●ポロッ☆ 女だらけの水泳大会 〜男もいるよ〜
灼けるような日差しが肌を刺す――夏。
ピィィ、とホイッスルの高い音が晴天の空に鳴り響いた。
「着替えた人からチーム毎に並んでくれー」
学園指定のフィットネス水着に白いTシャツ。典型的な学生ルックで参加者達を誘導し、説明を始める猫目夏久。
ちなみに笛を吹いているのは実行委員の黒峰夏紀である。え、水着? 学校指定のに決まってる。
「ん〜〜! 絶好のプール日和だな!」
可愛らしい見た目から飛び出す男勝りな台詞。神埼 晶(
ja8085)はぐっと伸びをして、傍らの姉に声をかけた。
「――ぇ? あ、うん! ‥‥晶ちゃん、一緒に頑張ろうなのっ! ほら、整列するのっ!」
どうも歯切れが悪い。着替える前まで元気だったのに。
具合でも悪いの? と訝しむ妹に、神埼 律(
ja8118)は手を振ってごまかした。
2人の後に続くは道明寺 詩愛(
ja3388)。空色が鮮やかなビキニに巻かれたロングパレオが歩く度にふわりと揺れる。
「楽しそうですけど‥‥男女混合なんですね」
ふぅ、と一息吐いて横をちらりと見る。ただでさえ水着となると男子の目が痛いというのに、だ。
「いやぁ眼福だね〜〜!」
「これは懐かしの『ポロッ!女だらけの水泳大会』的なモンを期待して良いのか?」
そこには、とてもイイ笑顔を交わす大城・博志(
ja0179)と小田切ルビィ(
ja0841)。
この競技は取った取られたの水中乱戦。視線以上の危機に晒される――つまり、そういう事だろう。
「説明はこんなもんだな。じゃあ2人とも挨拶だよ」
夏久は、左右に並んだちびっこの頭をぽんぽんと撫でた。
「はーい! はじめましてっ、白組おーえんする綺羅だよー!」
「赤組の沙羅です! いっしょにがんばろうねっ!」
溢れんばかりの笑顔。応援係としか聞いてない故か、純真無垢な花が二つ。
はたして2人は、殺伐としたプールに颯爽と現れる双子の救世主、になれるだろうか‥‥。
●喧騒のプールサイド
さて。競技説明も終わり、各々が準備体操やら作戦の確認やらに向かう中、何やら揉めている2人がいる。
「ゆらちゃんは脳筋なんだからつべこべ言わずにあたしの作戦に従えばいいんですよ!」
長身の相方を下から睨み上げつつ、卯月 瑞花(
ja0623)はずいっと指をさした。
どうもこのばk‥‥もとい、坂月 ゆら(
ja0081)はいつも根拠のない自信に満ち溢れていて困る。
「ふふんっ! 駄メイドの力などなくとも、この私がいて負ける筈がない」
黒ビキニをつけた形の良い胸を仰け反らせ、ドヤ顔で瑞花を見下すゆら。
「‥‥じゃあたしが結った髪解いていいですね? 水中で髪ばっさばさでぐっちゃぐちゃの井戸子になりますけど」
「そ、それとこれとは話が別だ!」
喧々と騒ぐ瑞花とゆらに、通りすがりの平山 尚幸(
ja8488)が苦笑した。
「まぁ、楽しくいこうよ。ね」
――敵チームに言われましても。
「んじゃ、俺は人数少ない白組に入るぜ。よろしくなー!」
夏久が声をかけたのは同軍の星杜 焔(
ja5378)とラグナ・グラウシード(
ja3538)。
いいのかい、ホイホイと付いて来ちまって。俺達はインフィでも構わず非モテの呪いをかけちまう人間なんだぜ。
と言っているかは定かではないが、きっと打ち解けられそうなオーラを感じたに違いない。非モテ的な意味で。
「うむ、こちらこそ宜しく頼むぞ!」
にこにこと微笑む焔と、ばりばりやる気満々のラグナ。
長めのサーフパンツにパーカーの非モテ優男と、小麦肌に黒のブーメランパンツのへんt‥‥非モテ騎士。
くいこむ水着は女の子だけでいいんだよ! 男の食い込みとかお呼びでないわよ!!
