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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/08


みんなの思い出



オープニング

●???

「皆、揃いましたね」
「ロイよ。ワシらを呼び寄せた、と言う事は、まさか――」
「はい。ご推察の通り、準備ができました。先の岡山の乱で捕獲した人間たち。その全てを交換に出す事となりましたが――入手、できました」
 ロイと呼ばれた男。ヴァニタス集団『八卦』が一人、『湖』のロイは、普段の人をからかう事が大好きな彼らしからぬ、真剣な表情を浮かべていた。
「だが、この作戦の実行は、即ち我らが滅びる事を意味します。――その為に、最後の心残りを断つために、準備期間も兼ねて皆様に猶予を与えました。――作戦への異論は、ありませんか?」
「ちっ」
 舌打ちしたのは、『火』のバート。
「心残りが無いと言えば嘘になる。けど、アレで失敗したのは、俺自身の責任だしな。‥‥何より、守備が厳重な所に入れられた今じゃ、確実に殺せる自信はどうやってもねぇ。‥‥その点、じいさんならまだ機会があるかもしれねぇな」
 他の八卦にも、頷く者は多く。
 それを確認して、ロイは、宣言する。
「――それでは、我らが主、三崩様を復活させるために。――我らが命を、捧げましょう」


●雷光の城

「――準備は整ったようじゃのう」
 忙しなく地を這い回る『何か』を見て、八卦が『雷』――鍛冶間轟天斎は、満足げな笑みを浮かべる。
 よく見れば、地を這い回り、配線を繋いでいくそれは――機械で出来た『虫』であった。
 『虫』と言っても、そのサイズは通常の昆虫とは比較にならないほどに大きく。小型の猫くらいのサイズはある。
 そして、そのサイズの殆どは…背中に背負う異形のデバイスによる物だ。
 ――ある物は砲。そしてまたある物は、何かしらの発振器の形を取り、下にある小さな虫の体とのアンバランスさが何ともいえない感覚をかもし出す。
 だが、それは決して、『虫』たちの敏捷な動きを妨げる事はなく。彼らは着実に、主の指揮に従い、周囲の配線を整えていく。

「そろそろじゃな」
 その配線が全て整った時、轟天斎は指を鳴らす。
 ビュン。
 周囲から灯りが消え、暗闇の中に、きらりと光る目のみがいくつも映し出される。
 しかし、その数は先ほどよりもずっと多く。

「夜戦こそが、戦の極意じゃな。‥‥『攻撃の優先順位』さえ整えてしまえば、暗闇の優勢は揺るがぬじゃろう」
 暗闇の中。その表情こそ見えなかったが、若しも見えていたのならば、そこに浮かんだ表情はにやりとした邪悪な笑みだっただろう。

 その後ろには、巨大な発電機。そしてその上には‥‥禍々しい炉が安置されていた。
 八卦炉。これによって行われる儀式こそが、八卦たちの目的‥‥
「さぁ、ワシの城‥‥恐れぬ者から、掛かって来い!」

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

●Final Showdown

「‥‥轟天斎‥最期‥を‥期して‥来ました‥ね‥‥」
 暗闇の中。呟いたのは華成 希沙良(ja7204)。
 この暗闇の中のどこかに、宿敵、『雷』の八卦‥鍛冶間 轟天斎は居る。

「‥‥ここまで雪崩込む事になるとはのぅ」
ため息を一つついた白蛇(jb0889)が、召喚の術式を編む。
「まあ良い。ここで引導を渡してくれる」
彼女の『権能』と称され、『司』と呼ぶ翼の幻獣を呼び出す。
地を伝う轟天斎の電撃陣は、空を舞う事によって避けることが可能。この事実を、幾度も刃を交えて来た彼女には痛いほど良く知っている。
「――突撃じゃっ!」
 故に、白き翼は、主を乗せ、空を駆けて闇の中へと向かう。

