●Storm against Machines
撃退士たちが、屋敷のセキュリティシステムが乗っ取られたと気づくのに、それ程時間は掛からなかった。
「逆に利用されたか‥‥!」
身を挺して、サガ=リーヴァレスト(
jb0805)がレーザー砲2門の射撃から剛蔵を守ると同時に、華成 希沙良(
ja7204)のリボルバーの一撃が、その片方を叩き壊す。
「‥‥頑張って‥‥下さい‥‥」
もう片方のレーザーが彩・ギネヴィア・パラダイン(
ja0173)の手裏剣の嵐に破壊されたのを確認し、サガにアウルの鎧をかける希沙良。恋人同士だけあって、お互い気遣いあっている。
「ああ、ありがとう」
防御力が撃退士たちの中でも低い方だったため、それなりのダメージをサガは受けていたが‥‥そこまで深刻でもない。如何に強化しようが、対人用として設計されている物が撃退士にまともなダメージを与えるのは無理があったのだろう。
「けど‥‥大井氏を狙った場合は‥‥」
後ろの一般人――今回の轟天斎の目標であろうその人を、ちらっと見る。
油断ならない。一発でも当たれば、致命傷になりうるのだから。
一方、闇の中で、希沙良が放つ『星の輝き』を頼りに、龍崎海(
ja0565)は轟天斎に肉薄する。白の鎖が轟天斎を縛り上げ、その動きを一時的に止める。
「可変武器だから繊細で脆いと思ったんだが‥‥なら、今度は!」
薙刀の如く振るわれる槍の、十字の穂先が轟天斎の頭部を狙う。
「ほう、今回は教訓から学んだか、小僧」
その攻撃に轟天斎は腕で受け止めざるを得なかった。
そのまま受け止めた腕で槍を掴むように引き寄せ、逆の手で海の顔面に掴みかかる。
「むぅっ!?」
完全にその手が『掴む』直前。急激な力が腕全体に掛かり、がくんと腕が引き戻される。
「邪魔、させてもらうよ!」
見れば、機械のその腕には細いワイヤーが絡まっており‥‥それを後ろに立つ、森田良助(
ja9460)が引いていた。
「ほう、考えた物じゃのう。じゃが‥‥ワシの体、それも発電機構に接続するとなれば。ビリッと来るのは免れぬぞい」
電撃が走り、ワイヤーを通して良助の体を貫く。
直接掴んだわけではないのでダメージは低い物の、体が痺れ、引いていたワイヤーが緩み‥‥轟天斎の腕の自由を取り戻させてしまう事になる。
そこへ、降り注ぐ手裏剣の雨。仲間の不利を感じた彩が放った物だ。
だが、それは光の壁の様な物に阻まれ、轟天斎には届かない。
「あれもセキュリティの一種ですか‥‥」
僅かに舌打ちし、彩はスキルの切り替えに取り掛かる。
●Escape Attempt
「大井殿、わしに捕まれ!脱出する!」
片手で、剛蔵の手を掴むと、白蛇(
jb0889)はそのまま逆の手で眼前で印を切り‥‥彼女の『司』――自らの分身の様な物か――の一種である、白い体色のペガサスを呼び出す。
剛蔵を抱きかかえたまま、白蛇はそれに騎乗する。
両手が塞がっている為にコントロールが普段よりうまく効かず、速度も大きく落ちているが‥‥飛行するならば問題ない。
そのまま、空中に浮かびあがった彼女の横を、黒の翼を広げたリンド=エル・ベルンフォーヘン(
jb4728)が通る。
「先に出口を開放する」
一直線に彼は、廊下へ繋がる筈の扉へ飛来。そのまま紅の大剣を扉へ向けて一閃する。
「‥‥流石に硬い。普通の扉とは比べ物にならん」