「藤花ちゃんも頑張ろうね〜」
「え、えっと‥‥が、頑張りますっ」
青い水着の胸元を隠しながら、焔の傍らで微笑む雪成 藤花(
ja0292)は、どことなく頬が赤い。
猛暑のせいかな、と濡れタオルを差し出す焔の柔らかな笑みに、更に朱が深まる藤花の頬。
競技の勝敗よりも、球技大会の結果よりも。彼女の頭は別の事で占められていた。
が――気づかない焔。鈍感なればこその非モテ道か。道は、険しい。
プールの中のプール――玉入れのゴールであるビニールプールに乗り、水を掛けあって遊んでいる双子達。
平和な光景。純粋な双子の瞳は、この後どんな戦いが起こるか理解しているのだろうか――?
「本当に妨害ありなのか? レディらの前で醜い争いを見せるのは気が進まないんだが」
ついぞ心配になる龍崎海(
ja0565)だったが、一方全くあくびれる様子もなく笑う夏久。
「そういう遊びって言ってあるし。意外と2人ともやんちゃなんだぜ」
「日常を忘れて楽しむのも悪く無いですよ。私達も、あの2人も」
雫(
ja1894)は白銀の長い髪を編み込み、団子状に結い上げる。
日常を忘れる。それは戦い続ける撃退士にとって、意外と難しくもあり、大事な事だ。
「では、競技を開始するであります! 位置について――」
監視台に座った黒峰夏紀が、いよいよ開幕のカウントダウンを始める。
「海軍志望としては負ける訳にいきません」
過剰な程に育った豊満な胸を揺らし、第2コース最前列で飛び込み姿勢を取るアーレイ・バーグ(
ja0276)。
えるしっているか、おっぱいはみずにうく。天然ビート板現る。
ってかVストリングで飛び込み姿勢って、後ろから見たら色々はみ出(以下自主規制)
「この学園は本当に飽きないね。勝敗はともかく、全力で楽しもう」
遊びに全力大いに結構。刹那の享楽こそが我が全て。
かくいうアリーセ・ファウスト(
ja8008)も最前列で身を屈め、静かな闘志を漲らせた。
「よーい‥‥スタート!!」
仁義なき水の戦いが、始まる。
●なんで意思疎通できてるとか細けぇこたぁいいんだよ
ホイッスルと同時に激しく散る水の飛沫がプールサイドを濡らす。
第2コース、フライングもかくやの反応速度で飛び込むアーレイ。更に間髪入れず、夏久が後追いで飛び込んだ。
水中で開いた彼の目に飛び込む2つのたわわな果実。
おい、隠れて、ない。
「ぶはぁっっっ!!」
そりゃ際どさに定評のあるVストリングじゃ飛び込みの衝撃に耐えられないよねっ。
真正面から『それ』を直視して、赤が広がるプールにぷかぁ、と俯せに浮く夏久。
記念すべき撃沈一号である。
「‥‥あら、肩紐が外れてしまいました。これが日本で言う『ポロリもあるよ』という奴ですね?」
「おい、大丈夫か猫目っ!」
と、夏久を救助する様に見せかけ、直近へ寄るルビィ。前髪をブラインドにして近々で観察とは、こやつやりおる。
日本人は奥ゆかしいですねーと言いつつ水着を直して水中へ沈むアーレイを見送り、ルビィは夏久の背を叩く。
「猫目、今日も絶好調じゃん! いきなりゴチソウサマだぜ。今日は色々期待させて貰うから宜しくな!」
アメンボの様に水面に浮かぶ夏久に声が届いたかは定かでないが、今のルビィには些細な事。
そう、彼は今いつもの彼ではない――熱きロマンに燃える紳士だ。
キャラ崩壊? コメディだから仕方ない。
「せっ、先輩は今の見てないですよねっ!?」
「? 何をだ、ルカ」
獅堂 遥(
ja0190)はラキスケ爆心地――アーレイと久遠 仁刀(
ja2464)の間に割り込み、わたわたと手を振った。
水着女子だらけのこのプールで、破廉恥の魔の手から仁刀を護る事こそが彼女の目的。
幸い爆心地は遠い。遥はほっと胸をなでおろす。
「それじゃ仁刀先輩、ボク達も頑張ろうか」
「ああ。俺は全力でサポートするから、玉の回収は雅に任せるよ」
心得た、と桐原 雅(
ja1822)が微笑んで水面へ潜り、仁刀がそれに続く。
いつもは肩を並べて戦う2人。だけど。戦いを離れた今だけは――護られても、いいよね。
ほんの少しの淡い期待を心に閉まって、雅は水底へと急いだ。
「出だしから派手だねぇ。‥‥あたしはこっそりとおいしい所を狙ってみようか」
惨劇の始まりを横目で眺めつつ、ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は静かに水に潜っていった。
目立つ気はない。ちゃっかり細々と点数を集めて、最後に笑えばオールオッケー。
だが、同じ事を考える人は勿論居るもので。同じ黄玉を前に視線がぶつかる。
(水神の異名にかけて――水の勝負には負けられないわ!)