「ふーん。正常に作動しているみたいだね」
 白蛇とは逆に、慎重に内部を覗き込むのは彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)。
 その目に装着されているのは、スマートな形のサングラス。が、その実、これは高度な暗視用デバイスであり、彼女は、轟天斎が作り出したこの暗闇にそれが通用するか否か、試していたのである。
 ――その結果は、是。
「全員、使っても大丈夫みたい」
 その言葉に、鴉守 凛(ja5462)と森田良助(ja9460)もまた頷き、暗視用デバイスを装着して突入する。
 飛行できる者は飛行し、固有の光源を携行している者はそれを装着した。
 固有の光を持たぬ者に対しては、希沙良の手に点る光が道を照らす。

 かくして、雷撃と機装の城に座する敵に対する、攻略戦は始まった。

●突撃

 撃退士たちの布陣に於いて、光源たる希沙良は比較的に後方に構えている。それ故に照らし出せる距離には限界が存在していた。
 通常の前進ならば問題はなかったが、猛烈な突撃を伴い、圧倒的な距離を稼いだこの者は別だ。
「ふん、よく見えずとも、その様な障害――砕いてくれようぞ!」
 圧倒的な慣性を以って、白蛇の乗る翼の幻獣は突進する。進路上にある残骸等の障害物を粉砕しながら、一直線に奥に向かう。
「ふん。まっすぐに向かってくるか‥対応は容易いのう」
 相対する機械と電撃のヴァニタス。その腕を地に突き立て、彼は叫ぶ。
「超・過・供・電・陣ッ!!」

「ぐっ‥‥流石じゃな‥‥じゃが、その陣ではわしは止められん‥‥以前二人乗りだった時とは違うのじゃよ!」
 その言葉通り、白蛇と幻獣の速度に衰えは見られない。‥‥全く、少しも。
「フン。そちらこそ甘く見てくれたものじゃな。‥この陣は『磁力』ではなく『電力』――神経を焼き、視界を封じる『電力』じゃよ!」
 視界がちかちかと、白く光る。事前に味方、若しくは白蛇自身の光源で目標を確認できていれば、構わず突っ込む事も出来ただろうが、希沙良はまだ戦場の奥を照らせるほどに前進してはいない。白蛇もまた、光源を所持しては居なかった。故に、彼女は幻獣諸共、壁に激突する。

『ひゃーっはははは!ぶざまじゃな、轟天斎!!』
 轟天斎を殺害した張本人である、出山八拾八の声がその場に轟く。
「さて、これで動揺してくれればいいけど」
「――ふん。小賢しい手を」
 だが、轟天斎の顔に浮かんだのは、にやりとした笑み。
「小童どもよ、貴様らが一般人を危険に晒したがらないのは、今まで幾度も撃ち合って既に確認済みじゃ。その貴様らの陣営から八拾八の声が聞こえる――この策、読めぬと思うか?」
「‥‥」
 彩のレコーダーを握る手に、ぐっと力が篭る。
 ‥この声は、彼女がレコーダーから再生している物なのだ。
「それに、ワシは『機械』のプロ。その再生音に混じる微妙な機械音は識別できる。‥そうじゃな。こういうのも良い」
『助けて‥っ、っくっ‥』
 泣き声交じりの少女の声が木霊する。
「――機械の体は、このように便利なのじゃよ」
 それが偽者であると、例え知っていても、一瞬だけ、撃退士たちの動きも止まったのである。
 それが、救いを求める声だったから。

