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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:シリーズ
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/10/16


みんなの思い出



オープニング

「わぁ、見て見て沙羅ちゃん! 『ゆるぱんだ』の新しいシールがでてるよ!」

 久遠ヶ原のとある商店街の、とある雑貨店。
 キャラクターグッズや玩具などの商品が並び、小さな子供たちがこぞって目を輝かせる。
 荻嶺沙羅と綺羅の双子も、例に漏れずその1人‥‥いや2人だった。
「かわいー! か、買っちゃおうかなぁ‥‥」
 身を乗り出してシールを見つめる沙羅。『ゆるぱんだ』はお気に入りのキャラクターだ。
 そしてシールを一杯持ってる事は、何故か小学生女子にとって一種のステータスであるのだ。何故か。
 思わず財布を除いて所持金と相談を始める沙羅に、綺羅が驚く。
「えっ、このまえ買ったシールまだ残ってるよ?」
「そ、そうだけど‥‥う〜〜〜、綺羅ちゃんが教えたのに、いじわるううう!」
 欲しいけどまだ在庫が一杯ある。欲しいけど、お小遣いも限られている。
 たかがシールといえど、子供の財布には軽い出費とはいえないのだった。
 それにしたって、話題を振った癖に意外と冷たい綺羅に涙目の沙羅。
 ――それならわたしもお返しだもん!
「ほら、綺羅ちゃん!! 『手袋にゃんこ』のしたじきだよー♪」
 小さな手で翳してみせたのは、黒猫がピンクの肉球手袋をはいたマスコットの下敷き。
「ホントだ! これまだ持ってないなぁ、欲し〜〜!」
「綺羅ちゃんあんなに一杯下敷きもってるのにぃ?」
 ニヤリ、反撃の沙羅。実は綺羅は下敷きコレクターなのだ。
 これもまた小学生にありがちなステータスの一つ。何故か色んな下敷きを持っているのがジャスティスらしい。
 やり返されたと気づき、今度は綺羅が涙目になった。
「も〜〜〜、沙羅ちゃんのいじわるううう!」
 ぷくーと頬を膨らませていじけて見せた後にどちらからとも無く笑う双子。
 今日も2人は通常営業である。


 そんな微笑ましい双子の傍ら、ふと、見慣れないものが目に飛び込む。
 黒にオレンジに、紫に赤。賑やかしく彩られたコーナーに駆け寄り、沙羅は声を上げた。
「あれ、ねぇねぇ綺羅ちゃん、あれなんて読むのかな?」
 沙羅は沙羅の手を引っ張り、見出しPOPを指さす。沙羅は、英語が苦手なのだ。
「ええと‥‥はっぴー、はろー‥‥?」

「ハッピー・ハロウィン」

「これは、ハロウィンっていう外国のお祭りだぜ」
 背後から声をかけたのは、エプロン姿の猫目夏久だった。
「なつひさ!? なんでここにいるの?」
「なつひさも『ゆるぱんだ』買いにきたの?」
「「はろうぃんってなに??」」
 お子様の得意技、質問攻めにたじろぐ夏久。
 まぁ女児向けグッズショップに中学男子が居ればまぁ、色々アレな感じがしなくもないが。
 エプロン姿から分かる通り、脱・素麺生活のためにバイト中のようだった。誤解なきよう。
「俺はしーごーと。ハロウィンってのは、魔女とかお化けとかの仮装をして、大人にお菓子を貰うお祭り‥‥かな?」
 夏久は首を傾げながら答えるが、日本人のハロウィン知識はそんなもんである。
 ルーツであるとか、本場の祭りがどうとか、日本人には大した意味を持たない。楽しけりゃいいのだ。
「そういや、ここの商店街でもハロウィンイベントやるそうだぜ。皆で仮装してお菓子の交換会をするんだって」
 夏久がそう言うと、双子はもう『ゆるぱんだ』も『手袋にゃんこ』も忘れ、目を輝かせた。

「「やるっっ!!!」」




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リプレイ本文

●プロローグ


パンプキン パンプキン 目を作ろう♪

パンプキン パンプキン 鼻を作ろう♪



 陽気な歌が流れる商店街で、鐘田将太郎(ja0114)は一枚のチラシを手に取った。
「ほー、ハロウィンねえ?」
 ――流石に男1人は厳しいが‥‥子供か。
 『リトルレディ』の顔を思い出し、将太郎は小等部棟へと向かった。