硝子の様に透き通る銀の髪を揺蕩わせ、珠真 緑(
ja2428)は泳ぐ足に力を込めた。
勝負事に躊躇いは不要だ。ほんの小さな勝負で生と死を分かつ事もある。彼女は、育ち故にそれをよく知っている。
故に、緑は1点の黄玉でも手を抜かない。
更に鳳月 威織(
ja0339)が2人の間に割って入り、ソフィアの進路を妨害した。
(今のうちです珠真さん!)
肩越しに目配せをする威織。だが、後ろを向いている彼はまだしらない。
(鳳月あり‥‥が、と?)
緑の目が点になる。彼の体越しに見えるのは、程よく育ったソフィアの胸。
白いホルターネックのトップスが、ゆらりと水に漂った。
(さぁ、勝負である以上、全力――)
嗚呼。前を向いてしまった。
手で局所は隠しているとはいえ、恥じらいに頬を染めた上半身裸の少女の姿が、彼の視界に収まる――。
「うわ”あぁがぼぼぼぼっっ」
思わず水中である事を忘れて叫びをあげ、全力で水上を目指す威織。
水底には、あまりの反応に面食らう女子が2人取り残されたのだった。
‥‥頑張れ、純情少年。
一方、第4コース付近。
最初の潜水を終え、息継ぎに浮上するラグナと焔。両手にはそれぞれ黄玉と青玉が握られている。
「あはは、これは涼しくて気持ちいいな! どんどん行こうか星杜殿!」
まさか潜水中に『事故』が起きていた事など知る由もなく、水の冷たさにはしゃぐラグナ。
真面目で実直、豪胆こそが本来の彼の姿。
しかし何故だろう、キャラが崩壊して真面目になってしまったように見えるのは。‥‥疲れてるのかな。
「ラグナさん張り切りすぎて溺れないようにね〜」
と呟いて、再び焔も水中に向かっていく。しかしその声に返事するのは。
「うふふふ〜〜大丈夫〜。アリス先生の為に、殺‥‥やる気満々ですよ〜!」
アリスへの愛故に殺意の波動に目覚めた森浦 萌々佳(
ja0835)――!!