 白蛇と彩が轟天斎の注意を集めたその反対側。闇に紛れ、忍び寄る影一つ。
「さて、配線類はあるだろうか」
 持てるスキルを最大限に駆使し、『飛行』『暗視』『隠蔽』の能力を自身に付与したサガ=リーヴァレスト(jb0805)が、気づかれないよう静かに轟天斎の全身を慎重に観察する。
(「‥配線はなし。‥信じられんが、あれだけの出力を本体だけで出しているのか」)
 彼の仮説は、轟天斎の技の強化自体は発電機からの電力供給による物であるという事。故に、その接続を断ってしまえば、『超過供電陣』を封じられるのではないかと言う事であった。
 だが、現実はそうではなかった。サガは知る由もなかったが、この強化は、轟天斎が普段自らの老いた体を維持するための電力を全て戦闘に回すため――故に、例え儀式が彼の命を奪わずとも、この一戦の後で轟天斎が生き残れる可能性は皆無であった。
(「ならば‥‥本体を直接叩くまで!」)
 隠蔽の利を利用し、発電機の背後から回り込むように、轟天斎に襲い掛かる。
「死者は死者として眠れ‥轟天斎!」
 無数の闇の十字架が、轟天斎に向けて発射される。
 それはヴァニタスの背後に直撃し、重圧を掛ける!

「‥‥暗闇は最早きゃつらには障害にならんようじゃな」
 僅かに背を曲げ、轟天斎は攻撃の飛来した方向を見やる。
「先ずはあの者をおとせい!」
 撃退士たちの中にも暗闇を機械によって克服した者達がいるように、機械の体を持つ轟天斎もまた暗闇を見通す。彼の目線を目印にするように、周囲の機虫が一斉にサガに向けて砲撃を行う!
「うぐ‥‥っ!!」
 サガは元々、防御を捨てて攻撃力に特化したタイプの撃退士。故に、攻撃を受ける事はそのまま危険に直結する。敵の背後を衝く、という事は‥‥同時に味方の援護を受けられなくなる、と言う事でもあった。
 五本のレーザーに貫かれ、それでも翼を羽ばたかせ後退しようとするが‥
「逃さぬわっ!」
 陣を解除した轟天斎の電光砲が、彼を狙う。
「弾けるか!?」
 良助が銃弾でその電光の軌跡を弾こうと狙う。アウルの銃弾が放たれ、光の奔流と激突する。
 ――が、そこまでである。
 電光砲の本質はエネルギー流。それに単発の銃弾をぶつけて流れの方向を逸らそうとするのは、滝に石をぶつけて流れを逸らそうとするのに等しい。達人級の者ならば一瞬のみ可能かもしれないが、込められた運動エネルギーが消失した瞬間、流れは元に戻る事になる。
 ――そして、サガの反応は、その一瞬を衝いてエネルギー流の軌道から脱出できる程ではなかった。
「サガ‥さん!」
 希沙良の叫びが届く前に、雷光は正面からサガを貫いた。


●Clean Up

「あっちゃー。‥けど、収穫がないわけじゃない」
 彩がアウルを集中させ、構える。
 ――事前に連絡を出し、外部からのこの発電所へ供給関係のラインはカットさせた。にも拘らず、轟天斎の暗闇ギミックが停止していないという事は、これが外部機構には最早依存していないという事。見取り図は頭の中に叩き込んであるので内部のボイラー室の停止等を試みても良かったが、時間がない上、この暗闇は発電所全域を覆っている。どこかでトラップにでも引っかかれば本末転倒である。ましてや、一般人に行わせられる作業でもない。

 ――ならば、やる事は一つ。
 正攻法を以って、目の前の敵を排除するだけ、である。

「嫌な配置だね‥」
 先ほどのサガへ向けられたレーザーで、レーザー機虫たちの配置はほぼ把握した。
 サイズの小ささを生かし、色々な場所に隠蔽している。障害物の裏などはまだ序の口で、物によっては障害物の下に隠れていると思われている物もいる。
「そして、あれはダミー‥か。まぁ今回は役に立たなかったようだけど」
 増えた赤い光の正体が、暗闇を見通す彩の目には一目瞭然であった。

 ――単なる、発光するライトのような物。
 恐らくヴァニタス側の暗視機構から発される赤い光を誤魔化す為のダミーだったのだろう。
 若しも撃退士側が暗視デバイスを持っていなかったのなら、正確に目標を狙えず無駄に時間を食っていたかもしれない。

