牽制攻撃に過ぎなかったのである。初期にレグルスが壁に開けた穴を通り、撃退士たちは撤退する。

 ――敏捷に優れるファリスとカーディスを、この距離から捉えるのは困難だろう。
 そう判断したかは定かではないが、ムゲンが狙ったのは遠ざかる蒼姫とカイリ。人を担いでいる状態で、不動の構えで力が高まった風裂きを回避する事は出来ず、二人ともその場に倒れるが‥‥
「まだです!!頑張ってください!」
 カーディスとファリスがその後を繋ぎ、何とか撃退士たちは、ムゲンの射程外へと脱出する。

 直後。
 轟音を立て、道場は崩れ落ちる。
 ムゲンもまた、その中に埋められた筈ではあるが‥‥あの仇敵が、この程度で死す筈はない。
 ‥‥幾度も彼と戦った者たちは、その予感があったのである。


依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: 二月といえば海・カーディス=キャットフィールド(ja7927)
 『山』守りに徹せし・レグルス・グラウシード(ja8064)
重体: 血花繚乱・神喰 茜(ja0200)
   <血戦の後、影無しを受け>という理由により『重体』となる
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
   <至近距離背後から刺され>という理由により『重体』となる
面白かった!:14人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
幼心の君・
飯島 カイリ(ja3746)

大学部7年302組 女 インフィルトレイター
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
戦乙女見習い・
ファリス・フルフラット(ja7831)

大学部5年184組 女 ルインズブレイド
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
氷獄の魔・
ケイオス・フィーニクス(jb2664)

大学部8年185組 男 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