壁を蹴って勢いをつけ、2人を追って鋭角に水底へと潜る。
だが、このままじゃ弱いと考えた。相手は男子だ。力で劣‥‥らないかもしれないけど、念には念を。
プールの底を再び蹴り、一気に水面に向かう。狙うは黄玉を抱えたラグナ。
(ごめんね〜☆)
まるで深海から襲い来る魚雷の如く。すらりと伸びた白い足が、男の背中を襲う――。
「ごぼぶふぉぁッ――ぉぁ――ぁ‥‥」
哀れラグナはエコー(セルフ)のかかった声と共に空高く蹴り出され、集めた黄玉は萌々佳の手に渡ったのだった。
合掌。
「ぷはっ――」
2人の攻防の横、水面から顔を出した藤花はビート板に凭れた。首から下げた藍玉と赤玉2つがころりと音を立てる。
「あ、藤花ちゃん。これも一緒に持って行ってくれる〜?」
「あ、はいっ! いいですよ」
ビート板に集めた玉を載せてバタ足で泳ぎながら、藤花はぼんやりと考え事をしていた。
板の上で揺れる青玉。争い事は苦手だけど、大丈夫だよね。
「わたしも役に立てる、よね‥‥」
青玉を握りしめ、にまっと頬を綻ばせながら、彼女は浮島へ向かった。
●見物人達の閑話
「点数が入りだましたね、中山撃退士」
監視台からプール全体を見渡す夏紀には、人の動き、玉の流れがよく判る。
競技の性質上、序盤は平和だった浮島にも少しずつ動きが増えてきたのだ。
「そうね。玉が徐々に浮島に集まる時間帯だし‥‥これはまたぽろ‥‥いや、美味しい絵が期待できるわ!」
ファインダーを覗きながら目を輝かせる寧々美。少しくらいスケベな記事がある方が読者の食いつきはいい。
学園きっての鉄砲記者は、最早誰も止められないのだろう。
全く困った人だ――。後輩の筈なのだが、どうも強く言えない。
「‥‥破廉恥であります」
溜息と共に、夏紀はそっと独りごちた。
●死なばもろとも同士討ち
「ぷはぁっ、大漁大漁!」
「‥‥あら、水着が」
威織を(精神的に)撃退した後、好機とばかりに水着が脱げたままの状態で赤玉を回収してきたソフィア。
勿論――彼女の胸に目がいって精神的被害‥‥否、役得を得たのは敵ばかりではないが。
毒を食らわば皿まで。死なばもろとも無差別攻撃。点数とれりゃ何でもいい。
「わざとだから大丈夫。それじゃ、よろしくね」
「心得ました。では、水上の彩りとなるよう尽力致しましょう」
古雅 京(
ja0228)は優雅な所作で玉を受け取り、見事な谷間に赤玉4つを挟みこんだ。もっちもちやぞ!
更にその上から両手で押さえ、桜色のパレオを翻し、第2コースの浮島を駆け抜ける。
ぽよん もよん ぽよん もよん
京が走る毎に白地に赤いストライプの鮮やかな水着が揺れる。Yes☆ダイナマイッ!
誰もが羨むその質量‥‥!圧倒的ではないか我が軍は。そう思った瞬間、後発のアリーセが叫ぶ。
「古賀さん、危な――」
「ゆらちゃん爆弾ー!」
――説明しよう!
ゆらちゃん爆弾とは、味方である坂月ゆらを第4コース浮島に立たせたのち第2コースに向けて蹴り飛ばして落水させ
激しい水飛沫をぶっかけつつ大波を作り、更に蹴った本人が超楽しい、卯月瑞花が考案した恐ろしーい攻撃である!
ざっばぁぁああん!!
「犠牲とは悲しいモノですねー、無茶しやがって‥‥ぷぷ」
「きゃあああっ!?」
不恰好な姿で水面に叩き付けられる相棒に笑いが漏れる瑞花。まさに外道。
一方激しく揺れる浮島に、思わず四つん這いになってしがみ付く京。‥‥これはこれでよし!
それでもゴールに向けて躙りよる。勿論自分が今どんな格好なのか、考えるまでもなく恥ずかしい。
「おねえちゃん、あとちょっとだよー! がんばれー!」
綺羅の声が耳に届く。もうちょっと。もうちょっとならば我慢致しましょう。
「これで、よし‥‥っ!」
水に濡れて張り付いた前髪を掻き分けて、満足気ににっこり。
ゲーム中盤、白組に大量得点。大量リードを得る――。
しかして紅組だって負けられない。
「律姉! ほら、こんなに拾ったよ!」
「うん、晶ちゃん後は任せてなの!」
特に神崎姉妹の連携プレーは目を見張る物がある。
妹が集め、姉がゴールへ走る。単調だが、どちらも続ければ慣れていくのは必然だ。
しかし律も複雑なお年頃。玉を集めて直接浮島に上がる萌々佳や瑞花達‥‥の、胸と自分のそれを見比べ、溜息。
――卯月さん達と並ぶと目立たないの。
一方、詩愛はようz‥‥とてもスレンダーで無駄のないボディを活かし、わざと浮島の上を滑ってタイムを縮めていく。
「凹凸が少ないと抵抗も少ないからよく滑るんです」
遠い目で語る詩愛。口元は微笑っているのに、つぅっと落ちる液体は一体なんだろう。
我慢するな‥‥おまえは今泣いていい!泣いていいんだ‥‥ッ!