「ま、片付けるかね」
 ――殺意が、実体化する。
 シューティングファントム。彩のこの技は、殺意とアウルを結合させ、分身と化して敵を襲撃する物。
作り出した分身は二体。分散していたのか、領域内には機虫が二体しか居なかったからだ。
「滅多切りだね」
 襲い掛かる殺意を持った幻影。ほぼ奇襲だった事もあり、一体の機虫は成すすべもなく影の双剣によって切り裂かれる。だが、もう一体の機虫は違う。障害物の裏に居た事で僅かに影が回りこむのに時間を要したのを利用し、その一瞬の隙に障害物の下へと潜り込む。影の一閃が縦に障害物を両断した物の、その下には何もなく、維持時間の限界に到達した影が消滅する。


●Device Destruction

 一方。轟天斎が超過供電陣を解除した事で視界を取り戻す白蛇。
「よくもやってくれた物じゃのう‥」
 轟天斎の方を睨み付ける。然し、直ぐ自身の『本来の目的』に目を戻す。
 ――前線が推し進んだ事により、希沙良の光が轟天斎、そしてその後ろにある発電機と八卦炉を照らし出す。
「先ずはこのデカブツをなんとかせねばのう」
 手に雷撃を溜め、それを神獣に押し付け増幅し、一筋の雷光として白蛇が発電機に向かって撃ち放つ。轟雷は発電機の外装の一部を吹き飛ばし、その内部機構の一部を露出させる。
「今じゃ!打ち込め!」
「了解っ!」
 待っていました、とばかりに、良助が酸の力を持つアウルの弾丸を銃に込める。
 前回の交戦から、これが轟天斎を初めとし、彼が率いる機械系ディアボロに多大な効果を持つ事が判明している。狙い済ました一弾を、良助が発射する。
 命中。酸は内部機構に染み込んだ様だ。それは露出した場所から、パチパチと火花を放ち始めている事からも分かる。
 だが、同様に前回の交戦から分かる通り。この技は効果を発揮するのに一定の『時間』を要する。
 そして、『時間』は今回に限っては、轟天斎に味方していた。

「主が気力にて限界を超える事ができようと‥‥それは主が、例え悪魔の眷属と化そうと、生命あるからに過ぎぬ」
 もう一発。雷撃を練る白蛇。
 それに加勢するように、空を駆け。鴉守 凛(ja5462)もまた発電機へと向かう。
「‥障害物は‥払った」
 彼女が今まで戦線に参加しなかった理由がそれだ。障害物を吹き飛ばして回り、敵の隠れ場所を減らすと共に、味方陣の散開スペースを確保していたのであった。
 飛行の速度を上げ勢いをつけ、体当たりするかのように、槍を一直線に発電機の外装がはがれた部分に差し込む。
 ボン。小さな爆発が起こる。凛が手を離した瞬間、更に白蛇が己の司を通じ、雷撃をその槍へと落とす。小さな爆発がもう二つ程起こる。
 ――だが、暗闇が晴れる様子はない。

 ――小さく作れる物が巨大化する原因は、二つ。
 冗長系システムを組み込んだ故にその分のスペースを取り結果として全体が巨大化してしまったのが一つ。
 もう一つは、出力を求める余りパーツ一つ一つが巨大化してしまった結果である。
 この二つに共通するのは、『一部を破壊しても全体の機能への影響は限定される』と言う事実。壊したパーツを他の部位が補おうと、パーツが巨大すぎて一部の破損がパーツ自体の機能への影響が小さかろうと‥同じ事なのだ。