 将太郎が去った数分後。
「イベントかぁ♪ 折角だし、誰かと一緒に遊びたいなぁ」
 そう呟きながら、清良 奈緒(ja7916)はハロウィン真っ盛りの雑貨屋へと消えていった。

「お菓子ゲッター!? うむり、それは参戦せざるを得ないのだ!」
 雑貨屋のお隣のケーキ屋で大声をあげたのは二階堂 かざね(ja0536)。
 対面に座る青空・アルベール(ja0732)も、早速色んな衣装を思い描く。
「やっぱ小さい子が主役だよね〜。私、しろちゃん誘おうかな」
 楽しい日常。部活。仲間。後輩。
 色んな想いを混ぜ込んだ紅茶を飲み下し、青空は、若菜 白兎(ja2109)を探しに店を出た。


 所変わって学園内。

 『仮装コンテスト☆団体戦☆』と看板を持った南瓜男が、学園を練り歩く。
「コンテストって事は舞台よね。‥‥人集めてみようかしら♪」
 疼く舞台への情熱。真宮寺 神楽(ja0036)は仲間を探しに去っていった。

「手伝おうか‥‥?」
 もたもたチラシを貼る着ぐるみを見かねて常塚 咲月(ja0156)がつつくと、それは聞き覚えのある声を挙げた。
『おー、助かるぜ!』
 中身はバイト中の夏久。チラシ貼りを手伝いながら、咲月はその内容を目を留めた。
「─―ハロウィン‥‥そんなのもあったね‥‥」
『沙羅ちゃん綺羅ちゃんも誘ったし、良ければ先輩もどうぞ』

「折角デジカメ手に入れたし、何か撮る物ないかね‥‥っと、なんじゃありゃ」
 意気揚々と校舎を出ていく南瓜男と、手を振る咲月の姿。
「よう。‥‥なんだあれ?」
「‥‥猫目くん。コレ、貼っていったよ‥‥」
 そこには綿貫 由太郎(ja3564)が正に探していた、イベントの案内だった。



パンプキン パンプキン 恐ろしい笑顔で♪

――やぁ、僕 ジャック・オ・ランタン!





「しろー、ハロウィンって知ってる?」
 とある日の夕方。小等部1年3組の教室で賑やかに声を交わす白兎と双子。
 もしかして、と鞄を探って白兎がチラシを取り出す、が。
「難しくて読めないの」
 しょぼん。
「しーろちゃん、商店街でね――」
 タイムリーに青空が現れると、待ってましたと目を輝かせる子供達。
 夏久に話を聞いた咲月と由太郎、将太郎が双子を訪ね。更に神楽が通りかかり。
 青空に呼ばれてかざねが着く頃、
「お菓子ゲッターと聞いてかざねこぷたーで飛んできましたよー!」
「「せーのっ、とりっくおあとりーとっ♪」」
 双子は立派なハロウィンかぶれになっていた。

(――?)
 廊下まで響く楽しそうな声に、奈緒は教室をそっと覗いた。
 すると、色んな年齢の人達がハロウィンの企画を立てているではないか。
(いいなぁ‥‥)
 思った矢先に将太郎と目があい、たじろぐ奈緒。そんな少女を見て彼は笑って手招きした。
「遠慮なく入っていいぞ。お祭りは皆で楽しむもんだからな」



●メイキング

「仮装はこれがやりたいの〜」
 白兎が『不思議の国のアリス』の本を掲げると、満場一致で決定した。

「アリスは綺羅ちゃんが橙、沙羅ちゃんは青色、でどうかしら――」
 それから、デザインを考えて、皆の体を採寸して。双子を寮に帰した後に、一気に買い出し強行軍。
 抱える程の布と、小道具用の棒に針金、紙粘土。まだまだあるぞ、お菓子の材料も買わなくちゃ。
 急げや急げ、お祭りはすぐそこだ。



 そして――。

「わ、わ、わ」
「みんな、かっこいい!」

 イベント当日、街角。
 それはとっても圧巻で。大きな時計の白うさぎに、王冠を載せたハートの王様と女王様。
「にゃー♪ 皆一緒で楽しいですねー!」
 トランプ型着ぐるみのダイヤの《6》に、奈緒のふわもこチェシャ猫。
「はい、2人の衣装‥‥。着て見せて‥‥?」
 大きなリボンが目を引く帽子屋・青空と、琥珀色の兎耳の咲月が色違いの服を差し出して。
 双子がそれに着替えたら、そこはもうアリスの世界。
「良かった、二人ともよく似合ってるわよ♪」
 と、微笑む神楽は公爵夫人。

 さぁハロウィンの夜が始まるよ!