「‥‥道明寺さん、一緒にいましょうなの」
キラキラした目で肩ぽんする律。こいつぁ仁義ねぇ戦争だぜ。
「詩愛ちゃん‥‥ええと、戻ってきて下さい?」
逆に妖艶な肢体を菫色のビキニで包んだ権現堂 桜弥(
ja4461)は、浮島の構造に注目して攻略を進める方針。
「端には乗らない様に――乗り移るタイミングも注意が必要ね」
この浮島は中央を一箇所、串状にロープが通っているのみ。端に行ったが最後、衝撃でドボン。
各々が分析しながら進む紅組浮島班は、手堅く堅実に点数を重ねていった。
が。
彼女達の最大の敵は――白組の博志かもしれない。
「いい‥‥! やはり、きょぬーにはきょぬーの、ひんぬーにはひんぬーの良さがある‥‥!」
すっごい見てる。それはもうすっごい見てる。見る以上は勇気が沸かないんだけどね!童●だからね!
そこにアーレイや緑が玉を渡しに来たりすると更にフィーバー。禁断の果実だらけである。●貞だけどね!!
――と、パラダイスを鑑賞している所に、尚幸とラグナから玉を渡される。
ラグナにはなんか生温かい目で見られた気がするけど気のせいだよね。
「っと、コレ渡されたって事は走らないとか」
本来の役割を思い出した博志。そういや俺、魅惑の果実に想いを馳せる係じゃなかったわ。
浮島に手を付き、勢いをつけて登――ふにっ。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
やわらかい、何かと、顔面が、衝突した。
ここはありとあらゆる乳を愛するおっぱいソムリエとして、当てねばなるまい――! あと童●として!!!
「この薄さは、しずk」
「今すぐ直ちに光の速さで記憶を抹消します」
「お手伝いします」
神速で振り下ろされる雫の拳と、薄いと聞いて4コースから出張した詩愛の内股から取り出されたデスソースが閃く。
真っ赤な液体が博志の口を満たし、やがてゴポォ、と音を立ててデスソースと血が混ざった汁がプールを染めた。
――本望なり。
●敵の敵は敵
競技は後半に差し掛かる。
圧倒的な戦力と思われた紅組アリス軍だったが、ソフィアのお色気戦法と秋月 玄太郎(
ja3789)の指示、
がっちりサポートで回収率を上げた仁刀、雅ペアの功績で、戦況は白組優勢。
既に水底に玉は殆どなく、戦いは泥沼の強奪戦へと突入しようとしていた。
(ん‥‥これで青玉4つ目、だね)
拾った青玉を見せながら、雅と仁刀は頷きあった。
ちょいちょいと水面を指さし、一気に浮上していく――が、2人の前に立ちはだかる、殺意の波動(略)萌々佳と晶。
(青玉一杯見つけた〜☆)
ざわっ。
涼しかった筈の水が冷たく感じる。仁刀の背中に走る、得体の知れない悪寒。
雅を護らないと。真っ先にそう思った。雅を活かさないと。彼女が逃げられれば、目的は成る。
長く戦えば他の敵が来るだろう。
(2対1だが‥‥已む無しか)
仁刀が先制攻撃を仕掛ける。攻撃は最大の防御。キューブを持たない自分なら尚の事。
(おっとぉ!)
人魚の様な身のこなしで仁刀の腕を避ける晶。彼の背を蹴って、背後の雅を狙う。
しかし、可愛い後輩の為に張り切る仁刀も負けられない。咄嗟に伸ばした手で晶の足を掴んだ。
互角――。
睨み合う両者。その隙を狙って雅の背後から萌々佳が羽交い絞めをかける。
(しまった‥‥っ!)
(うふふ〜逃がさない〜〜☆)
時既に遅し。がっちりと回った腕はそう簡単には解けない。身を捩って暴れる雅、状況にようやく気づく仁刀。
護りに、行かないと――。と、仁刀が雅に向かったその瞬間。
(もう、ちょっとで、抜け‥‥あれ?)
はて。
胸元がスースーする、よ?