「ええい、無駄にでかくしおって‥!」
 更にカフェオレを投げつけて、その上から電撃を放つ白蛇。逆に彼女自身も飛び散る飲料が漏電を導電したが為にダメージを受けてしまうが、少なくとも電撃の威力を増幅させる事には成功している。
「大‥丈夫‥‥です。続‥けて‥‥くだ‥‥さい」
 癒しの光が、白蛇のダメージを回復させる。
 希沙良の回復援護が、攻撃陣の続戦能力を保証する。その間も轟天斎のジャマはなく、撃退士たちは、発電機への攻撃を続ける。
 白蛇の言う通り、いくらこの機構が堅牢であろうと、所詮は人の手に作られた物。ディアボロの比ではない。このまま攻撃を続けていれば、後いくばくかの時間で破壊は可能だろう。
 だが、凛の心には、少しばかり不安があった。
(「‥轟天斎‥何を‥」)
 これを攻撃すれば轟天斎はこちらを妨害してくるはず。そう読んでいた彼女は、『盾』『囮』の役を果たすために発電機攻撃に加わった。
 だが、轟天斎が発電機の方を気にする様子は――一切、なかったのである。

●The Main Dish

「初めまして、奇術士エイルズと申します。‥‥ああ、別に僕の名前なんておぼえなくていいですよ。僕の名は、冥土の土産に持たせる程安くありませんから」
 にこやかな表情で、エイルズが轟天斎を挑発する。
「初めて会いますが、いかにも悪の科学者と言った風貌ですねえ。特撮の世界に迷い込んで様で、感動すら覚えますよ」
 おどけた言動は、『奇術師』お得意の、相手の精神をかき回すトーク。
「ふむ。‥現実はドラマほど甘くはないぞい。ヒーローが改造怪人に勝てるとは‥思わんことじゃな」
 肘から、轟天斎の腕が切り離される。飛来する鉄拳を、軽々とエイルズは回避する。
「おっと、もうお怒りですか?短気ですね」
「ふむ‥」
 先ほどの動きから見えた。恐らくエイルズに攻撃当てるのは、常軌の手段では無理があろう。そう、轟天斎は判断した。
「腕は堅かったけど、断面もかたいか?」
 轟天斎の注意がエイルズに向いた瞬間、空中から回り込むようにして、龍崎海(ja0565)が槍を構え轟天斎に突撃する。狙うは発射した、腕のその断面――!

 ガキッ。
「ぐ‥」
 読み通り、結合面の耐久力はそれ程協力ではない。槍とそれに込められたアウルの衝撃で、相当のダメージを轟天斎に与えられたはずだ。
「がっ!?」
 だが、それにはまた、リスクもあった。
 ――轟天斎の力の元は電流。故に体の全てのパーツに、電流を供給する回路が必要である。彼自身を含む彼が作る機械の全てが、酸に弱いのもまたそのためだ。
 だが、それは即ち、切断面にも高圧の電流が走るという事。電光砲以上の衝撃が、槍を通して海の体を貫き。彼は一瞬体の自由が奪われそのまま地に落下してしまう。
「ふん‥考えた物じゃな。じゃが‥!」
 そのまま轟天斎は腕を振り上げ、地に突き立てる。電流が地を奔り、彼の技である『超過供電陣』を形成する。

「今がチャンスかな」
 光り輝く陣のその外。良助が狙撃銃を構え、轟天斎の頭部を狙う。
 充填されていたのは、先ほど同様の酸性弾。彼のこの狙撃銃は、圧倒的な射程を持つが故に、轟天斎の陣の影響を受けずに外から狙う事が可能なのだ。
「撃ち抜く――!」
 発射される弾丸。それは動かない轟天斎を狙って一直線に飛来し――
 ――彼の目の前で、電磁障壁に阻まれた。

「丸見えじゃよ。その技の怖さは良く知っているのでのう」
 先のサガによる奇襲と彩による影の襲撃を受けて以降、轟天斎は機虫たちを比較的広域に散らばらせ、範囲攻撃を受けるのを避けると共に、情報収集の為の『目』としても活用していた。
 サガと違い隠蔽の為の技を持たない良助は、『目』の一つに行動を察知されていたのだ。
 即座に機虫の一体のレーザーが彼に向かって放たれるが、障害物に隠れそれをかわす。凛が端へと押しやった障害物たちは、こと超長距離攻撃を得意とする彼には有利に働いていた。発電機と障害物を利用して、彼は攻撃を回避していたのである。
「そこですか」
 ばら撒かれるカード。それがそれぞれ意思を持つかのように、カードは機虫たちに襲い掛かる。が、超過供電陣の効果によって視界が大きく低減している状態では、素早く動く機虫を捉えるには至らず。エイルズの撒いたカードは、全て地に突き刺さり、そしてアウルへと返っていく。