●お菓子は命の源ですし!

「お菓子ゲッターチーム、いきますよー! ツインテ3人もいるし、頑張るしかない!」
 ツインテ女王は正義の女王、と豪語するかざね。ツインテ隊の白兎と奈緒をみてガッツポーズを一つ。
 吸引力の変わらないただ一つのお菓子センサー(ツインテ)を頼りに駈け出し、奈緒が追った。
「二階堂先輩には負けないなの〜」
 負けじと白うさぎの白兎も、耳‥‥いや髪をぴょんと揺らして甘い匂いを嗅ぎ分ける。
 そして沙羅は白兎に手を引かれ、綺羅は青空と一緒に走り出した。


「とりーっく、おあとりーとッ!」
「おかしくれにゃいと、悪戯するにゃー!」
 喫茶店に入るなり叫ぶかざねと奈緒。
 店長どころか追いついた仲間達すらも度肝を抜かれるそのテンション。なんか仁王立ちだし。
「みんな凄い衣装ね。はい、ハッピーハロウィン♪」
「わ、美味しそう‥‥ありがとうなの〜」
 パンプキン型マドレーヌを受け取った白兎は、今すぐ食べたい気持ちを抑えぺこりと頭を下げた。
「お姉さん、一つ私と謎掛けしない? 私が勝ったら、1つおまけを頂戴な」
 ワンモアチャンス。青空が少し演技ぶって、帽子屋らしく話しだす。
 お店の数は有限だ。全て回収しても単独1位は難しい。ならば何処かで多く貰う必要がある。青空は、賭けた。
「あら、お菓子をあげても悪戯があるの? ふふ、いいわよ」
「どんどん進んでも元の所に戻ってきてしまうものは?」
 沈黙。んー、と考える声がして。
「あ、ランニングマシン♪」
 首を傾げて青空の上着の裾を引っ張る沙羅と綺羅。
「お日さま?」
「メリーゴーランド!」
 目が点になる青空。確かにどれも『進んでも戻る』もの。
 やられた、とちょっと笑って。それから青空は白兎の頭に手を載せた。
「参ったな、皆正解だ。私の答えは、それだよ」
 と、青空が指差す先、一同の視線が白兎に――少女のポシェットに集まる。
 白兎が首にかけたそれは、白うさぎらしく『時計』のカバーつきなのだ。
「あ、時計ですね!」
「私の負けだから、おまけは諦めるね。これは遊んでくれたお礼なのだ」
 彼が取り出したのは、コミカルな表情の手乗りジャック・オー・ランタン、のマスコット。
「ありがとう。‥‥でも、答えが違ったから痛み分け。さ、オマケあげるわね♪」
 女店主の計らいに、一同がわぁっと沸いた。


●きまぐれ帽子屋の道標べ

「「有難うございましたー!」」

 店を出た一行を待ち構えていたのは子供の大群‥‥否、子供に囲まれる由太郎だった。
 神楽や咲月、将太郎との4人でお菓子を配り歩いていたら、あれよあれよで子供が増える。
「おっちゃんお菓子ー!」
「あ、こら勝手にポケット探るな、順番だ順番!」
 悪戯どころではない数の暴力に為す術もない。
 そんな惨劇を他所に、例によってバイト中の夏久を見つけた咲月。
「猫目くん、猫目くん‥‥。―─Trick or Treatー‥‥」
 ずいっ。ずずいっ。
 咲月が手を差し出し、無表情のまま一歩近寄る。
「常塚先輩、わかったから! ど、どうぞ!」
 店で用意していたお菓子袋を手渡すと、彼は一目散に店の中へ駆け込んでいった。
「あれ、行っちゃった‥‥。まいっか‥‥」
 お返し用のジンジャークッキーをもぐもぐ。すると途端に周囲が静まり、同時に大量の視線が降り注いだ。
 由太郎に集っていた子供たちの視線である――。
「ふふふ、お菓子の魔力には誰も抗えませんね! さー、首‥‥じゃない、お菓子を狩れー!」
 と、かざねが号令をかけると、堰を切った様に子供達が動きだした。
「兎のおねーちゃーん!」
「とりっくおあとりーとーー!」
 みるみる子供の波に覆われる咲月。一瞬で、開放された由太郎。
 子供の恐ろしさを感じつつ、由太郎と将太郎は惨劇の写真を撮るのだった。