胸を見下ろして瞬き2つ。ずりさがった黒のパンドゥービキニを確認。それから、顔をあげて。
仁刀と目があった。
(やあぁああぁぁぁっっ!!)
(〜〜〜〜ッ!!)
慌てて雅に背を向けたが、間違いなく、みえ、た。
目を閉じてもフラッシュバックする。少し小ぶりだけど透き通る様に白くてもっちりした、それ。
悲しい物だな、若さ故のリビドーという物は。あ、まずい鼻血でそう。
取り敢えず、目を閉じたまま当てずっぽうに萌々佳に体当たりし、雅の手をとり仁刀は水上へと向かっていった。
(あれ、青玉置いていったね?)
(え〜と‥‥、色んな意味でごちそうさま、かな〜〜?)
結局青玉はほくほくと回収されていくのであった。
「な、ななな何してるんですか先輩‥‥!?」
浮上した所に丁度居合わせるなんて、何というタイミング。
愕然とする遥。それも当然の事。密かに好意を寄せる相手が、胸のはだけた女の子と一緒にいるのだから。
しかも、女の子は先輩の背中にぺったりくっついて隠れてて。それって素肌同士じゃないの?
「ルカ!? これは敵チームの妨害で――」
「みた、んですか」
「みみみみみるわけないだろう!!!」
――そんなに、動揺しないで下さい。悲しく、なるから。
白地に桜模様が可愛いビキニ。いつもより、ちょっと大胆なデザイン。私も、頑張ってるんですよ?
「ほ、ほら。雅の水着も治ったし、気を取り直して、今度はルカも一緒に拾いに行こう、な!」
「今度は、ボクも負けないよ」
また、誤魔化される。すれ違う。言えない言葉が、水に溶ける。
――私の事も見て下さい‥‥大好きな、先輩。
まずい、残り時間が少ない。
詩愛はプールサイドに設置された時計を見ながら、思考を巡らせた。
残りの時間で確実に逆転出来る方法はある。しかし、それは幼い綺羅を犠牲にしなければならない。
勝負を取るか、良心を取るか――。
「綺羅ちゃん、ごめんね‥‥勝負とは時として非情なんです!」
必殺☆ゴール返しっ!!
「ひゃああっ!?」
どっばーーん、と大きな音を立てて白組ビニールプールがひっくり返る。
流石久遠ヶ原、良心なんてエアだったんや。
ルールの穴をついた――というか誰も予想し得なかったであろう詩愛の攻撃。
確かにゴールへのダイレクトアタック禁止してないもんね!
「これで紅組が有利になったはず‥‥!」
だが詩愛のゴールアタックにより、戦いは過酷への一途を辿っていく。
静かに、しかし結構な速度で沈んでいくキューブ。
「ゆらちゃん行くよ!」
「駄メイドに言われるまでもない!」
「ぬう、渡さんぞ!」
「あれを取られる訳にはいかないぜっ!」
「ラキスケは俺のもんだ!」
只今不適切な表現がありましたことをお詫び申し上げます。キャラ崩壊中だから仕方ない。
沈みゆく玉を追う蘢宮家コンビと海、そして威織。同時にラグナ、雫、尚幸が、それらを追って夏久とルビィが潜る。
当たり前の様に大混戦である。
改造忍服の水着の隙間に次々と玉を詰めこむ瑞花。相方ゆらは口に入れることも辞さな‥‥そこは辞そうよ。汚いよ。
(こういう時こそ冷静に堅実に、ですね)
雫は青玉を、尚幸と威織は高得点の赤玉をそれぞれ両手に拾っては浮上を繰り返す。
一方、このまま紅組に玉を奪われては勝利はないと、玉の回収はそこそこに瑞花らに妨害を試みるのは夏久とルビィ。
(コレが欲しいんですか? ‥‥取れるものなら取っていいですよー♪)
瑞花は胸の間に赤玉を3つ並べて動きを止め、にっこりと笑顔。
なつひさは からだがしびれて うごけない!
ルビィは そっとたにまに てをのばした!
(玉を取るだけ玉を取るだけ玉をとるだけ――)
(ていっ♪)
もにゅっ
ほんの少ーし。体を前に動かすだけの簡単なお仕事。ルビィが握っていた赤玉が2個、ぽろっと落ちる。
取っていいけど動かないとは言ってないですからね。
(――――ッッ!)
がぼがぼと空気を吹き出しつつも、ルビィはすっごいイイ表情で浮上してくのだった。
「柔らかかった‥‥」
どうみてもご満悦です本当に有難うございました。
「綺羅ちゃん、浮かんでこないね」
綺麗な方の非モテ、もとい焔が呟いた。
先程の詩愛の攻撃で水中に沈んだ綺羅が、既に1分近く戻らない。
「綺羅ちゃんどうしたの‥‥? やだ! 綺羅ちゃんがしんじゃう!」
泣き出しそうな沙羅の叫び。焔は弾かれた様に水へと潜った。助けたい。目の前で、誰も失くしたくない。
探す、という程もなく、水を飲み過ぎて意識を失った綺羅は第2コース直下をゆるゆると沈んでいく。
強靭な脚力で一際加速し、沈みゆく少女をしっかり抱きとめた焔。水面は遠く、高い。
――緊急時だし、スキル使ってもいいよね‥‥?
イヤーカフがきらりと輝き、水の中に虹色の光焔が揺らめく。次第にそれらは背へと集まり、美しい光爛の翼となった。
光の翼が水中でプリズムとなり、きらきらと輝く。眩しい光が、瞼を刺す。
(かみさま――?)
幼い彼女はその光を瞳に焼きつけ、意識は再び深い闇に溶けた。
話は再びコメディに戻る。
水上では水上の戦いが熾烈を極めていた。
雫らのピストン輸送に加え、焔と藤花がAエリアから集めた玉を両手にアリーセが浮島を走る。
「流石にこうも妨害が多いと、島が乾く事はなさそうだね」
足の裏に全神経を注いで、滑らない様に慎重に、けれどリズムよく走る。
あと島2つ。大丈夫そうだ。どうやら妨害もない――そう思ってた頃がボクにもあった気がするよ。
「ふん。この程度のぐらつきを走る事など、俺には造作もない‥‥!」
とか言いながら、後方から全力で側転しながら迫る玄太郎。なにこれこわい。味方の妨害とか斬新。
しかもちょっと笑い声とか聞こえる気がする。
「余裕だな。ではバク転のおまけをくれてやろう」
誰に!? しかもおまけがバク転とかいらない! そういうの待ってない!!
眼鏡をくいっと直してから空高々と跳躍し、3回半ひねりを加えて着地のフィニッ――。
「おりゃーーっ♪」
浮島ごと転倒したぁ―――っ!!
水中から勢い良く浮島を持ち上げた晶により、玄太郎選手転倒! 惜しくも金メダルを逃し‥‥最初からねえよ!?
「わっはっは! 人生予期せぬ事が起きるものなのよ!」
上機嫌で玄太郎の落とした玉――何処に持っていたかは突っ込み厳禁――を拾って、晶は4コースへ帰っていった。
「はは‥‥本当に、飽きないね」
目の前で繰り広げられた嵐の様な一瞬の事件に、流石のアリーセも度肝を抜かれる。
久々に少し、驚いた。手持ちの玉をシュートした彼女は、心を落ち着けて再び水中に戻ったのだった。
さて舞台は今一度水中へ。
先の攻防の後に瑞花とゆらは水底を離れ、代わりにソフィアや緑が参戦。
残るはその2人と潜り続ける海、ラグナ。ピストン輸送を続ける雫、尚幸、威織。
(玉がなければ相手は点を取れない‥‥が、難しいな)
割と当たり前の事である。そんな状況が簡単に作れるなら仁義なき戦いなんて言わないのだ。
息の続く限り手当たり次第に集め続ける海は、浮上する威織に玉を託して再び水底を探り回る。
と、そんな折。ラグナが拾った一つの玉――しかも終盤には貴重な赤玉を緑が狙っていた。
睨み合う2人。しかしラグナの顔は緩い。
(やるの? 水神・珠真 緑‥‥手加減はしないよ)
ぶんぶんぶんッ、と水中で大きく首を振るラグナ。彼は女性に滅法甘い。非モテ故の悲しき性よ。
(よ、良ければ持っていけ!)