「何かを忘れていないかのう?」
 轟天斎の台詞に、すぐさまエイルズは警戒する。
 ――そう言えば、轟天斎の腕はまだ元に戻っていない。

 空気が電解して放つ音を、彼は敏感に捉える。
 視界が封じられたとは言え、彼の俊敏さは尋常ではなく。音だけを頼りに跳躍し、エイルズは後ろから放たれた『電光砲』を回避する。
 だが、射線上に居たもう一人は、そうは行かない。電光が、海を飲み込む。
「前から一年近くたったんだ、こっちもいろいろ成長しているよ」
 当たりはすれど重傷には至らず。一撃を凌いだ海は、そのまま音のみを頼りに、轟天斎に突進。
 槍が、その喉元を狙う!

 ガン。鈍い音。
「硬いね。こんな所まで機械化しているのか」
「弱点を補うのが機械化のポイントじゃからのう」
 手応えは先ほどの断面以上に硬い。恐らく装甲化されているのだろう。
「――なら、壊れるまで叩くだけだね」

「そろそろ頃合じゃな」
 陣を解除した轟天斎。見た所、間もなく撃退士たちは発電機の破壊に成功するだろう。
 ――その前に、十分に利用する。
「おっと、させませんよ」
 異様を察知したエイルズ。
 撒き散らされる黒のカードが無差別に範囲内の物に絡みつき、轟天斎を縛りあげると共に彼を守り酸を受け止めた機虫を破砕する。
 そして良助も、また彼に飛びつく。
「お前が命を使うなら、僕も命を使ってやるさ‥‥!」
 あえて己の体を機械部に食い込ませ、食い止めようと試みる。
 
 ――だがしかし、この何れもが。全ての拘束を破壊する『大天雷身』の『前提条件』の前には効果が薄かったと言わざるおえない。
「戦術兵装・神鳴ッ!」
 引きちぎられるカードの鎖。電光と化すが如く、良助ごと飛ぶようにして轟天斎は発電機に向かっていく。
 


●合流

「よし、これで――最後じゃ!」
「後は‥」
 やや時間を要したが、白蛇と凛は良助の援護射撃を受け、終に発電機の破壊に成功する。盾の機虫一体を巻き込んだ雷撃の後に放たれた槍の一突きが、重要なパーツの一つを爆砕し、発電機はその機能を停止したのだった。
「轟天斎は‥っ!?」
 白蛇が振り向いた瞬間、電光がその背後を襲う。
「この技はワシにも反動が来るのでな。出来れば使うのは最後の一押しにしたかった――じゃが!」
 雷光と化した轟天斎が、次々と撃退士たちに襲い掛かる。
「く‥‥うっ‥‥!」
 全速で後退。強引に身を挺し、白き防衛の翼を広げ、凛は良助と希沙良を守る。
 雷撃に三度、身を貫かれながら。尚その闘志は衰えず。
「くっ‥はぁっ、私にできるのって‥これだけ、だから‥」

「ぐぬっ‥やりおる‥!」
 一方、白蛇もまた、立ち上がる。
 彼女には凛程の防御能力はない。その状態で、『司』と自身の分の二発を受けて尚立っていられたのは、奇跡と言えよう。――いや、或いは海の『神の兵士』の効果か。

(「どう‥する‥?」)
 希沙良は決断を迫られていた。
 轟天斎の位置は、後退した凛と発電機付近に居た白蛇の間ほどに居る。故に、この二人を癒しの風で回復させようとすれば、それは轟天斎を巻き込む事となる。それだけは避けなければならない事態。
 ――ならば、どちらを回復させるか?
 白蛇の居場所までは、彼女の移動能力では一手多く掛かる可能性がある。この障害物の多い場所ならば尚更である。
「治し‥ます‥」
 故に彼女は、移動しながらも、付近にいる凛の方を回復させた。