だが、破壊できない事は無い。もう二度ほど剣を振るうと、終に扉のロックが折れたのか、リンドの蹴りと共に扉は開け放たれる。
「今だ!脱出しろ!」
リンドの叫びと共に、白蛇は天馬を駆り、ゆっくりと扉へと向かう。
「また脱出する気かのう」
海の十字槍を上へ跳ね上げ、そのまま腕を変形させる轟天斎。放たれる雷光は、一直線に白蛇と剛蔵へと向かい――
鴉守 凛(
ja5462)の、庇護の翼によって防がれた。
「今日は前より長く遊べる体調だから‥‥こんな事も‥‥」
だが、防御に優れる彼女とて、これを行っては無事ではいられない。
スレイプニルが直撃を受ければ、麻痺の効果により移動不能、即ち脱出が不可能になる事を意味する。
剛蔵が直撃を受けていれば無論、即死だ。
‥‥故に、それら両方の攻撃を庇った凛は、雷光砲三発分の攻撃を受けたに等しい。
盾に流れる電撃が、彼女の体にも伝わる。痺れに、僅かに体を震わせ。目線で彼女は白蛇に前進するように促す。
それに軽く頷き、白蛇は前進を続ける。再度彼女に、付近にあったレーザー砲が狙いを定めるが‥‥
「邪魔をするな」
大剣を突き刺すようにして、砲と壁の接続箇所を叩く。
リンドの一撃で、レーザー砲は火花を放ち、そして動かなくなる。
「ええいうっとおしい‥‥! 大井殿、せきゅりてぃとやらの配置は覚えておるかのう?」
「い、いや、設計図は寝室の金庫の中にあるんだが、今は‥‥」
使えんやつじゃ、と静かに剛蔵に聞こえないようにため息をつき。白蛇は天馬を前進させる。
「湿度が上がっている、か‥‥?」
レーザー砲を破壊したリンドは、蒸し暑さを感じ、服の襟のボタンを解く。
(「エアコンシステムもセキュリティに連動していると言ったな‥‥まさか!?」)
その目は、屋内3箇所に設置されている、風を排出している機械を捉える。
「雷雲でも作り出されたらたまらん‥‥!」
大剣の一薙ぎで機械を両断し、その推測をスマホを通してサガと希沙良にも伝える。直上にあったエアコンはサガの振り上げによって両断され、別の一つは希沙良の銃弾によって破壊される事となる。
「これで‥‥最後か?」
周りを見渡すサガ。既にレーザー砲は彼によって粗方破壊されつくされており、室内のカメラも全て潰している。エネルギーシールドはまだ幾つか残っているが‥‥あまりにも発生器が小さく、展開されるまでは場所が判明しにくいので後回しにしていた。
どちらにしろ、轟天斎への攻撃を受け止めては壊れる、と言う状態だったので、それ程脅威とはならなかったのだが。
彼の目線は、剛蔵を運んでいる白蛇のほうへと向かう。
飛行したまま、彼女らは既に扉に到達している。後はそこを出れば――
「そう簡単に、逃がすと思うかのう?」
良助のワイヤーに絡められたまま、轟天斎は力の限り、腕を動かし――元より近接戦を得意としなかった良助の腕力が僅かに機械の駆動力に劣っていたのもあり――それを地面に突き立てる。
パチン。
四方の、壁に備え付けられていた電子機器から、一斉に火花が上がる。
「ぐぅっ!?」
剛蔵を抱えたまま、騎乗している『司』の精密コントロールが出来なかった白蛇。僅かに『司』の足がドア枠に触れ‥‥そのまま磁力により接着されてしまう。
そして横にバランスを崩した『司』に振り落とされそうになった剛蔵は、思わず壁に手をついてしまう。
それが、自身が壁に接着されてしまう事になるのを知らずに。
●Stuck!!
「ぬうっ‥‥ぬかった‥‥!」
『司』から振り落とされ、床に叩き付けられた白蛇もまた、その場から動けなくなってしまう。しかも運が悪い事に、落ちた際の体勢の関係で‥‥片腕までも地面に吸いつけられてしまったのだ。
素早く片腕のみで印を切り、扉に吸い付けられ動けなくなった天馬を消去し、代わりに鱗の龍を呼び出す。呼び出された龍もまた、その瞬間地に縫い付けられた物の。先ほどのようにまともに敵の方を向く事すらできない体制になっていた天馬に比べれば、大分マシである。
撃退士の内、サガは床に吸い付けられ‥‥セキュリティ破壊のため轟天斎から離れており、尚且つ長距離攻撃手段を持たなかった彼は無力化されていると言っても過言ではない。
そしてそれはリンドもまた同じ。闇の翼で空中に浮かび、床から吸われる事は避けた物の‥‥エアコン大剣で破壊した事から、大剣が壁に吸われていたのである。即座に手を離し予備の武器に切り替えた物の‥‥一時的に主力武器を失った事によるパワー低下は否めない。
轟天斎は対人磁力・域を展開したため電撃の威力が落ちているはずだが‥‥室内の湿度の上昇による通電性の上昇で、それは補われていた。
――最も、その磁力は全ての電子機械を破壊し、セキュリティシステムのコントロールはできなくなっていたが。
「‥‥ぐっ、例え報復に成功したとして‥‥単身で無事逃げられるとでも思っているのか!?」
希沙良のヒールによってダメージを回復し、盾で、麻痺から回復していた轟天斎の掴みかかる腕を横に弾く海。その腕を、アウルの力によってワイヤーを更に伸ばした良助が捉える。
「ワシが逃げようとするのならば、汝らには未だ捉えられぬよ。‥‥最も、今はまだその状況ではないがのう」
自信ありげににやりと笑って見せる轟天斎。その自信は、未だ詳細不明である、彼の二種の奥の手から来る物か。
「一つだけいえるよ。轟天斎、俺にとってあんたは悪だ」
轟天斎を捉えたまま、ギリギリとワイヤーを引き絞りながら言い放つ良助。
「‥‥戦時を経験した事もないような若造に、ワシを正義か悪かと断じる資格はないぞい」
引かれるままに、地面に突き立てていない腕を轟天斎はそちらに向ける。その腕が変形し砲身となり‥‥放たれる電光。
――相手の動きをワイヤーで引き止めると言う事は、即ち自身の動きも制限されるという事。海のライトヒールを受ける物の、攻撃と防御の著しい差によるダメージを完全に回復させるには至らない。良助はそのまま電光に貫かれ、その場に倒れた。
●Lightning Battle
「むう!?」
だが、牽制されたその隙に、後頭部へと海の槍は襲い掛かる。距離の関係から唯一希沙良のヒールをフルに受ける事が出来た彼は、全力を持って、その武器を振り下ろす。
蛇の如く走る分銅が、槍を受け止めようとした腕を弾き。頭部を強打された轟天斎はよろめく。
見回せば、分銅を打ち出した筈の彩の姿はない。忍者の術で隠れているのだろうか。
雨霰のように降り注ぐ希沙良の銃弾を腕を盾にして凌ぎ、腕をドリルに変化させ強引に突き出す。
だが、未だ視界が強打によって僅かに揺れている事もあり、海への攻撃はバックラーで地面へと受け流されてしまう。
地面を抉るドリル。周囲に弾け飛ぶ残骸。
白蛇の『司』が放つ水弾を囮に、リンドが黒の翼を広げて急速接近!
「意思こそ惰弱、なれど代償に得た力は強大。心して掛かろうか!」
人の身で、同属の力を振るうのが我慢ならないのだろう。悪魔であるリンドが振るう蒼のハルバードが、轟天斎の背中から叩き込まれる。
向けられる腕。広げられるは磁石の様な物体。この至近距離で更に引き寄せを行う筈はない。故に発動されたのは――
「ぐぬっ!?」
対人磁力でリンドを吹き飛ばした直後、轟天斎は首が引っ張られるのを感じる。
先ほど槍で殴られた際に取り付けられたのか。自身の首にはワイヤーで出来た輪が掛かっていた。
「こしゃくな‥‥!」
ワイヤーを引っ張るようにしてリンドを地面に叩き付け、そのまま腕をチェンソーに変化させワイヤーを切断する。対人磁力によって地面に背中から縫い付けられるリンド。
轟天斎の注意がリンドに向いていたその隙に。天井に接着されていた彩は、自身が認識されない『遁甲の術』発動中であるのを良い事に、腕から碧の触手状の物を伸ばし、轟天斎へと突き刺す。
注ぎこまれる魔力。それは、轟天斎の視界を奪っていた。
「やるのう。‥‥工作兵としてはいい働きをするじゃろう」
賞賛の言葉と共に、電磁波をレーダー代わりに使用して、轟天斎は剛蔵の大体の位置を確認する。目視より精度は低くなるが、方向だけを確認するならばこれでもいける。――目標が、動けないならば、尚更だ。
放たれる電光。それは射線を塞いでいた海をも巻き込み、一直線に剛蔵へと向かう。
「‥‥弱い物苛めに愉悦を感じるとでも?とんだ‥‥変態さんですねぇ」
再度展開される、守るための翼。凛の身を挺した行動は、再度剛蔵を死の淵から救う。
だが、度重なる雷光砲――それも二倍、三倍と、庇護の翼の使用によって重ねられた――のダメージは、彼女にすら、耐え難い物となっていた。
●Race with the Time
唯一庇護の翼が使える凛が倒れた今、剛蔵を救うには次の攻撃が放たれる前に轟天斎を撤退に追い込むしかなかった。
だが、撃退士側は半数以上が戦闘不能、若しくは接着時の距離の問題で攻撃不可能となっている。
――火力不足は、明白であった。
「しかし、そんな昔に死んだ人が、今さらヴァニタスになって復讐とは‥‥」
「ほっほ。忙しくてチャンスが無かったからのう」
彩の問いかけは、轟天斎を撹乱し、時間を稼ぐ意図もあった。効果があったかは定かではないが、轟天斎から、話を引き出す事自体には成功していた。
「八人もヴァニタスを作れるとは‥‥主とやらは、相当弱ってないか?」
「‥‥‥」
答えない。だが、その表情からは、図星だと言う事は、彩には察せた。
剛蔵に向けられる砲口。
希沙良はそれを銃撃で弾こうとするが、彼女から見て反対側の方角だったために、弾丸は轟天斎の体に突き刺さる。
咄嗟に盾を構えそれを防ごうとする海。然し体の痺れが僅かに彼の動きを遅らせ、電光がパチリと。彼の頬を掠る様にして抜ける。
「大井殿を守れい!」
白蛇が司に展開させた白い霧は、常時ならば確かに回避を容易に出来たかもしれない。だが、動けないこの状態では、焼け石に水。
僅かな間、電光が鱗龍の能力である壁と拮抗し――
――そして、貫き。白蛇ごと、剛蔵を飲み込んだ。
●FollowUp
「目的は達した。用はもうないよのう」
腕を地面から抜き。轟天斎は対人磁力を解除する。
「気は進まないが、何かしら戦果を持って帰らないと言い訳も付かない。追撃させてもらう」
天井を蹴り、強襲する。向けられた磁石に、鎖を絡ませ、締め付ける。だが無論それで磁力の働きが弱まる筈もなく。そのまま前から、彩は轟天斎に突っ込む。
周りを見れば、磁力が解除された事でサガとリンドが再度接近してきている。このまま拘束すれば――
「むう、仕方あるまい」
轟天斎の全身から、火花が散る。それが大技の前兆だと気づいた海は、審判の鎖を放つが、それが完全に轟天斎を捉える前に。
ヴァニタスは鎖を引きちぎり、壁を破壊し‥‥外へと、脱出していた。
「あれが九郎さんの言っていた『神鳴』だろうか。‥‥若しそうだとすれば、推測は当たっていたね」
目標人物であった大井 剛蔵は焼き焦げた屍と化した。
せめてもの救いは、敵の切り札の一枚。その正体を暴けた事であろうか。