赤玉を乗せた右手を、ラグナは力強く前に突き出す。
顔はどことなく赤く、そっぽを向いていた。
(そうか、じゃあ貰っていこう)
対峙する両者の横から割り込んだ海が、件の赤玉に手を延ばした刹那――。
くわッ!
緑に譲る事で何かわはーできゃはーな展開を期待してたとかそんな訳じゃないけどとりあえずけつるいがとまらない!
(絶対渡すかッ! そぉいッ!!)
怒りと絶望と燃え上がるしっとのこころが宿った拳が海を貫いた。
よかった、キャラ崩壊してなかった。どうやら非モテの呪いからの開放は、永遠に未実装ですね。
再び合掌。
●無限ループって怖い
「「「おつかれさまーーー!!」」」
寧々美が大量のジュースを配り、なぜか乾杯する一同。その場のノリってあるよね。
どちらの軍も頑張った。仁義なき戦いが終わった今、互いの健闘を讃え合う。
「おつかれ律姉!」
「晶ちゃんもお疲れ様なの。ショックな事も多々あったけど‥‥でも楽しかったの」
まぁこれだけきょぬーが溢れていれば、自信がなくなることもある。大丈夫下にはしたg おっと誰か来たようだ。
乳に貴賤はなくどれも好きっていう意見もあるから大丈夫! DO☆TE☆Iの人だけど!
「それにしても、何故当事者の2人がいないんだ。やる気あるのか!?」
缶のカフェオレを飲みながら、玄太郎は苦い顔をした。
そんな玄太郎を、桜弥がやんわりとなだめる。
「まぁ、仕方ありません。学校が焦土になってしまいますし」
「実はアリス先生と太珀先生って似たもの同士、なのでは‥‥」
ぽつり、雫が呟く。
片や幼児体型すぎて水着から逃げ、片や泳げないだけ(推測)――という真実は闇に葬られるのだ。
「いやーいい絵一杯撮れたわー♪ 取材に来てよかったぁ」
‥‥上機嫌過ぎて恐ろしい。一体あのカメラの中に何が収められているんだろうか。
「深夜に学園内放送で流すんですよね?」
「中山さん、その動画のコピーが欲しいんですが」
アーレイが麦茶のペットボトルを煽りながら、寧々美に尋ねる。
続いて海は思い出として双子に送ったらどうかと超真顔で迫った。
深夜帯に放送するレベルのポロリ映像を6歳児に贈呈するとかお縄にかかってしまうでござる。
「え、全部写真よ? 弱小新聞部にニュース番組なんて夢のまた夢だからね‥‥っ!」
海の目論見敗れたり――。
「おにいちゃん、えっと‥‥お名前は?」
烏龍茶で一服している焔の元に現れたのは、双子の片割れ、綺羅。
まさか溺れるなんて思わなくて、幼心にはもう死んでしまうかと思ったものだ。
「え? 俺は焔だよ。星杜、焔。さっきは危なかったね〜」
「うん! ほむら、ありがと!」
小学校1年、か――。
何か、胸に疼く眩しい物を感じながら。焔は綺羅の頭をそっと撫でた。
その笑みは、いつものそれよりも、ずっと優しい顔だった。
「それでは結果を発表をするであります――68対32、勝者は紅組アリス軍!」
わぁっと起こる歓声。応援席から響く万雷の拍手。
アリスチームのメンバーが抱き合い、ハイタッチし、跳ね回って喜びを分かち合う。
「負けたけど楽しかったなー。いやぁ、青春だぜ」
「確かに色んな意味で青春が詰まった競技だったな‥‥って夏久危ねェ!」
ルビィの声はほんの一瞬間に合わず。飛び跳ねてバランスを崩した晶が夏久に接触し、押されて倒れる夏久。
「へ?」
むにっ
「ってて‥‥? あれ痛くな」
「――破廉恥でありますッ!!」
ばちぃぃぃんっっ!
状況を把握する前に、夏紀の右手が甲高い破裂音を奏でた。
やっぱり、そういうオチか。
●
暫く後――。
夏紀に張り手され、更に便乗した寧々美から追加ビンタを食らって重症となった猫目の代わりに
双子が報告書を本部へ運んできた。
種目/球入れ
白組:8ポイント 紅組:17ポイント