「次は貴様じゃ、轟天斎!」
 スキルを切り替えながらも、最後の一矢を報いるべく。白蛇が轟天斎に突進する。
「遅いわ――!」
 スキルの切り替えが終わる前に。電光砲が白蛇に照準をつける。
 咆哮をあげながら突進する神獣は周囲を鼓舞する。だが、その突進が轟天斎に届く前に。雷光が、白蛇を飲み込んだ。

「ふん‥呆気――っ!?」
 一息ついた轟天斎は、次の瞬間。黒の斬撃群に飲み込まれる。
 驚愕の色が轟天斎の顔に浮かぶのも無理はない。この攻撃を放ったのは――先ほど倒したはずの、サガ。
「油断禁物、だ」
「作戦成功だね」
 微笑むのは、海。
 先ほど電撃を受け地に落とされた際に、ひそかにサガに『生命の芽』を仕掛け、奇襲できるよう一計を案じたのだ。
 気配を消す秘技を、倒れたように見せかけるために使用したサガの一撃は、見事反応させる間もなく轟天斎の不意を衝く事に成功する。
「ぐぬ‥小童が‥っ!」
 『神鳴』使用による反動ダメージもあり、轟天斎は相当に体力を削られている。今が畳み掛けるチャンスとばかりに、己の身もまたサガの黒の刃によって削られるのも省みず、海は轟天斎に向かっていく。
「ヤツを撃てぃ!」
 だが、轟天斎は海の攻撃を迎撃しようとはしなかった。強引に腕を地に突き立て、陣を展開する。
 それを受けて、残った二体の機虫が狙ったのは――空に舞い上がろうとした、サガ。

 轟天斎の目的は、撃退士たちを倒す事ではない。
 ――倒す事によって目的を達成する、と言う事も可能ではあったが、根本にある彼の目的は、時間まで八卦炉と――自身を、守りきる事であった。故に、如何にダメージを減らすかこそが、轟天斎がこの時考えていた事。
 攻撃力だけならば、この場では轟天斎にとってエイルズが最も脅威であった。だが未だ彼が過剰供電陣以外の攻撃を「一度たりとも」受けていない事実から分かるように、その圧倒的な回避能力が彼の排除を困難にしている。
 ならば、海とサガのどちらを狙うべきか。答えは簡単だ。倒しやすい方、だ。

「ぐ‥!」
 腕と胴をそれぞれ一条のレーザーに貫かれ、再度サガは倒れる。
「ただでは倒れん、轟天斎‥!」
 倒れる前に彼が最後に放った黒の弾丸が、轟天斎の腕を弾き上げ、一時的に無防備な胴を晒させる。
 それを見逃さずに、すかさず海が槍を振るう。胴を薙ぐように殴られ、轟天斎がよろめく。だが、陣を展開するための磁力を支えにしているのか、倒れない。

「今の内に片付けだね」
「そうですね」
 無数の影とカードが空を舞い、黒い嵐となって機虫を蹴散らしていく。彩とエイルズの連携が、虫たちを破壊していく。
 残るはレーザー虫二体。最後に狙うのは、無論轟天斎に最も近い海。
「待っていたよ、この時を」
 だが、海の顔に浮かんたのは、不敵な笑み。
 数々の戦術を編み出し、轟天斎に対抗してきた彼には、無論この状況に対する対策もあった。
 轟天斎の肩に手を掛け、それを支えにするように背後へと跳躍する。
 ――彼は、轟天斎を、機虫の攻撃に対する盾にしたのである。
「うぬっ‥!!」
 歯を食いしばる轟天斎。