「‥‥?」
 ふと、白兎が誰か足りない事に気づいた。
 喫茶店から出て、散歩組と合流した時は全員揃っていたのに。
「青空先輩、清良ちゃんがいないの〜」
「え?」
 確かに。元気に遊んでいた茶色の猫が、見当たらない。
 足元を見れば鈴とリボンがついた猫の尻尾が落ちている。奈緒のものだ。
 ――さっきまで居たし、まだ近くにいるはず。
 青空が動こうとしたその時、放送が流れた。
『まもなく、仮装コンテストを開催します――』

「私、探してくる。しろちゃんは皆と先に行ってて」



 南瓜灯の焔が舞台に灯される。一つ、二つ。舞台を照らす仄かな明かり。
 そして一条のスポットが舞台の中央に差しこんだ。
『お集まりの皆様を、誘う光は幽玄の灯。これから起こるはひと時の戯れ、南瓜が見せる奇妙で美しい走馬灯――』
 仮面をつけた燕尾服の紳士が、ステッキを回しながらコンテストの始まりを告げる。
 ――その傍らで、ステージ横に集まる出場者達。
 魔女に着ぐるみ、血みどろゾンビ。それから『ヒーホー☆』ってそれジャック違いや。
「ホラー系は外して正解だったなぁ」
「鉄板だからなー」
 押しも押されぬ参加者達を見て、由太郎と将太郎は小声で漏らした。
(私達は4番‥‥15分後くらいね)
 引いたクジを見つめ、神楽は未だ来ぬ2人を想う。
 間に合う、かしら。


「どうしよう‥‥」
 すごい綺麗な魔女さんが遠くに見えて、近くで見たくて。つい、皆の元を離れて走りだした。
 お菓子を貰って浮かれちゃって。戻ったら、皆が居なくて。
「邪魔、だったのかな」
 皆は友達同士みたいだし。いきなり入って、迷惑だったのかな。
 涙が出そうになったその時、後ろから誰かが頭を撫でた。
 見あげれば、にっこり優しい帽子屋の笑顔。
「青空のお兄さん!? 邪魔だったのかなと、思い、ました」
 無くした尻尾を安全ピンでつけてもらいながら、所在なく笑う奈緒。
「友達を見捨てたりはしないよ、絶対」
 友達。私も、友達。
「さ、急ごう。皆、奈緒ちゃんを待ってるのだ!」
「――うん!」
 差し出された青空の手を握った奈緒は、満面の笑みだった。







●其の仮面は誰が為に ―アリス・イン・ハロウィンワールド―

「遅刻なの〜、女王様がお待ちなの〜」
「待って、白うさぎさん!」
 くるくる、舞台中をを走って追い掛けっこの白うさぎと橙のアリス。
 やがて2人左の袖へ消え、場面はイカれたお茶会へ。右袖から現れたのは青いアリスだった。
「おや‥‥可愛いお客さんだね‥‥」
「ねぇ君、割ったりかけたりするのに足したり引いたりできない食べ物は何?」
 アリスを迎えたのは三月兎と、帽子屋。
 突然の謎掛けに少女は首を捻り、その間も二人は優雅にティータイム。
「‥‥鴉と机じゃないの‥‥?」
「だって皆、私がその謎掛けを出すって知ってるんだもの。答えがないってバレバレさ」
 大仰に手を広げて悲しんで見せる帽子屋に、会場がどっと沸く。
「あ、たまごだ!」
 正解!と、帽子屋の、三月兎の、そして観客の拍手も降り注いだ。
「‥‥じゃあ、正解したご褒美‥‥お家まで案内するね‥‥?」

 兎と一緒に歩いて舞台を出たら、橙のアリスと選手交代。
「はい、お家‥‥公爵夫人のお家だけどね」
 じゃあね、と三月兎が舞台袖に引っ込めば、右袖からチェシャ猫が元気よく歩み出た。
「お客さんだにゃー♪」
「ねこさんだー!」
 おもむろに駆けより、ぎゅうっと猫を抱く橙アリス。
「アリスちゃんも可愛いのにゃー!」
 それにしても、夫人はどこだろう?
 キョロキョロ辺りを見回すと、舞台の隅、南瓜灯の裏にひっそり佇む姿があるではないか。
 男の様な醜い仮面を被り、爪を噛んだり足を踏み鳴らしたり、不機嫌そうだ。
「ねぇあたしアリス! あなたは?」
 刹那、軽やかにターンしてふわりと浮く夫人。翡翠色のドレスが宙を漂い、アリスの背後に着地する。
 いつの間にか醜い顔は消えていて。優雅な所作に、薄く微笑む美しい顔。
「全ての事には教訓がある――されど、私の名は意味を持たない。小さなレディ、ご用件は?」
「えっとね、あたし迷子なの。それで、どこに行けばいいかわからないの」
 迷子せんたーもないし、と呟くと、思わず公爵夫人は苦笑した。確りしているのか、天然なのか。
「では――」
 再びその場でくるりと回り、二度顕になる醜い顔。
 二つの顔。なりたい自分、忘れたい自分。醜い姿から開放される日を夢見ながら、今はただ、なすが侭。
 醜い公爵夫人の姿に鈍い心の痛みを感じながら、彼女は『演技』を続けていく。
「仕方ない、女王ん所連れていくかね」
「お留守番は嫌にゃー、ボクも行くにゃー」

 青いアリスが公爵夫人に連れられて、やってきたのはハートのお城。
「はん、相変わらず甘ったるい匂いの城だ。そこの兵士、女王はどこだい」
 庭の手入れをしていた兵士に、夫人は慇懃に問う。
「女王なら今パイを作ってるぜ。俺は宴会場作りって訳だ」
「アリスも食べたーい!」
「ボクもー!」
 美味しそうな話題に色めき立つアリスとチェシャ猫。
 更に白いうさぎが到着しアリスと再び出会った所で、一同はいざ進めやキッチン――おや、何やら口喧嘩が。
「だから何故焦げる!」
「料理は火力ですし! 釜焼きでも油を引く事は大事だと思いますよ!」
「中華料理か!」
 紅いマントのハートの王様と女王が揉めている。どうも南瓜パイ作りが難航している様だ。
 窯焼きで油注いだら炭化は必然だが、残念ながら事実に基づいた内容なのだ。主に前日夜の家庭科室で。
「わかった、混ぜて焼くだけなら俺がやろう。女王は紅茶を準備してくれないか」
 渋々了承した女王が振り返り、そこで初めて呆然としている公爵夫人一同に気がついた。
 青いアリスは家に帰る目的も忘れ、こう叫ぶのだ。
「――トリック・オア・トリート!」
「おや、お茶会に参加ですかー? いいですよー、皆で食べるのが一番うまい!」
 ってことでパイ追加よろしくー!と言い残し、女王は去っていった。

「そらそら、いっぱい食えよ! 特にチビッコ達!」
 焼けたパイを陽気な足取りで次々運ぶ兵隊さん。
 そのあと、女王に招待されていた帽子屋と三月兎に、橙アリスも連れられて。
 王様の南瓜パイを切り分けて、女王様の紅茶を注げば、ちょっと『おかし』なティーパーティー!

 双子のアリスが出会ったものは。
 小さなにこにこ白うさぎ。のんびり三月兎、優しい帽子屋。
 寂しんぼのチェシャ猫と、裏と表の公爵夫人。陽気な門番のトランプ兵。
 元気で楽しい女王様に、世話焼きさんの王様。

 みんな素敵な仲間達だから、この物語はハッピーエンド!
 さぁ物語に終焉を。素敵な時間にお別れを。


「ハッピー、ハロウィン!」





●エピローグ

「おぉ、これはお久しゅう御座います、沙羅様、綺羅様」

 後日。とある洋館の執事室に宛てられた、一通の手紙。
 封筒にぎっしり詰まった写真の中、『仮装コンテスト優勝』と大きく書かれた垂れ幕と、満面の笑顔の写真。
 写真を捲ればクッキー、マフィン、フロランタン。皆でお菓子を食べて、喜びを分かち合って。

 ふと、顔ぶれを見れば。殆どがあの『体験入学』の時と同じ顔。
 本当に善き縁を得た。滲む涙をそっと拭い、爺は集合写真を壁に貼りつけ、もう一度よく眺めた。
「お二人は、こんなにも愛されていらっしゃるのですな――」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 光灯す夜藍の舞姫・真宮寺 神楽(ja0036)
 お菓子は命の源ですし!・二階堂 かざね(ja0536)
 dear HERO・青空・アルベール(ja0732)
重体: −
面白かった!:10人

光灯す夜藍の舞姫・
真宮寺 神楽(ja0036)

大学部4年177組 女 陰陽師
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
双眸に咲く蝶の花・
常塚 咲月(ja0156)

大学部7年3組 女 インフィルトレイター
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
碧い海の・
清良 奈緒(ja7916)

中等部2年1組 女 アストラルヴァンガード