●最終局面

「最後の障害だからね。排除させてもらうよ」
レーザーが轟天斎の体を射抜いた直後、最後の二体の機虫もまた良助の弾雨によりそれぞれ撃ちぬかれ、倒されていた。
 即座に良助は弾装を切り替える。装填するのは三発目の強酸弾。構えたその瞬間、轟天斎が超過供電陣を解除する。周囲に機虫が居ない状態では、この技の効果は大きく減るため、仕方のない事なのだろう。
 だが、良助が強酸弾を発射した瞬間。轟天斎もまた、驚くべき行動に出る。陣解除に海が反応できる前に、その後ろに回りこみ――
「‥同じ手は、ワシにとて使える‥!」
 対人磁力で彼の背に吸い付き、盾にしたのである。
「っ!」
 酸の直撃を受ける海。然し、その頭は未だ冷静。酸の影響は一定時間掛かる。その前に決着をつけてしまえば問題ない。
 槍の柄で、背中に吸い付いた轟天斎の腕を猛打する。一度結合部に大ダメージを与えた事もあり、そこにはヒビが入る。
「ならば‥こうするのじゃよ!」
 腕を割られる前に、轟天斎は磁力を切断し、直接手で海を掴む。そしてそのまま、腕を『打ち出した』。
 腕に引っ張られるようにして、そのまま海は腕の狙い――希沙良に突っ込む。
「この‥‥まま‥‥回復‥‥します‥‥」
「だめだ、避けて!」
 祈るように手を合わせた希沙良の周りに癒しの風が展開され、二人の傷を癒した直後、彼らの両方を電光砲が貫く。幸いにも、咄嗟に防御の高い海が希沙良を庇った事もあり、それ程大きなダメージとはなっていない。癒しの風の効果を加味すれば、十分プラスである。

「今度こそ‥!」
 良助の放つ最後の酸の弾丸が、終に轟天斎に直撃する。
 この技は効果を発揮するのに暫く時間が掛かると言う欠点がある物の、轟天斎の弱点である。
 飛行した凛の槍が、猛烈な衝撃力を以って轟天斎を吹き飛ばし、八卦炉に叩き付ける。
「先にあちらで待っていてください。すぐにバートもそちらに逝きますから」
 もう一人の八卦の名を出し、そして黒のカードで轟天斎をそのまま八卦炉に縛り付ける。
「ぬう‥!」
 向けられる腕。恐らくは対人磁力。それを敢えて、向けられた先である彩は回避せずに受け居る。
 引き寄せられる力を利用し、一撃を加えると共に爆薬を仕込む。
 ――小規模の爆発。アウルを用いない攻撃であるそれは、ヴァニタスに有効打を与えるには至らない。だが、視界を遮る事には成功する。
「こっちもどうぞ」
 次にたたきつけたのは、砂鉄。
「ふん、同じ手を2度も食うかの?」
 向けられた磁力は『斥力』。砂鉄が吹き飛ばされ、無数の小さな針となり、逆に彩を襲う。こちらも有効打ではないが、逆に視界を潰されたのは彩だ。
 
「砕かせてもらうよ」
 この攻防の隙を衝き、突進する海。その槍が、轟天斎の体に突き刺さった、その瞬間。
「ワシの勝ち――じゃな。小童ども」
 その体が、光の粒子に分解され、八卦炉の中に吸い込まれていく。
 ここに、八卦炉の儀式は成った。

「くっ‥‥!」
 誰ともなく、悔しさに声を漏らす。
 ――轟天斎の目的は自身、及び八卦炉の生存のみ。故に撃退士たちが暗闇の影響を受けないのを見るや、発電機の防衛を完全に放棄し、自身に襲い来る撃退士たちの対応、そしてダメージコントロールに全力を注いだのだ。
 結果として、撃退士たちは、発電機と機虫の全てを破壊した物の、轟天斎の全力に半数ほどで対応する形になっていたため、轟天斎自身の体力を削りきるには、一歩及ばなかったのである。

 昇る光の柱は、金山のほうへと向かっていく。これが何であるかは分からないが、良くない物であるのは間違いないだろう。
 ――撃退士たちは、その対策を練る為。学園へと帰還したのであった。


依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー